鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

いろいろな幽霊

ケヴィン・ブロックマイヤー『いろいろな幽霊』表紙

解説を書いたケヴィン・ブロックマイヤー『いろいろな幽霊』(市田泉訳、東京創元社 海外文学セレクション)の見本をいただいた。四月十九日発売予定。
素敵なカバーのイラストは原書と同じものでアーティストは Kelly Blair。
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被災学 vol.1

『震災学』がリニューアルした『被災学』vol.1(東北学院大学発行、荒蝦夷発売)をご恵送いただいた。ありがとうございます。

被災とは何か――。被災から何を読み取り、未来に向けて何を学ぶべきか――。
〈被災〉について考え、私たち自身の〈生〉を考える雑誌です。

第七回仙台短編文学賞受賞作の選評と、東北学院大学賞受賞作の浅井楓「擬態」仙台市長賞受賞作の湯谷良平「ポリエステル伝導」、河北新報社賞受賞作の郭基煥「声の場所」が掲載されている。
(例年河北新報賞は『河北新報』に掲載されるのだが、郭基煥氏は東北学院大学教授でもあり、「声の場所」の主人公が関東大震災に被災した東北学院に籍をおく朝鮮人学生でもあるため、本誌にも掲載するとのこと。古い河北新報に、仙台に向かった息子から連絡がない、九月一日は東京にいたはず……と朝鮮半島から親が探しに来たという記事を見つけたのが執筆のきっかけだそうだ。震災の恐ろしさと人間の愚かさ、生きることの苦しみ、優しさが誠実に詰まっていた)

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へんてこバービー漂流記 ―「さいはての美術館」を読む―

 ユキミ・オガワの短編「さいはての美術館」The Portrait of a Survivor, Observed from the Water by Yukimi Ogawa を読んだ。翻訳した(『SFマガジン』二〇二四年四月号掲載)。普通に小説を読むよりも丹念に、単語単位で行きつ戻りつして読んだため、脳内にくっきりと像を結んだことがある。これは嫉妬の物語だ。


【ここから先は、「さいはての美術館」の内容に触れます】

「さいはての美術館」扉絵

 舞台は小さな惑星に建つ美術館。登場するキャラクターは、おもに〈あなた〉と〈彼女〉、それに〈学芸員〉。
(あなたとあるが、これは高い視点からキャラクターを描写しているだけで、読者であるあなたのことではない)
 読み始めるとすぐにわかるが、〈学芸員〉はすでに故人である。〈あなた〉はロボットで、〈学芸員〉亡き後の美術館を維持管理して何百年、千年ほどになる。〈彼女〉は遠くから潮の流れに乗せてあなたと美術館に必要なものを、美術館にほど近い岸辺まで送っている。そしてこの美術館は、芸術品・美術品を積載した宇宙船が航行不能に陥ったとき、同乗の〈学芸員〉が救難信号を出すことより、芸術品を独占することを選んだことによって出来たものだとわかってくる。〈彼女〉は宇宙船のAIで、船は大きく、その大きさに見合うだけの知識と理性を併せもった存在だが、〈学芸員〉が美術館を建てるとき、一緒に連れて行ってもらえなかった。彼が選んだのは命令に従うアシスタントロボットの〈あなた〉で、彼の高い美意識を満足させるような美しい姿をしていたと思われる。
 バービーたちが暮らすバービー・ランドが舞台の映画『バービー』(グレタ・ガーヴィク監督、二〇二三年)には、へんてこバービー Weird Barbie が登場する。バービーはマテル社の着せ替え人形、子どもが遊ぶことを念頭に作られた玩具なので、乱暴に扱われることもある。へんてこバービーは髪を切られたり、落書きされたりしたバービーのことだ。〈学芸員〉が生きていたときはともかく、〈あなた〉がその後も何百年も稼働しているとしたら、辛うじて毎日の作業をこなす、ぼろぼろの機体なのではないか。それこそへんてこバービーのようになっていても不思議ではない。
 高い知性をもつ〈彼女〉は、〈学芸員〉の巡らした障壁によって芸術品が隠されており、長い時間をかけてその仕組みを取り除いたと説明できるだろう。その事実の中に、〈彼女〉は〈あなた〉が十分に醜くなるまで稼働させていたと考えることができる。もちろん、事故調査委員会などで証言することがあれば、〈彼女〉は「時間がかかったので仕方なかった。あの機体は残念だった」と答えるだろうけれど。
 自ら望んだわけでない美術館への奉仕、妬まれて島流し。へんてこバービーも難儀である。(最後にそっと抱き上げてくれる人がいるあたり、へんてこになっても、可愛いらしさの片鱗があったのではないかと想像もする)
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はるこん2024【企画予告】

来たる四月に開催されるはるこん2024(会場は川崎市国際交流センター)で次の企画に参加します。
一日目(四月二十日)の午後二時~三時三十分、場所は第一会議室を予定しております。
使用言語は日本語です。

英語の自作を海外誌に載せる方法
英語で書いた小説をどうやって海外の雑誌に載せるのか? 
投稿でキャリアを積み、短編集を出したユキミ・オガワに話を聞く。

あなたが英語で小説を書きあげたとしましょう。それを投稿する場所をどうやって見つけるのか? 原稿のフォーマットは? 郵送? 電子メール? 投稿したら結果はいつわかるの? 採用されたら? ……誰もが知りたくて、ちょっと聞きにくい話をオガワさんに聞きます。
〈F&SF〉や〈クラークスワールド〉に掲載されたいと思ったことがないとしても、すぐには人生の役に立つわけではないものの、知ったら世界がちょっと広くなるような話をする……かも知れません。
(英語での小説の書き方は、各自努力して身に着けてください)
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はるこん2024【予告】

四月二十、二十一日に開催されるSFイベントはるこん(会場は神奈川県川崎市川崎市国際交流センター)に参加します。
二十日に、作家のユキミ・オガワさんにお話をうかがう企画に登壇予定です。日時が決まりましたらお知らせします。
hal-con.net

闇の中をどこまで高く

セコイア・ナガマツ『闇の中をどこまで高く』(金子浩訳、東京創元社)をご恵送いただいた。ありがとうございます。アーシュラ・K・ル=グイン賞特別賞受賞作。

……滅びの危機を経て緩やかに回復してゆく世界で、消えない喪失を抱えながら懸命に生きる人々の姿をオムニバス形式で描く、新鋭による切なくも美しい第一長編。

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