. 若き知
2024年4月19日「金利上昇が景気の追い風に」

 米国の利上げが、むしろ景気の追い風だとしたらといった逆張り論理が出ているそうである。

 ブルームバーグのコラム記事によると、過去2年にわたる急ピッチの利上げが、実のところ経済を押し上げているとしたらどうか。つまり、金利上昇にもかかわらず経済が堅調なのではなく、むしろ金利上昇のおかげで経済が好調なのではないかとの見立てだ。

 金利上昇によって、リセッション(景気後退)が迫っていると予想が多かったことはたしかであり、米国の長短金利の逆転もリセッションの可能性を示しているとの見方も出ていた。しかし、実際にはリセッションは起きてはいない。

 これについては政府債務が巨額化したタイミングでもあったため、支払利子も大きくなり、それが債券投資家の懐に流れ込み、消費を増加させているといった見立てもある。

 米国はさておき、日本ではやっと金利が戻りつつあることで、こちらも経済に与える影響が出てくることが考えられる。

 これについては逆張り論理というか、日本経済にとってはプラスに働く可能性が高いとみている。そもそも低金利で助かったのは誰かと考えれば一目瞭然であり、それはやはり巨額の債務を抱えた政府であったためである。

 金利が上がれば財政規律がより意識されるとともに、利子を通じて預貯金者の懐を潤すこととなる。また金利が上がってくるとなれば、企業の設備投資も刺激することになる。金利上昇の背景に物価上昇があれば賃金の上昇にも繋がる。

 金利上昇によって住宅ローン金利への影響が注目されるが、むしろ債務者側からの視点よりも債権者側からの視点をもっと持つべきかと思う。

 少なくとも日本では金利上昇が経済を活性化させる可能性は、逆張り論理というよりも普通の見方となるのではないかと思うのだが。


2024年4月18日「日経平均株価はピークアウトしたのか」

 日経平均株価の日足チャートをみると、ダブルトップを形成し、いったんピークアウトしたようにもみえる。

 日経平均の過去最高値は今年3月22日のザラ場中に付けた41087円75銭となっている。引け値では同日の40888円43銭。

 3月7日には40472円11銭まで上昇し、その後いったん戻り売りに押されたあと切り返して、22日にピークを付けた。その後、戻り売りに押され17日には38000円近くまで下落した。

 米国株式市場でも、ダウ平均は3月21日に4万円に接近したが、ここでピークアウトした格好となっていた。このため、日経平均はこのダウ平均の動きに大きく影響されていた可能性がある。

 日経平均が目先ピークアウトしたのかどうかは、このダウ平均がやはりピークアウトしたかどうかに掛かってこよう。

 ダウ平均にチャートをみると、やはりダウントレンドを形成していることがうかがえる。ここで完全にピークアウトとなったのかどうかはわからない。しかし、上昇トレンドが変化していたことはたしかである。

 その背景には、期待していたFRBの利下げが次第に遠のいてきていたことがあげられよう。

 16日にパウエルFRB議長は、インフレ率の高止まりが続けば現在の高い政策金利を長く維持する可能性があると言及していた。

 年内複数回の利下げを期待していた市場だが、年内利上げ無しかとの見方も出てきた。年末に向けては大統領選挙も控えており、FRBが動きづらくなる可能性がある。

 通常であれば、大統領選に向けてFRBに利下げ圧力が掛かりやすい。しかし今回の大統領選において物価高による影響が争点のひとつとなりかねず、今回の大統領選はかならずしも利下げを求めてくるとは限らない。

 ただし、FRBが利下げに躊躇しはじめた理由が、粘着性の高い物価高とともに、景気の底堅さもある。これから見る限り、ここでダウ平均が完全にピークアウトしたとも言い切れない面もある。

 調整らしい調整もなかっただけに、ここでいったん本格調整が入ったあと、再び切り返してくるとの見方もできよう。


2024年4月17日「現在の円安は歴史的な転換点となる可能性」

 ドル円は15日のニューヨーク市場で154円45銭まで上昇し、1990年6月以来、約34年ぶりの高値を更新した。つまり1990年6月以来の円安水準となった。これはもしや歴史的な転換点となる可能性がある。

 1971年8月15日に当時のニクソン米国大統領は、米国の国際収支の赤字を削減してドルの流出を防ぐ目的により、外国の通貨当局に対してドルと金との交換停止を通告した。いわゆるニクソンショックである。これによって、戦後続いてきたドルを基軸通貨とする固定相場制(ブレトンウッズ体制という)は終了し、1ドル360円の固定相場制から変動相場制に移行した。

 ニクソン・ショックの同年12月に、ワシントンのスミソニアン博物館で開かれた10か国蔵相会議では、ニクソン大統領が発表した米国の新経済政策をうけて、通貨に関するいくつかの措置が合意された。これがスミソニアン合意である。ドルを切り下げ、為替の変動幅を従来の上下1%から暫定的に2.25%に拡大された。円レートは16.88%切り上げられて308円に変更された。

 しかし、スミソニアン体制でも為替相場は安定せず、ドル売りは止まらず、さらに1973年には第4次中東戦争の勃発による原油価格の急騰によるいわゆるオイル・ショックによるインフレ圧力も追い討ちをかける格好となった。

