『逃げゆく物語の話 ゼロ年代日本SFベスト集成<F>』

逃げゆく物語の話 ゼロ年代日本SFベスト集成<F> (創元SF文庫) 大森望 編 (東京創元社 創元SF文庫)
『ぼくの、マシン ゼロ年代日本SFベスト集成<S>』と対を成すアンソロジー。こちらは前巻に比べて、「すこし、ふしぎ」系のSFを集めたとのこと。だから、ストレートなSFとはちょっと違う感じ。


「ある日爆弾が落ちてきて」と「マルドゥック・スクランブル "-200"」以外は初読。


個人的に印象深いのは「夕飯は七時」。<常野物語>の一編としても通りそうな話。パッと見コミカルなんだけど不気味なのが良い。「陽だまりの詩」は、しんみり。久しぶりに彼の他の作品も読んでみようかという気になった。
「光の王」「闇が落ちる前に、もう一度」「予め決定されている明日」系の、自分が日常だと想っていた世界が実は…みたいな話は好きだなあ。しかし山本弘氏の作品はロマンティックだ。
冬至草」は本当にそのような植物が実在したかのような記述が良い。文章にも雰囲気があって好き。


アンソロジーもいろいろな発見があって、たまに読むのも良いな。

『虚空の旅人』

虚空の旅人 (新潮文庫) 上橋菜穂子 (新潮社 新潮文庫
隣国サンガル王国の新王即位の儀式に参列するためにシュガと共に彼の地へと赴くチャグム。そこで彼は<ナユグ>に魂を奪われた少女と出会い、過去の自身の出来事から彼女を助けたいと考え始める。一方で海運国であるサンガルの数ある島々の片隅で不穏な空気が漂い始めていた。鍵を握る少女スリナァは王都を目指して船を奔らせる…!


<守り人>シリーズの外伝的位置づけの<旅人>シリーズ、その一。
精霊の守り人』から3年。14歳になったチャグムが主役の物語。もともとの性格もあるのだろうが、過去の経験から人格者としての魅力を発揮する彼。シュガとのコンビも良い。若い二人が周辺諸国の人々と面識を持つことで、次代の担い手として認識されて行く様がいいな。


そして今回は国家間の政治や情報戦が描かれる。バルサが主役ではなかなかこういった話は書き難いのだろう。そういった点で皇太子であるチャグムの出番だし、サンガルの、多くの島々からなり各島の代表の思惑と王家への思いといった、国としての成り立ちの設定は、今回の話を書くのに適している、と思う。さらにはサンガル王族の為政者としては当たり前なのかもしれないが、その非情さとチャグムの青臭いのかもしれないが、真っ直ぐな心優しさとの対比。大変面白かった。願わくは彼の清い魂の、その輝きが失われんことを。

2歳になったよ

下の子。以前は良くいろんな所に頭や顔をぶつけて、常に青あざがどこかしらにあったもんだが、最近は落ち着いてきた様子。しかしまあチョロチョロ走り回ってはいるが。


上の子の2歳の頃に比べると、少し言葉が遅いかなーという感じ。二語文も話せるんだけど、上の子とは意思の疎通がもう少しできてたような気がするのは気のせいか。まあ男女差もあるから、一概には言えないけど。
最近は「かめんらいだーおーず」を憶えた。ウルトラマンや戦隊ヒーローを見ても「かめんらいだー」と言う。てゆーか、新仮面ライダー見てキョーダインを思い出した。


ま、それ以外は至って順調かな。おむつもほぼ外れたし。


まあこれからも元気に成長してくれ、男の子。

『ココロコネクト キズランダム』

ココロコネクト キズランダム (ファミ通文庫) 庵田定夏 (エンターブレイン ファミ通文庫
謎の存在<ふうせんかずら>によって引き起こされた、文研部内での「人格入れ替わり」現象。その終焉から3週間が経った頃、またしても<ふうせんかずら>が彼らの前に姿を現す。今度は「欲望解放」。文研部5人の間でランダムにその時心に浮かんだ欲望が、理性を超えて発露する。普段は表に現れない「本音」は5人の友情に亀裂を生む…。


あ、前作より読み易くなってる。文章が上手くなってるのかな、なんて上から目線?
それは置いといて、周囲の人間を信用できずに自分の弱みを見せられない稲葉に感情移入。彼女みたいに優秀な人間を演じているわけではないが、割と似た傾向の人種なもので。


しかし<ふうせんかずら>の正体はどのように処理されるのか。恋の行方と設定に、これからが気になる作品。

『ハーモニー』

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA) 伊藤計劃 (早川書房 ハヤカワJA)
身体の中に入れられた医療分子。それは体内から人の身体に関する情報を収集しサーバーに送ることで、人の健康を管理する。そのおかげで病気はおろか、ちょっとした頭痛や風邪、肥満などといったものですら撲滅され、「死」が遠くなった未来。肉体的にも精神的にも管理される世の中に、少女たちは抵抗を試みる。


賢しく友人を諭す少女、御冷ミァハ。彼女の友人である零下堂キアンと、主人公、霧慧トァン。どうも彼女たちの関係が『ルー=ガルー』を思い出させた。
そしてテキスト。HTML(作品ではETMLだが)タグで強調される文章に、これは、と思っていたのだがなるほど、そういうことだったか。


解説にある著者の言葉のように、『虐殺器官』とテーマ的に似ていると感じた。そして意識とは何かについて考えさせられる。動物には意識がないのか?意識がなくなっても普通に生活ができるのか?その辺りは疑問だが、物語ラストは『幼年期の終わり』を彷彿とさせた。それは人間という種全体でみれば進化なのか?個の人間でみたらどうなのか?動物に意識が無いというのであれば、それは動物に戻るということではないのか?…疑問は尽きない。


しかし、病気の撲滅はまあいいとしても、精神的に有害であると見なされる映像などからも守られてるというのは、ものすごい過保護だと思ってしまう。
実際この世界はそのような所まで突っ走ってしまうのだろうか。