箱庭
白/白い箱庭
蝶がひらひら
蝶/蝶が運んだ
記憶の塵が
塵/塵は積もって
白昼夢を描く
記憶を
塵として
蝶が運び
星を白く脚色してゆく
白/白い箱庭
ピアノの旋律が
音/音を響かせ
記憶を砕き
塵/塵を積もらせ
蝶が運んでゆく
記憶を
塵として
白昼夢は覚めぬ
星は白く脚色してゆく
夜
空を脱ぎ捨てた/夜が黒く脚色す
寝静まる町に/月が呼吸をす
寝ぼけ眼のものたちは/静かに呼吸をす
やがて影を踏む/記憶たちの影を踏む
深い夢を見る/いつか見た母の記憶
夜に溺れてく/埋めるように呼吸をし
月に包みこまれ/光を追うように潜む
羊水
羊水の中のわたし
羊水の中のわたし
ゆりかごの中のわたし
ゆりかごの中のわたし
もうじきわたしが産まれては消えてく
優しさに包まれ羊水の海にて眠る
羊水の中のわたし
羊水の中のわたし
ゆりかごの中のわたし
ゆりかごの中のわたし
あるじきなみだがとめどなく溢れた
優しさに包まれ羊水の海の記憶
点線球
点/線/球/
点/線/球/
点をたどり/線を描く/円になる/
交錯する/線を描く/交わるところ/
点灯する点/持続する線/円は球になる/
円は子宮/鼓動は響く/交わるところ/
点をたどり/線は涙のつたい道/涙の落ちるところ/それは波紋の円/
阿片の町
阿片に溺れている町/うつろな空気と/うつろなまなこ/
阿片に溺れている町/世捨て人/ここに逃げ込む術/
うつろなまなこで/あなたは話す/
言葉を忘れたから/あなたを忘れたから/
さよなら/
阿片に溺れて/悲しみを忘れた/とめどなく涙は/したたる/
遠ざかる記憶/あちらに/こちらに/香りが残ればそれだけでいい/
塵
日本全域に蒔かれた君の塵によって人間たちは記憶を失いながら列をなして海へ向かい沈んでゆく。それが人間の本能だった。
歯
わたしの歯/わたしの耳/うたはない/
わたしの目/わたしの口/うたはない/
それぞれに/独立し/揺れ動く/
それぞれに/自立し/響き出す/
わたしの歯/わたしの耳/うたはない/
わたしの目/わたしの口/うたはない/
それぞれに/独立し/悲しみ出す/
それぞれに/自立し/悲しみ出す/
それぞれに/朝が来て/忘れる/
それぞれに/朝が来て/きっと/忘れる/