2024年4月18日木曜日

1_215 月の形成 4:核の存在

 月の形成に関する次の話題になります。月の核についてです。月の内部に核があるかどうかは、長らく議論されてきました。前回まで紹介してきたような月の起源とも直接関わることになります。


 月は、有人のアポロ計画から、無人探査機による周回軌道からや表層での調査など、多数の調査がなされていますが、その内部については、未だによくわかっていません。
 天体の内部を調べるのは、どうするのでしょうか。いくつかの方法がありますが、天文学的観測から、質量、半径、角運度量、角速度を調べて、そこから慣性モーメントを求めます。もし内部まで全体の密度一定の物質からできていると、その値は物理学的は方程式から、0.4になります。中に重いものがあるとこの値は小さくなり、軽いものがあると大きくなります。
 地球の慣性モーメントは0.3307、金星が0.336、火星が0.366 となり、岩石惑星は、0.4より小さく、内部に密度大きいものがあることになります。巨大ガス惑星の木星で0.254、土星で0.210となり、値がさらに小さくなるので、より密度差が大きなものがあることになります。
 月は0.393となり、0.4に近いので、内部に密度の大きいものがあることになりますが、小さいはずです。それが金属鉄の核なのかどうかは、この値からは不明です。核があったとしても、小さいものになります。
 他に、地震波の観測から調べる方法があります。地震波の観測には、地震計を月面に置かなくてはなりません。地球と異なって、その設置は限られています。アポロ計画で、月に計5個の地震計が置かれました。9年ほどの観測がされて、1.2万回以上の地震(月震といいます)が記録されました。月震は揺れの大きなもの(マグニチュード3以上のもの)は28回と少なく、大半が深くで起こる小さいものでした。その発生メカニズムもよくわかっていません。時々隕石の衝突による月震も記録されています。
 月震の解析から、月の内部には、地球と同じように固体のマントルがあることはわかってきました。深部には地震波速度が小さくなるところがあり、そこは一部溶融したマントルと金属核(半径480kmのところ)があると考えられています。さらに深部には、また地震波速度が大きくなり、固体の金属核があると考えられるようになってきました。金属核のサイズは半径約330kmから250kmだと考えられ、非常に小さなものです。
 しかしその精度がよくありません。深部の核を詳しく探るには、そこを通る地震波のデータ必要になります。しかし、地震計は月の表側に置かれているために、内部を通る地震波のデータが少ないためです。
 その後、周回衛星で実施された重力探査と組み合わせて、月の内部がある程度正確に推定されるようになってきました。そして、核の存在が確実になってきました。

・横浜へ・
このマガジンは、10日ほどの前に予約配信しています。
それは、横浜に週末から週の前半にかけて
出かけているためです。
以前から訪れたかった義母の墓参りをします。
COID-19のはじまりでの訃報だったので
葬儀にも参列できませんでした。
もうひとつは、義父との面会です。
昨年春までは、COVID-19の影響で
出かける機会がつくれなかったのと
2023年度前半はサバティカルで四国に滞在していたため
今回の機会になりました。
そのため、今回は予約配信となりました。

・遅めの春・
北海道では、今年は雪が遅くまで降ったので
少々遅れ気味です。
それでも、4月に入り、急に春めいてきました。
桜の季節にはまだ早いですが、
初春のフキノトウや福寿草など
咲きはじめています。
ヒバリの鳴き声も賑やかになってきました。
北海道の春は一気に進んでいきます。

2024年4月11日木曜日

1_214 月の形成 3:シミュレーション

 ジャイアント・インパクトは、過去の事変なので検証不能です。現在の事実を説明できるモデルを、シミュレーションで確かめていくことになります。ただし、シミュレーションには、落とし穴もあるので注意が必要です。


