新星 V1723 Sco を Seestar で撮影するための情報

※本記事は2024年2月14日午前に、画像の差し替えや追記など、改訂しています。

 さんから、2月9日にさそり座で発見された新星 (V1723 Sco / PNV J17261813-3809354) について、Seestar S50 で撮影するための情報を整備して欲しいという依頼を受けたので、取り急ぎ記事を書きます。

 まず、今回の新星の日本語情報については、国立天文台の前原裕之氏が書かれた VSOLJ-news をご参照ください(新星の赤経・赤緯も載っています)。さらに、AstroArts さんにも記事が出ています。

 さて、Seestar S50 は任意の座標を入れて天体を導入することができません。そのため、新天体のような場合、下記のような星図 (例: Stellarium) をもとにして、Seestar アプリの星図と見比べながら、手動で導入位置を決めるしかありません。あと、V1723 Sco はさそり座の尻尾のあたりで発見されています。地域にもよりますが、今の時期、観測時刻は未明5時~5時30分くらいになり、さらに高度も10°前後で撮ることになる人が大半でしょう。近々撮影したい人は、南東方面の視界が開けていないといけません。

2024年2月14日朝5時30分頃、南東方向の空 (以下、いずれもStellarium で作成).
Seestar アプリでもどんどんさそり座の尻尾のあたりを拡大してみよう (※画像改訂).
さらに拡大… (途中までシャウラという星が目印になるかも)
Seestar の星図とも比較しながら、どんどん拡大する(※画像改訂). このとき、目印になりそうな星の並びを決めておくと良い(例えば、上図の緑線で示した台形の星の並びなど)。
赤い枠は Seestar の視野. 中央の印が目的の新星 V1723 Sco の位置です (※画像改訂). 先に例で示した台形の星の並びが視野に入っていれば、新星 1723 Sco が写るはずです.

 上記のような星図 (Stellarium など) と見比べて、導入すべき位置がある程度決まったら、導入ボタンを押しましょう。あとは実際に撮影してみて、周囲の星の並びや明るさから、お目当ての新星が写っているのか、同定するだけです(これが慣れるまで難しいかもですが)。

 ちなみに、上記の星図は筆者の観測地点から、日時を2024年2月14日未明5時30分として、地平座標で描かれています。そのため、観測日時や地域によって、上図の視野が多かれ少なかれ回転することになるので、厳密に見比べたい方は、自分の PC などで、適当な星図ソフトを動かす必要があります。Stellarium と見比べて導入する方法については、過去に記事を書いたので、宜しければ参考にしてください。

 V1723 Sco の明るさについては、VSOLJの報告データによれば、 2/10 未明は約6等台、2/11未明は11日未明は約7等台前半、12日未明は約7等台半ば、という感じのようです。14日未明はもしかしたら8等台ですかね?!とは言いましても、新星は単純にスゥ~っと暗くなるのもいれば、ときどき何回も再増光するようなのもいるので、今後どんな振る舞いをするのか、それは観測し続けないとわかりません。


※以下、2月14日午前の追記分です。

2024年2月14日未明に Seestar S50 で撮影された V1723 Sco の画像. 【左図】星見屋さんの南口氏による作例@東京都大田区. 【右図】筆者による作例@徳島県阿南市. 右図の緑色線(台形)は、先の導入のときに、例として目印にした星の並び.

 幸い天気に恵まれて、上図のように、東京の星見屋さんも徳島の筆者も14日未明に撮影ができました。新星の明るさについては、画像を見る限り近くに写っている8等くらいの星よりかは明るそうです。高度10°くらいでの撮影ということもあり、大気の影響を受けまくりで、測光は少々気が乗らないのですが、一応 G画像について測定してみます(※後程結果を追記します)。

【※測光結果の追記】
 比較星を10個ほど選び、G画像について測光してみたところ、約7.35±0.08等という結果になりました(比較星等級はAPASSを使用)。あと合焦状態で飽和していないことも確認。大気減光が強いことや、先般公開したG画像の分光感度特性も考慮すると、ちょっと明るい数値が出ている気がしないでもない。この結果は、他の変光星観測者のデータも参照・比較して、もう少し吟味したいところです。

カテゴリー: 新天体, 観測機材 | タグ: , | コメントする

Seestar S50 で天体スペクトルを撮る

はじめに

 Seestar S50 の測光観測に関する検証について、2023年10月頃に一発目の記事を書いた。この記事の最後に、「さらに検証してみたいこと」として、以下3点の課題を挙げていた。

  • 連続測光観測について
  • デフォーカスした状態での測光について
  • 本機の分光感度特性について

このうち、連続測光観測デフォーカス測光については、2023年11月頃と12月頃に検証が済んでいる。

 今回、Seestar S50 でスペクトルを撮るというまた邪悪な使い方を試みたのは、上記の未検証であった分光感度特性について調べてみたかったからである。測光において、RGBのG画像がどのような波長帯の光を透過しているのか、これを示しておくのは、今後 Seestar S50 の測光データが市民権を得るためにも、最低限必要なことであろう。

 なお本件は、星見屋さんから依頼を受け、日本変光星研究会の所属として、Seestar S50 のの観測的な検証を実施している。(相変わらず、関連する知識が無いとわかりにくい記事だと思うが、あくまで普及目的ではなく、その前段階として必要な “検証” が目的ということで、どうかご容赦頂きたい)

Seestar S50 の分光感度特性

 さて、今回スペクトルをどうやって撮ったのか等、細かい部分も含めると、また記事が長くなりそうである。そのため、先に結論的な部分から示しておく。本検証で得た Seestar S50 の分光感度特性は以下の通りだ。

Seestar S50 とIMX462の分光感度特性.

 このスペクトルは Seestar を使ってポルックス (K0III) のスペクトルを撮り、グラフ化している。R, G, B の強度(Y軸)は、それぞれサンプル数を10として移動平均をとり、さらに概ねピークを1として規格化した。軽い移動平均をかましているとはいえ、グラフ上にはポルックスじたいの吸収線が乗っかているので悪しからず。一方で破線のプロットは Seestar に搭載されている CMOS チップ IMX462 (SONY製) の分光感度特性になる。これは色々なところで、グラフが公開されているので(例: 株式会社アルゴ)、グラフ(画像)から数値を読み出すソフト”WebPlotDigitizer” を使って抽出し、比較のため併せてプロットしてみた次第。

 グラフを見ると、R, G, B それぞれ IMX462 のカタログ値に類似したプロファイルが得られている。しかし Seestar には UV/IR カットフィルターが内臓されているため、短波長側は約4000Å、長波長側は約7000Åあたりから綺麗にカットされている。その一方で、なにやら B, G は赤い領域(約6800Å)に2次ピークのようなものがあり、余計な波長帯の光を少し通す特性があるようだ。

Seestar S50 と測光標準システムの分光感度特性.

 では次に Seestar と、測光標準システム (Johnson-Cousins) と比較してみよう。Seestar の B画像 については、標準システムBのピークと500Å以上のずれがあり、透過帯域も異なる。さらにSeestar の R画像 については、標準システムの Rc とピークの位置や短波長側の立ち上がりは似ている。しかし、長波長側については、UV/IRカットフィルターの影響を受けており、標準システムと透過帯域は一致しない。そして、Seestar の G 画像については、標準システムVとピークの波長は似ている。しかし、G画像 は透過域が短波長側&長波長側に少し袖があり、Vバンドと比べると透過域の幅が広いことがわかる。

Seestar S50のG画像、測光標準システムのVバンド、デジカメのG画像の分光感度特性.

 ついでに Seestar G画像、標準システムVバンド、デジカメG画像で比較してみよう(デジカメGについては、過去に自分で測定したデータを使用している)。デジカメG画像と標準システムVバンドのプロファイルが似ていることは言わずもがな、10年以上前から明らかとなっている(研究例: 小野間, 2009)。しかし、Seestar のG画像については、先ほども述べたとおり、透過帯域が少し広く、さらに赤い波長域にも少し感度がある。そのため、色が極端に赤い星や、新星などの強い輝線を出すような天体を測光する場合は、VバンドやデジカメのG画像よりも少し明るい測光値が出てくる可能性があるだろう。

 ここまでの話について、箇条書きで簡便にまとめておく(特にSeestarのG画像について):

  • 本機のG画像は測光標準システムのVバンドと比較すると、透過域内のピーク波長は似ている。
  • 本機のG画像はVバンドに比べると透過域(袖)が少し広い。加えて長波長側(約6800Å)にも少し透過域がある。
  • このような分光感度特性から、SeestarのG画像を測光すると、天体によってはVバンドと比べると少し明るい結果になる可能性がある。

Seestar でどうやってスペクトルを撮ったのか?【前置き】

 ここからの話は、あくまでオマケである(前置きが長いのでご容赦を)。

 そもそも Seestar S50 で天体スペクトルを撮った理由は冒頭でも述べた通りだ。しかし、スマート望遠鏡の発展や可能性を考慮すれば、私のような邪悪な使い方が、今後誰かの役に立つかもしれないので、現段階のノウハウ等を記録として残しておこうと思う(実はけっこう試行錯誤が必要だった)。

 そもそも何故、分光感度特性を調べるために、Seestar で天体スペクトルを撮ったのかを書いておく。言わずもがな、Seestar はオールインワン望遠鏡であり、内臓されているカメラなどをバラすことは基本できない(海外の分解好きな人は既に本機を解剖実験しているようであるが)。私が過去に調査したデジカメの分光感度特性については、カメラレンズ(f=50mm)、島津製作所の実験室用分光器(スリット + コリメーター + 透過型回折格子 200本/mm)、水素の比較光源、白熱球を使い、室内でデータを撮ることができた。ところが、Seestar は焦点距離250mmのレンズを備えた望遠鏡であり、室内のような狭い空間ではまず合焦がままならない。室内テストとして、対物レンズ側に透過型回折格子を貼り付け白熱球などの光源を撮ることも試みたが(2023年12月頃)、スリットレスでは室内におけるスペクトルの取得はとても困難であった(そもそもFITSで保存することもできない)。

 そこで、恒星のスペクトルを撮ることで、本機の分光感度特性を明らかにすることにした(星での本格テストは2024年1月3日から開始)。ちなみに、実際に手を動かすきっかけになったのが、Facebook の Seestar 公式グループにあったとある投稿だった。その内容は本機でシリウスのスペクトルを撮ったよ、という刺激的なもので (Kai Yung さんの報告)、「おお、Seestar で邪悪なことをしている同志に先を越された!」という、良い意味でライバル心のようなものに火がついた。Kai さんのスペクトルを見ると、1本のスペクトルが4枚の画像にわたって写っていた。そこで、回折格子の格子定数が気になったので、質問してみたところ、200本/mmだと教えて頂き、もっと小さい分散でも良いかも的なコメントも頂いた。

