ガザの惨劇が世界報道写真大賞に

 この間のパレスチナ関連のニュースから。

 まず、世界報道写真財団(本部・オランダ)が主催する2024年の「世界報道写真コンテスト」で、ロイター通信のカメラマン、モハメド・サレム氏が撮影したパレスチナ自治区ガザ地区で5歳のめいの遺体を抱きしめる女性の写真が大賞に選ばれた

サレム氏撮影

 サレム氏は昨年10月17日、ガザ地区南部ハンユニスにあるナセル病院の遺体安置所でシーツに包まれためいの遺体を抱きかかえて号泣する女性の姿を撮影。審査員は写真について「配慮と敬意を持って構成されており、想像を絶する喪失感が垣間見える」と評価した。(毎日新聞

 この写真が撮られたナセル病院で「集団墓地」が見つかったこれはひどい。世界に衝撃を与えている。

《[ジュネーブ 23日 ロイター] - 国連のターク人権高等弁務官は23日、パレスチナ自治区ガザの病院の敷地内で数百人の遺体が発見されたとの報告に「恐怖を覚える」と述べた。同氏の報道官が明らかにした。

 パレスチナ当局は今週、イスラエル軍が撤収した後の南部ハンユニスのナセル病院の敷地で多数の遺体が埋められていたと発表した。北部シファ病院でもイスラエル特殊部隊の作戦後に遺体が発見された。

 国連人権高等弁務官事務所のシャムダサニ報道官は「複数の遺体が発見されており、警鐘を鳴らす必要性を感じている」と指摘。「手を縛られた遺体もあり、これは言うまでもなく国際人権法と国際人道法の重大な違反を示している。さらなる調査が必要だ」と語った。

 その上でナセル病院で283人、シファ病院で30人の遺体が発見されたというパレスチナ当局の報告を裏付ける作業を進めていると説明した。

 報告によると、遺体は廃棄物の山の下に埋められており、女性や高齢者も含まれていた。》

今後発掘が進めばさらに200体以上が発掘される見込みとの報道も。(テレ東ニュースより)

 アルジャジーラ」によるとナセル病院では23日までに少なくとも310体の遺体が回収されたという。

イスラエル軍が侵攻したパレスチナ自治区ガザ地区南部ハンユニス最大のナセル病院で集団墓地が見つかり、23日までに少なくとも310人の遺体が回収された。中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」などがパレスチナ当局の話として報じた。

 当局はイスラエル軍が病院を標的に攻撃を行い、ブルドーザーで遺体を埋めて犯罪を隠蔽したと非難している。アルジャジーラは遺体には女性や子供も含まれていると報じた。イスラエル軍は虐殺行為を否定している。

 米CNNは現地通信員の話として、1月に住民らが現地で戦闘に巻き込まれて死亡した人の遺体を仮埋葬した後、イスラエル軍が拉致された人質の遺体が含まれていないかを調べるために掘り起こし、別の場所にまとめて埋めたとする見方を伝えている。》(毎日新聞

 ロシア軍の虐殺に匹敵する残虐さ。この点でもロシアとイスラエルは双璧だ。制裁としてイスラエルを五輪から締め出すべきだと思う。

 イスラエルの蛮行はガザだけではない。このドサクサにもう一つのパレスチナ自治区ヨルダン川西岸(約330万人が住む)でパレスチナ人への攻撃を大っぴらにやりはじめた。

《(CNN) 国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」(HRW)は20日までに、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸でイスラエル人入植者によるパレスチナ人への攻撃件数が、国連が関連データの収集を開始した2006年以降、最悪の水準にあると報告した

 昨年10月7日から今年4月3日までの間では700件以上を記録。これら攻撃のほぼ半数の現場で軍服姿のイスラエル軍兵士の姿が見られたとも指摘した。

 西岸地区での兵士や入植者による暴力の激化は、同じパレスチナ自治区ガザ地区で戦闘が勃発した昨年10月7日以降の現象と説明。子ども600人を含むパレスチナ人ら1200人以上が牧畜などを営む遠隔地にあった居住先を追われたと述べた。》

 さらに、軍事作戦も西岸地区はハマスではなく、アッバス議長が率いるパレスチナ自治政府が統治しているが、ここにもハマスの戦闘員が潜伏しているとして、20、21日にこの西岸地区で最大規模の軍事作戦を行った。

イスラエル軍は、この作戦でテロリスト10人を殺害したとしているが、一方でパレスチナ保健省は、民間人を含む14人が殺害されたとしている。トゥルカレムでは21日、イスラエル軍に殺害された14人の葬儀が行われ大勢の市民が集まった。このうち、2人の子供を亡くした母親は「助けに来た救急車にもイスラエル軍は発砲した」と強く非難している。》(FNN)

 イスラエルは数日中にハマスへの軍事作戦を強めるとして、ラファ侵攻を示唆している。

フジTV ニュースより

 UNRWA職員のハマス関与に「証拠ない」と検証チームが最終報告書を出した。

国連パレスチナ難民救済事業機関UNRWA)の職員がイスラム組織ハマスによるイスラエルへの越境攻撃に参加したとの疑惑を受けて、UNRWAの中立性を調べていた第三者検証グループは22日、最終報告書を発表した。中立性と人道主義を順守する「強固な枠組み」があると評価しながらも、「問題は残っている」としてUNRWAが運営する学校や職員採用のプロセスなどに関する50項目で改善を勧告した。

 一方、UNRWA職員の多くがハマスなどの関係者」などとするイスラエルの主張について、報告書は「イスラエルはその裏付けとなる証拠をまだ提示していない」と記した。UNRWAは2011年からイスラエル側と職員リストを共有しているが、懸念を示されたことはなかったとも指摘した。(略)

