ウマ娘二期とユメヲカケル

先日ウマ娘二期を観終わったので備忘録的に。

さて、ウマ娘という作品は「この作品は実際の競走馬の物語をモチーフとし、事実に基づいた表現を心掛けたフィクションです」という前提のもとに作られた物語である。
今回主人公として選ばれたトウカイテイオーだが、栄光と挫折、そして歓喜の逆転復活劇を描くモチーフとしては正に適役だったろう。


内容としてはトウカイテイオーを主人公に据えて、史実の彼と同じ道筋を辿る挫折と復活の物語。度重なる骨折から不死鳥の様に復活し、最後は1年越しの復活を有馬記念という大舞台で成し遂げる。
そこに同時代に活躍したメジロマックイーンを副主人公格として立てることにより挫折からの復活、またそこに懸ける思いを際立たせた良作となった。

 

が、内容についての話は脇に置く。

 

さて、ここでウマ娘という作品の再度の説明であるが、「この作品は実際の競走馬の物語をモチーフとし、事実に基づいた表現を心掛けたフィクションです」という前提のもとに作られた物語である。つまり基本的には史実通りに進行し故障する奴は故障するし、獲っていないタイトルは獲れないということである。ではそこに救いは無いのかと言われると違う。それでも一つだけ担保されているものがある。


一期の話だ。一期でメインと一人として話の中核を担ったサイレンススズカ、彼女は史実では骨折後予後不良となったが、ウマ娘では(重度の骨折ながら)命には別状もなく、また競走生命を絶たれることも無かった。

そして一期の最後、ウインタードリームトロフィー(以下WDT)…俗に言う『夢の第11レース』で彼女は走った。


『夢の第11レース』とは2015年に制作されたJRAのCMで、制作時に引退済みの歴代の名馬たちが一堂に会したレースという設定で制作された傑作である。
https://www.youtube.com/watch?v=kcv3D26GjWA
ウマ娘において未登場の馬も含まれているため一部出走するキャラが違っているが、WDTはこのCMをモチーフとしたレースだというのは誰が見ても明らかであろう。

そしてこのWDT、いつ開催されたものなのか明示されていない。テイオーはおろかゴルシ他も実績を残していることからも二期よりも後の話だということがわかる。

しかしウマ娘のWDTと『夢の第11レース』、この2つには決定的な違いがある。ウマ娘のWDT、これは『引退したウマ達の祭典』では無いのだ。ウマ娘の世界において彼女達は実際にこのレースを走るのだ、現役として。

ここに「実際の競走馬の物語をモチーフとし、事実に基づいた表現を心掛けたフィクション」としてのウマ娘に、現実ネタながらもフィクションを「モチーフとして取り込んだ」ウマ娘の「ウマ娘というフィクション世界の中の現実としてのレース」が存在することになる。

繰り返しになるが、我々が生きるこの現実においては『夢の11レース』というのはフィクションであり夢である。なにせこのレースを走ったのは既に亡くなった馬、故障で走れなくなった馬…既に競走馬でなくなった馬たちを並べたものだから当然である。実際に見ようと思っても見れるわけがない。しかしウマ娘に関しては違う。

モチーフとし、「ウマ娘世界に於いての現実」として扱うWDTによって、ウマ娘の世界は「実際の競走馬の物語を終えた先の物語」という夢をここで見せてくれた。

そいういう意味でも、二期の主人公としてテイオーが選ばれたのは正に適役であっただろう。二期を観た方、また元々現実のトウカイテイオーを知っている方には説明不要だが、実在馬としてのトウカイテイオーは現実に度重なる故障から復活した馬である。そのテイオーの「事実に基づいた復活劇」を描くことで、見事にWDT…『夢の11レース』を「ウマ娘世界の現実」として繋げて見せた。

WDTにおいて、また二期でも繰り返される「お前達が走る姿が見たい」という言葉は、正にウマ娘の製作者の願いであろう。だからこそ我々は確信する。

「事実をモチーフとしたフィクション」故に、他のウマ娘達も故障もすればタイトルを逃したりもするだろう。
ただ、どんな挫折が待っていようとも必ず最後にはあの舞台が、全員が走れる舞台が待っているのだと。

 


彼女達が懸ける夢に終わりなど無いのだ。

どんなことがあろうとも夢に向かって駆けていく。
我々は確かにその夢を描けるのだ、希望と共に。