秀章 『純情ギャルと不器用マッチョの恋は焦れったい』 (ガガガ文庫)

明るくて、優しくて、力強い……そんな屈託のない笑顔。

それを目の当たりにした瞬間、犬浦が言うところの『これ好き!』が、俺の中に湧き上がった。

そして、その感情を『恋』と呼ぶのだと、俺はほどなくして理解した。

筋トレをこよなく愛する超高校級のマッチョ、須田。SNSフォロワー50万人の人気急上昇中JKインフルエンサー、犬浦。高校入学から疎遠になっていた二人は、犬浦のモデルデビューのため、須田がパーソナルトレーナーになることで再接近を果たす。だが、両者の思いは果てしなくすれ違っていた。

対照的だけど似たところもある。高校生ふたりのかわいらしい両片想いラブコメ。意識しすぎてちゃんと話ができない、自分は相手に嫌われているのではないか。うじうじうだうだする姿までかわいらしい。男子グループと女子グループの視点の似たところ、違うところも、さり気なく鋭く切り取っている。このあたりは青春小説の名手たる作者ならではだと思う。タイトルをいい意味で裏切らない、良いラブコメでした。

赤城大空 『【悲報】お嬢様系底辺ダンジョン配信者、配信切り忘れに気づかず同業者をボコってしまう2 けど相手が若手最強の迷惑系配信者だったらしくアホ程バズって伝説になってますわ!?』 (ガガガ文庫)

「ですわ! ですわ!」

トンテンカン!

「ですわ! ですわ!」

トンテンカン!

バズりまくって収益化を達成してから間もなく憧れのセツナお嬢様の生みの親に認知され、数千万単位のスパチャを稼ぎ、短い間に人生が一変した山田カリン。だがその身に秘められた真の実力は、本人を含めて誰も知らないのだった。

フィスト◯ァックお嬢様のダンジョン攻略配信第二巻。良かった。語彙がインターネットなのでお気楽に読みやすいのもあるけど、圧倒的な光と善性の小説なのよね。人気が出るのもわかる。現代社会でダンジョンがあちこちに出現するようになったらどうなるか(法整備とか)に触れるあたりも作者らしい。カクヨムでも読めるので読んでみるといい。自分は引き続き紙で追いかけていきます。


kakuyomu.jp

及川輝新 『俺の背徳メシをおねだりせずにはいられない、お隣のトップアイドルさま2』 (MF文庫J)

鈴文はいつも、何気ない日常の喜びを教えてくれる。

食べること、遊ぶこと、放課後に寄り道すること、お出かけすること。

あと、恋をすること。

お隣同士に住むトップアイドル優月と、世話焼き男子高校生鈴文の、背徳メシ堕ちバトルは続いていた。そこに現れたのは、優月が所属するグループのリーダー、衛本留々が現れる。「優月の姉」を自称する留々は、鈴文に道徳メシでのメシ堕ちバトルを申し出る。

自称「姉」来襲もなんのその。動物園デートあり、一泊二日のお泊りツアーあり、アイドル対背徳メシのラブコメ第二巻。素直なラブラブがあふれすぎてビックリした。読みやすさもストーリーも含めて、良い意味で屈託もストレスもない。非常にラブコメらしいラブコメなのではないでしょうか。

駿馬京 『あんたで日常(せかい)を彩りたい』 (電撃文庫)

芸術は本来、人間にとって不要なものだと思う。音楽を聴いても腹は満たされないし、本を読んでもいずれ眠気はやってくるし、絵を眺めなくても人は死なない。それでも無形文化として伝わってきたのは、きっと絵を描かなきゃ死んでしまう人間が一定数いるからなんだろうなって思う。あたしもそのひとりで、そんな人間に生まれてしまったのは損だなぁと思う。

芸術や芸能の道を志す学生が集められた、私立朱門塚女学院。とある事情からこの高校に女装して通っていた花菱夜風は、一度も学校に姿を見せなかった謎の生徒、橘棗と出会う。誰にも真似のできない描写と色彩感覚で日常を描き、すでにプロとして活動していた棗は、大きな欠点を抱えていた。

「だからあたしは生きるのが下手だ。自己表現の手段を絵しか持たないから。あたしの言葉は湾曲するからうまく他人に伝えられない」

孤独な少女は自分と世界を繋いでくれる絵筆に出会う。その道では天才と呼ばれながら、言葉で他人とコミュニケーションを取ることができず、普通の高校生活を送ることを望んでいた不登校少女。因習に囚われた旧家で育ったがゆえに普通の高校生活を知らず、姉に代わって高校に通うことになった女装少年。「普通」を知らなかったふたりが出会い送る学園生活。

キャラクターとして確立されながらも、人間の解像度が高いというのかな。「発達障害」や「アスペルガー症候群」という言葉をちらつかせつつ、当事者間では「天才」という比喩は使わない。言いたいことを情報のように一方的に話す少女の語り口には強い説得力があった。ふたりの見えるものの違いと、その違いを形にして生かした文化祭の出し物も良かった。創作論の話と思って読み進めたのだけど、創作がなければ社会で居場所がなく生きることができない天才、ひいては人間の話だった。インターネット界隈や何人かの知人の顔が浮かんだ。できれば多くのひとに読んでほしいな。

東崎惟子 『少女星間漂流記』 (電撃文庫)

「私達は人間で、地球人だ。獣とは違う」

本能的な暴力衝動に支配されたりはしないと信じている。

「いいえ、人間で、地球人だから、獣なんです」

環境汚染でヒトの住めなくなった地球を離れ、馬車を模した宇宙船が銀河を駆ける。乗っているのは科学者のリドリーと、相棒のワタリの二人の少女。次こそは安住できる星に着けるかな……

死人を生き返らせる神のいる星。無数の図書館からなる星。生命の光に包まれた星。移住できる星を求めて、二人の少女は星間銀河を漂流し続ける。Web連載のショートショートをまとめた短編集。テイストが近いのは「キノの旅」になるのかな。星新一のような毒とキレのある「悪の星」。シンプルなファーストコンタクトもの「鳴の星」。この本の中では珍しい、普通にいい話の「本の星」。このあたりが好み。それらを置いておいて、いちばん読まれてほしいと思ったのはあとがき。

私は永遠に『少女星間漂流記』を書き続けます。最新刊が買われ続ける限り。

やがて人類は滅ぶでしょう。隕石の衝突により昆虫以外の生物が全て滅ぶでしょう。太陽は爆発するでしょう。ビッグクランチが起きて世界が暗黒エネルギーに飲まれて無になるかもしれません。物質はおろか時間という概念すら消え去るでしょう。

それでも私は永遠なのです。『少女星間漂流記』が買われる限りね。

ちょっとでも売れて、作者には永遠に近づいてほしいなあ。



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