2024年 02月 29日
●種類:Poster ●題名:Affiche pour la parution du livre Le Lézard aux Plumes d'or ●技法:Lithograph ●サイズ:655x520mm ●限定:200 on Rives and 300 on Arches ●発行:Louis Broder éditeur, Paris ●印刷:Mourlot imprimeur, Paris ●制作年:1971 ●目録番号:M.830 以前このブログで、ジョアン・ミロ(Joan Miró, 1893-1983)が自ら創作した詩にリトグラフによる挿絵を添えた詩画集『金色の羽を持つトカゲ(Le Lézard aux Plumes d'Or/ The Lizard with Golden Feathers)』の刊行に合わせ、パリのベルクグリューン画廊(Galerie Berggruen, Paris)で1971年11月から12月末にかけて開催された展示会のために制作した告知用ポスター(M.831)(註1)を取り上げたことがあるが、今回はそれとは別に、詩画集の版元であるルイ・ブロデ出版(Louis Broder éditeur, Paris)から詩画集の発行に際して発行された500部(リーヴ紙200部、アルシュ紙300部)限定のオリジナル・リトポスターを取り上げたい。このポスターには友人であるルイ・ブロデに捧げられた水彩とインクによる原画(註2)が存在しており、ポスターはその構図に基づいて制作されたもの。描かれているのは西洋におけるドラゴンを想起させる”金色の羽根を持つトカゲ”なのか、はたまた、人物らしき姿に見えなくもないことから、詩画集の版元となったルイ・ブロデその人なのだろうか。それはともかく、このポスターを手にして、改めて思うのは、告知用ポスターとの質感の違いで、たっぷりと乗ったインクと版画用の紙が見せる微妙な凹凸によって生み出される立体感が絵画作品におけるマチエールにも似た感覚を呼び起こす。版画にしろポスターにしろ、手に取って直に味わうことの愉しみを再認識すべきであると思った次第。 実はこのポスター、何年か前に一度入手したことがあり、知り合いの画廊に請われ手放してしまったのだが、どこをどう旅していたのか分からないが、最近になって再び我が手元に舞い戻ってきたのである。不思議なことに、これと同じようなことがここ何年かの間に何度も起きている。人のことをとやかく言える立場ではないが、貰い手を捜して彷徨う版画とポスターの不遇の時代はまだ続いているようである。かつて美術品の大衆化に一役買った版画やポスターといった複数芸術に対するある種の共同幻想が、かりそめの中流意識の高まりとともに、特別な学問的な裏付け無しに成立していた幸福な時代があったことは間違いない。だとしても、その根幹はもともと村社会的な狭い枠組みの中で成立していたものであることから、バブルのごとく膨張したとしても、確固たる美意識を持たずに時流に乗った部分は、本質的なものは何も変わっていないにも拘わらず、急激な情報化による異なる価値観に晒され雲散霧消してしまい、結果として作品に対する素朴な愛着さえも失わせる結果となってしまったのかもしれない。しかしその一方で、一部のアーティスト・ポスターについては、かつてのアール・デコの再評価と流行があったように、半世紀以上も前のエコール・ド・パリやポップ・アートを体験していない世代による単なる懐古趣味、それとも再発見もしくは再評価の兆しなのか、安易とも見える複製が頻繁に作られていることに驚きを禁じえない。しかしながら、見失ってしまったものを再認識する契機となる可能性を孕んだものであったとしたら、捨てたものではないかもしれない。 註: 1. ●作家:Joan Miró(1893-1983) ●種類:Poster ●題名:Le Lézard aux Plumes d'or ●技法:Lithograph ●サイズ:710x495mm ●限定:750+100(without text) ●発行:Berggruen & Cie, Paris ●印刷:Mourlot imprimeur, Paris ●制作年:1971 ●目録番号:M.831 #
by galleria-iska
| 2024-02-29 18:20
| ポスター/メイラー
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2024年 01月 21日
●作家:Keith Haring(1958-1990) ●種類:Pin-Back Button ●サイズ:⌀24mm ●発行:Keith Haring for Pop Shop, Soho, New York ●制作年:1980s 1980年代を代表するポップ・アーティストとして評価の高いキース・ヘリング(Keith Haring, 1958-1990)であるが、我々が今手にすることの出来る広い意味でのマルチプル・アートの最小のものは、異論はあろうが、ヘリングが自身のポップ・ショップのために制作した直径24mmほどの缶バッジであろうか。中でもヘリングが1986年にポップ・ショップのアイコンとしてデザインしたものには、白地に黒でプリントされたものを基本として、数多くの色違いのものが存在しており、このブログでも8種類ほど紹介したことがあるが、いったい何種類あるか全体像はつかめていない。