===> 後編へ続く

 東京放送(TBS)は,1997年7月に全国で最初に放送・通信融合サービスである地上アナログ・データ放送サービス「bitcast」を開始。さらにキー局の中で最も早くワンセグ放送の実証実験に取り組むなど,積極的にデータ放送を推進している放送局である。メディア推進局 1セグ放送開発部 兼 総合企画部の清水麻里氏にワンセグ放送の取り組みとサービス内容について聞いた。

(聞き手は隅倉 正隆=IT放送技術ジャーナリスト兼コンサルタント)


--- ワンセグ放送への視聴者の反応はいかがですか?

 ワンセグのデータ放送で,応援メッセージやプレゼントなどを募集しています。利用者からのアクセスは着実に増えてきています。

 ワンセグ放送サービス開始直後の2006年4月1日~2日に,福岡の「国営海の中道海浜公園」を舞台に開催された第34回IAAF世界クロスカントリー選手権福岡大会がありました。TBSではこの大会を放送し,ワンセグ・データ放送でプレゼントへの応募を行いました。このときはサービスを開始した直後ということもあり,告知が行き渡らず約7割が関係者からの応募でした。

 その後,FIFAワールドカップの開催中に,TBSでは試合の中継番組で番組連動データ放送を行いました。そこでは「サッカー通過ルチョ」という「予選TOP通過国予想」と「ベスト4進出国予想」のプレゼントの応募を行いました。これは,試合の中継をしていないときでも,ワンセグ・データ放送のTOP画面にある「FIFAワールドカップ」のコーナーへ行くと,応募ができました。

 このプレゼントの告知は,毎週土曜日24時放送の「SUPER SOCCER」というサッカー番組とワンセグのデータ放送だけでしたが,4月に比べると応募数はかなり増えました。関係者よりも実利用者の方からの応募が多くなるなど,着実に認知されてきているようです。その他に,応援メッセージも募集しましたが,こちらにも多くの応募がありました。

 ワールドカップの試合は,夜遅くの時間帯や深夜での放送でした。それでも,テレビの視聴とともに,ワンセグ放送からプレゼント応募や応援メッセージをもらえました。ここから,家庭でワンセグ対応携帯電話を片手に大画面のテレビで番組を視聴するスタイルが生まれていると想像しています。

--- サービスを始めて,サービス開始前の実証実験段階の予想と異なっていた点はありましたか。

 ワンセグ放送開始前は,当時のアンケート結果から,「朝・夕方の通勤・通学時間帯」の視聴が多いと言われており,私たちもそう思っていました。しかし,フタを開けてみると,ちょっと異なっていました。ワンセグ放送を開始して,1次リンク・コンテンツ(「第2回 ワンセグ放送のサービス・イメージ」の図3参照)のアクセス・ログの集計データを見たところ,ゴールデンタイムから深夜1時にかけて,多くのアクセスがあることが分かりました。

 つまり,「外出中」や「通勤・通学時間帯」だけではなく,「ゴールデンタイムとプライムタイム」での視聴も多いということです。ここからは想像ですが,家庭にいて固定型テレビを見ながらであったり自室などで,ワンセグ対応携帯電話で視聴しているのだろうと思っています。これは,時間帯別の利用傾向という意味では,インターネットの使われ方に似ています。

 今後は,ゴールデンタイムから深夜1時ごろまでの時間帯に,どこでワンセグ放送を視聴・利用しているかを調査してみたいと思っています。その結果から,どういう見方をしているかが分かると,コンテンツの作り方が変わってきますからね。工夫のしがいがあるところです。

--- ワンセグ放送によって,視聴機会は増えていると思いますか?

 先ほどもお話しましたが,平日の特に「ゴールデンタイムとプライムタイム」にアクセスがあります。これは,ゴールデンタイムから深夜にかけて,外出していたりインターネットに流れていた人たちが,ワンセグでテレビを見られるようなったということです。つまりワンセグをきっかけにして,テレビ視聴機会が増えてきていると感じています。

--- TBSでのワンセグ放送に関する具体的な取組,編成方針を教えてください。

写真1 TBSのワンセグ・データ放送TOP画面

 データ放送編成の考え方は「やっぱり生」です。ニュースやエンタテインメント系の番組の生番組で効果があると考えています。スポーツ番組などは良い例でしょう。生番組では,ほとんどの場合に番組に関連したコンテンツをデータ放送で表示するようにしています。それ以外には,バナーや文字が流れるティッカーで,番組宣伝情報を表示して,ワンセグだけでなく固定テレビでの視聴を促すようにしています。

