AMJ論文に学ぶトップジャーナル掲載のための研究方法と論文執筆スキル(4)

本シリーズでは、AMJ論文Leslie et al. (2023)を教材として、経営学のトップジャーナルに掲載できるような研究とはどのような研究であり、その研究をどのように論文化していくとトップジャーナルに実際に掲載可能な論文になるのかについて解説している。前々回と前回で、論文の序論についてやや詳しく解説した。今回はこれらをまとめ、構造的な視点から、トップジャーナルに掲載できる論文の序論の特徴について解説する。

序論の構造

まず、AMJを始めとするトップジャーナルでは、論文の最初に「Introduction」という見出しは置かないのが慣例となっている。その理由は、まず、論文の最初が序論であることは明らかなので、あえて序論と書く必要がない。そして、学術全般のルールとして、限られたジャーナルスペースに知識を蓄積していくので、スペースを節約するために余計なことは書かないというのがある。よって、分かり切っている「序論 (Introduction)」という見出しは余計なものだということである。

 

さて、一般的に序論を書く際の難しさの1つに、長すぎず、短すぎず、適度な分量の序論とはどれくらいなのだろうかというものがある。長すぎる序論とは、本来、序論の次の本文に書いていくような内容までが盛り込まれており、序論なのか本論なのか分からないようなものであり、短すぎる序論とは、序論で伝えるべき内容が端折ってあったり、必要な要素が含まれていないので短くなってしまっているものである。であるから、適度な分量の序論を書こうと思えば、序論にはどのような要素が、どのような順番で含まれるべきなのかを知っておく必要がある。

 

AMJに掲載された他の論文をぱらぱらと見てみると、一般的に、序論に含まれる段落は6~8個である。1つの段落には1つのメインメッセージがあるので、そのメインメッセージをつなぎ合わせればストーリーが分かる。では、Leslie et al (2023)では、いくつの段落が、どのようなストーリーを紡ぎだしているか、確認してみよう。

Leslie at al (2023)の序論の構造
  1. ダイバーシティ推進は盛んだがうまくいっていないようだ。しばしばダイバーシティ推進に向けて組織の従業員を動機づけることに失敗しているようである。
  2. 組織のリーダーがレトリックを使ったメッセージを発することでダイバーシティ推進に向けて従業員を動機づけられるかどうかの研究がなされてきた。
  3. 先行研究ではダイバーシティは組織にとって望ましい効果があるといったレトリック(価値レトリック)が有効とされるが、このレトリックははダイバーシティ推進が困難であるという現実に合っていないので本当に有効なのか謎である。
  4. ダイバーシティ推進のためにリーダーが用いるレトリックと、ダイバーシティ推進に有効なレトリックのもっと深い理解が必要である。本研究では、ダイバーティ推進は困難だが、それを乗り越えることができた暁には組織にとって望ましい効果がでるというレトリックがあることを提案する。
  5. これを新しく「条件付きレトリック」と呼ぶことにして、通説である「価値レトリック(Happy Talk)」との比較を試みることによってダイバーシティ研究に貢献しようというのが本研究の主眼である。
  6. まず、自己の心理学を用いて、リーダーは価値レトリックと比較すると、条件付きレトリックを使うことを嫌がり、価値レトリックを使いがちであることを主張する。
  7. どちらのレトリックのほうがが効果が高いかについては、価値レトリックも条件付きレトリックも、ダイバーシティに価値があるといっている点では同じだが、条件付きレトリックのみ、困難な目標を設定している分、従業員のモチベーションをさらに高める効果がある。よって、効果面では条件付きレトリックに軍配があがると主張する。
  8. 上記を組み合わせると、2つのレトリックを比較した際に、リーダーが実際に用いがちなレトリックと、実際に効果が高いレトリックが逆転するという「記述ー処方パラドックス」が本研究で理論化される。これを4つの調査で実証する。
  9. 本研究の貢献は、条件付きレトリックを提案し、それを価値レトリックと比べたときに記述ー処方パラドックスが生じることを明らかにする点、そして何故そうなるのかについての心理メカニズムを明らかにする点である。

Leslie et al (2023)の序論の段落数は9であり、通常よりもやや多めであることが分かる。第2回でも述べたが、この論文の要約(Abstract)も慣例からやや逸脱しており、この論文の最大のアピールポイントである主張する内容とそのロジックを強調していた。序論も同じような傾向があり、この論文の目玉である「記述ー処方パラドックス」を、端折りつつも、読者に問いかけ、そして答えていくという謎解きストーリーとして理論とロジックが分かるようにやや丁寧に説明している分、段落数が多くなっている印象を受ける。つまり、読者をひきつけるための謎解きの問いを与えて、その種明かしをしていくというストーリーを重視した序論であるわけである。

 

