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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

高齢者におけるRSウイルス感染症とワクチン(1)疫学

高齢者におけるRSウイルスに対するワクチン2種(アレックスビー®/グラクソスミスクライン,アブリスボ®/ファイザー)が本邦でも承認された.RSウイルスは小児領域ではcommon diseaseだが,高齢者領域ではあまり認知されていない.にもかかわらず,高齢者向けのRSワクチンが承認されたのには当然理由があり,その疫学的背景を知っておかなければならない.今回は,RSウイルスに関する疫学データについて概説する.

■RSウイルス(respiratory syncytial vurus/呼吸器合胞体ウイルス:以下,RSV)はRNAウイルスであり,気道に感染し,肺炎や細気管支炎を引き起こすことが知られている.1956年に米国のウイルス学者Morrisら[1]が上気道炎症状を呈するチンパンジーから最初に発見し,1957年にはChanockら[2]が,乳幼児の気管支炎の原因として初めて発見した.小児においては生後1歳までに半数,2歳までにほぼ全員が感染するとされており,その3~4割が下気道炎に,1~3%が重症化し,入院治療を要する.成人では重症化することがあまりなく,ほぼ感冒扱いであるが,基礎疾患を有する高齢者においては死亡率はインフルエンザに匹敵するとされている.しかし,治療薬がないこと,検査キットが限られていることから,高齢者の臨床現場においてはあまり重視されてこなかった.

■実際,成人のRSVの疫学データは非常に限られているのが現状である.このため,成人におけるRSVの疫学データは,小児における流行と成人における入院や死亡を関連付ける数理モデルに基づいているものが多く,その推定値の精度を疑問視する声も多くあった.このため,実際の疫学データが必要であった.

1.きっかけとなったFalseyらの研究

■Falseyら[3]は,1999年末から2003年初めまでのニューヨーク州ロチェスターでの①健常高齢者と②高リスク成人の前向きコホート,および③急性の心臓・呼吸器疾患で入院した患者を対象に,4年連続の冬季におけるRSV感染を調べ,2005年にNEJM誌に報告している.合計608例の健常高齢者と540例のハイリスク成人が前向きサーベイランスに登録された.3群の平均年齢はいずれも70歳以上であった.ハイリスク成人群では,健常高齢者群や入院患者群に比して子供と接触している人の割合が有意に高かったが,生活状況は3群とも同様であった.健常高齢者群では,慢性疾患の罹患率および薬剤使用率が,成人ハイリスク群および入院患者群よりも有意に低かった.ハイリスク成人群では,心臓・呼吸器疾患がかなりあるにもかかわらず,機能的には健常高齢者群よりわずかに低い程度であった.対照的に,入院患者群では入院前の機能スコアが両群に比べて有意に低かった.

■健常高齢者におけるRSV感染症の発生率は,4シーズンを通じて3.2-7.4%であったのに対し,インフルエンザAの発生率は0-4.2%の範囲であった.ハイリスク成人では,RSV感染症の発生率はさらに高く,4.0-9.6%であったのに対し,インフルエンザAの発生率は0-5.5%であった.これらの発生率を100人月あたりの発生率で比較すると,健常高齢者ではRSVが0.8,インフルエンザAが0.3であったのに対し,ハイリスク成人ではRSVが1.5,インフルエンザAが0.5であった.このように,いずれの集団でもRSV感染症発生率がインフルエンザAを上回っていたことが分かる.また,RSV感染症の89%が症候性感染であったのに対し,インフルエンザAでは65%が症候性感染であったことから,RSV感染症の方が症状が出やすいと考えられる.

■医療資源についても検討されており,健常高齢者のRSV感染症では,100人月あたりの受診率が2.0であったのに対し,インフルエンザAでは3.9であった.一方で,ハイリスク成人におけるRSV感染症では,100人月あたりの受診率が7.5,抗菌薬処方率が9.0,入院率が1.5でしあり,これらの数値は,同じ集団におけるインフルエンザAでの受診率6.0,抗菌薬処方率8.5,入院率0.5とほぼ同等であった.

■入院患者においては,RSV感染症とインフルエンザAの在院日数(中央値)は8日vs7日,ICU入室率は15%vs12%,死亡率は8%vs7%であり,RSV感染症はインフルエンザとほぼ同等である.また,RSV感染症の入院患者では肺炎(71%),COPD増悪(46%),気管支喘息増悪(17%),うっ血性心不全(17%)などを合併しており,これらの合併症の頻度は、インフルエンザA入院患者とほぼ同等であった.

■65歳以上の呼吸器疾患入院患者のうち,RSV感染症が関与していたのは,肺炎入院の10.6%,COPD増悪による入院の11.4%,うっ血性心不全入院の5.4%,気管支喘息増悪による入院の7.2%であった.研究期間中のRSV流行シーズンとそれ以外の時期で比較すると,これらの4疾患はRSV流行シーズンで入院率が有意に高くなっていた.

