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45
これでお兄ちゃんはあたしのもの……。
あたしのものだよ。
ごめんね。
会いになんて来れないよね。
だって、会ったらばれちゃうもん。
全部、最初から知ってたよ。
あたしが最初にお兄ちゃんを見つけたんだよ。
お兄ちゃんはあたしにメールなんて出してない。
だってあたしは、メル友募集なんて書き込んでないんだもん。
あたしは全部見ることが出来たの。
すぐわかったよ、お兄ちゃんだって。
チバなんて名前付けて、お兄ちゃんらしいよね。
お兄ちゃんがあの人やっつけてくれて、あたし嬉しかった。
お兄ちゃんはずっとアイリの味方だもんね。
お兄ちゃん。
ずっと嘘ついててごめんね。
大好き。
――大好きだよ、お兄ちゃん。
終
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43
「……チバ?
チバって根岸線なんだよね?」
「アイリ!!
どこにいたの!
大丈夫!?」
「そんなのいいからー!
根岸線だよね?」
「そうだけど……。
アイリ、大丈夫なの?」
「あってたー」
「アイリ?」
「来たよ」
「来た?」
「チバんちの近く」
「近く?」
「うん」
「どこにいるの?」
「駅……かな」
「駅? どこの?」
「ないしょー」
「どこにいるの?」
「内緒なのー!」
「アイリ?」
「………」
「………」
「ごめんね。
アイリ、もうダメかもしれない……」
「アイリ?」
「ごめんね……」
「………」
「………」
「ねぇ、アイリ。聞いて。
僕、好きな子と一緒にしたい事があったんだ」
「……どうせ、えっちい事でしょ?」
「チバさんはそんなキャラではありません」
「チバは、思いっ切りそういうキャラだよね」
「一緒にね、二人きりで月を見たいんだ」
「――月?」
「そう。
誰も来ないビルの屋上から、月を眺めるんだ。
アイリと僕と、あとは猫でもいればいい。
誰かに呼ばれても、下で何が起きても僕らには関係ない。
いっぱいバカな話をするんだ。
小学校の時した告白とか、度胸試しで飛び降りた堤防とか、二人乗りの自転車で行った冒険とか。
猫を抱いて、アイリの手を握って、月を見上げながら色んな話で笑うんだ。
それだけだよ。
アイリ。
きっと悪いことなんてどっか行くよ。
アイリ……。
月が綺麗だよ」
「………」
「……アイリ?」
「うん……すごく、綺麗」
「………」
「チバ?」
「うん?」
「……あたしね、いつも自分じゃない感じがするの。
あたしじゃなくて、別のアイリって子がいるんじゃないかなって。
その子が悪い子なの。
あたしとは違うの」
「………」
「でも、そう思いたいだけかもしれない。
あたしはアイリで、アイリはあたしなんだよね」
「………」
「ねぇ……チバ」
「……ん?」
「あたしもね、一緒に行きたいとこあった」
「行きたいとこ?」
「うん。
あたしのね、昔住んでた町」
「………」
「チバと一緒に……暮らせたらいいな」
「僕と? それはやめといた方がいいよ」
「そんな事ないよ」
「そんな事あるよ」
「チバじゃなきゃヤなんだよ……。
嬉しくないの?」
「そりゃ、嬉しいけど……」
「きっと生きていけるよ。
家なんかなくたっていいよ。
車で寝ればいいよ。
無理なら誰か泊めてくれるよ。
いつか、チバと一緒に行きたいな。
海とか見るの。
寒いから見るだけね。
あたしの小学校、たんぼの真ん中にあったんだよ。
信じられる?
