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「蛇が教えてくれたこと。」

象徴的果実、
「何?中国語?何それ分かんない。」
「本当に?分かんないの?ねえ?本当に薬剤師の事務的な手さばきの洗礼を受けたら、薬効に疑念が生じるので、変わり映えが全くしないお薬手帳のラベルに目を通し意識を逸らす、
この判断は賢明なのか?と宙を見上げれば羊雲が群れをなしていた。だがそれを羊だとは見ずに浮き出た肋骨のように僕は見た。肋骨雲、肋雲。
言いやすいようにすぐに省略してしまう事は最早習慣になっているらしく、時にそれは全く異なった名称へ変貌を遂げてゆく。たとえ肋雲→ロックマン→メット頭→亀頭。
原形など何処吹く風か、結局オチはシモネタか芸がないなぁなどといつもの脳内会話、それは自らを奮い立たせるものなので必要不可欠。
ニーハオ、マーライオン。語彙がいいだろう?言ってごらんよきっと気に入るよ。さあ皆で唱えようニーハオマーライオン!さざめく、伸びきって人の手施しを受けていない夏草を陸橋下に見た。瞬間、ビジュアライズ。するとその時の僕の脳はその草の中に佇む視点、前方後方全て、草。
自分よりも背の高いものに囲まれていると子供の頃を思い出す。差して大きくなかった僕はいつも誰かを見上げていた。おかっぱ頭で見上げていた。
草むらの中で僕は追いかけた、それは知らない女性の背中、追って、押し倒して、首元に口寄せたが、最後まで顔は見えず唇付近で途切れた僕の妄想。
夏草に魅せられた。視界を覆われたい願望の持ち主。きっとこの両眼は様々なものを視すぎたんだ。

 

上手に息ができた際、そのまま少し呼吸を留めることで、浄化しようと試みてみる。
吸った酸素を二酸化炭素として吐き出すわけだが理屈などどうでも良くて、その吸ったものに体内にある有害物をくっつけて外へ吐き出す感じ。
だから呼吸を止めれば止めるほど酸素が有害物を色々と吸い上げてくれそうだけど、そのままだと死んじゃうから吐いて、あーあ。ってね。

金木犀の香りが立ち込める其処彼処で。昔、好きだった人がつけていた香水みたいな、懐かしい香り。
述べた、列挙した、詰まることなく想いの丈を総じ、告げた。
泣きだしそうな君の囁き。
もういい加減、悲しみ塗れは飽きただろう。
信じられないと云う。僕のことを嘘にすれば私達にはまだ先があると云う。
「だって終わってしまうから、始まれば終わってしまうのに。」嘆く君が居る。
人と出会うという事。それはもう始まりなんだ。既に僕ら、始まっていたんだよ。
悲観的に考えるなら終わり方をどうするか。誰だってどんな関係だっていずれ終わってしまうという事。
別れ際では笑いたい。そうなる為への道のり。ただそれだけの事。

映画を観た。

女「これ以上は友達でいられなくなるわ。」
男「君とは死んでも友達になんてなりたくないね。」

 

象徴的果実を口にしたら追放された?蛇が云った言葉にそそのかされた?
いいや、遅かれ早かれ、そうなる運命だっただろう。
知恵の意味をもう既に知っていたんだろうから。
僕ら最初から知っていて、ただ蛇は、楽にしてくれただけ。それだけの話だよ。

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「散文ごと。」

万華鏡から覗き見た世界はキラメイていて綺麗で回すとパラパラ落下して回しても回しても積もっていて、外側からは筒状なのに中身は無限空間で、
幼少の頃に不思議で怖かった三面鏡の中と一緒のような気がして、あれから随分と年月が経過していったことに実感して、倒錯した日々さえも懐かしんだんだ。

間違い探しが好きだった。女性週刊誌の後ろにある七つの間違い探しで遊んでいた。
今も間違い探しは継続中。それは違うだろと他人にも自分にもよく思う。

何層にも阻まれていて膜の内側で踊るように自身の存在をくゆらせている。
三拍子から成り立つリズムに近いけどテンポはゆっくりなんだろう。
無実だと証明しようとしていた。濡れ衣だよと叫んでいた。
何層目なのか知らないが、その時目に見えた天蓋に対し、そう叫んでいた。

夢うつつ、たゆたうさ、鼓動さえも。
白紫の霧の中では人影だけが蠢いていて、君さえも幽霊みたい。
閉口。話しすぎたから、もう一生分ぐらい。
分解速度上昇中、再構築は見送りでバラバラにしてそのままにしてどっか行ってしまおうか。
ヒューズが弾けた、閃光、散らばって夏の風物詩みたい、不意な眩暈、あ、これも似ているネ。
形式ばって頑なな姿勢はどう?固いからほぐしてよって笑うよ僕は。だってそれ嫌いだから。人目に恐怖なんて覚えない。だって嫌いだから。そんなものに左右されるのは。
数式とか化学式が記憶できない、計算は心理に全部使っているから、それ以外は苦手なんだ。

解けて紡いで繋いで手離して。
崩して並べて考えて組み立てて。
ごめんなさいとありがとうの密接な関係性にニヤけずにはいられない。
知らない知らないもう面倒だからの一点張りさ。憂鬱と焦燥に縁取られていた事に気づいたからその枠から顔をちょっと出しただけ。


季節風なんて四六時中吹いてるさ。
泣き声が聞こえたら頭撫でるよ。
僕は哀しい人だけど、その分よく笑ってみせるよ。
だから、おいで。
声で返事をしてみせるから。
こっちへ、おいで。

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「リハビリ」

地下へ下ろう地下へ下ろう、
壁に阻まれ棺の中に入れられたみたい、
何を添えてくれるのだろうと期待してみても、
僕には親しい人が居ない、
僕に騙された人も助けられた人も今ではみんな何処彼処、
内在しているものは儚げで、なんだか、とてもなんだかだ、
晴れた日を嫌う理由には醜さが露呈されるからと日記に書いた、
問いかけてみたのだが、その先には思慮がない、
楕円の溝に立っているようだ、えらく不安定で重心をどこに置けばいいのか、
芽吹いたから涙した、
だって朽ちてしまうから、

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ためらうことなく、乱雑にバラ撒けばいい。
どうせこの世だ、広場に行けば笑う子供を見られるよ。
君の憂いは処理されないまま宙に幾つも漂っている。
だからさ、重石でもつけて屋上からでもどうでしょう?
やっと着地できるとはしゃいで喜ぶんじゃないんでしょうか。
その姿、子供のように思えたら、きっと君の勝ち。

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殺伐としているあたしの思考をあんたの軽薄さに上書きインストールで
いい感じに割ったらグイっと飲み干しちゃったらいいじゃない。
ロックでなんてまだまだ無理ね今のあんたにまだ早い。
あたしが誰かのせいにしてあげる。
あんたなんて見てらんないからあんたの理由を誰かのせいにしてあげる。
覆い被せてそれでそいつが怒って追いかけてくるその前に、
あたしらキスして手引いて田舎車両何度も乗り継いで、無人駅まで逃避行。
それでもういいじゃない、
それが今できる全てにしたら、いいじゃない。
あたしが抱いてあげるから。
だからキミはあたしの傲慢に付き合えばいい。
その下らなさも、どうしようもない情けなさも、
愛しているわ。

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「跳べ跳べ跳べ跳べぇぇぇえええええええ!!!」

3
首から上が本領発揮だ、首から下はただの欲求だ。
不貞腐れた皮膚の色合いは灰色照明を中てられたようで、誰かに引ん剥かれたようになってしまって
内側がベロンベロンとだらしなく、解けた帯?開きすぎた襟元?まさぐられる一歩手前みたい。
冷たい鼓動、微弱な振動、それに付随する思考は引き際の波みたいによそよそしいから、なんだか泣いてしまいそう。
僕は僕を僕で僕にしたかったから僕は僕の僕も止めて留めて打ち付けて置き去りにして今は僕は一巡して僕の出来上がりなわけで、
倒錯しているだって?狂気?驚喜のまちがいだろ。愉しめばいい面白がればいい、僕を笑いなよ、嘲り笑うんじゃなくてさ、目玉丸くして、
興味深げに僕を見て、そして、笑えよ、笑えよ、

