Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

大谷選手の元通訳水原一平氏問題の春闘への影響について

メジャーリーガー大谷さんの通訳、水原一平さんの違法賭博問題が、ギャンブル依存症、7億円という負債の額、といったスキャンダラスな内容で大きな騒動になっている。大谷さんとの関係性を知っていれば、裏の姿とのギャップにショックを受けるのも無理はない。僕には他人事とは思えなかった。なぜなら僕もパチスロにはまっていたからだ。4号機、北斗の拳やパルサーの時代だ。仕事に疲れて瞳をとじたとき瞼に、リンの「ケーン!」という叫び声と共に、緑色のカエルとさくらんぼの付いた赤7が上から下にスローで流れてくる映像が見えたとき、「もうダメだ」と思った。借金はなかった。けれども負けの額が5桁円という天文学的な額に達していた。幸運だったのは、うだつのあがらないサラリーマン生活で運を使っていなかった分、比較的ギャンブル運に恵まれ、ときどきケンシロウが北斗百裂拳をかましてくれたので負け続けることがなかったこと、ただの小市民だったので悪い胴元に付けこまれることがなかったことだ。報道が事実なら一平さんが関わったのはスポーツ賭博である。ネットでポチポチと賭けていたら、その体験はフィジカルな実感を伴うものではなく、そのせいで辞めるきっかけをつかめなかったかもしれない。悲劇だ。そもそも、大谷さんの近くにいられるだけで一人の人間としての運を使い果たしているので賭け事で勝てるわけがないことに気づかなったのが最大の悲劇だろう。いずれにせよ、過去は変えられないので、きちんとした治療を受けてやりなおしてもらいたい。

さて、この問題は僕個人のこうした黒い過去を思い出させるとともに、今の僕にも大きな影響を与えている。このブログやSNSで執拗に発信しているように、僕のこづかいの額は月に19,000円だ。馬鹿にされているが、昨年末、奥様との粘り強い交渉の結果18,000円から1,000円上げてもらった、血と涙の19,000円なのだ。この事実からお分かりのとおりウチの奥様はマネーについては非情に厳しいスタンスを取っている御方である。なので今年になってから、綺麗だねー可愛いねーとお世辞を言ったり、機嫌を害するような発言をしないよう細心の注意を払ったり、トイレを綺麗につかうなど、次のこづかいアップに向けて地道な努力をしてきた。そこで今回の騒動だ。一平さん違法賭博でロサンゼルス・ドジャース解雇のニュースが流れたときウチの奥様がどのような感想をお持ちになられたのか正確なところは僕にはわからない。僕にはそれを確かめる勇気はなかった。ただ、奥様がテレビを見つめながら「お金は人生を狂わせる。本当に恐ろしいものね。身分相応の金額があればいい。オオタニくんが1000億なら、キミはせいぜい……」と呟いているのが聞こえてしまったので厳しい近未来が待ち受けているだろう。これから計画している家庭内春闘、月19,000円からのこづかいアップ交渉に悪い影響が出るのは間違いない。なお、こづかいは交通系ICカードSuicaのチャージで支給されるので、上限は2万円である。マックス1000円アップだ。1000億の男のそばにいる人間には理解できないだろうが、僕は、上限額までの1000円に命をかけてきたのだ。他方、ウチの奥様は、一平さんの奥様が賭博と負債については知らなかったらしいという続報を受けて、歪んだ正義感からさらなる金銭管理を徹底させようと企てているような雰囲気を醸し出している。このような状況から、家庭内春闘がまさかのダウン決着になることだって十分に考えられる。きっつー。いったいどうしてくれるんだ?水原一平さんにはギャンブル依存症の完治を願うとともに強く抗議しておく。(所要時間21分)

AIに「プロの謝罪」ができますか?