■本研究によって,RSV感染症が高齢者やハイリスク成人において重要であることが示され,インフルエンザと同様に対応が必要であることが分かる.

2.日本の疫学データ

■日本の高齢者(65歳以上)におけるRSV感染症のデータをKuraiら[4]が2022年に報告している.本研究は2019年4月から2020年7月まで日本の高齢者施設10施設で行われたもので,歩行可能な高齢者1000例が登録された.RSVによる急性呼吸器疾患発生率は2.4%(95%CI 1.54-3.55%),RSVによる下気道疾患発生率は0.8%(95%C 0.35-1.57%)であった.

■RSVによる急性呼吸器疾患24例の症状持続期間の中央値(範囲)は18.0(10~33)日であり,インフルエンザA/H1よりも気道の症状がベースラインに戻るまでに時間がかかる傾向がみられた.主な症状は,鼻閉(62.5%),咽頭痛(75.0),咳嗽(79.2%),喀痰(62.5%)であった.発熱がみられたのは8.3%であった.発症時期は,RSV流行シーズンの2019年6月1日から2019年11月30日に17例(71%)が発症していた.

3.世界の疫学データ

(1)メタ解析

■Savicら[5]は,米国,カナダ,欧州,日本,韓国の60歳以上のRSV感染症データを報告した研究21報のメタ解析を行った.これによると,RSVによる
 急性呼吸器感染症発症率は1.62%(95%CI 0.84-3.08%)
 入院率は0.15%(0.09-0.22%)
 院内死亡率は7.13% (5.40-9.36%)
であった.これらのデータを日本にあてはめると,RSVによる急性呼吸器感染症発生件数は年間約70万例,うち入院が約6万例,院内死亡が約4500例となる.

■Maggiら[6]は,RSV感染による高齢者の入院率と死亡率をインフルエンザと比較した16報762,084例のメタ解析を行った.入院率(RR 0.93; 95%CI 0.53-1.62; p=0.80; I2=0%)や死亡率(RR 1.19; 95%CI 0.98-1.45; p=0.08; I2=0%)に有意差は見られなかった.

(2) 主な観察研究

■Ackersonら[7]は,60歳以上の入院患者で,RSV感染症患者645例とインフルエンザ患者1878例の後ろ向き観察研究を行った.RSV感染症患者は,インフルエンザ患者に比して,うっ血性心不全(35.3% vs 24.5%; p<0.001)とCOPD(29.8% vs 24.3%; p=0.006)が有意に多かった.また,背景因子調整後で,RSV感染症はインフルエンザ患者よりも7日以上の入院(OR 1.5),肺炎(OR 2.7),ICU入室(OR 1.3),COPD急性増悪(OR 1.7),1年以内の死亡(OR 1.3)が有意に多かった.

■Brancheら[8]は,2つ以上の急性呼吸器疾患症状または心臓・呼吸器慢性疾患の増悪を示す18歳以上の入院患者を前向きにスクリーニングし,RSV検査を実施した.この集団での年間RSV感染症発生率は44.2-58.9/10万人であり,高齢になるほど上昇し,65歳以上では136.9-255.6/10万人と高かった.65歳以上におけるRSV感染症による入院発生は,
 COPD患者で13.41倍
 糖尿病患者で6.44倍
 冠動脈疾患患者で6.46倍
 心不全患者で3.99-7.63倍
であった.
■Begleyら[9]は,急性呼吸器疾患で入院した成人患者のうち,RSV感染が6%,インフルエンザが18.8%であった.しかし,基礎疾患別では,うっ血性心不全患者では37.3% vs 28.8%(p<0.0001),COPD患者では47.6% vs 35.8%(p<0,.0001)といずれもRSV感染の割合の方が高かった.RSV感染患者は1週間を超える入院(OR 1.38; 95%CI 1.06-1.80)や人工呼吸器装着(OR 1.45; 95%CI 1.09-1.93)の割合がインフルエンザ患者より高かった.

■Hartnettら[10]は,米国5施設での急性呼吸器感染症の入院例を前向きに登録し,インフルエンザ280例,RSV感染症120例を解析対象とした.RSV群の方が高齢者が多く(平均年齢63.1歳 vs 59.7歳),基礎疾患を有する割合が高かった(87.5% vs 81.4%).基礎疾患のある患者での解析では,RSV群の方が入院期間が長く(中央値4.5日 vs 4.0日),酸素療法の必要性が高かった(79.8% vs 59.5%).退院後3ヵ月時点での抗菌薬・気管支拡張薬・ステロイド等の薬剤使用率が高く,再入院率が高かった(13.4% vs 11.9%).