またヘリングが事あるごとに描いてきたモチーフの内、ヘリングを代表するアイコンのひとつ「光輝く赤ん坊(Radiant Baby)」についは1984年に制作されたものが使われているが、その他のモチーフはポップ・ショップ開店翌年の1987年から1988年の制作となっている。 ここに取り上げた缶バッジは海外のマニアから手に入れたもので、もともとの目的はマニアが持っていた広島で1988年に開催された平和のためのコンサート「Hiroshima」の缶バッジだったのだが、一括購入が条件であったため纏めて購入する羽目になってしまった。ただ今から思えば決して悪い条件ではなかったかもしれない。「Hiroshima」の缶バッジには広報用ポスターやシングル・レコード及びミニCDにも使われた二羽の鳥(Peace Bird)がプリントされており、ポップ・ショップのみならず、広島の会場でも販売あるいは配布された可能性もある。 ●種類:Pin-Back Button ●サイズ:⌀25mm ●発行:Keith Haring, New York ●制作年:1988 #
by galleria-iska
| 2024-01-21 18:34
| キース・へリング関係
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2024年 01月 15日
今回取り上げるのは1997年に金子國義(Kuniyoshi Kaneko, 1936-2015)の写真集「お遊戯 Les Jeux」(新潮社)の刊行に関連して開催された個展「Les lois des jeux(お遊戯の決まり)」の告知用ポスター。発行したのは大阪梅田のかっぱ横丁にある「阪急古書のまち」にあった加藤京文堂で、同店には同じ年に開催された版画家の宮崎敬介(Keisuke Miyazaki, 1970-)の最初期の個展「宮崎敬介小口木版画展」の際に訪れたことがあり、その時に金子氏の個展の告知を目にした記憶がある。このポスターに使われている作品がポスターのために制作されたものかどうかは判らないが、描かれているのは、金子氏を代表するアイコンとなる切っ掛けとなったオリベッテイ社の1974年の贈呈本『Alice's adventures in Wonderland(不思議の国のアリス)』の挿絵にある鉛筆で描かれた”アリス”から少し経った『鏡の国のアリス』の”アリス”かと思われる。その風貌は金子氏本来のスタイルで描かれており、1990年頃描かれた”王女になったアリス”のそれに近いものがある。『鏡の国のアリス』では猫が登場することから、この作品でも金子氏は猫を抱く少女を描いており、少女が着けているエプロンのポケットには"A"の文字からも、この少女がアリスであることが窺い知れる。 この作品も鉛筆によるものであるが、その上から黒のインクを胡粉のように人物の周りに散らして、それまでの作品にはない質感を生み出している点で、新たなオリジナル性が感じられる。印刷にも工夫が見られ、テカリを抑えるためだろうか、コート紙ではなく光沢を抑えた凹凸のある厚手の用紙が使われている。 ●作家:Kuniyoshi Kaneko(1936-2015) ●種類:Poster ●サイズ:733x520mm ●技法:Offset ●発行:Kato Kyobundo, Osaka ●制作年:1997 #
by galleria-iska
| 2024-01-15 18:31
| ポスター/メイラー
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2024年 01月 12日
●作家:Antoni Tàpies(1923-2012) ●種類:Poster ●サイズ:748x548mm ●題名:XXIII Fira del llibre d'ocasió antic i modern ●技法:Lithograph ●発行:Gremio de Libreros de Lance de la Comunitat Valenciana ●印刷:La Poligrafa, S.A., Barcelona ●制作年:1974 ●目録番号:Rosa Maria Malet, Los Carteles de Tàpies, Barcelona 1984, no. 40 アントニ・タピエス(Antoni Tàpies,1923-2012)が今から半世紀前の1974年9月20日から10月6日にかけてスペインのバルセロナで開催された第23回古典と現代の古書見本市(XXIII Fira del llibre d'ocasió antic i Modern)の広報用にデザインしたポスター。スペインのバレンシア州ランスの書店ギルドの発行となっているが、このポスターは以前取り上げたバルセロナの出版社ポリグラファ(La Poligrafa, S.A., Barcelona)のポスター目録(No.17)(註1)に掲載されているので、当初の販売価格は10ドル(US$10)であったものと思われる。このポスターには姉妹版(註2)のポスターが同時期に作られており、そちらもポリグラファ社のポスター目録(No.16)に掲載されている。ポスターのサイズは目録では750x550mmとなっているが、実寸は748x548mmである。 このポスターを特徴付けているのは、黄色の文字と四本の赤い縦線である。これは自らもカタルーニャ人(註3)としてカタルーニャの民族主義を擁護するタピエスが、スペインからの自主・独立を掲げるカタルーニャのアイデンティティを象徴する旗を念頭にデザインを行っていることによるもので、伝説によれば、9世紀の終わり頃、ムスリムとの戦いで瀕死の重傷を負ったバルセロナ伯(ギフレ一世)の血を以って、シャルル二世が”指”でバルセロナ伯の黄金の盾に縦の線を引いたのがカタルーニャのシンボルとしての旗の由来とされ、この伝説がタピエスの旗に対する深い愛着をもたらしているとされる。