先日、謝罪(とクレーム対応)のために北関東エリアまで車で赴いた。気の乗らない、嫌な仕事だ。再発防止対策は万全を期していたが、嫌味のひとつふたつはいわれる。最悪なのは、謝っているのに謝ったら済むと思うなと言ってくる人、何をしても怒りをあらわす人がいることである。そんなとき僕は、上野クリニックのCMに出てくる男性タレントのように首を縮めて時間が過ぎるのを待つことしかできない。

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(群馬県太田市の道の駅にて。太田市はプロバスケチームのホームタウンだ)

2時間半ほどの道中、AI技術が発達したらこういう嫌な仕事をやらなくてよくなるのだろうかと考えた。人間の弱点をカバーし、嫌な仕事を軽減するために技術はある。AI技術であれ、例外ではない。だとすれば謝罪のような嫌な仕事こそ真っ先にAIに投げていくべきだ。しかし、仕事というのは相手があって成立するものでもある。謝罪を受ける側の立場になってみたときAIの謝罪を謝罪として受け入れられるだろうか。AIを搭載したロボットが謝罪のために出発する。ロボットの外観は、僕個人としては寺沢武一先生の描くセクシービキニ美女にしたいが、多様性に配慮して、ボスボロットのような外観になってしまうだろう(ボスボロットの外観を知らない若者はこちら→超合金魂GX-10 ボスボロット)。ボスボロットが土下座をして「ご迷惑をおかけしました」と謝罪したところで受け入れられるとは思えない。「AIに謝罪させるとは誠意が感じられない」と怒りに再点火するかもしれない。このように考えると謝罪のような、気持ちが求められる仕事は人間の仕事になる。

「AIに仕事を奪われる」という悲観的な未来予想図がある。ブレーキランプ5回点滅でヤ・バ・イ・ヨ・ネのサインを出すのは時期尚早だ。安心してほしい。謝罪やクレーム対応といった感情が必要とされる仕事はしばらくのあいだは奪われないからだ。謝罪のようなクソみたいな仕事が残される一方で、創造的なクリエイティブな仕事はAIに奪われていく。先日、一週間後の納期の企画提案に急遽イメージ図が必要になって、付き合いのある業者に依頼したら「ギリギリになってしまう」と泣きつかれた。生成AIを使ったらあっという間に出来てしまった。これまでの付き合いがあるのでその業者に発注して納期に間に合わせたけれども、生成AIに奪われるのは時間の問題だ。だって生成AIのほうが「うまいの、はやいの、安いの~」の牛丼音頭状態だからだ。そもそも新しい技術によって労働が軽減される(奪われる)のは過去の歴史が証明している。蒸気機関によって人力労働が奪われたように、AIによって創造的労力が奪われる。それだけのことだ。悲観的にならなくていい。僕たち人間はこれまでゴキブリのようなたくましさを発揮して新たな仕事を見つけてきた。それに謝罪という人間様にしかできないクソ仕事が残されている。創造性を発揮しなければいけない仕事はAIに任せればいい。仕事で使わなくなった創造性を自分のために使えばいいだけだ。

創造的な仕事はマジで頭が疲れる。僕は営業という仕事をもう何十年も続けているけれど、もっとも疲れる仕事は、企画提案を考えることだ。相手のニーズにバッチリこたえたうえで、相手が気づいていないニーズまでくみとったコンセプトと、それを端的にあらわすフレーズを考えるのが本当にむずかしい。それさえカチっとハマればあとは経験でなんとかなってしまう。逆にハマらないときは、的外れで独りよがりの企画提案となって失注の可能性は高まる。だから企画提案の最初の一歩を考えるとき、ものすごくストレスと疲労感を感じる。ぐったりしてしまう。これをAIにやってもらえるのなら、助かる。余談だけれど、世にあふれているSNSからトレンドを検索・抽出してバズる企画を生み出すみたいな、僕からみればドブ川からクソを拾うような似非クリエイティブ仕事は今すぐにでもAIにやってもらったほうが精度が高くなっていいだろう。クリエイティブな皆さまの高度な感性と労力と時間を浪費するまでも仕事だからだ。AIによって創造性を仕事で使わなくて済むようになれば、これまで「仕事で疲れている」「時間がない」という理由で使うことができなかった創造性を、プライベート、個人のために使える余力ができる。新しいタイプのアーティストがサラリーマンから生まれてくるかもしれない。貴族のものだった芸術が、ようやく完全に庶民のものになるのだ(大袈裟)。

