皆様ご無沙汰しております。
「ブロガーとは何か」を突き詰めることから逃避し続け幾星霜。今年も「Twitter映画感想屋」の、年に一度のブログ更新の季節がやってきました。
毎年言ってる気がしますが、今年は更に様々な悲しく、悲惨な事が世界で噴出し、日本でも旧来の膿みが一気に露わになった年でした。来年こそ、それらの課題に向き合い、解決へと年になる事を期待したいと思います。
そうなる事で映画という娯楽もより豊かになると思うのです。
というわけで、2023年に自分が出会った映画の中から、「良かったな」という映画を10本選ばせてもらいました。「あれがない」「これもない」という方もいらっしゃるでしょうが、ご容赦いただいて、しばしおつきあいくださいませ。
10位「正直政治家 チュ・サンスク」
「正直政治家 チュ・サンスク」。死んだ祖母の物語を背景に四選目指す国会議員チェ・サンスクは、手練手管やコネクションの為に嘘を駆使して選挙戦を有利に進めていた。だが実は生きてた事を隠していた祖母の願いにより、突如嘘がつけなくなる事から始まる大騒動を描く快作コメディ。これ最高じゃん! pic.twitter.com/Hq9OnmIHf4
— 窓の外 (@madosoto) 2023年1月2日
<選考理由>
2023年新年最初に見た映画はシネマート新宿の特集上映で見た本作。コレが腹が捩れるほど爆笑。初心を忘れた保守系政治家が嘘をつけず国民への本音をダダ漏れさせていく展開に「社会映画としての批評性」まで獲得し、出てくる一言一言に笑いが止まらない。個人的に大変幸先のいい映画でありました。
9位「雄獅少年/ライオン少年」
「雄獅少年/ライオン少年」。噂に違わぬ傑作!幼少から病弱でひ弱な少年チュンは村の獅子舞大会で出会った少女から獅子の頭を譲り受けた事で獅子舞を志す。目標は両親が出稼ぎする広州で行われる全国大会。スポ根的王道作品ながら途中物語は変奏を加え、それが物語の主題対象を一気に拡げた脚本見事! pic.twitter.com/NPwrWEMmr1
— 窓の外 (@madosoto) 2023年5月30日
<選考理由>
伝統演舞である獅子舞を材に採った青春スポ根モノとして始まりながら、ジャンルを越えた変奏で物語を更なる高みへと飛翔する多段ロケットのような物語構成で、観客を見た事ない地平へと連れていく中国発傑作CGアニメーション。
8位「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」見た。間違いないものを見せてくれると信じてはいたが、予想以上に間違いない傑作。宇宙のはぐれものが集った独立愚連隊の物語がMCUの波に揉まれながらたどり着いた最終章は、予想を超えつつ大納得の最高の終着。それぞれのクルーの行く末に幸あれ。 pic.twitter.com/PBIcUCjHHJ
— 窓の外 (@madosoto) 2023年5月3日
<選考理由>
シリーズ第1作で多くの映画ファンを沸かせた傑作ぶりをみせた宇宙の独立愚連隊の旅は、その後MCUの荒波に揉まれ(製作も紆余曲折ありつつ).クルーたちは時に散り散りになりながらも三たび戻ってきた。彼らの旅をファンも大納得のそれぞれの終着へと導いた製作者たちに、最大限の賞賛と敬意を。
7位「ハント」
「ハント」。韓国社会派映画でお馴染み、全斗煥政権下の80年代初頭、国の中枢KCIAの前身・国家安企部を舞台にしつつ、その時代を娯楽映画方向への燃料にして「大統領暗殺計画に絡む裏切り者炙り出すサスペンス」として獲得した異様な熱量を、歴史への「憤怒」で物語を更なる高みへと登らせる傑作活劇。 pic.twitter.com/Y2SuhYR6Ro
— 窓の外 (@madosoto) 2023年9月30日
「ハント」感想で、今更気づいた事実誤認。国家安全企画部はKCIA(中央情報部)こそが前身で、その後に国家情報院に変わっていくのでした。お詫びして訂正します。 https://t.co/WJOxp9Jlvx
— 窓の外 (@madosoto) 2023年10月18日
<選考理由>
重厚な社会派テーマを扱いながら、俳優の初監督作品とは思えぬ手際のスピード感とテンションで娯楽作品として畳み掛け、政治スリラーとして複雑なプロットを取りこぼす事なく描き切る、今年の韓国映画の中でも頭ひとつ抜けた驚嘆の1本。
6位「映画 窓ぎわのトットちゃん」
「映画 窓ぎわのトットちゃん」。観客はヒロインの未来を知っている。昭和15年。小学1年のトットちゃんが転入したユニークな教育行うトモエ学園で出会った小児まひの少年・泰明ちゃんと共有した、楽しい学校生活と次第に2人の「世界」が暗く変わりゆく社会の「記憶」を彼岸と此岸から見つめるド傑作! pic.twitter.com/jQ3lYp5AdA
— 窓の外 (@madosoto) 2023年12月14日
<選考理由>
おそらく今年1番のダークホース。予告編の内容からは想像だにしなかった傑作。大人たちの努力によってなんとか維持されていた「多様性の保たれた豊かな教育の場所」が戦争の激化によって次第に奪われていく様を、黒柳徹子が「幼少期の記憶」を掘り起こして描いたノンフィクション物語を原作に、見事に掬い取って描き出したアニメーションに、映画ファンの誰もが打ちのめされた。かく言う私も、である。脱帽。
5位「SHE SAID シー・セッド その名を暴け」