■Falseyら[11]は,12か国40施設での急性呼吸器感染症で入院した成人患者の前向き多施設研究を行い,366例がインフルエンザ,238例がRSV,100例がヒトメタニューモウイルス(hMPV)に感染していた.RSV患者は高齢で基礎疾患を持つ割合が高く,入院前の有症状期間が長かった.また,RSVとhMPV患者では,気管支拡張薬,ステロイド,酸素投与が多かった.ICU入室率や合併症率に有意差はなかったが,RSVとhMPVで3ヵ月以内の再入院率が高かった(RSV 2.5%,インフルエンザ1.6%,hMPV 2%).インフルエンザは発症件数が最も多いが,RSVとhMPVの方が基礎疾患が多く,医療資源利用が大きいことが示された.
■Wiseman[12]らのRESCEU研究では,英国と米国のクリニックを受診したCOPD急性増悪310件のうち,RSV関連は27件(8.7%)を占めており,RSV-N タンパク質に対する抗体は診断に有用と報告している.

■Loubetら[13]は,フランスのインフルエンザ様疾患で入院した成人患者1452例を前向きに登録し,59%が65歳以上,83%が基礎疾患を有していた.これらの患者のうち4%がRSV陽性であった(インフルエンザは39%).RSV陽性患者の年齢中央値は74歳で,85%が基礎疾患を有しており,癌と免疫抑制薬治療がRSV陽性と関連していた.RSV陽性患者の入院期間中央値は9日で,合併症は58%に発症し,肺炎が最も多く(44%),呼吸不全(28%)や心不全(18%)もみられた.8%のRSV陽性患者がICUに入室し,入院中死亡率は8%であった.

■Descampsら[14]は,フランスの5施設でインフルエンザ様疾患で入院した成人患者1428例のを前向きに登録し,8%がRSV陽性,31%がインフルエンザ陽性であった.RSV陽性者はインフルエンザ陽性者に比べて平均年齢が高く(73.0歳 vs 68.8歳,p=0.015),慢性呼吸器疾患(52% vs 39%, p=0.012)や心疾患(52% vs 41%, p=0.039)の割合が高かった.RSV陽性者はインフルエンザ陽性者に比べて入院期間が長く(中央値8日 vs 6日,p<0.001),呼吸器合併症の発生率が高かった.RSV陽性者の背景因子調整後の複合アウトカム(1つ以上の合併症+7日以上の入院+ICU入室+人工呼吸器装着+院内死亡)のリスクは,インフルエンザの1.5倍であった(aPR 1.5; 95%CI 1.1-2.1).退院後の転帰(30日死亡,90日死亡,90日以内の再入院率)はRSV陽性者とインフルエンザ陽性者で有意差はなかった.

■以上の結果から,成人RSV感染症患者は,絶対数としてはインフルエンザ患者より少ないものの,インフルエンザに比して,高齢であり,重症化リスクは同等以上で肺炎合併が多く,入院期間は長く,特に慢性呼吸器疾患(主にCOPD)や心疾患(主に心不全)を有する患者においてはアウトカムがより不良であることが分かる.高齢者へのRSVワクチンについては次回の記事でまとめるが,現時点では自治体からの公的補助がほぼないがゆえに高額となるため,COPDや心不全を有する患者など特にリスクの高い患者に絞る必要性がでてくるだろう.
【まとめ】高齢者におけるRSウイルス感染症とワクチン(1)疫学_e0255123_16073927.png

