はみだしっ子を発達障害の視点で再読する 番外編「ロングアゴー」

  • ロングアゴーは、はみだしっ子シリーズの番外編になる作品です。

はみ出しっ子養子編は、かなり込み入った話になってくるので、先にこちらを書こうと思います。理由は、後半に・・・

 

話はグレアム達4人をまとめて養子に引き取った医者ジャックの子供時代を描いたものですが、物語の進行はジャックに人生を狂わされた友人、ロナルドの視点で描かれてい

ます。はみ出しっ子とは、地続きの話ですが、これだけで話は完結していますので、手に取りやすい作品かと思います。

まあ、内容は相変わらずみっちりと詰まっていますので、ライトとは言い難いですが(笑)

 

 「ロングアゴー Ⅰ」

 

話はロナルドか11歳の時、学校から飛び級を勧められ、年齢よりも2つ上の学年にあげる事を両親が決めるところから始まります。

ロナルドは、上に3人姉妹がいる末っ子の弟。使用人がいるような裕福な家庭で、おっとりとした母親に溺愛されて育つ。子供の頃病弱だったので、学校にはあまり行かず、家の中で大人に囲まれて過ごす事が多かった。そのせいか、どんな人間にも表裏があって自分の損得で動くものだと達観してる可愛げのない子供。そしてそ当然そういう本性は、学校では隠している。

だから、飛び級をしたクラスで、自分の安全を確保する為にまず最初にする事は用心棒探し。飛び級をしてきた子を目障りだといじめる奴らから、自分を守ってもらうために、正義漢ぶる人材と仲良しになっておくことである。そして、早速彼の予測通りにヒューというクラスメイトに目の敵にされてしまうが、ウォルターという用心棒をゲットする。
その後ロナルドは、ヒューの得意科目をそれとなく調べ、その科目中心に勉強。ヒューよりも良い成績を取って見返すという、かなり陰険な仕返しをすることが趣味・・性格最悪なヤツである。
ちなみに飛び級はしていたが、天才肌とかではなく、単純にお勉強が好きなガリ勉タイプ。

ある日、クラスで事件が起きる。

ジョージという普段はあまり成績がよくない子のテストの結果が良かったのを、教師が「カンニングをしたのでは?」と、授業中他の生徒の前で聞いたのだ。当然、ジョージは否定。教師は、実力であれば再試験を受けても同じ点が取れるだろうと、再試験を受けるように伝える。すると、それを聞いてたひとりの生徒が先生に異議を唱えた。それがジャックだった。
ジャックは、ジョージが否定してる以上、先生がそれを疑うのが間違ってると主張し、一歩もひかない。教師もジャックの真っ当すぎる主張を論破することができず、収拾がつかない・・ここで、ロナルド、吐き気がすると倒れる。まあ、仮病なんですけどね(笑)
そのおかげで、教師はその場から逃げることができて、その後はうやむやになる。
今まで何でも損得勘定で考えてきたロナルドにとっては、ジャックの行動は理解しがたいことだった。自分の事でもないのに、何故教師に盾つくのかと。
ロナルドは、理解できない彼には関わらないでおこうと思ったのだが。

その後、例のヒューの得意科目のテストの結果が出る日に、用心棒のウォルターが学校を長期で休むことになり。ロナルドにトップの成績をとられ、やっかみでヒューに絡まれそうになった時、ジャックを助けてもらうハメになってしまったことがきっかけで、なんとなくジャックと付き合うようになっていく。

ジャックは、端的に言えば正しい人である。決められたルールは、どんな理由があろうと、どんな時にも、どんな人でも、守るべきだと主張するのだ。
そしてみんなが嫌がることも、誰かがしなくていけないと率先して行動する。彼の行動には、裏というものがない。
そして見えないものは理解できないし、はっきり言われないと全く気づかない。ロナルドとは真逆、鈍感な性格。
しかも口より先に手が出るし、怒りっぽいし・・こちらもかなりめんどくさいヤツである。
だが、誰とでも分け隔てなく付き合うので、周囲に友人は多くいる。ロナルド曰く、気が利かないジャックの尻拭いをするかのように、周囲に神経の細やかな友人が多いと。

