ニューロマンサー

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)
黒丸 尚

by G-Tools


(第二部冒頭より引用)
故郷。
故郷はBAMA,<スプロール>、ボストン=アトランタ=メトロポリタン軸帯。
データ交換の頻度を表示する地図をプログラムしてみよう。巨大なスクリーン上のひとつの画素が千メガバイトを表わす。マンハッタンとアトランタは純白に燃え上がる。それから脈打ちはじめる。通信量のあまり、この模擬実験が過負荷になりかけているのだ。地図が新星化してしまう。ちょっと落とそう。比率を上げてみる。画素あたり百万メガバイト。これを毎秒一億メガバイトにすると、ようやくマンハッタン中央部のいくつかの区画や、アトランタの古い中核を取り巻く百年来の工業団地の輪郭が見えてくる。
[感想]
1984年に書かれたウイリアム・ギブスンのニューロマンサーは、スプロール三部作の一作目となる。
主人公のケイスと、女侍モリイを軸にストーリーが展開していく。
時代背景の設定は当時としてはぶっ飛んだものだったのだろうと思うが、今現在に当てはめてみると、例えばインターネットを取り巻く状況などは本作品内の状況が一部再現されつつあると思う。ジョッキーはハッカーに置き換えられるし、ICEはファイアーウォールで置き換えられる。また、ある程度ネットワークの知識があるのならば、マトリクスについてはIPアドレスベースでのイメージが可能なのではないかと思う。
このようなテクニカルな魅力だけでなく、日本が舞台になったりする面でも魅力的だし、特異な性質をもつ登場人物の魅力も捨てがたい。
しかしながら、ニューロマンサーの最大の魅力は、その独特のリズムをもつ文体であり、作者のウイリアム・ギブスンの才能と翻訳者の黒丸尚氏の才能によるものだと考える。
内容・文体とも個人的には大好きだし、何度も読み返してボロボロになった本を今でも頻繁に読み返す。
これを読んで以降、今まで読まなかったSFの分野を読み漁る結果となった。
百聞は一見にしかず。読んでない人は是非呼んで欲しい。

[情報]
ISBN4-15-010672
イリアム・ギブスン 作(William Gibson
黒丸尚
ハヤカワ文庫
Wikipediaウイリアム・ギブスン
Wikipediaニューロマンサー
William Gibsuon Official Website
google検索

ペーパーバックがありました。
原文ではザイオン人の言葉はどうなってるのか気になります。

Neuromancer (Ace Science Fiction) Neuromancer (Ace Science Fiction)
William Gibson (2000/07/10)
Ace Books
この商品の詳細を見る

追記:油断してたらフューチャーマチックとパターン・レコグニションが未読だ。さらにSpook Countryも英語版で出ている。

姑獲鳥の夏

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

by G-Tools


(25頁目より引用)
「意識こそが重要だ。君がつまらん小説を読むのも、この壺を見るのも、はたまた存在しない幽霊を見るのも、意識あってこそだ」
「また解らんことをいう。心と脳は別々でその他にまだ意識が別にあるのかい?」
「世界は二つに分けられる」
「何だって?」
〜〜中略〜〜
「つまり人間の内に開かれた世界と、この外の世界だ。〜〜後略〜〜

(32頁目より引用)
座敷は急に暗くなった。
「仮想現実と現実の区分は自分では絶対につけられないんだよ。関口君。いや、君が関口君である保証すらないのだ。君を取り囲む凡ての世界が幽霊のようにまやかしである可能性はそうでない可能性と全く同じにあるんだ。」
「それじゃあまるで、僕が幽霊のようなものじゃないか!」