使用した回折格子について

 実は仕事柄、回折格子はイベントで使ったりするので、手持ちで透過型の回折格子を持っていたのだが、500本/mmと分散が大きかった。Seestar の焦点距離やCMOSチップの大きさを考慮すると、これでは使い勝手が悪い。試しに500本/mmでシリウスのスペクトルを撮ろうと思ったが、 0次光からいったいどのくらい離れた場所に1次の回折光が現れるのかが皆目わからず撃沈。そこで、先の Kai さんのコメントに従い、100本/mmの回折格子を探したのだが、国内では気軽に(安価に)手に入りそうになかった。

 それで色々ネット検索していたら ebay で100本/mmの回折格子が売られていることを知る。お買い物サイトとしての安全性など色々悩んだが、一念発起して人柱になるべくエイヤっ!と ebay で約3.8cm四方の回折格子を買うことにした。このとき、さらに分散の小さな50本/mmもあったので、試しに購入(結果的にこれが良い選択だった)。50本/mm, 100本/mmともに、1枚約11ドルで送料は無料(計約22ドル)。12月20日に注文して自宅に届いたのは1月3日だったので、思ったよりも早い到着だった。

50本/mmで試しに撮ってみた

ebayで購入した50本/mmの回折格子をSeestar に取付けた様子 (この方法はおススメしないので、後述する方法を参照されたし).

 ブツが届いた1月3日の晩に、早速回折格子 (50本/mm) をSeestar に装着し、観測を試みた。約3.8cm四方のフィルムなので、はじめは上記のように、適当な厚紙を丸くくり抜き、口径を絞る形で装着(セロテープで止めただけ)。貼り付けるさいは、1次の回折光が縦方向に出現するように注意した(Seestar の観測画像は縦長なので)。

対物レンズ全面に回折格子を取り付けた状態で撮影 (リゲルをプレビューしている様子).
左図の状態から視野を一つぶんずらした位置に出現しているリゲルのスペクトル (1次の回折光).

 上記の画像(上記左図)は、とりあえず導入したリゲルの姿。回折格子の影響を受けてか、合焦状態にも関わらず、星像の劣化が見受けれた。その影響で、プレートソルブもうまくいかず、導入時は回折格子を外して行うことになり、導入からスペクトルの撮影までの効率は決して良くなかった。一方で、 50本/mmの回折格子だと、1次の回折光がちょうど画像内に収まっており(上記右図)、複数の画像にスペクトルがまたがらないのは良い。しかし、星像の劣化が影響して、スペクトルの撮影を開始してもスタックがまったくうまくいかず(ひたすらエラー)、1枚も画像をFITSで保存することができなかったorz 例えばシリウスのスペクトルにしても、撮影をはじめるライブビュー状態から吸収線の存在がわかり、期待が膨らんだが… 結局のところスタックエラーで画像(FITS)が1枚も保存されないのは、非常にもどかしい時間であった。
※なお後述する方法で観測すれば、導入効率のアップ、スタックエラーの回避が可能である。

 ちなみに、50本/mmの回折格子を使うと、1次の回折光がどこに現れるのか?これについては(回折格子の貼り付け方にもよるが)、おおよそ Seestar の視野を一つ分ずらしたところに出現していた。Seestarアプリの星図(右図)で確認すると、シリウスの場合、赤い枠のあたりにスペクトルが写っていた。もちろん、1次の回折光はこれとは逆方向にも出現するので、どちらか観測しやすいほうのスペクトルを撮ると良いだろう(スリットレス分光なので、撮影領域によっては、スペクトルが出現した位置に、他の星がコンタミしてくることも十分考えられるので)。

 先に述べておくと、100本/mmも試したところ、スペクトルは Seestar の視野を2つほどずらした位置に出現した。当然1本のスペクトルは2~3倍ほど長く出現し、撮影するときも2~3枚の画像にわたることがわかった。どんぶり勘定してみると、最初私が使おうとしていた500本/mmだと、1次の回折光は視野を10個ほどずらしたところに出現していたのかもしれない(しかも1本のスペクトルは超ロングになり、視野をずらしつつ10枚くらい撮らないと1本のスペクトルにならなかったのかも)。

50本/mmの回折格子を使った場合、スペクトル(1次の回折光)が出現する位置について.

 ところで先ほど、スタックエラーでスペクトルがまったく撮れない(FITSで保存されない)ということを書いた。シリウスやリゲルなど、このとき明るい恒星のスペクトルは全然撮れなかったのだが、少し星の多い領域でスペクトルを撮ってみると、奇跡的にいくつかスタックがうまくいき、FITSで保存できたものがある(以下に2例示す)。

50本/mmで撮影したゴメイサ (こいぬ座β星)のスペクトル. 観測日時は画像内に記載.
50本/mmで撮影したM42のスペクトル. 観測日時は画像内に記載.

 この2本のスペクトルについては、正直たまたまスタックされて、「なんかまぐれで撮れちゃった」的なショットであった。画像を見てわかる通り、回折格子の影響を受けて、やはり星像が悪く(ピンボケではない)、これがどうしてもプレートソルブやライブスタックに影響を与えてしまう。このままでは観測の効率が非常に悪く、何より任意の天体のスペクトルがFITSで撮れないのは大問題であった。
※このとき M42 はしっかりとHαと [O III] の輝線が写っているのがわかった。

問題解決!回折格子の取り付け方を工夫せよ

Seestarの対物レンズに対し、回折格子をおよそ半分だけ被せて装着した様子. 装着は簡易的にセロテープにて.

 さて、まるで日記のように書くから、どんどん記事が長くなっているが、先の大問題は回折格子の取り付け方を工夫したことで、一発解決をみた。工夫といっても簡単なことで、上記の写真のように、回折格子を対物レンズに対して半分くらいだけ被せる、というだけである。こうすることで星像の劣化がかなり緩和され、回折格子を取りつけた状態であってもプレートソルブは軽快に動き、ライブスタックについても時々エラーが出る程度になった。たったこれだけのことで、観測効率の劇的な改善ができた(2024年1月24日より)。右図にこの手法で撮ったリゲルのスペクトルを示しておく。先に紹介したリゲルのスペクトル画像に写っていた星と比べると、星像が大きく改善していることがわかるだろう。

 とは言っても、完全に改善したわけではなく、明るい星を撮ると、まだゴーストのようなものが発生しているのがわかる(下図参照)。スリットレスの場合、このいびつな(面積をもった)星像は、波長分解能にも少し影響を与えるかもしれない。

50本/mmで撮影したリゲルのスペクトル. 回折格子の取り付け方を工夫して撮った一例.
合焦状態で対物レンズに回折格子を全て被せたとき(左)、半分だけ被せたとき(右)の星像の比較. 写っている星はリゲル.

Seestarで冬の1等星のスペクトル全部撮ってみた

50本/mmの回折格子を用い Seestar S50 で撮影した冬の1等星のスペクトル.

 上に冬の1等星7つのスペクトル画像を示す。スペクトルはトリミングをかけているが、画像の縮尺は統一してある。本当なら横方向に波長で整列させたいところだが、今回は超大雑把に目分量で配置している。一応、上から温度の高い順に並べている。スタック枚数や撮影日については画像内に記載した。

 50本/mm という低分散であっても、さすがシリウス (A型星) はバルマー線 (吸収線) の存在が何本も目視でよくわかった。さらにM型のベテルギウスも、低温度星らしい TiO の吸収帯がバシバシ写っていることが目視でわかる。なお、ポルックスのスペクトルが薄いのは、観測したとき、月が近くにあったことが原因となる。それから、何本か1本のスペクトルがトレーリングしたように太く写っているのは、追尾エラーや視野回転等の影響を受けての、スタックミスが原因だと考えられる。

 それで、一応これらのスペクトルを全部マカリィでカウント値を読み出し、既知の吸収線を使って波長校正を行い、グラフ化までしてみたので、以下に示しておく。なお既知の吸収線が2本以上はっきりしないものは、シリウスの波長校正データを使ってグラフ化した(例えばHβなど一つだけでも既知の吸収線がわかれば、それめがけてオフセットするように校正)。縦軸は相対強度とし、マカリィで読みだしたカウント値そのものである(強度校正や規格化はしていない)。

リゲルのスペクトル
シリウスのスペクトル
プロキオンのスペクトル
カペラのスペクトル
ポルックスのスペクトル
アルデバランのスペクトル
ベテルギウスのスペクトル

 あまり吸収線の同定(書き込み)ができていないが、また外部で発表したり執筆することがあれば、もう少しまじめにやりたいと思う。ただリゲルみたいに(高温の星になると)、ほとんど吸収線がわからないケースもある。それにしてもベテルギウスは TiO の吸収帯が何本もよくわかり、こちらは楽しいかぎり。何等まで分光できるのか、そこは更なる検証が必要だが、明るい輝線星を狙うのも一興だろう。

100本/mmでも撮ってみた

Seestar に 100本/mm の回折格子を装着して撮ったシリウスのスペクトル.

 先にも述べたとおり、今回 ebay では 100本/mmの回折格子も購入した。せっかくなので、シリウスのスペクトルを撮ってみた。さすがに1枚の画像にスペクトルが収まらず、テスト観測では3枚の画像に渡って撮影した。ただ頑張れば、ぎりぎり2枚の画像で収まるかもしれない。一応、グラフ化までやってみたが、50本/mmと劇的な違いは見受けられなかった。100本/mmだと、単純に観測時間もデータ処理も2~3倍の時間&労力になるので、Seestar で気軽にスペクトルを撮りたい人は、1発で1本のスペクトルが撮れる50本/mmがオススメである。

データ処理について

 本記事の最後のネタとして、データ処理に関して(簡単に)述べておく。一応、普及面も意識して、全てマカリィとエクセルで処理したので、ソフト面でのハードルは低いだろう。処理フローとしては以下のとおり:

  1. マカリィでスタック済みのFITS画像を開く(読み込み方法はカラー画像を選択)。
  2. 画像が縦向きなので、短波長側が左になるように画像を横向きに回転。
  3. マカリィの “グラフ” 機能を使って、スペクトルの強度(カウント値)を読みだす。
  4. 読みだした数値を “テキスト出力” する (.csv で保存できる)。
  5. CSVファイルをエクセルで開いて、既知の吸収線で波長校正。
  6. エクセルでグラフ化。

 文字だけではわかりにくそうな部分もあると思うので、以下補足用の画像を2枚だけ以下に貼っておく。

【上記フロー3番】マカリィの “グラフ” 機能を使って、スペクトルの強度(カウント値)を読みだしているところ.
【上記フロー5番】CSVファイルをエクセルで開いて、既知の吸収線を使って、波長校正をしているところ.