2
乱雑思案に基づいて君はありのままに自由に振舞いなさい、
君は満月の裏側に位置しておきなさい、それはつまり未知でいなさいの意です。

1
言葉なんて羽織りもの、上に軽くフワッとかけておきなさい、
内側に着込んだ人間を見て御覧なさい、ほうら、あんなに着膨れおこしてしまっている。
だからカーディガンみたいにフワッと肩にかけて、袖口にも余裕を持たせておくぐらいが丁度いいのです。


ねえ。君はさ、遠心力の外側に行きたいんでしょ?
この回転で創られている場所からさ、どひゅーんって飛び出してっていうか、ぶっ飛ばされてさ、どこまでもどこまでも突き抜けてしまいたいんでしょ?
でもまだまだ回転が足らないよ、だって君の足はまだ地に着いているんだもん。
浮いてない、まだ浮いてないから、飛べないね、
だから僕が回してあげるよ、僕を軸にして君をぶっ飛ばしてあげるから、とっととその腕を僕に向けなさいよ。ほら、早く早く!二人で渦を作っちゃってさ、ハンマー投げみたいにさ、
成層圏の彼方までぶっ飛ばしてあげるから、そのか細い腕を、よこしなよ。

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「君は一度、」

君は一度、テルミンの中で一週間暮らしてみたらいいよ。ほんわかして空中遊泳できそうだから。
君は一度、でんぐり返しで下り坂を転がってみたらいいよ。酔って道端で吐くかもしれないけど。
君は一度、中央公園に咲く花全てを使って花占いをしてみたらいいよ。幾つかはいい結果になると思うし。
君は一度、電気屋のパソコン売り場で鬼ごっこをしてみたらいいよ。角を曲がる際にパソコンを落とさないようにね。
君は一度、ホウキをベース代わりにしてみたらいいよ。地味だけどチョッパーしたらちょっとはかっこよくなれるさ。
君は一度、スイカを清算機に入れる際フェイントかけて引っ張ってみたらいいよ。中から駅員さんが苦笑して出てくるから。
君は一度、サインペンのマッキーの語源を深く考えてみたらいいよ。面倒になったらサインペンの臭いでトリップだ。
君は一度、自分の誕生日に祝ってくれるであろう友人におめでとうと言ってみたらいいよ。相手驚くから。
君は一度、CDを思いっきり遠くへ飛ばしてみたらいいよ。UFOに見えたその時こそシャッターチャンスだ。
君は一度、洗口液の辛いのの必要性に考えてみたらいいよ。きっと行き詰るから。
君は一度、板尾創路を模倣してみたらいいよ。模倣し終えた時に思ったことが真理だよ。
君は一度、小説のしおり代わりに使えるあの紐で猫と戯れたらいいよ。結構あいつらなんでもジャレるぜ。
君は一度、のらくろを思い出したらいいよ。結構忘れてる人多いから。あとスヌーピーも思い出してみて。
君は一度、煙草を吸ってみたらいいよ。やらずに否定するなんて、想像力乏しいって。
君は一度、ケイゾクを見てみたらいいよ。最後の方にある沙粧妙子のオマージュを発見できたら僕に電話しておいで。
君は一度、薬効を妄信してみたらいいよ。それぐらいしないと君には何も効かないだろうし。
君は一度、僕を忘れたらいいよ。僕もそうするから。
人は忘れることができるから生きていけるんだよ。
渚カヲルの名台詞。僕らにもそれは当てはまることだから。

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「チ+グ+ハ+グ」

そうやってそうやってそうやって、
いずれはただの干乾びたゴボウみたいな根っこのようなものになってしまった僕を
なんだこれっとポールスミスのあのカラフルな縦じまのようなストライプシューズの爪先で蹴り上げてください。
フワクシュにした髪をキープするために使うハードスプレーって一体なんなんでしょう。見た目は柔らか触ると硬い。スフィンクスが旅人に問うてきそうですね。

「蝙蝠傘を逆さにして広げました。
よく澄んだ晴れた日のことでした。
何をしているのと聞かれました。
太陽光を集めていると答えました。」


-901010101010101010101010101010101019-

上記のようなシュプリンクラーのように幾重もの輪があるのにそれなりの力が無ければ伸び縮みが出来ない感じですので、
そちらの方のお言葉では私はびくとも致しませんので、あしからず。

 

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窺うことに必死だった。
君への慕情は偽りに近いものだったのかもしれない。
遠くへ遠くへと赴こうと駆け出した足に棘が刺さって動けなくなったのはいつの日のことだったか。
そしてその棘に安心したのは、
体のいい言い訳で遠い君の場所へ訪れることを断ることに安堵したのは、
拭いきれないね。この汚さは。
僕は君が怖かったんだ。


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見ていなかったあなた、見捨てたあなた、嫌いだと言ったあなた、
目の映らないように逃げたわたし、わざと重い女を演じたわたし、度重なる我侭で嫌わせたわたし、
演じていたの。あなたの望むわたしを。趣味を合わせたり、好きな仕草を真似てみたり、全て上手く演じてみせた。
だから最後も演じた。演技で始まり演技で終えた、舞台で緞帳を上げたり降ろしたり、仕事みたいに。
退屈な遊びをしてみただけのこと。恋愛ごっこに勤しんでみただけのこと。
やっぱりつまらない。
手に取るように解ってしまうあなたは、最後の最後まで退屈だった。
わたしの思考を打ちのめしてくれる人をいつも募集中。
募集要項をプリントしてTシャツでも作ろうかな。
でも今はもう冬。寒いから、また春にでも。それまでは恋愛も、冬眠です。
 
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「一生そこから離れないおつもですか。」

回転扉の回転速度が天体速度よりも遅かったことを記憶しています。
事象はゆっくりと、けれども確実に訪れる。ギロチンの刃のようです。

「謝罪を済まされたのです。」
「面倒だからもういいよと分かったふりをしたのです。」
「何もかも済んで疲れたので無理矢理に終息させたのです。」
そういう生き方を選んだ結果が今のあなたです。

僕はもう知りません。
投薬治療は無事に終わりを迎えました。
僕はもう知りません。
春以降まで油断できませんが薬に別れを告げる喜びを実感しています。
だから僕はもう知りません。
分かったことがありました。微量ながらも答えが提示されたのです。
だから知ったこっちゃありません。
あなたがどうされようが正直生きようが野垂れ死にしようが知りません。

精神が揺らぎグズっているのではありません。
ただの一点で全てがどうでもよくなってしまうことがあるのです。
どうでもよくなった僕は少々それを残念に思います。
そうして離れるのです。捨てるのではありません、元来持ち物ではなかったのですから。
ただそっと、離れていくのです。


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非情になりました。
人間としての温もり?いいえ、今となっては枷となるそれは今まで僕をやたら執着させてきました。
そう、甘やかしていたのです。自分を。寄りすがりもたれかかる他者に優しさという名の惰性を与えることで自らの価値を見出そうと、そういう役割なのだと自己満足に浸っていたのでした。
それが結果的に自分の首を絞めていたのです。かくしてこの首は詰まり、呼吸が難しくなり、やがて僕は閉塞していったのです。

生きざるを得ません。まだ形にしていない事があるので欲求が尽きるまでは生きるのです。
生き方を変えました。他者への関わり方を病床に伏せていた頃を教訓とし、そのまま活用させて頂きます。
無駄に関わりません。心配もしません。優しさは毒だったのでアスファルトに吐き捨てました。

みくびらないで下さい。
「そうは言っても、やっぱり優しさはあるよ。」とか。
それでも思いたければ勝手に思えばいい。
死んだのです、あの時に。殺されたのではありません。
これからを生きるために、死んだのです。
一度、そうしなければ、ならなかったのです。

くだらない。
あなたは自らの弱さを理由に、何も進展もさせないまま道化を演じる。
道化は第三者を笑わし欺かせればいい。
あなたの場合は誰よりも自らを欺いている。
僕にはそれが、どうにも納得がいかない。
今はそうするしか術がないとまた弱さを口にする。
あなたの周りは許されたと思い込み満面の笑みで尻尾を振り近づいてくる。
あなたは優しく撫でつける反面、暗い霧が内部で立ち込めている。

自虐ですか。いい趣味なことです。
はっきり言いますが、あなた、間違っています。
そのままを続けるなら、こちらにも考えがあります。
僕がどんな人間か、あなたは知っているはずです。
どういった行動に出るかも、察しはつくでしょう。

申し訳ないのですがその行為、
嘘くさいと感じてしまいました。

あなたには、愛など無い。
誤魔化しきれていませんよ。弊害は必ず訪れる。
いつまでそんな事を続けるおつもりなのですか。
それは第三者を弄ぶのと同義です。気づきなさい。

軽蔑します
あなたのことを。

僕が一番嫌いなタイプだ。

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「黒猫マリィ」

人には事情があるものでそれは様々で誰に対しても程度の大小も重さも違うが、なんか、平等です。
一周忌と言ったら普通、坊さんとこ行ってお経でも唱えてもらって親戚と故人を偲んだりするものですよね。
色々とあり今回は個人でした。来年はどうなるか分かりませんがタイミングが合えば団体になるのかも?