[1] Blount Jr RE, Morris JA, Savage RE. Recovery of cytopathogenic agent from chimpanzees with coryza. Proc Soc Exp Biol Med 1956; 92: 544-9 (PMID: 13359460)
[2] Chanock R, Roizman B, Myers R. Recovery from infants with respiratory illness of a virus related to chimpanzee coryza agent (CCA). I. Isolation, properties and characterization. Am J Hyg 1957; 66: 281-90 (PMID: 13478578)
[3] Falsey AR, Hennessey PA, Formica MA, et al. Respiratory syncytial virus infection in elderly and high-risk adults. N Engl J Med 2005; 352: 1749-1759 (PMID: 15858184)
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[5] Savic M, Penders Y, Shi T, et al. Respiratory syncytial virus disease burden in adults aged 60 years and older in high-income countries: A systematic literature review and meta-analysis. Influenza Other Respir Viruses 2023; 17: e13031 (PMID: 36369772)
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[7] Ackerson B, Tseng HF, Sy LS, et al. Severe Morbidity and Mortality Associated With Respiratory Syncytial Virus Versus Influenza Infection in Hospitalized Older Adults. Clin Infect Dis 2019; 69: 197-203 (PMID: 30452608)
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[10] Hartnett J, Donga P, Ispas G, et al. Risk factors and medical resource utilization in US adults hospitalized with influenza or respiratory syncytial virus in the Hospitalized Acute Respiratory Tract Infection study. Influenza Other Respir Viruses 2022; 16: 906-15 (PMID: 35474419)
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[12] Wiseman DJ, Thwaites RS, Ritchie AI, et al; RESCEU Investigators. RSV-related Community COPD Exacerbations and Novel Diagnostics: A Binational Prospective Cohort Study. Am J Respir Crit Care Med 2024 Mar 19 (PMID: 38502541)[13] Loubet P, Lenzi N, Valette M, et al; FLUVAC Study Group. Clinical characteristics and outcome of respiratory syncytial virus infection among adults hospitalized with influenza-like illness in France. Clin Microbiol Infect 2017; 23: 253-9 (PMID: 27903461)
[14] Descamps A, Lenzi N, Galtier F, et al; FLUVAC study group. In-hospital and midterm post-discharge complications of adults hospitalised with respiratory syncytial virus infection in France, 2017-2019: an observational study. Eur Respir J 2022; 59: 2100651 (PMID: 34446468)
# by DrMagicianEARL | 2024-03-27 16:07 | 感染症
■ChatGPTを開発したOpenAI社にいたエンジニアが創業したAI企業であるAnthropic社は,昨年7月11日に大規模言語モデルによる対話型AI「Claude-2」をリリースし,今回,バージョンアップされたClaude-3が2024年3月4日にリリースされた.前のモデルであるClaude-2は,大容量ファイルの読み込みや出力回答がGPT-4よりも圧倒的に速いというメリットがあり,私も重宝しているが,これがさらにバージョンアップされた形になる.医療従事者でも使い勝手はかなりいいものだと思われる.
【AI】GPT-4,Gemini Ultraに匹敵するClaude-3が登場_e0255123_16472077.png
1.変更点

■Claude-3には以下のように,公開されたSonnet,Opusと未公開のHaikuの3つのモデルがあり,日本語対応である.Haikuは近いうちに公開するとのことである.
精度:Opus>Sonnet>Haiku
応答速度:Haiku>Sonnet>Opus
【AI】GPT-4,Gemini Ultraに匹敵するClaude-3が登場_e0255123_16475577.png
■Claude-3では,扱えるプロンプトの長さはより長くなっている.Sonnetは応答速度がClaude-2の2倍,Haikuに至ってはチャートやグラフ付きの論文を3秒以内に読み取ることができる超高速モデルである.

■精度においては,ベンチマーク評価では,有料のOpusモデルは,大学レベルの知識,大学院レベルの推論,算術,数学的問題解決能力,コーディング,テキスト上の推論,知識Q&A,一般常識など多数の項目でGPT-4やGemini Ultraを上回った.無料のSonnetモデルはGPT-4とおおむね同等の成績であった.未公開のHaikuモデルは速度重視なぶん,GPT-4より成績が劣っていた.
【AI】GPT-4,Gemini Ultraに匹敵するClaude-3が登場_e0255123_16520013.png
■また,画像を読み込ませる機能も新たに追加された.一方,Webブラウジング機能は有していない.

2.実際の利用について

■Claude-3はClaude-3のページ(https://anthropic.com/claude)からユーザー登録により使用可能である(Web版に加えてAPIもある).Web版はSonnetは無料,Opusは月額$20(約3000円)となっており,また,poe.comの利用者は,Sonnetはもちろんのこと,プレミアム会員であればサブスクの新たな追加なしでそのままOpusを利用できる.Haikuはまだ利用できないが,近いうちに公開予定である.
※poe.com(https://poe.com/)は対話型AIから画像生成AI,さらには各ユーザーのオリジナルのChat botを利用あるいは作成可能なアプリで,無料でも利用可能だが,月額3000円(年契約なら年30000円)のサブスクに登録すると,Claude-2,Claude-3-Opus,GPT-4,GPT-4-turbo-32k,ChatGPT-3.5-turbo-16k,DALL-E-3といった有料のAI Chat(APIベース)がすべて利用できるようになるため,おすすめである.

■無料のSonnetモデルでも速さ・精度ともにClaude-2より断然よくなっているので,医療従事者が使用するにあたっては無料のSonnetモデルで十分と思われる.大容量のPDFファイルの扱いともなれば他のAIの追随を許さず,独壇場である.なお,Claude-2リリース初期と同じく,アクセス集中を避けるためか,一定時間あたりの使用回数制限やアップロードできるファイルサイズ制限(5Mまで)が設けられているようである.制限なしで使用したい場合は,(応答速度がClaude-2並みとなるが)Opusモデルにするか、APIでのSonnetもでるがおすすめである.

