2010年予算、政府案決定

ということで、2010年度の政府予算案が閣議決定されました。財務省の資料によれば

文教及び科学振興費
昨年 今年
53,104 55,860 +2,756(+5.2%)
文教関係費
39,327 42,538 +3,211(+8.2%)
科学技術振興費
13,777 13,321 ▲455(▲3.3%)
http://www.mof.go.jp/seifuan22/yosan009.pdf より

となっています。内容は資料を見ていただければと思いますが、大学でも学部生教育まではある程度予算もつけられており、気配りを感じることができ、その点については好感を覚えます。その一方で、研究にまつわる面はどうかといえば、僕が奉職するグローバルCOE関係としては

3.大学教育の充実と教育の質保証
(1)大学の機能別分化を踏まえた教育研究の水準向上と教育研究基盤の確保
① 国公私立大学を通じた教育研究水準向上に向けた支援 前年度予算額52,902 本年度41,046 増減 -11,856 (単位百万円)
○概要: 各大学が自主的に進める優れた取組を支援することにより、質の高い大学教育を実現する。
  ◆大学教育・学生支援推進事業(教育課程、成績評価基準など学部教育の改革支援プログラム等) 【H21〜】( 4,539百万円)
    我が国の学士課程の質の向上・保証のため、学部教育の抜本的改革につながる取組を支援する。264件〔新規分20件、継続分244件〕
◆大学の就業力育成支援事業【新規】                  ( 3,029百万円)
    学生の卒業後の社会的・職業的自立につながる教育課程内外にわたる大学等の実学的取組(キャリアガイダンス)を支援する。130件
◆大学院教育改革推進事業【H19〜】             (28,678百万円)
    国際的に卓越した教育研究拠点形成のための取組と、組織的・体系的なカリキュラムの構築等による大学院教育の実質化を図る取組を支援する。
    ・グローバルCOEプログラム             140件〔継続分〕
    ・組織的な大学院教育改革推進プログラム         95件〔継続分〕
◆大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム【H20〜】   ( 4,800百万円)
    複数大学による質保証の取組、地域と一体となった人材養成など、1大学だけでは実現困難な課題に対して複数大学が連携・共同した取組を支援する。 92件〔継続分〕
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2009/12/25/1288506_1.pdf より

実際の政府案が発表され、事業仕分けで下された「三分の一程度の縮減」という結論よりは緩和され、20%強の減額という形になりました。その一方、事業仕分けで厳しい意見が出されたものにも関わらず、項目立てされてまでアピールされているものとして

3.最先端の研究開発の支援
環境分野や次世代スーパーコンピュータ、宇宙開発分野における最先端の研究開発を推進。
革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラの構築

とあり、

○革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラの構築
190億円 ⇒ 228億円 (+37億円、+19.7%)
事業仕分けの評価結果を踏まえ、計画を大幅に見直し、開発側から利用者側へ視点を転換するとともに、開発の加速に伴う追加経費を削減するなど事業を見直して推進。

などとされて、下衆な言葉遣いをすればスパコンが焼け太る結果となりました。これも新聞・テレビの「主要な科学ジャーナリズム」が「ノーベル賞研究者が」・「スパコンに代表される」という一本調子の枕詞で「科学技術」の支援をしてくれたおかげでしょう。この陰でナショナルバイオリソースプロジェクト(理研BRCなど)はがっちり削られています。(『7.我が国の成長力強化に資する技術基盤の確立』昨年56,807、今年48,296、差額-8,511)。ライフサイエンスを支えるために必要な、実験動植物や、各種細胞(ES細胞も含む)、各種生物の遺伝子材料等のリソースを長期にわたって維持する、派手さはなくとも欠かすことのできないものを担う部門がお金を削られているわけです。(蛇足ですがiPS細胞にだけ金を出せば、ES細胞はもういらない、というのは大変な誤解です) 今月に入って、経済不況が起こったアイスランドでは、国民のゲノム情報(遺伝情報)を網羅的にバンクして、研究を行ってきた民間企業deCODEが破綻しています。その結果、アイスランド国民はゲノム情報が外部に流出するかもしれないという危機にさらされており、民間と国が住み分ける事業が厳然と存在することを示してもいるのです。