名前の知らない花を買いました。
お線香と花の茎を僅かながら切るための鋏を持って行きました。
単独で墓を訪れるのは久しぶりでした。まだ蝉が樹木と非常に密接していたあの季節に訪れた際は二人でしたから。
誰もいませんでした。あの高台のすぐ下には公園があるので子供達の遊ぶ声だけが聞こえてきて、それを耳にしていると自分のその当時を8mmフィルムで映した映像のような感じで脳内再生されるのです。
桶とヤカンに水を汲みホウキとタワシを持って参ったのです。

前日に、明日は命日か。などとぼんやり浮かべていたら金剛力士像のような顔立ちの父がパッと出てきたので、ああそりゃあキレてますわなぁそりゃそうですなぁなどと考えていたのですが、今は思い出しません。
あの人形のような冷たい肌と寝顔しか思い出せません。あの怒り顔はなんとなく感じていた負い目だったのかもしれません。
余談ですがその日が訪れるまではやたら目の端が気になっておりました。
何かが動く気がして、小さい何かがよぎったような気がするから見ると誰も何もない。室内での話です。
これもなんとなく無意識に意識していたからなのかもしれません。12月10日を。
墓の前に着いてバッグをそこらに置いたところバッグが落ちて隣のお墓のちょっとしたスペースに落ちていきました。
前日の雨のせいでわずかばかりの水溜りが出来ていましてポシャりました。ああ、早速バチが当たったと思いました。

墓に話しかけながら花を添えたり周りを掃除したり墓を磨いたりしました。
最後はヤカンに汲んでいた水をてっぺんからかけておしまいです。
たくさんの事を話しました。父のために煙草を一本、添えておきました。
お線香が半分ぐらいの長さになるまで話していたことを記憶しています。
内容は大したことないですが、ただ近況を。

珍しいことだったのですが隣の家には黒猫が飼われているんです。
この猫とはよく顔を会わせるんですが、まーったく近寄ってこない。
それがその日お墓行く前に丁度居たんで、なんの気なしに話かけてみると「にゃあ」と通じるご様子で。
だので身体を撫でながら会話なんかを楽しんでみました。
ちょいと抱かせてもらおうかとしましたが、彼女はそこまでは気を許していないのか元来そういった気質なのか、
「ちょっと、そこまでは許してない!」と云わんばかりに僕の胸元に両腕をピーン。
それでも少しの時間だけ抱かせてくれたのでそれには感謝しています。
まあただお腹が空いていただけだったのでしょうけど記念に一枚と思ったら忙しなく動くのでブレました。
根気よく、パシャッ! Σp[【◎】]ω・`)と繰り返していたら飼い主である隣の家のお母さんが登場したので挨拶をしてその場を後に。
んー、黒猫とはほんとによく縁があるんですよね。
帰り際にも、満月を宿しているようなまんまるな目をした黒猫二匹に出くわしたのですがそれはさすがに逃げられました。
ただ単にここらに黒猫が多いだけなのかもしれませんが、なーんかね、日が日だしね。
これも何かの縁ですかなぁ~などと思ってしまった次第です。

ネガティブな感情があるとして、そんなもの価値がないから早く捨ててしまおうと考えるのが常なのかもしれませんが、
そんなものでも糧になることがあります。復讐心で己を奮い立たせるという不器用な手段、無くは無い話です。
それぐらいに力があるもので強心剤みたいな。ただリスクも大きい、それだけを糧にして目的が達成された場合、
後に残るものは抜け殻となった自分自身。なんてこともよくある話だと思います。
再生機構は残しておかねばなりません。あくまでも糧にしなくてはいけないわけで、
それらネガティブを燃料の全てにしてはいけないのでしょう。黒い炎は現世のものではなく黄泉の国のものでしょうし。
悲しみも憎しみも、いずれは消えてしまう。
消してしまうのは自己防衛からの反応であり、そうするべきであって、だから過去は美化されていくんです。
どうでもいい。これでいい。
父さん、僕はあの頃よりもだいぶ自分自身を許せるようになったよ。
ただあなたに対してのわだかまりはまだ消えていないけど、
なんかもう、どうでもいいよ。
良くも悪くも、もうあなたは居ないのだから、
ならば、もう、どうでもいい話だよね。


隣の家の猫の名前を知らないので勝手に命名。それがタイトルです。
また触らせてくれるかなぁ~触れさせてくれたのは彼女のサービスだったのかもね。
父へ対しての文章は命日ごとか、年忌法要ごとに書いていこうかと考えています。
それでは、また来年。

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「思考日記。」

たとえば君が惚れ惚れするほどに好意を抱いている人間がいたとして、
その人が言ったある一言がとても気高くて君に影響を及ぼしたとする。
かたや、君が憎んでも憎み尽くせないほどに憎しみを抱いている人間がいたとして、
その人が言ったある一言が前例の好意を抱いていた人と全く同じ事を言ったとする。
さて、君はその「一言」に対し、正当な評価が下せるのだろうか。
もしもズレが生じたなら、その好き嫌いの度合いも大きく影響していることでしょう。
不確定すぎるように思えます。
だから結論はまだ早いとあれほど言っただろう!犬畜生がっ!

・・・えー、では結論はいつどこで何時何分地球が何回回回回回回った時に出せばいいのでしょう。

「ねえ、見て見て!回って繋げるとラーメン屋のどんぶりみたいに見えるよ!くすくす」
「はい、下駄沢さん、静かにしてくださいねー。」

個人的にですが結論って覆ってほしくないんですよねぇ。
結の論ですよ?そりゃもう締めの一言であるわけで。ですからそのー、死の直前みたいな?
「ぷぷーっ死の直前だって!聞いたアサミ?死の直前に何か言える人って多くないよねー!あたしそれちょっと聞いてみる。」
「ねぇーなんも言わずに死んじゃったらどうすんのー突然死とかあんじゃーん、ああいう場合はー?」

「え・・・出ず仕舞いです。」
「んだよそれ。まじぷげらだよあいつ。」
「ぷげらとかネット用語を使わないでください下駄沢さん。」

と、いうわけで、正体不明んの訳の分からんもんには触れるな危険の魔ゼルな規犬です。
白か黒かはっきりしやがれこの豚野郎がっ!と親方気質の誰かは言うのでしょうか。
時代は変わったのです。白か黒ではなくそれ以外の色が跋扈(ばっこ:のさばり、はびこる事)しているこのある意味鬼畜めいた世の中において、もはやそんな考え方は時代遅れなのかもしれません。
いや、いいんですよ貫きゃいいじゃないですか気に食わないなら、とことん気の済むまで。
でもどこかで事を荒立てたくないからって、折れる。それは中間色になったってことです。
いいんですいいんです。めんどくせーからそれでいいんです。楽して生きます。確信犯であります。