■Claude-2と比較したClaunde-3の個人的な使用感を以下に列挙する.
・Sonnetモデルがとにかく速い.医学論文1本をアップロードしてから論文の概要の解説完了まで30秒もかからない.
・回答文章がより流暢になった.不自然な単語や文章は減っている.
・画像読み込み能力はGPT-4Vと同程度.
・最新情報は2023年8月まで対応.

# by DrMagicianEARL | 2024-03-05 16:56 | 医学・医療とAI
【AI】GPT-4の有力対抗馬,Google最新かつ最強のAIサービスGemini Advancedが登場_e0255123_18030691.png
■2024年2月8日にリリースされた,Google最強のAIであるGemini Ultraを搭載したGemini AdvancedがBardと入れ替わる形で利用可能となった.今回はそのGeminiおよびGemini Advancedについて解説する.

1.BardからGeminiへ

■2023年12月7日にGoogle最新のAIであるGeminiがリリースされた.Googleの対話型AIであるBardはこれまでPaLM 2モデルを使用してきたが,Geminiの登場により,PaLM 2からGeminiにモデルが置き換わった.PaLM 2はユニモーダルモデルで,テキストデータのみを処理するが,Geminiはテキストのみならず,画像や音声など異なる種類のデータを処理することができるマルチモーダルモデルである.このGeminiは,3つの異なるパラメータ数と処理能力を有するUltra,Pro,Nanoがある.

■パラメータ数,処理能力はUltra>Pro>Nanoとなっており,Nanoは軽量で高速な動作が可能なため,スマートフォンに搭載可能であり,GoogleスマートフォンのGoogle Pixel 8 Proに搭載された.Ultraは最もパラメータ数が大きく処理能力も高いことから,複雑なタスクや大量のデータ処理が可能で,GPT-4の有力な対抗馬とされている.ProはUltraとNanoの中間で,多くのタスクをこなすことができ,コストパフォーマンスにも優れる.2023年12月7日からGoogleで無料提供されている対話型AIはGemini Proであり,2024年2月8日にはついにUltraが使用可能なGemini Advancedが有料会員限定でリリースされた.使用料金は月額2900円のサブスクであるが,最初の2ヵ月間は無料で試用できる.また,このアップデートに伴い,BardはGeminiと名称変更された.

2.Gemini Advancedの特徴

■以下は,公開情報や私個人の使用感を踏まえてGemini Advancedを解説する.

(1)Gemini Advancedの始め方
■Gemini Advancedは,Googleが提供するストレージ(容量)を増やす有料サービスGoogle One(https://one.google.com/about?hl=ja)にアクセスして,AI Premiumプランに登録することで利用可能となる.
【AI】GPT-4の有力対抗馬,Google最新かつ最強のAIサービスGemini Advancedが登場_e0255123_17203998.png
■料金は月額$20(2900円)であり,GPT-4が利用できるChatGPT Plus会員とほぼ同額であるが,Gemini Advanced利用を含めたGoogle Oneのサービス(クラウドサービスGoogle drive,メールサービスGmail,画像保存サービスGoogle Photoなど)を保存容量を2TBまで大幅に増やして利用できるようになる他,利用者専用の特典を受けられるため,ChatGPT Plusよりお得といえる.また,最初の2ヵ月間は試用期間として無料で利用できる.

(2)Gemini Advancedの特徴

(a)モデルの自動切り替え
■Gemini Advancedは,前述の通り最もハイスペックなGemini Ultraが使用できるが,必ずしもGemini Ultraで回答されるわけではなく,無料のGemini Proとの違いが分からない,GPT-4より見劣りする,といった声が聞かれる.理由は2つあり,1つ目は,Ultraが日本語対応していないため,Googleアカウントの言語設定を英語に設定した上で英語で質問する必要があること(これをやらない限りはGemini Proが回答する),2つ目は,英語で質問したとしても,Gemini Advancedでは,Gemini負荷を軽減するため,質問内容に応じてProとUltraを自動的に切り替えて回答してくるためである.このため,もし英語で使用するのが億劫であったり,高度な回答を要求するような質問を行わないのであれば,Gemini Advancedを使用するメリットは乏しいだろう(無料のGeminiで十分).
Googleアカウントの言語設定を英語にする手順

1.Googleアカウント(https://myaccount.google.com/)にログインする.
2.左側の[個人情報]をクリックする.
3.[ウェブ向け全般設定]で[言語]編集アイコンをクリックする.
4.使用する言語で英語を選択し,[選択]をクリックする.
(b)回答速度
■Gemini Advancedの回答速度はGPT-4よりもかなり速い

(c)回答内容
■簡単な質問であれば日本語で十分であるが,そうでない限りは日本語での質問では回答できなかったり,ハルシネーションを起こすことがしばしばあるため,英語で質問することが前提となる点においては日本人は使いづらい.その上で,英語で質問した場合の回答の質についてはGPT-4と比較してどうなのかはまだなんとも分からないところであるが,ユーザーインターフェースはGPT-4よりも見やすく,ソースもデフォルトでつけてくれる仕組みになっている.