スパコンの用途・開発方法の再検討というのは大変いいことですが、現像や微増ならばともかく、20%近く増えるという結果はいったいなんなんでしょう。もちろんスパコン研究の当事者が悪いということではありません。ただ、声の大きい人の目に見える意見だけが酌まれてしまったという結果は非常に残念です。彼らの視野の狭さを情けなく思うと同時に、政権与党、そして官僚側の安易さや姑息さを強く指摘しておきます。

研究者の側の意見として、自らを顧みる姿勢がないことは週刊文春のインタビューでも指摘しました(その後、一部の研究者からはそうした言説もだいぶ出てきたようですが)。しかし、一連の騒動を振り返って、マスメディアの中で、一番読者・視聴者に影響を与えるはずの社会面・経済面の記事を執筆する記者さんたちの論調に、科学者の稚拙な意見に対する批評的な言説が極めて少なかったことを残念に思います。なんにせよ、自分個人はこれまで以上に研究のありかた、国民への責任をどう果たすかを問いかけ続けなければならないこと肝に銘じ、その反省を何らかの形にしていこうと思っています。

竜頭蛇尾というよりひどい結果に。

スパコン予算、復活へ 仕分け結果を転換、227億円
鳩山政権は16日、事業仕分けで「凍結」と判定された「次世代スーパーコンピューターの開発」の「復活」を認め、2010年度予算で227億円を計上することを決めた。科学者らの強い反発を踏まえ、初めて仕分け結果を転換した。文部科学省の概算要求(268億円)と比べても41億円の減額(約15%減)にとどまった。
(中略)
だが、ノーベル賞受賞者らが仕分け結果に強く反発し、科学技術予算の重要性を強調した。これを受けて3閣僚は川端達夫文科相と16日に協議し、「説明会などで説明責任を果たす」ことを条件に予算の「復活」を受け入れた。大串博志財務政務官は記者会見で「政治の意思で決めた。特例的な結果だ」と説明した。(以下略) http://www.asahi.com/politics/update/1216/TKY200912160356.html より

我が国のスパコンはァァァァァァァアアア世界一ィィィイイイイ、というワンフレーズだけが得をして、若手の競争資金は復活されず、というイビツな構造を誰が望んだんですかねえ。残念ながら、週刊文春のインタビューで危惧したことが現実になっていくようで、残念です。しかし文科省によせられたバブリックコメントをみると、ずいぶん偉い肩書きを背負っている方々もげんなりするコメントをしておられます。

女性研究者について:研究支援は本来、男女を問わず平等に行われるべきである。本制度の対象となるであろう30代後半から40代前半の研究者の男女比を考慮すると、分野によるかもしれないが、女性の割合30%は多すぎであると思われる。これだけの割合で女性研究者の課題を採択しようとすると、本来、このような厚い支援を受けるべきでない女性研究者が支援を受けることになり、税金の有効活用ができなくなると思う。

女性研究者支援についてであるが、現在の幾つかの大学の対応は行き過ぎであると思われる。研究者の公募が女性限定であるというような完全な男性差別の状態もあるようである。有能な女性が女性であるという理由で不利益を被るのは間違った状態であるが、女性研究者を増やすために有能な男性研究者を差し置いて女性を採用するということが起きれば愚かである。研究者はその研究能力で評価されるべきである。当たり前のことである。