一般的に推奨されている序論の構造は以下の通りである。まず、最初の1~2段落で、なぜ本研究のテーマが大切なのか、なぜ読者がこの論文を読むべきなのかを述べる(つかみの段落)。そのことで読者を味方にする。次の1~2段落で、本テーマについて、これまでの先行研究で何がわかっており、何がわかっていないのかを述べる。ここで、学術として本テーマに関する探究の現在の立ち位置と現状の課題を著者と読者とで共有する(問題把握の段落)。さらに次の1~2段落で、本研究が何をすることで現状の課題に取り組み、学術を発展させるのかを述べる(研究内容の段落)。最後の1~2段落で、本研究によって何を学ぶことができるのか、あるいは学術や実務への貢献を述べる(貢献の段落)。それぞれのパートが1~2段落なので、平均すると6~8段落ということになる。

 

上記の一般的に推奨されている段落の構造と、Leslie et al (2023)の段落の構造を比較してみよう。まず、つかみの段落は、最初の1段落のみである。その後すぐに問題提議の段落に移る。2段落と3段落でそれに充てる。そして、研究内容の段落で4~8段落と、5つもの段落を使っている。先述したように、本論文で展開するロジックと主張、そして提案する理論命題がこの論文のアピールポイントでありハイライトなので、最初の段階でこの強みを最大限に引き立てるために、序論であるにも関わらず、贅沢に5つもの段落を消費しているである。そして貢献の段落は、最後の9段落のみである。このように、Leslie et al (2023)の序論の構造は、序論に含めるべき要素のバランスを極端に内容の段落に偏らせていいるため、一般論として提唱される序論の構造を少し逸脱したものとなっている。

 

Lislie et al (2023)の序論から学べることは、トップジャーナルに掲載するような論文を書きたい場合、一般的に推奨されている要素を含め、かつ、それぞれの要素をバラン良く配置するという「型」を基本として遵守しつつも(守)、自分の論文のもっとも強いところ(謎解きストーリーとその答えとしての興味深い理論命題)を強く見せるということを意識することでその型を一部破り(破)、結果として、一般的な序論を若干逸脱した構造となっており(離)、かつそれが論文の魅力を引き立て、読者を味方にするという成功につながっているということである。

 

序論の解説はこれくらいにして、次回は、本論すなわち理論と仮説の部分について解説したい。

文献(教材)

Leslie, L. M., Flynn, E., Foster-Gimbel, O. A., & Manchester, C. F. (2023). Happy Talk: Is Common Diversity Rhetoric Effective Diversity Rhetoric? Academy of Management Journal, https://doi.org/10.5465/amj.2021.1402

AMJ論文に学ぶトップジャーナル掲載のための研究方法と論文執筆スキル(3)

本シリーズでは、AMJ論文Leslie et al. (2023)を教材として、経営学のトップジャーナルに掲載できるような研究とはどのような研究であり、その研究をどのように論文化していくとトップジャーナルに実際に掲載可能な論文になるのかについて解説している。前回は、序論の前半部分でテーマの重要性を確認し、常識や通説に対する疑問を投げかけて読者の思考にゆさぶりをかけることで、謎解きが始まったような状況を演出することを紹介した。今回は、序論は、論文全体のミニ版であるという視点に基づき、序論の後半部分に移って、Leslie et al (2023) がこの論文全体でどんな謎解きのストーリーを展開しようとしているのかを解説する。

序論(後半部分)

さて、Leslie et al (2023)が序論の前半で発した謎は、リーダーが「ダイバーシティは組織にとって望ましい」ことを示唆するレトリックを用いたメッセージを従業員に対して発することは、従業員を勇気づけ、動機づけるのに有効だと言うのが常識のように思えるが、そのレトリックは、ダイバーシティの現実を反映していないのではないかというものであった。リーダーが、ダイバーシティが簡単には実現しないという事実を無視し、現実離れした「Happy Talk」を展開することが本当に効果的なのかという疑問でもある。そして、ダイバーシティ推進が困難であることが現実の姿なのであれば、リーダーはそのことをレトリックに含めるべきではないのか、例えば、「ダイバーシティの推進はとっても困難であるが、それが実現することは組織にとって望ましい」というようなメッセージを送った方が、現実的だし効果があるのではないか、という疑問を読者に投げかけている。そう言われれば読者は「そうかもしれない」と思うだろう。だが、そういわれるまで読者はそのようなことを深く考えていなかったというのが一般的な反応だろう。

 

上記の主張は、直感的に考えれば「そうかもしれない」という反応を喚起するだろうし、だったらそう言えばいい、あるいは実際にリーダーはそのように言っているのではないか、と感じるだろうが、これを理論的、論理的にもう少し突っ込んで考えてみると、そう簡単ではないことがわかってくる。Leslie et al (2023)はその理論的、論理的説明を進めていく。まず、ごく常識的な発想として、リーダーがメリットを主張すれば、従業員のやる気は高まるだろうが、リーダーがデメリットを主張すれば、従業員のやる気が下がるのではないかと考えられる。だったら、リーダーがメリットとデメリットを両方主張してしまったら、やる気を高める効果とやる気を下げる効果が相殺されてしまって効果が弱まってしまうのではないか。だったら、リーダーがメリットのみを主張する方が従業員をやる気にさせる意味では望ましいのではないか、という考えが生まれてくる。

 

