スイスロールもウマいけれども

『マツコ有吉怒り新党』が面白いので毎週観ている。日常の小さな理不尽に立ち向かうというあの番組コンセプトは大変素晴らしいと思う。職場にも私以外に数人番組のファンがおり、木曜日は番組の話に花が咲くのだが、今日は一人の同僚が憮然とした表情をしていた。


「あのさ、俺、あの番組に投稿したいものがあるんだよね」


その冷たい目に、私の心は凍りついた。いつも一緒に談笑を交わしている彼。そんな彼の表情をここまで曇らせている理不尽な事柄とは一体何なのか。番組に投稿する前に、身近にいる我々が彼の不満を取り除くことができたら……そんな思いを胸に、「一体、君の心をかき乱しているのはどういう事柄？」と尋ねると、同僚はたっぷり十数秒黙ったあと、堰を切ったように語りだした。


「あのさ、最近の食品に安易に『プレミアム』って付けるのすげえムカつくんだよね！なんなの一体アレ。どこがプレミアムなの！？ロー○ンのプレミアムロールケーキなんてちっともウマくねえし！！マク○ナルドのプレミアムコーヒーって何なんだよ一体あそこにプレミアムなんか求めてねえ！！！」


それから十数分。私と彼は「そんなこと言ったってスイスロールに比べれば充分プレミアムだわこのスカポンタン」「うるせえこの味覚オンチ」などと口汚く罵りあった後、揃って上司に「もうお前らいい加減にしてくれよ三十代なんだからさぁ！！」と怒られた。プレミアムな商品がどうとか言う前に我々こそがプレミアムな人生を送るべきなのでは……そんな思いを胸にしょぼんとしていた我々に、上司は「俺のほうこそ『まともに仕事をしてくれない中堅社員に腹が立つ』って投稿したいわ！！」と言い放ってどこかへ消えていった。彼にとっての小さな理不尽が自分たちなのだと思うと、プレミアムとか本気でどうでも良くなった。

オメガ

分不相応にもオメガのスピードマスターを持っているのだけれど、乱暴に扱っていたら動かなくなり、修理に出すのも金がかかるということで、数年間放置していた。宝の持ち腐れなのは百も承知ではあるが、万年金欠の我が身としては致し方ない部分もあったのだ。


しかし、自分もとうとう三十路。この節目に、止まった時間を再び動かすのも悪くはないかも知れぬ。そう思い、修理屋に持って行ったのは一週間前。そして今日、もりもり昼食を食べていた私の元にかかってきた電話は修理工からのもので、彼は事務的な声で「七万円です」と告げた。足元がガラガラと崩れていく思いがした。ななまんえん！！オーバーホールは二万円弱って言ってたじゃない……そう食い下がると、彼は「使い方があまりにも雑で、全てを直すにはこの金額になる」とにべもなく言い放った。全てはずさんな私の管理体制にあったということか。それにしたってオメガよ。それなりの値段のするものなのに、貴様はどうしてそんなにも脆いのだ。乱暴にといったって、冷蔵庫の上から数度落としたくらいのことではないか。それが、やれひびが入っただの外周が凹んでいるだの、そんなやわな作りで許されると思っているのか……それにしたって貧しいこの身の上から七万円の出費は大変痛い。何かいい方法はないだろうか……そう思っていた矢先に父からメールがきた。鬱陶しいと思いながら本文を開くと、『誕生日プレゼントをやろう。何がいいか言ってみなさい』との文が。これを逃す手はなかった。


『大好きなパパへ。七万円ください』


降って沸いた幸運をかみ締め笑顔でせこせこメールを打つ私に、一緒に食事をしていた後輩は「三十路として最悪の行為ですね」と言い放った。その冷徹な表情に私の笑顔は凍りつき、私はうすぼんやりと「Gショックにするか……」と思うほかなかった。落としてもブン投げても壊れないGショック。そういうものに、私はなりたい。

三十路

やっぱり間を空けてしまうと良くないもので、一日空けると「二日分書かなきゃ……」と思い挫折し、二日空けると「三日分書かなきゃ……」と思い挫折し……と、雪だるま式に挫折が増えていくのですね。いけないいけない。書かない間に昨日、三十路になってしまいました。いよいよ中年の仲間入りですので、きちんと毎日を丁寧に生きていこうと思います。


ちなみに、昨日あったことといえば、カバンを買いに行ったら店員の女性に「私もこのカバン持ってます！」と言われたので「こ、こんなデブとおそろいになってしまいますがいいんですか……！？」と返したら絶句されたことくらいです。買いましたけど。


ともかく、改めてちゃんと書いていきたいと思います。よろしくお願いします。