例えば私が資金調達のための研究提案を出しても、「どうせ半導体はダメだ」と十把一絡げにして叩き落される。
「いや、フラッシュメモリやSSDはソフトとハードを連携さえて勝ってきました」
「これからも工夫と戦略次第では勝てる」
なんて言っても聞いてもらえない。理屈の問題ではなく感情の問題だからいくら論理的に説明しても無駄で「お前は生意気だ」くらいで終わります。
確かに、フラッシュメモリなど一部の強い企業以外では、日本の半導体産業では携帯電話のCPUなどに使われるシステムLSIは壊滅的な状況で、メモリも生き残ったのは東芝だけ。
ただ、負けたには負けた理由があるのです。多くの場合は、アメリカ企業など先行企業が始めた事業がうまく行きそうになると、競って参入する。しかし、先行企業を追い越せる技術も事業をまわすためのエコシステムも作れずに、最後は皆で撤退する。
そういう方々が、「これからはエネルギー(パワーエレクトロニクス)だ」なんて仰っているのを聞くと、また同じことを繰り返すんだなあ、と思ってしまいます。先行者を追い越すには、卓越した戦略なり技術なり、先行者を凌駕するほどの桁違いの資金力なり、何らかの競争優位が必要です。それもなく、何となく流行っているから参入するでは勝てっこないでしょう。
私が大学を出てから30年が経ちます。振り返ると、最初の10年では皆がダメというフラッシュメモリの立ち上げに携わりました。
事業が立ち上がり始めると、それまでは「できっこない」と言っていた人たちが手のひらを返して参入してくる。ただ、そういう流行で入ってくるような人たちは、やがて負けて撤退していきます。そして、今では「日本では半導体はダメだ」と言い出す始末。
困ったことは、そういう方々が社会のあらゆるところの意思決定に近いところに居たり意思決定者だったりして。この国ではマジョリティにならなければ、資金も得られない。これは年功序列の弊害ですね。
失敗の原因を作った人が、若い現場の人をリストラする一方、自分は失敗の責任を取らずに担当事業を変えて組織の中に生き残り、意思決定者となる。そういう人に何を言っても無駄であり、日本で研究を続けるのは無理でないかと、かなり絶望的な気分になっていました。