手嶋龍一・佐藤優『イスラエル戦争の嘘ーー第三次世界大戦を回避せよ』(中公新書ラクレ、2024)

神保町PASSAGE(パサージュ)に行った帰り、
同じすずらん通りの東京堂書店で見つけて購入。
手嶋龍一・佐藤優イスラエル戦争の嘘ーー第三次世界大戦を回避せよ』
中公新書ラクレ、2024)を読む。



「まえがき」(手嶋)から引用する。


  本書での佐藤優氏の発言をどう受け取るか、
  それは読者の判断に委ねたい。
  ハマスの奇襲に圧倒的な軍事力で報復する
  イスラエルの行為を巡って交わされたわれわれの議論に接した読者は、
  佐藤さんがいつもならみせるはずの鋭利な論理と感情が
  幾分抑えられているように感じるかもしれない。
  それは多くの対論を共にしてきた筆者への配慮などでは決してない。
  発言の行間に垣間見える逡巡は、
  現場で生起している余りに悲惨な現実のゆえだと思う。


  最大の味方と信じてきたアメリカからも
  非難を浴びせられているネタニヤフ政権は、
  イスラエルの人びととは必ずしも同じではない。
  苦難のなかで佐藤さんに寄り添ってくれた心ある友人たちはいま、
  現政権と一線を画していると考えているのだろう。


  彼が心から敬愛するインテリジェンス・マスター、ハレヴィ氏
  (引用者注:エフライム・ハレヴィ元モサド長官)との交流を
  ここまで詳細に語ったのも故なしとしない。
  ハレヴィ氏の教えを闇夜の灯としながら、
  事態の先行きに打開策を見つけ出そうという姿勢が見え隠れしている。
  (略)

                             (p.5)


「あとがき」(佐藤)から引用する。


  日本にもイスラエル専門家はたくさんいる。
  ただし、モサドイスラエル諜報特務庁)と
  最も親しく付き合った日本の官僚は私であると自負している。
  2002年5月に鈴木宗男事件に連座して東京地方検察庁に逮捕され、
  私が外交とインテリジェンスの現場から離れた後も
  モサドの友人たちは私との関係を維持した。
  今も頻繁にテルアビブの友人(すでにモサドは退官している)と
  連絡をとっている。
  (略)


  本書のタイトル『イスラエルの嘘』についても若干の説明がいる。
  まず、日本の新聞やテレビの報道からは、
  イスラエルパレスチナの間で戦争が展開されているという印象を受ける。
  これは間違いだ。
  イスラエルの敵はパレスチナではない。


  イスラエルはテロ組織であるハマスに対する掃討作戦を展開しているのだ。
  この種の掃討作戦においては、必ず無辜の住民が巻き込まれる。
  ハマスが非武装の一般住民を「人間の盾」として戦闘に利用しているからだ。
  イスラエルによる病院の攻撃も、
  ハマスが病院に武器を持ち込み、戦闘に用いているので、
  テロリスト掃討のためにやむを得ず行っているのだ。


  もちろん人間の命は何よりも重要だ。
  しかし、ユダヤ人をユダヤ人であるという属性のみを理由に
  地上から抹殺するという思想を持ち、
  それを実践するハマスのような組織とイスラエル
  平和共存することは原理的に不可能なのである。


  この難しい対談に付き合ってくださった
  外交ジャーナリストで作家の手嶋龍一氏に深く感謝します。
  手嶋氏は論点(特に人道面における)が明確になるように、
  あえて弁証法的な対論を行ってくださいました。
  (略)


本書の構成は以下の通り。


  まえがき 手嶋龍一

  第1章 イスラエル vs. ハマス

  第2章 ハマスの内在的論理とパレスチナ

  第3章 ネタニヤフ首相とイスラエルの内在的論理

  第4章 パレスチナイスラエル その悲痛な歴史

  第5章 近づく第三次世界大戦の足音

  第6章 日本には戦争を止める力がある

  あとがき 佐藤優


    編集:中西恵子中央公論新社ノンフィクション編集部長)
    構成:本間大樹(フリーランス編集者兼ライター)
    本文DTP:市川真樹子




若者に期待したい。毎日1時間でも、書物に向き合う時間を作ってもらいたい(亮)

クリッピングから
藤原書店PR誌「機」2024年4月号(No.385)



巻末の「出版随想」から引用する。
(数字表記を漢字からアラビア数字に変更した)


  ▶現在、本を生業としている業界が立ち行かなくなっている。
  売上げを見ても、四半世紀前の最盛期の40%近くに落ち込み、
  書店数も、2分の1に減少している。
  教養書で、初版3000部が1500部に、
  学術書でも1000部が500部といった具合いだ。
  現今の日本の経済状態では、容易に定価を上げることはできず、
  売上げがジリ貧状態を続けている。


  ▶小社も "少部数高定価” 路線で、
  ロングセラーを軸に出版活動を続けてきたが、
  この10年、5000円以上の高定価本にブレーキがかかってきた。
  その理由は、読書人の高齢化や
  購買者の経済事情が許さなくなったなど色々考えられる。
  「知の再生産」が段々出来なくなってきたということだ。
  かつては、大新聞等で書評されると、本の動きに大きな影響があったが、
  現在では、それもあまり期待できない。(略)


