いつか電池がきれるまで

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舞台『骨と軽蔑』感想(2024年3月28日・博多座・夜公演:極力ネタバレなし)


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natalie.mu

KERAケラリーノ・サンドロヴィッチ)作品をさまざまな演出家の手で立ち上げる「KERA CROSS」シリーズ。そのラストを飾る今回は、KERAが自身の演出で新作「骨と軽蔑」を披露する。本作では、20世紀半ばの、内戦が続くある国の田舎町を舞台に、小説家の姉とその妹をはじめとする女性7人の会話劇が展開する。出演者には宮沢りえ鈴木杏犬山イヌコ堀内敬子水川あさみ峯村リエ小池栄子が名を連ねた。


 新型コロナ蔓延期間の反動なのか、最近けっこう生のステージを観に行っているのです。
 そういえば、最近、ライブの集客が全体的に低調である(すぐにソールドアウトになる公演と、そうでない公演の差が大きくなっている)という話をよく聞きます。新型コロナを契機に、ネット配信サービスやテレビゲームなど「定額で、そんなにお金をかけずに楽しめて、選択肢も多いサービス」が認知されてきた影響もあるのかもしれません。僕もけっこう、チケットは取れたけど、行くのめんどくさいな、と当日になって思うことが多いのです。いや、行ったら行ったで楽しめるし、昔から「旅行は計画を立てている時がいちばん楽しい人間」ではあったので、これが平常運転なのか。

 さて、この『骨と軽蔑』なのですが、宮沢りえさんをはじめとする、7人の個性的な女性俳優たちが、戦時下の国の軍需産業で栄えている家を舞台に繰り広げる会話劇です。


(まだ上演中で、博多公演と大阪公演が残っているので、極力ネタバレなしで書きます。物語よりもディテールを楽しむ舞台なのだろうな、とは思いますが)


 冒頭の姉妹役の宮沢りえさんと水川あさみさんの「言葉尻をとらえての責任のなすりつけあい(そして、当人たちは自分が悪いとは全く思っていない)」のシーンは、役者さんの演技も含めて「上手いなあ」と感心しつつも、「ああ、こういう人って、現実にも、ネット上にもいるよなあ、いや、僕もこんなふうに見えているのではないか」と、ちょっと引き気味な感じになってしまいました。
 
 主要登場人物が女性7人ということで、そして、ストーリー的にも、男である僕にとっては、日頃から狭い肩身が、さらに狭くなっていくような物語でした。

 えっ、この人たち、仲悪かったんじゃないの?という2人が、いつの間にかべったりになっているのは、僕からみた「女性あるある」なんだよなあ。
 その人のけっこうひどい悪口、ついこのあいだ言っていたのに……まあそれが「処世術」というものなのか。
 それも、女性に限ったことではない、と言えばそうなんですが。
 
 全体的な印象としては、正直なところ、「うーん、こんなものかな」だったんですよ。
 まとめてしまえば、「(シェイクスピア嵐が丘)÷3+舞台装置による見せ方の上手さで+1」で、平均点、みたいな感じ。
 どこかで観た、聞いたような話を貼り合わせて、気が利いた会話と有名俳優さんたちの存在感で一丁あがり。

 思わず笑ってしまうような小ネタは散りばめられているし、「客いじり」的な場面もあって、歌や踊りに頼らない、最後まで会話と登場人物どうしの緊張感で見せる作品ではあります。
 その一方で、「戦争で男がどんどん少なくなり、女性や子供が戦場に駆り出されている状況」や「前半と後半での人間関係や社会情勢の変化」「『骨と軽蔑』という文学作品」など、気になる要素がたくさん提示された末に、投げっぱなしで観客を置き去りにして終わられてしまったような気分でもありました。
 
 そういう「モヤモヤした感じ」とか「観客を放り出す」のが演劇とか文学というものなのだ、ということなのか。
 そこまで考えるのは、こちら側の好意的すぎる深読みで、KERAさんも長年演劇をやってきて、「老害化」というか、「大家化」してしまい、「自分らしい作品」をつくっているうちに、観客にとっては「目新しくないもの」になってしまったのか。
 それとも、僕自身が年をとってしまって、感性が鈍くなり、面白がる気持ちを失ってしまっているのか。


fujipon.hatenadiary.com

 この映画を観たときの、僕自身の感想と、長男の反応との温度差も思い出しました。
 本当は、演劇とか生のステージって、もっと若い人に見せてあげたいよね。でも、チケット代とか上演時間とか、子どもや若い人が来るのは難しくなっている。チケット代が高くなるのも、有名な俳優さんが出ていないとチケットが売れないし、A席1万2000円とかでも、いろんな経費を考えると、やっている側はそんなに儲かっているわけでもない。「市場」が大きいと、お金も手間もかけやすくなるというのは、ネットの動画配信サービスが証明しています。

 「女性7人」がキャスティングされており、僕自身が、今までの人生で出会ってきた、思い出したくない女性たち、のことを、いろいろ思い出す内容だった、というのもあるのかもしれません。

 時代設定や豪華な衣装もあって、俳優さんたちが、その役を演じることに徹していて、「宮沢りえさんを見た!」感にも乏しかった。
 役者として、演出としては「この舞台は、それでいい」のかもしれないけれど、「女って、人間ってめんどくさいなやっぱり」という気分で、雨の中帰りました。
 
 僕はなんのかんの言いつつ、30年くらい、けっこういろんな演劇を観てきたのですが、今の(地方の)演劇事情って、昔と同じ人が作った、昔と同じような作品を、昔と同じ観客が観続けているような気がします。
 それぞれ年齢だけを重ねて、「やっぱり生のステージはいいね」なんて頷きあいながら。
 東京では、もっと新しくてわけがわからないことに挑戦している舞台人が大勢いるのだろうか。

 演劇というのは、こういうものだ、役者の演技で魅せる会話劇、まさに「王道」なんだけど。
 これが「はじめて観る舞台」だったら、感動したのかなあ。


 あと、『ちびまる子ちゃん』のまる子役の声優、同じ声質でいくのなら、犬山イヌコさんがいた!と思いながら観ていました。
(検索したら、こんな記事もありました。『アサ芸』ですけど。犬山さん、マキバオー役やニャース役もやっていましたねそういえば)
www.asagei.com



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