大丈夫、積んでる

さうざんどますたーになれなくて

アーナルデュル・インドリダソン「湿地」

アパートの地階の部屋で発見された老人の死体。現場には謎のメモが残されていて……アイスランドが舞台のミステリー。

うーん。これは読んでいて気分が良くない。
手がかりらしい手がかりがないので、出来る捜査を手当たり次第やっていくんですが、必要以上に事を荒立てていくので、警察という権力を持った側の横柄さを感じてしまう。法治国家である以上、犯罪を野放しにできないのはわかるけど……捜査とは人の心に踏み入るものだというのがよく分かる。人の家庭に足を踏み入れながら、自分の家庭にも問題がありすぎるのも、なんか辛いよね。
読み始めから想像したのとはぜんぜん違う方向に話が進んでいくのは面白かったけど、社会的な問題がずっしり重くのしかかるので、楽しめたかというと、ちょっとね。

 

サンドローネ・ダツィエーリ「死の天使 ギルティネ」

急行列車の先頭車両の乗客が全員死亡していた事件が発生。捜査の方向性をめぐって上層部と衝突した捜査官コロンバは、コンサルタントのダンテに、犯人捜しを依頼するが……「パードレはそこにいる」に続く第二弾。

前作が面白かったので、期待値が高かったけど、そこまでじゃなかったかな。

テロと思われる行為の裏側にあるものは、というところから、チェルノブイリに関連するところは面白かった。ただ、主人公たちの追い詰められ方が、うーん。巻き込まれて仕方なく転がっていく前作とは違い、自ら踏み込んだ結果なので、自業自得と言ったら語弊あるけど、なんでその選択をするんだろうと思う事が多かった。

前の事件を解決したことで英雄になってしまい、周りに仲間がおらず、精神的に追い詰められていることもあるんだろうけど。結果として、自分の中にある正義感に押しつぶされていくから悪循環だよね。

次に繋ぐためのお話という感じだったので、三部作の最後を読んでから、評価するかな。

 

 

日向夏「薬屋のひとりごと 15」

やんごとなき人の手術をするお話。

序盤から不穏な空気だったけど、そりゃそうだ。周到に準備するとはいえ、ひとつ間違えたら、一族全員の首が飛びますからね。そのあたりちゃんとプレッシャー感じる猫猫は、まともなのかもしれない。天佑がおかしいだけかもしれないけど。怯えつつも、体の中がどうなってるのか興味を失わないところがとても猫猫だった。

皇帝と任氏の話し合いの場はいいシーンだったけど、これよく考えると、いろんなことを知ってしまってる猫猫は、上の人からしたら危険な存在だよね。任氏と羅の一族が関心を持ってるから、守られてるところがある気がして、恐ろしくなってきた。願わくば、任氏と猫猫の距離感がこのまま、うまい具合に収束してくれるといいなあ。

 

嶋津輝「襷がけの二人」

大正昭和が舞台。親の言う通りに嫁いだ先で、夫との関係に悩みながらも、女中たちと良い関係を築いて、家を守っていたが、空襲で離れ離れになり……というお話。直木賞候補作。

これは良かった。戦前と戦後で、女主人と女中という関係が逆になるんだけど、中身は変わらないままで、相手を思う気持ちで支え合っていく、二人の関係が素敵だった。

描写される世界としては、家の中がメイン。なのに、こんなにも毎日の変化があるんだなあ。自分のできることを精一杯するという姿が伝わってくるから、良いものだと感じるんだと思います。
読み終わった後、自分も丁寧に生きていこうと思える物語でした。

 

ロバート・クレイス「容疑者」

銃撃戦で相棒を亡くした刑事スコットが、事件の真相を追うために、同じく相棒を亡くした軍用犬マギーとコンビを組むお話。

これは良すぎでしょう。

人も犬も銃撃されたトラウマがあるので、警察の一員として動くには、本当は難しい。でもちょっとずつ絆を深めていき、事件に立ち向かう姿が胸にくる。まあ、上手くいきすきで、途中暴走気味だったけど。

事件の真相に迫るほどに、自身が追い詰められていく展開はまさに「容疑者」なわけですが、そんなスコットの不安を敏感に察するマギーという犬視点の語りも良くて、これは間違いなく「相棒」のお話でした。

続編も楽しみだ。

 

アレン・エスケンス「償いの雪が降る」

30年前、女児暴行殺人で終身刑となった老は、癌で余命わずかとなったため、介護施設に移された。大学の課題として、彼にインタビューするジョーは、老人の臨終の供述から事件に疑問を覚えて……と言うお話。

面白かった。

事件の関与を否定しながらも、判決には従った老人の真意が何なのか。調べていくうちに、そして臨終の供述として語られていく真意が、あまりにも重い。助けられなかった命というのは、ずっと心に残るんだろうなあ。

はじめはコンテンツとして老人を扱おうとする主人公に対しては、あまりいい印象がなかったけど、彼のおちゃらけた態度というのが、いわゆるヤングケアラーとしての苦悩の防御であることが見えてくると、印象が関わってくる。

自閉症の弟、やがて彼女となる隣の家のライラ、そして老人カールとの間に積み重ねていく信頼がとても良かった。老人が彼と出会えて良かった。

これは続きも読みたい。

 

バリー・ライガ「さよなら、シリアルキラー」

124人連続殺人犯の父に育てられた主人公ジャズ。自分は父とは違うことを証明するため、町で起きた殺人事件に挑むお話。

父の呪縛から逃れたいのに、父に育まれた洞察力が生きてしまうというのは皮肉でしかない。

犯人の動きがわかっても、連続殺人を止められないもどかしさが、次第にジャズを追い詰めていくという重い話だけど、暗くなりすぎないのは、青春ものでもあるからでしょう。
親友ハウイーは、身体の問題があるけど、それに負けない明るさがあり、何より恋人コニーが素敵だった。彼女がいなかったら間違いなく堕ちてた。

独りよがりなので、読んでいてイラッとする序盤だったけど、気づけば引き込まれるサスペンスだった。それにしても最後がすごい。この引きは続編読まざるを得ない。