 検証グループはフランスのコロナ前外相をトップに、北欧の三つの人権研究機関が協力して2月半ばに作業を始めた。パレスチナ自治区ヨルダン川西岸やイスラエルなどを訪問し、職員を含む200人以上にインタビューした。

 報告書は「UNRWAパレスチナの人々の人間的、経済的発展になくてはならない存在」だと指摘。その上で他の国際機関と異なる課題として、3万人超とされる職員の大部分が現地採用で、同時にUNRWAの事業の受益者でもあることを挙げた。(略)

 報告書の提出を受けたグテレス国連事務総長は22日、UNRWAと協力して勧告の実行に向けた行動計画を策定するとの声明を発表した。グテレス氏はUNRWAは地域のパレスチナ難民にとっての「生命線」だとし、すべての当事者に改めて支援の継続を呼びかけた。

 UNRWAをめぐる疑惑を受けて、一時は16カ国が拠出金を停止したが、組織運営の改善策が進んでいるとして日本を含む少なくとも7カ国が再開を表明した。》(毎日新聞

 

 パレスチナを国連の正式な加盟国とするよう勧告する決議案が18日、安全保障理事会で採決にかけられ、理事国15か国のうち日本を含む12か国が賛成したが、アメリカが拒否権を行使して否決された

 いつもながらのイスラエルと一蓮托生の姿勢を見せるアメリカ。世界でどんどん孤立していくアメリカと一蓮托生なのが、わが日本だ。この間、日米の防衛協力、アジア太平洋での同盟協力が一気に拡大・強化しているが、この先、いったいどこに行くのか。

・・・・
 アメリカのウクライナ支援がようやく再開される見通しになった。

 米下院が20日約610億ドル(約9.6兆円)のウクライナ支援の法案を可決した共和党内の反対で半年も紛糾してきたため、ウクライナ軍が弾薬や防空ミサイルの不足に陥り、苦戦を強いられてきたが、ようやくアメリカからの軍事支援が再び動き出す。

 賛成311票、反対112票で、共和党では半数以上が反対したが民主党の大半が賛成に回って可決された。これには国内外からの声、圧力が大きく働いたと見られ、各国政府への市民からの働きかけが無駄でないことを示す。

 同時に米下院が可決したものに、イスラエル支援法案(約264億ドル)とガザなどへの人道支援(92億ドル)もある。UNRWAへの送金は禁止した。このちぐはぐさがアメリカ外交を引き裂いている。ここにもまた内外の世論の影響を見て取ることができる。

 今朝の『朝日新聞』の社説「米ウクライナ支援 孤立外交では道は開けぬ」は、今回のアメリカのウクライナ支援再開を明らかに支持している。

23日の社説

「この間の停滞は(略)米国の信頼を低下させた」「ナチスの侵略を黙認したチェンバレン首相か、決然と抗戦を選んだチャーチル首相になるのか・・・」「大戦後の秩序形成を主導した米国が、今の世界に無関心を決め込めば混迷は一層、深まる」などなど。

 朝日新聞が軍事支援を支持するとは・・・と、感慨深いものがある。

www.asahi.com

 ウクライナを支援する国々をよく「正義派」と「和平派」に色分けするが、ここからは、戦闘が長期化すると犠牲が増えるからウクライナは「正義」の追求を妥協して「和平」に向かうべきだとの議論になりかねない。

 しかし、ウクライナは「正義」のために戦っているのではなく、脅かされている命と暮らしを守るために銃をとらざるをえないのだ。このことを理解するならば、ウクライナへの軍事支援を歓迎するのは当然だと私は思う。

遅れるウクライナへの軍事支援3

 ガザではすでに飢餓が深刻になっている。ガザ北部で2歳未満の3人に1人が栄養失調とユニセフなど国連機関が発表している。

国際報道より

「一番助けを必要としている北部を支援することが全くできていない」とビーティさん。

 ニュースでは北部の子どもたちの惨状が報じられていた。人道支援機関は危険すぎて北部に物資を運んでいけないという。イスラエル軍NGOも容赦なく攻撃するからだ。

検問所で支援物資を積んだトラックの通過を妨害して座り込むイスラエル市民。

このイスラエル人はガザの住民を皆殺しにしてもよいというのか。

 信じ難いことが世界の人々の目の前で起きているのだが、止められない。無力感を感じるが諦めてはならない。

 セーブザチルドレンのカリン・ビーティさんは、「私たちは何ができるか」との問いに、こう答えている。

「政府に圧力をかけるため、できることは何でもして、停戦を要求し続けてほしい。それが私たちにできる最も重要なことです」

・・・

 欧州はウクライナに対し、3月までに砲弾100万発を供与する目標だったが、実際は52万発にとどまると見られている。

 ゼレンスキー大統領は「失望している。今は我々の結束にとって最も困難な時期。戦争がどのように終わるかは今年にかかっている。転換の年だ。」

 ウメロフ国防相は「欧米側が供与すると約束した兵器の50%しか受け取ることができていない。(支援が)予定通りに届かなければ、市民が犠牲になり、領土を失うことになる」

 このかん、ウクライナは防空体制が弱体化。とくに地対空ミサイルが枯渇状態にあるもようで、ロシアのミサイルやドローンを迎撃できずに、発電所など民間インフラに大きな被害が出ている。それらのミサイルは多くがロシア本土から発射されている。