[感想]
京極堂シリーズの第一作。
「この世には不思議なことなど何もないのだよ」という言葉はあまりにも有名だ。
本作は関口の視点で描かれているが、京極堂・榎木津・木場修・中善寺敦子・青木・里村等の主要な人物がいろいろ出てきて楽しい。
物語はウブメ・姑獲鳥に関する民間伝承や古伝、鳥山石燕の画図百器徒然袋などを元に、薀蓄深い考察を積み重ねてゆくのだが、上記引用部分(が本シリーズに共通したテーマであると思う。)に基づいた結果で決着がつく。
登場人物も特徴的で、京極堂や榎木津などはファンも多いだろうが、関口や木場修の身近さも同調できる。また本作では久遠寺一族の各人物のキャラクターも立っていると思う。
ボリュームの割に一気に読めてしまう爽快さ。内容の重さに係らず思考停止に陥らない文章のリズム。
京極堂シリーズの最初の1冊としてはオススメである。

[情報]
ISBN4-06-181798-1
京極夏彦
講談社
Wikipedia姑獲鳥の夏
Wikipedia京極夏彦

Google検索(姑獲鳥の夏)
Google検索(京極夏彦)

愚者の街

愚者の街 (集英社文庫)愚者の街 (集英社文庫)

by G-Tools


(223頁より引用)
「生きのびたいんだろう?」
「自分の運を試してえ。いままで、人の運にへばり付いてただけだ」
「生き延びても、逮捕されるかもな」
「逃げるさ。そこまでが、運試しだ」
[感想]
男である。
男しか解らない心情と友情を、酒と煙草と暴力とカーチェイスと粋な小物で描き出している小説だ。女は男の理想化された情婦でありながら、不条理な行動で男を破滅に導く。人生は闘いであり舞台上で、際どく、大胆に、そして繊細に演じられている。
北方謙三を読むたびに思うのは「ずるい」「羨ましい」という事だ。
また、そのリズム感溢れる文体は、途中で止まることなく、最後まで一気に読ませるものがある。現にこの感想も北方風になっている。
北方作品全体に通じるテーマは友情であり「裏切らないこと」あると思う。そのために最終的に破滅に陥ったとしても、スッキリとした読後感を得られる。
私は仁侠映画への造詣はないが、観客は恐らく、同じような爽快感に近い何かを感じるのではないだろうか。
本作では、老犬シリーズの高樹警部が出てくるのも北方ファンにとって嬉しいものだろう。高樹警部のセリフも、特に老犬シリーズを読んだ人間にとっては嬉しいものであり、ニヤリとさせられる所もある。
北方謙三の作品は、「何か考えさせられる所」とか「道徳的な暗喩」を求める人には内容が理解できないと思うのだが、スピード感・カッコよさ・安心感(水戸黄門と同じ安心感)の3点で、他に追随を許さない何かを持っており、個人的には本当に大好きである。
私の場合、この作家がいないと、とっても困る。下手なTV番組を見てるよりも、遥かに楽しいから。
[情報]
ISBN4-19-891910-0
北方謙三
徳間文庫
Wikipedia北方謙三
北方謙三 水滸伝:::嗚呼もうすぐ10巻出るねぇ。。。これでようやく読める。。。
北方謙三に訊け!:::相変わらず物凄い人生相談w

鎖 (文春文庫)鎖 (文春文庫)

by G-Tools


(294頁より引用)
「女に苦しめられるには、いろんなことをやりすぎたよ、俺は」
「女を苦しめる男もいる、そういったでしょ」
「俺の恋人は、苦しんでいるとは思えんな」
[感想]
芸能プロの社長が、昔裏切られた相棒を庇いながら進行する物語。
この物語は本当に男の弱さと女の強さが際立って浮き上がってくる。
男は弱く煩悩の塊で、そのくせ突っ張って自分の思いに突っ走ってしまう。
そういった青臭い美しさこそがハードボイルドの魅力なんだなぁと再認識させる、そんな作品です。
[情報]
ISBN4-16-741908-4
北方謙三
文春文庫
http://ja.wikipedia.org/wiki/北方謙三

もっと遠く!―南北両アメリカ大陸縦断記・北米篇 (上)

もっと遠く!―南北両アメリカ大陸縦断記・北米篇 (上) 文春文庫 (127‐8)

by G-Tools



(55頁より引用)

