新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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アミュレット・ホテル

警察の介入が一切なく、偽造パスポートでもグレネードランチャーでもルームサービスでお届け可能な犯罪者御用達ホテル。そこでは守るべき2つのルールが存在する。①ホテルに損害を与えない。②ホテルの敷地内で障害・殺人事件を起こさない。そんな絶対的なルールが破られる時、ホテル探偵が独自の捜査で犯人を追い詰める。

 
本格ミステリとしての精度が非常に高い作品集。
 
彼女にしては特殊設定は非常に緩いものではあるけれど、
その分、純粋に本格としての作り込みが割り増しされている印象。
作者の本格力をまざまざと魅せ付けてくれる好編になった。
 
ベストはやはり最初の表題作だろう。
本格としての攻め手が実に豊か。
複層のミスリードで読者を翻弄し、ロジックで導く。
密室物は動機がおざなりになることが多いものだけど、
そこにも意表を突く回答が用意されている。
短編とは思えないくらいの盛り込み具合が素晴らしい。
 
次点は「タイタンの殺人」かな。
ハウが解かれることで、潜んでいたホワイも同時に解き明かされる。
 
残りの二作品も間違いなく秀作。
 
これだけの秀逸な短編が揃ったら、文句なく採点は8点。
 

意味がわかると怖い4コマ 2巻

 
まぁ、1巻でレベルはわかっていたので、
完璧に想定通りの作品だった。
 
お子ちゃま向けとして認識していれば、そのレベルにおいては、
ひどすぎてどうしようもないってほどではないだろう。
 
減点評価ではなく、極端な加点評価を取ることにして、
ベスト3を選ぶなら、「不自由しない」「安全」「鉛筆」かな。
 
5章のひどい童話が今回は短い1本だけだったのも
まだ許容範囲だった所以かも。
 

ロスト・ラッド・ロンドン 3巻(完)

 
特にストーリー的に素晴らしいということはないのだけど、
最後までぶれることなく、この個性ある雰囲気が貫かれていた。
 
腰砕けになることなく、しっかりとクライム・ストーリーとして
完結してくれたので、文句無し。
 
1~2巻の感想の繰り返しになってしまうが、
独特な雰囲気を持った、唯一無二の個性を放つ絵柄が魅力的。
 
日本のコミックスには無いタイプの画風にマッチした
キャラクタ造形や会話の進め方が、まるで海外映画のようだ。
 
こういう体験はなかなか出来ないので、
この作家の他の作品も是非とも読んでみたくなる。
 
この雰囲気に浸ること自体が心地良いのだから、
外れるということは無いだろう。 
 

嘘喰いと賭郎立会人

時は『嘘喰い』完結より少し遡り、斑目貘がお屋形様に成った直後へ。
親睦会と称し夜行妃古壱立会人を部屋に呼び出し語らせたのは、若かりし日の夜行立会人初の賭郎立会。
回想の最中ギャンブラーに憑依する貘、奇妙な追憶の旅が始まる──。

 
いやあ、久々に嘘喰いが読めて嬉しい。
 
いつも通り、子供の遊びをベースにして、
命がけのギャンブルに仕立て上げ、
その上で読者の予想を超える逆転劇を魅せてくれる。
1巻で完結しているのもいい。
 
今回のゲームはカンダタ危機一発。
そう、元々は黒ひげの船長のやつ。
(ちなみに豆知識だけど、大元は船長を助け出すって意味で、
 飛ばした方が勝ちってルールだったらしいぞ)
 
これがどう金と命のリスクを引き換えにするギャンブルに
化けるのか、そして勿論、それがどんだけエグいのかってのは、
いつもながらの嘘喰いで満足。
 
逆転劇としてはあっさり気味だけど、1巻完結だし、
このくらいで丁度いいのかな。
 
このフォーマットなら続ける余地がいくらでもあるし、
そういう雰囲気のラストだし、もっと読ませて欲しいなぁ。
 

推理の時間です

あなたにはこの謎が解けるか――。
法月綸太郎と方丈貴恵がフーダニットで、我孫子武丸田中啓文ホワイダニットで、北山猛邦と伊吹亜門がハウダニットで、読者皆様に挑戦します。

 
三分野で六人の推理作家による「読者への挑戦状」対決!
互いの問題を推理し合うという「推理編」の趣向が秀逸だった。
ちなみにスーパーバイザーのノリリンは全部に挑戦(結構豪快に外してたりしてて乙)。
 
タイマン勝負の形式になってるので、いつものベスト3ではなく、
それぞれの分野で勝者を選ぶ形にしようと思う。
 
フーダニット編では、ちょっと難度は高すぎるけれど、
王道の犯人当ての方丈貴恵の勝利。推理編の緻密度も良かった。
ノリリンは若干簡単すぎたのと、本人の反省にもあるように、
出題意図とは真逆の動機が成立してしまうのは、やはり疵かと思う。
 
ホワイダニット編は、やはり挑戦状形式には向かないというのを
改めて示したような形になってしまったと思う。そりゃそうだよなぁ。
その中では推理で導けるようになんとか頑張った我孫子武丸の圧勝。
 
ハウダニット編はいずれも秀作で、三分野の中で最も充実したパートになった。
ハウとしてはこちらが上だと思うし、ハウの中に別の謎をも内包した北山猛邦
非常に良かったんだけど、更にそれに加えて思い及ばぬようなホワイをも
炸裂させてくれた伊吹亜門の方を勝者としたい。本書全体でもこれがベスト。
 
こういう形式で、推理編もあってと、この趣向だけでも8点進呈!