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『SHOGUN 将軍』(2024) 全10話/最初から最後まで良かったし後半で尻上がりに更に最高になって終わって凄かった。藪重が最高🗾


原題:Shōgun 制作&主演:真田広之 脚本&制作:ジャスティン・マークス、レイチェル・コンドウ 制作:ミカエラ・クラベル 製作総指揮:ジャスティン・マークス、アンドリュー・マクドナルド、ティム・ヴァン・パタンほか 時代考証フレデリック・クレインス 衣装:カルロス・ロザリオ 原作:ジェームズ・クラヴェルの小説『将軍』(1975) 配信サービス:FX、Hulu(日本ではDisney+) 製作国:アメリカ 配信時間:各話約60分、全10話 配信開始日:2024年2月27日



 

ジェームズ・クラヴェル歴史小説『将軍』(1975)を原作としたアメリカのドラマ。
今日、最終話が配信されてさっき観たから同日中に感想書いときたい。
徳川家康細川ガラシャ、そして徳川家康に外交顧問として仕えたイングランド人航海士ウィリアム・アダムスなどを始めとした実在の人物……をモデルにした別名の架空のキャラが関ヶ原の戦いを思わせる合戦……に至るまでを描いたフィクション。
1980年にもアメリカでドラマ化され、今回のバージョンで真田広之が演じている吉井虎長は三船敏郎が演じていてエミー賞も獲得し人気だった。
そっちは時代もあってか本作と比べると英国人・按針/ブラックソーンが「白人だけど訳わからん島国でサムライになり最高権力者ともニューティフルジャパニーズウーマンとも仲良くなり大活躍」といった異世界転生的な内容だった……らしいのだが観てないのでよくわからない。
↓こんな感じだったみたい
SHOGUN - the one mitigating factor - YouTube

今回の映像化は、20年以上前に海外進出して日本描写監修などを自主的にタダ働きしてまで頑張り続けていた真田広之が遂に主演、しかも日本描写の監修は勿論プロデューサーも兼ねてるので今までのハリウッド作品にありがちだった「おかしな誇張されたニッポン」描写などが無いように目を配らせ、日本のスタッフや俳優も時代考証の人とかも自由に呼んで作った悲願の作品、しかも作品は原作も映像化もヒットした時代劇『Shōgun』……といった感じで、真田広之が20数年間かけて全てのお膳立てを揃えた悲願の作品って感じなので、楽しみにしてました。
欧米作品の「ヘンテコ日本描写」に異をとなえる日本人が真田広之しか居なかったし、誰もしようとしなかったので真田広之ただ一人が長年タダ働きしていた。そしてアメリカ映像作品でのアジア系俳優の出番は1%以下なのでハリウッド映画に出ても雑に死ぬサブキャラばかりだった。ここ数年、やっと死ななくなったり主人公的な役割が増えてきた、そしてこの本作。
これは日本人としては応援するしかないでしょう……ただ残念ながらXを見ればわかると思うが日本人でこの作品を楽しんでる人は死ぬほど少ない。現在落ち目のDisney+に未だに入ってるのは大きく分けてSW好き、MCU好き(絶賛半壊中)、あとディズニー作品大好き、この三種。だが今Disney+に残ってる日本人は元々かなり少ない、その中から更に僅かな人しか観ないので観てる人は結果的にかなり少ない。
YOUTUBEなどでは本作を毎週取り上げてるチャンネルは多い……が、僅かなYOUTUBERを除き、その殆どは「日本スゴイYOUTUBEチャンネル」(欧米人に日本が褒められてるのを取り上げて再生数を稼いでカネにしてるチャンネル)が多く、海外の『SHOGUN 将軍』記事や、出演者の記事やSNSでの発言、海外YOUTUBERの感想を載せてるだけ……とはいえ無いよりは、盛り上がって見えるので良いことなのかも。
Disney+は一ヶ月、千円だしまだ観てない人は今入れば全話観れるな?だけど毎回毎回面白くて、しかもMCUドラマとは逆で尻上がりに面白くなっていく作品だったので毎週一本づつ観た方が楽しかったと思うが……今更言っても仕方ない。まだ観てない人は今後は全話観れるからいつでも観れるな?

日本は置いといて、本国アメリカや欧米では超大ヒット。
ロッテントマトでも、第1話から最後まで批評家の評価99%、一般人の評価91%という高評価をキープし続け、日本人初のエミー賞受賞が期待されている。
毎週、海外の人の感想とかも観てたが、ストーリーやキャラクターは勿論、侍の恐ろしい苛烈さ(切腹、御家断絶)、美しい日本の美術や着物、能や茶道や芸者などの文化……などの日本ならではの要素が人気だった。それらも、真田広之が俳優は勿論、あらゆる分野の日本人スタッフを呼び寄せ仕切った結果が全て成功し、あらゆる要素が全て上手くいった。……強いて言うなら折角の本作を日本人が全く観ていないのだけが残念だがメインターゲットである欧米では成功し、真田広之を初めとする出演者や関わった人たちの未来が開かれたので万々歳だろう。
以前から人気はあった真田広之は勿論、今まで海外での面白い役に恵まれなかっていなかった浅野忠信、国内外で無名に近かったアンナ・サワイ、穂志もえか、向里祐香なども人気。日本では有名だが海外作品は初の二階堂ふみも「何か、この女性の雰囲気凄いね……」と人気が出た。真田広之浅野忠信二階堂ふみ好きだったのでウケて嬉しかった。
当然のことながら自分は観てるだけで頑張ってはおらず、真田広之が何十年も孤軍奮闘した色んなことの結晶が爆ウケしたので、関係ないとはいえ陰ながら喜ばせてもらった。作品の内容も良かったが、この『SHOGUN 将軍』楽屋裏も作品の一部として楽しみました。
歴史も原作もさほど詳しくないので、それらと比較はあまりせず感想を書きます。

ネタバレあり。割と殆どネタバレするのでこれから観る人は、途中で読むの止めて観てください。なんでかなりネタバレするのかというとイチから記憶だけを頼りに記事を書きながらストーリー全体の流れをおさらいしたいからです。わかってないところもあるんで……。感想というより自分自身との会話みたいなもんですね。

 

 

 

 

1600年日本は亡くなった太閤の世継ぎが成人するまで五大老が統治していた。
その一人、吉井虎永(演:真田広之)は、彼を危険視する石堂和成(演:平岳大)をはじめとした五大老は「虎永が太閤様の世継ぎを産んだ側室・落葉の方(演:二階堂ふみ)を人質にした」という名目で弾劾されていた。
一方、イングランド人航海士・ジョン・ブラックソーン(演:コズモ・ジャーヴィス)が乗るオランダ船エラスムス号が網代に流れ着く。
ブラックソーンと南蛮船を保護した野心家の樫木藪重(演:浅野忠信)は、虎永を裏切り石堂に献上しようとするがそれを阻止した虎永はブラックソーンに按針と名付け、配下の正室でありキリシタンでもある戸田鞠子(演:アンナ・サワイ)を通詞〈通訳〉として付け、按針を旗本として召し抱える。
虎永はここ大阪で、彼を亡き者にしたい落葉の方と五大老によって軟禁状態。
虎永はこの窮地をいかにして切り抜けるのか。そして鞠子、按針の運命は?

 

……という話。

実際の歴史に照らし合わせると豊臣秀吉が亡くなって、関ヶ原の戦い……までを描いたドラマ。
そんな虎永・危機一髪!の合間に、按針から見た「超・野蛮なのに繊細な文化もある不思議な国ヒノモト」という異世界転生要素や「男の侍だけではなく女性たちも戦っていた。女性ならではのやり方で」という要素も、出演者の演技や美しい美術によって彩られながら描かれる。
そういえば石堂役の人がインタビューで、時代劇だから特に何も考えず襖の前で一回停まってタメを作って「……開けぃ!」と叫んで小姓に開かせる場面で「芝居くさすぎる」とNGが出て「あ、そうか。俺の役は急いでるのにゆっくりすぎた。つい日本の時代劇テンプレ演技してしまった」と”気付き”を得た……という話があって面白かった。

 

通訳
まず、日本人のキャラは全員、日本語を喋る。英語を喋るのは按針、按針が乗ってきた船の乗組員。按針とは敵対関係にあるポルトガルの宣教師マーティン・アルビト司祭(演:トミー・バストウ)をはじめとしたカトリック
日本人で英語を喋るのは通詞の戸田鞠子や、網代に住むキリシタン漁師・村次(演:竹嶋康成)だけだ。
ポルトガル勢やポルトガル語を習った鞠子はポルトガル語を喋る方のが自然なのでは?」という意見も海外ではあったようだが三ヵ国語が行き交うのは複雑すぎると思ったのか、三ヵ国語を喋る俳優を見つけるのはしんどかったのか?よくわからない。ポルトガルの人には悪いがまぁややこしいから日本語と英語の2つでいいだろという気分。10年後に「どこの国の作品だろうと、その国のキャラはその国の言葉で喋らないとおかしい!」となった時、その10年後の世界の人にお任せする。
按針は当然、日本語が喋れない、最終話近くでやっとリスニングが出来るようになりかけてて少しだけカタコトで日本語が話せるようになるくらい。だから、按針が虎永と話す時は通詞の鞠子を通して話す。
鞠子やポルトガルの宣教師や商人はカトリック、按針はプロテストなのでポルトガル勢は、按針の言葉を通詞として虎永に話す時、自分たちが不利なこと按針が有利なことは通訳したがらない。
また初期の按針はサムライに失礼な事をよく言ってるのだが、危険なので鞠子は丁寧な日本語に変換して通詞したりする。視聴者からすると元の言葉も、通訳した言葉も全部わかるので「按針の本音」「鞠子はどのように通詞して場を丸く収めたか」など数々の通訳シーンも見どころの一つになっている。

 

衣装や美術
前書きにも書いたように衣装やら美術などビジュアル面が素晴らしい。
刀を抜く際にも、ハリウッド映画に出てくる日本刀は鞘から抜いただけで、まるで金属同士を擦り合わせたような「ミィ~ン……」という謎の金属音がするのが定番だったが、真田広之は何十年もそれが不満だったらしくて抜く時に木が擦れる音が「カチャ」と、一瞬するだけで後は無音……というこだわりの音になっている。これが実にカッコいい。全てが全て完全再現というわけではなく、どこかの歴史学者さんが「大阪城に天井が無い」とか「石垣の積み方が違う」などと些細な指摘していたが「歴史に詳しくないから知らんけど恐らく一理あるのだろう。だが、そんなこと本作の偉業に対して”a drop in the ocean”すぎるであろう。消えろ!襖の向こうに」という感じだ。