ウクライナ攻撃に使われたミサイルの軌跡

 本来はその発射基地を叩かなくては連日飛んでくるミサイルを止められないのだが、ウクライナは欧米から「ロシアを刺激しないように」と言い渡され、ロシア本土の攻撃を控えろと指示されている。

takase.hatenablog.jp

 前線では多勢に無勢で後退を強いられ、空からもやられっぱなしのウクライナだが、今年に入ってロシア国内の石油関連施設を標的にドローン攻撃を繰り返している。石油の生産を妨害することでロシアの戦費となる収入源を断つ狙いがあると見られている。
 先日はロシア本土深く、タタルスタンまでドローンを侵入させ、ドローン「シャヘド」生産工場と大規模石油関連施設を攻撃した。

ウクライナがロシアのかなり深いところまで攻撃した

 ウクライナのこうしたロシア領内の石油関連施設攻撃で、ロシアの製油能力が14%程度失われているとの試算がある。

《[モスクワ 26日 ロイター] - ドローン(無人機)攻撃を受け稼働を停止したロシアの製油所の生産能力が合計で日量12万4580トン(日量90万バレル)に達したことが分かった。製油能力全体の14%が失われたことになる。ロイターの試算で26日明らかになった。

 ドローン攻撃で稼働を停止した主要な製油所には、石油大手ルクオイル(LKOH.MM), opens new tabのノルシ製油所やボルゴグラード製油所のほか、石油大手ロスネフチ(ROSN.MM), opens new tabのクイビシェフ製油所やトゥアプセ製油所、リャザン製油所が含まれる。ノルシやリャザンは4月末、トゥアプセは5月末に再稼働する見通し。》

 これがアメリカとウクライナの関係にも波紋を投げかけている。

アメリカがウクライナに対して、ロシアの石油精製施設に対する攻撃をやめるよう求めた」と『フィナンシャル・タイムズ』(3月22日)は報じている。

 この記事によると、バイデン政権は、ロシアの石油生産能力の低下で世界的なエネルギー価格が上昇することを懸念、11月のアメリカ大統領選挙に向けてアメリカ国内のガソリン価格などが上昇すれば、バイデン大統領の再選に影響を及ほすとして攻撃停止を求めたという。

 これについて、ゼレンスキー大統領は、先日、ワシントンポストのインタビューで、「 (無人機攻撃に関して)アメリカの反応は肯定的ではなかった」とフィナンシャル・タイムズの報道を認めた一方で、「我々は自分達の無人機を使用した。誰も私達に対して攻撃するなとは言えない」と述べ、攻撃を続ける姿勢を示した》(NHK国際報道4日放送より)。

 こんどはアメリカ国内で、この政府の対応が政治問題になっている。

 共和党から、大統領選挙目当てではないかと追及されると、世界のエネルギー状況を理由にしたり、民間施設への攻撃は国際法違反で民主主義に反するという理由にしたり・。

世界のエネルギー状況に・・・

国際法違反なので・・

 このあたふたした対応を、ウクライナの人々はどう見るのか。

 世論調査では、ウクライナ国民の85%は今も「ロシアに勝利できると確信している」という。

一番右が最新の2月10-11日の結果。戦況の不利を反映してさすがに下がっているが、それでも青色の85%が勝利を信じると回答(ウクライナ社会学調査グループ「レイティング」による世論調査

 

遅れるウクライナへの軍事支援2

 英公共放送BBCは17日、ロシアがウクライナに全面侵攻を始めてから死亡したロシア兵が5万人を超えたと報じた。(一方、ゼレンスキー大統領は2月、ウクライナ軍の死者は3万1千人と発表している)

 これはロシアという国家と軍の本質、また戦術の特徴、そしてなぜ今ウクライナの前線でロシア軍が前進できるのかまで分かる非常に優れた報道だった。

 BBCとロシアの独立系メディア「メディアゾナ」がロシア国内70カ所の軍人墓地にある墓を数え、航空写真や当局の発表、新聞やソーシャルメディアも独自に調べ、確認できたかぎりでの死者数だという。

お墓で一つひとつ数えて確認していったという(BBCより)

航空写真で墓の面積が2倍になるのが分かる

BBCより

 ロシア政府が犠牲をいとわず多数の兵士を送り込む、いわゆる「肉ひき器」作戦を推し進めた侵攻2年目の12カ月間では、死者数が1年目より25%多い2万7300人以上が死亡した。

1年目はほとんど職業軍人。2年目は軍務に慣れていない受刑者などが大量に投入されたことがはっきりわかる(BBCより)


 BBCは東部ドネツク州のバフムートやアウジーイウカでの戦闘を通じ、ロシア側の死者数が急増したと分析。また、侵攻前は軍と無関係だった戦死者が4割に上るという。

 この「肉ひき器」作戦の要は刑務所の受刑者の部隊。前線での6か月と引き換えに自由の身になれる。BBCは受刑者1000人以上について軍務についてから死亡するまでの期間を調べた。するとなんと半数以上が前線に着いて12週間以内に死亡!!している。

受刑者を大量にリクルート

前線に着いてから死亡までの期間。衝撃的だ

 「肉ひき器」作戦はこうだ。まず受刑者部隊がしゃにむに前進しウクライナ軍の陣地を攻撃する。ウクライナ兵は姿を現わして交戦せざるを得ない。すると後ろに控えた「真の部隊」が弱体化したウクライナ軍の陣地に攻撃できる。

 こうやってロシアは2月にウクライナの防衛拠点の一つ、アウジーイウカを占拠した。ふつうの軍隊ならば、こんな作戦は犠牲の多い、割に合わないものなのだが、今のロシア軍では効果的な戦術とされている。ロシア軍はこの方式でこれからも攻勢をかけてくるだろうと見られている。