 アメリカやイギリスの国際収支は改善されず、イギリスをはじめ各国がスミソニアン体制を放棄したことにより、1973年に主要先進国は「変動相場制」に移行した。

 1973年には第4次中東戦争の勃発による原油価格の急騰によるいわゆるオイル・ショックを受けて300円近辺までドル円は戻したものの、その後は再びドルが売られ、1978年末には180円近辺にドル円は下落した。

 1985年9月ニューヨークのプラザホテルで秘密裏に開かれた、G5と呼ばれた国(日本、アメリカ、イギリス、フランス、西ドイツ)の蔵相会議において、米国の貿易赤字と財政赤字の「双子の赤字」問題による対外不均衡を、先進各国は為替相場の調整でこれを是正することとし、ドルを引き下げる方向で合意した。いわゆるプラザ合意である。

 プラザ合意前の為替市場においては、1ドルは242円近辺であったが、プラザ合意後の11月末には202円近辺まで円高ドル安が進行した。

 1986年末には160円へ。その後も円高ドル安が進む。プラザ合意後、ドル安はさらに進み円相場は1987年2月にはドル円は140円に到達した。1987年2月にパリのルーブル宮殿で先進7カ国蔵相・中央銀行総裁会議(G7)が開催され、今度はプラザ合意後の行き過ぎたドル安にストップをかけることが検討された。

 しかし、ルーブル合意によるドル安の歯止めも効かず、1988年には当時の史上最安値となる120円を付けてきた。

 日本では円高不況の対策として、日銀は低金利政策を推進しバブルが発生。1990年には160円近辺まで円安が進行していた。そこから再び円高ドル安が進み、1995年4月には一時79円70銭台の史上最安値を更新した。

 つまり、1990年6月以来の円安ドル高というのは、長めのチャートをみると、1990年以降の円高局面から脱した格好となる。これがいったい何を示しているのか。一時的な円安ドル高ともいえなくなってきたように思う。


2024年4月16日「中東の地政学的リスクと原油価格」

 12日の米国市場ではイランが近くイスラエルに報復攻撃をするとの見方から原油先物は買われ、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物5月限は一時87.67ドルと約5か月半ぶりの高値を付けていた。

 13日にイランがイスラエル本土をミサイルやドローンで攻撃した。

 日本時間15日早朝の時間外取引では1バレル85ドル台後半で取引を開始。一時86ドルを超えたものの、12日につけた高値には達してはいない。

 イランは産油国であると同時に、世界の石油供給の大動脈であるホルムズ海峡に面している。

 13日にはイラン革命防衛隊がイスラエルに関連する貨物船を拿捕したと伝えられた。

 いまのところ、原油先物価格は比較的落ち着いた動きとなっている。イスラエル側が報復に動くかが不透明となっており、まさに様子見となっている。

 イランは300発以上のミサイルと無人機を発射したようだが、大半は米国を含むイスラエルの同盟国の支援によって迎撃されたとされる。

 イランもこのあたりを見越していた可能性がある。イスラエルも報復攻撃を行う可能性も高そうだが、対立激化を避ける意味でも被害そのものは抑えられることも予想される。

 ただし、これによって中東の緊張がさらに高まり、ホルムズ海峡への影響などによっては、WTI先物が再び90ドルを窺うことも予想される。

 原油を輸入に頼る日本にとって、円安とともに原油高は物価を直撃する。

 賃金上昇を伴っての物価上昇だけでなく、さらにコストプッシュによる物価上昇によって思わぬ物価の跳ね上がりもありうるだけに、日銀の金融政策の行方にも影響を与える可能性がある。


2024年4月13日「金(ゴールド)の最高値更新の背景に地政学的リスクなどとともに中国の存在も」

 4月12日に金(ゴールド)の国際価格が最高値を更新した。

 ニューヨーク商品取引所では、先物の中心限月6月物は前日比1.4ドル高の1トロイオンス2374.1ドルで引けたが、一時2448.8ドルと連日で最高値を付けた。

 これを受けて日本でも小売価格で12日に12931円/1gと過去最高値を更新していた。

 金(ゴールド)は今年の2月半ばあたりから上昇を強めており、連日での最高値更新となっている。

 物価の上昇、中東やウクライナを巡る地政学的なリスクの高まりも金相場にとって、買い材料となっている。ただし再び上昇し始めた2月以降にあらたな金への材料が出ていたようには思われない。FRBの利下げ観測の後退なども要因となっていたのかもしれないが、中国による金購入継続もその要因のひとつとなっていたとみられる。

 中国人民銀行(中央銀行)は7日、3月末時点の金保有高が前月比で16万トロイオンス増えたことを明らかにした。公的部門の買いが最近の金価格の上昇を支えたとの見方を裏付ける結果となった。

 これにより中国人民銀行(中央銀行)は1年5か月連続で準備資産として金を買い増ししたことになる。安全資産として金を備蓄する動きが続いているとの見方もあるが果たしてそれが主要な要因なのであろうか。

 金を最も保有している国は米国である。マンハッタンにあるニューヨーク連邦準備銀行の金庫には大量の金が保管されていまる。ここに保管されている金はすべてニューヨーク連銀やFRBのものではなく、ここに口座を保有している米政府、外国の政府、その他各国中央銀行そして公的国際機関などが含まれている。