 

 

第一話~第四話
本編に話を戻そう。
第一話は、後の按針……ブラックソーンが「野蛮人の国ヒノモト」に流れ着く。
しかし日本人からするとブラックソーンの方が野蛮人なので、畜生的な扱いを受ける。
伊豆の領主である藪重の甥・樫木央海(演:金井浩人)はブラックソーンを藪重の元に連れて行く。
央海は抵抗するブラックソーンを打ち据えて小便をかけたり、藪重の元へ連行する際に道すがらキリシタンの首を撥ねたり、藪重がブラックソーンの同僚を釜茹での刑にしたり、また大阪城では主君の虎永が評議の場で、ライバルである五大老の石堂によって謂れなき言いがかりをつけられた事に怒った虎永の家臣・宇佐見忠義(演:高尾悠希)が刀に手をかけてしまった事で切腹を命じられる。宇佐見だけでなく彼の赤ん坊である息子も殺される。ここは欧米の人にかなりショックを与えたようだ。可哀想すぎるからね。
そういう事で第一話は「野蛮人の恐ろしい国に迷い込んでしまった」というブラックソーンの主観をディフォルメしたかのように「怖い野蛮な国ヒノモト」が強調されている。
これもまた日本の歴史家が「幾らなんでも野蛮すぎる!それにブラックソーンのモデルのウィリアムは、囚われる事なく優しく歓迎されたぞ」と怒った。しかし史実ではなく史実を元にしたフィクションなのでOKだ。前述の通り「ブラックソーンから見た主観」を見せたかったのだろう。「いきなり大ピンチから始まる虎永の現状」もね。
第一話ラストでブラックソーンに挑発された藪重は、彼の煽りに乗って崖の下のスペイン人船乗りを助ける。その際落下してしまい、どうにも助からななさそうなので藪重は腹を切って死のうとする。藪重を威張ってるだけだと舐めていたブラックソーンは、いつでも死ねる侍に畏怖する……という場面だが、5mくらいの崖から何か知らん間に落ちてバタバタしてたと思ったら突然死のうとする藪重……という場面は正直ギャグとしか思えず可笑しかった。もう少し上手いことできなかったものか。
第一話と第二話は初日に2話同時公開されたが、ここで既に人気爆発して最後まで人気だった。
虎永に謁見したブラックソーンはポルトガル勢の危険を説くがカトリックである鞠子は訳したがらない。とりあえず按針は虎永、鞠子、藪重らと大阪から脱出。

第四話「八重垣(やえがき)」
ブラックソーンは虎永に召し抱えられ〈按針〉となる。
按針はさっさと船と仲間を変換されてイギリスに帰りたがっているのだが申し出る度に虎永に引き止められる。
第一話で切腹した夫・宇佐見忠義と息子の二人を一気に失った妻・宇佐見藤(演:穂志もえか)は、哀しみのあまり尼になる事を希望するが、第四話で虎永の命で按針の正室となる。
船や大筒の使い方に詳しい按針は大筒を指揮する旗本となり、立派な屋敷や正室に藤様もいただき、あれよあれよと出世する。
ここまでの藤様は夫と子を失って泣いてるだけだったが、虎永の命で按針の正室に嫌々させられると、それが任務なので腹が座ったのか按針と対立する央海にピストルを向けて威嚇し、以降の登場でも可愛くて面白いリアクションを見せて海外のNo.1人気女性キャラになった。
按針と藤は(多分)按針を帰国させないためかもしれない。按針と藤は尊重しあって銃と刀を交換するが、あくまで協力関係といった感じで恋愛の感じには最後までならない(最終話で恋が芽生えたかもしれないがよくわからない)。それより按針には鞠子が心の奥の哀しみを語り、按針と鞠子のほうが良い関係になる。その夜、鞠子は夜這いをかけるのが紅天の時にベッド・インするのでそこまで引っ張った方が良かった気がする。翌朝、藤様は二人の関係に気づいたのかどうかよくわからなかったが数話後では完全に知ってる顔してました。それにしても無言で夜這いをかけてきて翌朝にプラトニック側室・藤様とお茶飲んでたら鞠子殿が来るので笑いかけると「さぁ、何の事でございましょう」とか微笑んでて……最もセクシーで素敵な朝だな。
功を焦る虎永の息子・吉井長門(演:倉悠貴)は央海の口車に乗って、大筒演習を視察に来た虎永のライバル石堂の家臣・根原丞善一行を大筒で爆撃してコンビーフみたいにグシャグシャにしてしまう。
そんな感じで按針が大出世して、今回で人気爆発した藤様と形式上とはいえ夫婦になりサムライソードもGETし、その夜身分の高いインテリ鞠子殿が突然布団に入ってきて不倫SEXしてしまう……というこれ以上ない異世界転生回。ラストに人間を直接大砲で吹き飛ばすスプラッターも素晴らしいこの第四話で本作は不動の人気を手にした感あった。おもろすぎたからね。
本作の按針は昔のドラマほど活躍しないそうだが、この第四話での異世界転生っぷりだけは凄かったね。

 

 

第五話~第七話
この中盤では主に、男たち侍の裏で女性たちが戦う様子が多く描かれた。
石堂の家臣を爆撃して首を獲ってしまったので、もはや四大老との戦は避けられぬかたちになった。
虎永は長門を叱るが、藪重&央海の樫木家が仕掛けた事だと気づいており、自分はそれを気づいてて敢えてお前らにそうさせたぞと暗に藪重に告げる虎永。
網代には虎永の放った間者がおり、強い方に付く藪重の行動は全て筒抜けだった。
第三話で虎永達を逃がすために犠牲になった……と思われた鞠子との関係が冷え切っているDV夫・戸田広勝/文太郎(演:阿部進之介)は、猛将であるため生きていた。
按針の屋敷に来た文太郎は、按針&藤&自分の正室・鞠子と共に酒と食事を共にする。この夜、文太郎は常に自分に冷たい鞠子に腹を立てまたDVして按針と揉める。この後もしばらく、自分には冷たい鞠子が按針にだけは心を開いてることを察知して按針と揉める。最初から「嫌な奴」ポジションで出てくるのだが第三話では自分ひとりで追手の軍を相手にして虎長を逃がすなど武芸に長けた猛将である事は間違いないし、この夜の食事会でも按針の「イギリスの海の男の酒の飲み方」を真似してみたりするし根っから悪いやつじゃない立体的なキャラ造形を見せる(只の嫌なDV夫ってだけのキャラなら絶対にこんな風に食で同調しない)。どうやら原作だと「只の嫌なDV夫キャラ」だったらしい、それをこのドラマ版では「鞠子とは上手くいってないし嫉妬深いが、勇敢だし悪いだけじゃない」という立体的なキャラになっている。
このドラマ、最後まで戦闘シーンや合戦シーンが殆ど無いんだが、もしあれば文太郎の人気ももっと上がっただろうね。

按針は虎永の褒美として、遊女と遊べる茶屋へ行く、通詞として鞠子も付いていくことになる。
鞠子が、茶屋の女将・(演:宮本裕子)に「按針とできてる?」といじられて、横で聞いてる藤殿がお茶を飲んで笑いをごまかすシーンでは再び「カワイイ!」と人気上がった。茶屋では伊豆No.1遊女・(演:向里祐香)が、鞠子が按針を好きなことを見抜き、菊の通詞をしている鞠子の口を通して、鞠子の本心を語らせるという幻想的なシーンが描かれた。
菊は常に蕩けそうな喋り方してるのが良くて、配信始まる前にインスタで各キャラの紹介映像がUPされてたが、そこで彼女は
菊「快楽とは……ただ痛みがないということではござりませぬ……私(わたくし)にお任せいただければ……本物の快楽をおみせいたしまする……
という「私は気持ちいい」というだけの事を、よくこれだけ深みをもたせられるな、と感心した。

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なんか喋るスピードとか言い回しとか声色とか……総合的に催眠効果のある台詞だ。
茶屋の菊と吟は樫木家に取り入ったり虎永に「何を企んででおいでです?」と探ったりして一体何が狙いなのかと思ってたが結局は、江戸に吉原という今までにない風俗街を作りたいというだけだったのかな?
そして欧米の視聴者は「あぁ、その街が『鬼滅の刃 遊郭編』に出てきたあの町になるのね」と思った事だろう。
この中盤では太閤の側室・落葉の方(演:二階堂ふみ)の出番が増えてくる。レディ落葉もまた妖怪みたいな喋り方するものだから欧米の人を恐れさせたという。
落葉のキャラ紹介インスタ映像は
落葉の方「貴方がたは少しばかり私(わたくし)のことを知っているおつもりかもしれませぬ……。私(わたくし)は皆様に、そのように思うていただきたいのでござりまする……
と、これまた菊と同様に「舐めんなよ」ってだけの事を何百倍にまで拡大させて恐怖を膨張させており言の葉の威力ってやつを再確認させられました。