 JNN(Japan News Network)系列で使用しているデータ放送コンテンツのTOP画面には,共通のテンプレートを使用しています。そのTOP画面の一番上に,ニュースや天気,番組情報を文字として伝えるための,ティッカーとその下に番組宣伝用のバナーを表示しています(写真1)。このティッカーとバナーは,1分ごとに表示する内容,つまり編成を変えられる仕組みにしています。きめ細かく表示する情報を変えられる仕組みがあることで,いわゆる「番組連動データ」を簡単に作れるのです。

 バナーでは,夕方の時間帯に当日のゴールデンとプライムの番組の告知と,翌日の番組の告知を行っています。このバナーがローテーションする時間間隔は,宣伝したい番組数によって決まります。宣伝したい番組が多い場合は,短時間でローテーションしますし,少ない場合はそれぞれが長く表示されるわけです。

 ティッカーは,視聴者がニュースを見ると予想される時間帯にはニュースの情報を厚く,朝の出勤前など天気予報を知りたいと思う時間帯には天気情報を厚くするようにしています。また,それ以外に,スポーツ速報など即時性が要求される情報も,ティッカーで提示すようにしています。

--- TBSとしてのネット局対応について,教えてください。

 先ほどもお話しましたが,JNN系列でデータ放送コンテンツのテンプレートを使用しています。これは,JNN系列局におけるデータ放送制作の効率化を目的としています。

 ただし,各局のTOP画面や,ローカルの時間帯の番組は,独自にデータ放送コンテンツを作成しても良いことになっています。ローカルの時間帯に関して言えば,各局のカラーを打ち出した独自のデータ放送コンテンツを作成してもらいたいと思っています。

 例えば,各ローカル局の地域色豊かなデータ放送コンテンツに加えて,各地の天気予報や観光情報などを東京にいながらして見られる仕掛けが作れないかと思っています。制作体制的に自主制作できないローカル局もありますが,うまい手法を見つけたいと考えています。

--- ワンセグ放送をデータ放送と一緒に“縦で”視聴してもらうための対策は?

 ワンセグ放送を縦で見たもらうためには,視聴者はもちろんのこと,放送局内,特に番組制作者に対してワンセグ・データ放送の認知を高めることが必要だと思っています。

 視聴者へのワンセグ・データ放送の認知については,番組内で告知するのが一番効果的で良い方法でしょう。例えば,固定型テレビ向けデータ放送内で「ワンセグで番組情報発信中」とか「プレゼント応募はワンセグから」などの告知を行う方法です。またキャンペーンCMを使って,ワンセグ・データ放送を紹介したり,データ放送の使い方を告知する方法もあると思います。ワンセグ放送が開始前後にあったように,固定型テレビの番組内にワンセグ放送PRのコーナーを作ってもらうのも良いでしょう。

 ワンセグ放送をPRするコーナーとしては,日曜日の深夜番組で,「C-TBS」や「BS-i」「TBSチャンネル」「TBSモバイル」などTBSのデジタル系サービスを紹介する「デジ屋台」という番組があります。この番組には1カ月に1回,ワンセグ紹介コーナーがありました。

 ワンセグ視聴者のデータ放送への誘導については,番組内での露出が効果的です。番組の携帯サイトは既に多くの番組で紹介していますが,同様にワンセグのデータ放送を告知することが,データ放送を見てもらう最短コースだと思います。データ放送で情報提供やプレゼントを募集していること知ってもらうわけです。

-- 提供しているワンセグ・データ放送のコンテンツを教えて下さい。

 データ放送コンテンツのTOP画面にはTBSのキャラクター「BooBo(ブーブ)」が表示されます。そのキャラクターには吹き出しがあり,そこに文字を表示します。この吹き出し文字は,私と知り合いの作家の2人が曜日ごとに担当して考えています。キャラクターのポーズや文字は,視聴者の生活リズムに合わせて変えています。

 TBSが提供しているワンセグ・データ放送の非連動型コンテンツは,ジャンルで言うと「ニュース」「天気予報」「On Air情報」「スポーツ情報」「ランキング」「番組情報」です。そして携帯サイトの「TBSショッピング」と「TBSメロディ」へのリンクも用意しています(表1)。

表1 TBSのワンセグ放送---番組非連動データ放送一覧(2006年7月時点)

 番組連動サービスは冒頭にも言ったとおり,生放送のニュース系報道番組,野球やサッカーなどに加えて,ドラマなどでもいわゆる「番組連動型データ放送」を提供しています(表2表3)。TBSが放送しているワンセグの番組連動サービスでは,画面の一番上にその番組バナーを表示させ,そのバナーから1次リンク・コンテンツであるデータ放送コンテンツ・サーバーに遷移させ,番組概要や出演者情報などを提供しています。

表2 TBSのワンセグ放送---番組連動データ放送一覧(2006年7月時点)


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