 なんと非人道的な国家であり軍隊なのだろうか。

 BBCは5万人という数字は公的に確認できるだけで、実際はこの2倍になる可能性もあるという

 ソ連が1979年にアフガニスタンに侵攻した戦争では、89年に撤退に追い込まれるまでの10年でソ連側は1万4000人以上が戦死した。そして直後にソ連は崩壊した。アフガニスタン侵攻と比べれば、2年で5万人超の死者というのはすさまじい。(ちなみにベトナム戦争で死亡した米兵は5万8千人超)

 ただしプーチンは、刑務所だけでなく貧困地区や少数民族から多くの兵士を募集している。犠牲の多さが大都市のロシア人にどこまで響くか。

 昨年末、アメリカの諜報機関は、ロシア軍の死傷者が31万5千人に達したとしていたが、ロシアはここ数カ月、ウクライナで戦略的軍事的優位を得ており、ますますロシアに有利な方向に向かっていると見られている。

 

 ロシアにはいくつもの優位点がある

 まずは中国の支援で制裁を逃れることができている戦車・ミサイル製造のための超小型電子部品の9割、弾道ミサイル製造のための工作機械の7割を中国から輸入できている。中国から軍事利用の可能性のある製品の輸出が22年以降3倍以上に増加しているという。(米国家情報長官室 年次脅威評価)

 ロシア国内の軍需工場での増産が急ピッチで進んでいるうえに、北朝鮮、イランからミサイルはじめ兵器弾薬を入手できている。

 これに対して、ウクライナへの外国からの軍事支援が弱まっている。

 「ウクライナが待ち焦がれる欧州からのF16戦闘機 約束は45機 当面の納入は6機か」。

朝日新聞4月14日(日)

 これはニューヨークタイムズ(3月11日)の一面に載った軍事・外交のベテラン記者、Lara Jakesの記事を朝日新聞(4月14日)が翻訳したもの。結論はF16が実践配備されるのは7月になり、しかも少数だろうというもの。

F16

 NATOのF16供与には混乱と混迷があるという。

 「ウクライナの当局者たちは、大砲、防空ミサイル、戦車といった一連の最新兵器の提供に抵抗する欧米の姿勢をくつがえしてきたが、ジェット戦闘機が勝利に必要な最後の主要兵器だと語っていた。バイデン政権はしぶしぶながら、ウクライナの要求に折れ、同盟国がF16を提供することを認めた」。ウクライナに押されて、はじめは渋っていたNATOが供与に踏み切ったのだった。供与するのは、各国が次世代戦闘機に買い替える上でいらなくなる「おふる」のF16。

 問題は、操縦できるパイロットだったソ連式の機体と戦術とは違う技量が求められる。パイロットは英語の勉強も含めて10カ月の訓練を経る必要があり、デンマーク、英国、米国で12人が訓練中だ。通常は数年かかる座学、シミュレーション、飛行訓練をぎゅっと圧縮してやっている。

 訓練は昨年8月、デンマーク南部の空軍基地で始まったが、語学力や西側式の飛行技術の知識が不足していたため、進捗が遅れた。飛行準備が整ったのは1月になってからだった。

 また、F16の機体の問題もある。これまで、デンマーク、オランダ、ノルウエー、ベルギーが、小規模の3個飛行隊に十分な約45機をウクライナに送ると約束している。デンマークは今春の終わりに最初の6機、さらに13機を年内から2025年にかけて送る予定だ。他の国々は納入時期を決めていない。オランダはウクライナの受け入れ準備が整うまで自国で機体を保有しておくという。

 機体を適切に整備できるのかという問題もある。

 兵器の供与とは、外交上のかけ引きから人材育成、メンテナンスまで、けっこう大変なことだなというのが粘り強い取材でよくわかる記事だ。

 軍事専門家によれば、最大45機のF16(しかも最新型ではない)では戦局を決定的に変える「ゲームチェンジャー」にはならないだろうという。ただ、兵器弾薬が不足、あるいは枯渇の危機にあるウクライナでは、少数であってもF16は有益だと見られる。

 F16はロシア軍の航空優勢を減じ、短・中距離ミサイルを搭載して空から地上軍の支援に力を発揮するだろう。

 ウクライナの戦争に関するイギリスとアメリカの優れた調査報道。日本のジャーナリズムも見習わなくては。

遅れるウクライナへの軍事支援

 畑ではエンドウがかわいい花を咲かせていた

エンドウの花。白いのもある

 ノビルがたくさん生えていた。畑をやってる仲間のみなさん「そんな雑草いらない」というので、私が摘んでもち帰る。味噌とマヨネーズをつけて極上の酒のつまみになった。

誰も要らないというので、私が一人占め

 春は畑が楽しい。

・・・・・

 ウクライナの防空能力が危機に瀕している。

 先日、キーウ州最大の火力発電所はじめ多くの電力インフラがロシア軍の空襲で破壊されたことでわかるように、ウクライナは飛んでくるミサイルを迎撃できなくなっている。地対空ミサイル「パトリオット」はほぼ枯渇しているとみられる

 17日にはウクライナ北部のチェルニヒウで3発のミサイルによって市内の20棟以上の集合住宅が被害を受け、少なくとも17人が死亡、78人が病院に運ばれた

チェルニヒウで集合住宅にミサイル攻撃。ミサイルの破壊力はすさまじい。(テレ朝ニュースより)

