トーキョープリズン/柳広司

トーキョー・プリズン

トーキョー・プリズン

 行方不明者を捜索するために来日した私立探偵の「私」は、東京裁判を待つ戦犯たちが収容されているスガモプリズンを訪れた。副所長ジョンソン中佐は、収容所内での調査を許可するかわりに、交換条件を持ちかけた。それは、戦時中の記憶をなくしたキジマという人物の脱獄を阻止し、記憶を取り戻させるというものだった。仕方なく依頼を受けた私は、戦時中、捕虜を虐待した冷酷非道な男とされるキジマと面会した。キジマは、その優れた頭脳を使い、収容所内で起きた不可能犯罪を考察する。私はキジマの思惑が掴めぬまま、キジマの言うまま捜査を始めたが……。

 読み終わった。うーん。最初は良かったが、尻すぼみだったなあ。設定や舞台、人物は面白く、かなり期待感が煽られただけに、ちょっとがっかり。
 この時代を舞台に、それも戦犯収容所で、戦時中の出来事を問われて裁判にかけられるのを待っている人物が絡む事件だから、どうしても「戦争」について語る必要があるのだろうが、それが収容所内で起きた連続殺人事件とうまく絡み合っていないようだった。
 そのため、どっち着かずの中途半端な印象。言いたいことは伝わっては来るんだけど、読んでいるうちに別の所へ持って行かれたようで、それもこの物語に期待し、想像していたものとは違っていたという感じ。
 ミステリーとしても、トリックがちょっと苦しいような。真の犯人も、いくらなんでもそんな簡単じゃないよな、と思っている人物がやっぱりそうだったのにも拍子抜け。
 キジマという謎に満ちた人物、特殊な事情により身動きが取れない人物の代わりに主人公が動かされる設定が魅力的であったので、余計に物足りなさが残った。

近況

 新しい仕事や環境やらで落ち着かない生活が一段落したところへ、イヴァリースに出かけたりして、本を読んでいなかった。それでも何冊かは読んでいるが、感想を書く余裕がなかった。
 「買う」方は相変わらず、賽の河原のごとく積み上げている。ただ、書店事情の悪い田舎に戻ったせいで、新刊を早い時期に買う機会がなくなり、買った本をリストアップする意味はなくなったかな。
 そろそろ本に戻ろう。

陰日向に咲く

陰日向に咲く

陰日向に咲く

ビギナーズ・ラックにしては巧すぎる。
あと二冊は書いてもらわなきゃ。
――恩田陸(作家)
落ちこぼれたちの悲しいまでの純真を、
愛と笑いで包み込んだ珠玉の連作小説

 なにやら妙に評判が良いようだし、劇団ひとりも好きなので、新聞の広告を見た時から興味があった。本屋で見つけられず、店員に書名だけを告げたところ、それで検索してきた店員が、「劇団ひとりの本ですね」と確認してきたときの表情が笑っていたんだけど、なんちゅーの、明らかに営業スマイルではなく、薄ら笑いっぽくてちょっとムっとしたっけ。
 それはさておき、帯で恩田陸が褒めているように、確かに巧いなと思えた。それぞれは独立した短編が五編(+一編)収められているが、少しずつ人物やエピソードが重なり合っている。
 普通なら、何気なく提示されるはずの情報を意図的に隠して、それが面に出てきた時に意味を持ち、ちょっと虚をつかれた感があって面白い。が、この手法を使って良いのは一作(この連作短編を一作と勘定して)だろうから、二作目、三作目はどういう小説になるのかという期待感がもてる。
 あまりに良い評価を見聞きしていたので、「芸能人(小説の素人)の書いたものにしては良い」程度のものだろうなどと、ちょっと斜に構えて読み始め、一話目は「それほどでもない」という気がしたが、二話三話と読みつづけると、普通に小説として面白く読めた。
 胸を打つというほど感情を揺さぶられることは無かったが、どの話も弱く胸に響いてくるものがあった。その弱さの加減こそがいい感じ。
 表題の『陰日向に咲く』の「陰日向」は、明るいところ暗いところというより、暗いところにふっと差す明るい光のような意味合いだろうか。どの物語の登場人物も、どちらかというと暗い場所に生きていて、日の当たる場所に出ようとするでもなく、その場所に居続け、ほんのわずかな日差しを見いだす。その明るさも、暗さの中でだけ見いだせるような淡い明るさのような印象。
 個人的には『Over run』が良かった。オチは見えるけれど、テンポの良い語り口に引き込まれ、心当たりが沢山あって可笑しくて苦くて、最後はホロリと来た。
 芸人の書いたものという色目を無くし、本として評価される質だという気がした。だから、カバーや本体の表紙に本人の写真をあんなに使わなくてもいいんじゃないかね。まあ、いいけど。本人が書いたわけでもない下手くそな題字にちょっと違和感が。
 取りあえず、二作目が出たら読んでみたい。

