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□二次元街道迷走中
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突然だが俺には弟が居る。眼鏡で貧弱だが、真面目な奴だ。
そう、基本的に倒れる結果になると知りつつも学校に行くのが常って位に。

でもって普段は俺が同じ高校に通っているから拾っては遠野の家に送り届けてる。
そん時にすげー申し訳なさそうな顔をすんのが印象的だった。

そんな弟が、だ。
―――――ホテルに女を連れ込んでいた。

ちょ、おま。兄を差し置いてそれはないだろ!
ただでさえお前は地味にモテるとはいえ、それはねーよ!!

僻み?なんとでも言うが良いさ。
制服姿で堂々過ぎるとか、相手の女が美人でレベルが高いとかは一旦脇に置いておく。

兎に角俺は、弟の予想外の行動に混乱していた。ホテルの前で馬鹿みたく突っ立っている事暫く。
やっと我に返った俺は次に通行の邪魔になるから場所を変えないと駄目だという的外れな考えで行動していた。

で、ホテル内のラウンジでコーヒーを飲んでいる。
何がどうなる訳でもないがこのままだと感情に任せて帰って来た瞬間問い詰めるだろう。
最悪、部屋を突きとめて中に……なんて事になりかねない。

それだけは防ぎたい、切実に。
そう思っていたら昨日のオンラインサバイバルゲームを真夜中までやってた影響が今更出て来た。
異様に眠たい。コーヒー飲んだばかりなのにカフェインはどこいったんだよ。カフェインは!

そのまま俺の意識は欲望に忠実に薄れていった。




「ぅおっ!」


体温が下がり、晒された肌からの寒さで目が覚めた。
ホテルにお客が入って来る度に自動ドアが開き、外の風を運んでくる。

気を利かせたホテルマンが掛けてくれたのであろうホテルのロゴが入ったタオルケットを跳ね除けながら、俺は目覚めた。

いつの間にか外は暗くなっている。あーあー。
門限もあるし、流石に志貴も帰ってるだろ。
頭も冷えたし俺も帰宅するとしよう。

だが、タイミングが良いのか悪いのか。
タオルケットをフロントに返却後、ロビーに向きなおると薬局の袋をぶら下げてこっちに来る弟の姿が。

衝動的にUターンした判断は正解だ。
幸いにも志貴には気付かれていたい様子。

こっそり振り向いて観察すると持っている小さめなレジ袋からはみ出している幾つかの消毒液に、ガーゼに包帯。

て、包帯?!

……………。SM?まさかSMプレイなのか?!

再び俺は機能を停止した。微かな理性を総動員して、怪訝そうなフロントのおねーさんに「すみません、言い忘れてて…―ありがとうございました」と棒読みで呟いた後、今度は迷わず後を追いかけた。


「げ、最上階……だと」


エレベーターの階数の表示は間違いなくその数字を表示している。
しかも、途中のフロアで停止してなかったため確実な情報だ。

普段から無駄遣いはせず節約を心がけていたのはこのためだったのか?上昇するエレベータの中で俺の中の良い弟のイメージがどんどんと崩壊していく。

んで、沢山の部屋の中から目的の部屋を見つけるのは難しいから、エレベーターの出口付近の備え付けの談話室にて絶賛待ち伏せ中。

偶然を装うのは無理があるが、
″お前に似た人間が門限を破って薬局から出て来る姿を見かけたから心配になって付いてきたんだ。ここまで来たはいいが見失ってな、さ迷ってた所だ″とでも言っておけばいいだろ。

と、急激に襲ってきた大きな揺れにに巻き込まれ尻もちをついた。

おいおい。随分デカイ地震だな。

やっと揺れが収まったかと思えば、ホテルは停電していた。


「お。志貴ー!」

「な、どうして此処に兄さんが!!」

「ははは、驚き過ぎだろ」


そして暗闇に目が慣れてきた頃、凄いスピードで走ってくる弟と合流した。

至って気楽に片手をあげて挨拶をする俺に対して、志貴は珍しい程に動揺を露わにしている。

ポーン。

そんな軽い音が響いてエレベーターの到着を告げた。


「ぁ……?」

「……に、さん」


背後から襲いかかる衝撃が上半身から全身に伝わる。喉の奥から振り絞るように出された志貴の声に反応する事も出来ずに、俺は無様に廊下に倒れ伏した。


「ぐ、あぁあああぁぁあぁああああ!!」

「あ…ぁ…げほっ……ああ」


肉が抉れ、根こそぎ持っていかれる感覚。
熱さとそれ以上の痛みから俺は絶叫した。
志貴の顔が歪んで見えない。

それと最早、自分の咆哮か弟の物かも判断が付かなかった。

一生知りたくもなかった激痛の中、俺とエレベーターの中を見て衝撃を受けている弟の背後に巨大な狼。いや犬か?
それが肉を咀嚼しながら、狙いを定めているのが分かった。

コイツに喰われたのかよ……俺はいい加減枯れ果てた声でひたすら意味のない大声を出しながら、それだけはやけに目に焼き付く。

背中が出血多量の影響でちっとも動こうとしない両足を無理矢理叱咤し、未だに動けずこっちを凝視したままの志貴に飛びかかる犬もどきから強引に庇った。

そして感じた二度目の痛みに俺の意識が吹き飛んだ。
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