京都アニメーションの事件について

 

2019年7月18日、京都アニメーションのスタジオで放火殺人事件が起こり、30人を超える方々が亡くなりました。特別な才能に恵まれたクリエイターを標的とした、日本のみならず世界的にも類を見ない最悪の大量殺人事件となってしまいました。起こったことがあまりにも非道く、未だに納得も理解も出来ず、夢だったらどんなに良いだろうかと毎日思います。この日のことはたとえ30年経っても忘れることは出来ないと思います。

 

当日昼頃にTwitterでこの事件の第一報を目にして、不安に思いながらも「けが人が少し出た程度かな」と軽く考えていました。しかし時間を追ううちに火災の情報が詳らかになり、公開される犠牲者の数もどんどん増えていきました。ニュースを見ているだけで頭がぐらぐらして胸が潰れるように重く感じました。翌日には犠牲者の数が発表され、スタジオの中の京都アニメーションの成果物も全て駄目になった、生き延びた人の中にも重傷者が沢山いて、足を切断しなければならない人も居ると聞き、喪われたもののあまりの大きさにめまいと吐き気がしました。

 

事件からもう10日近くが過ぎました。無理やり眠り、朝目覚めるたびにこの事件が夢ではないことを確認し、ひどく悲しい気分になる、ということを繰り返しています。なにかに没頭している時は良いのですが、ふと頭が空いた時に事件のことを思い出し、焼き殺されるイメージと、同僚を殺されて生き延びた方々の心情をどうしても想像してしまい、涙と吐き気とめまいと動悸が、呼吸が細くなり、その度にくらくらしてしまいます。努めて他のことを考えようと努力していますが、なかなか難しい。

 

完全にASD一歩手前ですが、冷静に考えれば私は単なるファンの一人に過ぎないので、ここまで不安定な状態でいることは適切ではないと思います。本当の身内である御遺族、御家族、親しい友人や各種関係者、あるいはもっと多感な若い年代の人達、子どもたちが悲しむことが出来るように、せめて自分はもう少し普通に生活を送るべきなのでは、と考えるようになりました。なるべく普通に生活して、お金を稼いで、継続して寄付を続ける。出来るならほんの少しでも良いから苦しみを肩代わりしたいけれど。

 

私は涼宮ハルヒの憂鬱第9話「サムデイインザレイン」をきっかけにTVアニメを見るようになりました。2006年の確か6月、深夜に偶然見たその物語は、ほぼ静止画ながらも抜群の演出センスと、細部まで行き届いた美しい絵、ラストシーンのヒロインの笑顔、その直後に始まるEDのダンスが印象的で、それまでの自分の中にあったやっつけ仕事のTVアニメのイメージとは異なり、強い衝撃を受けました。

 

それからハルヒにとどまらず京アニの作品を過去作も含めて貪るように視聴しました。AIRフルメタル・パニックふもっふ、TSRらきすたけいおん氷菓甘城ブリリアントパーク響け!ユーフォニアム聲の形リズと青い鳥などが特に大好きです(個人的京アニ最高傑作は10年以上変わらず『ふもっふ』でしたが、昨年『リズと青い鳥』がついに更新しました)。

 

絶対に作画崩壊を起こさない、兵站の充実ぶりも含めた会社全体としてのその丁寧で真摯な仕事を、いつも尊敬の念を持って眺めていました。人間はこれだけ誠実に働いて、美しいものを作ることが出来るのだな、と。作中のセリフではないですが、この13年の間「生きるのを手伝ってもらった」というのが偽らない実感です。助けてもらった。自分の人生がしんどい時も、京アニの作品を見ることが慰めと励みになった。こういう仕事をする人たちが、たとえ遠くでも、一度も会ったことすら無くても、生きていてくれるのが嬉しい。京都アニメーションのスタッフの方々は私にとってそういう存在です。

 

敬愛する姉や兄を喪ったように悲しい。


亡くなられた方々のご冥福を心からお祈りします。
そして怪我を負われた方々が少しでも快癒に向かうよう強く願っています。

 

 

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表情筋はどこへ消えた?【わたモテ感想その4、田村ゆりその3】


 

A. 神(谷川ニコ先生)によって入念に削り取られた

A. 消えてなどいなかった

 

 

 

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クソかわ

 

 

 

わたモテ最大の謎、ゆりちゃんの表情筋

 

