2024年4月25日木曜日

渡辺浩『日本思想史と現在』12

 

そのとき『君たちはどう生きるか』の対抗馬(!?)として挙げたのは、色川武大の『うらおもて人生録』(新潮文庫)でした。京都美術工芸大学にいたとき、『京都新聞』から求められて、就職試験に臨む受験生にエールを送るべくエッセーを寄稿したのですが、本書から「九勝六敗を狙え」を引用したので、よく覚えていたんです。そのあと鷲田清一さんが、「折々のことば」に僕と同じくこの「九勝六敗を狙え」を選んでいたのでチョッと驚きましたが……。

『うらおもて人生録』の解説は西部邁すすむ先生でした。両書を象徴するような解説者のコントラストが実におもしろかったのですが、丸山真男先生と西部邁先生を一緒にしたら、やはり怒られちゃうかな(!?

 *「饒舌館長ブログ」では、鬼籍に入られた方のみ「先生」とし、お元気な方はひとしなみに「さん」でお呼びしています。渡辺浩さん、お許しください。


2024年4月24日水曜日

渡辺浩『日本思想史と現在』11

渡辺浩さんの著作を拝読すると、恩師・丸山真男先生に対する尊崇の念が行間からも感じられます。スチューデント・エヴァリュエーション――学生による先生評価も世の流れですから致し方ないと思いますが、学問における師弟とはこうありたいものだと、襟を正したくなります。

丸山真男先生といえば、30年前、拙論「日中の自然と山水画」を書いたとき、先生の「近世日本政治思想における『自然』と『作為』」を引用させていただいたことが思い出されます。「饒舌館長ブログ」では、吉野源三郎『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)をアップしたとき、その解説が丸山真男先生であることを紹介したことがあります。

 

2024年4月23日火曜日

渡辺浩『日本思想史と現在』10

 

『近世日本社会と宋学』は研究書ですから、やや手ごわい感じを免れません。それはチョッと……と躊躇する向きには、『日本政治思想史 十七~十九世紀』(東京大学出版会 2010年)の方をおススメしましょう。

渡辺浩さんがあとがきに、「本書は、この主題に関心はあるがその専門の研究者ではない、その意味で『一般』の読者のために、十七・十八・十九世紀の簡略な通史を提供することをめざして書いた」と述べるとおりの一書ですから……。それでも476ページありますから、これまた拾い読みから始めて一向にかまわないと思います。


2024年4月22日月曜日

NHK日曜美術館「富岡鉄斎」

 

NHK日曜美術館「老いるほどに輝く~最後の文人画家・富岡鉄斎~」4月28日 9:00~

 京都国立近代美術館で「没後100年 富岡鉄斎」展が始まりました。これに合わせNHK日曜美術館で上記のごとき放映があります。饒舌館長もチョット老顔を出すはずです(⁉) 

渡辺浩『日本思想史と現在』9

 

本書を読んで「思想史はこんなに面白い!」と感じたら、渡辺浩さんのデビュー研究書『近世日本社会と宋学』(東京大学出版会 1960年)に挑戦してみたらいかがでしょうか。これがあって初めて、『日本思想史と現在』のような本が書けるんだと腑に落ちることでしょう。

僕にとっては、それまでの単純な朱子学の日本展開論を根底から突き崩してくれた一書でした。それとともに、渡辺さんの朱子学展開論と我が文人画の私的理解との間に、パラレルな関係が成立するように思われて、とてもうれしくなったことを思い出します。


2024年4月21日日曜日

出光美術館・門司「茶の湯の意匠」

 

出光美術館・門司「茶の湯の意匠――春から夏へ」<623日まで>

 茶道具にうつる意匠を通して、春から夏への移り行きを感じていただこうという企画展です。「僕の一点」は相阿弥の「山水図」――図上に34歳で没した五山僧・彦龍周興が七言絶句の賛を寄せています。オープニングの夜、銘酒「池亀」を堪能したあと、ホテルに帰ってさっそく戯訳を作ってみました。翌日は宗像大社に参拝、田心姫命たごりひめのみことと、去年歳暮急逝された出光昭介前館長にこの戯訳を捧げたことでした。

  衡・恒・泰・華の四山が 東西南北 守ってる

  他にも名山ありますが 最も廬山が尊貴なり

  峰より落つる大滝の 前に数本 生える松

  かつて李白が住んでいた 岩屋の跡も描かれてる

2024年4月20日土曜日

渡辺浩『日本思想史と現在』8

 

渡辺浩さんの『日本思想史と現在』というタイトルはチョッと取つきにくいかもしれませんが、読み始めればそんなことはありません。先にあげた「国号考」の目から鱗、「John Mountpaddy先生はどこに」のユーモア、丸山真男先生のギョッとするような言葉「学問は野暮なものです」などなど、拾い読みするだけでも楽しくなりますよ。コシマキにあるとおり、「思想史はこんなに面白い!」となること請け合い、絶対おススメの一書です。

先に渡辺史学の特徴を、「洋の東西を自由に行き来する広やかな視覚」と書きました。それはなによりも、洋風画家・川原慶賀の「農夫図」をフィーチャーした、日本思想史の本とは思えない新鮮な表紙カバーに象徴されています。


渡辺浩『日本思想史と現在』12

  そのとき『君たちはどう生きるか』の対抗馬 (!?) として挙げたのは、色川武大の『うらおもて人生録』(新潮文庫)でした。京都美術工芸大学にいたとき、『京都新聞』から求められて、就職試験に臨む受験生にエールを送るべくエッセーを寄稿したのですが、本書から「九勝六敗を狙え」を引用し...