この方々はアファーマティブアクションという言葉をきっと存じておられないのでしょう。パブコメを書く真摯な姿勢とか労力とかいったものは、科学研究をちゃんと守らなければならない、という危機意識の現れでもあるわけですから、本来敬意をもって接するべきなんでしょうが…。なんにしても「女なんかほっといて俺たちを救えよ!」なんてことを言っている場合じゃないのをお分かりでないご様子。こうした「放言」に近いものをみるとさらなる徒労感に襲われるわけですが、そういうわけにもいきません。それはそれ、これはこれとして、自分のやるべきことをやりたいと思います。

第一回日本ウェブ学会にいってきました

東大本郷キャンパス安田講堂で開かれた第一回日本ウェブ学会シンポジウムに参加してきました。事前に1000人以上の登録があったとのことで、ずいぶん盛況でした。現在のwebというコンテンツの幅の広さを物語るように、「民主主義2.0」から情報解析の手法まで幅広い発表が行われ、刺激的なシンポジウムでした。
今更ながら再確認したのは、やはり「知」は共有されてナンボだな、ということです。ウェブの情報からある単語についての言及を抽出して、そのクラスタのネットワーク構造を可視化すると、情報がどう伝播したかが一目瞭然ですし、時系列を遡れば、どこからその情報が発信されたかもはっきりわかります。ディスプレイでそのさまをはっきり映し出されると、一部の識者が転がしていても発展しないことが実感をともなって理解されました。前々から理屈ではわかっていることではあるのですが、再確認できただけでも参加した甲斐がありました。
第一回は盛況でしたが、次回以降も建設的に発展していくとよいな、と思います。

日本SF大賞 伊藤計劃さんの「ハーモニー」に

第30回日本SF大賞(日本SF作家クラブ主催)が6日、故・伊藤計劃(けいかく)さんの「ハーモニー」(早川書房)に決まった。故人の大賞受賞は初めて。また、5月に死去した栗本薫さんの「グイン・サーガ」に特別賞が贈られる。

 伊藤さんは気鋭のSF作家として期待されながら、がんのため今年3月に34歳の若さで死去した。「ハーモニー」はSFファンの投票で選ばれる今年の「星雲賞」日本長編部門も受賞している。

 第11回日本SF新人賞(同)は、伊野隆之さん「森の言葉/森への飛翔」▽山口優さん「シンギュラリティ・コンクェスト」が選ばれた。

 ▽伊藤計劃(けいかく)さんの両親のコメント 息子を亡くして、親として、とても寂しい思いをしておりました時に、うれしいニュースが飛び込んできました。栄誉ある素晴らしい賞を頂くことができて感激しております。「ハーモニー」は、ほとんど病院のベッドの上で書き上げたものです。残された時間の中で精いっぱい持てるエネルギーを投入して完成させることができました。さっそく墓前に報告いたします。応援して下さった皆様ありがとうございました。
http://mainichi.jp/enta/art/news/20091206mog00m040029000c.html より引用

今朝の東京新聞朝日新聞でも取り上げられていましたが、今年の日本SF大賞受賞作が伊藤計劃さんの「ハーモニー」に決まったそうです。
一時退院された伊藤さんとカラオケに行ったり、最後の入院時に病床を何度かお見舞いしたことが思い出されます。個人的には長谷敏司さんの『あなたのための物語』に持っていかれるかも、と予想していたのですが(こちらもよい作品ですが、若干冗長だったかな…。)、SF最高峰の賞に認められて本当によかったと思います。仮に「亡くなったから」という理由で作品が持ち上げられたとすれば、伊藤さんの硬骨からすれば屈辱でしょうが、今回の受賞作は大賞の名に恥じない作品でしたから、そうした危惧は無用でしょう。そういう意味では、転載した記事は事実関係を書いたものであるにせよ「故人の大賞受賞は初めて」は大きなお世話だよ、と思ったりもします。

http://www.amazon.co.jp/dp/415208992X/

おもちゃ2題

ほしいおもちゃ
http://www.amazon.co.jp/dp/B000AQDX3U かわええ…かっちょええ…乗れるのようごくのよコレ。
ホンモノはこっち。http://www.anahori.com/product/pc01.html これもちっちゃかわいいですね。