 ジャイアント・インパクト説は、多くの研究者が起こったと認めるようになってきました。ただし、課題もあり、地球と月のある成分(酸素同位体組成)が似ている点も大きなものです。同位体組成は同じ起源物質からできたことを示しています。
 ジャイアント・インパクトで、ぶつかった天体(ティアと呼ばれています)と地球は、別々にできたものなので、異なった成分(同位体組成)を持っていたはずです。地球に衝突後、粒子が大量に飛び散りますが、ティアと地球の成分が混合していきます。その時、地球と飛び散って月を作った粒子の組成はどうなるでしょうか。地球はもともともっていた成分に、ティアの成分が加わることになるはずですが、月は飛び散った粒子なので混合の程度はさまざまで、異なった組成になりそうです。なのに地球と月の同位体組成は似ています。
 この課題に対して、衝突で地球から飛び出した粒子が高速回転することで加熱され、溶けて均質の雲状態(シネスティア Synestiaと呼ばれています)になったと考えます。シネスティアが冷えて固まり、地球にも月にも降り注げば、お互いに似た組成になるというものです。ただし、できた月の公転軌道が、地球の赤道面になる可能性が低いことが問題でした。
 前回紹介したケゲレイスらの論文は、この問題が解決できたという報告でした。その解決方法は、粒子を100万個から1億個まで増やして高解像度のシミュレーションを進めると、それまでうまくいかなかった月の形成がうまくいくようになりました。
 シミュレーションでは、地球に近い側に大きな天体と、遠い方に小さい天体ができたのですが、地球に近い側にある大きいほうの天体は、地球に衝突してすぐになくなります。遠くの小さい天体(月の0.69倍の質量)は、円軌道をもった月となることがわかってきました。そして、月は、数時間もあれば形成できるという結果もでてきました。衝突さえ起これば、月は簡単にできるということになります。
 この論文では、シミュレーションの精度を上げるために、粒子の数を増やしていきました。従来の研究では、せいぜい100万個でのシミュレーションだったのですが、増やしていくと、約320万個を堺に、別の様相を呈する結果がでてきました。
 現実はどれほどの粒子があったのかは不明ですが、粒子の数が億よりもっと大きな数であったはずです。もしかするとシミュレーションで、もっと大きな数になると、別の様相が生じるかもしれません。そう考えていくと、シミュレーションに終わりがなくなります。
 シミュレーションは、求める結果が出たときに、成功したとして、終わります。しかし、その先に別の様相が起こるかもしれません。どれだけおこなえば変化するのか、それともずっと変化しないのか、それは不明です。現状のシミュレーション結果は、確定したものではありません。

・終わりはない・
シミュレーションは高速の大型計算機を用いて進められます。
研究は、ゴールを想定して進めていきます。
今回紹介した論文のように
これまでいい結果がでていなかった原因が
シミュレーションで扱っている
粒子の数だと想定したのでしょう。
数を増やして、変化を調べてきました。
それまで100万個であったものを増やしていくと、
320万個で、突然、様相が変わりました。
その先に様相がどう変化するかを
1億個まで増やして、同じ結果になることを確かめました。
その先にはもう様相の変化はないでしょうか。
それは不明です。
もし、320億個まで増やしていけば、
そこで変化があったかもしれません。
しかし、さらにその先にも変化があるのかもしれません。
様相の変化は、無限に起こる可能性もありそうです。
シミュレーションの終わりは、
実際の衝突で飛び散った粒子の数に達した時でしょう。
それも不明なので、やはり終わりはないですね。

・講義のスタート・
いよいよ今週から講義がスタートしました。
久しぶりの講義再開なので、
慣れるのに時間がかかりそうです。
今週末には、私用で3日間でかけます。
その次の週の講義の準備も
しておかなければならないので
よけいにバタバタしています。
この私用が今年最初の遠出となります。