さいごに

 おまけの部分が記事の大半をしめてしまったが、冒頭でも述べたとおり、今回の検証で私が最も知りたかったのは “Seestar S50 のカラー画像の分光感度特性” となる。これについては、まとめも含めて記事の前半部に示した。その副産物として、Seestar S50 を使ったスリットレス方式(透過型回折格子)での分光観測に関して、一定のノウハウを得ることができた。

 なお、星見屋さんから依頼頂いていた 「Seestar S50 を使った測光観測の検証」というのは、一旦これで一つの区切りになっただろうか。測光に必要そうな検証はある程度やったとすると、次なるステップは「普及」である。Seestar S50 を使った科学的な観測を普及させるには、当然マニュアル整備も必要だが、大雑把に「やってみよう」ではなく、何か一つの目標(キャンペーン)をアドバルーンとして上げることも考えたいところである (例: 某回帰新星のモニターなど)。スマート望遠鏡を使った市民科学の創出、そのような野望を最後に匂わせつつ、本稿を締めくくることにしよう。


これまでの関連記事は以下のとおり:

  1. SeeStar S50 を使った測光観測の検証
  2. SeeStar S50 を使った食変光星の測光観測
  3. SeeStar S50 を使った新天体の確認観測
  4. 天体リストに無い天体の導入 (Seestar S50)
  5. デフォーカス画像を用いた明るい星の測光 (Seestar S50)
カテゴリー: 天文教育・普及, 観測機材 | タグ: , , | コメントする

ZWO PE200 ハーフピラーを購入 (+注意点)

図1: ZWOのハーフピラーPE200を装着した様子.

 ZWOのAM5 赤道儀を運用するさい、私は手持ちの sky-watcher の EQ6R-pro に付属していた三脚を用いています (参考: レビュー記事)。これまで、ほとんど大きな問題を感じていなかったのですが、最近タカハシのミューロン210を載せたとき、ガイド鏡 (Svbony の6cm) をAM5のアリミゾ横に同架させました。この組み合わせで撮影中、子午線の反転が入ったとき、ガイド鏡が三脚と衝突する事故が発生しました。幸い大事には至らなかったのですが、AM5はコンパクトな赤道儀がゆえに、予期せぬ事故に気をつけねばならない、という思いが強くなりました。

 そこで、ハーフピラー (ZWO PE200) の購入に踏み切りました。某所でセールだったとはいえ約2.5万円もする代物ですが、品質は良さそうで満足しています。もし安くあげたい場合は(EQ6 の三脚で運用している方なら)、sky-watcher のハーフピラーという選択もあります。なお、PE200 については、あまりネット上に情報も無いので、簡単なレビュー (+ 注意点) を記事にしておこうと思います。

図2: ZWO ハーフピラー PE200 本体と付属品.

 PE200を開封すると、本体のハーフピラーに加え、M6のネジ2本と六角レンチ、そして sky-watcher 製又はセレストロンAVX三脚に接続するための交換アダプターが付属している。ピラーとAM5の接続は、上部3ヶ所のネジを回して頑丈に締め付けられるようになっています。ピラー内部に突出するストッパーはネジを回すとヌルヌル動いて、なんだか高級感があります。

 ちなみに購入前は、おお~、sky-watcher 用のアダプターも付属しているんだ!素晴らしい!と思ったのですが、後述する通り、これにはちょっとした注意点があります。

図3: PE200の底面とアダプター部.
図4: アダプターを sky-watcher 用に換装した様子.

 ピラーの裏側には写真(図3)のようなアダプターがついています。付属の簡易マニュアルに従えば、sky-watcher の三脚に載せたいならアダプターを交換しろ、と書いてありました。それで、何も考えずに図4のように交換しました(このとき、まだアホなことをしていることに気が付いていない・・・)。

図5: AM5 の底部のアダプターをCOSMO工房製からPE200用に換装.

 お次はAM5側のアダプターを交換します。私はこれまで、 COSMO工房さんに作ってもらったAM5を EQ6 の三脚に載せるためのアダプターを常時装着していました。これを取り外し、図3のアダプターをAM5に装着します。これで、ハーフピラーPE200にAM5が載るようになります。

 よし!ではハーフピラーをEQ6の三脚に載せようと思ったら、あれ・・・?絶対におかしい。ちゃんと載らないし、ネジの大きさも違うぞ・・・。

図6: EQ6用三脚トップ (2インチ型) とPE200付属のsky-watcher用アダプター (1.75インチ型三脚用).
図7: 【左】COSMO工房製EQ6-AM5接続アダプター. 【右】PE200付属sky-watcher用アダプター.

 それもそのはずです。図6のように、まずEQ6の三脚の受け皿と、PE200に付属しているsky-wathcer 用のアダプターの形状や大きさが明らかに異なります。そして、図7のように、これまで使ってきたCOSMO工房さんのアダプターのネジ穴はM12、PE200の付属アダプターは3/8インチネジではありませんか(M10ではないよね?)。ガーン!これは一体全体どういうことだー!と調べたところ… ZWO の公式ページには以下のような説明が:

Not only suitable for the ZWO carbon fiber tripod, also can be used with 1.75-inch steel tripod from iOptron and Sky-watcher, and with the 2-inch tripod for Celestron Advanced VX mount.

ZWO PE200 公式販売ページ

 えっ、スカイウォッチャーは1.75インチ三脚ですと???なんやそれー?!

 早速、調べてみると、同社の1.75インチ三脚というのは、EQ5などに使われている三脚らしのだ(参考ページ)。この三脚の販売ページ画像をよく見ると、PE200の付属アダプターがスポっとはまりそうな大きさ&形をしているではありませんか。さらに調べてみると、EQ6用の三脚は2インチ型らしく、実は赤道儀と三脚の接続規格が異なることがわかりましたorz ちなみに、この1.75インチと2インチという数字は三脚の脚の太さ、つまり直径を表している。あとセレストロンのAVX用の2インチ三脚は公式の説明のとおり、PE200の付属アダプターが画像を見る限り使えそうです(参考ページ)。

図8: COSMO工房製EQ6用アダプターに交換した様子.

 というわけで、COSMO工房さんのアダプターをPE200の底面に換装(図8)。これでEQ6の三脚に、無事に装着することができました (冒頭図1)。ふぅ、めでたしめでたし (^^/

 いや、ちょっと待って~!!日本の代理店の皆様。大きなお世話かもしれないのですが、PE200の販売ページ、ちょっと見直したほうが良い気もします。例えば以下のように、

AM5赤道儀を SkyWatcher製三脚に搭載する事が可能になります。(※ SkyWatcher三脚用取付アダプターが附属します。)

国内の多くの代理店さんにおいて(いずれも公私ともにお世話になったことがある優良なお店なので名指しはしません)、上記のような日本語の補足説明が販売ページでなされています (2023年12月29日時点)。私はこれを見て勝手に「おお、EQ6 の三脚にも装着できるやん~。せっかくCOSMO工房さんにアダプター作ってもらったのに、今使ってるアダプター遊んでまうなー。」と思ってしまったほどです(いや、テメェの下調べが甘いからだ!というお叱りを受けるかもですね ^^;)。ちなみに、iOptron の三脚については、

AM5赤道儀を ioptron製 1.75″三脚(CEM40/GEM45用三脚)に搭載する事が可能になります。(※ ioptron製三脚用固定ネジ(M6x2)が附属します。)

という感じで、細かな補足説明になっています。従いまして、sky-watcher の三脚についても、EQ5とかの1.75インチ型にしか対応してないよ、EQ6 の2インチ三脚には非対応だよん、と一言あると親切かな~と思いました。以上、ZWO の純正ハーフピラーPE200について、Sky-watcher の EQ6 用三脚で運用することを考えている人の参考になれば幸いなり。

カテゴリー: 観測機材 | タグ: | 2件のコメント

こぐま座流星群の火球 (ATOM Cam2)

こぐま座流星群に属すると思われる火球 (動画データより比較明合成).

 2023年12月23日1時38分頃、ATOM Cam2 の標準アプリで火球を検出しました。観測地は徳島県阿南市で、カメラは北向き。きりん座のあたりから流れ、途中でカッと劇的に明るくなりました。流星痕も数秒にわたって写っています。

 ちょうど、こぐま座流星群の極大夜にあたり、軌跡を辿ると放射点付近にいきつくので、流星群に属する火球かと思われます。以下のとおり、動画データは YouTube にアップしております。

カテゴリー: AtomCam2, 流星 | タグ: , , | コメントする

最近の流星観測の成果 (ATOM Cam2)

火球の監視

 まずは火球について、比較明合成した写真を10発アップ。観測は徳島県阿南市にて。ATOM Cam2 を北と南向きにセットし、2台体制で監視している。以下、10発中8発については、ATOM Cam2 標準アプリで自動検出されたものです。他2発は、SNS を眺めていて、火球の情報をたまたま拝見し、それを元にデータを目視でサルベージしたもの。時計は例によって (アプリ側の問題で) 数秒ずれていると思います。

2023年4月27日23時59分頃 (JST). 出現は北極星付近. カメラ北向き.
2023年10月16日4時32分頃 (JST). 出現はきりん座付近. カメラ北向き. 標準アプリで検出.
2023年10月23日2時42分頃 (JST). 出現はおうし座付近. カメラ南向き. 標準アプリで検出.
2023年10月25日21時18分頃 (JST). 出現ははくちょう座付近. カメラ北向き. 標準アプリで検出.
2023年11月1日18時13分頃 (JST). 出現はこぐま座付近. カメラ北向き.
2023年11月21日5時12分頃 (JST). 出現はこぐま座付近. カメラ北向き. 標準アプリで検出.
2023年11月22日3時52分頃 (JST). 出現はきりん座付近. カメラ北向き. 標準アプリで検出.
2023年11月23日2時48分頃 (JST). 出現はきりん座付近. カメラ北向き. 標準アプリで検出.
2023年12月7日22時43分頃 (JST). 出現はちょうこくぐ座付近. カメラ南向き. 標準アプリで検出.
2023年12月14日2時30分頃 (JST). 出現ははと座付近. カメラ南向き. 標準アプリで検出.