多くの読者を悩ませたわたモテ最大の謎として「田村ゆりの変化(表情・人格)」があります。8巻、修学旅行編から登場したゆりちゃんは、人並みに表情の変化するわりあいにこやかなキャラクターとして描かれ、もこっちにも積極的に話しかけるなど、地味ながら優しい印象を読者に与えていました。しかし主に12巻の打ち上げ回を境に笑顔を見せることがめっきり減り、それに伴い性格も当たりが強くなりサイコ化が進行していきます。終いにはネズミー編でもこっちから「表情筋10g(グラム)くらいしかなさそう」と酷評される始末。彼女に一体何が起きたのか。にこやかで優しい彼女はどこにいったのか。

 

 

 

ゆりちゃんの表情が死んでいくことで多くの読者は「中身が入れ替わった」「Ver. 2」「第4形態」「作者がキャラの描き方を忘れた」などなど様々な(失礼な)推測を並べました(Include 俺)。しかし喪144や151では実に味わい深い微笑みを見せてくれているんですよね……。これは表情筋が死滅した人間に為せる表情ではない。極めつけは先月ブックマーク浅草橋で開催された原画展で判明した、非常に細かい表情の修正です。これよく見ると2回修正されています。恐らく最初はかなり大きめに口を描いて、その後ぐっと小さくして、最後にそこから更に1ミリ(未満?)だけ小さく描かれたテイク3が採用されてる。このリテイクをイッコ先生ニコ先生のどちらがかけたかは分からない(ニコ先生が自分でダメ出しすることも当然あると思うので)が、ゆりちゃんの口角が細心の注意のもとで削り取られていることが伝わるし、「作者がキャラの描き方を忘れた」ということは万が一にも考えにくい……(当たり前だ)。明確な狙いがあって感情表現を控えめに変化させていったと考える方が自然だと思う。原画展に行った最大の収穫です。

 

 

 

 

 

 

ゆりちゃんにとって笑顔とは

 

私見ですが、ゆりちゃんは基本的に「一定以上親しくなった相手には笑顔を見せるべきではない」あるいは「恥ずかしい」と考えているのではないでしょうか。更には本当に親しい相手には「ありがとう」すら言うべきではない(よそよそしくて逆に失礼)、とすら考えているフシがある。まあこういう人は普通にいますよね。無礼にすることが逆に親愛表現だ、という信仰というか。照れくさいだけかもしれない。最も付き合いが深い真子さんに直接微笑みかけることがほぼ無く、弁当をおすそ分けしてもらっても礼の一つも言わないことがその根拠です。分かりやすいのは12巻のバレンタイン回。もこっちに人懐っこい笑顔を見せたすぐ後に、真子さんには完全な無表情で渡しています(それで真子さんが心の底から嬉しそうなのがまた良い)。

 

 

 

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表情筋最強田村ゆり



 

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つまり、初期のゆりちゃんがにこやかなのは言わば〈営業スマイル〉だったということです。*1 サービス期間限定、言わばSSR。勿論本人は無意識にそうしてるだけだろうけど。十分に仲良くなったと感じた後はもう無理に笑う必要が無くなった。亭主関白、釣った魚にはエサを与えない。私の考えていることはあなたも当然分かるよね、察してよ、私達親友でしょ、といった感じ。こいつマジめんどくせえな。。。昔の人か。そのサービス期間がどこで終了したかですが、12巻の打ち上げ回ですね。ここでゆりちゃんは真子さん、吉田さん、もこっちに自分を含めた「4人」に強い執着を覚えるようになります。これ以降、ゆりちゃんがそれまで見せていたようなにこやかさは失われます。これは精神的な余裕が失われた、強い孤独感に囚われたことと同時に、「4人」とは十分に仲を深めることが出来たから、もう努めて笑う必要が無くなった、というのが正しい気がしています。つまりゆりちゃんの見せる無表情には「興味のない人間に見せる真の無表情」と「信頼する人間に向けた、彼女なりの最大の親愛表現としての無表情」の2種類があるということ。心を閉ざしたから笑わなくなったのではなく、実際は真逆で、心を深く許したから笑わなくなった。*2

 

 

 

12巻あたりからゆりちゃんが見せる心の底からの笑顔は、「我慢しきれずに思わず笑ってしまう」というパターンが多いですね。象徴的なのはもこっちのキバ子呼びに吹き出すところ。ある意味ではこの笑顔がゆりちゃんの作中初めて見せる真の笑顔とも言える。あとはネカフェデート回でもこっちに向けた、慈しむようなリラックスした微笑み。いずれにせよコントロールしたものではない、自然に溢れたものです。信用できる人間だ……

 

 

 

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抑えきれてない

 

 

 

