2024年4月22日月曜日

●月曜日の一句〔坪内稔典〕相子智恵



相子智恵






今午前十時三分チューリップ  坪内稔典

句集『リスボンの窓』(2024.3 ふらんす堂)所収

時間とチューリップだけが置かれた句。〈今午前十時三分〉という時間設定がなかなかである。まず、午前午後も含めてきっかりと今の時刻を描きこんだことで、時間に敏感になる平日を想像する。チューリップが咲く、年度初めの忙しい頃だ。

そして、〈午前十時三分〉というオンタイムに、たぶん晴れていて、チューリップがよく見える場所。例えば公園の花壇など……で、チューリップを眺めていられる人というのは、ビルの中で働く人や学業にいそしむ人などは、自然と想像から省かれるわけで、それだけで不思議とのんびりした気分が出てくる。リタイアして時間に余裕のある人か、あるいはちょっと「さぼり」の気分がある感じ。

さらに掲句の音、「ジュージサンプン/チューリップ」あたりの口が喜ぶ語呂のよさは、無造作なようで実はよく練られたものである。

偶然性を喜び、技巧を凝らさないようでいて、読者に与える印象は作者としてしっかり構築している。こういう「抜け感」(ファッション誌でいうところの、気取らずにリラックスした雰囲気を感じさせる、余裕のある洋服の着こなしのこと)のつくり方が、いつも見事な作者だと思う。

 

2024年4月21日日曜日

●川柳関連記事リンク集 その2 『週刊俳句』誌上における

川柳関連記事リンク集 その2
『週刊俳句』誌上における


飯島章友 川柳はストリートファイトである 第412号2015年3月15日

飯島章友 何度も反す八月の砂時計 1 第488号 2016年8月28日

飯島章友 何度も反す八月の砂時計2 第489号 2016年9月4日

小池正博に出逢うセーレン・オービエ・キルケゴール、あるいは二人(+1+1+1+n+…)でする草刈り 柳本々々 第403号 2015年1月11日

俳句/川柳を足から読む ホモ・サピエンスのための四つん這い入門(或いはカーニバルとしてのバレンタイン・メリイ・クリスマス) 柳本々々 第408号 2015年2月15日


恋するわかめ、或いはわかめの不可能性について 川柳はときどき恋をしている 柳本々々 第451号 2015年12月13日

あとがきの冒険 第17回 会える・ときに・会える 時実新子『新子流川柳入門』のあとがき 柳本々々 第503号 2016年12月11日

あとがきの冒険 第20回 斡旋・素手・黒板 樋口由紀子『川柳×薔薇』のあとがき 柳本々々 第509号 2017年1月22日

あとがきの冒険 第23回 って・途中・そ なかはられいこ『大人になるまでに読みたい15歳の短歌・俳句・川柳 ③なやみと力』のあとがき 柳本々々 第512号 2017年2月12日
ことばの原型を思い出す午後 飯島章友の川柳における〈生命の風景〉について 小津夜景 第510号 2017年1月29日

八上桐子『hibi』を読む 三島ゆかり 第828号 2023年3月5日

川合大祐川柳句集『スロー・リバー』を読む 三島ゆかり 第832号 2023年4月2日

【柳誌を読む】『川柳ねじまき』第2号(2015年12月20日) 西原天気 第455号 2016年1月10日

非-意味とテクスチャー 八上桐子の川柳 西原天気 第828号 2023年3月5日

特集 柳×俳 第383号 2014年8月24日

柳俳合同誌上句会2020 

柳俳合同誌上句会2022

2024年4月20日土曜日

●川柳関連記事リンク集 その1 『週刊俳句』誌上における

川柳関連記事リンク集 その1
『週刊俳句』誌上における


柳×俳 7×7 樋口由紀子×齋藤朝比古 第6号 2007年6月3日

「水」のあと 齋藤朝比古×樋口由紀子 第7号 2007年6月10日

柳×俳 7×7 「水に浮く」「水すべて」を読む 上田信治×西原天気 第7号 2007年6月10日

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柳×俳 7×7 小池正博×仲寒蝉 第8号 2007年6月17日

「悪」のあと 仲 寒蝉×小池正博 第9号 2007年6月24日

柳×俳 7×7 「金曜の悪」「絢爛の悪」を読む 島田牙城×上田信治 第9号 2007年6月24日

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柳×俳 7×7 なかはられいこ×大石雄鬼 第16号 2007年8月12日