 ロシアのウクライナ侵攻に対し、G7各国はロシア中央銀行の外貨準備を凍結し、その総額は3000億ドルに上ったとされている。

 中国が買い入れている金がどこに保管されているのかはわからない。安全性などを考慮してニューヨーク連銀に預けている可能性もあるが、中国本土にて保管している可能性もあるのではなかろうか。

 大量の金の取引によって、現実にニューヨーク連銀の金庫から輸送することは可能なのかどうか。このあたりについてはよくわからない。しかし、中国が何かしらの備えで金を購入しているとすれば、その保管先についても気になるところではある。

 金は買われ過ぎとの見方もある。しかし、世界的な地政学的リスクが強まっており、米大統領選挙も控えるなどしている。安全資産として今後さらに評価されることも予想される。金には利子は付かないものの、もしもの際に世界的に通用する実物資産であることも確かである。


2024年4月13日「日本の長期金利は、1%に向けて上昇か。こちらもチャートが示唆」

 日本の10年債利回り(以下、長期金利)の日足チャートも、やっとチャートらしい動きを示すようになってきた。2022年12月までは0.25%に抑えられ、当時はまさに毎日が誤差範疇のような動きとなっていた。

 4月11日に日本の長期金利は0.855%まで上昇してきた。手元のデータからはこれは2023年11月14日に0.870%に上昇して以来の水準となる。

 11日に長期金利が上昇した背景には、米長期金利の上昇があり、さらに日銀の年内利上げ観測、当日実施された20年国債の入札低調といった材料も重なった。

 米長期金利については、チャートからは5%を目指して上昇する可能性が出てきた。11日の米国債券市場では、10年債利回りは4.59%に上昇していたが、2年債利回りは一時5.01%まで上昇していた。

 日銀が年内に利上げを行う可能性も強まりつつある。円安によっと追い込まれてというよりも、物価上昇と賃金の引き上げなどを背景に、日銀が正常化に向けてさらに歩を進めることが予想されるためである。

 ここにきての中東情勢の緊迫化などもあり、原油価格が再び上昇しつつあり、それが物価に波及し、複合的なインフレが発生するリスクも出てきた。

 ECBは6月にも利下げをすね可能性が出てきたが、FRBについては年内利下げについても不透明感が漂っている。粘着性の高い物価上昇が継続する可能性も指摘されはじめている。

 こういったことから、日本の長期金利もさらに上昇圧力を強め、昨年11月1日に付けた直近の最高利回りの0.975%が視野に入りつつある。

 今度こそ1%を超えてきても、現状の物価・経済状況であれば、何ら違和感はない。そもそも日銀はすでに正常化に向けて動いていることそのものが、それを裏付けるものとなる。

 ちなみに、長期金利が1%上昇すると利払い費が8.7兆円増えるとの試算が出されているが、これは長期金利が1%になったらという意味ではない点に注意が必要である。

 もう少し詳しくいえば、長期金利がこれまでの「想定」より1%上がった場合に、2033年度の国債の利払い費が、さらに8.7兆円増えるとの財務省の試算である。

 その想定金利は、2023年度でいえば1.9%となっている。つまり、長期金利が1.9%まで上昇しても想定の範囲内であり、追加の費用負担が増加するわけではない。長期金利がもし2.9%まで上昇した場合には、利払い費が8.7兆円増えるとの試算である。


2024年4月12日「米長期金利は5%に上昇してくる可能性、円安が加速するリスクも」

 私が債券ディーラーだった際に、心がけていたことがある。それはロスカットルールを厳守することである。いまなら当たり前ではないかと言われそうだが、1986年にディーラーになって多少経験を積んでから、自主的にロスカットルールを決めていた。

 これは債券先物の日足四本値といったチャートを重視しないと、痛い目に遭うことを何度も経験していたためである。チャートは絶対ではないものの、何か見えないものを示唆していたことがあるためである。

 下記は4日に私が書いていたものである。

 「2日の米10年債利回りは一時、4.40%と昨年11月以来の水準まで上昇した。目先の節目とみられていた2月に付けた直近ピークの4.35%を一時、抜けてきた。ここを本格的に抜けてくると、5%あたりまで節目らしい節目はない。」

 これを書いた時点でまさか、米10年債利回り(以下、米長期金利)が5%に向かって上昇してくるということは考えづらかった。少なくともFRBの次の一手は利下げであり、問題はどこでそれを始めるかだけであったとみていたためである。

 ただし、チャートそのものは5%へ向けて上昇してくる可能性を示唆していたことになる。そして、材料があとから付いてきた。

 もし5%などいくはずがないと、2日の時点で米債のロングポジションをそのまま持っていたとしたら、損失が膨らむこととなった。

 10日の米長期金利は4.56%まで上昇したのである。

 あとから付いてきた要因のひとつが、3月の米消費者物価指数であり、前年同月比で3.5%と予想を上回った。3月のFOMC議事要旨では利下げ開始に慎重な見方が示された。10日の米10年債入札は低調な結果となったことなどが重なっての米債の急落(米長期金利の高騰)となったのである。

