メモ

荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)

荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)

 恐るべき傑作。ライトノベル色を外して単行本で刊行したら本屋大賞ノミネート間違いなし。

ルドルフ・カイヨワの憂鬱

ルドルフ・カイヨワの憂鬱

 昨年の日本SF新人賞佳作入選作だが、中身は殆どSFではなく、近未来謀略小説。服部真澄がデビューしたときのことを思いだしたが、才能はおそらくこちらのほうが上ではないかと思う(ただの勘)。今年のエンタメ系最優秀新人候補。

ゴーディーサンディー

ゴーディーサンディー

 今年の日本SF新人賞受賞作。文章はド下手だが困ったことに才能はありそうだ。今後に期待。

 半年も放置しておいたら、管理画面が激変していて驚いた(汗)。mixiのお蔭でこの日記、とくに続ける理由もなくなったのだが、しかし閉めるのもなんだか勿体無いような気もするので、今後はラノベを読んだときだけ更新することにしてみようか――などと考えていたりする。

■最近読んだ本(読了順)


 この中では『Fake』『退屈姫君 海を渡る』『聖フランシスコ・ザビエルの首』が楽しめた。とりわけ『Fake』は意外な収穫で、五十嵐貴久のこれまでの著書の中で最高の出来栄え。読んでいる最中には明らかな欠点と感じられた部分を逆手にとったかのような結末に意表を衝かれた。今年発表されたミステリの中では十指に入る快作だと思う。
 『聖フランシスコ・ザビエルの首』はすっきりした佳作。収録四編いずれも謎解きは小粒だが(もっとも柳広司のミステリにおいて謎はいつも小粒だと思うが)、大風呂敷を広げず連作短編の形式でコンパクトに纏めた点を買う。集中では、異文化間に発生した謎を現在視点から解き明かす構成の第一章「顕現――1549」がもっとも好み。
 なお、『藁の楯』は(『ビー・バップ・ハイスクール』の著者が書いているためか)流石に内容は面白いが、残念ながら小説としては下手すぎる。但し、小説技巧を身につけたらかなり読み応えのあるものを書いてくれそう。『幻影のペルセポネ』は恋愛描写が不快だった。

Fake ザビエルの首 (講談社ノベルス)

 十月新刊チェック本ですよ。

■単行本


■ノベルス

■文庫

 頁数の少ない二冊の本を読了する。北森鴻『螢坂』(講談社)は『花の下にて春死なむ』『桜宵』に続くシリーズ第三弾。ミステリとしては異色の構成を持つ作品が多く、もとより本格ミステリとは全く無縁の内容になっているが、読み物としてはたいへん上質で、この作者のストーリーテラーとしての力量を明快に示している。巻末の「孤拳」がとりわけ味わい深い。もう一冊、伊藤たかみ雪の華』(角川春樹事務所)は共感覚を構成要素に採り入れた青春恋愛小説で、ややストーリーを作り込み過ぎという憾みはあるが、若干ミステリ風のプロットが上手い具合に作用して、これも楽しくすらすらと読めた。主要登場人物をつなぐ事件として割と生々しい事件を描いているのだが、それがほとんど汚らしく感じられないのが好ましい。個人的にはもう少し深みが感じられたほうが好みではあるけれども、これはこれで良いのだと思う。
 読み終えたもう二冊の本、堂場瞬一『焔』(実業之日本社)と森福都『琥珀枕』(光文社)についてはまた後日。端的に言えば、この二冊は現時点における今年の私的ベスト10候補。

螢坂 雪の華

 津原泰水の『綺譚集』(集英社)を読了したが、それにしても(敢えて誤解を恐れずに言えば)津原泰水はつくづく因果な物書きであると思わずにはいられない。この作家にこれほど文章力が無ければ、エンタテインメント作家としてもっと無難に評価されていただろうに……文学とは文章そのものであるとするなら、この『綺譚集』はきわめて端整な、講談社文芸文庫で読みたいような文学作品である。しかし、その文書によって綴られる内容はエンタテインメントなので、やや「つくりもの」めいた印象が、その高い文章力ゆえにどうしてもつきまとってしまうように感じられる*1。個人的には技巧を徹底して抑えた作品を読んでみたいのだが、どうか。集中では川端康成の「片腕」を連想させる「脛骨」やスケッチのような軽い味わいが素晴らしい「アクアポリス」、そして「ドービニィの庭で」(梅崎春生「植木屋」、赤江瀑「花夜叉殺し」、山口雅也「永劫の庭」など、突発的に現れる庭小説の系譜に連なる秀作。どうでも良いが、先日読んだエリザベス・ボウエンの「あの薔薇を見てよ」や福武文庫の『イギリス怪奇傑作集』巻頭に収録されていたR・C・クック*2の「園芸上手」など、ガーデニングの本場イギリスではこの手の短編が山のように書かれているんだろうな)が印象に残った。

綺譚集

*1:例えば「玄い森の底から」。但し技巧というなら、この「玄い森の底から」は構成・文章技巧ともに本作品集中最上と言える、目くるめくような逸品だが。

*2:レオ・ブルースの別名義。ところで作者名を確認するために検索をかけたら、この「園芸上手」の主人公の名前が“ボウエン夫人”だったことが判って笑ってしまった。

 藤村いずみ『あまんじゃく』(早川書房)読了。巻末短編のタイトルが「セラー」になっているのは、同じ殺し屋を主人公に据えたローレンス・ブロックのケラー・シリーズに対するオマージュなのかも知れない。と、そんなことはさておき、その最終短編(というか連作の幕引き)がどうにも感心できない。乱れ気味の文章に目をつぶればそこそこ楽しく読めたのだが、巻末においてここまでやられてしまうと、それまでの各短編の味わいが抹消された気分になってしまって……新人らしい気負い、と笑って片付けて良いかどうかはちょっと微妙。*1
 続いて森福都の『琥珀枕』(光文社)を読み始める。まだ二編目までしか読んでいないが、帯に書いてある「森福版聊斎志異」というフレーズに嘘は無いと感じさせる上質な読み物。ここ最近の森福都の成長ぶりには眼を瞠らされる。ミステリだけを求める読者にはやや辛いものがあるかも知れないが、緩やかな意外性もあるし、何よりな典雅な作品世界に浸れて満足。
 津原泰水の『綺譚集』(集英社)ももうすぐ読み終わるが、……これについては読み終えた後で纏めて。誤解を恐れずに敢えて言えば、津原泰水はつくづく因果な物書きであると思わずにはいられない。

あまんじゃく (ハヤカワ・ミステリワールド) 琥珀枕

*1:まあ、読みながら感じた「そんなに簡単に殺して良いのか」という疑問には、予想外の形で解答が与えられたわけだが。