(d)情報検索精度
■ベースの検索エンジンはGoogleであり,やはりGPT-4の検索エンジンであるBingよりは高精度である.検索速度も速い.

(e)他機能との連携
■現在数は限られるもののGoogleが提供している他のサービスとの連携も可能で,今後のアップデートとともにさらに多くのGoogleの機能と連携できるようにする予定だとのことである.なお,プロンプトに「@」マークを入力すると,連携できる機能が選択できるBoxが現れ,その機能を呼び出せる.現在@マークで利用できるのは,Google Flights,Google Hotels,Google Maps,YouTubeの4つであり,Gmail,Google Docs,Google Driveは表示されるものの,2024年2月13日時点では「Disabled」にカテゴライズされており,まだ利用できない.
【AI】GPT-4の有力対抗馬,Google最新かつ最強のAIサービスGemini Advancedが登場_e0255123_17293840.png
■この他,Google Scholarや医療情報のAIモデルであるMed-PaLM 2は,プロンプトで使用を指示すれば使用可能である.エビデンスとして医学論文の提示を日本語で求めると,かなりの確率でハルシネーションを起こし,架空の論文を提示してしまうが,英語で質問し,かつ「Use Med-PaLM 2」と入力すれば正確な論文を提示してくる.
Med-PaLM 2についてはこちら
Singhal K, Tu T, Gottweis J, et al. Towards Expert-Level Medical Question Answering with Large Language Models. arXiv 2023 May.16
https://arxiv.org/abs/2305.09617
■GPT-4ではGPTsやPlug-inモードでサードパーティーとの連携が可能であり,連携機能の多様さではGPT-4に軍配があがるが,使い勝手は個人の使用目的次第であろう.

(f)ファイル読み込み
■画像や動画以外のファイル(PDFやWord,Excelなど)を読み込ませるためには,2024年2月13日時点では別の有料サービスであるGoogle Workspaceに登録するか,Gemini AdvancedのAPIを利用するしかなく,これらのサービスの新たな登録による追加料金は高額となるため,個人使用ではあまり現実的な選択ではないかもしれない.いずれGoogle Driveとの連携が予定されているとのことなので,新たに有料サービスを使用せずとも読み込みが可能になると思われる.

(g)記憶・学習機能
■Gemini Advancedはどうやら過去の会話スレッドを記憶・学習して回答を調節することができるかもしれない(未確定).これはGPT-4にはない機能である.実際,過去に間違えた問題に正解できるようになる,過去の会話を踏まえたユーザーに合わせた会話を行うようになるなどの現象が見られており,使えば使うほどより賢くなり,かつパーソナライズされていくようである

3.Geminiに関する論文
ジェミニ:高い能力を持つマルチモーダルモデルファミリー
Gemini Team Google: Rohan Anil, Sebastian Borgeaud, Yonghui Wu, et al. Gemini: A Family of Highly Capable Multimodal Models. arXiv 2023 Dec.19
https://arxiv.org/abs/2312.11805
■この論文は,GoogleチームがGeminiについて述べたものである.以下,本ブログ記事前半と重複するが,論文の概要.

■Geminiは,テキスト,画像,音声,動画などの異なるモダリティに対して強力な理解力と推論力を持っているのが特徴である.Geminiには,Ultra,Pro,Nanoの3つのサイズがあり,それぞれ複雑な推論タスクから制約のあるオンデバイスへの利用までさまざまな用途に対応している.これらの評価の結果,最も高性能なGemini Ultraは,テキスト,画像,音声,動画などの32のベンチマークのうち30で従来のモデルを上回ることが確認されている.

■Gemini Ultraは知識と推論力を測る包括的な試験のベンチマークであるMMLUにおいて,人間の専門家レベルを上回る90%の正解率を達成し,初めて人間を超える性能を示した.また,画像に関する質問で大学レベルの知識と複雑な推論が必要なMMMUベンチマークでも従来のモデルを5ポイント上回る成績を収めている.

■質的な評価では,Gemini Ultraが画像,音声,テキストを織り交ぜた入力をネイティブに理解し,推論できることが確認されている.このマルチモーダルな能力は,教育,日常の問題解決,多言語コミュニケーションなど,幅広い分野での新たな応用を可能にすると期待されている.

■一方で,Geminiも言語モデル特有のハルシネーションの問題は残っており,出力の信頼性と検証可能性の向上が課題として挙げられている.Geminiの開発チームは責任あるデプロイメントのための評価と改善も繰り返し行っており,有害な影響を最小限に抑えるための取り組みを続けている.