僕は多分、変化に乏しい人と長く絡むことには、もう興味を示さないんだろうなぁ。
「変わってないねぇ~」って久方ぶりの友人なんかと会った時に言ったりしてそれは嘘じゃないし当時のように楽しめるんだけど、
それを仮に週一とか?頻繁に遊んだりするのとかって、もう多分向いてないんだなぁ。
飽きっぽくなったんだ。もうあの頃の僕は死んだんだねぇ~と強く思う今日この頃。
過去に愛した人達も、今の僕には愛せないんだろうね。劇的な変化に富んでしかもそれがいい意味じゃない限り。
うつ病を経て思うことは、トンネルを抜けたんだなぁと感じています。
今年の事がもう物凄く昔のことのように思えて、これはなんかもう健忘始まるんですかねと疑ってしまう程に。

昔からたまーに言われる。「菊尾は怖い。」と。
「なんでも見透かされてしまう、分かっているからそれが逆に怖い。」と。
怖がられると遠い場所とか高い場所に置かれているようでその段差から降りたくなったり、ちょちょちょっと寄ってみたくなるが、
その距離感はこちらが努力しても無意味なわけで、相手が自分のとこまで来てくれないと縮まらないんだろう。
というか昔からそれが普通なんで言われると驚く。ああ、そうなの?あらま。アラサー(アラウンドサーティ。三十歳前後の略語)

長い。今日も長いな。質問に対しやたら説得力のあるような言葉を吐き出す事が多い。
以前に「皆はそこまで深く考えてはいない。」と言われたことがあるのだが、
多分自分は一瞬にして深く潜れるタイプ。それとは別にジワジワと考えを重ねることで潜っていくタイプもあると思うのだが。
だので、水面上に顔を出すのも早い。欠点なのか長所なのか知らんが深海に長く留まっていられない息がそんなに続かないんで。
うん、なんかもう充分長いのでいいや。今日はこの辺で。
相変わらず何も答えを出さないことが答えです。

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「意思」

拝見、それからの流れと繋がり。
人との隔たりは大事にしている。結びつきと同じぐらいに。
雰囲気を察する、重んじる、それは自分以外を思いやる優しさの意味。
人として基本的なことだと思う。所謂、空気が読めない人は近くに置きたくない。
その場に適した発言なのかどうかを今一度省みて。
その人の人格や個性が窺える希望的な伝達手段として捉えたい。言葉に関しては。

誤解も生まれるのは解釈が違うから。
感じ方が違う、それは価値観の違いと称されている。
相手の真意を全部汲み取れてたとしても共感はまた、別の話。
故に人との接触を恐怖する。保守的な考え。保身。
何よりも大切なのは自分自身。自らを犠牲にすることなんて無い。
関わらない、揉め事は避けている、回避上手になっていく。
しかしそれに伴う弊害。
避けることには長けてくるが、いざ密接な繋がりを求めた際の困惑。戸惑い。
どうしたいいか分からない。
だから相手に委ねる。相手の力量次第でその人の今後が左右される。
質の悪い相手なら更に人との接触を回避するようになるだろう。
人の温もりも知らないまま年を重ねていくことだろう。

かつて全身を覆っていた体毛は進化と共に薄れた。
弱点を白昼に曝け出しながら歩いている。
だから他者と寄り添う必要がある。
どう足掻いても繋がり無くして歩いてなどいけない。
それを残念に思うことは、きっと寂しいことなのだろう。

好き勝手に物言って潤滑に回る人間関係など存在しない。
親しき仲にも礼儀あり。
僕が本当に心を開いている人は数人のみ。
オープンな性格だけど、薄いんだ。濃度や密度は。

僕を知るのに必要な時間数は無限。
君を知るのに費やす時間数も、また、無限。
だから、ゆっくりとやって行こう。

-------------

「菊川淳二」

この話は、友人の話なんですけどね。

家に人がいない事なんて結構あるんですよ。
まぁそんな日は戸締りして皆出かけるから鍵かかっていれば、
ああ、皆まだ帰ってきてないんだなぁって思うわけです。
それでその日も両親がどこか出かけていて弟も学校から帰ってきてない。
やっぱりドアには鍵がかかっていたからバッグから鍵取り出して家に入ったんです。

ガチャリ。
ゆっくりドアを開ける。
勿論玄関は暗いんです。いつもはただいまって言うんですけど、
まぁ誰もいないから、無言で靴脱いで二階にある部屋に上がっていったんです。

トントントントン。階段を上がっていく。

部屋の電気を付けてテレビを付けて、
静か過ぎてもなんだか寂しいんでね、友人は普段テレビをあまり見ないそうです。
でもその日はBGM代わりにでもしようと思っていつもより音量大きくしたりしてね。
それでまぁ、くつろいでいたんです。

しばらく経って、下からガチャリと音がしたらしいんです。
あ、聞きなれたこの音はドアが開く音だと思ったらしいんですね。
それで誰か帰ってきたんだなぁと思っていると、
ただいま~って下から声がする。母親の声なんですね。
ああ、母さんか。と思って「おかえり~なんか無い?お腹空いたよー」なんて返したらしいんです。

そしたら返事が返ってこない。あれ?聞こえてないのかな?と思ってもう一度、
「ねえ、何か食べるものない?ねえ!」ってさっきより強く呼びかけた。
するとやっぱり返事がない。
「ねえ!トイレ?ねえ!」
友人何度か呼びかけたらしいんですねぇ。それでも返事は返ってこない。

なんだよ、と思って下へ降りていったんです。
トントントントン。
暗いですから足元に気をつけて階段を降りていく。
そして辺りを見回しながら再び呼びかけたんです。

「ねえ?母さん??」


誰もいないんですね。家の中。
真っ暗なんですよ、リビングもトイレも和室も全部。
冷蔵庫の音だけがブーンって鳴っている。

おかしいなぁと不思議に思っているとその時、
ガチャってドアが開く音がしたんです。
え?と思って見てみるとお母さんなんですね。
だから聞いたんです。「さっき帰ってきたよねぇ?」って。
そうしたら
「あんた何言ってんの?あたしは今帰ってきたとこよ。」って。


あの時帰ってきたのは一体誰だったんでしょうかねぇ?

ただね、それもおかしいんですけどもう一つおかしいことがあって、
二階に居てテレビの音量もいつもより大きくしている。
なのにどうして、一階のドアが開く音が聞こえたんでしょうかねぇ?
はっきりと聞こえたそうです。ガチャリってドアが開く音。


不思議なことってあるんですねぇ。

------------

「荒唐無稽な僕は未明。どこかに佇む君は見守っていてくれる。」

また、剥がれそうになっているから、両手で押さえておかなければいけない。
押さえておけば、自然とくっついてくれるはず。
接着剤とか無いよ。包帯とかも無いよ。
縫合できてもすぐに裂けるだろう。
まだ、馴染まない冷気が奪っていく、熱で守っていた身体を奪っていくよ。

僕は未明。
実体が薄れていく。
頭の中に濃霧が立ち込めている。
流鏑馬で射抜かれたい、胸中を、一思いに貫かれてしまいたい。
「住んでいる世界が違う。」と口にした彼女は未だ存命なのか?知れない僕は彼女にとっても同様であって。
神経が過敏に過剰に反応してしまって刺激が強過ぎて、差し込んでいる光は真っ白で、辺りの色が失われて、それから、それから、と反芻したつもりでいた言葉が一つ一つ別の形に変貌してしまい、可笑しいなともう笑うしかないのに解っていたはずなのに、見失ってしまうんだ。
掴んでいたイメージは誰かが薬品でもぶちまけたのか、ブスブスと穴が開いて、独りに、覆われてしまう。独りが、無へと戻そうとしている。
爪で頬を掻く。腕を掻く。脚を掻く。肉体の感触を爪先に皮膚から入り込む刺激を忘れてしまいそうで怖いから。

春先に、途絶えてしまいたかったんだ。
行方も、今までも、白紙へと戻したかったんだ。
ただ誰かの記憶の中で息を、それだけでもう良かった。
惰性だ。見切りをつけたあの日から続く今もこれからも惰性なのだろう。

三半規管、くすぐられているようで、むず痒い網膜に映る景色、ユレル、ユラサレル。
そっと忍ばせておいた懐の、毒薬の入った小瓶。咳止めシロップみたいに飲み干してしまおうか。
酸素が足らないから肺が満足せずに不貞腐れているよ。

