*1:後半の事例をもっと真面目に読めばそのあたり解消される可能性はあるかもしれませんが、そこはパラパラとしか見てません
種の感受性分布を生物グループごとに推定する
Oginah SA, Posthuma L, Hauschild M, Slootweg J, Kosnik M, Fantke P (2023) To Split or Not to Split: Characterizing Chemical Pollution Impacts in Aquatic Ecosystems with Species Sensitivity Distributions for Specific Taxonomic Groups. Environmental Science & Technology, 57: 14526-14538
気になっていたのですが、読めてなくて、別ルートで読まないといけないなと思って読んだ論文。タイトルの通りの論文で、水生植物、無脊椎動物(主に甲殻類)、脊椎動物(主に魚類)で分けてSSDを推定した方がいいのではないか、についてそのフレームワークも含めて検討した論文。個人的にいいなと思ったのは、Leoさん関係の多数の物質を対象としたSSDの論文で、生データが出てきたこと*1。正直、あんまり目新しいところはないのですが、一応以下はメモとして(否定的なコメントですません)。
- Figure 1にフローチャートがあるのですが*2、検定を繰り返すのはやめて、最初から複数分布と単一分布でモデル選択すればいいやん、というのが個人的な感想。データは公開されているので、これやろうとすればすぐできる…。
- HC20の信頼区間の幅で、分割無し、一部分割、フル分割のSSDのロバスト性を評価していて、それ自体は面白いと思うんだけど、なんかこれって、そのモデルのaccuracyみたいなところが軽視することにならないかなと、少し気になりました。しかし、正直、明らかにクリアに分かれる場合は除いて、もうこれは決めの問題でしかないような気がするのは、ボクが理解できていないせいか。。。
- そもそも、データが少なそうなイメージのLCAの文脈でSSDを分けることのご利益ってほんとにあるのかよくわからない*3。
- Ecologyな文脈じゃ、分割するのがwarrantedって書いているんだけど、全然ピンとこない。。。
方向性として、こういうのを真面目に考えないといけないというのは分かります!
2023年の振り返りと2024年の目標
大分遅くなりましたが、本年もよろしくお願いいたします。
2023年は所内出向が1月末で終わり、研究現場に復帰できた一方で、次男の持病が引き続きイマイチな中、年末に第3子(さらなる男児)が誕生し…と、変わらず色々あった一年でした。今は短いながらの育休中なのですが、変則的な勤務を許容してくれる職場に感謝です。
研究
- 論文は、筆頭2報(国際誌)、共同筆頭1報(国内)、共著3本という感じです。国際誌はIFがついてなかったりしますが、推進費の成果をきちんとまとめて、ToMEX1.0のデータ解析も出向から帰ってきてえいやでやってM&N誌掲載までいけたので個人的には満足していますが、やりたいことややらないといけないことに追いついてないのは事実です。。査読に苦戦している一本とかもあり、それが早めに形になってほしいなぁと思うところです。
- Yuichi Iwasaki, Hiroyuki Mano, Naohide Shinohara (2023) Linking levels of trace-metal concentrations and ambient toxicity to cladocerans to levels of effects on macroinvertebrate communities. Environmental Advances. 11:100348
- 野呂田晋, 岩崎雄一, 荻野激 (2023) 北海道精進川鉱山における坑廃水及び河川の水質の長期変化–今後の水質モニタリング方法に関する考察–. Journal of MMIJ, 139(4-8): 21-28.
- Yuichi Iwasaki, Kazutaka M. Takeshita, Koji Ueda, Wataru Naito (2023) Estimating species sensitivity distributions for microplastics by quantitively considering particle characteristics using a recently created ecotoxicity database. Microplastics and Nanoplastics. 3: 21.
- TKSTさんの前回の論文を参考に、カリフォルニアのグループが中心となって作られているToMEXのマイクロプラスチックの有害性データを使って、種の感受性分布を推定した論文です(Brief Report枠ではありますが)。Microplastics and Nanoplasticsに一本論文を!と思っていたので、良かったです。多分、エディターの構成的にも、査読者を見つけやすいのか、査読は早かったです。ファイバーの方がHC5(95%の種が保護できる濃度)が低いかも?みたいな結果が出てきていますが、それよりもToMEXくらいまとまったデータベースを使っても、まだまだこの精度のレベルですよ。。。というのが、個人的には重要なポイントかなと思います(いや、このこと自体は残念なことではあるのですが。。。)。
- Kazutaka M. Takeshita, Yuichi Iwasaki (2023) Application of a Bayesian structural time series model for evaluating eleven-year variation in pH in the headwaters of the Tama River, Japan. 24(3): 227–234
- 金属毒性の予測にpHが重要なので、pHが日内とかでどれくらい変動するのかを知りたくて、TKSTさんに相談して始めた研究です*4。結局日内データではなかなかなく、月観測の長期データの解析になってしまいましたが。。ある種、デジタル化したデータに階層モデルを当てはめたに留まっているのですが、まずは第一歩としては、その過程でも色々勉強になりました。
- 生態系管理専門委員会調査提言部会, 西田貴明, 岩崎雄一, 大澤隆文, 小笠原奨悟, 鎌田磨人, 佐々木章晴, 高川晋一, 高村典子, 中村太士, 中静透, 西廣淳, 古田尚也, 松田裕之, 吉田丈人 (2023) 自然の賢明な活用を目指して:グリーンインフラ・NbS の推進における生態学的視点. 保全生態学研究, 28(1), 2211