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落葉の方は太閤の世継ぎを産んだ側室。他の正室、側室は産んでいない。何故わたしだけが産めたかわかるか?と石堂に語りビビらせる。恥ずかしながらよくわからなかった。他人の子を孕んだってこと?(たとえば虎永とか)。他に考える材料がないからそれ以外思いつかない。最後まで語られないからわからなかった。
鞠子の父・明智仁斎(明智光秀がモデル)が落葉の父(つまり織田信長)を討った。しかし落葉は「虎永が明智をそそのかして討たせた」と思いそれで虎永を憎み石堂&大老ズと手を組んでいる。
本当かどうか海外の記事読んだら落葉は虎永と結婚しようとして断られて恨んでるという説もあるらしい。えっそんなハマーン・カーンみたいな理由?だったら劇中で語ってほしかったが……亡くなる前の太閤が「落葉はお前と結婚してたかも」って言ってたのと、最終話で落葉からの文を虎永の正室桐の方(演:洞口依子)が持ってきた時に虎永が「お前これ読んだ?」って言ったら桐の方が「何いってんの」とイチャイチャしてた。だから落葉が虎永好きなのは割と皆知ってたってこと?
ちなみに桐の方役の洞口依子さんは黒沢清監督デビュー作『ドレミファ娘の血は騒ぐ』(1985)(※ちょうど今NYでリバイバル上映中らしい)とか『CURE』(1997)、ニンゲン合格』(1999)、『カリスマ』(1999)など初期黒沢清作品とか伊丹十三作品によく出てたあの方。久しぶり見たけど元気そうでよかった。桐の方のモデルは阿茶局なので「若い時の真田広之」と「若い時の洞口依子」が共に戦ったり恋愛する様子が頭に浮かんで「こういう時、若い時から知ってる俳優さんが年取った役してたら妄想できて良いな」と思った。
落葉は、虎永びいきの太閤の正室である北政所にあたるキャラを毒殺したかのようなシーンがあったりと「落葉がラスボスになるのか?」と思わせるところもあった。
この中盤では、按針と鞠子の恋とか鞠子と文太郎が夫婦揃ってメンヘラになって虎永に「今そんな場合じゃないってわかってる?」と怒られたり、幻想的な茶屋など……非常に面白いんだけど「大丈夫か?」という感じもあった。
石堂&大老ズとの戦が避けられない虎永は絶対に勝利する作戦〈紅天(こうてん)〉を発動させるかどうか家臣達にチラつかせる。
虎永「紅天で石堂たちをブッ潰すぞ!えい!えい!おー!」
と気合を言れてたかと思えば次の回で、
虎永「……紅天はとりやめじゃ……」と言動がコロコロ変わる。そもそも紅天が何なのか腹心の広松でさえも誰も知らない。
そして真田広之演じる虎永は主人公なのだが、主人公の割に妙に出番が少ない。また(他のキャラも全員そうなのだが)企みがありそうだが八重垣(心のATフィールド)によって虎永の本心は決して表に見えない、というキャラなのだが視聴者として観てても中盤はマジでわからなかった。「策謀に長けた徳川家康がモデルのキャラ」なのでアホのわけはないのだが決して本心を見せないので中盤は「マジで何も考えず行き当たりばったりなのでは?」と思えてきたりもした。洞察力に長けた茶屋の吟が「本当に何の策もないわけないですよねぇ?」と煽ったりしてたので視聴者に向けて「虎永はちゃんと考えてるよ」と、制作者がサインを出したりしていた。そんなサインもなく、賢そうな真田広之が演じてなくてモデルが誰だか知らなければ「虎永、マジで何も考えてない?」と思ってもおかしくなかった。
虎永は打倒・石堂のために不仲で十年くらい会ってない異母兄弟の佐伯信辰(演:奥野英太)に加勢を要請する。しかし佐伯は既に石堂に取り込まれており、ピンチの虎永もはや絶体絶命。
佐伯を演じてる役者は、ラッパー役やチャラ男役を得意としてる人らしい。甲冑も派手で、前田慶次的な”かぶき者”を思わせるキャラ。
功を焦って石堂の家臣を爆殺した長門は、またしても父のために茶屋でフルチンの佐伯に斬りかかる。しかしあと一歩のところで足を滑らせて頭を打って脳漿をまろび出させて死亡……。
長門は、かような純粋すぎる上に迂闊な若者な上に人気作では有り得ない間抜けな死に方したので視聴者から「この若君はバカなのかな」「このキャラ、アホだから俳優の演技も下手な気がしてきた……」などと好き勝手言われていたが僕は嫌いじゃなかったぞ。長門殿はあまりに純粋すぎたので死ぬことになった。……しかし虎永はそれほどまでに賢いならもっと教えてやれよと思わなくもなかった。

 

 

第八話~第十話(最終話)
第八話「奈落の底」
長門の事故死で虎永陣営は喪に服し一時休戦。
皆、間抜けな死に方した長門を馬鹿にするが、同年代の央海だけは長門の勇気を称えて馬鹿にする先輩たちを諌める。前半の央海は嫌な奴描写が多かったが、割と最後まで忠義を尽くす熱い奴だとわかってくる。
虎永の家臣達は、石堂に合戦で勝利、勝てなくても降伏よりは戦って死にたい。
しかし虎永は、佐伯の寝返り以降「儂は勝ち目のない石堂に降伏して切腹する」としか言わない。
子供の頃から虎永のお兄ちゃんみたいな感じで仕えてきた、虎永が唯一心の内を打ち明けれる家臣・戸田広松(演:西岡徳馬)。文太郎の父であり藤の叔父でもある……彼は「いやぁ、でも殿は口では周りを油断させるため、ああ言いつつも戦うつもりなんじゃ?」と藪重に言ってしまう。
鞠子は文太郎と茶室でお茶をいただくが、文太郎の心中の申し出を「アンタ何にもわかってないのね」と口頭で叩きのめし泣く文太郎を後にして出ていく。
これからどうするかの最終決定の会議、虎永は家臣を集めて「降伏します」という書状にサインさせる。降伏を信じていない藪重と従うしかない央海は安々とサインしてしまう。
しかし戦って死にたい家臣達はこれを拒否。怒る虎永。このままでは家臣達が今切腹しなければならなくなる……ここで広松が虎永に異を唱える反対者の代表として虎永にNOを突きつける。だが虎永も意見を翻すことはない。
遂には広松は、息子・文太郎に介錯を頼み、その場で切腹することに。
一行で文章にしたらあっさりだが、このシーン、西岡徳馬真田広之の演技、二人のキャラが目と目だけで会話する感じ。緊迫感が物凄くて時間を忘れた。世界の視聴者は凄い反響だった。
兄弟同然にやってきた一番の親友でもあり家臣でもある広松を安々と死なせた虎永に「マジで降伏する気だ!」と思った藪重は、同じく虎永から心が離れた按針を連れて石堂の元に向かう。そこへ鞠子が虎永の命でついていく。
広松の切腹は、誰だかわからない石堂の間者や忠義心ゼロの藪重を騙すための虎永とのアイコンタクトとアドリブで行った切腹だった。

第九話「紅天
は鞠子の回だった。それにしても虎永の軍事計画「紅天」の英訳は「クリムゾン・スカイ」、かっこよすぎるだろう。
藪重&按針というフワフワした男二人と共に敵陣の危険な大阪城に乗り込んだ鞠子。ここ大阪城では広松が第五話あたりで脱出した時に出産で脱出できなかった側室・志津の方、その看病で残った虎永の正室・桐の方らが人質で軟禁されている。そればかりか他の大老達も囚われている。表向きには軟禁されてはいないという事になっているが自由に出ていく事はできない。鞠子は桐の方、志津の方を連れて江戸に帰るという。もちろん門番は通さない。鞠子の部下は門番と戦い、斃れる。鞠子は薙刀を持ち善戦する。門番は、鞠子たちを通すわけには行かないが殺すわけにもいかないので門番は門番で大変だ。鞠子は「このような屈辱には耐えられませぬ。私(わたくし)は日没に自害いたしまする!」と宣言。按針は感じ入るが見ていることしか出来ない。藪重はあたふたしている。
幼い頃に親友として過ごした落葉の方は鞠子の自害を止めようとする。しかし鞠子の決意は堅い。落葉は涙を流したりして意外と鬼女ではない事がわかる。落葉はただ息子を守るために地位を盤石にしたいだけだったのだ。
鞠子の介錯に愛し合う按針が立ち、あわや自害……という寸前で敵である石堂が「通行許可証」を渡して止めに来る。鞠子が死んでしまっては大阪の上流階級が離反してしまいかねない。石堂としても鞠子を死なすわけにはいかないのだ。とはいえ前話で広松が迫真の切腹してるので鞠子がしても何らおかしくないのでギリギリまで緊迫感が凄かった。
次に石堂は、寝返らせた藪重を使って鞠子を監禁するために忍者軍団を藪重の手引で大阪城に迎え入れて拉致させようとする。
桐の方、志津の方を連れて逃げる鞠子、その鞠子を守るため忍者を銃撃する按針、皆を助けるふりをしながら鞠子を不利な場所に誘おうとする藪重。
土蔵に逃げ込んだ一行。発破で戸を破ろうとする忍。鞠子は迷いなく戸の前に立って爆撃で自らを殺させる。……というこの第九話は一番面白かったかも。
今まで鞠子殿は主人公の一人だけどイマイチ魅力ないなと思って観てたのだが、父が死んでからは死に場所を探して好きでもない文太郎と暮らしてて死んだように生きてたからなのね。最後は「私は明智鞠子」と名乗って亡くなられた。

最終話「夢の中の夢」
「いよいよ最終話は関ヶ原の戦い?」とか思っていたら最終話はまさか「藪重と按針がションボリして江戸に帰国して江戸で過ごす。関ヶ原の戦いの一ヶ月前に物語は終わり」という話だった。戦国時代で関が原に向けて進んでるからついつい最終話はラストバトルだと思うじゃん。しかしそれは無し。そんで無くても良かったので更に驚きました。ラストバトルをカットしたんじゃなくて後述するが戦いは既に終わっていてる、1ヶ月後の関が原はその既に決した戦いの”結果”や”おまけ”に過ぎない。
最終話ではところどころ年老いた按針が鞠子の十字架を握りしめ、孫と過ごす映像が入る。按針はイギリスに帰ってしまったのか?金髪で白人の孫たちは飾ってある忍者刀のことを「蛮人から奪った武器」と呼んでいる。結局、按針はすぐに帰国し、そして死ぬまで鞠子を想い後悔のうちに死を迎えているのか?彼が日本に来たのはただ不幸な後悔を生むだけだったのか?按針は……いやブラックソーンの人格には何の影響もなかったのか?このドラマ全話は年老いた按針が見た夢だったのか?この回想は何度か入る。
時間は鞠子の死の直後に戻る。藪重は、鞠子を拉致して閉じ込めておくことはしっていたが、まさか鞠子が死ぬとは思っておらず罪悪感で様子がおかしくなっていた。桐の方、志津の方、按針&藪重は江戸に帰国する事に。カトリックのアルビト司祭は本当はこの江戸への帰り道で按針を討つはずだったが鞠子の頼みで見逃す。そして按針が乗ってきた船は破壊され沈没していた。犯人探しで網代の民達は処刑されている。
江戸に帰国した藪重はすぐさま囚われる。鞠子が死ぬ原因となった忍者軍団を大阪城に招き入れた事が虎永に筒抜けだったのだ。央海は叔父を尊敬していたが忠義に背くことは許せない青年だった。藪重は切腹することに。
按針の正室という任務が終わった藤は尼になるという、しかし村の人達が殺されていることに心を砕き、そして夫と子供の遺骨を手放していない。元気になってきたがまだ哀しみの中にいるのだ。
按針は、虎永の家臣という正体を表した村次を通詞に、虎永に村人を殺さないでくれと言う。許さない虎永。按針は心の八重垣を破り、カトリックプロテスタントの争いはくだらなかった、自分は日本や虎永を利用するために日本に来たこと、自分は酷い行いをしてきたことなど吐露する。そして自分の切腹で村人を救ってくれと言い、すんでのところで肝心の切腹を止めて村人の虐殺を止める要求を飲む虎永。
按針は藤と海に出て、イギリス式の散骨で藤の夫と子供の骨を撒き「二人の魂は君とずっと一緒だ」と言う。そして按針は鞠子の十字架を海に葬る。
つまり、このドラマ全話が「年老いて後悔のまま死にゆくブラックソーンが見た思い出」だったのではなく、最終話で何度か差し込まれたイギリスにて死の床にいるブラックソーンの場面の方が夢だった。按針は鞠子や日本との触れ合いで変わったのだ。