ロナルドは、そんなジャックと付き合いが深まるごとに、いらつきながらも、何故か彼の事が気になって仕方がなくなってしまう。

そんな時、前回カンニングを疑われたジョージのカンニングがバレてしまう。今度は明白な証拠があった。ジョージは教室から退席。教師がジャックに向かって「何か言いたいことはあるか?」と言う。ジャックは「ありません」と言うが、クラスメイトが口々にやっぱりそうだったとざわついたら「前回やったと本人が認めてる訳でないし、本人がいない所で決めつけるのは卑怯だ」と言い放ち、自分は信じると言う。
ロナルドは、ジョージに「前回疑われたので、やってしまったと言え」と詰め寄る。ジャックが信じているのだから、事実とは関係なくそう言えと。
その後、ロナルド、初めての殴り合いのケンカに参戦。

これがふたりの腐れ縁の始まりの話。

 

「ロングアゴー Ⅱ」

 

ジャックとロナルドが付き合いがいつまで続くのか、クラスの中でも興味(賭け)の対象になるくらい、ふたりが友人でいることが不思議な現象だったが、何故か付き合いは継続していて、お互いの自宅に出向いたりもしていた。
Ⅰに、ロナルドの自宅にジャックが行った時、ロナルドの母親とのシーンがあったのだが。
おっとりさんの母親が、可愛がってる子犬と一緒にジャックに挨拶に行った時

「ボクは、何もできないくせに媚びを売って生きてるようなのには、腹がたって。可愛いだけで何もできないくせに」と、突然言うジャック。
ロナルドの母親は、怒りもせずに「でもこの子たちは、何ももっていないから、可愛い姿で媚びを売っているのよ・・・もしそれでも、許せないと言うのなら、代わりにこの子達に、何かくださるのかしら?この子たちだって、生きていたいと思うのよ」と。

そして後日、ジャックがロナルドの母親に「先日、僕は子犬の事を罵りましたが、あんな風に言ってしまうのは卑怯なやり方でした。僕が彼らを嫌う理由は、ぼくも媚びを売ったことがあり、けれど失敗してしまったのに、彼らは成功しているからです」と。
その後、少々わかりづらいが、自分の事を好きになれない的な話もして。

ロナルドの家は、付き合う友人も保護者や親戚がチェックする由緒正しいお家柄のようで。当然、粗暴なジャックと付き合うことは、歓迎されなかった。特に上の姉ふたりがジャックの素行調査をした結果を見て、快く思ってはいなかった。ロナルドの姉は、いつも優しい長女アニタ。冷静でしっかりものの次女のモーリン。三女のミリアムとは、年齢が近いので、昔から喧嘩が絶えない仲。
Ⅱでは、ミリアムを中心とある事件が起きるのだが、話が複雑になるので割愛。

ジャックの家庭は、彼にとって居心地がよい場所ではなかったようで。ロナルドが訪問した際に、母親は彼に失礼を発言をするような人で、ジャックに何か変化があったとしても、気づくような人はなかったようだ。
ジャックの家族は、全員絵としては描かれていない。唯一描かれていたのは、愛犬のアーサー(笑)
父親は会社経営をしていて、いずれば子供たちに会社を継がせたいと思っている。とても優秀な兄がいて、ジャックとは喧嘩が絶えない。

 

その後、ロナルドの姉達が心配していたことは、ジャックは子供の頃に誘拐事件に巻き込まれ、その後、学校を1年休学していたという事がわかる。
犯人はジャックの家庭教師で、ジャックは犯人の事をとても好きだった。だから自分からついていき、そして裏切られたと。
そして学校に行きたくなくなったので1年休学。結局、ロナルドとは3歳違いだったのだ。

ロナルドは、血縁の中でも一番のうるさ方である大叔母の友人チェックを何とかやり過ごして、ジャックとの付き合いを認めてもらおうと、裏工作しまくる、だか結局は徒労に終わり。でもジャックの事は、いろいろあって、家族公認の友人として認めてもらえることになる。

 

「ロングアゴー Ⅲ」

 

ロナルドに、ジャックから手紙が届くところから始まる。それは、ジャックの大学進学と同時に自宅を出たことを伝える手紙だった。

ジャックは医者になる為に医学部に入学。家族とは、その時点で縁を切った形になる。
大学の入学金と授業料は、ジャックの血縁で唯一の味方だったフレッドおじさんが出してくれるが、大学に通ってる期間の生活費は、自分で稼ぐ為に、まずは1年休学しバイトをしてお金をためてから、次の年から医学部に通う事になった。
フレッドおじさんは、多分、ジャックにとって唯一といっていい血縁の中の理解者で、子供の頃から、いろんなところに連れていってもらったりして、ジャックの事を可愛がっていたようだ。例え親と折り合いが悪くても、たったひとりでも自分の事を理解してくれる存在がいるだけで、何とかなることがある。