「もう、いいかい?」
「まだ、だよ。」

問いかけているのは僕、返してくれているのも僕。
正直申しまして、あとどれだけ生きたらいいのですか。
先延ばしにしても、こんな体たらく。
「もう、いいよ。」
「まだ、だめだよ。」
一線を越えたい、先へ、急いている僕はもう行きたい。

立ち込めてきた、気配が、後方から取り囲むように、包み込んでくる。
君は生きてくれと、どうして頼める?
もういい加減、“生”に許されたいんだ。

君は見抜いていた。
僕の変調を。
ずっと言ってほしかったんだ。
ずっと待っていたんだ。
感謝の言葉をこの場を通じて君へ。
「ありがとう。」
君さえ居てくれればそれでいいよ。
だから僕は、君で、終わりだ。


綺麗な空。
それはきっと、こんな日だから。


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「脳海に漂う月を見た。」

隣町が冠水したようだ。沈む度に浮き上がらなければいけないと誰だか知らないが僕へ教えようとする。
水浸しの僕は前髪から何粒も滴らせていてタクシーの後部座席に座れば気味悪がられるような存在さ。
重い塊を幾つも持っているのに浮かびあがるのは僕の意思ではなく、誰かの腕が僕を引くのだろう。
「世界は美しいから。」
「人は愛しい生き物だから。」
時間が経って分離した僅かな上澄み。その僅かを信じたくてそこに居たくて、だから息をしている。
胸を撫で下ろしたいし一息つきたい。安心感が得られればそれでいい気がしている。

皮膜は包み紙だし、心理は一体、誰のものなんだ。
自身の所有物だと言い切れない。人に左右され、それは好転もあれば悪化もある。
軸は誰かによって造られていくのか、僕など初めから居なかったのか。
人が許容できる範囲なんて高が知れているが複雑な内情を秘めている人間は理解を求める。
他者の苦しみを聞いて自分まで苦しむ必要はない。
同調は危険だ。人の為に涙する人は人の為に喜んで死んでいく。
つまりその人の人生は誰かのものだったわけだ。
慈愛など人に相応か?持て余すだけだろう。それは神の所有物だから人にとっては禁忌だ。
かと言って傍若無人に振舞う輩は犬畜生にも劣るね。誰かの迷惑になってはいけないよ。
愛憎は一対として存在している。皮肉だが事実だ。皮肉に満ちているのが世の常人の常というものさ。

しかし未だ腑に落ちていないのは一人の人間に対して同時にそう感じれないこと。
二人の人間が居たとして片方を憎むともう片方への愛情が深まることは今まで幾つかあった。
だが一人の人間に対してはそう思えない。忌むべき対象が居なければ僕の愛情は成立しないのか。
誰かを憎むことで別の誰かを深く愛していることに気がつく。
忌むべき対象は、病であったり人であったり様々だ。
それ相応の感情を持ち合わせていなければ均衡は保てない。
深い愛情の陰に潜むのは同等の暗闇。全く、厄介な生き物として生を受けたものだ。

やはり僕は希薄だ。信じるに値しない。
知っているさ。
マガイモノだって事ぐらい。
君は僕をどう捉える?
干渉しない出来ない交ぐわえない頼りなく独歩しているにすぎない。
救う?違うね。巣食うんだ。
それでもその内側で息づかせてほしいと、
信じたくも無い感情を再び目の当たりにしている自分に驚く。

もう、いいのに。
否認、拒絶。
僕ら、永久的に一人だね。

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漂っていたら脳海に揺れる月を見た。
それはきっとあなたで、印象を月に置き換えたのだと思う。
溶解していく言葉の端々を手繰り寄せて胸の奥に沁みこませた、深く深く。
「そんなあたしでも、いいの?」
口には出せずに本音は仕舞いこんだまま。それは今でも。
いつでも悲観して身を守る。
人が生み出した希望の定義なんか当て嵌まらないから、
爪先まで縮こまって正方形になっているベッドの上。
このままではダメになる。
人知れず溶融していることに気づいている。
正方形の角が柔らかくなってきていることも知っている。
だから、ダメになる。
この先に待つのはベタベタと粘着性の高い湿気を帯びたあたしが居る。
離れて。でも寂しいからちょっとだけ。
寄り添えないと感じるのは、怖いから。
あたしはもうあなた以外に人を知らなくていい。
関係性に名前をつけたらきっと、枯れてしまうのでしょう。
弱虫。
もう昔みたいに、望めないよ。

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「事象の一つ。」

混線しているように大小様々な声が四方八歩へ飛び散っているが、それは全て自分の声。
記憶しか残されていない揺り籠がキィキィと音を立てて上下している。
「   」に当てはまらない僕の解はどうやら誤解だったらしい。
最初からやり直し。ふりだしに戻される。
間違えば始点に戻るのは当然のことのように感じられているが実は僕には始点がない。
それならばどこへ運ばれ処理されるのか。上は言う。そこで留まりながら思索し脳内翻弄した後、一歩だけ進めと。
どこへ。と訊いても返事は無くて、委ねられた責任の重さを痛感。上の階に住まう人は勝手な人だ。

外界からの断絶、高低差が倍以上の階段、精神的疾患、
網膜を通じてでも鼓膜から伝わってでもない束縛が何よりもの恐怖。
何も無い。懐柔されている間はまだ価値があるもののやがて用済みになり捨てられる。
何も無い。既視ではなく既死だろう。見つけられなかったんだ、道の先を。
まだ糧があった頃の僕は紛れもなく人だった。
今はもうただの虚像。幾つもの実体があるが故に虚像。
ひとつに、なりたかったのかな。

多少無理してでも動いていなければ、沈んでしまうのだろう。
一度止まれば、二度と起き上がれないかもしれないと懼れている。
蝉の鳴き声はカウントダウンされる命日への悲痛な叫びでもなく生を謳歌している喜びの歌でもない。
ただ、そうしているだけだ。僕らが呼吸をするのと同じようにただ、そう在るだけだ。

どこへ行った
君はどこへ行った?
見えない、聞こえない、時間が止まっていく、空白に辺りが包まれていく、
この手を触っていてくれ、身体を抱いていてくれ、
飽和してゆく、弾けて割れてしまいそうで、僕は支離滅裂にて、間引き過ぎたの?
裏打ちしたかっただけ、
多角的に眺めて尺度を測り、より明確に、僕達の実態を把握したかった。
時間の暴力に抗う術はなく、屈してしまうね。
なんだかもう、理解することにため息しか出てこない。
君はあの時死んだ、僕の中で死んだんだ。
そうやって受容範囲を広げていくことに息が詰まっていく。
それを知っているのに、相変わらずさ。

正体は未だ不明、確認など出来ない。
幻影、蜃気楼、掴めたように思えた。思えただけが永遠。
虚ろ。何もかも必然的な錯覚。
それならば、
捉えられないなら捉われない。
ただの事象の一つとして過ぎていく、
空中に舞い踊る蝶のように、
微笑しながら揺れる木々のように、
再び空へと還元されていく雨の一粒のように、
この命を、決して覆されることのない事象の一つに当てはめていくだけ。それだけ。

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「随筆」

銀のアルミ缶に入っているそのマッチは使っても使っても一向に無くならない。
迷い家に置かれていた食べ物は食べても食べても全く無くならないという。
迷い家とは「遠野物語」に紹介される話の一つで山奥にある迷い人だけが辿り着ける家のこと。
その家に人は誰もいないのだが、まるで今の今まで誰かがいたような生活感が漂っている。
用意されている御膳や、グツグツと囲炉裏で沸いているお湯や、また庭には花が咲き乱れ牛馬や鶏も飼育されているという。
そんな不思議な家の話。しかしその家を再び訪ねてみようと思ってもそれは適わない。
恐らく資格のある迷い人だけが生涯で一度だけ訪れることの出来る場所なのであろう。

話を戻すが、そのマッチ、さて実際に何本あるのか数えてみた。
使っていたものではなく最近また新しい物を貰ったのでその未使用の方を、
床にバラバラと撒き散らし、一本一本、缶へ戻しながら数えてみた。