藪重は「自分の亡骸は野ざらしにして犬に食わせろ」という内容の辞世の句を「いいのが出来た」と言い央海に渡し腹を切るために介錯人の虎永の下へ行く。
それにしても辞世の句を、英語字幕にしたら「Death poem」となっていて、意味も語感もこの上なく恐ろしい「デス」と、どこかパステルカラーでほわんとした印象の「ポエム」が合体した「デス・ポエム」の響きにはしびれました。そんなしびれもおう終わりじゃ。
裏切りの常習犯である藪重は信用できない。しかし数分後に死ぬ藪重は別だ。
虎永は初めて八重垣の中の本心を語る友を得た。
虎永がシーズン中盤からずっと語ってきた一発逆転の軍事作戦「紅天」は既に決していることを語る。虎永の軍勢による大規模作戦……などではなく鞠子が一人で前回大阪に行って門で戦ったりキリシタン大老の木山に語りかけたり切腹しようとしたり落葉の方と語ったり忍者に自ら進んで殺されたり……してたアレが「紅天」だったのだ。
そしてそれ以前の、時間を稼ぐことが出来た長門の死、「虎永降伏」を石堂に印象付けた広松の切腹、それによって疑われる要素なく大阪に毒(鞠子)を盛れたこと……江戸の虎永勢や敵の大阪勢など全ての動きが「紅天」の一環だった。
……今思えば偶然成功したような要素も多いのだが「A案がダメならB案に移行」とか色々フォローできる要素はあったのだろう(たとえば長門が佐伯暗殺は失敗したが成功してても長門切腹を命じて失敗時同様に喪に服して時間を稼いでいただろうし)。
鞠子の一人の戦い、石堂に自分を殺させたくだり、これにより旧友・落葉の方は「石堂に価値なし」と判断し、1ヶ月後の関が原の戦いにて石堂に援軍を送らない事を決意。太閤の世継ぎ・八重千代の旗を掲げられない石堂、元々好かれていない上に大義名分もない石堂に付くものはいない。残りの大老は離反する……という事で一ヶ月後の関が原では既に勝利していると。
ついでに「按針の船を壊したのは儂」などとありとあらゆる事を教えてくれる。
それもこれも265年続く太平の世のためだった。
今まで全く心の内を語らなかった(というか出番自体も少なかった)虎永が裏切り者・藪重に語ってくれるこの崖の場面は圧巻だった。
実際に主人公と言いつつ全話通して虎永の出番は驚くほど少ないので第七話くらいまでは「これ面白いけど真田広之の出番少なくない?」と思っていたが、この崖の場面まで見たら、これまでの虎永の出てない場面も全部虎永の脳内に居たようなものだったのかもと思った。
例の配信前のインスタの虎永のキャラ映像、
虎長「我らの物語は、霧の中にしたためてある。はたまた儂が霧で、そなたらはその霧の中を、彷徨うておるだけやもしれぬの……
とか言ってたが最終話まで観たら実際その通りだった。

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そして虎永は考えの深い策士というだけでなく、按針の忠誠心を確固たるものにするためだけに船を焼いて罪のない村人を虐殺した事、自分も将軍になれば好きなことが出来るという他の者同様の俗な考えがあることを述べる。
藪重は虎永の”八重垣”の内にある彼の本心を知りたくなり訊くが、虎永は急にスッと無表情になり「死人に先々のことを話して何とする」と冷酷になり、おしゃべりの時間が終わった事を悟った藪重はラーメンに箸をつけるが如く気楽さで腹に短刀を差し込み虎永を笑顔で見る、虎永も口元を少し歪めた後、藪重の首を斬り落とす。
この崖の切腹シークエンスは凄く良い場面だと思った。誰にも本心を語らない虎永が一番信用ならん藪重にシビアな内容を話し、藪重はそれを否定も肯定もせず好奇心いっぱいで素直に聞いている、ただ真の真の心の内だけはたとえ1分後に死ぬ藪重にも話すつもりはないのでトークは打ち切り……何となく、これが理想的なコミュニケーションだと思えたからかもしれない。
浅野忠信の演技は元々好きだったんですが、特に『アカルイミライ』(2003)での「おまえクラゲの毒をすこしあまくみてないか?笑」とか『珈琲時光』(2004)で一青窈を心配して「おおwどうしたどうしたw」みたいなナチュラルすぎる演技が好きだったんだが、本作でも台詞を自分の中に入れて自然と発する演技をしていたらしい。それでやたらと溜め息や息が漏れる回数が多く、それが欧米の人にも「この人こんなおもろい演技する人だったのか」とバカ受けしてて、浅野忠信のそういう演技が昔から好きだったので、それがウケて良かった。藪重は一人だけ侍のルールだけに縛られてなくて現代人っぽい合理的な考え方してるし愛嬌あるから人気出るのもわかりますね、それでいて侍ルールにも準じてるし、かと思えば死に魅入られてる非現実性も良いしね。本作そのものが真田広之の総決算ならば、藪重は浅野忠信の演じてきたキャラの総決算感ある。
虎永、鞠子、按針が3主人公なんだが正直言って全話において藪重が按針を食ってたよね。ずる賢いキャラってだけじゃなくて異常な殺し方や異常な殺され方に魅せられてて、普段は凡俗なのに死に関してだけはアーティストになるってところが最高だね。
最後は、按針が村人たちと一つになって船を引き上げる。文太郎も来て按針との確執を忘れ手伝う(それを知った時に按針が漏らす笑みが最高)。違いを「野蛮人」と罵っていた者たちはもうおらず互いに協力しあう世界が生まれた。
なんだかんだ按針が鞠子や藤や文太郎に良い影響を与えて互いに変わったのは良かったと思う。ただ、按針はずっと驚いた犬みたいな表情で一体何を考えてるのかが虎永以上によくわからなかったが……。最終的には偏見をなくしてわかりあおうという明るい結論に達してよかったのかも。
鞠子、落葉、藤、菊、吟……などの女性キャラも突然、非現実的なスーパーパワーを発揮して暴れるでもなく(男化)かといって過剰に女っぽく色仕掛けするわけでもなく等身大の女性がそのまんま芯の強さを押し出す感じがめちゃくちゃ良かったです(別にリアルな強さじゃなくスーパーパワーを使った方が適切な作品はそれでもいいです、『キャプテン・マーベル』(2019)とか)。
てっきり最初、最終話は、まるまる関ヶ原の戦いかと思ってたけど蓋を開けたら、関ヶ原の一ヶ月前で終わりだったという、しかし雌雄はこの時点で既についている……というのは渋すぎるのでこれでよかったんだけど、せっかくだから藪重に崖で関が原についてかたってる時の関ヶ原イメージシーンをほんの2分だけ伸ばして虎永(というか真田広之の)チャンバラ。按針の砲撃。文太郎や央海の無双。ブッ殺されて脳みそブチまける佐伯……とかも観たかったかも。だけど「出来れば生きながらえて殿がどう勝利をおさめるのか観たかったですぞ!」という藪重にシンクロできるから見せなくて正解だったのかもね……。そういう「アホの石堂やムカつく佐伯をぶっ倒してYeah」みたいな次元じゃないことをやってきたわけで最後に数分でもスカッと戦国要素入れちゃったたらブレそうだもんね。落葉の文を見て青ざめる石堂イメージ映像は見れたし。
クライマックスはやはり鞠子殿が石堂に毒を盛った第九話「紅天」で、最終話はエピローグって感じでした。
だが最終話だけ藪重の崖のシーンだけ三回続けて観たし按針と藤の小舟のシーンも二回続けて観た。ドラマ最終回でそうしたのは随分久しぶりだった。『ツイン・ピークス リミテッドシリーズ』(2017)最終回以来かもしれない。

 

 

長なった……
内容を咀嚼しながら書いてたので長くなりましたが、とりあえずそんな感じで面白かったです。

第一話~第三話 ★★
第四話     ★★★★ 
第五話~第七話 ★★★ 
第八話~第十話 ★★★★★ 

という感じで尻上がりに面白くなった。
同じDisney+って事でどうしても比べてしまうんだが、MCUとかSWのドラマ数十本って最初よくても最後つまんない終わり方するものが多かったから本作と比べて一体何だったんだろう?と思わざるを得ない。MCUとかSWのドラマにも面白いものは勿論ある。ただし分母の多さに対して少なすぎる。
そしてMCUとかSWのドラマが、Disney+に客を繋ぎ止めとくためだけに使い道もきめないまま新キャラとか繋がりとかバンバン出すのと反比例して本作は第一話から最後まで大人気だったのに全10話だけで完結してしまうのが何か……違いすぎて……。