 ちなみに、10月23日に検出したデータですが、火球が二重に写ってしまっています。これは、後程詳しく触れますが、強雨対策で施していた自作のアクリルカバーの影響です・・・ 

 動画データについては YouTube にアップしています。単発ないしは複数で編集・UPしており、統一感がありませんが… 一応、blog 内でまとめておく。なお12月14日2時30分頃の火球は、ふたご群ですね(流星群は後程紹介するとおり、まとめ動画を作っています)。ATOM Cam2 での火球検出はもう何度も経験していますが、朝起きたとき標準アプリのアラート一覧をチェックし、火球が受かっていると、一気に目が覚めますね (^^v この火球が受かっていたときのワクワクは病みつきになる。

2023年のペルセ群とふたご群

 今年のペルセウス座流星群とふたご座流星群は、徳島では両方とも極大夜 (8/13 & 12/14) は快曇でまったく観測できなかった。ここで紹介するのは、極大前夜のデータとなる。ATOM Cam2 (カメラ) は北向きと南向きの2台体制で (カラー撮影)、流星の検出には東京の長谷川均さんが開発された meteor-detect (python) を用いている。以下の動画は、北&南向きのカメラで検出したものを、時系列で合体している。そのため、動画を見ていると、写っている星や景色も時々パッパッと切替るのであしからず。

北向きカメラ. 2023年8月12日の晩に捉えた流星 (比較明合成).
南向きカメラ. 2023年8月12日の晩に捉えた流星 (比較明合成).
北向きカメラ. 2023年12月13日の晩に捉えた流星 (比較明合成).
南向きカメラ. 2023年12月13日の晩に捉えた流星 (比較明合成).

 ちなみに、ATOM Cam2 のカラー映像は若干緑がかっているので、比較明合成した画像はカラーバランスを少し整えています。あと夏と冬のデータを見ると、気温の影響だと思いますが、明らかにノイズの量が違いますね。

最近の雨対策

 ATOM Cam2 は一応、防水仕様ですが、強い雨に打たれると、どこからか水が内部にさすようで、レンズの保護カバー内部が結露するようになったり、電気的に故障する場合もあります。かれこれ、私は強雨で計3台の ATOM Cam2 が天に召されました。

 そのため、自分は住宅用の気密テープを前面パネル四隅に貼っていた時期もあったのですが(過去記事参照)、強雨のさいは容赦なくカメラが水没(故障)しました。せっかくなので、壊れたカメラを分解して、どこから水が浸入したのか調べてみると、どうやら一番怪しいかったが SD カードの差込口と、前面パネル部分でした。

 SDの差込み口は一応、シリコンカバーがついています。しかしカメラをイナバウアー状態で空に向けているので、雨が降るとシリコンカバーの部分に直接雨があたり、水の侵入を容易く許してしまうのだと思います。その証拠にSD差込口から水が出てきたり、SDカードの金属部ももれなく錆びてました(このとき128GBのmicroSDカードもご臨終orz)。

 あとカメラの前面パネル部については(レンズ保護ガラス部も含め)、もちろん防水パッキンが存在しています。しかしカメラを空に向けた状態での運用(しかも屋外放置)では、各部紫外線による劣化が進みやすく、防水性能の低下を招くのだと思われます。ましてや、カメラを空に向けているので、前面パネル部にもビシバシと直接雨があたります。

 そこで、ATOM Cam2 の前面パネル部と、SD差込口に雨が直接あたらないように、アクリルカバーを自作し、数ヶ月だけこれをカメラに被せて運用していました。

自作のアクリルカバー。上から見た様子。内部側面をマジックテープで固定している。
自作のアクリルカバー。下から見た様子。ちょうど強雨に打たれた日。

 この自作カバーについては、狙い通り強い雨が降っても、水が浸入すると思われる部分に雨が直接当たらなくなりました。数ヶ月運用して、幾度かの強雨も乗り越え、水没の心配がほぼ無くなったぞ!万歳!となりました。し、しかし… 先に紹介したとおり、カバーが原因で火球が二重に写ってしまうことが判明し、それ以降使わなくなりました。恐らく、アクリルに細かなすり傷があるので、それが原因でしょう(新品の材料ではなく、ケチっていつかの端材を使ったのが良くなかったかな… )。

 そして、次に考え出したのが、UV カットフィルムの貼り付けです。このフィルムをべったり前面パネルに貼りつけ、前面パネルからの雨滴の侵入を防ぎます。このとき、四方は数mmほどカメラからはみ出すようにフィルムを貼り、はみ出した部分はカメラの側面に折り込んであげます。さらに、ビニールテープで四方をグルっと一巻きすることで、折り込んだフィルムの粘着部を補強。ビニールテープを巻くことで、ちょうどSDカードの差込口も保護できます。もちろん、SDカードからデータを抜き出したいときは、ビニールテープを剥ぐ必要があります。ちょっと面倒ですが、カメラが雨で壊れるよりマシです。

 現在、この補強方法で数ヶ月運用していますが、今のところ強雨による水没事故や、火球が二重に写るようなことは発生していません(念のためカメラ背面のスピーカー部分もビニールテープで塞いでいます)。ちなみに、UVカットフィルムを選んだのは、気休めでもカメラの劣化が防げればと思いチョイス。効果のほどは未知数ですが、そもそも貼り付けたフィルム自体の劣化もあるでしょうから、紫外線対策はやっていて損は無い気がします(人間のお肌と同じ!?)。

カテゴリー: AtomCam2, 流星 | タグ: , , , , | コメントする

デフォーカス画像を用いた明るい星の測光 (Seestar S50)

Seestar S50 のマニュアルフォーカス機能を用いて、目的星 (U Mon) をデフォーカスしている様子. 操作画面の左端にフォーカス位置が数値として表示される.

 Seestar S50 を使った測光観測の検証について1回目の記事を書いたとき、「さらに検証してみたいこと」を幾つか列挙した。その中の一つがデフォーカスした画像の測光である。今回は Seestar S50 のマニュアルフォーカス機能を用いて、あえてピンボケの状態で観測し、より明るい星の測光が行えるのかを確かめた。
※例によって、変光星や測光観測等の知識が無いとわかりにくい記事になっているので、予めご了承頂きたい.

 なお、本記事は星見屋さんより依頼を受け、日本変光星研究会の所属として実施している。これまでの関連記事は以下のとおり:

  1. SeeStar S50 を使った測光観測の検証
  2. SeeStar S50 を使った食変光星の測光観測
  3. SeeStar S50 を使った新天体の確認観測
  4. 天体リストに無い天体の導入 (Seestar S50)

何故ぼかすのか?

 望遠鏡で変光星の測光観測を行うさい、私の経験 (院時代にやってた矮新星等の観測) では、たいがいピントは合わせて観測してきた。しかし、変光星の中には肉眼等級の範囲で変光するものもあり、この手の明るい星の測光は、使用する光学系等によっては、ある程度露光時間を短くしてもカウント値の飽和(サチレーション)が避けられないことがある。ましてや、Seestar は露光時間を変更することができない。そこで、あえてピントをぼかす(デフォーカスする)ことで、カウント値の飽和を回避することができる。以前、筆者が行った合焦状態での検証では、明るい星は8等くらいまでが観測限界であった。ピンボケにすることで、Seestar は明るい星を何等まで測光できるのか、今回はその点も明らかにしたい。

 なお、このようなデフォーカスイメージを用いた測光観測は、系外惑星のトランジット(高精度測光)の分野で一世を風靡し、我が国では岡山県の大島修氏が小口径望遠鏡を用いて数多くの先駆的な検証・実績を残されている。(※今回の検証は測光の高精度化が目的ではない)あと、筆者が過去に行ったデジカメ測光 (例: ぎょしゃ座ζ星の食 / 変光星観測者会議2012集録原稿) についても、デフォーカスイメージを用いていた。

 ただし、勘違いしてはいけないのが、測光観測において何でもかんでもデフォーカスすれば良いのかというと、それは違うと言っておこう。当然、使用する光学系、目的や状況等によって使い分けるべきであるが、詳細については記事が冗長になるので、今回は割愛させて頂く。

検証に使った星 (U Mon)

U Mon (いっかくじゅう座U星) の星図と、導入時のSeestarアプリの様子. 左の星図は Stellarium より.

 今回の検証で何気に悩んだのが、どんな星で検証するかだった。明るさ、変光幅、比較星などを考慮して色々と悩み、最終的にはエイヤっと U Mon (いっかくじゅう座U星) に決定した。VSOLJ の報告を見ると直近で約6等台だったのと (2023年12月上旬において)、さらにSeestar の視野の広さだと、ちょうど似たような明るさの6等台の比較星が入るため(HD59730; B-V=1.6もある赤い星だけど… )、検証しやすい気がした。

 U Mon の導入 (GoTo) については、当然、Seestar アプリの天体リストには無い天体なので、以前紹介した手法で導入することになる。U Mon は変光星としては有名な子なので、Seestar の星図上で、きちんと “U” という文字が表記されていた。星図上に無い新天体のような観測に比べれば、導入はしやすいだろう。ちなみに、この手の天体リストに無い星をSeestar で観測すると、ファイル名やフォルダ名が “unknown” になったり、視野内の恒星名や暗い銀河名になったりするが、今回はちゃんとファイル名に “U Monocerotis” と表記されていた。しかしまぁ、アプリの星図上で変光星の表記ができるということは、代表的な変光星のリストをアプリ側で持っているわけで。ならアプリの天体検索でヒットするようにアップデートして欲しいなぁ、ZWOさん (^^;

 なお、U Mon脈動型変光星の一種で、その中でも RV 型 (おうし座RV型) に分類される星である (参考: Mira House / 脈動型変光星)。明るさは約5.5~7.7等の幅で変光を示し、約91日の変光周期を持つ。その他、主な諸量は VSX を参照されたい。

観測について

 観測は2023年12月7日の晩に実施した。23時前の観測だったので、高度は約20度となり、少々低い観測となってしまった。そのため画像が光害の影響か、少しカブっている。画像は合焦状態に加え、ぼかし具合を適当に大中小とし、3パターン撮影した。いずれも約1分間撮影したので、5~6枚の画像がスタックされている。

 なお、Seestar のマニュアルフォーカス (MF) 機能は、設定を有効にすると、プレビュー画面内の左端に、フォーカスの操作パネルが表示される(記事冒頭の画像参照)。さらに、フォーカス・ポジションが数値で表示されており、この情報は FITS ヘッダーにも書き込まれている。この数値は、デフォーカスの再現性の目安になりそうだ。デフォーカス状態で同じ星を継続観測する場合、合焦状態からどれだけ数値を動かせば良いのか、相対的な目安として用いると良いだろう。

Seestar で観測した画像のFITSヘッダー (マカリィで表示). 黄色で示した部分が記録されているフォーカス・ポジションの数値.