 これらを受けてFRBによる利下げは年一回にとどまるとの見方も強まったようだが、年内利下げができるかどうかも不透明になってきている。

 米長期金利が5%まで上昇するかどうかは当然わからない。しかし、チャートはその可能性も示していることで、あきらかに米長期金利の上昇トレンドに変化が無い限り、米債のロングポジションはリスクがあるということになる。

 さらにドル円と米長期金利との連動性が高まっているとなれば、ドル円が153円あたりで止まることも考えづらくなる。このあたり、今後の米長期金利のチャートも注意して見ておく必要がある。


2024年4月11日「日銀の物価見通し修正で、追加利上げも意識か」

 日本銀行が25、26日に開く金融政策決定会合では、好調な今年の賃上げなどを受け、2024年度の消費者物価(生鮮食品を除く)見通しの上方修正を議論する公算が大きい。事情に詳しい複数の関係者への取材で分かった(9日付ブルームバーグ)。

 久しぶりに「事情に詳しい複数の関係者」が登場した。これは「リーク」というよりも、そういった可能性をあらかじめ示す示唆といったものではないかと思われる。

 ちなみにリークとは、機密を漏らすこと、機密が漏れることとされるが、あらかじめその方向性があることを示すのはリークとは言えないのではなかろうか。ただし、会合の途中で総裁の議案提示を漏らすことはリークと言わざるを得ないが。

 それはさておき、4月の金融政策決定会合では、経済・物価情勢の展望(展望レポート)も公表されるこのなかで、2024年度のコアCPI見通しを従来の前年比2.4%上昇から引き上げることを検討する可能性が高いそうである。

 4月の展望レポートからは2026年度の見通しも公表されるが、2026年度のコアCPI見通しは2%程度が見込まれるという。

 いずれの数値も展望レポートの消費者物価指数(除く生鮮食品)の政策委員見通しの中央値である。

 1月の展望レポートでの2024年度の消費者物価指数(除く生鮮食品)の政策委員見通しの中央値はプラス2.4%となっていた。それがもう少し引き上げられる。足元の数値などを考慮してのものとなろう。

 ここで注意すべきは、4月から加わる2026年度の見通しとなり、こちらも日銀の物価目標の2%を割り込まないと予想するのであれば、追加利上げがやりやすくなる。

 むろんそのための数値ということではないと思われるが、市場がそういった読みをしてくる可能性は高いのではなかろうか。

 個人的には今年7月の金融政策決定会合での0.25%の利上げ、12月あたりにも0.5%への追加利上げを予想している。やはりキーとなるのはそのあとの0.75%への利上げとなると思われる。いまが金融政策の正常化に向けた千載一遇のチャンスであることにかわりはない。


2024年4月10日「シロからクロ、そして今度はウエに、日銀総裁の変遷」

 2023年4月に植田総裁が就任して1年が経過した。

 植田日銀は2023年7月に実質的に長期金利コントロールの上限を1%に引き上げた。

 その後、こんな記事が出ていた。

 「緩和姿勢を変えないコミットメント(約束)が守られていくか注視したい」。自民の世耕弘成参院幹事長は2023年8月2日の記者会見でこう強調していた。7月31日の講演でも「緩和からいよいよ離脱を始めるメッセージが出た。『植田日銀』に目を光らせなければいけない」と、長期金利の上昇を1%まで認めるとした28日の金融政策決定会合に露骨な不満を表明した(2023年08月02日時事通信)。

 10月には長期金利の目標を引き続きゼロ%程度としつつ、その上限の目途を前回の0.5%から1.0%に引き上げて「目途」とすることで、イールドカーブコントロールを形骸化した。

 就任後、3か月毎に修正を行っていた格好ながら、その3か月後の2024年1月での修正はなかった。これについてははっきりした証拠はないものの、そこに至る過程を見る限り、植田日銀は1月にもマイナス金利解除を含めた修正を行おうとしていた可能性があった。

 しかし、何らかの事情が生じて、3月に先送りされた可能性がある。

 結果として春闘の結果をみて、正常化に向けた一歩を踏み出した格好となった。また、自民党安倍派の政治資金問題も結果として、日銀にフリーハンドを与えた格好になったと思われる。

 総裁が植田氏に変わってからの日銀は政治的なプレッシャーに晒されながらも、物価上昇に応じ政策変更を探りながら行っていた。

 前任の黒田総裁については、リフレ派ではないものの、安倍派の意向を汲んだ政策を行っていた。その前任の白川総裁は本来の日銀の政策を行ってきたが、こちらも政治的なプレッシャーに晒されていた。

 白川総裁から黒田総裁に代わって日銀の金融政策は大きく変わった。まさにシロからクロに変化した。それでも物価は上がらず、日銀は無理に無理を重ねた。

 ところがコロナ禍とロシアによるウクライナ侵攻によって、世界の物価情勢が急激に変化し、日本も巻き込まれた。

 ファンダメンタルズに大きな変化が出たが、それに対応しての日銀の修正は遅れたというよりも「緩和姿勢を変えないコミットメント」に縛られる格好となっていたのである。

 2022年4月から消費者物価は2%を超えてきた。その後、黒田日銀がやっと動いたのは2022年12月であった。日銀は長期金利の変動幅を従来の±0.25%程度から±0.50程度に拡大したのである。

 拡大したと言うよりも物価上昇応じた長期金利の上昇圧力に耐えられなかったことや、それによる円安進行によって追い込まれた面があった。その際にも「緩和姿勢を変えないコミットメント」は変えなかった。