最近の(特に)生成AI技術の発達は目覚ましいものがある。創造的分野の仕事はAIに奪われるだろう。僕らに残されるのは謝罪のようないわゆるクソみたいな仕事かもしれない。いいじゃないかそれで。頭を使う仕事をしなくていいんだラッキー!と前向きにとらえて、ぺこぺこ謝っていればいい。仕事で使わなくなった創造性をプライベートで活かして充実した人生にしていけばいい。「AIに仕事を奪われる」は「AIで創造性と労力を節約できる」なのだ。そのようにとらえれば、クソみたいな謝罪クレーム対応行脚も人間にしか出来ない仕事なんだと少しはマシに思える。鹿威しみたいに頭を形だけペコペコ下げるだけの気持ちの入っていない謝罪をしていると、感情のないAIに謝罪業務まで奪われてしまうから少しは気持ちを入れてプロの謝罪をやっていこうではないか。ペコリーノ!(所要時間38分)

中小企業、価格に転嫁できませーん。

僕はフミコフミオ。食品会社の営業部長だ。中小企業なので新規開発営業だけでなく、既存のクライアントとの交渉も一部、任されている。僕と同じフミオという名前を持つ首相が、春闘の集中回答日に大手企業の「満額回答」「満額を超える回答」といった良い感じの回答が相次いでいることを受け、中小企業の賃上げの流れを期待したい、という内容のコメントを出しているのをニュース番組で見た。僕は大手の満額回答も、首相のコメントも、冷凍倉庫にいるような冷めた気持ちで受け止めていた。確かに、中小企業からの製造コストや労務コスト増大を転嫁した価格アップ要請を不当に排除することは禁止されており、悪質な企業は公表されることになっている。僕のXのポストにもそういうレスがついている。

だが、実際に中小企業の交渉役となって、大手企業に価格交渉をした経験のある人ならわかるはずである。そんなにはうまくいかないことを。実際は一見クリーンでグレーな取引に持ち込まれて有名無実化されていることを。こんなことがあった。昨秋、とある大手企業との価格交渉に臨んだ。加工食品を入れさせていただいている仕事で、食材高騰と適正な労務費をカバーするために、その分を価格に転嫁するしかなかった。事情を懇切丁寧に説明した。今の価格では採算が取れません。パートスタッフの時給アップをしなければ生産量を維持できません。正当な利益を確保しなければこの仕事を続けられなくなります。必死に交渉した。大手担当者は親身になって話を聞いてくれた。そして交渉の終わりに「うん。確かに。苦しいよね。私たちも御社にはこれまでお世話になっています。事情はわかっているつもりです。前向きに検討させてください」といって新価格の記載された見積書(理由書付き)を受け取ってくれた。数日後。担当者から「検討の結果、コンペを行うことになりました」という連絡が入った。当社も含めて5社に声をかけたので、見積書と商品サンプルを指定日までに持ってくるようにと告げられた。プレゼンの機会はなかった。結果は失注。年明けからは他社の同様の商品が納められている。「これは労務費転嫁価格アップを排除しているのではないか?」と問い詰めたが、否定された。「もしそうなら、以前の価格のままでお願いしますとお願いしているはずです。私はそんなお願いはしていませんよね」と言われた。ウチが出した価格改訂案はコンペのきっかけですらないと言われた。「契約から5年経ったのでコンペを実施する時期だった」「今回決定した会社様の商品ですが、品質が5社中トップの評価でした。そのうえたまたま一番安かったのです。ウチにとってはラッキーでした」と説明された。あくまで質。値段が決め手ではない。とのこと。閻魔様に舌を抜かれないといいですね。「前向きに検討します」は「業者切り替えを前向きに検討します」の意味だった。ていうかクソ安い価格で受注する会社があるから、中小は大手になめられるのだ。中小の敵は中小なのだと改めて思い知らされた。まあ、この件については価格アップ交渉をする段階でポシャるのを覚悟していた。なので交渉の席についたときには、別の販路を確保していたからよいものを、こんなのは氷山の一角だろう。いくつかの大手は、こうした素晴らしくクリーンな取引で、中小からの値上げアップを排除し、利益を確保して賃上げをおこなっている。この件の大手も賃上げだそうで。ビバ!満額回答!めでたい!こんなんで中小が大手に続いて賃上げできるわけがない。(所要時間21分)