本作によって少し世界が変わって真田広之をはじめとする日本人俳優のハリウッドでの扱いが少し良くなるだろうし(翻ってホークアイに命乞いして殺されるだけの『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)でのヤクザ役なんだったん?ひどすぎるだろ)。
同じ座組で、同じくジェームズ・クラヴェル原作の本作の約200年後の続編『Gai-Jin』(1993)のドラマ化が観たいな。本作の直後の続編も、作れない事はないだろうが藪重とか藤様とかが居ないのは寂しい。完全に終わってるし。『Gai-Jin』映像化なら浅野忠信や穂志もえかを再び配役できるだろうし。
あと真田広之がSWに出たがってて、最近SWから本作にラブコールあったりしてたから
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ジェームズ・マンゴールドが監督するEP1の2万5千年前のジェダイ誕生を描いた映画に真田広之出てほしいね。勿論ジェダイ始祖で。真田広之はマンゴールドの『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013)にも出てたし。本作のスタッフがSWも作って……と思ったけどSW作らせるの勿体ないわ。それするくらいならオリジナル作品作ってほしい。

 

 

 

 

そんな感じでした

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『SHOGUN 将軍』公式特設サイト SHOGUNの城 Enter|ディズニープラス
『SHOGUN 将軍』(2024) 公式Instagram

Shogun (TV Mini Series 2024– ) - IMDb
Shōgun | Rotten Tomatoes

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SHŌGUN | FX - YouTube ※公式再生リスト

『アイアンクロー』(2023)/呪われた若草物語?と思いながら観てたが思いのほか温かい着地してよかった。大好きなリック・フレアーのシーンは、短いが面白すぎて本編の内容どうでもよくなりかけたので映画の事を思えば無い方がよかったかも🖐️


原題:The Iron Claw 監督&脚本:ショーン・ダーキン 製作総指揮&ランス・フォン・エリック役:マクスウェル・ジェイコブ・フリードマン プロレス演出&ザ・シーク役:チャボ・ゲレロ・ジュニア. 製作&配給:A24 製作国:アメリカ 上映時間:132分 公開日:2023年12月22日(日本は2024年4月5日)

 


主に60~70年に活躍していた”鉄の爪”フリッツ・フォン・エリック、その息子たちフォン・エリック兄弟。不幸な出来事が相次いだため「呪われた一族」という異名で呼ばれた彼らを描いた実話ベースの映画。

父フリッツ・フォン・エリックの全盛期はさすがに生まれる前なので見てない。
漫画『プロレススーパースター列伝』に出てきたり、プロレスラーの逸話で語られるのを聞いたことあるだけ。
フォン・エリック兄弟たちも、アメリカンプロレスは日本で放送してなかったのでよく知らない。当時のアメプロもプロレス漫画で読んだりゲーセンのWWFアーケードゲームをプレイして憧れを抱いてた程度。
兄弟も全日本プロレスとかに来日してたそうだけど記憶になし……。
ということであまり知識ない状態で観た。この監督の過去作も観てないし。

〈プロレスの映画〉という視点ならダーレン・アロノフスキー『レスラー』(2008)はかなり良かった……けど、この破滅的なレスターの映画を観て帰宅したら三沢光晴が亡くなったりして考えさせられた。フローレンス・ピューがWWEのペイジの半生を演じた『ファイティング・ファミリー』(2019)……は、まぁ普通だったかな。そういえばWWF(現WWE)のレスラーのリング外の姿を捉えたドキュメンタリー『ビヨンド・ザ・マット』(1999)、これが一番面白かったかも。当時のイカれたビンス・マクマホンとか見ごたえしかなかった。
プロレス自体は子供の時から20代前半まで新日本プロレス全日本プロレスを普通に観てて、20代後半にWWEにはまった。その時はエディ・ゲレロクリス・ベノワという苦労人で渋い2人がチャンピオンになって、日本公演があったので武道館に観に行ってアンダーテイカーのワープとか観て盛り上がった。
……が、翌年あたりにそのエディ・ゲレロが若くして病死。そして少し後にクリス・ベノワが妻子を殺した後に自殺というとんでもない経緯で死亡。
クリス・ベノワ - Wikipedia
ベノワが悪人ならまだしも凄い人格者の苦労人として知られてたのでショックも大きかった。あとレスラーがやたらと若くしてポンポン死んでいくので色々考えさせられるし、WWE全部観てたらめちゃくちゃ時間かかるってのもあってプロレス観るの止めた。
WWEで活躍する日本人(中邑真輔、ASUKA、KAIRI SANE、IYO SKY)とか、ジョン・シナとかアンダーテイカーとか気になる人の試合をたまーーに観るだけで、もう殆ど観なくなってしまった。
……と、全然本作に関係ない話してるようだが要はプロレスラーは膝やら首やら身体がボロボロになったり(特に昭和は脳天から落とす技とかやってたし)ステロイドが能に与える影響とか、それらから逃れるためにコカインやったり(海外)、あと単純に極端な人格の人が多いせいか不幸になる人が妙に多い……最近は対処され始めてそんな不幸は減っていくだろうが2000年以前のレスラーはそんなイメージある。
ある時期、昭和のレスラーがバンバン死んだり不幸なニュースが多い時期があって、時間食うしプロレスあまり観なくなった。
そういう事で昔のレスラーは不幸になるイメージが強いってことで間接的には本作に関係あるかも。

ネタバレあり

 

 

 

 

1980年代初頭、次男ケビン・フォン・エリック(演:ザック・エフロン)、三男デビッド(演:ハリス・ディキンソン)、四男ケリー(演:ジェレミー・アレン・ホワイト)……たち、エリック兄弟は、元AWA世界ヘビー級王者である父親鉄の爪フリッツ・フォン・エリック(演:ホルト・マッキャラニー)と母親パム(演:リリー・ジェームズ)によって”地上最強の一家”となるよう育てられた。

そんな話。
劇中のプロレスシーンは、フォンエリック家と同じく名門プロレス一家ゲレロ家出身のチャボ・ゲレロ・ジュニアが担当している。劇中の試合は80年代がメインなので現代のスピーディなものではなくじっくりした試合運びを振付して、ザック・エフロンを始めとした俳優たち本人がプロレスアクションを行っている。
冒頭で父である初代・鉄の爪フリッツが引退してプロモーターになる。
フリッツは自分が唯一穫れなかった〈NWA世界ヘビー級王座〉を息子の誰かに獲得させたい。
メインの主人公は次男ケビン。ザック・エフロンが物凄いマッチョに仕上げて演じている、というか本物のケビンより筋肉すごい。ちなみに四兄弟の上に実は長男が居たのだが幼少期に事故で既に亡くなってたらしい。だから今は次男ケビンが一番上。
ケビンは一番最初にプロレスラーになって活躍しておりプロレス的な技術は優れていたが、マイクパフォーマンスやら抗争など、プロレスには必要不可欠な”華”要素が苦手という弱点があった。
それを補うのがケビンに次いでプロレスラーになった三男デビッド。長身で体格にも優れたデビッドはケビンには無いマイクパフォーマンス能力があった。
ケビンに僅かな不満を抱いていた父フリッツはデビッドを推していく。
父の期待に応えるためプロレス一筋で生きてきたデビッドだが、彼は最初から「プロレスで天下獲る!」みたいな思想ではなく彼の本音は「みんなと楽しく暮らしていきたい」という心優しいもの。つまりケビンにとっては家族や仲間との愛情が一番であって、プロレスや王座はそれを実現するためのツールに過ぎない。ケビンにとっては尊敬する父フリッツに褒められたり、兄弟達と切磋琢磨したい。
父の期待がデビッドに移ったから……なんて単純なことからではないだろうが、この時期、ケビンは生まれて初めてできた恋人パム(演:リリー・ジェームズ)との間に子供が出来たので皆に祝福されて結婚する。
「兄弟と両親が健在」「愛する家族全員に祝福されて愛するパムと結婚」、この映画内の範囲だと、この辺が一番ケビンの幸福度が高い。
そして父や兄弟の期待を背負ったデビッド。しかしデビッドはケビンとパムの結婚式で吐血しケビンや我々観客に嫌な予感を感じさせる。映画の中の”嫌な予感”は、予感だけで終わりはしない。またぞろ出てきて、”嫌なこと”をするのよ。
デビッドは日本に試合しに行き、そのままホテルで内蔵不全で亡くなってしまう。ショックを受けるフォン・エリック家。
四男ケリーは陸上でオリンピックを目指していたが1980年、アメリカはモスクワ・オリンピックのボイコットを宣言したため、やる事がなくなったのでプロレスラーになる。総帥フリッツや兄弟の期待を背負ったケリーは”狂乱の貴公子”リック・フレアーを倒し、見事に父フリッツや故デビッドが志半ばで叶えられなかったNWA世界王座……への登竜門となる王座を勝ち取る。寝る前にバイクでドライブするケリー。
次のシーンは朝、目覚めたケリーは飲み物を飲むためキッチンに行くが右足の足首から下がない。バイク事故で切断してしまった数日後だったのだ。
バイクに乗るから事故るんだろうなと思ってたが事故のシーンはなく、後日の朝に足がないっていう、この見せ方は不意を突かれて「ひっ!」となった。
ケリーの事故だけ、事故の瞬間や家族のリアクションなどをスキップしてる演出が、映画として非常に良かった。毎回毎回、兄弟死ぬ悲しむを繰り返してたら実際に起きた悲劇とはいえギャグっぽくなりかねないしね。実際、フォン・エリック家には本当は六男もいて自死したそうだが五男マイクのエピソードに統合されたらしい。ケビン以外の兄弟が死んだり事故ったりが四回も連続で続くと嘘っぽくなるから一個減らしたのかな?よくわからないが、現実では死んだ兄弟が更に一人多かったというのが凄い。

 

 

劇中で起こること全部書いていっても仕方ないのでやめるが、兄弟の相次ぐ死や事故で最終的に兄弟はケビンと義足で復帰したケリーだけになってしまう。
ケビンとパムには息子が二人できたが、ケビンは世間で噂されている”エリック家の呪い”を信じ始め、愛する息子たちに「呪いが伝染しないように」と自宅に帰らなくなる。まぁ、兄弟のうち長男が生まれて間もなく死んで近年10年以内に三回連続で不幸に見舞われ(現実では四回)たら、そう思っても不思議じゃないよね。
一方、義足で復帰したケリーはWWFインターコンチネンタル王座を獲ったりして凄いのだが、痛みを紛らわせるため薬物を乱用したせいか気性が荒くなり不安定になっていく。
後半、ケビンは父フリッツや弟たち(デビッド、ケリー、マイク)も穫れなかったNWA世界ヘビー級王座決定戦に挑戦する。
対戦相手は弟たちとも抗争を繰り広げた”狂乱の貴公子”リック・フレアー(演:アーロン・ディーン・アイセンバーグ)。
試合前、ケビンはシリアスかつナーバスな表情で準備運動する。もはや「フォン・エリック一家、念願の王座が目の前」という事は頭にはない。前述した通り、ケビンの欲しいものは「兄弟や家族と楽しく暮らすこと」だけなのだ、それが半壊してしまっている今、ケビンにとってNWA世界ヘビー級王座などどうでもいいのだ。
虚ろな瞳でウォームアップを繰り返すケビン、彼の目はNWA世界ヘビー級王座を見ておらず自分の内面……一番大事だった兄弟の殆どを失ってしまった一家の呪いを見つめている。
……そんなシリアスなケビンとシンクロしてリック・フレアーによるTV用の、自己アピールのド派手なインタビューが流れる。