ほしくないおもちゃ
http://www.e-meitetsu.com/mds/topics/1201robotdoala/index.html
…どうしてこうなった…

事業仕分けに対する全グローバルCOE拠点リーダー連名の声明発表

昨日、東京大学本郷キャンパス・小柴ホールにて開かれた全グローバルCOE拠点リーダー連名の声明を発表する会見に行ってきました。詳細は省きますが、「日本の未来を見据えたとき、若手研究者養成の場としてのG-COEを守らなければならない」という趣旨で、その趣旨には僕も反対するところはありません。自分も給料をいただいている身ですし。ただ、残念な点がいくつかありました。いかに掻い摘んで。

まず、先生たちの声明文会見、フロアの意見において「世界では当然だから」というロジックが多かったのですが、よそはよそ、うちはうちといわれたら終わりです。まったく引用するなとは言いませんが、なぜほかの国もそうしているのかをきちんと言葉にしたほうがよかったように思います。もうひとつ、フロアからさかんにあがった意見ですが、ものすごく乱暴に言えば「みんな俺たちのことをわかってくれないんだ!」というのが根底にあるように思えた点です。いくら貯金を取り崩して生活しようが飢えようが、「アルバイトしながらバンドを組むというひとと何が違うの?」「世の中には失業者はいっぱいいる。ホームレスさえたくさん出ている」といわれたらひとたまりもないんです。自分たちの矜持ですから、「学術研究は崇高だ」という考えを持つことは否定しません。しかし、それが万人に共有されるという考え方は、もう表にはださないほうがよいでしょう。なぜ「わかってもらえない」のか、そこに立ち返る必要があります。

折悪しく、学習研究社が発行していた『〜年の科学』『〜年の学習』が休刊になりました。社会のニーズを捉え切れなかった雑誌メディアがたどる道としてはしかたがないところもあります。雑誌に寿命があるのも確かです。ただ『科学』と銘打った雑誌が置いてけぼりにされてしまったのかは考えなければならないでしょう。今回の記者会見も、報道陣の姿はあまり多くなかったようです。「コップの中」の騒動をよそに、ドバイ・ショックに煽られた円高傾向などを受け、社会では風化しつつある気すらします。このまま「スパコンなどに代表される」扱いは非常に問題です。

会見のフロアで、韓国から留学している特別助教がコメントした内容は印象的でした。「仕分けに携わった政治家の意識は、おそらく国民一般には受け入れられていると思う。ただ科学の発展をとめることは未来をあきらめることだ。そうしたことを、研究者は世間に理解される言葉で発信しなければいけない」。自分も含め、日本人研究者の口からこれが出なかったのは非常に残念に思いました。だって、G-COEの原資は、日本国民から預かった税金なんですから。

「週刊文春」にインタビュー記事を掲載していただきました。

ちょっと遅くなりましたが、先週木曜売りの週刊文春で、科学・技術分野の事業仕分けに関するインタビューを掲載してもらいました。見出しが死ぬほど恥ずかしい、というのはまあ置いておくとして。(後付だったんですよ…、許して…)
連休中に受けたものなのでG-COEの仕分け等は反映されていない、紙面の関係上切られた部分も多いなどの点がありますが、これまでいろいろなところで発表されている声明文等とは違い、仕分けに対して功罪両面での評価を行い、同時に科学者の側にも研究の透明化が必要であること、科学行政にも整理が必要であることを指摘・提言させてもらいました。
報道によれば、現状の体制が温存される可能性も出てきているようです。国が豊かならば幸せなことなのでしょうが、現在の経済状態を考えれば、それは困難かと思います。これを機に、研究当事者も能動的に自己改革を意図しなければ、10年先にはもっとひどい奈落がまっているという恐怖を感じています。
もう古くなってしまったので店頭にあるかどうかわかりませんが、ご一読くだれば幸いです。