  ▶(略)現状を見ていると、
  この国は滅亡する道を辿っていると思わざるをえない。(略)
  ▶若者に期待したい。
  自分の興味がある分野の何でもいい。
  毎日1時間でも、書物に向き合う時間を作ってもらいたい。
  1年続ければかなりの成果は出るはずだ。
  数年続けたらきっと何かを摑める、と思う。

                        (亮)

                        (p.32)


ヒコロヒー評:上出遼平『ありえない仕事術』(徳間書店、2024)

クリッピングから
毎日新聞2024年4月27日朝刊
「今週の本棚/話題の本」ヒコロヒー
上出遼平『ありえない仕事術』(徳間書店、2024)



  自分を救えるのも窮地に陥れるのも
  常に自分しかいないと気がついたのは
  いつ頃(ごろ)だっただろうか。
  敵や味方も好きなものも嫌いなものも、
  それらを作り出しているのは
  紛れもなく己の心や解釈であるからして、
  つまりは己自身こそが最たる敵となり味方となりうるのだ
  と漠然と知っていたのは、いつ、そしてなぜだったのだろうか。


  『ありえない仕事術』(上出遼平著・徳間書店・1050円)は、
  そのキャリアをテレビ東京でスタートさせた元テレビマンで
  ドキュメンタリー監督である上出氏が
  「仕事の方法論」というテーマで綴(つづ)った一冊である。
  彼が制作したドキュメンタリー番組や
  幾つかの著書を興味深く貪(むさぼ)っていた自分にとって、
  本書はやや衝撃的だった。


  タイトルが凡庸なビジネス書
  ないしは自己啓発書のそれであることに
  「どうせ出版社がでしゃばったんじゃ、
  本人は抗(あらが)えんかったんやのう」などと推理をし、
  権力を憎み、著者に同情するという慈しみの心も忘れなかった
  (何とも素晴らしい人間性である)。


  しかしそれは、最初のページをめくる前の一瞬に過ぎなかった。
  最後のページをめくり終えた頃には、
  なぜこのようなタイトルにしたかがよく理解できた。
  このような本を手に取ってしまう人にこそ、
  届かなければならなかった。
  そのための罠(わな)めいた題名だったのだろうか、
  私のタコ推理も程々にである。


  仕事と評価というのは切り離せないが、
  成功や評価の奴隷になってしまえば自分自身を見失うだろう。
  評価されるという経験はドラッグに近い。
  あの恍惚(こうこつ)感は他に代え難く、
  名誉心を煽(あお)られ、
  そうして知らぬ間に競争を意識させられていく。
  その結果、かつて重んじていた自分自身の理念さえ邪険に扱う。
  

  ひどく脆弱(ぜいじゃく)な「自分の正義」なるものの
  敵となるのか、味方となるのか、
  それは常に自分で選択しなければならない。
  あなたは今どこにいるだろうか。
  そこは、どこだろうか。
  あなたの心があるべき所にあればよいなと、
  余計なお世話を言いたくなってしまった。

                  (芸人)






池上彰・佐藤優『グローバルサウスの逆襲』(文春新書、2024)

この二人の対談は見逃せない。
木戸銭990円(税込)を払って覗いてみる。
池上彰佐藤優『グローバルサウスの逆襲』(文春新書)を読む。



「はじめに」(池上)から引用する。


  佐藤優氏と対談していると、
  化学反応とでも言うべきでしょうか。
  想定していた話が思わぬ方向に進んでいくことがよくあります。
  本書も、そんな形になりました。


  当初は、イスラエルによるハマスへの攻撃や
  ロシアによるウクライナ侵攻、さらにアメリカ大統領選挙と、
  現下の国際情勢を語る上で欠かせない素材を俎上に載せていたのですが、
  いつしか「グローバルサウス」の話に発展しました。
  (略)


  開発途上国と呼ばれた南の国々は、
  北半球に位置する先進諸国によって占領されたり
  植民地化されたりしてきました。
  それが、どれだけ屈辱的だったことでしょう。
  その途上国が独裁的な指導者によって成長を始めると、
  北半球の国々が余計な口を出してきます。
  曰く「民主主義的であれ」、曰く「自由な言論活動を保障せよ」、
  曰く「国際社会と協調せよ」等々。


  「何を勝手なことを」と、
  途上国の人たちは言うに違いありません。
  「お前たちは我々を植民地にして人権無視。
  抵抗を抑圧して暴利をむさぼってきたではないか。
  それが、いまになって我々にお説教を垂れるとは、
  どういう神経をしているのだ」と。
  (略)


  そんな全体の動きのモデルになっているのが、
  アメリカのドナルド・トランプ前大統領です。
  「アメリカ・ファースト」を主張し、
  国際協調に見向きもしない姿勢は、まさに開発途上国
  グローバルサウスそのものです。
  彼は、まさにアメリカ国内での
  「グローバルサウス」を象徴しています。

                      (pp.3-6)


