日記1,000日・長い間ありがとうございました

wakaba-mark2011-06-20

http://d.hatena.ne.jp/wakaba-mark/20050125

’05年1月25日に上記URLのごとく、
この『ブログ日記』を立ち上げて6年と5ヶ月たらず。


旅行の記録や誕生日、お花見などの行楽と、亡母の法要などのイベントのもよう、
NEWSなどからの日々の雑感、観た映画やDVDの感想と、
なによりも「読書記録」をメインで成り立たせてきましたが、
梅雨特有のあいにくのお天気ではあるものの、
1,000日に達した≪大安吉日≫の今日をひとつの節目・区切りとして、
『Wakaba-Markの日記』は終わり、
これ以上の更新・UPはしないこととさせていただきます。


今まで、この間読んだ700冊を超える本の読後感想を、巻末の「解説」やNET上の
情報を参考に、約1時間かけて500字〜800字にまとめ、まずWord文書で書き、
AmazonのHP上にレビューとして載せ、さらにこの『日記』に「読書記録」としてUPする
という作業を繰り返してきました。


おかげさまでAmazonのレビューも1,172を数え、
「ベスト500レビュアー」の仲間入りができました。


しかし950日を過ぎた辺りから上述の作業に息切れがしてきたのも事実です。


自分でも「よく1,000日も続けられたなあ」と思いますし、
<ページビュー>を参考にすると、見知らぬ多くの方々が訪問してくださったことに
驚きと感謝の気持ちでいっぱいです。


本当に長い間ありがとうございました。

読書記録86

wakaba-mark2011-06-18

汚れた街のシンデレラ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

汚れた街のシンデレラ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

今や“驚愕のどんでん返し”で世界のミステリー界をリードするジェフリー・ディーヴァーの’89年発表の<ルーン・トリロジー>シリーズの第1作。このあと『死の開幕』
(’90年)、『Hard News』(’91年、未訳)で3部作となっている。
ディーヴァーにはこの前後に『VooDoo』(’88年、伝説のデビュー作)『Always a Thief』(’89年)『Mistress of Justice』(’92年)の諸作があるらしいが、邦訳はおろか本国
アメリカでも入手困難なコレクターズ・アイテムと化しているそうなので、本書が実質的なデビュー作といっていいだろう。本書も今やファンの間で希少本として中古本市場
では高額な値が付いている。
ルーン−本名ではない−はマンハッタンの<ワシントン・スクエア・ヴィデオ(WSV)>というレンタル・ヴィデオ店の20才の店員。黒と紫に染めたウッドペッカー・カットの髪、黒のストレッチ・パンツに黒シャツ、左腕には27本ものブレスレットをつけたかなり
パンクな女の子。彼女は契約条項にはない延滞ヴィデオの回収に出かけた先で、
初めて死体を目にする。70才の客がアパートで射殺体となっていたのだ。彼は1ヶ月
くらい前にヴィデオ店の現金会員になり、1947年製作の、原書のタイトルと同じ
『マンハッタン・イズ・マイ・ビート』という作品を18回も借りていた。
現実の銀行強盗事件と盗まれた百万ドルを着服した警官の話をベースにしたその
作品から、ルーンは、百万ドルは今もどこかで眠っていると判断。かくして彼女の、
友人・知人を巻き込んでの、ルーンにとってまるで“夢と魔法の王国”のような
マンハッタンの宝探しの冒険が始まる。
ディーヴァーの最初期の作品ながら、人気ベストセラー作家となった今を彷彿させる
スピーディーな展開、お約束の二重三重の“どんでん返し”も見られ、なんといっても
全編にわたっての初々しいポップな雰囲気と映画の薀蓄に、ディーヴァーの原点を
見たような気がして楽しく読むことができた。

