鵜飼有志 『死亡遊戯で飯を食う。6』 (MF文庫J)

ふらふら生きていて、なんとなくプレイヤーになった。

それが、幽鬼(ユウキ)の過去を説明するすべてだ。

なんの背景もない。なんのドラマもない。当時の幽鬼(ユウキ)の人格で、そんなものは生じようがなかった。

幽鬼(ユウキ)の前に突如として現れたもうひとりの幽鬼(ユウキ)。それは、常人離れした幽鬼(ユウキ)の感覚が作り出した幻影だった。幻影の幽鬼(ユウキ)は、ややこしい感情なくゲームに参加していた、鈍感だった頃に戻れと幽鬼(ユウキ)に言う。幻影を消すには〈ルール〉に従った〈ゲーム〉しかないと考えた幽鬼(ユウキ)は、模擬ゲームで幻影と対決する。

幽鬼(ユウキ)が初めて参加したゲームの記憶。それから60回を超えるデスゲームからの生還を経て、幽鬼(ユウキ)はどう変わったのか。その末に現れた己の幻影との戦いを描くシリーズ第六巻。極まった格闘漫画がたどり着くような、行き着くところまで行き着いたスピリチュアル混じりの狂気。それをデスゲームとミステリの枠組みでロジカルにコントロールする作者の手練手管が見事だった。60回のゲームを経ての様々な変化を、一から十まで描かずとも隙間からイメージできるような描写も良い。前巻に引き続き間違いなく傑作でした。

伏見七尾 『獄門撫子此処ニ在リ2 赤き太陽の神去団地』 (ガガガ文庫)

「鬼は執着により沈み、天狗は逃避により浮く。即ち、如何様にでも成れてしまう……それが人というもの――いつか汝を脅かすモノなんだよ、我の子狐」

神去団地。乱立し生まれては崩れる建物に埋め尽くされ、空には赤く輝く偽物の太陽。天狗の末裔たる蝋梅羽一族を中心に閉じ込められた者たちが殺し合う異形たちの園。記憶を失い、ここで目を覚ましたアマナと撫子は、この異形の地から逃げ出せるのか。

人間を挟んで両極端にいる天狗と鬼、そして狐。京都のとある町に生まれた、現世と幽世の狭間を舞台に描かれる、現代怪異/怪奇/伝奇小説。アイデアが惜しむことなく詰め込まれながらも、良い意味で素直な話運びで、するすると流れるに読める。エンターテイメントかくあれかし。

ビジュアル的にもアクション的にも映えるところが多く、なるほどコミカライズしたら楽しくなりそう。現代の怪異・怪奇・伝奇エンターテイメントのスタンダードになり得る傑作だと思う。一巻と比べてもぐっと面白くなっていた。ちょう良かったです。



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畑リンタロウ 『汝、わが騎士として』 (電撃文庫)

「汝、主が下に忠義と忠誠を誓い、日の昇らぬ灰の時代の先まで共にあることを誓え。汝、主が下に正義と平和を誓い、大地が燃える黒霧の時代の終わりまで共にあると誓え。汝、我が盾となり希望を守り、我が剣となり悪夢を滅せよ」

七等位情報師、ツシマ・リンドウは、地方貴族の娘、ホーリーをバルガ帝国から亡命させる護衛を請け負う。無気力な男と貴族の娘、各々の謎を隠したふたりの逃避行に、バルガ帝国の手が迫っていた。

第30回電撃小説大賞選考委員奨励賞。男と少女の逃避行ということで、意識したのかはわからないけど、ライトノベルには珍しいハードボイルドみがある。その大枠以外は強く印象に残る部分がなかった。舞台と道具立ては一通り揃っているので、どこか尖ったところができれば化けるかもしれない。期待してます。

二語十 『探偵はもう、死んでいる。11』 (MF文庫J)

「そういうわけじゃないよ。彼の罪を庇うつもりも毛頭ない。でも、ここであたしたちが彼を殺すことは正義じゃない」

渚は一歩も引かず、こう主張する。

「正義って多分、これからの未来を考え続けることだから」

《虚空暦録》(アカシックレコード)の真実に触れた君塚たちは《連邦政府》に召喚される。未来視に予言された新たな世界の危機、《大災厄》。今までにない危機を前に、《特異点》たる君塚君彦は究極の選択を迫られる。

「私たちは、最後のその一瞬まで正義であり続けよう」

悪から生まれる人々と世界を前に、英雄は疲弊し、正義の味方は孤独を抱える。そのままMCU編に突入してもおかしくなさそうなシリーズ11巻。いいと思ったものを全部ごちゃっと詰め込んだかのような、小さくまとまる気のない気概を感じられる。勢いをそのまま完成させられたら、稀に見る大作になる予感はある。突っ走ってほしい。

てにをは 『また殺されてしまったのですね、探偵様 5』 (MF文庫J)

生きたままバッサリ首をちょん切られるなんてことはそう多くの人ができない経験だとは思うけれど、あれを言葉で表現するのはちょっと難しい。

意外と痛みはない。脳がそれを拒否しているんだろう。

それに恐怖もそれほどない。

けれどその代わりに――なんて言うか、とにかく切ないんだ。

自分自身と縁が切れるような切なさだ。

屈斜路刑務所から脱獄し、体を乗り換えて追月探偵社に転がり込んできた《最初の七人》(セブン・オールドメン)フェリセット。彼女(?)の持ってきた父、断也の伝言「遠からず世界はオカルトとロジックが入り混じる」の真相を求め、オカルト考古学者を名乗る母、薬杏を探して横浜の廃教会を訪れる。

女子小学生と化した大犯罪者とともに挑む脅迫事件。そして「オカルトとロジックが入り混じる」という言葉の真相とは。話が一気に広がった感のあるシリーズ第五巻。「殺されても生き返る探偵」の使い方が巻を追って上手くなっていくのが本当に良いね。出落ちかと思っていた最初の頃から、印象がずいぶん変わった。今回は特に、息子がそういう体質だったことを知った時の母親の心境が書かれるのが良かった。普通は生き返らないし、何度も死なないからね。けれん味の効いたシリーズだからこそ、素直な心情が強く印象に残ったのかもしれない。ミステリでありエンターテイメントであり、とても良いと思います。