フレアー「俺様が他の奴らと違うのは頭のてっぺんからつま先までカスタムメイドだということだ。俺は街の一番大きな丘の上の一番大きな家に住んでいる……。……このジャケットも800ドルだ!(インタビュアーのスーツを嫌そうにつまんで)んん値段もわからんような物は恥ずかしくて着れん~~!(靴を脱いで手に持ちカメラ目線で)だから俺様はトカゲの靴を履き!(手首を上げて目と歯を剥いたキチガイの表情でカメラ目線)んんん時計はロレックス!俺様の全長1マイルのリムジンに乗り込んだ美女25人が俺様の帰りを今も待ちわびている!WOOO!!!!!
そしてフォン・エリック家の不幸を使ってケビンを煽る(というか励ましているようにも聞こえる)。
ハッキリ言ってフレアーのインタビューが面白すぎた。そこそこ似てたし。
昔の若フレアーのインタビューも大体こんな感じ「俺様は常に自分のジェット機を飛ばし!そこには大勢の美女がおり!」とか自慢をわめきちらすのが最高。
本物の昔フレアーのわめきちらし動画を貼るか……と検索してたら、ちょうど父フリッツと言い合いしてる映像があった。大体こんな雰囲気だ。元気が少ない時に観たら元気を貰えるかも。
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フレアーのマイク・パフォーマンスに匹敵するマイク・パフォーマンスは松居一代の「おちんちんシール」くらいしかない。

www.youtube.com結論から言うと、試合は精神状態が不安定なケビンがフレアーを痛めつけすぎてしまい反則負けになる。ケリーは「どしたん?」と引き気味で、またしても期待を裏切られた父フリッツは呆れ気味。ケビンにボコボコにされて血まみれのフレアーがやってきて「ケビン、さっきの俺様への超暴力めちゃくちゃ良かった!またやってほしい!今から飲みに行こう!?」と笑顔。それどころじゃないケビンは「いや……俺はいい……」と断る。
ケビンの精神状態が危ういシリアスなシーンのはずなんだがハッキリ言ってフレアーのインタビューが面白すぎた。
ケビンvs.フレアーの試合も30秒くらい?の短いものだが、ケビンをコーナーに押し付けたフレアーがチョップして「WOOO!!!」(フレアーの雄叫び、客も真似をする)そこからのフレアーウォーク(相手を馬鹿にしてアホみたいな歩き方する。野性爆弾くっきーがお笑い向上委員会でよく真似している)。

というフレアーの得意ムーブが5秒くらい?流れるもんだから、さっきのインタビューと合わせて一気にフレアーの事で頭が一杯になってケビンの人間ドラマを忘れてしまった。
実のところは僕は全プロレスラーの中でリック・フレアーが一番好きで、一番良いところは強さ以上に受けの天才で「コーナポストに投げられて一回転してスタスタ歩き出す」という訳のわからんムーブも好きだが、

「敵の攻撃を喰らって平静を装って歩き出すが三歩で顔面から倒れる」など芸術作品。
敵の攻撃を平気なふりして顔面からぶっ倒れる……これ以上に尊い動きがあるか?

あと卑怯なキャラでもあったので「NO……NO……」と弱ったふりをしといて目潰し。ひざまずいて「NO……NO……」と許しを請うて油断を誘っといて敵のチンコを殴る……などもたまらない。
映画に関係ないのでやめるが僕はフレアーの自伝やDVDBOXも買ったし最も好きな有名人ベスト5に入る気がする(他には水木しげるジョン・カーペンターなど)。現在は娘のシャーロット・フレアーWWEで活躍している。
このフレアーの話は映画本編に直接関係ないとはいえ「若い時のフレアー完コピを1分近くも展開したら、そりゃ面白すぎて映画をさらってしまうだろう」という僕の意見がこのページにも反映されたと言える。
この映画のためを思うなら、フレアーはデビッドやケリーの時みたいに名前だけ出すとかTVで流れてるだけにしといた方が良かったと思う。フォン・エリック家のこと忘れて「フレアー自伝映画が観たい!」と思っちゃうからね。本作は人間ドラマに焦点を当てててプロレスの面白さ自体を描写するシーンは少ないのだが、どうやら監督がプロレス好きらしいから「フレアーだけはちょっと入れたい!」と思ったのかも。

 

気を取り直して話を戻そう。俺がこれを始めた。だから俺が終わらせよう。
そうこうしつつも起きてはいけない更なる悲劇が……起きてしまう。
ケビンが大切なにしていたものは全てなくなってしまう。
ケビンは生まれて初めて父フリッツに反抗して首を締める。
「アイアンクローって、確かにフォン・エリック家の必殺話だけど別に劇中で象徴的に使われるわけでもないから映画のタイトル『フォン・エリック』とかでも良かったんちゃうか?」とか思いながら観てたが、この父への首絞めはひょっとしてアイアンクローと被らせてて、だから映画のタイトルにしたのかも……と、少し思った。
父フリッツの描き方は「諸悪の根源」にも見える。しかし「DVしまくり」とかそれほど分かりやすい毒親ではない、普段は家族を普通に愛してるし浮気もせず妻とも仲が良い。ただここ一番の家族の精神的なピンチの時、1mmも寄り添う素振りがない、という事は一貫して描かれていた。「自分は出来るから他人もほっときゃ出来るだろ」と思ってるタイプ?最後に妻も家を出るとかはしないが仕事から帰ったフリッツに夕食を作らなくなり故マイクが興味を持っていた自分の事(絵画)を始めるという絶妙なかたちでフリッツ批判をしていた。フリッツもそれで逆ギレするわけでもなく受け入れてるし、全員をちゃんと人間として描いてる感じ。……とは言ったものの、兄弟が4人も(現実では5人も)死んでしまうというのは、弱みを見せた子供に一切寄り添わなかったり、すぐ目を離してしまうフリッツのせいとしか思えないよね。
そして死んだ後のフリッツ・フォン兄弟たちも実に暖かく描いていた。
「たったひとつの大切なもの、全て失った」と絶望したケビンだったが、彼には愛する妻子が居た。父フリッツの妄執を捨てたケビンは『機動戦士ガンダム』(1979-1980)ラストのアムロのように帰れる場所に帰っていった。
実際はどうだったかわかんないけどこの映画観た限りだと、ケビンが独身だったらケビンもそのまま死んでたんじゃないかという気がする。

そういう感じでしんみりしつつも最後は暖かくて良い映画でした。
……良い映画とは思うが、ちょっとしんみりしすぎかなという気もした。中盤から兄弟がどんどん不幸に見舞われていって、どうしてもしんみりせざるを得ないので前半はもっとめちゃくちゃ派手に楽しくしといた方が良かったかも?その方が死のショックもデカくなっただろうし。

 

 

 

 

そんな感じでした

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The Iron Claw (2023) - IMDb
The Iron Claw | Rotten Tomatoes

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映画『アイアンクロー』再生リスト - YouTube

『サクラメント 死の楽園』(2013)/前回観た時パッとしなかったがタイ・ウェストにハマって再見してもやはりイマイチだったが感想書いてる間に良さに一つ気付いて少し評価上がった。今回もまた本題以外の可哀想な少女で演出してた感🥤


原題:The Sacrament 監督&脚本&編集&製作総指揮:タイ・ウェスト 製作:イーライ・ロス 音楽:タイラー・ベイツ 上映時間:100分 製作国:アメリカ 公開日:2014年6月6日(日本は2015年11月28日)

 


これ実は以前観て「つまらなくはないがあんまり面白くないような……」というパッとしない印象だったけど、『X』シリーズでハマったので観れるものは観ようとしてこれはアマプラにあったこれを再見した。
1978年に人民寺院が起こした有名な事件を元にしたフィクション。
人民寺院 - Wikipedia
ジョーンズタウン - Wikipedia

ネタバレあり。割と殆どネタバレしてます

 

 

 

普通のメディアが取り扱わないニッチな取材対象を配信する映像メディア、VICEのレポーターのサム(演:AJ・ボーウェン)、ビデオカメラマンのジェイク(演:ジョー・スワンバーグ)、カメラマンのパトリック(演:ケンタッカー・オードリー)。
VICE Japan - YouTube

薬物中毒になっていたパトリックの妹キャロライン(演:エイミー・サイメッツ)が何やらカルト教団〈エデン教区〉の「理想郷」と呼ばれるコミューンで暮らしていると聞いた彼らは怪しいものを感じ、取材しに行く。
なお本作は取材のカメラを、彼らが撮ってたり時には教団の者が手に取ったりしてモキュメンタリー形式で進む。これによってカルトに潜入した嫌な気分が味わえる。
三人はヘリコプターでないと辿り着けないほど人里離れた場所にある「エデン教区の理想郷」に到着。
「理想郷」の入口には銃で武装した見張りがいた。
キャロラインと再会したパトリック。
サムとジェイクは信者たちを取材する。
元薬物中毒者や家族がおらず行き場がない高齢者などアメリカの一般社会に居づらさを感じている者たちが集まり、電話もインターネットもないこの地で生活している。
サムとジェイクが取材した者たちは幸福感を感じていたようだった。
2人は〈〉と呼ばれているエデン教区の指導者アンダーソン(演:ジーン・ジョーンズ)を取材する約束をキャロラインが取り付けてくれた。