 「愛」のあと 大石雄鬼×なかはられいこ 第17号 2007年8月19日
https://weekly-haiku.blogspot.com/2007/08/blog-post_19.html

 第16号・柳×俳 7×7 「二秒後の空と犬」「裸で寝る」を読む(上)遠藤治・西原天気 第17号 2007年8月19日

同(下)遠藤治・西原天気 第 18号 2007年8月26日

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川柳 「バックストローク」まるごとプロデュース号 第150号 2010年3月7日


〔週俳3月の俳句・川柳を読む〕穴について 斉藤齋藤 第156号 2010年4月18日

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爽快、「理解不能で面白い」という感じ方。樋口由紀子『川柳×薔薇』を読む 山田耕司 第213号 2011年5月22日

親切で誠実な批評 樋口由紀子『川柳×薔薇』を読む 西原天気 第251号 2012年2月12日

川柳という対岸 『バックストローク』最終号を読む 西原天気 第242号 2011年12月11日

川柳大会の選句をしました 西原天気 第399号 2014年12月14日

2024年4月19日金曜日

●金曜日の川柳〔竹井紫乙〕樋口由紀子



樋口由紀子





両足がつった場合のセロテープ

竹井紫乙(たけい・しおと)

同じテープだけれど「テーピングテープ」では?とまず思ってしまった。川柳は事実を書くものだけではないから、もちろんかまわないけれど、軽く心地よく裏切られる。「セロテープ」を入れることのよって、「テーピングテープ」が飛んでいく。「テーピングテープ」が抜けることによって、「セロテープ」が浮き上がってくる。

「セロテープ」のどことない寄る辺なさが意外なほどの存在感を発揮する。なぜ、「両足がつった場合」なのかは謎だが、言葉の綾を活用して、言葉を動かすおもしろさがある。文脈の中で生じる意味を楽しみたい。

2024年4月17日水曜日

●西鶴ざんまい 番外篇21 浅沼璞



西鶴ざんまい 番外篇20
 
浅沼璞
 
 
開催前から話題の「大吉原展」(3/26~5/19 東京藝大美術館)を観てきました。

 
三都の遊里(嶋原・新町・吉原)のうち、西鶴と最も縁のうすい吉原とはいえ、17世紀後半の展示作品には、浮世草子を彷彿とさせるものが多く、興味が尽きませんでした。以下、大判300頁超えの大部な図録を参照しつつ綴ります。


まず目をひいたのが菱川師宣。『好色一代男』江戸・海賊版の挿絵を描いた師宣ですが、その『江戸雀』(1677年)は江戸で刊行された最古の地誌との由。見開きの挿絵「よしはら」では、あの「見返り美人図」の原型の如き太夫の道中姿(ほぼ四頭身)が、俯瞰的な構図で描かれていました。

 
つぎに目をひいたのが衣裳人形の「遊里通い」(大尽・中居・奴)です。衣裳人形とは、〈木彫胡粉仕上げの体躯に人間の着物と同様の布帛(ふはく)で衣服をつくって着せた人形で、なかでも同時代の遊里や芝居を主題としたものは「浮世人形」と称されて天和・貞享の頃(十七世紀後期)から技巧化がすすみ、大人が鑑賞愛玩する人形として発展した〉ものだそうです。

とりわけ大尽の若侍は、一代男・世之介を思わせる粋な優男の風情でした。

 
そして英一蝶「吉原風俗図巻」(1703年頃)。一蝶は江戸蕉門の俳諧師にして吉原の幇間でもあった浮世絵師。遊里でのトラブルから三宅島配流の刑に処せられ、その配流時代にかつての遊興を思い出して描いた肉筆画がこれで、師宣作品や「浮世人形」と同じく、17世紀後期の遊里のフレバーが漂います。

そんな一蝶(俳号は曉雲)の花の句を一句あげましょう。

 花に来てあはせはをりの盛かな   『其袋』(1690年)

さてラスト、時代は下りますが、花つながりで喜多川歌麿「吉原の花」(1793年頃)。「深川の雪」「品川の月」とあわせ、最大級の肉筆画として知られる三部作で、海外からの里帰り作品。思えば七年ほど前、箱根・岡田美術館で「深川の雪」「吉原の花」が138年ぶりに再会(?)という企画展があり、長蛇の列。数メートル離れた位置から時間制限内での鑑賞を経験した身としては、(一作のみとはいえ)至近距離で時間制限なく鑑賞でき、感無量という外ありませんでした。