 私が昨年の取材で知り合ったウクライナの人々のことを思うと、焦燥感がつのる。

 17日夜に臨時で開かれたEU首脳会議にゼレンスキー大統領がオンラインで出席。イランのドローンとミサイルによる攻撃をイスラエルだけでなくアメリカなど同盟国も加わってほぼ防いだことに触れ、「ウクライナの空、我々の隣国の空も(イスラエルと)同じように安全であるべきだ」と協力を呼びかけた。

PBSのインタビューで、キーウの発電所が破壊された際に迎撃が困難だったと述べるゼレンスキー大統領。

 15日に公開された米公共放送PBSのインタビューで、ゼレンスキー大統領は防空ミサイルが枯渇していたためキーウ州最大の火力発電所への攻撃を防げなかったと認めている。

11発のミサイルが向かってきた。最初の7発は撃墜したが、4発が発電所を破壊した。

 なぜ?われわれが持っていたミサイルはゼロだったからだ。ミサイルは残っていなかった。

 そして、こうまで言った。

率直に言って(アメリカの)支援がなければ、ウクライナが勝利する可能性はない」。

 ロシアは住民の暮らしを支える施設を狙って攻撃しており、このまま重要なインフラが破壊され続けていけば、国力を消耗させて戦闘を効果的に遂行できなくなる。最近のゼレンスキー大統領の表情、コメントに危機感、悲壮感が強く表れており、痛々しい。

 EUは首脳会議でウクライナに防空システムを緊急で供与することを決定。ミシェル首脳会議常任議長は「数日か数週間のうちに供与する」と記者団に述べた。今後は加盟国に対し、防空システムの生産スピードを上げるよう求め、在庫で使えるものは先に供与していく考えだという。

 それにしても、欧米のウクライナに対する軍事支援はずっと遅れ遅れになっている。

 昨年6月に開始されたウクライナの反転攻勢は「不成功」に終わったが、その大きな理由は欧米の軍事支援の遅れにあったとされる。

 ゼレンスキー大統領は昨年11月30日、反転攻勢で「望んだ結果が得られなかったことは事実だ」と認め、「我々は人員を失っている。要望した兵器のすべてを得られなかった」とも述べて米欧諸国による武器供与の遅れにいらだちを示した。陸上での攻防に不可欠の戦車については、ドイツの「レオパルト2」と英国の「チャレンジャー」がウクライナに供与されたのがロシア侵攻からほぼ1年たってからだった。

 ウクライナ国民の中に、「欧米はウクライナを勝たせようとは思っていない」という声が聞かれるのも故無しとしない。

 軍事支援の質と量、その時期が適切だったら戦況は大きく変わっていただろう。ウクライナ軍の攻撃にロシア軍が総崩れになって広大な占領地を解放した一昨年秋の勢いをかって、早めに反転攻勢を始めていればと多くの兵士が嘆いていた。しかし、十分な兵器と弾薬がなく、攻勢開始の時期が遅れたため、ロシア軍に二重三重の強固な防衛ラインを準備する余裕を与えてしまった。

 小泉悠東京大学先端科学技術研究センター准教授と高橋杉雄・防衛政策研究室長という、日本を代表する軍事評論家二人が、昨年夏の対談でこう指摘する。

「高橋:今年(2023年)の一月に西側からの戦車供与が決まったわけじゃないですか。待てば待つほどロシア軍の守りは固くなるので、ウクライナ軍としてはなるべく早めに反攻を仕掛けたかった。ただ、訓練の期間を考えると、出来るだけ時間はとったほうがいい。その結果、ベストな選択として導き出されたのが、六月上旬の反転攻勢だったのだと思います。

 これは逆に言えば、西側がもっと早く供与を決定していれば、戦車の数も訓練状態も最高の形で今年の春を迎えられていたかもしれない。判断の遅れが致命的だったと言わざるを得ません。

小泉:同感です。例えばですが、「レオパルト2」が2022年の秋に入ってきていれば、今年の春になって地面が固まってきたところで、バーンと電撃反攻を仕掛けられましたよね。そのタイミングであれば、ロシア軍の陣地もここまでガチガチに要塞化されていなかったはずで、完全に時期を逃してしまった感があります。」

 高橋氏が、ウクライナ軍の課題として「航空阻止」(戦闘爆撃機や長距離ミサイルを使って敵の後方を攻撃し、第二梯団が前線まで出てくるのを防ぐこと)ができていないことを挙げると—

「小泉:(航空阻止のためには)ある程度まとまった数のF16戦闘機を手に入れなければなりませんが、肝心のアメリカの腰が重い。(略)

 2022年の秋に西側諸国が戦車供与の決断をしていれば、今ここまで酷い戦況にはなってなかったわけですよね。逆に言うと、この夏の間にちゃんとF16の供与を始められれば、来年の春や夏にはもう少しマシな戦いが出来る可能性があるわけです。

高橋:そうそう。今年八月にF16の訓練がシステマティックに始まるとすれば、来年の春には六十~八十機程度の戦力が投入できる。半年以上あるわけだから、それなりに高度な作戦もこなせるようになるはずです。ウクライナ軍が来年、有意義な戦いができるかどうかは、本当にバイデン次第ですね。

(小泉悠『終わらない戦争~ウクライナかた見える世界の未来』文春文庫2023より)

 この対談で登場するF16は遅まきながら昨年の広島サミットでバイデン大統領が供与を宣言した。しかし、そのF16戦闘機がいまだに実戦配備されていない。

takase.hatenablog.jp


 不思議に思っていたが、『ニューヨークタイムズ』紙の軍事・外交のベテラン記者の記事が詳しくこの間の事情を報じていた。
(つづく)