喪151以降はネモ、もこっちに対して「いたずらっぽく微笑む」という表情も追加されています。この笑顔の愛らしいことと言ったら! 誰だよ表情筋壊死してるとか言ったのは(すみません)。

 

 

  

今後の展望

 

表情筋健在が確認された今となっては、これからの物語でゆりちゃんの様々な表情が楽しめることはほぼ確定事項だと思います。いつか声を立てて涙を流しながら爆笑するゆりちゃんを見てみたいものです。カギになるのはやっぱりネモの存在でしょう。なんといってもネモは吉田さんやもこっちが経験した営業スマイル期間を通過せずにいきなりゆりちゃんの「いたずらっぽい微笑み」をゲットしています。お前マジか… ちょっと信じられないぐらいゆりちゃんの本性を引き出すじゃないか

 

 

 

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最強を目指す素質がある(左端のツーサイドアップ)



 

なんでかなーと考えると、ネモがゆりちゃんに対して抱く並々ならぬ執着がゆりちゃんにも伝わっているからでしょうね、やっぱり。ネモにとってゆりちゃんは一言で言えば「スーパーヒーロー」です。陽キャの友達から浮いてしまうのが怖くて自分ではどうしても出来なかった、陰キャのもこっちと普通に友達になることをゆりちゃんは自然に軽々と成し遂げてしまった。ネモはゆりちゃんに強い憧れと同時に敗北感、劣等感を抱えているように見えます。その執着の強さはもしかしたらもこっちに対するそれより大きいかも知れない。ネモが偉いのはそうして複雑な感情を抱くゆりちゃんに積極的に絡み続けるところだな。何度そっけなくされてもくじけない、そこは素直に尊敬できる。だからゆりちゃんもつい油断してあんな表情をこぼしてしまったんでしょうね……。真子さんが見ていたら間違いなくゆりソムリエぶりを発揮していたであろう名場面でした。

 

  

 

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*1:9巻53pの「よかったら一緒に食べる?」の昼食時に真子さんの方をストレートに向いて笑いかけているのは、流石に「まだキャラが固まり切っていなかったから」の方が自然な解釈かと思います。「真子さんとは一度仲違いしかけたから、もう一度仲良くなる過程で努めてにこやかに接している」という解釈も可能だけど少し無理がある。10巻以降はこの営業スマイル仮説が当てはまると考えます

*2:ちなみに打ち上げ回以降に彼女が度々見せる自他未分化な傾向についてはやべーなこいつ頭おかしいな、という思いは確かにあります。ありますが、彼女の場合「自分に嘘をついてまで周りに合わせることが出来ない」という代えがたい美徳(美徳です)があるし、ネモをはじめとしていろいろな人からちょっかいをかけられる過程でいい感じに社会化されそうなので全然心配無いな、と感じています

「違う?」が意味するあまりに多くのこと(喪151)【わたモテ感想その3】

 

皆さんわたモテ喪151〈モテないし勝利する〉は読みましたか? あまりに濃厚なゆりもこ回で読んでて頭がおかしくなりましたね、漫画で軽率に人を殺すのをやめて欲しい。億が一最新話を読んでいない人が居たら下記リンクから即読もう。わたモテ読んだことねーよ、昔は読んでたけど最近読んでねーよという人もとりあえず最新話から読もう、現在地球上で一番面白いかも知れない漫画なので。以下ネタバレありのわたモテ感想その3です。

 

 

www.ganganonline.com

 

 

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田村ゆりは黒木智子に何を与えたのか【わたモテ感想その2】


布教記事その2です。ネタバレがあります。ちなみにネタバレ無しの布教記事その1は下のリンクからどうぞ。原作未読の人は恐れずに最新話から読め。

 

 

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ゆりちゃんは何故特別なのか

 

 

わたモテに〈田村ゆり〉というキャラクターが居ます(愛称:ゆりちゃん)。アニメ一期でも存分に描かれていたぼっち自虐ギャグ漫画(これだって異様に面白い)から超王道青春群像劇(人によってはオールタイム・ベストになることも十分にありましょう)に脱皮した本作ですが、その革命的変化に最も貢献したキャラクターを一人だけ選べと言われたらきっと8割以上の人間に選ばれる、それくらい重要なキャラクターです。

 

 

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田村ゆり(花を土ごとぶち抜くのが世界一似合う女)

 

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もこっちのモテっぷりには納得しか無い【わたモテ感想その1】

 

ネタバレはほぼ無しのわたモテ感想です。

 

1、きっかけはクリロナ 

 

