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川上未映子「こんなときには、これを読むのよ!」毎月第1・3木曜日更新、『honto+』連動連載

川上未映子さんが、独特な世界観のテーマで「こんなときに読みたい本」を推薦!毎月発行『honto+』の連載を飛び出し、hontoサイトで毎週木曜に更新します。どんなテーマで、どんな本が、登場するのか、新たな本との出逢いをお楽しみに!!

川上未映子さんトークショーイベントレポートはこちら!

2014.12.18(Thu.) up date

眠りに落ちる瞬間に、ふと甦ってくるあの感覚。それが何なのかを説明することはできないけれど、でもわたし、それのこと本当によく知ってるの──これはまるでもうひとつの記憶だとしか言いようのない永遠のイノセンス本!

 並んだタイトルを眺めるだけでもう、こみあげる何かがある。匂い立つ色がみえる。
 ここに流れているのは、もしかしたら性のない時間、子どもの時間なのかもしれないなあ。もちろん大島弓子の描く人物たちには恋愛に胸を悩ます思春期まっさかりの少年少女がたくさんいるし、武田百合子さんだって大人だし、『たけくらべ』の美登利だってそれとは気づかなくても恋をする。
 けれども、みんなやっぱり、性がないのだ。人間をその人生でずいぶん長いあいだ苦しめたり、ときには至福のあれこれをくれたりする性というものに支配されるまえの世界の彼らは住人たちで、そこではみんなが「未性」を生きているのだと思う。
 大人になった今ではもう失ってしまったものばかりが、いま生まれたばかりのような輝きと生命力でもって、ときに静かに、ときに弾みながら息づいてる。ページをひらいて、そこにある絵や言葉を胸にうつせば、いつだってその感覚を生き直すことができるんだって思わせてくれます。
 『大島弓子セレクション』には代表作である『バナナブレッドのプディング』や『ダイエット』も収録されていて(ほか、すべての作品が絶品です)、初めての人も懐かしいなっていう人にもとてもおすすめ。『たけくらべ』は擬古文で書かれた原文に挫折した人、でも一度は読んでみたいと思う人にうってつけ。松浦理英子さんが句読点の位置と数を変えずに、原文の雰囲気をそのまま残し、わたしたちがすらすら読める現代語に翻訳してくれています。『日日雑記』は『富士日記』で有名な武田百合子さんがひとりになってからの生活を綴った本で、今でもどこかで百合子さんがこんなふうに生きているんじゃないかと本気で思ってしまいます。わたしにとって、とても大切な本たちです。

2014.12.4(Thu.) up date

最近わたし、「本当のこと!」とか、「なぜ!」とか「どうして!」とか、そういうのまるっと無かったことにして生きてるなあ……って遠い目をして、しんみりしたときに読みたい本!!

 たとえば、なぜ人を殺してはいけないか、という「なぜころ問題」がいっときたいそう流行りました。専門家からお茶の間まで、色々な意見や回答があふれ、それはもちろん今も昔も重要かつ有効な問いなのだけれど、しかし「本当のこと」というのは常に危険を孕むものであり、社会の恩恵に与っている「人」という存在には、言えないこともあるのです。しかし、人間社会のルールを共有していない動物たちなら、どうでしょうか。このみっつの作品は、動物を語り手にすることで、わたしたちには言いにくい、見つめにくいものをさらりと目のまえに差し出してくれます。
 『子どものための哲学対話』は、猫のペネトレが主人公で、少年の「ぼく」との対話ですすんでゆく本です。「なぜころ問題」はもちろん、「しあわせとは何か」、「人は何のために生まれてきたのか」、「死んだらどうなるの」などなど挙げればきりがないけれど、いつかどこかで考えたことのある40の疑問について、そのへんの大人ならぜったいに言わないだろう、「本当のこと」について話してくれます。『吾輩は猫である』は、もう説明がいらないほど有名な小説ですが、こちらも猫の目を通して社会や人間のあり方の機微を明らかにしてゆきます。そして『雪の練習生』は、なんとシロクマが主人公です。シロクマの親子三代が生きた、それぞれの社会背景と生活を串刺しにしながら、言葉を獲得してゆく過程、サーカスでのできごと、などをとおして、この小説を読むことでしかふれることはなかっただろう世界が鮮やかに広がります。

