はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

壁に現れた痕跡

最近気になっている鉄道高架下の歩道を囲むコンクリート擁壁。ここにはさまざまな痕跡が積層して現れており、訪れるたびに新たな魅力が発見できる。

擁壁の天端に降った雨が描く縦ライン、壁面への落書きに上書きした塗料の重なり、生乾きのペンキが重力によってタレた筋、舗装の隙間から生えた力強い雑草、それが風に揺れて壁面の汚れを拭いて生まれた円弧。

ひとつひとつの現象を鑑賞しても楽しいのだが、それらの関係性に着目しながら総体を眺めると、人工環境の中で生じる豊かな自然現象を堪能できる。ただ、これらの痕跡をじっくり味わう姿は少々不審に思われるようで、通行人にじろじろ見られることもある。

被災地メモ

先日射水市を訪れた晩は、富山に来たというのに訳あって広島風お好み焼きを食べた。その店のカウンターで隣にいた地元の方と楽しくお話しした際に、すぐ近くに地震による液状化の被害が出たエリアがあるということを伺ったので、翌日訪れることにした。

そこに行ってみると、砂が噴出した痕跡、浮き上がったマンホール、クラックを補修した舗装、ひび割れたコンクリートの基礎、斜めに傾いた電柱、応急危険度判定の赤い貼り紙などが散見された。被災地の現実を目の当たりにした。

路上でおじさんがこちらの様子を伺っていたので、おそるおそる話しかけてみた。最初は警戒されていたが、徐々に打ち解けて、いろんなお話をしてくださった。輪島や氷見などに比べればたいしたことはないと言いつつも、生活環境が大きく変わってしまったこと、近所の仲間の多くはこの場所を離れてしまっていること、今後の見通しがなかなか見えないことなど、図らずもリアルな被災状況を知ることができた。

住環境はもちろんだが、なりわいの形に大きなダメージが生じることで、人口が流出してしまい、街の風景が大きく変わる。今回の旅行でも、あらためてその事実を実感した。できれば目を背けていたいという気分もあるが、風景の変化のスピードやスケールが大きい時こそ、さまざまな事象をしっかり観察しなければならないよね。

内川再訪

先月の初め頃、富山県射水市に根ざしてまちづくりを実践している十年来の友人夫妻より、彼らの会社が運営している古民家一棟貸し宿に遊びに来ないかとお誘いいただいた。どうやら能登地震の影響で、富山の観光業もコロナ禍よりも深刻な状況になっている様子。関東ではなかなか富山の情報が入りにくく心配していたところだったので、そそくさとスケジュール調整に取りかかり、ようやく先週訪問することができた。

高い質感のリノベーションで強いこだわりを具現化した宿は、とても居心地がよかった。それに加えて、街並みが素晴らしい。いまも漁船が係留している内川には、独特な港町の雰囲気が色濃く漂っている。このエリアを歩き回ってみると小洒落たショップやカフェなどがいくつも目に入り、十年前に訪れた時よりも少し雰囲気が明るくなった気がする。

思い起こせば2013年、観光庁経由で富山県のプロジェクトに参加した際にこの地を何度か訪れた。そのプロジェクトの縁が連鎖して、開業したばかりのカフェで前述の彼にはじめてお会いし、将来のビジョンを伺うことができた。今回の旅では、そのときのイメージが着実に実現していることを確認できた。本当に素晴らしい。

もちろんまちづくりには、さまざまな構造的問題もある。たとえば高齢化、産業構造の変化、各種法令の壁、住民同士のスタンスの違いなど、枚挙にいとまがない。実際に、印象に残っていた街路がすっかりなくなっていたり、空き区画が増えていたり、どこの地域にもある建材を用いた住宅に置き換わっていたりとか、この街並みの魅力を引き下げる方向の事象も多々生じていた。それだけに、彼らの活動の継続性は極めて大きな価値がある。

そんなわけで、これからも富山を含む北陸に行こう。