読書記録85

敵手 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

敵手 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

“ターフを走るサスペンス”、ディック・フランシスの<競馬>シリーズ。
本書は’95年発表のシリーズ34作目にあたり、実に前人未到の3度目となる、
’96年度「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」のベスト・ノヴェル(最優秀長編賞)を
受賞した。元障害競馬レースの花形チャンピオン・ジョッキイ、隻腕の競馬調査員
シッド・ハレーが’65年の第4作『大穴』’79年の第18作『利腕』に続いて三たび登場する。
’96年、「このミステリーがすごい!」海外編で第4位にランクインしている。
前回登場の『利腕』からおよそ3年後、‘私’ことシッド・ハレーは34才になっている。 放牧中の馬の眼がつぶされたり、脚が一断のもとに切断されたりする事件が頻発
する。‘私’が調査によって浮かび上がった最重要容疑者は、アマチュアとプロという
違いはあれど、騎手として腕を競いあった、親友である4才年上の国民的人気司会者エリス・クイントだった。やむなく告発する‘私’に、ゴシップ新聞を中核としたバッシングの嵐が・・・。
ストーリーは、‘私’のあくまで自己を曲げず真実を追及する姿を追いかける。
ラスト近く、‘私’に対するバッシングの黒幕的人物とエリスから拷問を受けるシーン
では、‘私’そしてエリスの心の葛藤が見事に描写され圧巻である。
からくも脱出した‘私’だったが、さらなる生死を分ける危機が襲う。そしてなんとも
悲劇的なエンディング・・・。まさに原題『COME TO GRIEF(深い悲しみが訪れる)』
のごとき、“罪を憎んで人を憎まず”の名作である。
また、愛馬ポニーを傷つけられた元もとの調査依頼人である白血病の少女との交流、保護観察中の少年の更正なども、‘私’の人間性を垣間見るエピソードとして興味深く読むことができる。
シッド・ハレーは、『勝利』(’00年)から6年の沈黙を破って上梓された第40作『再起』(’06年)で4度目の登場をする。このシリーズで、フランシスにとっても読者にとっても思い入れの一番強いキャラクターなのだろう。

読書記録84

利腕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12‐18))

利腕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12‐18))

“ターフを走るサスペンス”、ディック・フランシスの<競馬>シリーズ。
本書は’79年発表のシリーズ18作目にあたり、英国におけるミステリーの頂点、
同年度「CWA(英国推理作家協会)賞」ゴールド・ダガー賞(最優秀長編賞)、
2度目となるアメリカにおけるミステリーの最高峰、’81年度「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」のベスト・ノヴェル(最優秀長編賞)をダブル受賞した。
また早川書房の『ミステリ・マガジン』のアンケートをもとに’92年に刊行された『冒険
・スパイ小説ハンドブック』において、「冒険小説ジャンル」で第8位にランクインした。
元騎手で隻腕の競馬調査員シッド・ハレーが’65年の第4作『大穴』に続いて再び
登場する。
‘私’ことシッド・ハレー31才のもとに、ほぼ同時に4つの調査依頼が続けて
舞い込んだ。なかでも15年来の旧知である人気調教師の妻ローズマリイは、夫の
調教した馬が体調万全で本命馬として臨んだレースでことごとく惨敗。来るべきレースで同じことが起こらないように調べて欲しいと言うものだった。‘私’は、他の、別れた妻が被った詐欺事件やジョッキイ・クラブの理事からの成績不振馬の調査依頼、そこの保安部長からの部下の不正疑惑の調査と並行して、7才年下の仲間、チコ・バーンズの協力のもと精力的に動き出す。
読みどころは、‘私’が、過去の花形騎手としての栄光を捨てきれず、隻腕となり電気仕掛けの片腕を持つはめになったことにこだわりを持っており、一度は脅迫に屈する形でパリに潜伏しながらも、帰国後“再生”して果敢に真相究明をはかるところである。
別れた妻、その父親である退役海軍少将、調教師や馬主、獣医たちとの騎手時代
からの人間関係・信頼関係をからめながらストーリーは展開する。そして意表をつく
真相を含め、それぞれの事件を解明し、‘悪者’と対決。“恐怖からの復活”を果たした‘私’をみることができる。