 結局、植田氏が就任し、物価上昇は続き、政治的な変化も生じて、日銀は本来の政策に修正が可能となった、今後は物価に合わせた金利の引き上げが視野に入る。クロからウエへの変化ともいえるか。

 2024年3月19日の公表文からは、「緩和姿勢を変えないコミットメント」も消えていた。


2024年4月9日「日銀への評価の疑問点」

 日銀総裁に植田和男氏が就任して9日で1年となる。金融政策運営についての評価をエコノミストに聞いたところ、市場の混乱なく政策修正を進めた手腕に高い評価が集まった。と8日に日本経済新聞が伝えた。

 日本経済新聞が植田氏の就任以来の評価をエコノミスト16人に100点満点で聞いた。回答者の平均は77点だった。最高は90点、最低は40点で、中央値は80点だったそうである。

 高評価の理由として多くのエコノミストが挙げたのが、異次元緩和策の解除を「市場の大きな混乱なくやりきった」点だとの指摘もあったが、これについては疑問を感じる面がある。

 確かに植田氏が2023年4月に就任後、日銀は2023年7月と10月に2回、イールドカーブ・コントロールの柔軟化に踏み切った際、債券市場はそれほど動揺は示さなかった。

 オーストラリア準備銀行が2020年3月から3年物国債の利回りを抑えるYCCを実施していたが、物価上昇の加速で金利は急騰し、市場に追い込まれる形で撤廃した。

 豪中銀幹部からは「日銀は上手に形骸化させた」との評価が日銀関係者に伝えられたそうだが、豪中銀幹部は日本の債券市場で何が起きていたのかを知らなかったのであろうか。

 植田総裁の就任前ではあるが、日本でも物価上昇の加速で長期金利が上昇し、日銀はそれに対抗するかのように毎営業日連続での指値オペを実施。10年債の4銘柄を発行額以上買いあげるという、前代未聞のことが起きていたのである。

 10年債利回りはショートカバーによって急低下するなど、物価に応じた長期金利どころでなくなっていたのである。

 日本の債券市場を機能不全とさせ、仕掛けていたヘッジファンドは撤退せざるを得なくなった。ただ、これを持って日銀が勝利したとはいえないであろう。

 イングランド銀行はジョージ・ソロスなどの仕掛に屈したとされている。日銀も同様のアタックを無理矢理抑え込んだが、結果としてイールドカーブ・コントロールの柔軟化を行わざるを得なくなったとの見方もできよう。

 加えて円安に対して何もしない日銀、とされることを避ける意味でも、イールドカーブ・コントロールの柔軟化を行わざるを得なかったとの側面もある。

 確かに植田氏が就任後からであれば、そのような評価もできるのかもしれない。黒田氏のときに比べてより柔軟化していたとは思う。

 ただ、植田氏就任以前の債券市場の混乱を見る限りにおいて、素直にそれを評価できるとはいえないようにも思うのであるが。


2024年4月6日「日銀の独立性と金利、政治に翻弄される中央銀行」

 3月19日に日銀がマイナス金利政策を解除し、イールドカーブコントロールも廃止したことで、「金利なき世界」から「金利ある世界」に回帰したとの見方がある。

 しかし、短期金利については金利がないどころかマイナスになっていたものが、かろうじてプラスとなっただけであり、長期金利については1%にも届いていない。

 それでもこれまで日銀が頑なに緩和方向からの転換を拒んでいた姿勢を変化させてきたことの意味はある。ただし、デフレという経済実態が転換を拒んでいたこともあったが、政治的な圧力によるものが強かったといえる。

 政治が中央銀行の金融政策に影響を与えたのは今に始まったことではない。第二次大戦中の米国でも長期金利を抑える政策がとられていた。

 1951年にこの米国の国債金利上限維持政策(国債価格支持政策)終了を宣言するために米財務省と米連邦準備理事会(FRB)が発表したのが共同声明文、いわゆるアコードであった。

 米国ではニクソン大統領がFRBに干渉していたことも知られている。しかし、FRBはボルカー議長やマエストロと呼ばれたグリーンスパン議長などが信頼を積み上げ、独立性を勝ち得たといえる。

 日本でも日銀の独立性が意識されて、1998年4月に新日銀法が改正された。しかし、日銀はそれからの独立性はむしろ失われることになる。

 2000年8月のゼロ金利政策の解除では、政府出席者議決延期請求権を行使するなど、政府との対立色を強めた。

 2006年3月の量的緩和解除と同年7月のゼロ金利解除の際は、議決延期請求権の行使などの目立った対立色は強めてはいなかった。

 しかし森政権の反対を押し切って日銀がゼロ金利政策を解除したとされており、当時の官房副長官だったのが安倍晋三氏で、これを契機としてリフレ派の主張に耳を方向けるようになり、後のアベノミクスにつながった。

 2013年4月の量的・質的緩和政策は、アベノミクスを掲げた安倍政権の意向を受けて行ったものである。しかし、結果として金融政策で物価を能動的に動かすことはできなかった。

 物価は金融政策によってのみ動くものではないにもかかわらず、日銀は度重なる追加緩和を行った。その結果、政策金利はマイナスとなり、長期金利までコントロール下において、無理矢理に金利を無くす政策に踏み切っていた。