−購入

鼓動―警察小説競作 (新潮文庫)

鼓動―警察小説競作 (新潮文庫)

聞こえるか、
刑事たちの
胸の高鳴りが。

決断―警察小説競作 (新潮文庫)

決断―警察小説競作 (新潮文庫)

伝わるか、
刑事たちの
熱い誇りが。


怪奇小説傑作集 1 英米編 1 [新版] (創元推理文庫)

怪奇小説傑作集 1 英米編 1 [新版] (創元推理文庫)

古今東西の名作を精選した決定版
「怪奇幻想小説についての入門書として
高く評価され愛され続けてきた」
――紀田順一郎(新版解説より)

  • 一巻のみ旧版を持っているのに買ってしまった。最近の流れにのっとり、字が大きくなっている。装丁はがらっと雰囲気が変わったが、旧版の方が好きかな。


天満ばけもの巡り―新・雨月物語 (C・NOVELS)

天満ばけもの巡り―新・雨月物語 (C・NOVELS)

  • 面白そうだと思って買って、中を開いてみたところ「今までのあらすじ」があり、あれ?シリーズものか?と調べてみたら、第二作だった。続いているんだろうか。一作目を読んでいないとわからないんだろうか。がっくし。

−購入

不滅の名探偵、完全新訳で甦る!
忘れえぬ
アイリーン・アドラ
ホームズがただ一人意識した女性だった……

  • どうしてこう、全集物に弱いのだろう。が、光文社が出していた江戸川乱歩全集は、途中で挫折したが。今回は全9巻で、刊行に間があるので買いそろえられそう。
  • とはいえ、本当は新潮文庫のホームズシリーズの装丁が好きだから、あっちを集めたいような気がする。光文社文庫は、紙の劣化(黄変)が早いからなあ。


フェアリイ・ランド (ハヤカワ文庫SF)

フェアリイ・ランド (ハヤカワ文庫SF)

天才美少女ミレーナは、虐げられているドールを
知性するフェアリイに改変し、麗しの王国を創造しようとするが……。
華麗なるテクノゴシックSF
アーサー・C・クラーク
ジョン・W・キャンベル記念賞
受賞作

  • なんとなく昔のファンタジーの改訂新版だと思っていたが、最近(と言っても原書が出たのは十年前)書かれたSFだった(邦訳板は1999年刊)。ミスマッチなアメコミっぽいポップな表紙が案外いい感じ。


獣の夢 (角川ホラー文庫)

獣の夢 (角川ホラー文庫)

「小学生による死体損壊事件」
その事件は二十世紀終盤の
日本を震撼させた

  • 久しぶりの中井拓志。しかしあらすじから想像するイメージに反して物語は短め(285頁)。どんな内容なのか、期待。


試みの地平線 伝説復活編 (講談社文庫)

試みの地平線 伝説復活編 (講談社文庫)

うじうじ悩むな、小僧ども。
「ソープへ行け!」
人生のあらゆる局面で効く伝説の青春相談「試みの地平線
16年395回の連載から傑作問答を厳選した
文庫オリジナル板!
大きくなった小僧どもに、
「中年編」併載!

  • 噂に聞いて、ずっと読んでみたかった伝説の人生相談。文庫化は嬉しい。が、選集なんて言わずに、もっと出して。
  • 何でもいいから相談してみてぇー。

−購入

(上)
全世界で1200万部突破! 世紀のベストセラー
12世紀のイングランドを舞台に繰り広げられる
波瀾万丈の、壮大な物語。
何度読んでも滅法面白い「夢中本」の最高の宝。
――児玉清(俳優)
(中)
大聖堂建立の日がやってきた。
が、陰謀によって街が焼き討ちに!
帯の推薦じゃ、もどかしい! 売り場にたって、片っ端から
押しつけたい面白さ!! ――喜国雅彦(漫画家)
(下)
物語は感動のクライマックスへ!
『大聖堂』を読めば、イギリスが理解でき、歴史が理解でき、
人が理解できる。  ――養老孟司(本書「解説」より)

  • 昔、新潮社から文庫で出たものが版元が変わって再版。新潮文庫で出た際も鳴り物入りで、結構評判になったと記憶する。が、既に絶版。面白いとされる小説が、こうしてまた再版されることは喜ばしいことであるが、面白くても売れなければ絶版になるわけで、こうして装いも新たになると購買意欲をそそられて手が伸びるわけだが、やっぱりいずれは絶版になるわけで、出版された本の鮮度というものは面白いものだなあなどと思いながら、複雑な気持ちでもある。
  • とりあえず絶版になる前に買っておかなければならない、という気がして、ますます積み本が増えていくわけだ。
  • 帯の推薦文も二人。解説を書いている養老孟司を入れると三人。力が入っている。翻訳系文庫の値段が高くなり続ける昨今、新潮版と変わらず据え置き価格なのはありがたい(下巻など、むしろ値下がり)。


廃墟ホテル (ランダムハウス講談社文庫)

廃墟ホテル (ランダムハウス講談社文庫)

廃墟に
蠢く
怪しい影
かつでの豪華ホテルに
封印された痛ましき過去が
都市探検車たちに
襲い掛かる!

