スズログ

博物館・美術館・資料館などを見た感想と自分用メモです。

「文化財よ、永遠に」泉屋博古館

国内外の文化財の修復事業を助成している住友財団が、2021年に30周年を迎えるということで、その記念の展覧会「文化財よ、永遠に」展がこの秋に泉屋博古館東京国立博物館泉屋博古館分館、九州国立博物館の4箇所で開催されていて、その中で京都の泉屋博古館に行ってきた。

 

泉屋博古館会場では京都を中心に関西の修復された文化財が展示されている。
展示室に入り、まず正面にあるのは5世紀末の橿原市四条古墳出土の木製品。内濠から多量の埴輪と木製品が発掘されて、埴輪と共に鳥形、盾形、笠形、儀杖形、翳形などの木製品が古墳上に樹立してたんじゃないかと分かったという、他になかなか例のないほんとに貴重なもの。まじでこれは個人的に国宝でいい。古墳がわりと早い時期に埋め立てられたために良好な状態で残っていたという、木製品の水分を薬品で置き換えるという説明など興味深く読んだ。いきなり大興奮だった。

 

続いて右手には仏像がずらっと並んでいる。仏像の修復は部材をばらし内部まで明らかにする、これは調査が大きく進む機会でもあるということ。像内の納入品、一級資料がどんどん出てくるわけですからね…仏像と共に修復前の写真、修復の技法、調査の経緯、それから修復のために慎重な検討がなされていることがよく分かる展示。
大威徳明王像から出てきた勧進の様子についてよくわかる納入品、観音寺の男神像は天神さん?とか、霊源院の中巌円月坐像には中に鎌倉時代毘沙門天像がそっくりそのまま納められていたとか…。仏像の中に小さなお像が納入されてるのは他でも見たことがあるけれど、お坊さんの中になかなか大きな毘沙門天て珍しいように思う。

以前の修理で施された彩色、漆が取り除かれ、美しい木目が露出したお像は素晴らしい。
お堂で仏像に出会うと、今目の前にあるお姿が最初っからずっとそうだったように思えてしまうけれど、実はこれまでに何度かの修復作業を経てきているということ、どこかの時点で人の手が別に加わって今この状態であるという視点は忘れずに持っておこうと思った。

並んでいた仏像の中でも、京都大興寺の巳、午の十二神将像がとても素晴らしかった。臨場感がすごいしそれにとても自然に感じる。院派だそうだけど院派の印象ががらっと変わった。正和4年、院敒の作だそう。この名前覚えておこう。いつか御本尊も拝見しに行きたい。

 

あとは国宝の藤原定家の明月記。12年かけて修理されたそう。実は書簡などを継ぎ足して裏に日記が書かれていて、その今裏になって隠れている部分も資料的価値を高めているということを知った。
それから養源院の本堂の仏壇の下にある狩野山楽の唐獅子の絵は、養源院は行ったことがあるんだけど現地では暗めであまり良く見えなかったので、この機会にしっかり間近で眺めてきた。髪とかしっぽのぐるぐるの線からしていいな〜という感じ。
それから是外房絵巻という、中国の天狗が法力比べで負けてしまって日本の天狗にお風呂に入れてもらって慰められてる絵巻とか可愛いかよ…となったり、掛け軸なんかで紙を巻くとどうしてもついてしまう折れが、ほんとまっさらの状態に見えるくらい修復されている丁寧な処理に感心させられた。

展示替えがあり、絵の方は国宝の山水屏風や水月観音像は前期展示で見逃してしまっていたが、後期は後期で太山寺の刺繍種字両界曼荼羅、真輪院の鎌倉時代の星曼荼羅、西寿寺の六地蔵羅刹女の来迎図とか珍しいものが見られたのでこれはこれでよかったかな。
あと大阪の絵師という葛蛇玉の鯉魚図。円山派みたいな鯉がちょっと変わった構図で面白かった。

考古学的な史料、仏像、絵画、書など様々な修復方法が見られ、またそれぞれ大変貴重なものが見られる展覧会で、得られる知識も多くやっぱり他の会場にも行けたら良かったな〜と思わされた。

ロビーには財団が助成した国外の遺跡のマップがあり、聞いたこともないような遺跡がたくさん。ビデオも水月観音像のものだけ見て、裏彩色という技法があり、それによってベールのような透明感が表されていることを知った。それで薬師寺の国宝の吉祥天を思い出したけれど、あの着衣の透明感もそうやって出されてるのかー、と。