そして次の年。卒業したロナルドも、自宅を出て同じ医学部に通う事になり(笑)その後、ふたりとも医師になる。

その後、ロナルドは早々に結婚。そして彼女の自宅に遊びにきていた友人の中に、何故か懐かく感じてしまうひとりの女性に目が止まる。
ロナルド曰く「無神経すれすれの無邪気さと逞しさ」を持ってる、まるでロナルドの母親そっくりだと気づいた時点で、ジャックに引き合わせ(笑)
それが、ジャックと結婚することになるパムだった。

結婚後、医者の仕事も順調で、パムが妊娠。
ところがある日、大きな交通事故が起き、ジャックの勤務している病院には、たくさんの怪我人が運ばれてきて、その中にジャックの友人の息子も巻き込まれていた。その子は、到着した時既に手遅れの状況で、より助かる可能性がある人が優先されそのまま亡くなってしまった。友人はジャックに詰め寄り「お前は、オレの息子だとに気づいていたのか?」と聞かれ、ジャックは正直に「そうだ」と答えてしまう。
その後、その怒りが止まらないその友人はジャックの自宅に行き・・・その結果、パムは流産。子供は産めない身体になってしまう。

ジャックが「もしもオレが・・・」と言いかける。ロナルドは、お前がそれを言うのか?と。


その後、ロナルド夫婦に娘が生まれ、それを見るのが辛いだろうと、ジャックは別の町への引っ越しを決める。
ジャックは落ち着いたら養子をもらおうと思ってると、とんでもない条件を言い(笑)

その後、本当にとんでもない4人を子供たちを養子として引き取ることになります。

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何故ロングアゴーについて、書こうと思ったかと言うと、以前からロングアゴーは、はみだしっ子の最終回の補足だと感じていたからです。

そういう風に感じたシーンが、パムが流産した後の、ロナルドとジャックのシーン。ロナルドがジャックを励まそうするが、いつも家族や友人に何かにつけ守られてきたロナルドには、慰め方などわかる筈がないと気づく。

 「余程の事がない限り、この世では見事な逆転劇などには、お目にかかれないという事か?

オレは、見たことがない。役割通りに、生きてる人達しか、どうしても思い出せない。

それは多分、種子の時から与えられる土地が決まってしまっている様に。

鳥が玉子からかえる以前から、鳥であることを定められているように

鳥が鳥であるように」

 

私が、はみだしっ子を再読して強く感じたこと。

世の中には、平等などというのもは存在しない。どんな環境に産まれおち、育つかによって、その後の人生の大枠が決まり、そしてそれは死ぬまで続く。

この不条理な真理につきるのだと思う。ただ…経験、努力、意思、教育…。様々な経験で、人は変われる事もあるよと、ものすごく小さな声で言ってるようにも感じる。実際には、社会の仕組みの中で変われる人も多い。でも、変われない人の視点で描かれているように感じた。

ただ!

正しくないことが大嫌いなジャックが、親になり、子ども達に平等に関して質問するシーンがある。はみだしっ子の中で多分一番有名な、ジャックの橋の下の話である。

 

法の倫理 - 三原順「橋の下のたとえ話」(岸本元さんによる連ツイを中心に) - Togetterまとめ http://togetter.com/li/777083 @togetter_jpさんから

 

社会の仕組みの中で何が正解なのか判断するのは、そう単純なものではないと、オトナになったジャックは知っている。

そして、慰め方を知らないと言ってたロナルドは、子どもたちの相談に乗ったり仲裁したり。生きていく事さえ継続していば、様々な影響を受けながら変わっていけるのだ。

でも性格は、変わらないかなぁ?(笑)

 

子供を亡くした友人も、ジャックの性格をもっと深く知っていたら、パムを傷つける行為にまでは至らなかったかもしれない。相手の事をよく知る事で、親しくなれたり、この人とは距離を置いたほうがいいと感じたりできる。

 

人生は不公平で、不条理。そんな絶望的な話なのに、何故こんなに惹かれる人が多いのだろう。それは多分、読み終わった後に

「で?あなたは、どういう生き方をするの?」

と問われるように感じるからなんだろう。でも、その答えを出そうとすればするほど、わからなくなる。で、また読み返す。

ああ、まるで底なし沼のよう。

私にとっては、ホンモノの聖書(バイブル)なのだと思います。

 

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トリアージ

人は平等ではない