アパーチャー測光

観測で得られた画像 (カラー) と U Mon をアパーチャー測光した様子. 測光はG画像を用い、AIP4Win V2 で行っている. なおSN比については、AIP4Winが計算したものである.

 まず目的星となる U Mon についてアパーチャー測光を行ってみた。画像はスタック済みのカラーFITSをマカリィG画像のみ抽出・保存。測光には AIP4Win V2 を使った。上図のピンボケ画像や測光時の profile を見てわかる通り、デフォーカスすると星像は面積が大きくなり、中央部が少し暗く(ドーナツ状に)写る。この星像 (輝度分布) を試しに、salsaJ というヨーロッパの天文教育ソフト(フリー)で 3D 表示すると、以下のようになる。

デフォーカス状態の U Mon の星像 (輝度分布) を salsaJ で3D表示した様子 (G画像 / Focus Position = 1514). まるで火山のカルデラみたい.

 このようなドーナツ状の星像のアパーチャー測光は、まず面積の拡大に伴い、アパーチャーのサイズを大きめにとる必要がる。さらに、アパーチャーの外環(スカイ部分)に、肥大した他の星が入ってくる場合があるので、アパーチャーのサイズに注意しなければならない。さらにアパーチャーをあてるさい、ソフト側に重心の位置を自動で探す機能がある場合は、探索範囲によってドーナツの中央部ではなく、外輪部分にアパーチャーの中心があたることもあるので、注意が必要である。

 さて、まず合焦位置では当然、U Mon は約6等台ということもあり、飽和していた。一方で、デフォーカスした画像では、3パターンとも飽和を回避することができている。併せて、U Mon よりも暗い約9等の星 (TYC5400-821-1) についても、比較としてアパーチャー測光をやってみた(下図参照)。合焦状態とデフォーカスでは、SN比はピンボケのほうが若干良いみたいだが、大きな差があるわけではない。

U Mon と同じ視野に写っていた約9等の星 (TYC5400-821-1) について、アパーチャー測光した様子. 測光はG画像を用い、AIP4Win V2 で行っている. なおSN比については、AIP4Winが計算したもの.

 以下、各画像と各星の数値をテーブルでまとめておく。なおデフォーカス時、数値のステップが80、25、35という刻みで減っていくことに、大きな意味は無い(単にいい加減に決めただけ)。このあたりは、 検証なんだから、もう少しステップの幅を50ずつ減らすなど、均一にしておくべきだったと反省 (^^;

Focus Position (FP)FPの合焦位置との差U Mon のピークカウント値TYC5400-821-1 のピークカウント値
1654
(合焦)
65495 (飽和)15946
1574
(ボケ小)
80361373156
1549
(ボケ中)
105226872125
1514
(ボケ大)
140131191683

 今回、初めてデフォーカスして Seestar で撮影を行ったが、一つわかったことがある。実は Seestar はボカしすぎると、スタックエラーが起こるのだ。しかもSeestar はスタックエラーが起こると、スタック前の画像を個々に保存する設定を有効にしていても、エラーが起こった画像は1枚も保存してくれないのである。今回のボケ大の画像については、スタックエラーが起こる瀬戸際で、これ以上デフォーカスすると、観測が行えなかった。シーイングなど空の状況にもよるだろうが、デフォーカスした状態での撮影は、Seestar の場合、合焦位置から Focus Position を140くらいずらした点が限界なのかもしれない。

U Mon の等級を算出

マカリィで U Mon 等を測光している様子 (G画像). 1~9番の星を比較星とした.

 U Mon の等級 (cG) を算出するために、G画像についてマカリィで測光した。目的星となる U Mon に加え、9つの比較星を測り、等級の算出には神奈川県の永井和男氏が開発された digphot4 を使用している。なお測光した画像については、ボケ大中小(3パターン)とも測光してみた。以下、ボケ中 (Focus Position = 1549) の digphot4 の結果画面を示す。併せてデフォーカス3パターンの測光結果を表にまとめておく。いずれの画像においても、U Mon の明るさは約6.4等という感じで、今回の検証ではボケ具合によって、測光値が大きく変わることは、あまり無さそうである。さらに同日の VSOLJ の報告とも大きな矛盾はないように見える。ただし、冒頭でも述べた通り、画像が少しカブっているのと、高度が20度程度だったこともあるので、今回他の観測者との比較は大雑把なコメントに留めて置く。

 なお比較星は9個中8個が約9~10等の星で、1つだけ6等台の星となる。digphot4 のグラフを見てもわかる通り、いささか乱暴なフィッティングかもしれないが… まだ1個だけでも6等台の比較星がいたことが、功を奏しているかもしれない。

digphot4 によるU Mon の等級 (cG) の算出結果. この結果は “ボケ中 (Focus Position = 1549)” の画像の測光データを用いている. 比較星の等級 (カタログ値) は UCAC4 を参照した.
Focus PositionU Mon の等級 (cG)err相関係数
1574
(ボケ小)
6.350.070.995
1549
(ボケ中)
6.380.070.996
1514
(ボケ大)
6.380.080.995

 とりあえず、デフォーカスを駆使すれば、U Mon (約5.5~7.7等) の測光は Seestar でもできそうである。今後は、Seestar 単体で U Mon のライトカーブを描いてみたいので、しばらく観測を継続してみたい。

明るい星は何等まで測れる?

 Seestar でデフォーカス画像を用い、測光を行う場合、明るい星はいったい何等まで測れるのだろうか?今回、3パターンのボカし具合で画像を得たので、先の9つの比較星を使い、ピークのカウント値とV等級 (UCAC4) で線形モデルを作り、それを外挿して何等くらいで飽和するのかを調べてみた。

3パターンのデフォーカス画像より、線形モデルを作って計算したグラフ. 横軸はV等級、縦軸はピークのカウント値 (対数スケール表示). 飽和ラインは一応記録上16ビットなので、65536カウントで線引きをしている.

 グラフを読み取ると(今回の検証では)、ボケ小 (Focus Position = 1574) だと約5.4~5.3等で飽和、ボケ中 (Focus Position = 1549) だと約4.7~4.6等で飽和、ボケ大 (Focus Position = 1514) だと約3.5~3.4等で飽和すると考えられる。U Mon の変光幅を考慮すると、この星の継続的な観測には、ボケ中かボケ大で観測するのが適切だろう。

 先にも述べたとおり、Seestar はデフォーカスし過ぎると、スタックエラーが起こり、観測データが保存されない現象が起こる。今回の検証では、合焦位置から140くらい Focus Position を動かしたあたり(ボケ大)が観測可能なギリギリのラインだった。つまり、現状Seestar はデフォーカスを用いた場合、3等後半、あるいはもう少し余裕を見て、4等までの星であれば、十分測光可能ではないかと考えられる。

まとめ

 だいぶ長い記事になってしまったので、今回の検証を簡潔に、以下のとおり箇条書きでまとめる:

  • Seestar S50 でデフォーカスした画像 (U Mon) の測光を行った。
  • デフォーカスしたことで飽和を回避し、2023年12月7日晩の U Mon の測光値 (約6.4等 /cG等級) を得ることができた。
  • Seestar はデフォーカスし過ぎるとスタックエラーを起こす (エラーフレームについてはFITS画像が保存されない)。
  • デフォーカスした状態で観測できるのは、合焦位置から Focus Position を約 140 程度ずらしたところが、観測限界ではないかと考えられる。
  • デフォーカスを用いることで、約4等までの明るい星が測光できると考えられる。
    (合焦状態では明るい星は約8等まで)
カテゴリー: 観測機材 | タグ: , | コメントする

天体リストに無い天体の導入 (Seestar S50)

 以前書いた記事の最後に、Seestar S50 のアプリ内に無い天体の導入について、解説を書くかもしれない、と書き残しました。少々時間が経ってしまったが、やっとまとまった時間が作れたので、簡単な解説書を書いてみることに。とりあえず完成したものを以下 PDF で公開します。

解説書の表紙 (全16ページ). パワーポイントで製作.

 そのうち、RA, Dec を入力して導入できるようなアップデートがあるかもしれないので、それまでの繋ぎになれば幸いです。とは言いましても、かなり力業なので、天体観測の超初心者の方々には色々と難しいかもしれないやり方です。解説の内容としては、大半はフリーの星図ソフト Stellarium の使い方という感じです (^^; あくまで、自己流なので、もっとスマートなやり方があるかもしれませんね。場合によっては、必要に応じて解説書の改訂をすることがあるかも。


 なお、本件は星見屋さんより依頼を受け、日本変光星研究会の所属として実施しているものです。これまでの関連記事は以下のとおり:

カテゴリー: 観測機材 | タグ: | コメントする

SeeStar S50 を使った新天体の確認観測

 Seestar S50 を使った測光観測の検証、パート3として簡単なレポートを書き残す。本検証は星見屋さんより依頼を受け、日本変光星研究会の所属として実施しているものです。なお、これまでの検証については以下のとおり:

Seestar S50 で確認観測した TCP J23030178+4916384 の画像 (2023/11/15.546 UT). 画像はRGB 分解後のGプレーンとなる. 10秒露光37枚スタック.

 今回は試しに、新天体の確認観測(フォローアップ観測)をやってみた、というだけである。一応、これまでの検証結果をベースとして、測光も行っている。観測対象は、最近発見されたアンドロメダ座の TCP J23030178+4916384 という天体だ。この天体は今年11月11日に、中国の XOSS (Xingming Observatory Sky Survey) によって発見。TOCP によれば、その後、千葉の清田誠一郎さんがフォローアップ観測をされている(確認画像も清田さんのblogで拝見することができる)。ちなみに、天体の分類としては、まだよくわからんところですが、XOSS は UG (矮新星) の候補と言っている。

 Seestar S50 での観測は11月15日の晩に実施。総露出は6分10秒。測光時は37枚スタックされた画像を用いた。データ処理の流れは以前も紹介したとおりだが、一応箇条書きで以下に示しておく:

  • スタック済みの画像 (FITS) をマカリィでG画像のみ読み込む。
  • マカリィで計10個の比較星と目的星をアパーチャー測光。
  • 永井和男さんが製作された digphot4 を使って等級を算出。
    (比較星等級は UCAC4 を参照)
  • 観測時刻は個々に保存されたスタック前のFITSファイルより、中央時刻を計算。
TCP J23030178+4916384 の等級 (cG) を digphot4 で計算した様子.