 そのような異常ともいえる政策をやっと解除できたのが、2024年3月19日であった。これには岸田政権が日銀の意向をくみ取っていた面もあろうが、安倍派の影響力が後退していたタイミングであったこともたしかである。

 政治が金利に大きく干渉することで何か起きていたのか。それをこれから検証していくことも必要であると思う。


2024年4月6日「日銀総裁は年内利上げの可能性を示唆、金融政策の正常化に向けてさらに一歩前進か」

 日本銀行の植田和男総裁が朝日新聞の単独インタビューに応じ、物価上昇率2%目標の達成に向けた「確度」がさらに高まれば、追加利上げを検討する考えを示した。今後について「夏から秋にかけて春闘の結果が物価にも反映されていく中で、目標達成の可能性がどんどん高まっていく」と発言(2024年4月5日 0時00分 朝日新聞)。

 追加利上げについてはもう少し時間をおいてから、市場との対話を進めるかとみていたが、意外に早いタイミングで行ってきたなとの印象を持った。

 私の個人的な予想では、7月と12月に0.25%ずつの利上げを行うのではとみていた。

 3月19日に総裁は普通の金融政策に戻したと指摘していた。たしかに異常な緩和策からは脱したが、正常化という表現は使わなかった。つまりまだ正常化には距離があることを示していたとみられ、その二歩目が利上げとなろう。

 賃上げは日銀の金融政策の目標にはない。それにもかかわらず、日銀が普通の金融政策に戻すにあたっての大義名分に賃上げを持ってきた以上は、ひとつの目標値となってしまうのは致し方ないかもしれない。しかし、あまりそれに縛られると、さらなる自由度を失うことも考えられる。

 これは国債の買入についても同様であり、6兆円という数字を出してしまったことで、4月からの国債発行額の減額に合わせた日銀の国債買入の調整を行わないという状況となってしまっている。

 今後、こちらは減額に向けて動くとは思うが、あまり慎重し過ぎても市場は過度な日銀依存体質から抜け出せなくなるリスクもある。

 いずれにしても、今回の植田総裁の発言もあり、7月あたりでの0.25%の追加利上げの可能性は十分ありえるとみている。安倍派幹部が派閥の政治資金パーティーをめぐる問題で離党するなどしたことも、日銀にとっては動き易くなる要因となろう。


2024年4月5日「米10年債利回りが再び上昇、米利下げ先送り観測に加え、原油高なども要因に」

 2日の米10年債利回りは一時、4.40%と昨年11月以来の水準まで上昇した。目先の節目とみられていた2月に付けた直近ピークの4.35%を一時、抜けてきた。ここを本格的に抜けてくると、5%あたりまで節目らしい節目はない。

 ここにきて米10年債利回りが上昇してきたのは、3月のISM製造業景況感指数が50を1年半ぶりに上回るなど、経済指標がしっかりしていたこと。それを受けてFRBのパウエル議長は29日、利下げを急ぐ必要はないと語ったこともあり、FRBの利下げは先送りされるとの見方が強まったことによる。

 ただし、FRBの利下げ観測が消えたわけでなく、次のFRBのアクションは利下げとの見方は依然として強く、問題はそのタイミングということになる。

 そうであれば米10年債利回りの上昇は、行き過ぎではないかとの見方も出てくるとみられる。それにもかかわらず、米10年債利回りの上昇圧力が強まっているのはどうしてなのか。

 ひとつの要因として物価影響を与えやすい原油価格の動向がある。

 中東やウクライナ情勢の緊迫化が懸念され、原油供給が減る可能性が意識され、原油先物の代表的なものとなっているWTI先物5月限は昨年10月以来の85ドル台を付けてきた。

 もうひとつ、米国債の逆イールドが解消に向かうのではないかとの観測もある。

 米国債の2年債と10年債の逆イールドは2022年7月から続いている。しかし、ここにきて物価の落ち着きとともに、リセッション懸念も後退しつつある。次のFRBのアクションが利下げとなれば、短い期間の利回りは低下しやすくなる。

 つまりこれまで2年債の利回り以上に10年債利回りが低下していたわけだが、その反対の動きが強まることが予想される。それによって10年債への売り圧力(利回りは上昇圧力)が強まっているとの見方もできる。


2024年4月4日「国債は4月から減額されるにもかかわらず、日銀は国債買入のオファー額を減額せず」

 日銀は10時10分に国債の買入をオファーした。オファー額は残存期間1年以下を1500億円、残存期間1年超3年以下を3750億円、残存期間3年超5年以下を3750億円、残存期間10年超25年以下を1500億円となっていた。1年超3年以下は前回の3月22日と同額、3年超5年以下と10年超25年以下も前回の28日と変わらずとなった。

 日銀は3月19日の金融政策決定会合にて長期国債操作を含むイールドカーブ・コントロールを解除した。ただし、長期国債の買入れについては、「これまでと概ね同程度の金額で長期国債の買入れを継続する」とした。

 足もとの長期国債の月間買入れ額は、6兆円程度となっていたことで、今回のオファー額についても減額はしなかったとの見方もできるが、4月からは国債の発行額そのものが変更される。