対人地雷の被害に苦しむウクライナ 

 節季は清明。「清浄名潔」という言葉を訳した晩春を表わす季語だという。

 空気が澄み、花が咲き乱れる美しい季節。沖縄では「清明祭」(シーミー)が行われ先祖の墓の前で歌い踊って楽しく過ごす。

 5日から初候「玄鳥至(つばめ、いたる)」次候「鴻雁北(こうがん、かえる)」は10日から、末候「虹始見(にじ、はじめてあらわる)」は15日から。

 南国からツバメが海を渡ってきて、ガンはシベリアへ帰っていく。空気が潤ってきれいな虹も見られるようになる。
・・・・・・
 畑が黄色に染まっている。アブラナ科の仲間が花をつけたからだ。

 私が見た範囲では、小松菜、芥子菜、のらぼう菜(江戸東京野菜)、水菜、大根、蕪、ブロッコリー、チンゲン菜が咲いていた。これらはみな「菜の花」だ。

蕪の花が意外にゴージャス

小松菜がいちばんきれいだった

 花が咲いたらもう硬くなって野菜としては終りなので、根っこから抜く作業をした。小松菜が一番きれいだったので何本か持ち帰り、花瓶にさして楽しんでいる。
・・・・・・

 ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は11日、ウクライナ各地にミサイルや無人機による大規模な攻撃を行い、キーウ州で最大の火力発電所が破壊された。

 また東部ハルキウ州では、エネルギーのインフラ施設が被害を受け、20万戸以上で停電が起きているという。

 ロシアは、侵攻が始まってから最大規模のインフラ攻撃を行っていて、ここ数週間で火力発電所の8割、水力発電所の5割以上が攻撃を受けたという。

 問題は、ウクライナの防空システムが弱体化して、ロシアのミサイルやドローンを迎撃するのが困難になっていることだ。とくに地対空ミサイル「パトリオット」が枯渇した恐れがある。

 最大の軍事支援をしているアメリカの議会がいまだにウクライナ支援を盛り込んだ予算案を通さず、昨年末に資金が尽きている。予算案の議会通過を妨害している元凶はトランプで、共和党全体がトランプ党化しているという。

 ガザの事態を見ても、アメリカが世界の秩序形成をリードする時代が終わったことがはっきりした。今、世界史の画期に生きていることを感じる。

 

 侵攻が長期化するなか、前線では、ロシア軍が仕掛けた大量の地雷による被害があとを絶たない。被害を拡大させているのは、対人地雷PFM-1だ。対人地雷は、国際条約で使用・製造が全面禁止されており、ウクライナを含む160以上の国と地域が加盟しているのだが、ロシアは非加盟だ。

対人地雷がまかれた面積はウクライナ全土およそ60万3600平方キロの4分の1以上になる。ドイツ、イタリアの国土の半分にあたるという(国際報道10日)

 このPFM-1地雷は「花びら地雷」または「バタフライ地雷」とも呼ばれ、12センチほどと小さく、緑や茶のプラスチックで覆われている。空からばらまくと草原や畑、森のなかでは保護色で気づきにくく被害を大きくする。ロケット弾一発に300個以上搭載でき、一度に5千個を150ヘクタールにまくことができるという。

兵士がこの「花びら地雷」で手足を失うケースが激増しているという(国際報道)

地面に埋めるのではなく、上からばらまくので草や葉にまぎれてしまう(国際報道)

戦場で「花びら地雷」を踏んで足を切断した元兵士。義足を合わせるために6回手術をしたという。各人の状態に合わせた義肢をつけるのは簡単ではない。

 ソ連が80年代からアフガン使いはじめたもので、いったんまかれればほぼ永久に爆発の可能性が残る。昨年6月にはじまったウクライナの反転攻勢をはばんだ要因の一つがロシアがまいた大量の対人地雷だったといわれる。

 昨年、私はウクライナドネツク州で、このPFM-1地雷の除去作業を取材している。当時の取材メモより―

 「これは人命を奪わない程度の、例えば足首や足指がもげる程度の怪我を負わせる。すると、怪我を治療する人員や医療資源が社会に負担となってのしかかる。さらに、障害を負った本人と周りの人々の戦意を削ぐ。殺害するよりも敵に物理的、心理的に大きなダメージを与えることを目的に考案された、悪意に満ちた地雷である。

 春には緑、秋には茶色と季節により違う着色をして空からばらまく。すると地面に落ちた地雷は保護色で見分けにくくなる。かつてソ連軍が侵攻したアフガニスタンでは、好奇心でさわった子どもたちが多数大けがを負った。ウクライナでもすでに住民に被害が出ているという。

 処理班の一人が「お国からいただいたものです」と指し示したのは、金属探知機だった。日の丸とJICA(国際協力機構)の字が記されている。ウクライナで初めて見る日本からの支援品に少しほっとさせられた。

 自宅近くに地雷があっては安心して暮らせない。しかし現在はダムなどの生活インフラの地雷除去が優先され、農地や森、住宅地はほとんど手つかずだという。処理が終わるのはいつになるかと地雷処理隊のリーダーに尋ねると、つらそうな表情で「誰にも分からない。まずは戦争を終わらせないと」と答えた。」

私たちがウクライナで見たPFM-1。現地ではバタフライ地雷と呼んでいた(筆者撮影)

日本から贈られた探知機を持つ遠藤さん(筆者撮影)