 測光の結果、15.49±0.04等 (cG) という結果が得られた。一応、VSOLJ や AAVSO の報告も確認したところ、そんなにデタラメな数値では無い印象だった。そこで、勇み足かもしれないが、TOCP にフォローアップ観測として結果を報告をしておいた (清田さんの報告の下に私の報告が追記されている)。Seestar S50 での測光結果など信用ならん!と、管理者に削除される可能性もあるやもしれないが… (^^;

 ところで、以前も述べたとおり、この手の新天体や、Seestar のリストに無い天体の導入は、力業である。私の場合、適当な PC の星図ソフトと、Seestarアプリの星図とにらめっこしながら、「ふーむ、だいたいこのへんやな」とアタリをつけて、えいやっ!と導入する。いずれ、アプリ側のアップデートで、任意の RA, Dec を入力して導入することができるようになる気もするのだが… もし需要がありそうなら、ビギナー向けに、このような力業の天体導入について、blog 記事を書くかもしれない。

カテゴリー: 新天体, 観測機材 | タグ: | コメントする

SeeStar S50 を使った食変光星の測光観測

 先月、10月にアップした “SeeStar S50 を使った測光観測の検証” の続きを書きたいと思う。ただし、相変わらず変光星の測光観測について予備知識が無いとわかりにくい点が多々あると思うので、この点は予めご容赦願いたい。本件は、星見屋さんから依頼を受け、日本変光星研究会の所属として、機器の観測的な検証を行っている。

 今回は、前回の記事の末尾に「さらに検証したいこと」として挙げていた短周期の食変光星の測光を実施した。ターゲットにしたのは「くじら座TW星」という星である(以下、TW Cetと表記)。観測は2023年10月15日の晩に実施し、約2時間程度、連続で撮影をし続けた。この星を選んだのは、永井和男氏による食変光星の予報に従えば、明るさ&変光幅を加味した上で、ちょうど副極小が観測できそうだったことが大きい。

 SeeStar S50 はアプリのバージョンアップに伴い、様々な機能が付加されている。その中で、Ver. 1.8 からスタック前の画像を個々に保存する機能が備わった。このオプション設定を用いることで、連続測光観測 (time-resolved photometry) が可能になると思い、検証した次第である。

 結論(光度曲線)から先に示すと、食変光星のリアルな変動(副極小)が測光できていそうである(観測開始の明るさから約0.6等暗くなり、また明るくなる様子が受かっている)。測光にはRGB分解後のG画像を用いており、アパチャーを使った比較星との差測光となる。測光ソフトは、とりあえず手持ちでササっと動かせる AIP4Win V2 を使用した。光度曲線上には2点ほど大きくずれた数値もあるが、これは K-C も連動しているので、突発的なノイズの影響かもしれない。口径5cmではあるが、明るさや変光幅次第では SU UMa 型矮新星の superhump も観測できそうな気がする。

SeeStar S50 で観測した食変光星 TW Cet の光度曲線 (2023年10月15日). 凡例にも示した通り、K-C は -0.4 等オフセットしている.

 ちなみに、TW Cet という星は EW 型の食変光星で、軌道周期は約7.6時間。変光幅は約10.4等~約11.2等となる。その他、詳細は AAVSO の VSX をご覧頂ければと思う。なお光度曲線化は、エクセルでも gnuplot でもなんでも良いのだが、院生時代に自作した R コードを久々に走らせた。

2023年10月15.6323日 (UT) 撮像された TW Cet の画像 (debayer 後のカラー画像). 露出時間は10秒. V=TW Cet, C=比較星 (Vmag=9.44), K=チェック星 (Vmag=10.42). 南中付近で撮影した画像なので、画像の上がほぼ北になる. 比較星及びチェック星の明るさはUCAC4参照.

 上図が観測によって得られた画像の1枚だ。画像内のてきとうな約9等と約10等の星を比較星とチェック星に選んだ。このくらい目的星に近ければ、長時間(約2時間)の観測に伴う視野回転で、画角外に逃げていくことはなかった。

SeeStar S50で連続測光観測してわかったこと

 今回、観測データを撮ることに関しては、機材はほったらかしで良いので、大変楽チンだった(いつの間にか私は寝ていた)。そして後日、いざデータ処理(測光)してみようと手を動かしたところ、以下のことがわかったので、まとめておく。

  • スタック前の個々の画像データは debayer 前の画像(モノクロ)として保存されている。
    (実はスタック後の画像は debayer された状態で保存されている)
  • RGB 分解するには一旦 debayer 処理(3色カラー化)が必要となる。
  • スタック前のFITSファイルは、ファイル名に保存時刻が使われているが、FITSヘッダーには露出開始時刻で記録されている!(これは何気にありがたい)
    ※スタック後の画像のFITSヘッダーの時刻は画像保存時刻。
  • 測光中に気づいたが、10~20枚おきに星が写っている場所がジャンプする。そのため、AIP4Winの場合、アパーチャーの設定し直しが頻繁に起こる。
  • この現象は恐らく、SeeStar が追尾過程で時々視野を大きく修正しているのだと思われる。ただし、線状に写っている画像はほとんど無かったので、スタック処理中の数秒の間に修正されているっぽい。

debayer 化とRGB分解

 連続測光の場合、一晩に何百枚もデータを取得する。そのため、SeeStar S50で取得したスタック前の個々のファイルについて、連続測光を行う場合(RGB分解するためにも)、まずは大量のファイルを debayer 処理しなければならない。その後、測光に使いたいG画像を抽出するために、 RGB 分解する流れになる。この二つの事前処理は、ステライメージのワークフロー記録機能を使ってバッチ処理することも可能だ。しかし今回の検証では「普及」ということを考慮し、有料ソフトではなく、なるべくGUIがベースとなるフリーソフトを用いることを第一とした(Python なども候補に入れたいところだが、今回は敷居が高くなるのであえて候補外とした)。

 そこで、色々模索しているときに、星見屋さんの南口氏に教えて頂いたのが、Siril というフリーの天文画像処理ソフトである。

Siril の GUI (Windows版). 日本語にも多少対応している.

 このソフトは大量の画像ファイルに対し、 debayer 化する自動処理が標準で備わっている。カラーCMOSで撮ったFITSファイルは、観賞用の画像を処理するときもdebayer 化しないと前に進めないので、これは多くの人がハッピーになる機能だ。そして RGB分解についても、Siril で行うことができる。しかし、Siril の RGB分解は標準機能のままでは、単一のファイルに対してしか実行できない。

 その一方で、Siril にはコマンドラインが打てる機能がある。さらにスクリプトを読み込むこともできるので、うまくやれば、大量の画像ファイルに対して、自動でRGB分解したり、あるいはG画像のみ保存するような指令が出せるのではないかと思われる。この点について、一度半日くらい模索したのだが、残念ながらナンチャッテ三流 R 使いではすぐに解決できなかった(あと測光機能まであるらしいので、うまく活用すれば Siril 1本で全部解決しそうな気もする)。今回の検証では、大量の画像ファイルを一括してRGB分解する処理は、一旦他のソフトに譲ることにした。

 国内では同様の自動処理ができるフリーソフトとして、 “3p_rgb” という3色のFitsファイルをRGBに分解できるものがある。これは永井和男氏がデジカメ測光用に開発されたもので、 G 画像のみの抽出も可能な優れもの。ところが、私の環境下ではなぜか、debayer 後の FITS をRGB分解すると、全てのカウント値が約-3万くらいオフセットされたような状態で保存される現象が起きたため、今一歩のところで活用を断念することにorz

 そこで、他に色々調べたところ、フリーソフトとして Fitswork というソフトが浮上した。このソフトには様々な画像処理について、複数のファイルに対してバッチ処理してくれる機能がある。その中にRGB分解も含まれているが、G画像のみ抽出するというような、痒いところに手が届く機能は無い。さしあたり検証に不要な R, B の分解画像については、PCのストレージを圧迫するので、私はすぐに削除した。

Fitswork のGUI (英語版). バッチ処理の中に、RGB分解の項目があり、複数のファイルを自動で処理してくれる. ソフトは日本語版もあるが、個人的には英語版のほうがわかりやすい.

さいごに(まとめと課題)

 今回の検証を以下のようにまとめる。

  • SeeStar S50 で短周期の食変光星(TW Cet)の連続測光観測を行った(約2時間)。
  • AIP4Win V2 でG画像について測光した(アパチャー測光、差測光)。
  • その結果、観測開始の明るさから約0.6等暗くなったあと、再び明るくなる副極小を捉えることができた。

  • スタック前の個々のFITS画像はdebayerされていない(モノクロ状態)。
    (スタック後の画像はdebayer済みで保存されている)
  • スタック前の個々の画像の時刻は、FITSヘッダーに露出開始時刻で記録されている。

  • Siril の標準機能で、大量のFITSを自動でdebayer 化できる。
  • Fitswork の標準機能で大量のFITSを自動でRGB分解できる。

  • 測光ソフトにかけるまで、現状debyer 化とRGB分解が2本のソフトにまたがり作業が煩雑。
  • 自前のスクリプトを書いてSiril 1本で debayer 化とRGB分解ができないか?
    (ついでに Siril で測光もやってしまう?)
  • SeeStar S50 を使った変光星観測は、ビギナーユーザーには現状1日1点で済むような観測を提案するほうが、ハードルが低くて良さそう。
  • 本機を使った連続測光観測はデータ処理の面で、ハードルが少々高くなりそうだが、Siril の活用次第で、状況は変わるのかもしれない。
カテゴリー: 観測機材 | タグ: , , | 4件のコメント

SeeStar S50 を使った測光観測の検証

はじめに

 このたび、星見屋さんの依頼を受け、日本変光星研究会の所属として、ZWO社SeeStar S50 を使った変光星の測光観測について検証を行うことになった (2023年9月上旬より)。デモ機を星見屋さんから送って頂き、それを検証機として用いている(なお検証に伴う報酬は一切受け取らない)。

2023年9月上旬、星見屋さんからデモ機として送られてきた SeeStar S50.
開封してみたところ. 本体とミニ三脚がすっぽり収まるケースに入っている.
夜間、自宅の庭で運用しているところ. 赤色 LED はバッテリー残量の表示.

