自分にとって最高の検索エンジンってどんなものだろう?ふとそんなことを考えた。言葉にすれば答えは単純。「あれこれ考えて検索語を指定しなくても,わずかな手間で必要な情報を見つけ出してくれる検索エンジン」である。自分の要望を言えば,検索結果は一つだけではなく,いろいろな観点からの情報が含まれるという条件も付く。だが,そんなものは実際にはない。それじゃ一体…。

 なぜこんなことを考えたのかというと,「日経コミュニケーション」で,エンタープライズ・サーチを特集テーマとして取り上げたからだ。エンタープライズ・サーチとは,グループウエア・サーバーやファイル・サーバー,業務システムなど社内のさまざまなシステムを横断的に検索できるシステムである。

 Googleをはじめとする検索サイトの活躍のおかげで,「分からない言葉があれば検索する」という文化はかなり広範囲のユーザーに根付いた。「これって何だ?」と思えば,まずは「Googleで探してみよう」と考える人も少なくないだろう(もちろんGoogleではなくYahoo!,gooなどを使う人もいるだろうが)。こうした状況を受けてか,最近は企業内にエンタープライズ・サーチを導入する例が日本でもちらほら表面化してきた。エンドユーザーによっては,これと組み合わせてデスクトップ検索ツールを使っているケースもあるかもしれない。

 ただ検索システムの活用はそれほど容易ではない。エンドユーザーにとっての操作はいたって簡単だが,問題はその検索結果の精度である。本来,エンドユーザーが検索エンジンを利用する際は,何かの情報を手に入れる必要に迫られている。検索によって求める情報がすぐに見つかればいいが,なかなか見つからない場合はどうだろう。Googleで検索しても,数万件もの検索結果にうんざりしながら,数ページ(数十件)程度,検索結果の一つひとつのWebページにアクセスを試みたとか,それでも欲しい情報が見つからず検索し直した,といった経験を持つ方は多いはずだ。

 複数の検索語を入力して検索結果を絞り込めば,精度は高まることが多いものの,検索語の選び方によっては,うまく絞り込めない場合もある。つまり,検索サービスを使いこなすには個人のスキルが要求される。検索漏れあるいはノイズが多過ぎると,せっかくエンタープライズ・サーチを導入しても生産性向上にはつながりにくい。

ポイントはエンドユーザーが情報を絞り込めるような支援機能

 そこでぼんやりと考えたのが「自分にとって最高の検索エンジン」である。エンタープライズ・サーチを導入する企業のシステム担当者にとって,検索エンジンの使い勝手をどう高めるかは,導入効果を高める上で重要ではないかと思っている。

 では具体的にどうするのか。冒頭で述べたように,ユーザーごとのニーズを満たす結果を引き出して希望に合う順番で結果を表示するのは困難だろう。検索結果の表示順を決めるランキング・ルールや,検索対象のインデックス作りをパーソナライズできれば話は別だが,今のところそういう仕組みを持つ製品は見当たらない。そもそも,すぐに必要な情報を探り当てられるほど精度を高めるには,試行錯誤によるチューニングが欠かせない。パーソナライズするとなるとチューニングの負担がエンドユーザーにかかり,使い勝手はかえって悪くなるかもしれない。

 結局,ポイントは検索ノウハウを持たないエンドユーザーでも簡単に情報を絞り込めるような,支援機能ということになるかもしれない。例えばユーザー同士での検索ノウハウの共有である。日経コミュニケーションの特集記事でも多少紹介したが,既にそういう仕組みを持つ製品は現れている。例えばブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス),ソーシャル・ブックマークといったWeb 2.0型ツールを使って,役立った検索結果を記録する。ブログを使えば文書へのリンクが増えるため,よく閲覧される文書なら,Googleのランキング・ルールとして有名なPageRankを使って検索結果の上位に表示させられるようになる。検索漏れを減らすために類義語検索を組み合わせたり,絞り込みを容易にするように「おすすめ追加キーワード」を表示させる手もある。こうした仕組みには,製品の機能に頼らずに実現できるものもある。

 エンドユーザーにとって利便性が高い検索機能を実現するためのヒントは,インターネットの検索サイトのほか,検索機能を備えたECサイト,メーカーの顧客サポート・サイトなどにある。これらのサイトでは,数年前から検索機能を強化すべく工夫を凝らしている。顧客に対して商品情報やサポート情報をいかに数少ない手間で的確に提供するかが重要なテーマであり,検索機能の出来不出来が業績にも直結する場合があるからだ。今後,こうしたWebサイトの事例やエンタープライズ・サーチの導入事例を中心に,「より便利な検索システムの作り方」を紹介できたらと思っている。

 もちろん,エンタープライズ・サーチ導入には,性能やセキュリティを考慮したシステムの設計やチューニングは欠かせない。このあたりは,日経コミュニケーション4月15日号「社内版“Google”の正しい作り方」をご一読いただければと思う。5月7日からの1週間,ITproのSaaS&Enterprise2.0でも集中連載「エンタープライズ・サーチ」を掲載している。