ゾンビ企業(仮)と高圧経済の必要性

ゾンビ企業というワードがある。個人的には経済学者が安易につかう想像力が不足しているワードだと思う。何年も前からいっていることだが、景気が悪いと「ゾンビ企業」といわれる企業が増えて、景気がよくなると「ゾンビ企業」が減っている。つまり単に総需要不足では、素晴らしい財やサービスを提供できたり、できる機会があっても実現できない、ということにすぎない。もちろん常識的に「こりゃだめだ」という企業もあるだろう。だが、ゾンビ企業と経済学者やマスコミが濫用しがちなこのワードにはいつも注意が必要だともう20年近く思っている。

 ゾンビ企業仮説についての批判は、岩田規久男先生の本についてのこのエントリーなど参照。

 

また景気が回復するとゾンビ企業が減る、つまり企業の経営が好転することでゾンビという偽のレッテルがはがれる、という効果があると思う。以下のデータをみても景気回復局面では「ゾンビ企業」が減少している。

 

例えば木野内栄治さんの『高圧経済とは何か』に収録された論説からの図表。

以下は上記のグラフにもでてきているBIS基準と営業CF基準だけを対数ではなく比率でみたもの。東京商工サーチより。

 

さらに中小企業に絞ったもので、ゾンビ企業の基準を、Caballero, Hoshi Kashyap(2008)の基準「金融機関からの支援の有無のみ」とFukuda and Nakamura(2011)の基準「CHK基準に加えて、負債比率が高い、営業成績が悪いを加える」。植杉 威一郎 氏は以下の動画のプレゼンで、以下の図表でFN基準の方が中小企業のゾンビ企業の実態を表しているとして掲示。ここでもやはりアベノミクス期間中にゾンビ企業は減少している。

中小企業金融の経済学-金融機関の役割 政府の役割 #1(プレゼンテーション)【RIETI BBLウェビナー】 - YouTube

 

上記から、つまりは高圧経済もしくは景気回復を促す政策的環境こそが、ゾンビ企業を減らす。中小企業の生産性の低さがゾンビ企業のウェイトの大きさによるのならば、高圧経済もしくは景気改善のマクロ経済政策が効果的である。

 

ちなみに近年ではコロナ禍で経済状況が悪化したために、「ゾンビ企業」が増えているといわれている。それならば答えは経験則的には高圧経済(財政と金融の総需要刺激政策の継続)の実現が望ましいだろう。

コアコアCPIで物価目標超えても黒田日銀が引締めしなかった理由はコストプッシュが主で、需要要因でみると物価目標に至っていないため緩和継続すべきと考えた。物価目標を超えてもしばらく続けるオーバーシュートが起きてるとは微塵も思っていない。また日本は米国とは違うとも明言。またコアコアCPIが2%を超えたのは2022年10月からというエントリー

ちなみにコアコアCPIが物価目標2%を超えたのは、2021年10月ではなく、2022年10月から。



そしてこれ以降、総合、コア、コアコアが物価目標を上回っても、それが物価目標を政策対象としての物価がオーバーシュートしたとは黒田日銀はまったく思っていない。

 

例えば22年11月の黒田総裁講演では、日本での総合、コア、コアコアが2%超えてても需給ギャップはマイナスで、物価が高いのはコストプッシュ要因でありそれはやがて減衰。需要面から物価上昇が高まっていないと判断したので金融緩和継続。

 

現状がオーバーシュートしていても緩和維持など一言もない(以降もない)。あくまで需要面での物価上昇が目標を超えても緩和継続するという趣旨なのが、黒田日銀のオーバーシュートコミット。また日本と米国の違いも需要面の強弱。米国と日本を比較してインフレ目標2%を両国がこえてるからといって、それでオーバーシュートコミットメントの成否を議論するのは正しいとはいえない。

 

 

「景気実勢」と東証株式時価総額についての試考

 たまたま中里透先生が数年前にsynodosに寄稿した論説を読んだので、そこに掲載されていた図表を現時点まで拡張してみた。

 なお名目GDPは四半期、株式時価総額は各四半期の最後の月データを利用。


アベノミクス以降での上昇傾向は明らかだが、少なくとも昨年末までは「景気実勢」(上記の中里論説の言葉を拝借)を大きく離れている印象はない。

 

ただ今年の第一四半期は急上昇してる可能性が大きい。おおかたの予想では、能登半島地震の影響やまた暖冬での消費の低迷などで名目GDPもそれほど前期比では拡大はしないかもしれない。暫定的にだが、2024年2月末の東証株式時価総額977,208,019 (百万円)と、現時点での政府の今年度(2024年度)推計の名目GDP615兆円を比べると、その比率は約1.59となる。昨年の第四四半期が1.45なのでかなりの増加である。もちろん今年の第一四半期はさきほど書いたようにマイナス成長の可能性が高い&三月末の株価も二月末に比べて高いということをくらべると、1.6を大きく上回る可能性もある。これを「景気実勢」とみるかそれとも過熱気味とみるか。もちろんここで試考しているのは、マクロ的な観点での評価にすぎないが興味深い。

 

単純比較できないが、あえて比較すると、バブル最終期の1989年12月29日の東証株式時価総額は611,151,873 (百万円)。名目GDPは約405兆円ほど。比率は、1.51程度である。つまり単純比較はできないが(何度も念為)、昨年末までとは異なり、今年に入ってからすでにバブル期を大きく上回る比率になっている可能性がある。

 

とするとマクロ経済的な観点からは下方への調整局面が生ずるかもしれない。あくまでもひとつの試考であり、今後のデータなどで見直していきたい。

 

現場からは以上であるw。

 

おまけ

 

現在はコアコアCPIだけでなくいろんな物価指標を見た方が吉

Xポストから。

 

コロナ禍からまだコロナ禍の後遺症が経済に残る現段階では、前も書いたが物価指標はコアコアCPI(生鮮・エネルギー抜かす消費者物価指数)以外にもいろいろな指標とその動きを「特に」見た方がいいと書いた。

 

とりあえずコアコアCPIをみてみると、日銀のコアコアCPIの委員見通し中央値は今年度も来年度もインフレ目標2%に届いてない。念為。

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コロナ禍とその後遺症が経済に残る中で、コアコアCPIに「だけ」注目してはまずいのは、日銀の展望の中のこの図表を直観的にみても明らか。コロナ禍以降は足元までコアコアCPIの動きとGDPギャップの動きが乖離している。それ以前はかなり連動。現状ではいろんな物価指標をみた方がいい。

 

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上では「あえて」コアコアCPIの見通し「だけ」を日銀の資料を利用して紹介している。繰り返すがコロナ禍以降現在まで、コアコアCPI「だけ」みてはまずいと思う。いろいろな指標をみるべき。特に個人的に注目しているのは、片岡剛士さんたちPwCレポートの品目別の価格分布の推移など。

 

最新版はこちら。

消費者物価指数(全国、2024年2月)-電気・ガス代負担軽減策縮小の影響で再び加速-(2024年3月25日) (pwc.com)

片岡さんのXポストも引用