2024年4月4日木曜日

4_182 駒ケ岳:流山と景観

 今回は、昨年11月に訪れた駒ケ岳と大沼の紹介です。激しい火山活動が、現在のきれいな景観をつくりました。今後の「地球地学紀行」のシリーズについても考えました。


 COVID-19のため、2020年度は野外調査に出かけれられず、2021年度から2022年度にかけても、影響はまだあり北海道中心の野外調査となっていました。北海道は広いのですが、なんとなく似たルートでの野外調査が多くなりました。地質学的興味は尽きませんので、何度でも同じ地域にでかけていきます。それでいいと思っています。
 昨年11月中旬に野外調査にでかけた道南の紹介をします。道南には、毎年のように訪れていますが、今回は駒ケ岳と大沼周辺に出かけました。
 駒ケ岳の山頂部は、馬蹄形に削られたような特徴的な形をしています。もともとは、このような形の山頂ではありませんでした。駒ケ岳は、10万年前から活動しており、4万年前には、きれいな円錐形の成層火山(富士山のような形)をしていました。4万年前にいったん活動を停止したのですが、6800年前に活動を再開しました。何度も噴火を繰り返しながら、やがて活動は収まってきました。
 1640年に、再度、激しい活動をはじめました。この活動で山体崩壊が起こり、もともと1700mの標高があったものが、600mほど低くなって、崩れた山の形になりました。山体崩壊で、大きな岩塊が一緒に崩れました。そのような岩塊が斜面に残った流山地形ができました。1640年の噴火で流れ出た溶岩が、河川をせき止め、大沼ができました。大沼の中にある島々は山体崩壊の岩塊です。
 1929年と1942年に中規模の噴火がありましたが、不規則に小規模な活動を繰り返してきています。駒ケ岳では、時々火山性地震が発生するのですが、火山活動はあまり起こっていませんでした。2000年の小規模な水蒸気爆発があったのですが、その後は穏やかになっています。
 ところが、2023年12月以降、火山性地震が発生しています。3月23日には火山性微動や傾斜変動が起こりましたが、まだ大きな噴火の兆候はなさそうです。噴火警戒レベルは1(活火山であることを留意)のままです。
 激しい噴火で山体崩壊が起こした岩塊や溶岩が、大沼の景観をつくりました。火山活動による地形が駒ケ岳や大沼の観光地となりました。また周辺には温泉もあります。しかし、駒ケ岳は、活火山であることは忘れてはいけません。

【定期的配信】
 月刊メールマガジン「GeoEssay 大地を眺める」というエッセイを、先月で休刊としました。GeoEssayは、露頭写真や地形図、地質図、地形解析図、衛星画像など用いて、その地域の地質を文章で紹介していくものでした。そのため、ホームページで、エッセイ(文章)とともの多くの画像も公開していました。
 GeoEssayを休刊にした代替として、このEarthEssayで、月に一度(月初の号)は、「地球地学紀行」のシリーズを配信していこうと考えています。
 GeoEssayを休刊にしたのは、今年度で定年退職するためです。研究のために大学のコンピュータ室に設置しているサーバで「GeoEssay」を公開しているたのですが、退職で停止しなければなりません。この1年でサーバによる教育活動も、順次停止していく予定をしています。
 このEarthEssayはテキストだけなので、退職後も継続していきます。サーバは使いませんが、メールマガジンとブロクでの公開としていくことになります。

・Last Year・
2024年度がはじまりました。
今年は自分にとってはLast Yearとなるため、
すべての行事、講義が最後となっていきます。
二度とできないものが続いてきます。
実際におこなわれている教育は、
受講する学生にとっては
各出会い、講義が一期一会となります。
ですから、いつであっても、手抜きはできません。
そうはいっても、最後となると・・・

・入学式・
大学の入学式は、街の大きな会場を借りて実施されます。
新入生と保護者が一同に入れるサイズの会場が
大学にはないためです。
多くの大学では、入学式や卒業式は
全員が一度に入れる会場はもっていません。
大きな会場を借りて実施しています。
小中高校では、自前の施設で実施しているのですが、
大学は貸会場となることが多いようです。
全学生が集まるという需要が
ほとんどないためでしょう。
大学の自前のホールで実施しているところもあります。
我が大学も、学位記授与式は学部学科ごとに分けて
学内のホールで実施しています。
十分、セレモニーとして成立しています。

2024年3月28日木曜日

1_213 月の形成 2:ジャイアント・インパクト

 月の形成でジャイアント・インパクト説が、現在では有力となってきたことを、前回、紹介しました。月の起源は二転三転しながら、ジャイアント・インパクト説に再度なってきました。