他方、モチベーション理論をもう少し見ていくと、従業員がデメリットを認識しており、それを乗り越えることが困難であることがわかったとしても、目指すべき目標が困難であるほど、それを乗り越えようと動機づけられるという考え方もある。これは目標設定理論という理論とエビデンスから導かれる。Leslie et al (2023)は、こちらの考え方に賛同することで、先ほど紹介した「ダイバーシティの推進はとっても困難であるが、それが実現することは組織にとって望ましい」というものを「条件付きレトリック」と呼ぶことによって、新しいレトリックの提案をするのである。ここでいう「新しいレトリック」という表現には若干の注意が必要である。これは、それまでそんなレトリックの使い方はなかったから新しいレトリックの方法を生み出したということではなく、昔からそのような言い方は存在するが、本研究では、いわゆる「Happy Talk」である「価値レトリック=ダイバーシティは素晴らしいというメッセージ」と対応させるための分類として「条件付きレトリック=ダイバーシティは困難を乗り越えるという条件付きで素晴らしい」と言語化してみたということなのである。言語化あるいはネーミングが新しいということである。

 

上記のところまでで、Leslie et al (2023)は、「価値レトリック」に対して「条件付きレトリック」という新しいレトリックのタイプを提案し、後者の方がダイバーシティの現実を反映したものであるし、目標設定理論の観点からも効果的なのではないかというアイデアを提案した。そしてLeslie et al (2023)は、さらにここから興味深い議論を展開していく。それはどういうものかというと、ダイバーシティ推進には条件付きレトリックの方が効果的なのだろうが、リーダーは条件付きレトリックをあまり使いたがらないだろうと主張するのである。この主張は「自己の心理学」の考え方が援用されていると述べている。すなわち、リーダーは、リーダーとしての自分のイメージを傷つけないためにも、自分が従業員に対して発するメッセージにおいて積極的にデメリットに言及するのを嫌がると思われるからである。このことから、Leslie et al (2023)は、この論文の最大のアピールポイントとも言える、逆説的な理論的命題を提案する。それは、「条件的レトリックは価値レトリックよりも使われにくいが、逆に前者は後者よりも効果が高い」という命題である。

 

いったんここまでをまとめると、本論文では、ダイバーシティ推進のためにリーダーが従業員を動機づけるために用いるレトリックの選択肢として、Happy Talkである「価値レトリック」と、新しく提唱する「条件つきレトリック」を比較するというのが主眼である。価値レトリックと条件付きレトリックを比較すると、どちらも、ダイバーシティを実現することは素晴らしいという「価値」の部分は含んでおり、その点では共通している。説得の理論によれば、通常は、「それに価値がある」と主張するのが説得力あるので、その意味では、両方のレトリックも、従業員のやる気を高める要素を含んでいる。しかし、条件付きレトリックのみ「ダイバーシティ実現は困難だ」という現実と、「その困難を乗り越えることができるならばダイバーシティは素晴らしい」という条件を含んでいる点で、両者が異なっている。この違いが、リーダーの実際の発言と、レトリックの実際の効果にどう影響しているのかを理論化し、それを「パラドックス(逆説)」という命題の形でまとめたのが最大のアピールポイントということである。

 

このパラドックス命題は、「ダイバーシティ推進では、条件的レトリックは価値レトリックよりもリーダーによって使われにくいが、逆に前者は後者よりも効果が高い」という理論命題であるが、これは、「リーダーが実際にやっていることと、リーダーが実際にやったほうがよいこと(処方箋)が矛盾している」という意味で「記述ー処方パラドックス」でもある。これは、重要な実践的示唆を含んでいる。それは、「実はリーダーは、もっと良い方法があるのに、それができていないのだ」というのをダイバーシティの文脈で実証したことでもあるからである。これは単に「やるべきことが明確なのになぜかそれができない」ということではない。リーダーが最善だと思ってやっていることよりも、もっと効果的なやり方、けれども実はリーダーが躊躇してしまうようなやり方があるのだが、それは今回の研究を行うことでやっとエビデンスベースで明確になったということなのである。そして、複数の理論を組み合わせることで、なぜそうなるのかのメカニズムを、リーダーの心理、従業員の心理の理論的理解から説明している点も重要な学術的・実践的貢献である。

 

本論文の序論は、上記のストーリー展開と、学術的・実践的貢献、実証研究のさわりの紹介で締めくくっている。まさに、本研究のテーマ設定、問い、主な主張とその理論的なロジック、最大のアピールポイントである「記述ー処方パラドックス」の紹介、本研究の貢献といった内容が、読者に問いかけ、そして答えていくという謎解きストーリーとしてコンパクトにまとまって記載されている。このような形で序論が書けることは、トップジャーナルに論文を掲載する際の重要なスキルであると言えよう。次回は、前回と今回で前半と後半に分けて説明した序論の部分を全体として構造的に眺めることで、トップジャーナルに掲載可能な論文の序論とはどのようなものかをまとめていきたい。

文献(教材)

Leslie, L. M., Flynn, E., Foster-Gimbel, O. A., & Manchester, C. F. (2023). Happy Talk: Is Common Diversity Rhetoric Effective Diversity Rhetoric? Academy of Management Journal, https://doi.org/10.5465/amj.2021.1402