ポスターには背景として書物を象徴する大小様々なアルファベットの文字が並べられ、それを挟むように”500年”(500 Anys)という文字が黄色で大きく書き込まれ、その間に”カタルーニャ語書物の500年”(500 Anys de llibre Catalans)”という文字が書き加えられており、その上に指で赤い四本の縦線が等間隔で引かれている。このようなカタルーニャの旗を連想させる黄色と四本の赤の線はタピエスの幾つものポスターに見ることができる。 註: 1. ポリグラファ社のポスター目録 2.タピエスが上記のポスターと同じ年にデザインしたカタルーニャ語書物の500年を記念するポスター「Homenatge als 500 Anys del llibre Català」。このポスターでは更に一層カタルーニャの旗を強く感じさせるデザインとなっている。これらのリトポスターを40年ぐらい前に知り合いの業者のところで初めて目にしたのたが、フランスのリトポスターに比べ、スペインの光と影の強いコントラストが織り成す風土からくるのだろうか、あまりにも強烈な色彩に面食らってしまった覚えがある。 ●種類:Poster: Poster to announce the celebrations of the 500th anniversary of the first book printed in Catalan organised by the Agrupació Científico-Excursionista, Mataró (19 November - 8 December 1974). ●サイズ:748x548mm ●技法:Lithograph ●発行:La Poligrafa, S.A., Barcelona ●印刷:La Poligrafa, S.A., Barcelona ●制作年:1974 ●目録番号:Rosa Maria Malet, Los Carteles de Tàpies, Barcelona 1984, no. 36 3.タピエスの言葉:「私の絵画を決定づけているのは、まず第一に、私がカタルーニャ人だという事実である。しかく、他の多くの人同様に、私もスペインの政治的ドラマを肌で感じている。たとえ意図しなくとも、それは私の作品に現れるだろう。」 #
by galleria-iska
| 2024-01-12 18:20
| ポスター/メイラー
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2024年 01月 04日
12世紀に建てられたキュラン城で知られるフランス南東部イゼール県にあるキュラン(Culan)に生まれたフランスの抽象画家モーリス・エステーヴ(Maurice Estève, 1904-2001)が自身の水彩画の個展の告知用に制作したオリジナルのリトポスター。通常のサイズは592x398mmであるが、今回取り上げるものはシート上部と左側が裁断されていないもの。パリにある画廊がこれと同じ未裁断の状態のものを販売(550 Euros)しているので、複数枚存在していると思われる。この作品の題名は「蝉(Le Cigale)」であるが、それとはっきり判るものは描かれてはいないが、画面右端には背中に羽を付け横向きで止まっているように見えるものが描かれており、それらしく見えなくもない。仮にそうであるとするなら、エステーヴは純粋抽象ではなく、形あるもののイメージあるいは印象をもとに抽象化を図ったのではないかと思われる。同時代の抽象画家ハンス・アルトゥング(Hans Artung, 1904-)やピエール・スーラジュ(Pierre Soulages, 1919-2022)のモノトーンの思索的なそれとは異なり、抽象絵画の先駆者のひとりで色彩を重視したロベール・ドローネー(Robert Delaunay, 1885-1941)の助手を務めたエステーヴの抽象は温かみのある色彩が主役を務めており、柔らかな形態も主知的なものというよりは何かしら情感を生起させるものがある。 ●作家:Maurice Estève(1904-2001) ●種類:Poster ●題名:Le Cigale(The Cicada) ●サイズ:625x460mm(592x398mm) ●技法:Lithograph ●紙質:Arches ●限定:1000 + ●発行:Villand-Galanis, Paris ●制作年:1956 ●目録番号:Prudhomme -Moestrup No.24 ムルロー工房の透かし入りのアルシュ紙が使われている 参考文献:デンマークのコペンハーゲンで40年以上に渡って版画作品を取り扱いカタログ・レゾネの編纂と出版を手掛けてきた画廊(Forlaget Cordelia - Hans Moestrup)から1986年に刊行されたエステーヴの版画の総目録「Maurice Estève L'Œuvre Gravé(Catalogue Raisonné), Forlaget Cordelia, Copenhague(København), 1986 #
by galleria-iska
| 2024-01-04 18:24
| ポスター/メイラー
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