いつも軽くしびれてしくしく痛む右手が氷雨やリールの金属の肌やで骨まで冷えこみ、凍りついたみたいにこわばっている。竿をふった瞬間に疼痛が右腕を走りぬけて肩をふるわせる。
しかし、電撃が糸から竿の穂さきに達した瞬間、三十年が消える。十八歳の声が漏れる。昇華する。放電する。
氷雨が音をたてはじめた。
[感想]
開高健がアラスカからフエゴ岬まで釣りをしながら旅をするお話。
上巻はアラスカのヌシャガク河、バンクーバー、コロンビア河、コロラド河(レイク・パウエル)、ニューヨークと旅をする。豊穣の時間を味わったり、坊主の苦味を味わったりするが、旅の仲間が活き活きと描かれている為か、釣り一辺倒にならずに文化と自然と人間を一体感ある文章で描き出している。人も自然で人生は釣りだという気分になる。
開高健の文章も素敵だが、水村孝の写真もこの本の愉しみの一つである。何故こんなにも自然に、さりげなく、しかも語りだしてきそうな写真が撮れるのだろう。写真だけ眺めていても全く飽きない。
釣りをするときの感覚は、上記引用部分のままである。疲れ果てて不安で負けそうなとき、指先にほんの少し感じるあの感覚だけで、時間が止まる。時間と思念と肉体に絡め取られた自分が、そこには、いなくなる。こんなに端的に釣りをする理由を表わした文章は、滅多に出会えることは無いと思う。
読むだけで釣りに行きたくなる本だ。
[情報]
ISBN4-16-7127075
開高健 著 (水村孝 写真)
文春文庫
http://ja.wikipedia.org/wiki/開高健
開高健記念会
開高健・名言集:みんな好きだなぁ。
コレクシオン 開高健:全部欲しい。

もっと遠く!―南北両アメリカ大陸縦断記・北米編 (下)

もっと遠く!―南北両アメリカ大陸縦断記・北米編 (下) (文春文庫)

by G-Tools




(39頁より引用)

かわいいハマグリの淡桃色を一刷きあえかに刷いた、白い、むっちりとした肉、それにレモンをしぼりかけると、キュッとちぢむ。オツユをこぼさないようにそろそろと口にはこび、オツユも肉も一気にすすりこむ。オツユは貝殻に口をつけて最後の一滴まですすりこむ。ムッツリだまったままつぎつぎと一ダース、二皿で合計二十四個。我ながらいささかあさましくなる貪婪さでしゃぶっちゃ捨て。しゃぶっちゃ捨て。口がきけない。ときどき出るのは"!"か、"、"としての吐息ばかりである。
"。"はいつともわからない。
[感想]
開高健がアラスカからフエゴ岬まで釣りをしながら旅をするお話の続き。
下巻はニューヨーク、トロント、オタワ、フロリダ、マイアミを旅する。
ニューヨークでは風俗・食を中心に話が展開し、引用部分のような喜びも伝えてくれる。
オタワではトロフィーサイズのマスキーを釣り上げるが、釣師としての誇りと喜びを深く感じる事ができる。写真とあいまって迫力のある展開だ。
この巻は、主に食と風俗に焦点があたっている。食の件は引用部分を含め、多くの素敵な描写がある。風俗の面はニューヨーク・フロリダ・マイアミについての考察が薀蓄深い。
ニューオリンズのプリザベーションホールについても書かれているが、キッド・トーマスの明朗さ、スイート・エマの壮烈さの描写には心を打たれる。死ぬまで前に進みつづける事の大切さを感じる。
旅をして、美味しいものを食べて、いい音楽が聴きたい。そんな気分になる。
[情報]
ISBN4-16-712708-3
開高健 著(水村孝 写真)
文春文庫
http://ja.wikipedia.org/wiki/開高健
開高健記念会
開高健・名言集
コレクシオン 開高健