10年かけて準備してきた早期退職プランが無になりました。

先日、10年間構想していた早期退職を奥様に告げたら理解を得られなかったとSNSに投稿したら線香花火程度に燃えた。FIREするつもりでFIREが実現したのだから本望である。

反応を観察すると「しょうがない」「残念でした」という意見と、否定的な意見で3対7くらいの印象。100年しかない貴重な人生を費やして丁寧にメールで人生指南してくれた奇特な人もいた。僕のことよりご自身の人生を見つめ直してもらいたい。

否定的な意見は「10年間奥様に相談をしていないのは馬鹿だ」「家事をやらない夫が会社を辞めても邪魔なだけ」「収入がなくなったら生活できない」「いきなり辞められても家族が困る」、だいたいこれに集約されていた。

まず、「なぜ早期退職する必要があるのか」。理由は明確で、限界を感じつつあるからだ。30年近く営業職を続けてきた。ノルマに終われ、人間関係に疲れ、心身ともにすりへってしまった。あと10年このペースで働いたら壊れてしまうと感じた。じっさい、僕の周辺にいる、営業の諸先輩方は有能・無能にかかわらずぽっくり亡くなる方が多い。昨年は立て続けて二人亡くなった。皆定年まで営業という仕事を続けた人たちだ。引き際を誤ったとしか思えない。

あと5年。55歳まで営業職として働いて身を引く。これが僕の決めた引き際だ。奥様には「もう営業を続けるのは難しい」「ノルマに追われる夢をみる」と告げてきたので状況は理解しているはず。「死なれても困ります」「ボケても面倒みないよ」と言ってくれている。優しい。なお、僕のこづかいは月19,000円である。

「いきなり辞められたら家族が困る」という指摘については「今すぐではない。5年後」と申し上げておく。よく考えてほしい。家庭というダサい社会的な枠組で生きている僕に、いきなり辞めるような暴挙が許されるわけがないだろう。我が家を構成しているのは僕と奥様の2名である。うち奥様だけが常任理事で拒否権を持っている。つまり奥様が拒否権を行使したら何もできない。「明日会社辞めるね(^^♪」なんて告げても、拒否権を行使されるだけなのである。昨今の国連の機能不全を思い出していただけるとイメージがしやすいのでないか。

また「10年間奥様に相談しないのは馬鹿」というご指摘についても、先に述べたとおり、営業としての限界、55歳での引退をたびたび相談してきた。彼女からは「生活レベルの維持が守られれば、キミが何をしようと私は関係ない。会社に行かないならこづかいは減額してもいいよね」という優しい言葉をいただいている。なお現在のこづかいの額は月19,000円である。

「収入面は大丈夫なのかよクソブロガー」というご指摘について。奥様から具体的な金額を公にするなと厳命されているので、ヒントから想像してもらいたい。僕は中小企業の営業部長だ。その給与収入(グーグルで「中小企業、部長、給与、平均」で検索すると出てくる額とほぼ一致)。これが本業の収入。

プラス副業。金額が多い順に家賃収入(K市内の古民家1軒)、執筆業の収入(原稿料(記名、別名)、書籍の印税(これまで書籍は4冊出した)、その他諸々。副業の収入は月額平均で大卒新人の初任給のだいたい1.5倍に少し足りないくらい。加えて正社員として働いている奥様の給与がある。