■GeminiはマルチモーダルAI分野における大きな進歩であり,その能力と限界を理解しつつ,研究とイノベーションに新たな時代を切り開く可能性を秘めている,と論文は結論づけている.
# by DrMagicianEARL | 2024-02-13 18:03 | 医学・医療とAI
■東北大学の出澤真理教授が発見した幹細胞であるMuse細胞を用いて,亜急性期の脳梗塞患者への治療を検討した第Ⅱ相治験RCTがpublishされたので紹介する.本研究はMuse細胞ベースの同種製品CL2020を脳梗塞発症後2~4週目に単回静脈内投与したところ,プラセボと比較して有意に高い奏効率を示した(40.0% vs 10.0%).
【RCT】脳梗塞亜急性期のMuse細胞投与は神経学的予後を改善する_e0255123_11274452.png
■ただし,小規模RCTであるがゆえのベースラインの偏りもあり(ベースラインのNIHSSスコアは,CL2020群が9.8±3.5,プラセボ群が14.1±6.2点で,有意差はないがプラセボ群の方が高い),また,リハビリ効果と非麻痺側からの補償もあり,あらゆる評価項目が一律に改善したわけではない.サンプルサイズの問題もあることから,今後計画されている第Ⅲ相治験に期待したい.Abstractの下にはMuse細胞についての短い解説もつけた.
亜急性虚血性脳卒中を対象とした同種Muse細胞由来製品CL2020の無作為化プラセボ対照比較試験
Randomized placebo-controlled trial of CL2020, an allogenic muse cell-based product, in subacute ischemic stroke. J Cereb Blood Flow Metab 2023 Sep.27[Online ahead of print]
PMID: 37756573
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37756573/

Abstract

【背景】急性期以降の脳卒中に対する有効な治療法はいまだに見つかっていない.Muse細胞は,内因性の多能性幹細胞であり,静脈注射後,損傷した組織に選択的にホーミングし,分化によって損傷/消失した細胞を置換することができる,免疫に特化した幹細胞である.

【目的】この無作為二重盲検プラセボ対照試験は,修正ランキンスケール(mRS)3以上の脳梗塞患者を登録した.無作為に割り付けられた患者は,脳卒中発症後14~28日目に,免疫抑制剤を使用せずにMuse細胞ベースの同種製品CL2020(n=25)またはプラセボ(n=10)を単回静脈内注射された.安全性(主要評価項目:12週目)と有効性(mRS,その他の脳卒中特異的指標)は52週目まで評価された.有効性の主要評価項目は奏効率(12週目にmRS≦2となった患者の割合)であった.

【結果】12週目までの有害事象発生率は,プラセボ群ではそれぞれ100%,10%であったのに対し,CL2020群では96%,28%に副作用(グレード4のてんかん重積状態1例を含む)が認められた.奏効率はCL2020群で40.0%(95%CI 21.1-61.3),プラセボ群で10.0%(0.3-44.5)であり,CL2020群のCIが低いほど,あらかじめ設定された有効性の閾値(レジストリデータから8.7%)を超えていた.

【結論】このプラセボ対照無作為化試験により,CL2020は亜急性虚血性脳卒中に対する有効な治療薬である可能性が示された: JAPIC臨床試験情報サイト(JapicCTI-184103, URL: https://www.clinicaltrials.jp/cti-user/trial/ShowDirect.jsp?japicId=JapicCTI-184103/a>)
1.Muse細胞の発見

■Muse細胞の発見はミスと偶然の産物であった.発見者の東北大学の出澤真理教授は,2010年に骨髄間葉系幹細胞から骨格筋誘導の実験を行っていた時に,他のスタッフから「早く呑み会に来い」と言われ,実験が杜撰になってしまった.そして翌日に実験室に行くと,分化培地の骨格筋細胞がほぼいなくなっていた.実は呑み会に急ぐあまり,分化培地と間違えて消化酵素トリプシンを入れていたため,ほとんどの細胞は死滅していた.しかし,わずかながら浮遊していた生き残りの細胞があった.この浮遊していた細胞は消化酵素に耐えていた細胞であり,これがMuse細胞の発見であった[1]

2.Muse細胞とは?