 まかれた数の多さと広さがとてつもなく、特に一時戦場になったりロシア軍に占領された地域では、ロシア軍を追い出したあとも畑や森に安心して入れない状態が続いている。

 これは戦争後、何十年もつづく問題で、あらためてロシアの蛮行に怒りが湧いてくる。

 ウクライナ政府は地雷除去に国際的支援を訴えている。日本の得意な分野でもあり今後積極的に支援したい。

拉致問題の膠着を破る鍵について5

国立高校そばの歩道橋から

 東京の桜の名所の一つ、JR中央線国立(くにたち)駅の前から伸びる「大学通り」で満開の桜を眺めてきた。桜が心をうきうきさせるのか、行き交う人々に笑顔が浮かぶ。
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 台湾の大地震。痛ましい被害の映像がニュースで流れたが、同時に、被害の復旧、被災者への支援のすばやさ、的確さには目を見張った。

避難所にはプライバシーが保てる個室スペースが用意された(TBS報道特集より)

中にいるのが怖い人には外のテント

 地震から4時間後に設置された避難所には冷房完備、十分な食糧はもちろん、電話、充電設備、シャワーからボランティアのマッサージ、心のケア相談窓口、子どもの遊び場まで用意されていた。傾いたビルは地震の翌日から解体工事が始まっていたという。すごい。感銘を受けた。花蓮市幹部は日本の東日本大震災岩手県を訪れ、災害対応を学び、毎週、市の職員は災害対応を練ってきた、その成果が表れたのだそうだ。

子どもの遊び場まで用意されていた(報道特集より)

 日本は百年前から被災者は体育館に雑魚寝。「遅れている」ことをはっきり自覚すべきだ。近年、かつては日本をお手本にしていたアジアの諸国に見習うことが多い。

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 北大西洋条約機構NATO)は、4日で創設から75周年を迎えた創立時の12カ国からスウェーデンが3月7日に正式に加盟して32カ国になった。

 4日に行われた75周年の記念式典後、ストルテンベルグ事務総長はウクライナのクレバ外相と共同声明を発表。「ウクライナ支援が予測可能で、公平な負担分担で、そして長続きすることを保証する必要がある」と訴えた。

 これに対しクレバ氏は、「ロシアはウクライナを地図から消し去ろうとしている。記念日を台無しにしたくないが、私のメッセージは(地対空ミサイル)パトリオットだ」と述べた。ロシアは連日、ミサイルやドローンでウクライナのエネルギーインフラを含む生活基盤を破壊している。NATOが防空システムの供与を加速できるかが問われている。
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前回のつづき

 3月27日の集会で最初に挨拶に立ったのは、参議院拉致問題特別委員会の委員長、松下新平参議院議員だった。

 松下議員といえば、『週刊文春』で彼が「外交顧問兼外交秘書」にしていた中国人女性が風俗店を整体院といつわりコロナの持続化給付金を騙しとった疑いで書類送検されたことが報じられたばかり。

(2月28日号、https://bunshun.jp/denshiban/articles/b8122

 この女性は、中国が各国に置く「中国警察の海外拠点」の疑いのある秋葉原の「福州総会」の元幹部だった。松下議員とこの女性の関係についてはすでに21年12月23日号で記事になり、松下議員は週刊文春を名誉棄損で訴え、裁判中だ。

 集会には立場の異なる多様な顔ぶれが参加して興味深かった。主催した和田春樹氏をふくめ報告者の所説には同意し難いものも多々あったが、全体としては、今の「救う会」が主唱する「全拉致被害者の即時一括帰国」路線からの大転換をめざすことで一致していたと思う。

 つまり、拉致問題における安倍政治の否定である。

 ジャーナリストの有田芳生さん参議院議員時代、250本の質問主意書を出し、拉致問題の前進を活動の重点に置いていた。

集会で報告する有田芳生さん

 有田さんは2点を主張した。

 一つ、政府は、2014年に北朝鮮側から生存情報がもたらされた田中実さんと金田龍光さんについて具体的なアクションを取れということだ。

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 田中実さんは、日本政府が認定した拉致被害者だが、家庭の事情で養護施設で育ち「家族会」には誰も入っていない。田中さん、金田さん以外の拉致被害者の新たな情報がないという理由で、二人の生存情報を記した報告書の受け取りを拒み、その情報を国民に隠蔽したままもう10年が過ぎた。

 日本に田中さんの家族はいないが、かつての担任の先生は「田中を頼むぞ」と田中さんの友人たちに言い残して亡くなったという。また、親友の同級生は、田中さんが帰国したら空港までみんなで迎えに行きたいと有田さんに語ったという。田中さんは今年7月で75歳。これ以上放置することは人道上も許されない。

右が田中実さん、左が親友で今も田中さんを案じている

 もう一つは、横田家とキム・ウンギョンさんのことだ。

 2014年に横田滋さん早紀江さん夫妻が孫娘であるウンギョンさんの一家が面会できたことは、大きな喜びだった。しかし、孫と会うのがこの1回で終わりというのではあまりに酷い。「救う会」は反対するだろうが、ぜひまたお孫さんと会ってください、今度はウンギョンさんを日本に招きましょうと政府が提案すべきだ

 滋さんの生前、横田夫妻は、ウンギョンさんを日本に招きたいと思っていた。そして滋さんが「ウンギョンさんが日本に来たら、ディスニーランドに連れていきたい」というと早紀江さんが「いや、おとうさん、(横田家が新潟に来る前に住んでいた)広島や歌舞伎も見せたい」などと楽しい夢を語り合っていたのだ。滋さんは間に合わなかったが、早紀江さんをぜひウンギョンさん一家と再会させてあげたい。

 再会の実現は、北朝鮮との交渉を促進するチャンスにもなる。14年3月の横田夫妻とウンギョンさんの面会を実現するための北朝鮮との接触が同年5月の「ストックホルム合意」(北朝鮮が「拉致問題は解決済み」としてきた立場を改めて、「特別調査委員会」を設置し、拉致被害者を含む日本人行方不明者の調査を行うと約束)に結実した。