「SHE SAID」。参った。NYタイムズの女性記者2人が、大物プロデューサーの俳優・スタッフの女性達への性加害とそれを何十年も温存させた「システム」に切り込む。やがて世界動かす事になる最初の一歩の、苦難と苦悩と分厚い壁を実際の音声や被害者本人まで登場させリアルに描き切る胆力溢れるド傑作。 pic.twitter.com/gbO838OzBf
— 窓の外 (@madosoto) 2023年1月15日
<選考理由>
日本でもようやく浸透し始めた性加害告発。ハリウッドの超大物プロデューサーの、「業界のアンタッチャブル」であった長年に渡る性加害を、慎重に事を進め、被害者の証言を粘り強く引き出し、世界に性加害告発の新たな潮流すら生んだ、2人の女性記者による激震スクープへと至る実録ドラマ。実際の音声を交え、そのあまりに高く分厚い壁、性被害告発の困難さをこれでもかと描き出した点が圧巻。一見を勧めます。
4位「ジョン・ウィック:コンセクエンス」
「ジョン・ウィック:コンセクエンス」。開幕、響き渡る拳の音。一匹の飼い犬の死キッカケにはじめ巻き込まれ、やがて周囲を巻き込みつつ、憤怒と迷惑を振りまきながら迷いなく迷走し続けた男の旅は、更に真田広之やドニーさんも巻き込んで哀しくも美しい夜明けと共に終着を迎える最高の最終章。傑作! pic.twitter.com/jTiXfULurX
— 窓の外 (@madosoto) 2023年9月24日
<選考理由>
一匹の愛犬の死から始まった、引退した「伝説の男」の復讐劇は、やがて(裏社会の)多くの者の運命を巻き込み激変させながら突き進んできた。ついには。真田広之、そしてドニー・イェンを引っ張り出し、見せ場に次ぐ見せ場、惜しみないアクションを観客の眼前に流し込み、その奔流の果てにたどり着く潔い終着。4部作が終わる寂しさすら感じる暇を与えない怒涛の活劇の嵐に、大変満腹である。
3位「バービー」
「バービー」。スゲエ。まず大前提を言うと「あっカルいチョー面白喜劇」である事。世間にある「政治的正しさ押し付けポリコレ説教映画」という誤解は見ればぶっ飛ぶ。その上でG・ガーウィグ監督は「男らしさ/女らしさ」の「憑き物落とし」を試みる。結果「男にも刺さる映画」になる離れ業の大傑作。 pic.twitter.com/IufuTaZQba
— 窓の外 (@madosoto) 2023年8月13日
<選考理由>
現実世界を反転させたような、「バービーランド」という「女子にとっての夢の世界」を舞台に、現実の「男性優位社会意識」が持ち込まれる事で起こる大混乱を描いた喜劇は、グレタ・ガーヴィグの見事な手綱によって男性観客が「そういう事だっのか!」と刺さる人続出の傑作となった。「女子の理想世界」は現実世界の合わせ鏡であり、バービー世界のクィアな存在はどういう扱いになったかまで読み込むと、この映画の深みに唸らされる事請け合いであり、死ぬほど笑って多くの学びを見る者に与えてくれる、深みを持ったエンターテイメントである。
2位「タタミ」
#東京国際映画祭 「タタミ」。柔道イラン代表レイラは世界選手権に出場し絶好調。代表コーチとのチームワークで勝ち上がるが、柔道協会から棄権の要請。世界大会でイスラエル代表と戦わせないという政府からの圧力と脅迫の中試合続けるレイラとコーチの相剋と決断描く社会派スポーツ映画の傑作。号泣。 pic.twitter.com/CQJlQir0AM
— 窓の外 (@madosoto) 2023年10月27日
<選考理由>
今年の東京国際映画祭で出会った映画。イランは、スポーツの代表選手にすら服従を強要する。政府に批判的な者は、国際的な評価を得た映画監督すら国内の作品上映を禁じられ、政府の指示に従わなかったスポーツ選手は亡命を余儀なくされる。そんな実例を基に、ジョージアとアメリカ共同で製作されたこの映画が描く、柔道の代表選手とコーチという立場の違う2人の女性の苦悩と相剋に、自分は大変心揺さぶられた。
この傑作が、1日も早く日本の映画館で配給される事を祈っている。
1位「ソフト/クワイエット」
「ソフト/クワイエット」。幼稚園教師のエミリーは、平凡な白人女性同士で公に出来ない「多様性社会への不満」を吐き出す会合を主催。場は盛り上がり河岸変える途中起きた些細な揉め事。そこから始まる「素朴な差別」の共有が生み出す「邪悪」と「最悪」を全編ワンカットで描き出す92分。胸糞ド傑作。 pic.twitter.com/mdOzf3Poyk
— 窓の外 (@madosoto) 2023年5月24日
<選考理由>
今年最も深く深く自分の心に突き刺さり、未だに刺さったまま抜けない映画である。
実を言えば。「愉快で楽しい映画」をあなたがお望みならばこの映画はお勧めしない。この映画で描かれる「ソレ」は、はっきり言って不愉快で醜く忌まわしい。
この映画に出てくる、普通で、平凡で、穏やかに見えた女性たちが、次第に変貌していく恐怖。その真ん中にある「なにか」を描いている。
しかし、忘れ難い「体験」として今も自分の中にある。
だが。この映画が描いているソレは、とても大事なことでもある。
この映画は。
見ている側に「あなたががどんなに取り繕ってみても差別は差別である事、そして「最終的に差別により生まれた憎悪が行き着く先」を逃げずに描いているのである。
時に正視に耐えない場面が続くこの映画は劇薬だが。しかし。人が時に目を逸らしてしまう大事な事を教えてくれる。
この映画がくれた「体験」と、それに付随する「薫陶」を、これからも僕は忘れずに生きていこうと思っている。