AMJ論文に学ぶトップジャーナル掲載のための研究方法と論文執筆スキル(2)

本シリーズでは、AMJ論文Leslie et al. (2023)を教材として、経営学のトップジャーナルに掲載できるような研究とはどのような研究であり、その研究をどのように論文化していくとトップジャーナルに実際に掲載可能な論文になるのかについて解説している。

論文のAbstract(要約)

初回の最後に、さわりとしてタイトルについてコメントしたが、タイトルの次に読者が目にするのがAbstract(要約)である。要約は論文全体を1段落にまとめたものなので、たいていは論文執筆段階の最後のほうに完成させるものであるので、ここでも詳細には触れないでおくが、Leslie et al (2023)のAbstractは、経営学分野の学術論文の標準的なAbstractとはやや逸脱した構造になっており、全体の半分以上を、この論文で主張するロジックと仮説の説明に費やしている。通常は、目的、理論、方法、発見、考察の要素をバランスよくAbstractに配置して論文の全体像を見せるケースが多いが、Leslie et al (2023)の場合は、本研究で主張する内容とロジックがいちばんのアピールポイントであるがゆえに、その「強み」を最大限にハイライトさせるかたちで記載している。であるから、実は実証調査を4つも実施しているのであるが、そこは強調せずに1文でさらりと触れている程度である。このように研究の強み、論文のアピールポイントを全面的に押し出していくというようなメリハリは重要な学習ポイントである。

 

良い研究であるかもしれないのに、トップジャーナルに掲載できない「残念な」論文のパターンの1つが、いろんな要素を均等に盛り込みすぎることによって、研究の一番のアピールポイントが他の要素に埋もれてしまって分からなくなってしまうというものである。アピールポイントを際立たせるために、そうでない部分をばっさりと切り捨てていくという覚悟と勇気も論文執筆には必要となってくるのである。人間の身体を例にひけば、贅肉だらけで骨格が見えないと、人間の肉体美を表現することは不可能である。骨太の骨格を鍛え、骨格の美しさを際立たせ、その周りに適度に筋肉をつけていくことで美しさを強化することで美しい肉体として知覚されることになる。論文執筆はこのような美の引き出しかたに似ているといえよう。

序論(導入)

では、論文のいちばん最初の導入部分(序論)の解説をはじめよう。この論文の最初の一声は、「ダイバーシティ推進策はあらゆる組織が実践していることであるが、それは必ずしも実際に組織のダイバーシティインクルージョンの実現に役立っていないようだ」という観察と批判である。これはダイバーシティ推進というトピックの重要性と問題点を1言で鋭く指摘することによって、本論文が重要なテーマを扱っていることを読者に知らしめようとしている。論文の第一声(最初の一文)は、まさに読者がこの論文に抱く第一印象を形成する決定的に重要なパートであるので、十分に練った記述で始めるのがよい。Leslie et al (2023)の「あちこちで見られるダイバーシティ推進策が実はあまりうまくいっていないようだ」という指摘は、多くの人が抱いている印象でもあり、奇をてらったものではない。だが、この批判が、本論文全体を貫く「視点」を提供している。つまり、この「視点」から、それはなぜだろうかという問いが生まれ、それに対する反応として筆者の主張や理論展開や仮説の説明が始まり、理論や仮説をを複数の実証調査を組み合わせて注意深く検証し、最後に結論に導いていくという一連のストーリーのアンカーとなっているのである。

 

さて、第一声に続く序章の最初の段落では、組織のダイバーシティ推進の実現には従業員がそれに向けて努力することが必要不可欠であり、その努力を引き出すのがリーダーの役割であることに言及している。この箇所は、最初に提示した「視点」とともに、本研究の学術的、実践的価値の「前提」について語るという役割を担っている。すなわち、最初に発した「あちこちで見られるダイバーシティ推進策が実はあまりうまくいっていないようだ」という視点に対して本研究としてはどう取り組むのかということについて、本研究では、リーダーの役割とそれに反応して努力をするかいなかを決定する従業員の役割に焦点を当てるものであり、そうすることが一定の正当性を持つ理由として、その2つの要素がダイバーシティ推進の実現に必要不可欠なのだからという言明で答えているのである。本論文で展開する「視点」と「前提」は、序論のできるだけ早い段階で明示し、著者と読者の認識を共有しておくべきである。英語で言うならば「we are on the same page」の状態を作り出す。そうでないと、読者が、異なる視点、異なる前提で論文を読み進めていってしまう危険性があるからだ。

 

そして、ダイバーシティ推進を実現するために従業員から努力を引き出すリーダーの仕事の1つとして、従業員に向けたメッセージの重要性、そしてそこで使われる「レトリック」(修辞法)が本研究のメインテーマであることを示唆していく。読者は、なぜレトリックに焦点を当てるのかと思うだろう。これをどのような語りで導入していくかというと、リーダーが「ダイバーシティは組織にとって望ましい」ことを示唆するレトリックを用いたメッセージを従業員に対して発することで、それなりの効果を発揮するという先行研究を紹介したうえで、ここで1つの疑問を投げかけるのである。「そのレトリックは、ダイバーシティの現実を反映していないのではないか」と。つまりLeslie et al. (2023)は、ダイバーシティ推進がなかなかうまくいかず、ダイバーシティ推進によって必ずしも組織が良好な状態になるわけではないというのが学術的にも実務家の間でも共有されている事実なのに、ダイバーシティを手放しで褒めるようなリーダーのメッセージが効果を発揮すると結論づけるのは短絡的でないのかと示唆するのである。