数は全部で、108本だった。

108。浮かんだことは馴染み深い除夜の鐘の数。そう煩悩の数だ。
煙草を買ったおまけとして付いてくるこのマッチ、
使用目的は一つとは限らないが大抵の人がその喫煙する際に使うだろう。

煩悩とは辞書によれば身心を悩まし苦しめ、煩わせ、けがす精神作用の事を指すらしい。
煙草の煙は全てを巻き込み害を及ぼす。なんとも皮肉な話。ブラックユーモアと僕は受け取ったけどね。
勿論、偶然なのかもしれない。しかしこの偶然は必然なような気がしている。
少なくとも思考するきっかけを与えてくれたことには感謝している。

欲。
それが強く作用する時、人は最も人らしいのだろう。
それは時に人を傷つけるし反して幸せへと導くこともある。
これから起こる出来事、過ぎた出来事が、誰かを苦しめる事になったとしても、
結論は、最後まで取っておくのがいい。ただ、今が苦しいだけで、
そんな今もすぐに過ぎ去っていく。

話は変わって先日、知人と話たこと。
それは宗教の話で、彼も僕もそういった事柄には疎い。というか耳を傾けない。
神を崇拝するという。僕は未だ神に出逢ったことがない。
都合の悪いときにだけ神頼みをするという愚行なら何度か起こしたが。ただ特にそれに対し醜さは感じないが。
目に見えないもの。僕は幽霊なんかは信じるタイプの人間だし神様の存在も信じている。いや居てもおかしくないかなって。
ただそれを崇める為に定期的に集い平伏そうとは思わない。
人の作り上げた神を信じるのは僕の趣味では無いからだ。
自分だけの神様なら目に見える形でだって存在している。僕にとっては音楽や文学、まあ芸術ごとがそれに値する。
そもそも何故幾つも神様がいるんだ。信じる神様が違うだけで対立し時に争い、それと聖戦などと称する。
戦争に聖なんて文字は似つかわしく無いと感じている。血の上で成り立つ信仰なんて僕は嫌いだ。
全ての人が幸せになるのがそれなら、枝分かなんてしなくていいはずなのに。

人を崇める形でもそれは存在する。神を崇めるならまだ解らなくもないがそれに対しては一番腑に落ちない。
どこぞの誰が奇跡を起こした。今では神として扱われている人もいるという。
しかし神として定めたのはその時代を生きた人間達だと言うではないか。
過去の書物を基に色々と判断していく事にも疑問を感じる。それらを書いたのも、また人だからだ。

偉人なら腐るほど過去に存在している。
アインシュタインや豊臣秀吉やコロンブスや、もうそれはそれは多くの偉人たちが今に語り継がれている。
人が人を崇めるならそれらの偉人たちを崇めたほうがまだ納得がいく。
歴史となってその偉業はこれからも語り継がれていく、それは確かに存在した証だ。
確かなものだけを信じたい僕にとっては曖昧な何かを信じ陶酔するなど、危険すぎる行為だ。

だから僕は僕の内側を何よりも信じている。
それだけは確かだからだ。
移り変わる人の心理に左右されたくない。
そういった意味で固執することなく僕は僕を信じる。

砕けて言えば、全てに対してはいいとこ取りでいいと思う。
自分にとってプラスになる側面だけを捉えていればいい。
そしてそれは一つだけに拘らず多くのことに目を向けたほうがいいだろう。
そうすることで人は学び、心の幅を広げられるのだろうから。

妄信は有害だ。
心酔は有益ではない。
振り回されないほどの軸を有するために生きる。
選ばされるのではなく、自らの意思で選べ。
僕は自分自身に納得できる形でこの地上に位置していたい。

押し付けたり強制しようとするものなんて僕は絶対に信じない。
自由で居たい。誰にも何にも捉われない、そんな存在に。
僕を掴まえる事のできる人間は、僕だけだ。

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「9.03」

右利きだからこそ左手で遊び始める。
暑いと感じているくせに首の上、どこか麻痺しているように、やたらこめかみ辺りが冷めていて奇妙な感覚。
このままがいいと何度望んだか。望む時点でそれは亀裂が入り崩れてしまうというのに。
優しい人は皆を遠ざける。大切な存在だからこそ、傷つけないようにと、皆を遠ざける。
鼓膜の振動、心臓の鼓動、黙っていもどこか体内から聞こえる音がある。それは心地よいリズム。生きた音。
スダレの先で通る人達は皆顔が分からない。誰だろう。きっとスダレを除けても分からないだろうけど。
神経過敏、剥き出しの感性があれもこれも取り込もうとするので処理が大変です。
頭が痛い。眼精疲労?考えすぎ?
否、思索することに時間を割くのは文章を描くときのみ。それ以外は極力自由にしている。だから突然踊り出す、唄い出す。
僕の言霊、君にあげるよ。
別れが近い。あともうすぐで、僕ら離れ離れ。ばいばい。ばいばい。もう会うこともないのかな。
案外いつでも会える距離にいる人間とは会わなくなる。いつでも会えるという安心感からか油断してしまい先送り。
そうして久方ぶりの連絡を試みると番号違っていたりでショック×3。まじかよと舌打ちで疎遠。存外な存在、雑な関係。
言葉周間。夕刊菊尾。今日の見出しは、「どこを縦読み?」
嗤っているのだ。自嘲しているのだ。滑稽で薄弱な僕は未然に防ぐなんて縁遠いこと。だからこうやってダメ頭。
その場に位置しているという自覚の無さから発生する浮遊感、モヤのようなものが僕の正体。
瞼に爪が生えていたら眠るとき大変そう。枕に刺さる刺さる。ザクってうつ伏せになった時刺さったら窒息死しちゃうかも。かも。
散乱した室内ですが一番散らかっているのは僕の内側。整理しなくっちゃいけないわけですが頭も腰も重いので指先しか動きません。
アイス→愛す→I see→My sea
振り向きざま、好き。素の表情だから。え?ってよく聞き取れてなかった顔も好き。無防備な表情が好き。
一割程度だが指先の痺れを感じているのはお昼ぐらいからだっけ。小指とかが、なんだかね。
来月に投薬は終わる予定。普通の時って意識していないけど、なんかおかしいなと感じると結構歯止めが利かない。終えちゃっていいの?これ。どうなのよ。
スカイクロラの予告編を観た、今更ながら。草薙が叫んでたけど菊池凛子の声はイメージと違う。もっと低いほうがいいような。ってかあれ何?ただの恋愛もん?
でも加瀬君の声は合っていたように思うよ。
自分の背後がなんだか気になる。そわそわ。ザワ・・・ザワザ・・ザワザワ・・・
黒猫はその瞳に三日月を宿している。だから好きなんだ。
トムヨーク、いいね。いい。


「わからない。」「わからない。」「わからない。」「わかろうとしない。」「わからない。」「わかりあえない。」「わからない。」


誰か、僕を産んで。今度は上手にするから。
だから、僕を産んでよ。


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「無題」

ボウフラのように沼地をふらついている、僕の住む湿原には色彩が足りないからと君はどこかで摘んだ花を持ってくるが、
それらは別の場所からの異物であり、結果、この湿原に一歩踏み込んだ瞬間に花は色褪せてしまう。
だが君は悲しまずに再びどこからか花を運んでくるのだろう。
「現状がどうなろうと知ったことないよ、ただね、この場所にも花は相応しいと思うし。きっと色褪せないで生きられる。私はそれを信じている。」
僕の住む湿原、諦め悪く花を運ぶ君は華道家みたいに、花を生かそうとするのと同時に僕を生かそうとする。

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これは、本当の事なんだと一番感じることの一つとして、別れがある。
痛みに変わらない限り実感が伴わない僕はどこか麻痺しているのかもしれない。
喪失感がこの世に生きるための糧?
皮肉すぎるね。そしてそれは、間違いなく身を滅ぼす。
けれど、それ以外は、全て、浮遊。
困った人です。

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笑っていられるその内に、さようならの一言を。


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ボクもあんな風に素直に言えたらなぁ。
キレイだなぁ。羨ましいなぁ。
あんな人になりたかったなぁ。
ボクは人にはなれなかったなぁ。
次は何がいいだろう。深海魚がいいかなぁ。
ボクは昔、何になりたかったんだろう。
結局ボクはなんだったんだろう。
人になりたかったから人を描いていたんだ。

ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる
ボクを中心に取り囲む輪。
ボクは、その輪に入りたかったんだ。
孤高の人?聞こえがいいかもしれないけど、ボクはボクが引く境界線が時折邪魔になる。
寂しがりだと皆が言う。
そうなんだろうなぁと少しずつ理解し始めている。
抽象的なことに捉われてきたから、目に見えるものを大事にしている。

僕は軽薄になりつつある。
適当にやり過ごしている感が否めない。
とっくに、消費期限は過ぎている。
手の施しようがないぐらいの末期具合。
今って、結構晩年だったりして。

笑う、笑う、笑う、笑う。
人を笑わすことが好きだ。
自分の存在を許される気がするから。
正直、生きたいなんて思った例がないね。
贅沢?あげられるんならあげたいよ。
粗末になんかしていない。大事に抱えた結果だよ。
この生は僕には重すぎたんだ。


さて。何をしようかな。
今夜は久しぶりに雨が降っている。

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「9.21」

不明瞭さが魅力的にも思えていた。それは錯覚なのかもしれないと一度その真実性を疑ってみたりしたが、すぐにどうでもよくなった。
事実を重ねることが必ずとも真実に辿りつくわけではないと。テレビで観た。
しかし現実に於いて事実の積み重ねにより捏造されてしまう真実があることも少なくはない。
不変的な真実に遭遇することは、そう多いことではないのかもしれない。対象が人である限り。

偽善は偽善ではないとある人は言った。何かしらの利益がその当人に返り、また当人が偽善だという行為を否認していたとしてもだ。
何故ならば事実その人間は、真意はどうであれ、結果として善行をしているのだから。
偽善だと罵る者の多くは何もせず口だけを動かしている。だから何だ?痛くも痒くもない。少なくとも何もしないお前らよりかはいいだろう?
そう言われてしまえばそれだけだ。資格を持っていない。いや、そもそも罵る資格など存在しない。
そう罵る者はただ妬ましいだけだ。浅はかで頭の悪い人達。烏合の衆。悔しいなら、何かしてみせろ。

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恋しい。
錯覚であろうと幻想であろうと、
人は溺れてしまう性にある。

思えないと感じる事に対して罪悪感など必要ない。
無論、期待に応える必要もない。
感謝こそすれど、意思無く甘受してはならない。
助長する相手に君はどこかで辟易し、結果それは君の足元を茨が散らすから。

下らなさは十二分に承知した上での行為だ。
幸せなど遠巻きに眺めているぐらいが丁度いいと解り始めたから、
ただ、たゆたう心の動きを利用して、安らかに瞼を閉じるだけだよ。

誰かを救いたいと考えていると自身が墜ちて行く。
自己犠牲の上に成り立つ幸福など僕は認めない。
相手が幸せなら自分も幸せなんて若い時分で言うもんじゃない。
相手は本当に幸せか?相手はあなたの幸せも望んでいる事を踏まえているか?
結局、救いたい対象に自身を投映させているのだろう。
そうしてその対象の救いが自身の救いに繋がると信じている。
しかしそれならば何故、未だに君は救われない?
何故に次の対象を見つけようと躍起になっている?
何かおかしいだろう。
だとしたらその方法は違うのかもしれない。
念頭に置くのは自身のことにしてほしい。
一種の依存状態にあるその関係は果たして如何なものなのか。
しかし君が笑えば僕も嬉しい。
それもまた事実なわけだが・・・。

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「キクオとヨリコ」

隠していた腫瘍が肥大しているような気がしてならない。
君での治療を試みたが今になっては効き目がないらしい。
水内際を歩く、海岸線沿いに足跡だけを頼りにして追っていたの。背中が見えているのにその踝を眺めて。
嘆きが虚ろ過ぎてまともに目を向けられない。悲しそう君は、そんな眼で僕を見る。
明日のあたしも煙たいって身振りで手をヒラヒラと、宙に浮き纏わりつく「生」を振り払おうと四苦八苦するのよ。
蝿みたい。こんな命は蝿みたい。
切り裂いて傷口をその唇で縫合してほしい。刹那の中、瞬く間に駆け抜ける光線のような二人の沈黙は表面張力のようで、
一体いつになったら溢れ出るのかとヒヤヒヤしながら夜を越えてまた僕ら、あたしら、ウソで自身を誤魔化し昨夜の顔は手の平返して何も無かったかのように振舞う。
何故与えられたいと願うのか何故与えようと願わないのか。
欲しがるばかりで吸い取るだけ吸い取ったら次の獲物を探すのでしょう。
俺の何がほしいんだ?あたしの生気に価値など無いわ。
病人に病人が手を差し出したってどうにもならないなんて、知っているさ。

見せかけの明るさ、それの完成度の高さから欺く事によく利用している。
笑っているように見えるかい?
本当に愉しそうだと感じるかい?
いい加減気づいてよあたし達こんなに疲弊しているじゃない、なのに何故あなた達そんな風に無邪気に
何もかも分かった風な顔と口調で話しかけてこれるのよ、あたし達あなた達を癒す立場じゃないのよ、ねえ、ねえ!
無理だよ。もう、まとめきれない。あの人達にとって僕らはただの消耗品だ。
利用価値が無くなったら捨てていく。何度も見てきたことじゃないか。
でもね、それでも信じたかった・・・。
見限ろう。僕らの憂いなんて所詮、他人事だ。僕らの住む世界は余りにも遠いんだから。
もう無理なの?あたしはまだ、諦めきれないよ、、
帳を下ろそう。一人で完結している僕らには過ぎた世界だったんだ。
望んでしまったあたし達が悪かった?
いいや、人間だから、望んで当然だよ。そもそも人として生まれた事が愚かだったんだ。
始まりから間違っていたのね。
そうだよ。とにかく、疲れたね。眠ろう、もう眠ろう。
うん、おやすみなさい。あたし達。

悲しいね。
悲しいよ。

頭も、心も、閉じる。
あたしも僕も、もういいよ。
全部、もういい。

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「現状。」

家から一歩外へ出た瞬間に感じたのは紛れも無く秋の空気感だった。
確か数年前まではこの冷たさが好きだったのにどうやら今年からは違うらしい。
妙な気分だった。
胸がやたらとザワついた。まるで自分の身長も隠すほどに伸びた草むらの中掻き分けて進んでいるような感覚。
落ち着きがなくなる、視線が定まらずに宙を泳ぎ始める、僕の瞳は金魚になったようで周りは水中からの景色のようにボヤけて視界不良。
夏よりも強く匂いに敏感になる。秋の冷たさは匂いを必要以上に漂わせてしまう。
結果、僕の五感は鋭敏になり不必要なものを連れてくる。いや鋭くなっているのは匂いを嗅いだ為ではないのだろう。嗅げている時点で鋭いのだから。
秋が何よりも大好きだったのはもう昔の話で、今は春以上に怖さを感じる。
ある意味これは不思議なことだと思う。折角だし、どうせならこんな気味悪さを愉しみたいのだが、果たして、牙を向けている季節を飼いならせるだろうか。
怯えは伝わるもの。秋が僕を手玉に取ろうとする。でも今、僕は休むことができる。
怖くなったら毛布でも被ってうずくまっていよう。懐古も確かに存在しているのにね。不思議で奇妙で、まるで不条理な夢の世界みたい。

前髪のオーダーミスにより短さが尋常じゃない。南海の山ちゃんみたい。少し凹んだので眉毛を薄くした。すると更に異常。
正直言って外見的に「あ、この人普通ではないだろうな。」と他者は思うだろう。それでいい。頭はおかしく在りたいし、そう見せたい欲求もあるし。