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』(以下「わたモテ」)の面白さが常軌を逸している。この「面白い」はカルト的な、狭い範囲のオタクに向けた面白さ、ではない。この作品を寄生獣ベルセルクなどと並び称する人がいたとしても驚かないし、もし自分が中学生だったら卒業文集の尊敬する人の欄に「黒木智子」と書いていたかも知れない。そういうレベルの作品だ。

 

私がわたモテを1巻から読み始めたのは今年の8月末。ガンガンオンラインで最新話を追うようになったのは7月初旬の加藤さんクリロナ回(喪137)からだが、この時は最新話をサラッと読んだだけなので当然その複雑すぎる人間関係を全く理解できず、面白いもつまらないも無かった(クリスティアーノ・ロナウドのことは別に好きではないが強くリスペクトしている〈はねバド理論〉ので、Twitterで話題になっていたのを見て気になり読み始めた。性格がめちゃ良い人間の言動がクリロナに似てくるというのが納得度高いしクソ笑える)。そうして数話ほど最新話だけを読んではモヤモヤを積み重ね、ついに我慢できず1巻に手を付けた。2〜3日ほどで13巻まで一気に読了した、信じられない体験だった。こんなに面白い漫画が存在して良いのだろうか?

 

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尊敬せざるを得ない

  

隙あらば腹筋を見せつけてくる変態天才サッカープレーヤー

 

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「この名に恥じないように生きる」ヴァイオレット・エヴァーガーデン第9話感想

 

ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が異常に良いです。

 

 


アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』PV第4弾

 

 

これから信仰告白かつ布教活動かつ制作陣への感謝かつ妄想テキストを書きます。途中まではネタバレ無しです。まだ本作を見ていない人には、原作は読まずにアニメを先に見ることを強く推奨します。原作も素晴らしく面白いのですが、諸般の事情によりアニメ版から見た方が絶対に楽しめると断言できます。理由は後ほど。いやホント悪いことは言わないからとにかく見たほうがいい。タイトルがくどいし絵も濃いしなんかかったるいので見るのめんどくせーなーと思う人、俺がそうだったんですが、京都アニメーションに少しでも何らかの信頼を置いている人ならば見たほうがいい。夜中に偶然見た「サムデイインザレイン」でハルヒを見始めて以来(そもそもそれまでアニメを見るという習慣自体無かった)12年京アニ作品を追ってきましたが、この『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は京アニ史上最高傑作になるかも知れない(今のところマイベストはフルメタふもっふとTSR)。まだクライマックスにはじゅうぶん間に合う、Netflixで見れるらしいよ。では本文です。

 

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【「てるみな」の話】その後

 

「てるみな」の話 - 週刊話半分

 

上の続きです。この間新刊を読んだので。

 

てるみな 3 (楽園コミックス)

てるみな 3 (楽園コミックス)

 

 

個人的な話

 

2巻発売の時に感想を書いてからもう3年も経つのか…と果てしない気持ちになった。以前の記事で「てるみなを読むことはどこまでも《個人的経験》である」みたいなことを書いたけど、今でもつくづくそう思う。3年前に本作品でKashmir作品に出会ってから他作品にも手を伸ばし、ゆっくりとだがおおよその作品に触れた、そして色々な影響を受けた。気がつけばてるみなの舞台に引っ越し、カシミアのコートとマフラーを買った(影響か?)。

 

お気に入りは◯本の住人、百合星人ナオコサン、ななかさんの印税生活入門など。『◯本の住人』は引っ越ししてから半年くらいをかけてのんびり読了した、なんだか早く読み切ってしまうのが勿体無く。大抵はハマったら先を読みたい欲求を押さえきれず一気に全巻読破してしまうので、こういうことは珍しく印象深かった。また、1年ちょい前にインフルエンザに罹り、頭が痛くて映画も本も何も読めず暇で死にそうな時に唯一脳みそが受け付けた漫画でもある。◯本の住人ってホントダメ人間の見本市でなーんか読んでると安心するんだよね―。

 

それでも3年ぶりに『てるみな』の新刊を読むと、やっぱこれが一番Kashmir氏が手加減なしに色々な執着やら美学やらのアレコレをぶち込んでる作品だなーと感じる、勝手な意見ですが。また、たいていこういう一話完結型のオムニバス作品って連載初期の方が面白い(作者の積年のネタと邪念が自然と濃く現れる)ものなのに、このてるみな3巻は1、2巻より更に面白くなってる気がする、具体的には2割増しくらいで。これは地味に凄いことですよ。吐けども尽きぬ

 

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