子供とローンはなし。奥様と格安賃貸マンションに住んでいる。贅沢はしていないので月の支出(生活費他)は副業でまかなえている。つまり僕と奥様二人分の本業の給与はすべて、副業収入から生活費を差し引いた額が貯蓄になる。ついでにこれまで月収入の20分の1を奥様が運用してきた。今のところ収支はプラス。20分の1は、全部を失っても、障子に北斗百裂拳を喰らわせて悲しみを紛らわせれば、リカバリーできると推定した割合だ。今月を最後にこれ以上金は入れない予定(運用だけ)。なお、僕の月のこづかいは19,000円である。

転職や数か月の無職期間といった浮き沈みはあったが平均すると10年はこのような生活である。通帳の残額は老後2000万円問題を余裕でクリアして毎月増え続けている。素晴らしい。早期退職といっても本業のサラリーマンを辞めるだけで副業は続けるつもりだ。執筆業を増やし、もう1軒使っていない家屋のリフォームを終わらせれば家賃収入は倍以上になる見込み(ありがとう鎌倉ブーム!)。

懸念材料は箱職人の義父が「やらせてくれ」と申し出てきたので仕方なく任せているリフォームが計画通りに終わりそうもないことである。SNSに「家でゲームをするつもり」とポストしたところ、「旦那が仕事をやめて家でゲーム三昧なんて無理!」的な反応があったけれども、仕事の時間を圧縮することになるので、その時間を趣味にあてたいというだけの話である。

家事についての批判もあった。「家事をやらないクソブロガーが家にいるだけで奥さんが迷惑なんだよ」」というもの。的外れである。あの投稿でなぜ僕が家事をやっていないことに繋がるのだろうか。豊かな想像力に感心する。もしかしたらご自分の状況を勝手に投影しているだけでは?

現在、家事は完全に分担されている。「何をやるか」で分担すると不公平感が出ることは不可避である。たとえば食事はミーで洗濯はユーという業務分担をしたとする。この場合、食事と洗濯にかかる労力や時間がイコールにならないと不公平感がでる。日によってメニューや洗濯量が異なるからややこしい。

我が家は曜日で分担している。月曜日ならその日のすべての家事を1人がおこなうシステムである。10年、このシステムを続けているが不公平感はない。月、水、金、日曜が僕。残りの火、木、土が奥様。「あれ?僕の方が分担日が多い気がする」と指摘したら奥様から「今日はキミ、明日は私で平等に割り振っているだけですよ?」と説明された。なるほど納得。このように家事をやっていない人間扱いは完全に間違いである。早期退職してもこれは変えないつもりであった。なお、僕のこづかいは月19000円である。

このように、僕の早期退職計画はただ一点をのぞいて万全のものであった。しかしその一点が致命的かつ無視できないものであった。それは奥様の「1日、家にいられたらしんどい」=「僕が家にいる時間、僕と顔を合わせる時間が長くなるのはイヤ」というピュアな気持ちである。経済面、生活面、仕事面が万全であったがために、奥様の僕の在宅時間の増大に対する抵抗感が浮き彫りになった格好である。きっつー。こうして構想10年の早期退職計画は頓挫したのである。この悲しみを乗り越えるためにはこづかいの増額しかない。目指せ月2万円。エイエイオー(所要時間45分)

部下の作成した企画提案がザ・ビートルズの『ホワイトアルバム』からインスパイアされた素晴らしいものだったのでこの感動を共有したい。

「打ち合わせをしたい」と僕がいったから2月20日は打ち合わせ記念日。前日2月19日、部下Sに、仕事の進捗を確認するために打合せを行う旨を告げた。「任せている企画提案を確認したい」と。企画提案書はパワポのスライド3枚で構成されていた。PCの画面を表示させたSは「提案内容はコンパクトにまとめるつもりです」と言った。「つもりです?」一抹の不安を覚えた。「つもり」は「前もっての考え/意図」を意味する。言い換えれば、「まとめるつもりです」は「まとめる意図がある」イコール「まだやっていない」を意味する。そのため一般的に「つもりです」は、一抹の不安どころか大きな不安、超不安を誘発するフレーズである。「私はやっていません」と胸を張っているのだから。