 2年国債は2023年度が一回あたり2.9兆円の発行額が2024年度は2.6兆円と3000億円減額され、5年国債は2023年度が2.5兆円、2024年度は2.3兆円と2000億円、10年国債が2023年度が2.7兆円、2024年度が2.6兆円となる。ひと月あたり合計で、6000億円程度の減額となる。20年債も今年1月から1.2兆円から1.0兆円に減額していた。

 この減額分を考慮すると、日銀は過剰な買入を行っているということになる。そもそもが過剰なのではあるが。

 ただし、実際の買入れは、従来同様、ある程度の幅をもって予定額を示すこととし、市場の動向や国債需給などを踏まえて実施していくともなっており、今後、国債発行額に合わせて、減額される可能性は高いとみられる。


2024年4月3日「4期ぶり悪化の短観は特殊要因も」

 1日に日銀は3月の全国企業短期経済観測調査、いわゆる日銀短観を発表した。大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回の2023年12月調査(プラス13)から2ポイント悪化してプラス11となった。

 悪化は4期ぶりとなるが、これは特殊要因が絡んでいたことに注意が必要となる。

 業種別でみてみると、自動車関連の大企業で景況感が前回調査より15ポイント悪化しプラス13となるなどこの落ち込みによる影響が大きかった。

 これはダイハツ工業が認証不正で自動車の生産を停止したことによる影響を受けたもので、これは鉄鋼や非鉄金属など関連する企業にも影響を与えていたのである。

 大企業非製造業の業況判断DIはプラス34と2023年12月調査から2ポイント改善していた。

 販売価格の見通しは、1年後は2.7%、3年後は4.0%、5年後は4.7%といずれも前回調査から上方修正されていた。

 消費者物価指数については、全規模全体でみると1年後は前年比2.4%、3年後は2.2%、5年後は2.1%と前回調査から変わらずとなった。

 大企業製造業の2024年度の設備投資額をみると、前年度比8.5%増とバブル期だった1989年以来の高い伸び率を見込んでいた(2日付日本経済新聞)。

 経済産業省は国内で最先端半導体の製造を目指すラピダスに対し、2024年度に追加で5900億円を支援することを決めたとも報じられた。成長産業の半導体などが積極的な設備投資を行っている。

 日銀が締め切りのめどとしている回収基準日は3月13日となっていたことで、同時点で7割弱の回収率だったとか(2日付日本経済新聞)。

 日銀がマイナス金利政策の解除を決めた3月18〜19日の金融政策決定会合の影響は、ほとんど織り込まれていないとの日銀関係者のコメントはあったが、企業側としては日銀の決定そのものは、サプライズというよりも想定済みとなっていたのではなかろうか。

 企業の事業計画の前提となる2024年度の想定為替レートは全規模全産業で1ドル141円42銭となっていた。現在の151円台がややオーバーシュート気味との見方とみられる。


2024年4月2日「異例の規模の日銀リークとの見方について」

 3月25日にブルームバーグは「異例の規模の日銀リーク、真剣な調査」という表題のコラムをアップしていた。

 「19日午後に日銀が金融政策の大転換を発表した時には、誰も気にしなかった。日銀が何をするのか、細部まで誰もが既に知っていたのだ。」

 確かに事前にブルームバーグも含め、日経新聞やロイター、共同通信、時事通信などから日銀の政策修正に関する報道が相次いだ。

 これについてはリークというよりも、大きな政策転換となり、過去の経験も踏まえて、日銀が慎重に準備を進めた結果とみたほうが良いと思う。

 今回は金融政策を異常なものから正常なものに戻す作業ではあったが、マイナス金利解除に関して、内田副総裁が以前に0.1%の利上げと表現していたこともあり、これは金融引き締めのひとつと認識されていた(私はそうは思わないが)。

 金融緩和はサプライズであったほうが市場への効果は大きいとされ、金融引き締めは反対に市場に織り込ませ、市場の動揺を軽減させることが重要になる。

 コラムでは下記のコメントがあった。

 「会合が始まる前から、変更を示唆する国内メディアの報道が続いていた。だが特に注目すべきは、日銀が国会質疑を除いて対外発言しないとしたブラックアウト期間入りした後に行われたことだ。」

 日銀が複数メディアへの説明を行っていたのは、ブラックアウト期間前であり、報じたタイミングがブラックアウト期間入りとなってしまっただけかと思う。

 メディアから出たことを中心に書かれていたが、それよりも注目すべきは、2月8日の内田副総裁の講演、29日の高田審議委員の講演、3月7日の中川審議委員の講演内容となろう。

 これまでのこの3者の言動などから、今回の政策修正のキーマンはやはり内田副総裁であると思われる。高田委員や中川委員は内田副総裁の動きに同調していることが多いとみていた。

 このため、この3者によって、3月19日に向けた流れを作り、そこにメディアの報道を合わせて市場のコンセンサスを得ようとしたと考えられたのである。

 こういったことは日銀のみならず、FRBやECBも行っていよう。ECBのラガルド総裁は6月の利下げを示唆していたが、これもリークというのであろうか。

 ただし、ひとつの報道だけは個人的にリークであった可能性を指摘したい。それはこのコラムにあった下記のことである。

 「同日午前、会合の半ばごろの時間には、NHKは植田総裁がマイナス金利政策の解除など大規模な金融緩和策の転換についての議案を提案し、議論の取りまとめに入ったと伝えた。」