しかしアンダーソンとのインタビューは一対一での取材ではなく集められた信者たちの目の前であり、アンダーソンは質問してもはぐらかしてばかり最終的にはインタビューしているサムに「もうすぐ奥さんに子供が出来るんだろう?私は何でも知っているんだ」などと脅しめいた圧力をかけてきて危険を感じるしまともなインタビューできそうにないのでサムはインタビューを切り上げた。
このインタビューのシーンは、アンダーソンの話術や圧のかけ方が実にリアルで、個人的に一番面白い本作の場面はここだった。
夜、パトリックはキャロラインの手引で女性信者と3Pしてるっぽいし、そのキャロラインもきまっておりジャンキーが治っておらずアンダーソンとSEXしてるっぽい。
他にも色々怪しいこともあるし、酷い目にあって脱出したがってる母子もいるし、教団のメンバーが集まって何かしようとしてるしでサムとジェイクは翌朝迎えに来るヘリで脱出することを決める。

そして翌朝、モデルとなった人民寺院もやった例の未曾有の集団自殺事件が起きる。
大爆破!とか全員銃殺!などのアッパーな事件ではなく集団で服毒自殺というものなので何とも嫌~な気持ちになる。しかも信者、子供とかお年寄りの方が多いからね。
タイトルになってる「サクラメント」とは聖餐、最後の晩餐のこと、つまり最後の集団服毒自殺の事を指してる。ここが撮りたくてこの映画作ったのかな。
昨夜、主人公たちが取材しに来て宴やってて皆元気にしてたやん何で?と思うが、アンダーソンは余裕ありそうな態度とは裏腹に疑心暗鬼に囚われているようで(ドラッグとかも常用してるみたいだし)
「取材された」→「はぐらかしたが疑われてたし色々書かれるに違いない」→「そうなると軍が捕まえに来る」→「かといってVICEを監禁したり殺したら捜索隊が来て結局軍がやってくる。だからもう詰んでいる」→「政府に捕まったり殺されるくらいなら全員で死のう」という思考回路らしい。
VICEが来て取材された直後に幹部を集めて集団自殺の準備を始めて翌朝には決行……というのは早すぎないか?それに、そんなに外部を恐れてるなら取材なんて入れなきゃいいのに。だからキャロラインが兄から寄付金をせしめたり兄も信者にするための独断なんだろうな。入れてしまったものは仕方ないから洗脳済みの信者ばかり取材させたり自分もはぐらかしたりして穏便にVICEを帰そうとした……が、あいつら疑ってるしもうダメだ!みたいな感じか?
実際の事件を調べてみたら決行の経緯は割と殆ど似た感じだった。
いや、しかし24時間たらずで集団自殺まで行っちゃうのはやっぱり急転直下すぎて変だね。自然な流れにするならラリって籠絡されたパトリックが残ることになり、しばらく経ってやっぱりパトリックを連れ戻そうぜとサムとジェイクが再訪してアンダーソンが「もうダメだ!」と決断に至る……とかそういうワンクッション欲しかった気もする。
でもまぁいいか。サムとジェイクは脱出を試みるが「理想郷」入口の警備係に銃撃されたりするが、パトリックや口がきけない少女を助けようと引き返して奮闘する。
ちょっと素人が引き返して他者を救おうとするのは危険すぎるが、サムとジェイクの正義感が異常に強い。こういう捨て身で他人を助ける強固な正義感描写は、製作総指揮のイーライ・ロスのテイストだなと思った。自作『ホステル』(2005)とか、本作同様に製作にまわって自身も俳優として出演してた『アフターショック』(2012)も異常にイーライ色が強くてイーライが演じるキャラの正義感も凄くて感動した覚えがある。本作で丸腰のサムとジェイクが銃で武装した「理想郷」に引き返すのは正にイーライ制作作品って感じした。
ここで追跡劇や殺戮が展開されるが、割とぬるい。教団側も素人なのでしょぼいしサムとジェイクも全体的に馬鹿という弱い者同士のバトルなのであまり盛り上がらない。
監督は、本当は緊迫感ある追跡とか得意そうだし、あらすじも割と現実の事件通りなのでリアルなものが作りたくてこんな感じになったのかも。だが、それならフィクションではなく実在の事件通りに70年代を舞台にして登場人物や教団名も実名にすべきで、本作のようにフィクションにするのならクライマックスではもっとエンタメ性の高いものにした方がよかったので、要は中途半端なものを感じた。
指導者アンダーソンもバケモノのような怪人物ではなく、ビジネスマンがたまたま教祖になり立場を利用してSEXやらしまくってる太ってギラギラした小狡いオッサン……という実に、観る気があまり起きなくなる嫌な感じのキャラ。
結末も書いちゃいますがサムとジェイクは意外と助かる(なお現実の取材班三人は全員銃殺されたっぽいので)。では、ついでに口がきけず虐待されてた少女だけは救出して脱出……すると思うじゃん、他のアメリカ映画なら十中八九助かってるはずだが可哀想な少女はサムとジェイクの奮闘も虚しく、娘を愛して逃がしたがってた母親がもうダメだと絶望して殺してしまうという……。
何とも嫌~な後味。母親がジェイクに預けてたら普通に助かってたというのが虚しさを募らせる。
でもタイ・ウェスト作品を色々観た今なら、可哀想な少女が更に可哀想に死んでしまう、割と助かるはずだったのによりにもよって自分はいいから娘だけ脱出させてくれと言ってた母親が殺してしまう、そしてサムとジェイクは普通に脱出。現実の取材陣は普通に殺されたんだから、それを超えたいフィクションならサムとジェイクも殺すはずだよね?いま書いてて気付いたがサムとジェイクが最後助かったのは「2人を助けたい」と思ったからではなく「母親が殺さずジェイクに任せてれば少女は助かったのに……」という後味の悪さを感じさせる、そのためだけに助けたんだなと今気づいた。作中のサムとジェイクは助かって良かったと思ってるだろうが観てる観客にしたら「現実と同じようにサムとジェイクも死んでしまう」よりも嫌な終わり方と言える。
ホラーあるある展開を微妙にズラして後に尾を引く展開させるのはタイ・ウェストっぽい良さだなぁと感じた。今思えば劇中に出てくるこの少女は、口がきけなかったり数m離れたところに立ってたりと、今思えばJホラーの幽霊みたいな撮られ方してたから最初から「死にます」と言ってたようなものか。
タイ・ウェストを意識して色々観たから気づいたわ。当時観た自分のTwitter検索してみたら「途中まで良かったけど後半つまんなかったわ」と書いてた。いや、なんなら今夜観た時も「前観たのと同様に、インタビューまでよかったけど最後イマイチだったなぁ」と思った。でも感想書いてるうちに評価が少し上がった。
というか最新の『Pearl パール』(2022)は観た人全員が傑作!と思う出来だったが、それまでのタイ・ウェスト作品は前述の良さが伝わらず過去作をネットで感想探したら殆ど駄作認定されてるもんね。
自分もそうだったからわかるけど監督が意図した後味悪くさせる終盤の展開って「◯◯が死んで残念だったなぁ」と寂しい気持ちにされるので「寂しくなった」→「つまらない」と短絡的に駄作認定してしまいがち、という事がわかってきた。で、そういった可哀想な女の子の可哀想な結末を、万人が傑作だと思うように昇華したのが『Pearl パール』(2022)のラストってわけだね。今思えば『X エックス』 (2022)に出てくるパールの切なさとか結末もそういったタイ・ウェスト的な魅力だったんだけど、まだわかりにくかった。自分もそうだが他の人や評論家とかも『X エックス』 (2022)に対しては「趣味いいし、そこそこ面白いんけど何が言いたいんだ?」とピンと来てない人が多かった。でも『Pearl パール』(2022)観たら僕も他の大勢もわかったよね、あぁこの人なんだかホラーを通して可哀想な女性のエモさを撮りたい人なんだって。
さっきまで「サクラメント再見したけど今回もイマイチだった、監督にハマってるから記事にするけど特に何も書くことないな」と思ってたけど書いてる間に理解が深まった。感想書くのって自分と会話してるようなもんだからね。ブログやってなかったら「今回もまたイマイチだった」で終わってたわ。
ますます「X」三部作完結編の『MaXXXine(原題)』 (2024)が楽しみになった。

 

 

 

 

そんな感じでした
〈他のタイ・ウェスト監督作〉
『Pearl パール』(2022)/製作&脚本もしてる主演のミア・ゴスと彼女が演じる主人公のどうしようもなさとタイ・ウェスト監督らの異常な真剣さに物凄く心が動かされた👩🏻🪓 - gock221B
『インキーパーズ』(2011)/死ぬほど低評価の何も起きないホラーだが自分には掛け替えのない一本になった変な映画。Xシリーズのタイ・ウェスト監督作品👰 - gock221B
『X エックス』 (2022)/公開時に観てピンと来なかったのだが傑作だった続編『Pearl パール』(2022)観たら思うところあったのでもっかい観て感想書き直した❌ - gock221B
『キャビン・フィーバー スプリング・フィーバー(旧題キャビン・フィーバー2)』(2009)/キモいホラー部分もそこそこ良いがタイ・ウェスト作品に期待する人間ドラマや目的のないヒロインのエモ描写がやっぱり良かった🦠 - gock221B

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The Sacrament (2013) - IMDb
The Sacrament | Rotten Tomatoes

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『キャビン・フィーバー スプリング・フィーバー(旧題キャビン・フィーバー2)』(2009)/下品系ホラー部分も良いけどタイ・ウェスト作品に期待する人間ドラマや冴えないヒロインのエモ描写がやっぱ良かった🦠


原題:Cabin Fever 2: Spring Fever 監督&原案:タイ・ウェスト 製作国:アメリカ 上映時間:86分 ※劇場未公開作品

 

 