ところが一抹の不安に留まったのはなぜか。パワポの構成からより大きな不安を感じたからだ。3枚のスライドにそれぞれ見出しタイトルがセットされているのが目に入った。1枚目「表紙」。2枚目「提案」。3枚目「ご清聴ありがとうございました」。これが何を意味するのか。気持ちを落ち着かせるために、冷静になって申し上げますと、これは肝心の提案が1枚しかないという厳しい事実を突き付けていた。

「提案が簡潔なワードで過不足なくまとめられドンキホーテのように圧縮陳列されているにちがいない」と好意的に解釈して精神崩壊するのを堪えた。1枚目の「表紙」が画面に表示されていた。タイトルと日時と社名が記載されていた。フォントは明朝体。必要最低限の情報。Sは2枚目の内容を表示させた。嘘だろ。目を疑った。画面は真っ白。ビートルズのホワイトアルバムのジャケットのようだった。

ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)

ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)

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いや。そんなはずは。当初、フォントが小さすぎて見えないのだと思った。僕は50歳になった。視力の低下が著しい。先日も入浴する際に脱ぎ捨てた真っ白のブリーフが汚れていて家族に叱られたばかりだ。脱いだときにピュアホワイトだったはずのブリーフを、家族からうながされてあらためて確認すると、ブラウンの極細LINEが走っていた。30代の僕ならば、運の付着を見落としていなかっただろう。

このような事件があったばかりなので僕は自分の視力に対する自信を完全に喪失していた。だから一見、真っ白のパワポでも、小さいフォント、薄い色のフォントで内容が記されていると考えたのだ。提案書というものは受け身のメディアである。あえて視認性の悪いフォントにすることによって「何が書かれているのだろう?」と受け手の関心を惹く孔明の策かもしれない。

「真っ白だね。ビートルズみたいだ」と僕は評価した。「そのとおりです。何も書いていないのですから」とSは言った。試されている、と思った。だが、甘い。僕にはもっと酷いプレゼン資料を見せつけられた経験がある。今は亡き上司がつくったパワポ資料で、すべてのアホはロックに通じるのだろうね、それは奇跡的に伝説のロックバンド・ジョイ・ディビジョンの『アンノウン・プレジャーズ』のジャケに酷似していた。すべての価値観を破壊するような亡き上司のパワポを経過していたので、部下の白紙回答を目にしても、心身が壊れずに済んだ。ありがとう上司。

アンノウン・プレジャーズ

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上司がパワポをはじめたら - Everything you've ever Dreamedより

なぜホワイトアルバム状態なのか、Sに尋ねた。緊張を和らげるために「内容がないよー(^^)。締め切りに間に合わないよー」とフランクに。Sは、どうせ僕から全面的なダメ出しを受ける、のであればダメ出しを受けてから作成したほうが的を得たものがつくれると答えた。Sは僕よりも年上である。これまで年下の上司からあれこれ指摘されて恨みが募ったのだろう。知らねえよ。僕はブチ切れた。ハラスメントを受けたら人事部に報告をするよう言われている。報告したければ報告すればいい。駆け込めよクソが。そんなの関係ねえ。

僕は「ふざけんなよ。頼んだ仕事くらい低クオリティでいいからやれよ。なんだよ、最初からやらないって。怒られるからやりませんでしたって馬鹿か。こっちだってダメ出しをしたくない。けどダメだからダメを出しているだけだ。仕事だから。こっちだってアホに付き合いたくないよ。つか一週間も猶予をあたえて白紙回答して開き直っている人間を部下に持つ気分わかる?モチベーションがあがらない?モチベーションが上がったって人並の仕事はできないだろ?ああ、もういいわ。言うだけ無駄。任せた私が馬鹿でした。本当に嫌になるわ。クソだ」と罵った。心の中で。その日の夕方、僕は人事部に駆け込んでカス部下からのハラスメントを訴えた。これが本当のカスハラ。2月20日はカスハラ記念日。(所要時間28分)