 これについてはもしや執行部が、とその瞬間思ったが、考えてみるとこれは議長案が提示され、それを政府出席者が担当大臣に確認するための休息時間に行われた可能性が極めて高い。実は同様の事例は過去にもあったとされる。

 そうであれば政府関係者経由で、NHKがその情報を掴んだ可能性も否定はできない。そうであれば、これはリークとなるのではなかろうか。


2024年4月1日「皆が納得の日銀による政策変更」

 読売新聞社が22〜24日に行った全国世論調査で、日本銀行が大規模な金融緩和策を転換し、マイナス金利政策の解除を決めたことを「評価する」とした人は60%で、「評価しない」の24%を上回った(24日付読売新聞)。

 6割程度の人が「評価する」と答えていた。

 3月19日に日銀はマイナス金利政策の解除とともに、イールドカーブコントロールの撤廃、ETFおよびJ-REITについて、新規の買入れを終了する。CP等および社債等について、買入れ額を段階的に減額し、1年後をめどに買入れを終了する。

 フォワードガイダンスも中立に戻した。これらについて植田総裁は会見で正常化との言葉は使わず、「普通の金融政策」にしたとした。

 2000年8月と2006年7月のゼロ金利解除の際には、政府とは対立姿勢を強めることとなった。つまり政府は時期尚早として反対姿勢を示していたのである。

 2000年8月に日銀はゼロ金利政策の解除を決定した。しかし、この際に政府からの出席者は、議決延期請求権を行使したのである。議長提出の金融市場調節方針の決定に関する件に係る政策委員会の議決を次回金融政策決定会合まで延期すること」との議案が提出された。これは否決されたが、わだかまりが生じたことも確かである。賛成多数で議長案のゼロ金利解除が決定された。反対者は中原委員と植田委員(現日銀総裁)であった。

 2006年7月14日にもゼロ金利政策を解除した。このときの総裁は福井氏であった。この際にも「極めて低い金利水準による緩和的な金融環境は当面維持」との日銀からの発表があった。ただし、議決の前に政府は議決延期請求権は行使こそしていないが、財務大臣および経済財政政策担当大臣と連絡を取るため、会議の一時中断の申し出があり、実際に確認が行われていた。

 この2度にわたる政府との対立が、日銀にとって大きなトラウマになっとされた。だからこそ今回、日銀は政府の了承を得ることが最大のポイントとなっていたものとみられる。

 しかし政府も一枚岩ではない。特にアベノミクスを推進していた政治家は、最後まで反対姿勢を崩さなかった可能性があった。しかし、こちらは政治資金問題も絡んで、大きなプレッシャーとはならなくなっていた。

 結果として国民の理解も得た格好ながら、ここまでに至る場面で、日本の債券市場を機能不全にしかねない状況となるなどの副作用が生じていたのもたしかである。

 今後の利上げについても慎重となる懸念がある。しかし本当に「普通の金融政策」に戻したのであれば、物価が2%を超えているなかにあり、普通の利上げはあってしかるべきとなろう。


2024年4月1日「34年ぶりの円安となった理由」

 3月27日にドル円は一時、151円97銭と2022年10月に付けた151円94銭を超えて、1990年7月以来およそ34年ぶりの水準を付けてきた。

 財務省と金融庁、日銀の3者は午後6時20分から国威金融資本市場に関する情報交換会合(3者会合)を開き、為替市場で円安が進んでいる点について、過度な変動は望ましくないとの認識を共有。3者会合を開くのは2023年5月以来となった。

 どうして円安が進行しているのか。

 大きな理由はふたつある。ひとつは米長期金利の高止まりである。

 19日のFOMCでは、ドットチャートではFRB当局者19人中10人が年内に少なくとも計0.75%(0.25%三回分)の利下げを想定していることが示された。

 年内利下げ観測はあるが、米長期金利は高止まりしている。物価指標そのものが思うようには減速してこないことがその要因となっている。

 2月の米消費者物価指数は前年同月比3.2%の上昇となり1月の3.1%から伸びが加速していた。ガソリンや住居費の上昇が影響していた。インフレに一定の粘着性があることを示唆し、これを受けて利下げが後ずれする可能性も指摘されていた。

 FRBのウォラー理事は27日、最近の経済データでは年内に予想される利下げを遅らせるか、利下げの回数を減らすことが裏付けられると強調し、金利引き下げを急ぐことはないとの認識を示していた。

 円安となっていたもうひとつの理由が、日銀の金融政策にある。

 3月19日に日銀は正常化に向けた一歩を踏み出した。これは大きな転換点との見方がある一方、普通の金融政策に戻しただけともいえる。

 問題は物価動向に即して、金利を今後引き上げてくるのかどうかである。日銀としてはいろいろな配慮もあって、今後の利上げには慎重姿勢を示す必要もあったとみられる。そこを市場に突かれた格好となった。

 日銀は利上げに慎重、FRBは利下げに慎重となれば、円買い・ドル売りのインセンティブが後退し、円売りドル買い要因となって、ドル円が34年ぶりの水準を付けてきたということになろう。

 さすがに介入警戒もでており、このあたりからは当局の動向を睨みながらの神経戦となりそうである。


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