  • 廃墟を探検中にその建物に隠された秘密に触れて……。閉所恐怖のけがある自分にはたまらない設定。
  • なんだかんだで、ランダムハウス講談社文庫を毎月一冊は買っているということは、自分の好みにあった系統の文庫ということになるのだろうか。


夢見たものが現実となる場所
並ぶものないSF作家が贈る
本邦初訳作を含む傑作5編を精選
日本オリジナル短編集

  • マーケティング的にも過去の掘り起こしというのは大事だな。出し方一つで売れ始める。そうして、エドモンド・ハミルトンが日本で紹介され始めた当時でさえ翻訳されていないものが、日の目を見る。


あらしのよるに(1) (講談社文庫)

あらしのよるに(1) (講談社文庫)

映画も話題 ついに文庫化!
挿絵全点描下ろし
僕にとってのメイとガブは、
国であり、民族であり、宗教であり、恋愛であり、
本来この地球上に生を受けた
あらゆるものの姿である。――――演出家宮本亜門

  • あらしのよるに』『あるはれたひに』『くものきれまに』のシリーズ三作を大人向けに再編集した合本。以前から読んでみたかったが、全部買い揃えるのは躊躇われていたので助かるなあ。
  • どうでもいいが、この帯の文句はたいへん鬱陶しい。


時代小説傑作選 江戸の満腹力 (集英社文庫)

時代小説傑作選 江戸の満腹力 (集英社文庫)

蕎麦、初鰹、おでん
…等々
多彩な献立で
描かれる
江戸の世に生きる
人々の悲喜交々。
美食家も大食漢も
大満足の傑作8編を収録。

  • 時代小説のアンソロジーで、食をテーマにしているのが面白そうで購入。しかし、8編中3編は既読であった。そのうちの一編、乙川優三郎の「小田原鰹」はとても好きな短編である。

−購入

狼の帝国 (創元推理文庫)

狼の帝国 (創元推理文庫)

クリムゾン・リバー』のJ=C・グランジェが贈る大ベストセラー・ミステリ上陸!


クリスマス・プレゼント (文春文庫)

クリスマス・プレゼント (文春文庫)

どんでん返し16連発
ディーヴァー・マジック炸裂のミステリ作品集
世の中のものごとは、見た目どおりとはかぎらない

  • 短編集。表題作はライム・シリーズ唯一の短編。この作家の短編は読んだことがないので楽しみ。


無意識の証人 (文春文庫)

無意識の証人 (文春文庫)

ジェフリー・ディーヴァー激賞!
五つの文学賞を受賞!
マフィアと戦う現職検察官が書いた
異色の法廷スリラー

  • ディーヴァー繋がり、というわけではないが買ってみた。イタリアの小説。長大になりがちな法廷ものにしてはコンパクトなページ数(324頁)。
  • 「現職」が書いたものは、当たりはずれが大きいような気がするが、これはどちらだろうか。


新選組秘帖 (文春文庫)

新選組秘帖 (文春文庫)

幕末から明治を駆け抜けた
隊士たちの光と影
新選組」アンソロジーの決定版!

  • 単行本の時に、ウエブ上で良い評判を見て興味を持ったが、本屋で見かけず未購入のままのうちに文庫化された。
  • あまり小説では読んだことのない相馬を主人公にした短編もあり、楽しみである。


冬の標 (文春文庫)

冬の標 (文春文庫)

情熱に蓋をして暮らした二十年
思いのままに行きたい
封建の世のしがらみを断ち切り、
自由と孤独を選んだ一人の女性画家
深い感動を呼ぶ長編時代小説

  • こちらの作家は短編集しか読んだことがなく、長編は初めて購入。
  • 時代に抗った女流画家の物語というと、宮尾登美子の『序の舞』を思い出す。時代は『冬の標』の方が若干遡り、時は幕末。この時代の、女の物語というのも読んだことがないので、期待。


写楽百面相 (文春文庫)

写楽百面相 (文春文庫)

写楽は事件だ!
泡坂ミステリーの精華、
待望の復刊!


牛乳の作法 (ちくま文庫)

牛乳の作法 (ちくま文庫)

可笑しいエッセイ。立ちつくす評論。
そしてなぜ彼らは牛乳を振るのか?

  • 昔、新聞で連載されていたエッセイを楽しみにしていた。それ以来、本を見かけると購入してしまう。いい感じに色んな力が抜けてゆく。