「おわりに」(佐藤)から引用する。


  池上彰氏との本文中の対談でも述べたが、
  グローバルサウスという概念は奇妙だ。
  グローバルとは国家の壁を越えて、
  ヒト・モノ・カネが自由に動く現象を指す。
  経済的には新自由主義と対応する概念だ。
  従って、グローバルノースという概念は成立する。


  対して、グローバルノースに含まれない
  サウス(南)と呼ばれる地域では、国家主権が基本になる。
  従って、国境を越えて、ヒト・モノ・カネは流れない。
  だから国家と国家の関係、
  すなわちインターナショナルが重要になる。
  グローバルノースに対抗しているのは
  サウスインターナショナルなのである。


  従って、本書のタイトルは
   「サウスインターナショナルの逆襲」
  とするのが概念的には正しいのだ。
  もっとも奇異なタイトルをつけると
  読者に本書が届かなくなるので、
  あえてサウスインターナショナルには固執しなかった。

                       (p.217)


イスラエルハマス攻撃について
池上さんは佐藤さんに対して異論を唱える。


  池上 佐藤さんとはいつも多くの問題で意見が一致しますが、
     今回はややスタンスが異なりますね。
     「天井のない牢獄」と称されるガザを現地取材した際、
     私は人々の悲惨な生活を目にして、
     彼らの絶望感はいかほどのものか、と言葉を失いました。


     ハマスの蛮行は厳しく糾弾されるべきですが、
     その背景にはガザの凄惨な現状がある。
     しかも、パレスチナの一般市民が
     犠牲になっているのを見るのはやりきれません。
     ガザの死者は三万人に達したと報じられています
     (2024年3月初旬時点)。

                        (p.53)


本書の構成は以下の通り。


  はじめに 池上彰

  プロローグ グローバルサウスの逆襲が始まった

  第一章 中東情勢から動向を読み解く

  第二章 アジアの均衡が崩れるとき

  第三章 ロシアと結びつくアフリカ

  第四章 アメリカ大統領選が世界最大のリスク

  エピローグ グローバルサウスは福音か、混沌か

  おわりに 佐藤優

    構成・石井謙一郎(フリーランス編集者/ライター)


    編集: 前島篤志文藝春秋
        西本幸恒(文春新書編集部編集長)
        東郷雄多(文春新書編集部)



働かぬ理由は何歳までいるの(小野小乃々)

クリッピングから
讀賣新聞2024年4月22日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  働かぬ理由は何歳までいるの
  土にかえれぬ舗道の落ち葉

     新宮市 小野小乃々


    【評】高齢になっても働くことを余儀なくされる
      昨今の日本の状況。
      人間も自然の一部のはずなのに。
      暗澹(あんたん)たる気持ちになる下の句だ。


  顔という丘に両手を這わせると
  星が見えなくなる場所がある

        豊中市 葉村直


  百年の眠りを解いてやるように
  水へと放つ切り干し大根

      平塚市 小林真希子


今週のもう2首。


  通勤で啓発本を読む人の
  座席を譲る動きがきれい

     下関市 伊藤雄大


  三次元座標のような渋谷駅
  ランドセルの児はすいすい歩く

       静岡市 柴田和彦



(毎月第2週担当講師が万智さん。司会はヒコロヒー)

まず体を動かして、やってみること自体が素晴らしいんですよ(森下洋子)

クリッピングから
讀賣新聞2024年4月22日朝刊
人生100年の歩き方」 毎日喜びをもって生きる
森下洋子さん(バレリーナ)②  聞き手・久田恵さん(作家)


     (略)

  森下 まず体を動かして、
     やってみること自体が素晴らしいんですよ。
     うちのバレエ学校には「エレガンスクラス」という
     大人の初心者クラスがあって、
     70、80代で発表会に出る人もいるんです。
     お勤め帰りに通ってくれたり、
     50代になって初めてトウシューズを履いたりする人もいます。
     こんなに幅広い世代がバレエに親しんでいる国は、
     日本のほかにはないですね。

  久田 私も再チャレンジしてみようかしら。

  森下 ぜひ。
     皆さん、生き生きして、本当にきれいになるんです。
     衣装を着て、メイクをして、照明が当たる舞台に立つと、
     皆さん喜びに満ちあふれて。姿勢もよくなるし、
     手がきれいに上がるようになります。

     「地下鉄の階段を上れるようになりました」とか、
     「背中がきれいになったと言われました」とか
     生徒さんが報告してくれます。

  久田 すごいですね。

  森下 バレエは難しいと思っている方や、
     シニアの方に健康になっていただきたいと、
     バレエの動きを取り入れた体操のクラスもあります。
     バレエの音楽に合わせて、
     笑顔で脚を上げ下げしたり、膝を伸ばしたり。
     90代の方や男性の参加者もいらっしゃいます。
     皆、汗をびっしょりかいて、
     すっきりしてお帰りになります。

  久田 それはいいわね。
     私は普段は近所を散歩するくらいで、
     体を動かさないから。

  森下 何でもそうですけれど、
     いつ初めても遅いということはないんですよ。