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Framework / multi-paradigm guy, see https://goo.gl/WfWqP4

ここで、私がよく質問されることを取り上げたい。実験で検証されていなければ、どうして理論について自信をもって話せるのか?私がたったいま語ったのは、こうした状況の一例だ。新皮質には座標系が満ちあふれているのだとひらめいてから、私はすぐにそれについて自信をもって語り始めた。本書を書いているいま、この新しい考えを裏づける証拠は増えているが、まだ徹底して検証されてはいない。それでも、この考えを事実として説明することにためらいはない。理由はこうだ。

私たちが問題に取り組むとき、私が制約と呼ぶものが見つかる。制約とは、問題に対する解決法が対処しなくてはならないものだ。シーケンス記憶を説明するとき、曲名当てクイズなど、制約の例をいくつか挙げた。脳の生体構造と生理機能も制約だ。脳の理論は最終的に、脳の細部をすべて説明しなくてはならないし、正しい理論はそうした細部のどれも無視できない。

問題に取り組む時間が長ければ長いほど、たくさんの制約が見つかり、解決法を推測するのが難しくなる。本章で説明した発見の瞬間は、われわれが長年取り組んだ問題についてのものだ。そのため、われわれはその問題を深く理解していて、制約のリストは長かった。解決法が解く制約の数が増えれば、その解決法が正しい可能性は飛躍的に高まる。クロスワードパズルを解くようなものだ。たいてい、個々のヒントに合致する言葉はいくつかある。その言葉のひとつを選ぶと、まちがいかもしれない。交差してうまく当てはまる二つの言葉が見つかれば、両方とも正しい可能性ははるかに高い。交差する言葉が10個見つかれば、すべてがまちがっている確率はとても小さい。心配せずに答えをペンで書ける。

発見の瞬間は、新しい考えが複数の制約を解くときに生まれる。問題に取り組んだ時間が長ければ長いほど――ひいては解決法が解く制約が多いほど――目からうろこが落ちた気持ちは強く、答えに対する自信は強い。新皮質には座標系が満ちあふれているという考えは、非常に多くの制約を解決したので、私はすぐにそれが正しいとわかったのだ。

『脳は世界をどう見ているのか』(Jeff Hawkins著、大田直子訳、早川書房, 2022, ISBN 978-4152101273)pp.78-79 第1部 脳についての新しい理解 第4章 脳がその秘密を明かす

ある何かの<なりたち>、あるいは組織とは、いったいなんなのだろう?この問いはとても単純なものであり、潜在的に複雑なものでもある。<組織>とは、その何かが存在するためになくてはならない、いろいろな関係のことだ。この物体は椅子だ、と判断するためには、脚だとか背もたれだとか底板だとか呼ばれている部分どうしのあいだに、人に坐らせることを可能にする、ある種の関係を見いだすことができなくてはならない。それが木と釘でできているか、プラスティックとねじでできているかは、その物体をぼくが椅子として分類することには、なんのかかわりもない。ある物体の組織をさししめしたり区別したりすることにより、その組織を暗黙のうちに、または明言的に、認識する。このような状況は、それをぼくらが基本的な認識行為としてコンスタントにおこなっているという意味で一般的なものであり、その本質は、なんらかのタイプの<集合(クラス)を創出すること>にほからなない。こうして、「椅子」という集合は、ぼくが何かを椅子として分類するために必要とする、さまざまな関係によって、定義される。またたとえば「良いおこない」とう集合は、おこなわれたアクションとその結果とのあいだに、そのアクションを良いものだと評価するためにぼくがとりきめた判断基準によって、定義される。

『知恵の樹』(Humberto Maturana, Francisco Varela著、管啓次郎訳、筑摩書房, 1997, ISBN 978-4480083890)pp.49-50 第2章 <生きていること>の組織

組織とは、あるシステムがある特定のクラスのメンバーとなるために、そのシステムの構成諸要素相互のあいだに存在しなくてはならない諸関係のことだ。構造とは、ある特定の単体を実際に構成しその組織を現実のものとしている、構成要素と関係の全体をさす。

こうして、たとえば水洗トイレを例にとると、水位調整システムの組織は、水位を探知することのできるしかけと、水が流れこむのを止めることのできるもうひとつのしかけとの、関係によって成立している。水洗トイレというユニットは、フロートとヴァルヴを作り上げている、プラスチックと金属の混合システムからなる。とはいえこの特定の構造は、トイレとしての組織を失うことのないままに、プラスチックを木に置きかえるという変更をくわえられることもできる。

『知恵の樹』(Humberto Maturana, Francisco Varela著、管啓次郎訳、筑摩書房, 1997, ISBN 978-4480083890)p.58 第2章 <生きていること>の組織