- Toyohiko Nakakubo, Midori Kawabata, Yuriko Ishikawa, Yuichi Iwasaki (2023) Modeling the effect of improved sewage disposal rates on ecological status for aquatic organisms in Japan. Heliyon. 9(11): e20943
- 阪大に異動されたNKKBさんの論文で、院生のKWBTさんが精力的に研究された成果です。下水処理率の改善に伴う河川のBODの減少を予測して、それに伴う河川生態系の変化として、BOD(生物化学的酸素要求量)とEPT種数(カゲロウ・カワゲラ・トビケラ目の種数の和)の関係を使った論文です。結果的に、EPT種数との関係は控えめな使い方になっていますが、こちらも研究過程を通して色々と新鮮な視点や刺激をもらいました。
- SETAC ET&C Exceptional Papers
日常
- 12月末に3人目が生まれました!*6。夜ご飯考えるの大変です。。。
- 8月は久々に帰高できたのも良かったです。
- 次男が秋頃まではぼちぼち順調だったのですが、インフルワクチンで体調を崩し、そのままずるずると…という感じでした。後半に出張なども行きだした矢先に、また逆戻りで、なかなか難しいなぁという感じです。
- ということで、まだしばらく飲み会は最低限にしています。引き続き、次男が落ち着くのを第一に生きていきたい。。*7
今年の目標・抱負
- 新しいことをする(特に手法関係)
- 論文を読む時間を取る
- 最近、ほとんど論文を読むことができていないので、もうちょっと積極的に時間を作りたいところです。読んだ論文数をログを作って、ポイントせいにするアプリとかないですかね(不純
- 論文は,形にしないといけないものをまだ2件ほど抱えているので、それらをしっかりさばきたいところです。
- 目先だと、アンケート関係と魚類中の金属濃度論文。。。
- 今まで1回も行ったことがない日本の学会にも参加したい(こちらも予定なし)。
- オンライン英会話を習ってもいいかも
- NHKのビジネス英会話を去年4月~12月までは地味に聞いてました。。わりと楽しい。
*1:ただ、ハンドリングされている方がそれは査読者に返さないでも自分で判断できるでしょというところを査読者に返して判断していた感じで、これではこのジャーナルのIFはあがらんだろうなぁと思った次第です。もう多分よほどのことがない限り、投稿しま(略
*2:そういえば、そのときは、NNKWさんと一緒だった!
*3:上の所内記事の写真も実はこの鉱山の河川の写真です
*4:もうちょっと具体的な経緯があった気もするのですが、忘れました。。。
*5:生態影響評価ガイダンスの作成に関わったこともあって、こういう委員会にも…と思って、立候補して委員として参画させてもらってるのですが、出向など色々あってほとんど会議に参加できておらず申し訳ない感じです。
*6:名前をなんとか決めれました
*7:第3子もいる…
新聞
弊所連載枠に、環境指標としての水生昆虫の紹介みたいな記事を書きました。広報の方がしっかり面倒をみてくれたので、ボクは夏休みの宿題的に初稿を書いて、あとは直してくれた原稿をベースに細かな修正提案くらいで、思ったより楽でした。小学生高学年+保護者向けという想定だったと思いますが、読んでくれた人が川にいって石ころをひっくり返してくれたらボクは満足です。
mainichi.jp
LCIA
Fantke P, Huijbregts M, Margni M, Hauschild M, Jolliet O, McKone TE, Rosenbaum RK, van de Meent D (2015) USEtox® 2.0 User Manual (Version 2)
Tutorials / Manuals | USEtox®
Life cycle impact assessmentあたりで(特に影響評価まわりで)何をやられているか、少し理解したいなと思って、USEtoxのManualを眺めてみたのですが*1、いい感じにざっくり説明でわかりやすかった*2。他にも、種の感受性分布(SSD)のHC50(すなわち、SSDの平均値)がこういうところに使われているのか、とか、ChronicのEC50とかも欲しい人がいるんだな、というのがしれて面白かった。自分の研究に繋げられるかというと、ちょっとではあるのですが。。。
Pierrat E, Barbarossa V, Núñez M, Scherer L, Link A, Damiani M, Verones F, Dorber M (2023) Global water consumption impacts on riverine fish species richness in Life Cycle Assessment. Science of the Total Environment, 854: 158702
Pierrat É, Laurent A, Dorber M, Rygaard M, Verones F, Hauschild M (2023) Advancing water footprint assessments: Combining the impacts of water pollution and scarcity. Science of the Total Environment, 870: 161910
関連して、これらの論文を眺めてみた。細かいところまでは理解が追いつかないけど、個人的な見解だと、評価自体はざっくりということは理解できた。こういう評価でも適材適所できちんとニーズがあるし、おおざっぱに評価したい場合には役に立つというのは一応理解しているつもりです。個人的に、前者の論文で、過去の共著論文が
"Species richness is generally associated with river flow via statistical regression, and the actual cause-effect relationship is more difficult to interpret (Yoshikawa et al. 2014)"
と引用されていて、「まさしくそのポイント、ボクが拘って論文に手を入れたところです!」、と思い出してちょっと懐かしかった。少しずつ改善しようとしているポイントがありつつ、果てしてその「改善」ってこのレベルの評価でどれくらい意味があるの、というのは、頭にいれておきたい。