 本記事は検証結果を備忘録的に書いていることを先に断っておく(※2023年10月時点の内容なので、アプリのアップデートにより機能等が変わっていることもあるので注意されたし)。予備知識として変光星の測光観測(CCD又はデジカメ測光)をしたことがないと、よくわからないことが多いと思われる。今後、測光結果が VSOLJ に報告しても良さそうであれば、将来的には SeeStar S50 を使ったビギナー向けの変光星観測のマニュアルを作る予定である。

 SeeStar S50 の基本的なレビュー(操作感や撮像等)については、他のレビュワーにまかせるが(天文ガイド11月号にもレビュー記事がありますね)、測光にも関わってきそうな機器の基本スペックについては以下に示しておく。

口径5cm
口径比F4.9
焦点距離246mm
イメージセンサーIMX462 (カラーCMOS)
センサーサイズ1/2.8″
解像度1080×1920
ピクセルサイズ2.9×2.9μm
A/Dコンバーター12bit
画角約0.7°×1.3°(縦長に撮影される
※1ピクセルあたり約2.4秒角
架台経緯台式
制御スマホアプリ (Seestar) より

FITSデータについて

 SeeStar の画像データはスマホで操作していると、スマホ内に画像データがとりこまれるが、これは JPEG 形式である。測光に必要なRAWデータは、FITS形式で機器内部のストレージに保存されている。FITS データを取り出すさいは、付属のUSBケーブルを使ってPCに繋ぐと SeeStar を外部ストレージとしてPCが認識するので、FITSデータを抜き出すことができる。

 SeeStar は10秒露光で撮影したデータをどんどんライブスタックして、S/Nを向上させながら撮影するスタイルの機器だ(用途は電視観望が主たる目的)。そのため、現状保存されるデータはRAW形式 (FITS) であっても、スタック後のデータが基本となる(アプリのバージョンアップに伴い、Ver. 1.8 でスタック前の画像が保存できるオプションが追加されたらしい)。ちなみに、現在のアプリの仕様では、露出時間は10秒で固定されており、変更することはできない (※その後、アプリのアップデートに伴い、20秒、30秒が選択できるようになった)。

 さて、まずはFITSデータのヘッダー部を見に行ってみたところ、以下のように記録されていた (このときアプリの Ver. 1.6.0)。測光する上で気になるパラメータはBITPIXDATE-OBSGAINEXPTIMEあたりだろうか。まず16ビットで記録されているようなのだが、チップは12ビットだった気がするのですが、なぜでしょう?あと、記録上GAIN は0らしいです。露出時間(EXPTIME)については10秒となっており、STACKCNTでスタック枚数を確認することもできる(下記の場合17枚スタック)。それから、DATE-OBS ですが、これは確認すると、ファイルを書き込む時間であり、露出開始時刻でも露出中央時刻でもない。あと撮影領域の(恐らく画像中央部の)RA, DEC がきちんと記録されていた。

SIMPLE = T / file does conform to FITS standard BITPIX = 16 / number of bits per data pixel NAXIS = 3 / number of data axes NAXIS1 = 1080 / length of data axis 1 NAXIS2 = 1920 / length of data axis 2 NAXIS3 = 3 / length of data axis 3 EXTEND = T / FITS dataset may contain extensions COMMENT FITS (Flexible Image Transport System) format is defined in 'Astronomy COMMENT and Astrophysics', volume 376, page 359; bibcode: 2001A&A...376..359H BZERO = 32768 / offset data range to that of unsigned short BSCALE = 1 / default scaling factor CREATOR = 'ZWO SeestarS50' / Capture software XORGSUBF= 0 / Subframe X position in binned pixels YORGSUBF= 0 / Subframe Y position in binned pixels FOCALLEN= 250 / Focal length of telescope in mm XBINNING= 1 / Camera X Bin YBINNING= 1 / Camera Y Bin CCDXBIN = 1 / Camera X Bin CCDYBIN = 1 / Camera Y Bin XPIXSZ = 2.90000009536743 / pixel size in microns (with binning) YPIXSZ = 2.90000009536743 / pixel size in microns (with binning) IMAGETYP= 'Light ' / Type of image STACKCNT= 17 / Stack frames EXPOSURE= 10. / Exposure time in seconds EXPTIME = 10. / Exposure time in seconds CCD-TEMP= 31.375 / sensor temperature in C RA = 325.94166 / Object Right Ascension in degrees DEC = 58.910556 / Object Declination in degrees DATE-OBS= '2023-09-07T13:29:18.968887' / Image created time FILTER = 'IRCUT ' / Filter used when taking image INSTRUME= 'ZWO ASI462MC' / Camera model BAYERPAT= 'GRBG ' / Bayer pattern GAIN = 0 / Gain Value FOCUSPOS= 1723 / Focuser position in steps CTYPE1 = 'RA---TAN-SIP' / TAN (gnomic) projection + SIP distortions CTYPE2 = 'DEC--TAN-SIP' / TAN (gnomic) projection + SIP distortions CRVAL1 = 325.864657001 / RA of reference point CRVAL2 = 58.4367581555 / DEC of reference point CRPIX1 = 620.462905884 / X reference pixel CRPIX2 = 424.348834991 / Y reference pixel CD1_1 = 0.000653455368759 / Transformation matrix CD1_2 = 8.05007464939E-05 / no comment CD2_1 = -8.05028320475E-05 / no comment CD2_2 = 0.000653512893025 / no comment A_ORDER = 2 / Polynomial order, axis 1 B_ORDER = 2 / Polynomial order, axis 2 AP_ORDER= 2 / Inv polynomial order, axis 1 BP_ORDER= 2 / Inv polynomial order, axis 2 A_0_0 = 0 / no comment A_0_1 = 0 / no comment A_0_2 = -8.30492838653E-08 / no comment A_1_0 = 0 / no comment A_1_1 = 2.8993066821E-07 / no comment A_2_0 = -1.56753469845E-07 / no comment B_0_0 = 0 / no comment B_0_1 = 0 / no comment B_0_2 = 9.10789361412E-09 / no comment B_1_0 = 0 / no comment B_1_1 = 1.11958634748E-07 / no comment B_2_0 = -2.18285922543E-07 / no comment AP_0_0 = 7.79688085006E-06 / no comment AP_0_1 = 8.44448105368E-09 / no comment AP_0_2 = 8.30006016543E-08 / no comment AP_1_0 = -4.3014317931E-09 / no comment AP_1_1 = -2.89818945813E-07 / no comment AP_2_0 = 1.5672062992E-07 / no comment BP_0_0 = 9.43750745103E-06 / no comment BP_0_1 = -4.5521709248E-09 / no comment BP_0_2 = -9.12833091452E-09 / no comment BP_1_0 = -1.35940894416E-09 / no comment BP_1_1 = -1.11859946114E-07 / no comment BP_2_0 = 2.18202657047E-07 / no comment IMAGEW = 1080 / Image width, in pixels. IMAGEH = 1920 / Image height, in pixels.

何等まで写るのか?

 先に示したFITSヘッダーの画像を以下に示す。これはテストで撮った μ Cep (ガーネットスター)で、スマホ内に保存されたJPEG画像となる(いわゆる撮ってだし)。画像は露出10秒で17枚スタックされている(総露出時間170秒)。ちょうど南中を過ぎたあたりで撮影したこともあり、画像の上がおおむね北になっている(ただし、撮って出しは上が南だったので、本記事の画像は180°回転をかけている)。

中央に写っているのがμ Cep (ガーネットスター). 2023年9月7日22時29分頃 JST 撮影 (露出10秒×17枚スタック). 時刻はFITSヘッダーから採用しているので、正確には撮影終了時刻となる.

 測光の検証をする前に、単純に画像の見た目だけで、何等まで写っているのか確認をしてみた。比較のさいは、カラー画像をマカリィで読み込み、R, G, B画像のうちG画像を用いている。星表 UCAC4 のV等級と比較したところ、SeeStar S50 (10秒×17) の画像から、16等台の星が写っていた。なお、観測地は自宅の庭で、新月期であれば夜空の明るさは約 20.3 mag/□” となる。

【左】Aladin Sky Atlas の画像. 【右】先のμ Cep の画像の一部.
(【右】の写真はG画像, レベル補正あり)

 16等台が写るということは、当然のことながら冥王星も写るだろうと思い記念撮影。以下のとおり、バッチリ写っていた (ステナビによれば14.4等らしい)。しかしながら、架台が経緯台なので、どれが冥王星なのか同定する場合は、比較する星図が地平座標になっていないと、ビギナーには難しいかもしれない(ステナビなどのソフトを持っていれば座標系をすぐ切り替えられるので問題ない?!)。変光星観測に用いる場合も、目的星の同定は撮像前の必須作業なので、経緯台の場合、星図との比較はある程度の慣れや工夫が必要といったところか。

2023年9月12日21時04分頃 JST に撮影した冥王星. 10秒×19枚スタック (撮って出し).

とりあえず測光してみた

 さて、長い前置きになったが、カラーCMOS画像は測光できるのか?そこでかつて、自分がデジカメ測光の検証でやったことを少し試してみることにした (げげっ!デジカメの検証ってもう13年も前のことなんだ・・・)。

 まずはFITSデータ (先のμ Cep の画像) をマカリィで、G画像のみ読み込む。読み込んだG画像に対し、そのまま飽和していない星について、約30個測光してみた。そして、UCAC4 のV等級を参照し、横軸に器械等級、縦軸にV等級をとってグラフを描いてみると以下のようになった (当然、μ Cep は明るすぎて飽和している)。

SeeStar S50 の撮像データ (10秒×17枚スタック) のうちG画像について測光した結果. 器械等級はマカリィの測光結果より計算. V等級は UCAC4 を参照した. 右上がりに示した破線は、ただの直線で、回帰直線ではない.