地味に観たかったがタイ・ウェスト作品、アマプラに来てたのですぐ観た。
「X」三部作の第一作『X エックス』 (2022)は「なんか悪いけとか70年代ホラーが好きそうで趣味が良いけど面白いような面白くないのか……」という感じだったが前日譚を描いた続編『Pearl パール』(2022)が傑作すぎて、過去作が配信に入ったら観てるタイ・ウェスト監督作。今年か来年あたりに公開されるであろう完結編の『MaXXXine(原題)』(2024)は今一番楽しみな新作の一つだ。
タイ・ウェストの過去作と言えば『インキーパーズ』(2011)もまた「面白いような面白くないのか……」という内容だったが異常にエモかった。それでいてわかりやすい見せ場がなく(幽霊映画なのに幽霊が出てこず若者がダラダラしてる時間が大半)釈然としない作品なのでネットの評価はめっちゃ悪い。でも僕は凄く良いと思った。
最近アマプラを検索してたらこれがあったので早速観た。
本作の一作目はイーライ・ロス監督の長編デビュー作『キャビン・フィーバー』(2002)。これは一言で言うと田舎に来た若者たちが謎のウイルスに感染して身体がグシャグシャに崩れていくウイルス系ホラー。メインの内容よりもどっちかというと「パンケーキ!」を連呼しながらカンフーキックをスローモーションで繰り出す長髪の男児がいたり本作にも登場する不真面目な警官など、全体的に「メイン以外が面白すぎる」→「この監督面白そうだな」と一気にイーライの人気が出た(それに続いて監督したのが『ホステル』1&2なので一気に人気者になった)。
本作はその『キャビン・フィーバー』(2002)の正式な続編だがイーライ・ロスは離れているし別に続編を観たいタイプの映画じゃなかったしビデオスルーだったので僕もスルーして15年……経ったがまさかその監督の映画に感動して掘り返す事になるとはわからんもんだね。
当ブログに感想とか描いてないけど短編とかも可能な限り観てる。
V/H/S シンドロームのgockの映画レビュー・感想・評価 | Filmarks映画

本作は、アマプラでは『キャビン・フィーバー スプリング・フィーバー』 という邦題だが映画情報サイトなどでは『キャビン・フィーバー2』になっている。多分、昔DVDが出た時は『キャビン・フィーバー2』だったけど配信するにあたって邦題が変わったのだろう(細かいけど『キャビン・フィーバー2 スプリング・フィーバー』になってるサイトもある)。
こんな映画、検索するやつ殆ど居ないだろうが一応、検索に出るように記事タイトルに2つ書いておいた。
ちなみに3作目は1の前日譚『キャビン・フィーバー ペイシェント・ゼロ』(2013)、イーライ・ロスが製作総指揮&脚本を務めて一作目をリブートした『キャビン・フィーバー』(2016)というのもある。が、どちらも観てない。多分どちらも観てない。
YOUTUBEなどに比べて旧作の記事って殆ど誰も読まないので(本作のような不人気作は特に)、ほぼ虚空に向かって喋ってるような虚しさがあるが自分のために書いてるので頑張っていこう。

ネタバレあり

 

 

 

 

前作は、田舎に遊びに来た大学生の若者たちが身体が崩れ落ちるウイルスに罹って全滅する。主人公も感染して川に落ちて死んだ。

……と思ったら生きててゾンビみたいになりながらスクールバスに轢かれて『ロボコップ』の悪人みたいに粉微塵になって死んだ。
前作ラストで確かに死んでた気がするがこの粉微塵になって死ぬ華々しいオープニングのために蘇らせられて殺された感。
OPで前作の主人公の血肉がこびりついたスクールバスから運転手が感染したり、前作のウイルスがどっさり入った飲料水が学校に運ばれる様がアニメで描かれる。
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本作の主人公は前作の山の近くの高校
生徒たちは卒業間近でプロムパーティの噂をしている。
主人公は医者になるため大学進学が決まっているジョン(演:ノア・セガン)。
そのジョンが幼い頃から想いを寄せているが彼氏がいるキャシィ(演:アレクシス・ワッサー)、ジョンの親友は大柄のアレックス(演:ラスティ・ケリー)。
前半~中盤で、徐々に生徒や職員たちの中に感染し始めるものが増えていく。
主人公の親友の大柄も、振られて泣いているビッチ系女子生徒に「どしたん?話きこか」と優しく話しかけたら猛烈にオーラルセックスされる。ラッキー。しかしビッチ女生徒の口にはヘルペスみたいなものが出来ていて殺人ウイルスに感染していた。このラッキースケベによって大柄は既に死んでしまった。

ジョンはキャシィと仲がいいのだが、キャシィの暴力的な彼氏に嫉妬していつも絡まれている。だがジョンは勇気を出してキャシィをプロムに誘う。
既に何人か感染者が出始めているプロム。感染者古参のスクールバス運転手は悪ガキ達を嫌ってるのでパンチに尿を混入させる。
これによってジョンとキャシィが殺人ウイルス+ションベン入りパンチを飲む飲まないのプチスリルを演出。だがキャシィの嫌な彼氏が二人の間に割り込んできたおかげで2人は死ぬパンチを飲まずに済んだ(こんなシーンで「世の中なにが幸いするかわからんな」と考えさせられてしまった)。
それにしてもこの、北米のプロムという風習、そしてアメリカの高校生のパーティに必ず出てくるパンチという飲み物(大きいボウルに甘い粉を溶いたカラフルな飲み物?)。これどんな味なんだろ。めっちゃ甘そう。それよりもデカいボウルに入った飲み物をパーティの間じゅう放置してて、飲みたい時は柄杓のような物で掬ってコップに入れて飲む。……いやぁ、これ汚いだろ……ホコリとか小さい虫とか入りそうじゃん。
パンチを飲もうとしてキャシィの嫌な彼氏に絡まれて外に出たジョン。
追いかけてくるキャシィ。
ジョンは感情を爆発させて「僕にはわからないよ!何で君がバカなのか!君は凄くいい娘なのに、よりにもよって何であんな嫌な奴と付き合ってられるのか!」「僕が君のことをずっと昔から好きなのは周りの奴ら皆知ってるのに何で君は知らないの?バカだから!?もう僕のことは放っといてくれ!」と叫ぶ。キャシィはさめざめと泣いている。
このジョンが激怒しながらキャシィを褒めつつ激怒したまま告白する一連の流れは演技も言い回しも素晴らしい。めちゃくちゃ良い!ジョン役の青年の表情とか言い方、弱りきって聞いてるキャシィ、全て良い!
キャシィもまた自分の腕を抱いて「しく……しく……」と泣いていて凄く良い。
演じてる女優さんはあまり見かけないが今は脚本とか監督も始めてる女優らしい。凄く特徴的な、美人なんだかそうでないのか曖昧なそれでいて奇妙な愛らしさのあるルックスをしている。そしてこのキャシィというキャラも「優しくてお人好しで……しかし嫌な奴と付き合ってる女子」という絶妙なキャラ。
成績優秀なジョンに「貴方が医者になってこの町に帰ってきたら皆、太って子育てしてるわ。私には特に目的もない。私の彼氏もきっと貴方が羨ましくて焦って意地悪してるんだと思う」とか言う。ジョンはキャシィの事が好きだがキャシィの方は、ジョンに置いていかれると思ってる女の子なのだ。
ジョンの怒りと泣きが入った告白をしくしく泣いてるキャシィを見てると、しょうもないエログロホラーのステレオタイプなキャラを超えて、何だか自分の幼馴染かのような人間味を感じてキャシィが愛おしくなってくる。
『インキーパーズ』(2011)のヒロインも割と似たタイプのキャラだった(可愛いのかそうでないのかよくわからないルックスの、目的がない儚い凡人の女子)。『インキーパーズ』(2011)のヒロインも好きだったな。『Pearl パール』(2022)のパールも殺人鬼ながら、薄幸どんづまり少女って感じで凄く心を揺さぶられた。何かタイ・ウェストの描く凡人の女の子キャラはツボに深く刺さりますわ。

……といっても本作はそんな風に人間ドラマを観るものじゃなくて全編、SEXと血と爛れる皮膚とチンコとゲロとションベンと堕胎……そんなのばっかりのエログロホラーなのだが。でも個人的にこの監督の人間ドラマやキャラクター造形は凄く刺さる。
このシリーズの本来の楽しみ方は、思春期の生々しい「生」と色んな気持ち悪い描写をシンクロして描くのがこのシリーズだからね。
タイ・ウェスト作品にはカッコいい映像とかホラー演出もそうだが、こういう人生うまくいかないやりきれなさを感じるタイプのエモさを求めてるので、このシーンで割と元は取れた気がする。
しかしスーツを着た政府のエージェントがジョンとキャシィを高校へと送り返す。政府は、学園の者は全員がウイルスに罹患したと見て、全員を校舎に閉じ込め、逃げるものは射殺して全員見殺しにするつもりなのだ。
ジョンとキャシィは大柄アレックスと合流し脱出しようとする。
プロムのパーティ会場は全員発症して血の池地獄になっている。
そんで前半のラッキースケベのせいで発症したアレックスとか、ジョンの過剰な治療法とか、キャシィの嫌な彼氏との決着とか色々ありつつ映画は終わる。
前作にも出てた声の高い不真面目警官は本作にも全編出ており、上手く使われている。
しかしジョンの過剰な治療法は、結局失血により逃げられなくなるし恐らくキャシィも罹患したであろうし、やんない方がよかったよね……。
色々下品に振り切ったメインのホラー部分は悪くないが、さすがにイーライの『キャビン・フィーバー』(2002)の方がいいかな?
自分的にはタイ・ウェストっぽいエモ描写&行き止まり系凡人ヒロインを期待して観たので、割と観たかったものはジョンとキャシィの言い合いのところで満足して後はオマケって感じだったが……この監督、Xシリーズ終わったらホラー以外の映画を観てみたいかも?

他のアマプラにあるタイ・ウェスト作品『サクラメント 死の楽園』『ゼム』を観るか、次は。

 

 

 

そんな感じでした
〈タイ・ウェスト監督作品〉
『Pearl パール』(2022)/製作&脚本もしてる主演のミア・ゴスと彼女が演じる主人公のどうしようもなさとタイ・ウェスト監督らの異常な真剣さに物凄く心が動かされた👩🏻🪓 - gock221B
『インキーパーズ』(2011)/死ぬほど低評価の何も起きないホラーだが自分には掛け替えのない一本になった変な映画。Xシリーズのタイ・ウェスト監督作品👰 - gock221B
『X エックス』 (2022)/公開時に観てピンと来なかったのだが傑作だった続編『Pearl パール』(2022)観たら思うところあったのでもっかい観て感想書き直した❌ - gock221B
『サクラメント 死の楽園』(2013)/前回観た時パッとしなかったがタイ・ウェストにハマって再見してもやはりイマイチだったが感想書いてる間に良さに一つ気付いて少し評価上がった。今回もまた本題以外の可哀想な少女で演出してた感🥤 - gock221B

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Amazon.co.jp: キャビン・フィーバー スプリング・フィーバーを観る | Prime Video

Cabin Fever 2: Spring Fever (2009) - IMDb
Cabin Fever 2: Spring Fever | Rotten Tomatoes

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