読書記録83

wakaba-mark2011-06-12

罰金 (1977年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

罰金 (1977年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

“ターフを走るサスペンス”、ディック・フランシスの<競馬>シリーズ。
本書は’68年発表のシリーズ7作目にあたり、英国の作家ながらアメリカにおける
ミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」の’70年度ベスト・ノヴェル(最優秀長編賞)に輝いた。
ここに悪知恵に長けた南アフリカボーア人の詐欺師がいた。彼は、米・日にはない
重賞レースなら出走日以前にも賭けられる英国の障害競馬の賭けのシステムを悪用する。有力な馬を物色、大衆の支持の強い競馬専門紙の記者を脅迫あるいは買収
して「その馬が絶対勝つ」と思い込ませるような記事を書かせる。国内にネットワークを持つ賭け屋と結託し、賭け金がつりあがったところで、今度は馬主を脅迫して直前に出走を取り消させる。かくして詐欺は完了。彼らはこの「本命馬出走取消し」による
不正行為で多額の金を手に入れてきたのだ。
‘私’こと競馬担当記者であるジェイムズ・タイローンは、「本命記事」を書かされてきた同僚の泥酔転落死に不審を抱く。‘私’は有力競馬誌から来るべき重賞レースに
ついての記事を依頼され関係者を取材するうちに、カラクリに気づき、そこでも同じことが起きようとしていることを察知する。
35才の‘私’は、決してスーパーマンではない。同い年の妻エリザベスは結婚3年目の24才で発病した灰白脊髄炎(小児麻痺)で体の90パーセントが11年間麻痺した状態で経済的にも苦しい。彼女を献身的に介護する一方で魅力的な若い娘と男女の関係を持ってしまう。いたって普通の男なのである。そんな‘私’が暴力にも脅迫にも
屈せずなんとか不正を阻止せんと奮闘するのである。
本書は、謎解きの興趣は薄いものの‘私’と“敵”との一連の攻防をスリルたっぷりに
描いた作品である。
余談になるが、ディック・フランシスは、騎手引退後、≪サンディ・イクスプレス≫紙で
競馬記者をしており、愛妻メリイは小児麻痺に罹り、本書のエリザベスほど重症
ではないものの人工呼吸器を使っていたという。
本書の‘私’のモデルは作者フランシス自身なのである。

読書記録82

興奮 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-1))

興奮 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-1))

“ターフを走るサスペンス”、ディック・フランシスの<競馬>シリーズ。
’62年、デビュー作である『本命』で始まったこのシリーズは、’10年2月14日に
フランシスが逝去するまで、晩年の5作品は次男フェリックスの協力を得ながらも
全44作に及び、すべて漢字二文字のタイトルで邦訳されている。
MWAベスト・ノヴェルは前人未到の3回、CWAゴールド・ダガー賞1回、次点1回の
受賞に輝き、自身も’73・74年CWAの会長をつとめ、’89年度CWAダイヤモンド
ダガー賞、’96年度MWAグランド・マスター賞(共に巨匠賞)を受賞、英国における
ミステリーの大御所であった。
本書は’65年発表のシリーズ3作目にあたり、同年CWA次点(現在は廃止されて
いるが後のシルヴァー・ダガー賞、ちなみにその時のゴールド・ダガー賞は
ロス・マクドナルドの『ドルの向こう側』)を受賞し、一番初めに邦訳された作品。
早川書房の『ミステリ・マガジン』のアンケートをもとに’92年に刊行された
『冒険・スパイ小説ハンドブック』において、「冒険小説ジャンル」で堂々第6位に
ランクインした。
英国の障害レースで“大穴”が10回あった。明らかにノー・マークの馬に興奮剤が
与えられた徴候が見られたが、検査の結果はシロ。理事会のメンバーである
オクトーバー伯爵は、はるばるオーストラリアまでやってきて、27才の若き生産牧場の経営者‘私’ことダニエル・ロークに不正の真相究明を依頼する。探っていた競馬専門の新聞記者も謎の交通事故死を遂げたという命の危険も伴う依頼を口説き落とされて受けた‘私’は、牧場の厩務員に身をやつして潜入捜査を始める。
ストーリーは、‘私’の4ヶ月にも及ぶ活動が描かれるのだが、その巧緻に長けた細工を見破るまでの道筋もさることながら、真相にいたるヒントといい、そして悪事を暴いた後のアクションといい、意表をつくエンディングといい、実にサスペンスフルでスリリングである。
さすがは現代ミステリー史にその名を残す傑作。私はハラハラ・ドキドキのスパイ
・スリラーか胸躍る冒険小説でも読んでいるみたいな感動を味わい、まるで何かに
取り憑かれたかのように一気に読んでしまった。