神奈川って、いなかなんだね。
夜中にふたりで忍び込んで、あたしの教室を見てまわるの。
廊下とか、手をつないで歩くんだよ。
ここが好きだった音楽室とか、ここで告白されたとか、話しながら歩くの。
渡り廊下を抜けて校庭に出たら、鉄棒したり、ブランコ乗ったりするんだ。
ここには子猫を埋めたとか、この木に登ってたら友だちが落ちたとか。
バスケの大会が終わったあと、あたしだけ泣けなくてクラスの子に囲まれたことや、水泳大会に生理で出れなかったこととか話すんだ。
校庭のまんなかでキスしてほしいよ。
チバ、ずっと一緒にいてよ」
「……アイリ」
「うん」
「大好きだよ」
「うん……」
「………」
「眠いな……」
「アイリ……」
「あたし、そろそろ寝るね。チバ」
「……うん、ここにいるよ」
「終わりって、こういうのなのかな?」
「……わからない。
終わりなんて、あるのかな?」
「きっと、これが……終わりだよ」
「教えてよ、アイリ」
「チバ、大好きだよ……」
「教えてほしいよ、アイリ」
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42
「……チバ、げんき?」
「アイリ!」
「ん?」
「大丈夫なの!?」
「アイリは大丈夫だよ。
チバはおかしくなっちゃった?」
「僕は……元気だよ」
「そっかー。今日もひきこもってた?」
「アイリ、今どこにいるの?
これ、外?」
「うん」
「ちゃんとあったかくしてる?」
「うん……」
「アイリ?」
「チバ……」
「どうしたの?」
「……ごめんね。
あたし、人を殺しちゃったかもしれない」
「―――!!」
「ごめんね……」
「どうして……?」
「だって……最悪だったんだよ?」
「………」
「逃げたかったの……」
「……うん」
「部屋にあった薬、ぜんぶお酒の中に入れたんだ。
そのガイジン、もうイっちゃってたからふつうに飲んだよ。
そしたらベッドに倒れこんで動かなくなっちゃって。
すごい汗かいてた。
なにか吐いて震えだして。
怖くなって部屋から出たの」
「そっか……」
「ごめんね、チバ……」
「………」
「ごめんね……」
「………」
「………」
「なぁ、アイリ、遊園地行こう!
ジェットコースター乗ったり、ソフトクリーム食べたりしよう!」
「……チバ?」
「観覧車も乗るよ!」
「観覧車?」
「そう! ポップコーンとか食べながら一緒に遊ぶんだよ!」
「……楽しい?」
「当たり前じゃん!
一緒にお化け屋敷で走り回ったり、メリーゴーランド箱乗りしたりすんだよ。
超テンション高いよ?」
「チバ、アホだもんね」
「チバはかしこい大人です」
「それは間違ってるよね」
「ジェットコースターとか、観覧車とか、アイリと乗りたいよ。
行こうよ、遊園地!」
「遊園地……」
「そう、遊園地〜!」
「……チバとなら、楽しめそうな気がする」
「そうでしょ? 行こう!」
「うん、わかった。
行くよ。
いつか、きっとね」
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40
「アイリ?」
「えへへ」
「アイリ! どうしたの!?」
「からだ、おかしいの」
「おかしい?」
「うん。あたま、ふらふらする……すごくあついし」
「なんかされた?」
「あんま、おぼえてない」
「薬とかは?」
「わかんない」
「注射とかされてない?」
「わかんない」
「アイリ……」
「ゆめのなかに、いるみたい。
チバ、会いにきてよ」
「………」
「ねぇ、聞いて。
聞いてる? チバ」
「……うん」
「あたしが寝てるとこに、知らない人が連れられて来たんだ。
細くて白くて生きてるって思えなかった。
裸で目隠しされてて、手も縛られてたんだ。
あたしにね、舐めろっていうの、その人のをさ。
怖かったからあたし舐めたよ。
汗ともどした時の匂いがしてさ、気持ち悪かったよ。
どのくらいそうしてたのかな。
でも、全然立たないんだ。
あいつが来て、お前もう壊れたんだな。
もういいよなって言ってその人の顔をつま先で蹴ったんだ。
なんか自転車が倒れるみたいに、その人、床に倒れたんだよ。
あたし、怖くて逃げたんだ。
ベッドの陰で震えてた。
バカ、アイリ怖いのか?
怖くないだろ?
俺はお前を大事にしてるだろ?
痛くなんかしないだろ?
――って言いながら、その人の鼻に何かを突き刺したんだ。
すごい声がして、あたしは耳をふさいだんだよ」