畑リンタロウ 『汝、わが騎士として』 (電撃文庫)

「汝、主が下に忠義と忠誠を誓い、日の昇らぬ灰の時代の先まで共にあることを誓え。汝、主が下に正義と平和を誓い、大地が燃える黒霧の時代の終わりまで共にあると誓え。汝、我が盾となり希望を守り、我が剣となり悪夢を滅せよ」

七等位情報師、ツシマ・リンドウは、地方貴族の娘、ホーリーをバルガ帝国から亡命させる護衛を請け負う。無気力な男と貴族の娘、各々の謎を隠したふたりの逃避行に、バルガ帝国の手が迫っていた。

第30回電撃小説大賞選考委員奨励賞。男と少女の逃避行ということで、意識したのかはわからないけど、ライトノベルには珍しいハードボイルドみがある。その大枠以外は強く印象に残る部分がなかった。舞台と道具立ては一通り揃っているので、どこか尖ったところができれば化けるかもしれない。今後に期待してます。

二語十 『探偵はもう、死んでいる。11』 (MF文庫J)

「そういうわけじゃないよ。彼の罪を庇うつもりも毛頭ない。でも、ここであたしたちが彼を殺すことは正義じゃない」

渚は一歩も引かず、こう主張する。

「正義って多分、これからの未来を考え続けることだから」

《虚空暦録》(アカシックレコード)の真実に触れた君塚たちは《連邦政府》に召喚される。未来視に予言された新たな世界の危機、《大災厄》。今までにない危機を前に、《特異点》たる君塚君彦は究極の選択を迫られる。

「私たちは、最後のその一瞬まで正義であり続けよう」

悪から生まれる人々と世界を前に、英雄は疲弊し、正義の味方は孤独を抱える。そのままMCU編に突入してもおかしくなさそうなシリーズ11巻。いいと思ったものを全部ごちゃっと詰め込んだかのような、小さくまとまる気のない気概を感じられる。勢いをそのまま完成させられたら、稀に見る大作になる予感はある。突っ走ってほしい。

てにをは 『また殺されてしまったのですね、探偵様 5』 (MF文庫J)

生きたままバッサリ首をちょん切られるなんてことはそう多くの人ができない経験だとは思うけれど、あれを言葉で表現するのはちょっと難しい。

意外と痛みはない。脳がそれを拒否しているんだろう。

それに恐怖もそれほどない。

けれどその代わりに――なんて言うか、とにかく切ないんだ。

自分自身と縁が切れるような切なさだ。

屈斜路刑務所から脱獄し、体を乗り換えて追月探偵社に転がり込んできた《最初の七人》(セブン・オールドメン)フェリセット。彼女(?)の持ってきた父、断也の伝言「遠からず世界はオカルトとロジックが入り混じる」の真相を求め、オカルト考古学者を名乗る母、薬杏を探して横浜の廃教会を訪れる。

女子小学生と化した大犯罪者とともに挑む脅迫事件。そして「オカルトとロジックが入り混じる」という言葉の真相とは。話が一気に広がった感のあるシリーズ第五巻。「殺されても生き返る探偵」の使い方が巻を追って上手くなっていくのが本当に良いね。出落ちかと思っていた最初の頃から、印象がずいぶん変わった。今回は特に、息子がそういう体質だったことを知った時の母親の心境が書かれるのが良かった。普通は生き返らないし、何度も死なないからね。けれん味の効いたシリーズだからこそ、素直な心情が強く印象に残ったのかもしれない。ミステリでありエンターテイメントであり、とても良いと思います。

桂嶋エイダ 『ドスケベ催眠術師の子2』 (ガガガ文庫)

「――君は、いつまで自分をドスケベ催眠術師の子にするつもりだったの?」

暗に問われる。いつまでしがらみにとらわれるのか、と。

ドスケベ催眠術師の子、佐治沙慈は学校で甕川水連と再開する。スクールカウンセラーにして、ドスケベ催眠術師のサポーター、そしてかつて沙慈の近所に住んでいたお姉さん。時を同じくして、校内でドスケベ催眠アプリを悪用した辻ドスケベ催眠事件が勃発する。

容疑者しかいない辻ドスケベ催眠事件の真相を追う第二巻。君は、いつまでドスケベ催眠術師の子でいるの? 「ドスケベ催眠術師の子」という呪いを背負い、ドスケベ催眠術師との関わりをすべて断ち切ろうと生きてきた沙慈のアイデンティティの物語であった。単語のチョイスと、バランスの取れたストーリーテリングでとぼけた印象を漂わすも、思ったよりも根が深い。一巻同様、ふざけたタイトルに似つかわしくない、成長と青春をしっかり書いたテクニカルな小説だと思います。



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立川浦々 『公務員、中田忍の悪徳8』 (ガガガ文庫)

「あんな子供、生むんじゃなかった……!!」

異世界エルフ・アリエルを救えず、最大の理解者だった一ノ瀬由奈とは断絶してしまった。決定的に間違えた中田忍は、新たな最後の協力者を巻き込み、自身のルーツをたどりはじめ、やがて己の人生を賭けた結論を出す。

仕方あるまい。

大人だろうと、何百年生きていようと、万能の魔法が使えようと。

孤独にだけは、敵わないのだ。

「この世界は須く俺たちを嫌っている」。福祉生活課長の視点で、己のルーツを振り返ったとき、忍はどんな結論を出し、そんな救いのない世界でどのように生きようとするのか。わりとびっくりする事実が次々と出てきて、最終回という感じがしなかったシリーズ最終巻。同人版も合わせて九冊もかけたはずなのに、あっという間に駆け抜けていった気がする。寂しい。けど、書くべきことは書ききったのかな。個人的には、時たま地の文に出てくる「かわいい」の意味がわかったのがよかった。読み終わったなら表紙をもう一度見てほしい。お疲れ様でした。