■Muse細胞のMuseはMultilineage-differentiating stress enduringの略であり,骨髄,皮膚,脂肪といった間葉系組織だけではなく,種々の臓器の結合組織中や末梢血にも存在する自然の多能性幹細胞であり[1],以下のような特徴を持つ.
1.生体内にもとからある細胞のため,iPS細胞のような腫瘍性の心配がない.
2.ストレス耐性,DNA損傷の修復が迅速.他の幹細胞よりも修復能が強い.
3.傷害組織からS1Pシグナルを検知し,傷害部位に自動的に遊走・生着し,組織修復できる.このため静脈内投与が可能である.
4.他の幹細胞のような遺伝子導入を必要とせず,生着後「場の理論」に従った分化をする.
5.血管に分化して組織修復を強化する.
6.胎児が母体から免疫攻撃を回避する機構の一部を有するため,HLAマッチング等なしにドナーからの他家移植が可能
■Muse細胞は結合組織中や接着培養などの接着性環境では間葉系幹細胞として振る舞うが,血中や浮遊培養などの懸濁状態とすると多能性を発現するという二重性を有する.細胞懸濁液においてMuse細胞は増殖を開始し,懸濁状態でES細胞が形成する胚様体に酷似した集塊を単独の細胞から形成できる.Muse細胞は胚葉を超えて分化することができるため,神経細胞にも分化可能である[2].脊髄損傷モデルマウスへのMuse細胞の静脈内投与で,Muse細胞が脊髄損傷部位に集積し,自発的に神経細胞に分化したことが確認されている[3]

[1] Kuroda Y, Kitada M, Wakao S, et al. Unique multipotent cells in adult human mesenchymal cell populations. Proc Natl Acad Sci U S A 2010; 107: 8639-43(PMID: 20421459)
[2] Wakao S, Kitada M, Kuroda Y, et al. Multilineage-differentiating stress-enduring (Muse) cells are a primary source of induced pluripotent stem cells in human fibroblasts. Proc Natl Acad Sci U S A 2011; 108: 9875-80(PMID: 21628574)
[3] Wakao S, Kuroda Y, Ogura F, et al. Regenerative Effects of Mesenchymal Stem Cells: Contribution of Muse Cells, a Novel Pluripotent Stem Cell Type that Resides in Mesenchymal Cells. Cells 2012; 1: 1045-60
# by DrMagicianEARL | 2023-11-15 11:28 | 文献
■ChatGPTをはじめとする大規模言語モデルの性能は目まぐるしく向上しており,世界各国の医師国家試験に合格するレベルに達している.一方で,専門医試験合格レベルにはまだ達していないのが現状である.日本において感染症専門医の数は非常に限られており,そのような中で感染症管理についてChatGPTが相談に応じられるようになれば感染症診療は抗菌薬適正使用も含めて飛躍的に向上すると思われるが,そう簡単にはいかないようである.

■今回紹介するClinical Infectious Diseaseにpublishされた研究は,血流感染症の管理をChatGPT-4に相談した場合の精度について検討しており,経験的抗菌薬の適切性は64%,限定的抗菌薬に至っては36%しかなかった.全体として,管理計画が最適であったのは44例中たったの1例のみであり,39%では満足できるものであったが,16%では有害であった.これらの結果から,現時点で血流感染症の管理についてChatGPT-4に相談するのは危険であると結論づけている.
チャットボット人工知能は,血流感染症管理において感染症専門医の代替となるか?
Maillard A, Micheli G, Lefevre L, et al. Can Chatbot artificial intelligence replace infectious disease physicians in the management of bloodstream infections? A prospective cohort study. Clin Infect Dis 2023 Oct 12[Online ahead of print]
PMID: 37823416
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37823416/

Abstract

【背景】チャットボット人工知能(AI)の開発により,医療における使用について大きな疑問が投げかけられている.我々は,血液培養陽性患者に対する実際の診療においてChatGPT-4が提案する管理の質と安全性を評価した.

【方法】三次医療機関における4週間の連続した感染症(ID)診察のうち,初回血液培養陽性患者のデータを前向きにChatGPT-4に提供した.ChatGPT-4は,包括的な管理計画(疑い/確定診断,ワークアップ,抗菌薬療法,感染源対策,フォローアップ)を提案するよう求められた.ChatGPT-4が提案した管理プランと,IDコンサルタントが文献やガイドラインに基づいて提案したプランを比較した.比較は患者管理に関与していない2名のID医師が行った.

【結果】初回血液培養陽性の44症例を対象とした.ChatGPT-4はすべての症例で詳細かつ明瞭な回答を提供した.AIの診断は26例(59%)でコンサルタントと同じであった.提案された診断検査は35例(80%)で満足のいくものであり(すなわち,重要な診断検査の欠落はなかった),経験的抗菌薬療法は28例(64%)で適切であり,1例(2%)で有害であった.感染源対策が不十分であった症例は4例(9%)であった.限定的抗菌薬療法は16例(36%)で最適であり,2例(5%)で有害であった.全体として,管理計画が最適であったのは1例のみであり,17例(39%)では満足できるものであり,7例(16%)では有害であった.

【結論】2023年に専門医の助言を求める場合,特に重症感染症については,コンサルタントの意見を聞かないChatGPT-4の使用は依然として危険である.

# by DrMagicianEARL | 2023-11-07 11:10 | 医学・医療とAI

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