 かつては、月の起源説には、衝突説があました。それも月形成のアイディアとして、昔の人はその可能性を思いついていました。しかし、太陽系のできかたが、少し明らかになるに従って、大きな天体同士の衝突は、稀な現象だと考えられました。そして、顧みられなくなりました。
 ところが、太陽系形成の現代的なシミュレーションにより、復活しました。初期には多数の微惑星ができ、衝突合体が起こり原始惑星へと成長していきます。ひとつの公転軌道には、いくつかの大きな原始惑星へと成長していきます。そして最終段階には、大きな原始惑星同士の衝突、ジャイアント・インパクトが起こりそうなことが、シミュレーションから明らかになってきました。衝突説は、一旦は消えそうになったのですが、再度復活してきました。
 ジャイアント・インパクト説は有力ですが、課題もまだ残されており、説の詳細は、今でもいろいろと議論されています。議論の中でも、一番の注目は、月ができていく過程でしょうか。その様子はシミュレーションでしか再現できません。
 ケゲレイス(J. A. Kegerreis)らの共同研究で、2022年10月のThe Astrophysical Journal Letters誌で、
 Immediate Origin of the Moon as a Post-impact Satellite
 (月の衝突後の衛星としての短時間の起源)
という論文が報告されました。
 この論文では、高解像でシミュレーションがなされました。衝突で飛び散る粒子の数が、シミュレーションの精度となります。この論文では、1万個から1億個までの範囲でシミュレーションが実施されました。
 これまでは、10万個~100万個の粒子でおこなわれていたシミュレーションで、月ができたり、できなかったりしていました。ところが、粒子の数を1億個まで増やすと、簡単に月ができることがわかってきました。その期間は、わずか数時間ほどでできました。
 非常に短い時間で月の誕生することがわかってきました。このような短い時間は、衝突時に放出される熱エネルギーが、月に取り込まれることになります。これが、月でマグマオーシャンをつくるための用いられることになります。
 このシミュレーションでは、同時に2つの天体ができました。それについて次回にしましょう。

・送別会・
大学は、年度末を迎えています。
在校生のガイダンスや健康診断、
新入生を迎えるための準備も進んでいます。
そんな中、教職員の送別会が学部や大学で
いくつかおこなわれました。
やっと例年通り飲食ができる状態となりました。
私にとっては、久々の公的な宴席が続きます。
退職される知り合いも
数名おられるので、寂しさもあります。
ただし、職員では再雇用や教員では非常勤として
次年度からも勤務される方もおられます。

・思いつきの連鎖・
現在、本を執筆しています。
ライフワークのまとめとなります。
これまで進めてきた
さまざまな方向の研究成果が
不思議と合体してきました。
最初に別のテーマがつながると
思いついたときから、
思いつき連鎖していき、連環していました。
今は、その思いつきを
整合的につなげていく作業を進めています。

2024年3月21日木曜日

1_212 月の形成 1:起源の仮説

 月に関するいくつかの新しい知見が報告されました。まとめてシリーズにして、紹介していきます。月の起源に関していくつかの説がありました。これまでどのような説があり、それぞれでどこが課題なのかを紹介していきましょう。


 かつて、月の起源には、いくつもの説がありました。起源説としては、分離説(分裂説、親子説)、捕獲説(他人説)、集積説(兄弟説、双子)などに分類され、古くから議論されてきました。現在では、ジャイアント・インパクト説(巨大衝突説 giant impact)が有力となっています。それぞれ、どのような説かをみていきましょう。
 分離説とは、古くからある説で、地球から月が分離してできたというものです。かつては地球の自転が速かったため、地球のマントル物質が飛び出して月が形成されたとする説です。地球がマントルが分裂するほど高速回転していたとすると、現在の地球と月の運動(角運動量)と合わなくなります。
 捕獲説は、太陽系初期に多数形成された微惑星の一つが、地球に捕らえられたというものです。月が地球に捕獲される時、月の運動エネルギーを減らさなければなりません。その方法は現実的ではないものになります。
 集積説は、地球と月は近くで一緒に形成され、連星の状態になったとするものです。ところが、似たような材料物質からできたはずなのに、天体全体の平均密度や平均化学組成に違いがあり、月では揮発成分が少なくなっています。月でも金属鉄の核を持つはずなの、核がないかあっても小さいと推定されています。ただし、同位体組成が似ています。
 これらの3つの説は、いずれも課題の多いモデルとなります。地球と月の岩石の同位体組成が類似しているのに、いくつかの化学組成の違いや運動(角運動量の類似)が問題となっていました。
 ジャイアント・インパクト説より前には、衝突説があり、地球に天体が衝突して、月が飛び出してできたというものです。衝突は、偶然で稀な出来事だと考えられ、もっと困難な説だと考えられてきました。しかし、太陽系初期のシミュレーションにより、多数の微惑星が形成され、衝突合体しながら成長していくことが明らかになってきました。天体同士の衝突は頻繁に起こり、衝突の終わりころには、大きな原始惑星同士が衝突するすることになったと考えれました。それがジャイアント・インパクト説で、現在では、もっとも有力な説となってきました。
 では、ジャイアント・インパクト説で、月はどのようなプロセスでてきていくのでしょうか。いろいろなシミュレーションがなされてきていますが、非常に短期間でできたという報告がありました。その内容は次回にしましょう。