読書記録81

前夜(上) (講談社文庫)

前夜(上) (講談社文庫)

前夜(下) (講談社文庫)

前夜(下) (講談社文庫)

現時点で15作が上梓されている、リー・チャイルドによる、ニュー・ハードボイルド
・元軍人<ジャック・リーチャー>シリーズの’04年発表の第8作。邦訳としては
4冊目。
’97年に創設されたアメリカのミステリー専門季刊誌≪デッドリー・プレジャー≫が主催する「バリー賞」の’05年度ベスト・ミステリー・ノヴェル(最優秀長編賞)受賞作である。また、レックス・スタウトのファンクラブ<ウルフ・パック>が主催する「ネロ・ウルフ賞」も同年受賞している。本書はシリーズの番外編とでも言うべき、リーチャーまだ29才で軍のMP(憲兵隊少佐)で軍警察現場指揮官だった時の物語である。
1990年元日になって数秒すぎ、ノース・カロライナ州の陸軍基地フォート・バードで
夜勤につく‘わたし’の元にかかってきた電話。すべてがそこから始まる。ヨーロッパで戦車隊を率いる機甲師団司令官でふたつ星の将軍が心臓発作で、みすぼらしい
モーテルで死体となって発見されたのだ。カリフォルニアでの会議に赴く途中とのことだったが、そもそも大晦日にヨーロッパから将軍が召集される会議とは。かりにも将軍たるものが一晩15ドルの安モーテルで果てるとは。‘わたし’は背景に大きな陰謀の影を感じる。
果たして、間をおかずに、くだんの将軍の妻がヴァージニアの自宅で撲殺、‘わたし’の基地では対テロ特別部隊デルタ・フォースの軍曹が同性愛の兵士を排除しようと
したような工作がなされて惨殺、サウス・カロライナ州の州都コロンビア郊外で同じく
デルタ・フォースの大佐が麻薬取引のこじれを偽装した形で射殺。
そもそもパナマで重要な作戦行動にあった、‘わたし’をはじめ20人もの現場指揮官が、偽のサインと思われる書類で年末の29日にアメリカ国内のさまざまな基地に
いっせいに異動になったこともおかしい。
‘わたし’は新任の上官の命を無視して、25才のアフリカ系アメリカ人の女性少尉を
連れ、大陸を北へ、西へ、そしてドイツへと赴き真相を探る。前年11月ベルリンの壁崩壊、翌’91年12月ソ連解体という東西冷戦終結をひかえ、模索し激動する米軍の存在感を背景に、持ち前の腕力と演繹的推理力を生かした‘わたし’流の正義感が
貫かれる。
また、パリにひとり住む母親の過去の衝撃の逸話やその死、兄ジョーとの久しぶりの邂逅が殺伐となりがちなストーリーに抒情性を持たせている点も見逃せない。
本書は、時代の節目において暗闘するリーチャーを描いた秀作である、と共に
これまで4作を読んできた読者としては、もっと彼の活躍が読みたいところだ。
次作の翻訳が待たれる。