 

常識や通説に疑問を投げかけ、それとは異なる発見を得ていくというのは優れた研究の1つのパターンであるが、本論文では、そのストーリー仕立てを序論の前半で発揮している。このような問いの立て方も、本論文から学べる重要な学習ポイントである。

 

さて、序論の前半部分でテーマの重要性を確認し、常識や通説に対する疑問を投げかけることで読者の思考にゆさぶりをかけ、謎解きが始まったような状況を演出することとなった。これらのテクニックを活用したことによって、この段階ですでにこの分野に興味がある特定の読者を味方につけることに成功している。ただし、謎解きの答えは論文の最後にあるのではない。あくまで学術論文では、謎解きの答えも序論で話してしまう。なぜなら、序論は、論文全体のミニ版でもあるからだ。Abstractが論文全体を一段落で表した要約なのに対して、序論は、もう少し長いスペースをつかって、読者を論文全体にいざなうために行う論文の主張やそのロジックや主な発見の「ハイライト」の提示である。ここで、問いの投げかけから謎解きの答えまで全部話してしまって、読者の反応を見る。読者がこの全体のストーリーを気に入ったならば、それをより詳細に知ることによって、本当にこの研究の主張が妥当なのか、判断したいと思うだろう。具体的にLeslie et al (2023) がどんな謎解きのストーリーを展開したのかは次回に解説する。

文献(教材)

Leslie, L. M., Flynn, E., Foster-Gimbel, O. A., & Manchester, C. F. (2023). Happy Talk: Is Common Diversity Rhetoric Effective Diversity Rhetoric? Academy of Management Journal, https://doi.org/10.5465/amj.2021.1402

AMJ論文に学ぶトップジャーナル掲載のための研究方法と論文執筆スキル(1)

トップジャーナルに掲載されている論文は、大量の投稿論文の中から厳しい審査をくぐり抜けることができたごく少数の論文(多くの場合採択率として5%前後)なので、優れた論文が揃っている。トップジャーナルに掲載されていなくても優れた研究や優れた論文は世の中に多く存在するので、トップジャーナル論文は、優れた論文の「必要条件」ではない。しかし、トップジャーナルに掲載されている論文のほとんどは優れた論文といえるので、トップジャーナル掲載論文は優れた論文の「十分条件」だといえよう。であるから、研究者として自身の研究成果をトップジャーナルに掲載させようと努力することは自然なことであるし、トップジャーナルに論文を載せることを目標として研究をデザインして実践することは優れた研究を実践する際に好ましいことである(ただし、そのような態度が常に必要だというわけではないというのが十分条件という意味である)。要するに、トップジャーナルに掲載できる論文を作成するということは、優れた研究を生み出すことを意味している。

 

そこで本シリーズでは、経営学のトップジャーナルに掲載できるような研究とはどのような研究であり、その研究をどのように論文化していくとトップジャーナルに実際に掲載可能な論文になるのかについて、やや予備校的ではあるが無料講座として解説してみたい。

教材

今回は、実際にトップジャーナルに掲載された論文を教材とし、論文の構造や研究内容を紐解きながら学習していく。教材とするのは、Academy of Management Journalという経営学分野のトップジャーナルに掲載された次の論文である。

 

Leslie, L. M., Flynn, E., Foster-Gimbel, O. A., & Manchester, C. F. (2023). Happy Talk: Is Common Diversity Rhetoric Effective Diversity Rhetoric? Academy of Management Journal, https://doi.org/10.5465/amj.2021.1402

 

以下、Leslie et al. (2023)と表記する。入手可能な方は、まずはこの論文の全体を読んでみることをお勧めする。気になるところはマーカーで印をつけ、その時に感じたことはメモをとっておくようにしよう。

本論文から学べる点

Leslie et al (2023)は、トップジャーナルに掲載可能な優れた論文とは何かを理解する上で重要なポイントがたくさん含まれており、教材としても優れた論文である。とりわけ、以下のようなポイントが学べるので、それを次回以降解説していきたい。

  • テーマ設定と問いの立て方
  • なるほどと思わせるもので記憶に残る主張
  • 既存理論の使い方、本研究の理論の構築の仕方
  • 妥当性の高い実証研究の実施の仕方、組み合わせ方
  • 学術的のみならず実践にも役立つ研究の仕方

初回である今回は、導入として、「Happy Talk: Is Common Diversity Rhetoric Effective Diversity Rhetoric?」タイトルについて少しコメントしておこう。