・祝賀会・
先週、学位記授与式がありました。
コロナ禍も終わり、通常通りに開催されました。
その後の祝賀会も、例年通りに実施されました。
全学での開催なので、
落ち着いて話せないのですが
賑やかな会になります。
例年、祝賀会に出席しているのですが、
今年から出席を控えることにしました。
祝賀会のあとも、
学科やゼミの学生たちと
宴会をしていました。
今年度から、ゼミを持たなくなったので、
学生とゆっくりと宴席を囲む場がなくなりました。
さみしいですが、しかたがありません。

・静かな幕引き・
退職まで、あと1年となりました。
失礼にならない程度に、
静かに幕引きをしたいと考えています。
本来なら、退職1年前は校務分掌も
最低限となるはずです。
諸般の事情で、役職に就くようになりました。
しかたがない事情なので引き受けましたが、
それを最後の奉公と思って、
つつがなく務められればと思っています。
サバティカル以降、少しずつですが、
定活(定年活動)を進めています。

2024年3月14日木曜日

6_209 AIで最初の星 4:銀河考古学

 最初の星に由来する元素を、AIで解析した報告がありました。太陽系近傍の若い星には、複数の星に由来する元素が用いられていました。これは、銀河、宇宙の形成の時空間へ、情報を与えることになりそうです。


 観測で調べた若い星の元素組成を、AIで解析した報告がなされました。すると、ひとつの最初の星に由来する元素からだけではなく、複数の星に由来することがわかってきました。この結果は、どのような意味があるのでしょうか。
 星は、形成場の周辺に存在している元素が素材になります。今回の報告では、若い星の形成場には、いくつもの最初の星に由来する元素がありました。形成場は、複数の星の超新星爆発が起こり、元素が混在していたことを示していました。これは、最初の星は、同時期に形成され、同時期に超新星爆発を起こしたことを意味しています。
 複数の最初の星の元素が集まっているということは、近くに最初の星がいくつも形成されていた状態、つまり星団となっていたと考えられます。これは、宇宙創成期に、星の形成場では、星の分布が不均質だった可能性を示していそうです。
 最初の星の様子を、形成時期だけでなく位置関係も推定させることになってきました。これらの内容は、最初の星の誕生のシナリオでも考えられていましたが、今回の報告で、その証拠が示され、定量化もできたことになります。
 さらに、超新星の元素合成であらゆる可能性での元素組成をシミュレーションして、AIに学習させました。その学習結果を、現実の観測値このような過去の星「最初の星」の様子を推定に利用するというアイディアは素晴らしいものでした。そして、太陽系近傍の星に適用してえられた結果は、今後、全宇宙の適用していく時の重要な作業仮説にできます。
 このような研究手法は、過去の銀河や恒星の探査は「銀河考古学」と呼ばれています。銀河考古科学には、星の元素の特徴を用いて調べるほかにも、星の分布、星の運動などを用いても研究が進められています。近年、観測衛星の高精度のデータから、星の固有運動を正確に決定できるようになってきました。星の運動を用いる研究も、進められています。
 太陽系の近くの恒星から、古い銀河、宇宙開闢の様子を探ろうとするアイディアは面白いですね。