 一応、デジカメと同じような感じで、線形性が確認できる。明るい星は8等くらいまで飽和していなさそうで、暗い星は15等くらいまでなら一応測れそうな感じだ。

 ちなみに、飽和していた星のカウント値を見ると、6万5千カウントを超えていた。つまり、FITSのヘッダーにもあった通り、記録じたいは16ビットだということがわかる。しかし、例えば同型のチップを搭載した ZWO ASI462MC についても、12ビットだよ、と表記がなされている。これって本当は12ビットなのに、疑似的に16ビットで記録する「魔法」が使われているようなのだ。もし詳しい方がいれば、この「魔法」が何なのかご教授頂けると幸いである m(__)m

 あと、SeeStar S50 に搭載されているCMOSチップ (IMX462 / ASI462MC) の分光感度特性、これは一応公開されている。グラフを見ると、G画像は 650nm から赤外に至るまで感度があるようだ。しかし、SeeStar S50 には星見屋さんの FAQ にもある通り、UV/IR カットフィルターが標準装備されている。ZWO で公開されているフィルターの透過域を信じるなら、700nm より長い波長域についてはカットされている。ではフィルターありの状態でR, G, B の分光感度特性がどうなっているのか、それは公開されてないし、多分誰も調べたことがなさそうなである。この点については、一度自分で回折格子でも使って測定してみる必要がありそうだ。

 それから、測光のさい1次処理(ダーク&フラット)については、ダークのみ処理された状態になっている。SeeStar S50 は撮像をはじめるさい(以下のスクショのような表示が出て)、ここで必ず最初にダークを撮る動作が入るようになっているらしい。本機は内臓フィルターホイールにダーク用の遮蔽板が入っており、撮影時に自動で勝手にダークを撮って減算もしてくれるようなのだ。

SeeStar S50 の撮像開始前の動作画面. このプロセスでダークが撮像されているらしい.

SS Cyg のモニターと測光

 G画像については、とりあえず線形性も確認できたので、1日1点の観測ですむ変光星で測光のテストをしてみることにした。目的星は結果がわかりやすい矮新星の親分こと SS Cyg (はくちょう座SS星) をチョイス。明るさの変動幅的にも SeeStar S50 との相性は良さそうで、運よくちょうどモニターを初めてからすぐに、以下のようにアウトバーストを検出できた。

SeeStar S50 で観測した矮新星 SS Cyg (画像はG画像). 黄色マークの先にある星が SS Cyg となる. 画像左側が静穏時の暗い姿、右側がアウトバースト時の明るい姿. 画像の上がほぼ北. 円形にトリミングしているのは、視野回転の影響があるので、長方形の画像のままでは (綺麗に見た目良く) 南北を合わせるのが難しかったため.

 ここで、国内のデジカメ測光で主流になっている、”cG” 等級を求めてみることにした。この光度体系は VSOLJ 内で約10年は使用されており、デジカメのG画像について星表のV等級と比較して等級を求めた場合に用いられている。将来的にビギナー層への波及も想定し、計算には永井和男氏がデジカメ測光用に開発されたフリーソフト digphot4 を用いることにした1。このソフトは器械等級とカタログ等級から最小二乗法で1次の近似式を求め、その近似式を使って目的星の等級を算出している。以下に、9月12日における計算の様子(スクショ)を示す。その結果、12日の SS Cyg の明るさは約 11.64 等 (cG) という値が求められた。

 同様に他の数日分の観測日についても測光したので、結果を併せてテーブルに示す。

永井和男氏が開発した digphot4 を用い、SS Cyg の cG 等級を計算した様子. 画像の測光はマカリィにて行い、その結果をソフト内にコピペ. カタログ値は UCAC4 の V等級を参照した.
Date (UT)mag (cG)err
2023/09/12.52711.640.05
2023/09/13.50611.760.05
2023/09/14.51611.720.05
2023/09/25.5568.710.02
2023/09/27.5228.860.06

 計5日間の測光の結果、cG 等級としては良好な結果を得ているように見える。ついでにVSOLJ に報告されている SS Cyg のデータと併せてライトカーブを作ってみた。ライトカーブに落とし込んでみても、SeeStar S50 のG画像を用いた測光結果 (cG) は、他の観測者と大きな差はなさそうである。

SS Cyg のライトカーブ (2023年8月~10月頃までの期間). データは VSOLJ より. SeeStar S50 の測光結果 (cG) は赤色のバツ印で表記している.

現段階のまとめ

  • SeeStar S50 (カラーCMOS) で観測されたFITSデータについて、R, G, B 分解し、G画像について測光の検証を行った。
  • 測光にはフリーソフトのマカリィ(国立天文台)を用いた。
  • その結果、G画像の器械等級とUCAC4 のV等級の間に、線形性が確認できた。
  • 現在の SeeStar S50 の仕様だと(露出時間が10秒固定なので)、およそ8~15等の星が測光可能と考えられる。
  • SeeStr S50 で SS Cyg のモニター観測を数日間行い、アウトバーストが検出できた。
  • デジカメ測光と同じ方法で、SS Cyg の cG 等級 (digphot4 / 製作者: 永井氏) を求めたところ、VSOLJ の報告データと大きく矛盾しない結果が得られた。

SeeStar S50の良き点(測光観測をする上で)

  • 望遠鏡が軽くて、設置と撤収が非常に楽ちん(観測もすぐはじめられる)。
  • 設置時は特に望遠鏡の向きや方位を気にしなくて良い。
  • オートフォーカスがきく。
  • バッテリー内臓なので、電源が不要。
  • 約8万円(電視観望用のオールインワン望遠鏡としては破格)。
  • スマホから無線 (WiFi) で制御するので、室内から観測できる。
  • ZWO 社のプレートソルブ機能により、天体の自動導入で困ることがほぼ無い(初心者に超やさしいと思う)。※ただし、変光星などリストに無い天体の導入にはコツがいる。

気になる点

  • 露出時間が10秒のみ(※その後アプリのアップデートで20秒、30秒が選択可)。
  • Gain は本当にゼロなのか?2
  • 12ビットのチップなのに、16ビットで記録されているのは何故?3
  • 変光星などアプリのリストに無い天体は、アプリの星図とファインディングチャートなどを頼りに導入位置を見定め、プレートソルブするしかない。
  • 経緯台なので、撮影された画像の南北がつかみづらい。(目的星の同定は、地平座標が表示できる星図ソフトと見比べると良き。)
  • ライブスタック後の画像に記録されている時刻は撮影終了時刻となる。(測光を目的とする場合は、スタック前の画像を個々に保存する設定にして、1枚目の画像と最後の画像から露出中央時刻を算出する必要がある。)
  • そもそも時刻は何と同期している?(スマホの時計?)

  1. [2024年2月8日追記] digphoto4 をWindowsで動かす場合、必ず “Visual Basic 5.0(SP3) ランタイム” を併せてインストールしてください。これを入れないとソフトが起動しません。 ↩︎
  2. 他の画像も調査したところ、2023年9月7日~14日の期間に撮影したデータは全て、Gain = 0 でした。このときアプリのVer. 1.6.0 又は 1.7.1 となる。一方で、9月25日、27日のデーは全て Gain = 80 で記録されていました。9月21日にアプリのアップデート(Ver. 1.8)があったので、これが原因でGain =0 から 80 で撮影されるようになったのか、あるいは元々 Gain = 80で撮ってたけど、FITSのヘッダーにちゃんと書き込んでいなかったのか。どっちかですね。なお星見屋さんの情報では、10月12日にアップデートされた Ver. 1.9 においてもGain = 80 で記録されているとのことです。(参考: アプリの更新履歴はDLサイトから見れる) ↩︎
  3. [2023年10月15日追記] この件について岡山の Mhh さんと O さんからコメントを頂戴しました。そもそも、FITS の BITPIX はルールとして 12 bit が記述できないようなのです(有効なBITPIX値: 8, 16, 32, 64, -32, -64 / 参考: FITS ユーザーズガイドより)。そのため、便宜上FITSのヘッダーは 16 bit で記述する必要があるのでしょう。ちなみに、ZWOのライブスタックという処理は加算平均だと思われるので(星見屋さんにも確認済)、それならば、飽和している星のカウント値は12ビット (カウント値4096) のまま頭打ちになるはずだ。ところが、先にも書いたとおり、飽和している星のカウント値は65536に達している。なお、数枚程度のスタック画像も、80枚近くスタックした画像も BITPIX は16となっており、ファイルサイズもほぼ同様だ。まだよくわからないが、12ビットを16ビットに(見かけ上)再スケールするような処理が働いているのかもしれない。 ↩︎

期待したいアップデート

 星見屋さん曰く、将来的にアプリ側のアップデートで、”pro” モードなるものが追加されるかもしれないとのこと。それを見越して?、変光星の測光観測にもあったら嬉しい機能を以下に挙げてみた。

  • 露出時間の変更オプションがあれば嬉しい。これが可能になれば、暗い星を測光する場合は多少なりとも S/N 向上が期待できる(ただし、経緯台式なので、視野回転のことを考えると、10秒より長い露光はあまり現実的ではない側面もあるだろう)。一方で、10秒より短い露出時間が使えれば、もう少し明るい星が測光できようになるなど、観測対象の幅が広がるはずである。
  • 簡便に矢印とかでも良いので、画像の南北を表示できるオプションがあると嬉しい(プレートソルブを使っているので、アプリ側で南北の把握は容易なはず?)。
  • 現状、星図ソフトにGCVS名(変光星名)をちらほら確認できるが、検索リストには入っていないので、GCVSを追加DLして検索できるオプションがあると嬉しい(観測効率が劇的にアップするはず)。
  • 任意の天体(RA, Dec)をリストに追加できるオプションがあると嬉しい(新天体に対応しやすくなる)。さらに、RA, Dec を直接入力して導入する機能もあると嬉しい。
  • 時刻の記録方法のオプションがあると嬉しい(例: 露出開始時刻、露出中央時刻、露出終了時刻の3パターンなど)。
  • 変光星の測光ができるのであれば、掩蔽観測(恒星食)にも使えそうな気がする。動画の撮影機能やオプションが充実すれば、色々検証ができそうだ(例えば動画撮影時の露出制御、スマホのGPSを使った時刻の強制同期、映像内に1/1000秒までの時刻をスーパーインポーズ、avi での保存… etc.)。

さらに検証してみたいこと

  • 透過型回折格子を使った R, G, B 画像の分光感度特性の測定(UV/IRカットフィルターが入った状態でどうなっているのか?)
  • アプリが Ver. 1.8 になったことで、スタック前の画像をFITSで個々に保存できるようになっている。そこで、それらのファイルを使って連続測光観測を試してみたい。観測対象は短周期の食連星など。
  • Ver. 1.8 のアップデートには、マニュアルフォーカス機能も備わったらしい。 現状、露出時間の変更ができないので、デフォーカスすることで、8等よりも明るい星の測光に使えないか検証してみたい。
カテゴリー: 観測機材 | タグ: , | コメントする