論文のタイトル

論文のタイトルは、論文の仕上げの最後の段階まで悩ったり迷ったりすることも多いが、一番最初に読者の注意を惹くためにもとても重要である。トップジャーナルを含む多くの論文では、主題と副題を「コロン」でつなげるケースが多く、前半が長く、後半短いケース、その逆のケースがあるが、本論文は、「Happy talk」と前半に短いキャッチフレーズを配置する形式となっている。メインのタイトルが「Is Common Diversity Rhetoric Effective Diversity Rhetoric?」という問いになっている。「Happy Talk」というキャッチフレーズがあるバージョンがと、それがなく、論文のタイトルが「Is Common Diversity Rhetoric Effective Diversity Rhetoric?」を比べてみると良い。印象が大きく異なるのではないだろうか。キャッチフレーズがないと、なんとなく理屈っぽいというか、面白みがなさそうな論文に見える。それが「Happy Talk」というキャッチフレーズをつけただけで、なんとなく面白そうなイメージに変貌するのだ。「Happy」という語がサブリミナルで読者を微笑ませるのかもしれない。

 

さて、「Is Common Diversity Rhetoric Effective Diversity Rhetoric?」というタイトルの答えはタイトル自身にはないが、なんとなく、それに疑義を提示しようとしている論文なのだなという察しはつく。一般的に使われる「レトリック」は、ダイバーシティ推進の文脈でも有効なのかという問いで、その「一般的に使われるレトリック」を「Happy Talk」で表現している。つまり、通常、リーダーは、人々を勇気づけるために、人々がハッピーになれるような絵を描くようなメッセージを発することが有効であると多くの人は思うだろう。多くの人は、やけに話が抽象的で面白みがなかったり、ネガティブなことばかり発するリーダーよりも、私についてこれば明るい未来が待っているというように自信を持って語るリーダーについていきたいと思うだろう。でも、ダイバーシティの文脈でもそうなのだろうか?このような問いを発せられれば、少し考えずにはいられない。もしかしたら違うのではないか。答えはなんだろう。論文を読んでみよう、と思わせるのがポイントなのである。

 

学問というのは、問いによって学ぶことでもあるように、「問い」とか「質問」というのは、問われて初めて重要なことに気づくといったように、知的営みの根本的な要素である。例えば、「あなたはローソンのロゴを描けますか」と聞かれたら、自分はこれまで何万回もローソンのロゴを見てきたはずなのに、ちゃんと覚えていないのだな、人は見ているようでいて見ていないものがたくさんあるな、と気づくことができる。本論文のタイトルで発している問いも、リーダーが組織を良くしていくためにメンバーを励ますメッセージに使うレトリックで大切なことは大体決まっていて、それに疑問を挟む余地は特にないと素通りしてしまうようなトピックに対して、「いや待てよ、そうではないのかもしれないな」と思わせる役割を果たしているのである。そして、論文を読んだ結果、読む前とは異なる視点を身につけた自分がいて、それを実践に使ってみるとうまくいくように思えてくる。つまり、読者の者の見方考え方に影響を与える研究が、優れた研究の条件の1つである。

 

今回は触りだけであったが、次回以降は、本文の内容に入って詳細に解説していく。

因果複雑性の経営学(番外編1:必要条件の分析方法)

因果複雑性の経営学では、主に集合論に基づく数学的発想を用いることで、何と何が組み合わさるとどうなるのかといったように、結合性、等値性、因果非対称性などに注意を向けるアプローチであることを説明してきた。その中でもとりわけ注目を浴びる結合性や等値性は、主にある要素が結果をもたらすための十分条件を扱うものである。十分条件は、要素の単一もしくは組み合わせが生じれば必ず結果を生み出すというもので、これは必ずしも1通りとは限らないことが等値性のポイントである。しかし、結果を生み出すもう1つの条件である「必要条件」は、因果複雑性の考えの中でも非常にドラマチックである。なぜならば、その条件が欠けると、結果が一切生じないということを示しているからだ。いろいろな要素があるとしても、それらがどのように組み合わさろうが、必要条件となるただ1つの要素が欠けているだけで何も生じない。これは、TOC(制約理論)でも着目される「ボトルネック」という表現で言い換えることもできる。

 

ボトルネックというのは、そこに集中し、それを改善するだけで状況が一気に変化する可能性があるという特徴を持っているため、経営学にとっても非常に重要なコンセプトである。であるから、方法論的にも、どのようにして必要条件やボトルネックを適切に検出するかというのは注目の的とされる。今回議論したいのは、この必要条件の分析は、必ずしもこれまで紹介してきた集合論に基づくアプローチでなくても可能だし、集合論アプローチでうまく検出されない問題を改善する方法があるということである。通常の因果複雑性の経営学でもっとも使われる分析が、質的比較分析(QCA)で、要素が連続的に変化するような場合は、QCAの数学的基礎をファジー集合論に拡張したfsQCAが用いられる。しかし、QCAは十分条件の検出には優れるが、必要条件の分析にはより優れた方法があると主張するのが、Dul (2016)やVis & Dul (2918)であり、彼らが提唱する方法が、必要条件分析(necassry conditions analysis: NCA)である。

 