・マスク・
集中講義が終わり、3月のバタバタも
これで一段落となります。
今週末には、学位記授与式がおこなわれます。
コロナ禍以来、やっと通常の学位記授与式となります。
まだ教職員にも学生にも
マスクをしている人が、まだ何割かいます。
そのため、素顔を覚えることなく
卒業していく学生もいます。
街で素顔の卒業生とすれ違っても
見分けがつかないかもしれません。

・定活・
今年から、かつての状態に戻り
全学の卒業を祝う会がおこなわれます。
今年からゼミを持たなくなったので、
身近な学生との懇親会がなくなりました。
コロナ禍が終わって、やっと学生との
宴会ができる状態になったのですが
学生との飲み会ができないのが残念です。
まあ、定活(定年退職に向けての準備)と思って
少しずつ、変化に慣れていきましょう。

2024年3月7日木曜日

6_208 AIで最初の星 3:スペクトル分析

 恒星の元素組成は、光のスペクトル分析で調べることができます。最初の星の超新星爆発で形成される元素組成は、理論から推定することができます。両者を、AIを用いて解析することで、新しいことがわかってきました。


 恒星の元素組成は、どうして知ることができるのでしょうか。恒星の光の観測から推定できます。私たちの太陽も同じ方法で調べることができます。
 太陽を例にしましょう。太陽からでている光を、プリズムを通すと波長ごとに分けることができます。その様子を詳しくみていくと、明るい線や暗い線がたくさん見つかりました。
 明るい線(輝線)は、太陽の内側で輝いているところに多くある元素が出している光で、その波長の特徴を示しています。一方、暗い線(暗線)は、太陽が出している光が、外側の大気中にある元素に、吸収された光の波長の特徴を示しています。光の波長ごとの特徴から、恒星(太陽)の元素組成を知ることができます。
 このような方法をスペクトル分析といいます。遠くの星のスペクトル分析ができれば、その元素組成も調べることができます。これは恒星の観測データから、その星の元素組成が決めることを意味しています。
 一方、最初の星の内部の核融合のプロセスが理論的に計算できます。同様に、超新星爆発で合成される元素組成の計算もできます。こちらは理論的に最初の星の元素組成を想定することができます。ただし、最初の星のサイズが異なれば、元素組成も異なってきます。
 二代目の星は、最初の星とその超新星爆発で形成された元素組成と、周辺のビックバンでできた元素からできるはずです。何代目がわからないとして、重い元素の少なければ、若い星とみなせます。若い星の元素組成を観測して調べていきます。
 この論文の工夫された点は、最初の星の超新星爆発で形成される元素組成を、いくつものパターンを理論的に計算して、AIを用いて観測した星が、どのような組成の超新星爆発からできかを区分していったことです。
 AIの解析により、ひとつの超新星爆発の元素でできた星と、複数の超新星爆発でできた星が、区別できようにました。太陽系の近くにある462個の重い元素を含まない星を調べた結果、31.8%がひとつの星から来た元素であることがわかりました。このような星をモノエンリッチ(mono-enriched ひとつに富む)と呼んでいます。それ以外の68%ほどが、複数の超新星爆発による元素からできていることがわかってきました。このような星をマルチプリシティ(multiplicity 多元素性)と呼んでいます。
 これは、どのような意味をもっているのでしょうか。次回としましょう。

・事前指導・
現在、集中講義の最中です。
教育実習のための事前指導のための
授業となります。
ゴールデンウィーク開けから
教育実習がはじまります。
その前の準備となります。
先生として実際の授業を進めてきます。
はじめてのことなので、
なかなかうまくいかないでしょうが
実際の体験すること、
失敗することも重要です。
学ぶことが多いと思います。

・著書の執筆中・
著書の執筆を進めてみます。
当初予定より、1月ほど遅れてスタートしました。
それは、この著書に関係する
論文の草稿を執筆していたためです。
その論文や著書を書きながら
構想を深めてきました。
おかげで、これまで大学で研究してきた
いくつかのテーマがすべてつかって
総括できるような内容に発展してきました。
あとは、その内容をどこまで深めていけるかですが、
これが、なかなか難しく、頭を使う必要があります。
3月中になんとかまとめたいと考えています。