PROFILE

川上未映子(かわかみ・みえこ)

  • 1976年、大阪府生まれ。
  • 2007年、デビュー小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』(講談社)が芥川龍之介賞候補に。早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。
  • 2008年、小説『乳と卵』(文藝春秋)で第138回芥川賞を受賞。
  • 2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』(青土社)で中原中也賞受賞。
  • 小説『ヘヴン』(講談社)で芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞受賞。初出演の映画『パンドラの匣』でキネマ旬報新人女優賞を受賞。

著書に『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』(講談社)、『ぜんぶの後に残るもの』(新潮社)、『すべて真夜中の恋人たち』(講談社)など。

川上未映子の本を読む

▼連載中!『honto+(ホントプラス)』無料配信中
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▼最新作『きみは赤ちゃん』インタビュー&おすすめ本、公開中
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honto×Hellosmile cafe公開収録トークショー イベントレポート

妊娠・出産・子育ての過程を描いて大好評、エッセイ『きみは赤ちゃん』が広く読まれている川上未映子さんが、体験型ショールーム「ドットDNP」のイベントスペースに登場!ママやちびっ子たちもたくさん集まった会場で、たっぷり語っていただきました。

-『きみは赤ちゃん』では、妊娠・出産・子育ての日々をキラキラな文章で綴っています。小さいころから才能きらめく人だった?

 いえとんでもない、何をやってもだらしがなくて。ただ、「なぜ? なんで?」が多い子ではありましたね。たとえば、なんで唾は口のなかにあると平気で飲み込めるのに、外に出ると汚いことになるんだろうとか。「調子の乗るな」と言われると、〝ちょうし〟という建物でもあってそこに乗っちゃだめなのかと空想したり。おとなが「そんな心持ちがする」と言うのを聞けば、それはどんなお餅だろうと考えたり。
いま、子どもと話していると、そういう気持ちや思考が甦ってきて楽しいし、ホッとしますね。

-妊娠・出産・子育てを体験すると、自身の体の変化も大きいと思います。現在の体調は?

 息子はいま2歳半です。最近ようやく治まってきたんですけど、夜泣きがずいぶん長引いて、私も眠れない日々が続いていたのはつらかった。睡眠がとれると楽になるし、余裕が出てきますね。
あとは最近、サプリを飲むようになって体調が整いました。クエン酸と鉄分と、ビタミンBを摂っています。アンチエイジングにもなっていいですよ。

-子どもができてから、何がいちばん大きく変化しましたか。

 すべてが変わったといっていいでしょうね。これまでの人生とは別の、もうひとつの人生ができた感じ。でも、実際の自分はひとりしかいないから、たいへんなことになるんです。子育てはあるけれど仕事もある。子どもを通してできた新しい人間関係もあれば、これまでの人間関係だってもちろんある、という感じで。
最初のころ、両立させるのはほんとうに難しかった。でも、2年もたつと、自分のふたつの人生がうまく混じり合うポイントがあることもわかってきました。1歳くらいのときは、子どもを連れてお出かけや旅行なんて無理だとおもっていたけれど、やってみると何とかなるもの。思い切って行ってみれば問題なくて、すごい達成感がありました。
自分で勝手に限界を設けていたんですね。子どもはすぐ成長しますから、いっしょにできること、行けるところはどんどん増えていきますよ。乳児のころは自分が社会や周囲から取り残されて、断絶していると感じるお母さんたちも多いのかもしれませんけど、心配しなくてだいじょうぶ。2年くらい授乳と自分の好きなことだけして、それ以外は何もしなくたって、まったく問題ないですよ。

-出産を経ると、「おんな」という生きものを強く意識するのでは?

 そうですね。子どもを連れて実家に行くと、すごく楽なんですよね。母と姉がいるので、完全に育児を共有できて、体が3つある感じがします。男性の場合、どれだけがんばってくれたとしても、育児が身体化されていない部分がどうしてもありますから。育児をしていると、世界が女性だけだったらいいのにとすら考えるときがありますよ。
出産や育児の時期って、女性という存在を特別なものとして受け止められますね。しかも子どもとかかわるこの体験は、自分の母も、遡って明治時代や、もっと前の時代の母親だって、みんなが経てきたもの。自分の体験が、過去にも未来にもずっとつながっていくと実感できるなんて、すばらしいことだと心から思います。

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