QCAはその用語のとおり、質的な比較を通じて結論を導き出す分析なので、ある条件が生じている集合に、結果が生じている集合が含まれるかどうかが必要条件か否かの判断材料となる。そして、fsQCAでは、この包含関係の判断に曖昧性を許容し、完全に含まれる、完全に含まれるの間に、どちらかというと含まれる、どちらかというと含まれないとうような状況を設けて、数量的な連続性をうまく活用しようとする。しかし、質的比較分析である以上、基本的には、ある条件が生じているか否か、結果が生じているか否かという質的な違いの比較がベースとなっていることは否定できない。しかし、本物のボトルネックを想像すれば分かるとおり、ネックの太さには連続性があり、ものすごく細いケースからある程度太いケースがある。けれども、それが結果が生じることの障害になっているという点ではボトルネック(必要条件)であるに違いない。

 

Dulらによれば、NCAの長所は、ファジー集合のようなデータはもちろんのこと、通常の数量的なデータでも必要十分条件かどうかの分析が可能であるというところである。そのために、より厳密かつ詳細にデータを吟味することができ、必要条件か否かの判断をfsQCAよりも適切に行うことが可能である。ここでいう「適切に」というのは、分析によって、必要条件ではないのに必要条件であると結論づけてしまう危険性(第一種の誤り)とか、必要条件であるのにもかかわらず必要条件でないと結論づけてしまう危険性(第二種の誤り)を最小限にするという意味である。とりわけ、NCAでは、ある条件が結果が生じる必要条件である「程度」をより正確に判断できる。程度というのは、例えば「ある条件の値がどの程度まで上がらないと結果が生じないか」とか「ある条件は、どの程度の結果が生じるために必要なのか」とか、この2つを組み合わせて「ある条件の値がどこまで上がることが、どの程度の結果が生じるために必要なのか」といった結論を導くことである。

 

NCAの手法を直感的に説明すると、条件も結果も連続変数であるとした場合に、この2変数を散布図で表現したものをイメージする。そしてNCAでは、その散布図上で、データが全く存在しないエリアと、データが存在するエリアとを区別する。そして、そのエリアの位置や大きさによって、条件が必要条件であるかどうかを判定する。必要条件が存在する場合の典型的な例では、散布図の左上に三角形の空白エリアができる。このエリアの意味を考えてみよう。これは、ある条件が一定の値の範囲内(例えば、とても低い状態から中くらいに低い状態)においては、ある条件以上の結果がまったく生じていないことを意味する。一方、散布図の中でデータのあるエリアの意味は、ある条件が一定の値よりも大きい場合、非常に低い結果も高い結果も併せて、とにかくなんらかのデータがあるということである。これは、その条件が一定の値以上であるからといって特定の値以上の結果が生じるわけではない(十分条件ではない)が、特定の値以上の結果が生じることがあるという意味である。これら空白エリアとそうでないエリアの関係性を総合して道きだせる結論は、先ほども挙げたように「ある条件の値がどこまで上がることが、どの程度の結果が生じるために必要なのか」というものなのである。

 

このようにNCAは、fsQCAよりも精密に必要条件の有無や程度を吟味することが可能であるため、通常fsQCAでも最初に必要条件分析をすることが慣例になっているが、NCAとfsQCAとを組み合わせて使うことによって必要条件、十分条件などの判定においてより適切な結論を導くことができるとDulらは主張するのである。

文献

Dul, J. (2016). Identifying single necessary conditions with NCA and fsQCA. Journal of Business Research, 69(4), 1516-1523.

Vis, B., & Dul, J. (2018). Analyzing relationships of necessity not just in kind but also in degree: Complementing fsQCA with NCA. Sociological methods & research, 47(4), 872-899.

 

因果複雑性の経営学(8)戦略論分野の研究紹介(ビジネスモデル研究ー後編)

戦略論におけるビジネスモデル研究を、因果複雑性の経営学の考え方に従って行ったのがLeppänen, George, & Alexy (2023)である。前編では、Leppänenらが、ビジネスモデルを構成する性質やその他の要素がどのように組み合わさることで企業業績を高めるのか、あるいは高めないのかについて、結合性、等値性、非対称性を考慮した構成論アプローチによって理論展開と仮説導出を行ったプロセスを解説した。とりわけ社会科学では理論構築だけでなくその妥当性を実証研究で示していくことが求められるため、因果複雑性の経営学を用いなければこのようなアプローチは不可能であるといってもよい。ビジネスモデル論の先行研究において、企業業績との関連でビジネスモデルの新規性にのみ焦点が当たりがちであったという事実は、線形代数的・方程式的思考に支配された経営学の範囲内で行ってきたからだといえる。

 

ビジネスモデルの内側と外側のさまざまな要素が組み合わさって企業業績に影響を与えるといっても、それを重回帰分析のような線形代数で理論的・実証的に表現してしまうとすでに不適切な方向に進んでしまっている。確かに重回帰分析は複数の要素を加えることができるが、それらは線形結合なので、本シリーズでも述べてきたように、「還元主義」「線形性」「対称性」「純効果主義」の呪縛から逃れることができない。重回帰分析の偏回帰係数は、他の変数が不変の状態でその独立変数のみ1単上下させると従属変数はどう反応するかということなので、まさしく、ビジネスモデルの創造性が上下すると、他の条件が同じというもとで企業業績はどう反応するか、ということになってしまい、組み合わせの議論が消えてしまう。重回帰分析で組み合わせを表現できるのはせいぜい2変数の交互作用くらいで、結合性、等値性、非対称性は検証できない。それに対してLeppänenらの分析アプローチは、因果複雑性の経営学と親和性の高い集合論に基づいたfsQCAを用いたものだったのである。