 人道問題から外交的成果へとつなげることをめざすべきだ。

 有田さんの二つの提案は、説得的で理にかなったものと私には思われた。
(つづく)

 

拉致問題の膠着を破る鍵について4

 ガザで米NPO「ワールド・セントラル・キッチン」の車がイスラエル軍の攻撃を受け、7人のスタッフが亡くなった。この団体はキプロスからガザに支援物資を海上輸送していた。

Newsweekより

 米国までが激怒する蛮行に、イスラエルは「ミス」、「誤射」と逃げるが、明らかな狙い撃ちである。この事件でNPOは支援活動を中断することを決めたが、これはイスラエルの望むところだろう。

 イスラエルはシリアのイラン大使館の爆撃までやっていて、暴走が止まらない。在外公館をしかも他国の領土奥深く入って攻撃するとは・・・。少なくともオリンピックはじめ国際交流イベントからはイスラエルを締め出すべし。

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 きょう4日の朝日新聞夕刊に、故海老原宏美さんの思いを引き継いで活動する仲間たちの今が特集記事になっていた。

朝日新聞4日夕刊1面

 海老原宏美さんは筋肉が次第に衰える難病を患いながら、障害者が自立して生き、人々の意識を変えようと活動していた。彼女を被写体にした映画を観、彼女が書いた本を読んで衝撃を受け、障害に対する見方を変えられた。3年前に44歳で亡くなった。

海老原宏美さん

 海老原宏美さんの『まぁ、空気でも吸って』という本に収められた「私の障害のこと」という文章から―

 私は、脊髄性筋萎縮症Ⅱ型(SMA type2)という、ちょっと珍しい障害をもって生まれました。「type2」という響きがカッコイイと思っています。一説には、この病気の発症率は四万人に一人とも言われています。両親共に原因となる遺伝子をもっていて、それを一つずつもらい受け二つそろったときに、めでたく発症します。ということは、祖先たちが代々、この遺伝子を受け継ぎ保因者として生きてきたからこそ私もそれを引き継いだわけで、それは一体、何百年、何千年さかのぼる旅だったのだろう? と思うと、この障害が愛おしくてたまりません。

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 生命の原点に立ち返ることを迫られる。
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 前回、「救う会」が「家族会」をコントロールし、安倍政治とつるむことで拉致問題の進展を妨げたことに触れたが、集会では、救う会」の被害者家族に対する卑劣きわまりない恫喝も暴露された。

 2014年3月、横田滋さん、早紀江さん夫妻は、めぐみさんの娘で二人にとっては孫娘にあたるウンギョンさんの一家にモンゴル・ウランバートルで面会した。三日間にわたり、水入らずの親密な時間を過ごしたことは、そのときの写真の輝くような笑顔に表れている。

ひ孫の智恩ちゃんを抱くうれしそうな横田夫妻有田芳生氏提供)

 早紀江さんは、滋さんが亡くなったとき、この面会がなかったら、お父さん(滋さん)は何も良いことのない人生になったところだったと語っていた。それほど二人にとってうれしい時間だったのだ。

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 その時の写真を、有田芳生さんが横田さん夫妻の承諾を得た上で『週刊文春』で公開した。

 すると早刷りが出た水曜の夜、「救う会」とそれとつるむ政府の一部の高官が横田夫妻に恫喝を加えたのである

 そもそも「救う会」はウンギョンさん一家との面会を横田夫妻から事前に知らされておらず、もし知っていたら反対したはずなのだ。加えて、夫妻が満面の笑みを浮かべていることが気に食わない。「うれしい、楽しい」と思うのは、北朝鮮拉致問題を「おしまい」にしようという狙いにはまってしまうことになる(?!)、というのだ。

 夫妻にとってウンギョンさんは血を分けた孫である。祖父母が孫と会って笑顔を見せて、どこが悪いのか。家族水入らずの笑顔を否定するのは非人道的な政治主義であり、「救う会」が拉致問題を本気で解決する気があるのかを疑わせるに十分である。

 水曜の夜、横田家の電話が鳴る。

 救う会西岡力会長、櫻井よしこ氏、中山恭子参議院議員のほか「政府のエライ人」から次々にかかってきた。特にすさまじかったのは櫻井よしこ「こんな写真を出したら、めぐみちゃん、殺されちゃいますよ!!」と、テレビなどの前で見せるソフトな声色とは別人のような激しい口調で早紀江さんを脅迫したという。しかもその後、櫻井氏はもう一度電話をかけてきてダメ押しの恫喝を行っている。

 こうした非難と脅迫の波状攻撃の結果、横田さん夫妻は、有田芳生さんへの非難文を書かされることになる。年老いた二人に対してなんとむごいことをするのだろうか。

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 「モンゴルでの楽しかったウンギョンちゃんとの面会をみなさんにも見ていただきたい」と、有田さんの写真公開をよろこんで了承した横田さん夫妻は、この“事件”のあと、写真の公開は望んでいなかったし、これからも公開しないという声明を発表させられる。

 だが横田滋さんが亡くなったあと、早紀江さんはモンゴルでの面会の写真を、キャンペーン用に、新潟と川崎のバスの中に掲示することを了承している。横田夫妻の思いがどちらにあったかは明らかである。

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  「被害者家族の意に沿う」と言いつつ、実際には「救う会」は家族の意思を押しつぶしながら、自らの政治的意図を優先してきたのである。

そしていよいよ、田中実さん、金田龍光さんを見殺しにした「救う会」=安倍路線の罪である。
(つづく)