 

ではLeppänenらの実証分析の解説に移ろう。まず、分析結果と結論に行く前に注意点を述べておくと、因果複雑性の経営学の実証研究は、集合論の数学を用いて複雑なものを複雑なまま扱うようなアプローチでもあるので、かなり込み入った分析結果となり、解釈も難しく、結果や結論が明瞭でないということが起こりえる。また、頻度論の統計学を用いた仮説検証ではないので、サンプル特性から母集団を推定するという統計的推論もできない。仮説検証の論理と結論の明瞭性については、分析においてごく少数の変数間の線形的な関係性に還元する「還元主義」「線形性」を志向する従来の経営学に軍配が上がる。その点では、fsQCAなど因果複雑性の実証分析の手法はまだまだ発展・改善の余地があるといえるかもしれない。実際、Leppänenらの分析では、企業業績に影響を与えるビジネスモデル関連の組み合わせとして20パターンもの異なる組み合わせ方が特定された。20パターンはそれぞれ異なる組み合わせに違いないが、それらをすべて独立したものとして解釈して統合的に理解するのは困難であり非現実的であるため、Leppänenらは、20パターンの組み合わせを、便宜的に以下の5つの大まかなタイプに分類した。

 

1つ目は、新規性がビジネスモデルの中核を占める「新規性中心型」、2つ目は、新規性を付加することでビジネスモデルの効果を高める「新規性周辺型」、3つ目は、新規性があるケースもないケースもある「新規性中立型」、4つ目は、周辺要素としての新規性がない「新規性回避型」、5つ目は、中核要素として新規性がない「新規性恐怖症型」である。これらの便宜的な分類によってビジネスモデルと企業業績の関係を解釈すると、まず、企業業績を高めるのに新規性のみでは十分ではないこと、ただし、技術が新しい状況では、非常に高い業績をあげるためには新規性は必要条件であること、新規性は、競争が激しい業界において効率性と差別化戦略と組み合わせると非常に効果が高いこと、新規性のあるビジネスモデルは、業績を高めるための別の条件が状況によって正反対であったりすること、そして新規性のないビジネスモデルであっても企業業績を高めることができることなどが明らかになった。

 

Leppänenらがビジネスモデルの新規性に偏重した先行研究を批判し、本研究の最も基本的な主張であった「企業業績を高めるのに、ビジネスモデルの新規性のみでは不十分」であることは実証データでもクリアに確認された。また、新技術で非常に高い業績という条件を除けば、ビジネスモデルの新規性が高業績の必要条件あるわけでもないことも分かった。これには2つの含意がある。まず、ビジネスモデルというのは、複数の要素が組み合わさったシステムなので、新規性のみに絞った議論、あるいは他の要素単独でどうかということを吟味すること自体、不適切であるということである。組み合わさったシステムとして分析することは必要不可欠なのである。とりわけ、新規性と効率性の関係は、補完関係にある場合と代替関係にある場合と両方あることが実証研究では分かった。これは、企業が競争の激しい業界において差別化戦略をとるかどうかで変わってくると思われる。

 

次に、ビジネスモデルの新規性は、新たな「価値創造」には大きく寄与するが、それを自社の業績につなげる「価値獲得」には不得手であり、価値獲得に優れているのは、ビジネスモデルの効率性、ロックイン、補完性などの他の要素であることである。企業が価値創造と価値獲得の両方を通して業績を上げるためのビジネスモデルを構築するには、新規性と他の要素を組み合わせていくことこそが重要なのである。そして、Leppänenらは、本研究から、企業がどの業界で競争するかといった戦略決定の話と、どのようなビジネスモデルを通して戦略を実行するかは別々に考えることが有効だということも指摘する。競争環境の激しい業界で差別化戦略を採用し、そこで新規性と効率性を組み合わせたビジネスモデルを構築することは、常に企業業績を高める十分条件だといえるが、その他の戦略選択とビジネスモデルの組み合わせであっても企業業績を高める経路があるという等値性も存在すると主張する。

 

以上、かなり複雑な結果の説明になってしまったが、今回紹介したLeppänenらの研究によって、ビジネスモデルが企業業績に与える因果複雑性が完璧に説明できたというにはほど遠いのが現状であろう。しかし、この研究が、まさに今後同様の理論展開や実証分析を通して、さらにビジネスモデルについての理解を深めることにつながるエポックメーキングな研究であることには間違いない。同様の研究が行われ、その成果が蓄積されれば、学術的にも実務的にも大変有意義な知識体系が構築されていくはずである。ビジネスモデル研究においてその第一歩を踏み出した金字塔であるともいえるだろう。

文献

Leppänen, P., George, G., & Alexy, O. (2023). When do novel business models lead to high performance? A configurational approach to value drivers, competitive strategy, and firm environment. Academy of management journal, 66(1), 164-194.