うつに甘えるなという言葉がある。結構よく耳にする。
精神病には偏見が付き纏う。それを失くそうとしても絶対的に無理だと思う。
身体的な症状、怪我や病。目に見えないものを人は信じにくい。
例えば自分の内部に腫瘍が出来たと言ってもそれは確認できないが、目に見える形での症状、咳、嘔吐、喀血、下血など解りやすい形で現されることが多い。
腫瘍自体も膨らんでくれば目で確認できるし、頭痛なんかは当人にしか分からないがほとんどの人が経験したことがある症状である為理解しやすい。
しかし精神病は違う。目に見えないのが何よりも厄介だ。故に理解がされにくい。
それにありふれてない。一生無縁の人だっているだろう。現代病と呼ばれているが病にまで至らず抑うつ状態で留まる事が多いのではないだろうか。
うつはなってみなければ分からない。そしてその症状は人によって違う。
主に極端な気力、記憶力、思考力の低下、不眠などが見受けられるが、それ以外にも違う症状が現れることもある。
一般的に気力の低下は全般に通じるものだが、自分の好むものには気力が湧いたり、また、不眠ではなく過眠の場合や、
午前中に具合が悪い場合が一般的なのに対し、夕方から夜にかけて悪くなる場合がある。
そういう症状の場合は普通のうつではなく、まだ認知度は低いようだが非定型うつというらしい。自分はどちらかというと、こちらに当てはまる。
医師全般に浸透しているわけではないし、非定型を認めない医師もいるので微妙なところなんだけど。
他にも仮面うつなどもある。仮面うつは身体に具体的な症状が現れる。精神的症状はでないのに、倦怠感や胃痛や、めまい、手の震えなどが出る。
うつが仮面を被って他の病のようにカモフラージュして隠れてしまっているような事からそんな名称が。いや、詳しくはないんだけどそんな所かなぁと推測です。
勿論仮面うつかもしれない!と思って心療内科に行くと違う病気のケースもある。
他の症状も併発していると難解さは更に増す。離人症や統合失調症や境界例人格性障害など併発しているケースも少なくはない。

とにかく厄介だ。
話は戻り難解すぎるのも手伝って実際に体験しないと理解ができない。
いや体験者でも同病の人間に対して理解ができないパターンもある。自分と症状が違うからという理由で。
もうね、正直そんなもんを健常者が理解しようと思うのが無理。ばか。できるわけない。
だって体験している自分らだって何から何まで理解はできていないんだから。それほど精神は複雑なんだもん。
だから偏見は無くならない。相手が人間である以上、器のでけぇ人じゃなきゃ相手は務まらない。
理解されない孤独から第三者を求める傾向もあるが、全くもって無意味。信頼した相手から裏切られた時の事を考えるとリスクが大きすぎる。
敏感になっている神経に裏切りなど与えたらそれこそ死んでしまうかもしれないから。

気合いや精神論でどうにかなるんなら「病」なんて名称は付かない。薬だって必要ない。
そんなにお前らが考えてるほど甘いもんじゃねーんだよ。
話は再び戻り「うつに甘えるな」
気をつけるべきなのは患っている人もそれを相手にする人も自覚しなきゃいけないってこと。
双方お互いに、めんどくせーもん背負っちまったなぁ。って。
何かに対して甘えることが不器用だから、うつになる。
勿論、うつを理由に何をしてもいいわけではないが、その理由が本当にうつからなのか、
それともただの惰性からなのか、それは当人にしか分からん。いや当人にも分からん場合がある。
ならば、どちらにしても不用意にその発言をすることはしないほうがいい。安全策を取るべきだ。
心からの理解など無理だし望まないほうがいいが、ただ、そうしようとお互いに努力する必要はある。
それが出来ないなら、見限りなさい。
手に負える相手じゃなかったと。感情だけではどうにもならない事があるんだと、受け入れるしかないから。

僕は以前それで一度失敗をしたことがある。
健康な人に一言、めんどくせって思ったら逃げなさい。深入りを避けなさい。
それは仕方の無いことだから。無力感を嘆かなくていい。得てしてそういうもんだから。
それでも付き合うなら、とことん寛容になるしかないと思う。ただ重いよー?めためた重いよー?
覚悟をしなさい。全力で寄りかかられて身も心もボロっボロになる場合もあるよー。
怖いよー共倒れしちゃうよー飲み込まれちゃってもいいのー?それこそ心中もありうる話だよー?
僕が言いたいのは極論だけど、それぐらいの覚悟しなくちゃダメだってこと。
無理なら最初から構うな。相手が余計深みに落ちるだけだから。結果的に、逃避も愛情の一つだよ。

僕は今現在、投薬治療の真っ只中ですが、来週からは減薬に移るらしいです。
始めは断薬の予定でしたが、最近の症状を見てからか、様子見で減薬に変えたっぽいです。

2008.9.28現在、僕は未だ、うつ病患者です。

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「ク、タ、バ、レ!!!」

書店が好きだ、たまらなく好きなんだ。
立ち読みをする、大抵雑誌から読み始め書籍棚へ向かい文庫の新刊をチェックし漫画で終える。
あれは恐らくだが男性ファッション誌。chokichokiとかsmartとかそういった類の決してMEN'S FUDGEとかJOKERとかじゃなく十代二十代向けの。
それを手にしていたのは三人組の大学生らしき女子グループとおぼしき人達。僕は気にせず(いや嘘、顔とスタイルを確認はした。全員可愛かった。)
隣にある芸術系雑誌の類を貪るように読んでいた。しかし耳に声は入ってくる。女の子が三人も集まれば嫌でも会話は入ってくる。
左耳から右耳へ流そうと思っていたのだが会話内容が、「うわっこれイケメン」「あ、この人知ってる。実物あんまかっこよくないよ。」
「あたしの友達の彼氏デザイナーなんだよねぇ」「すごいねー」「あ、この人この前原宿で撮影してた。」「なんかキモくね?この髪型ありえない」

ずっとだよ。ずーーーーーっとそんな事言ってんだよ。
このど腐れスイーツ脳がああああ!俺ねもうねこういうの大っっっ嫌いなんすよ!
なんつーの?こういうの、この感じ。それ以外になんか話題ないの?見てる雑誌がファッション雑誌ならせめて服も話題にしろよ。
なんの為に見てんのそれグラビア雑誌的な感覚なの?てか、そこか?!その顔に対しての云々そんなに重要か?!
なんかもうさ、バカじゃん?絶対頭空っぽでしょ?思想とかゼロじゃん、何考えて生きてんだろ、価値ない完全に価値がない。
ちょっと吐きそうになったもん気持ち悪くて。いやでもありふれてると思うけどね実際。むしろ大学生ぐらいの年齢ならそれが普通なのかなぁ。
なんか残念だったのは見た目結構こだわりがありそうな感じだったのねファッション的なもの見てもさ。推測というか偏見でしか無いけど。
俺ほんとうにバカが嫌いだわぁ外見的なもんが全てだと思っているバカが大嫌いだわぁ。
それが全てなら人間味とか無いじゃんね。いやもう偏見ですよ彼女らには彼女なりの思想があるのかもしれんけどさ、
でもだったらどうして、延々とそんなクソクダラネー会話が出来んだろ憤っちゃったよね一人で勝手に。
既存の価値観に捉われず自分独自の価値観身につけてんのかねぇ?自分哲学持ってんのかねぇ?聞きたいわ、聞けばよかったわ。
ほんと嫌い、現代っ子の類とか大嫌い。もうね正直そんな中身のない女なんか性欲の対象以外にありえないわ。男からしてみれば。
絶対付き合いたくないもん。面白くもなんともないまま無駄に歳くって死んでいくだけとかクズみたいな人生送ればいいよ。

まぁその子はその子なりに頑張ってんだよ。そう言ってくれなさんな、菊尾さん。とね、えぇ、分かってますけどね。秋だからか理性がいう事利かない。
浅瀬で生活することに満足して時折人が見せる深淵には逃げ腰で、疑問を抱くことすら知らない低脳、掃いて捨てるほどお前の代わりならいくらでもいるよ。
独自性や唯一性に興味の無い人間は僕は人間とは認めません。誰かからの情報に扇動されることで安定する精神なんて死んでも持ち合わせたくない。
個性なんてもんは最初から誰も持ってない。自分で創るもんだよ。気づけよ、何も無い自分自身に、気づけ。気づいたら足掻け、痕跡の一つぐらい残してから死ね。

気が触れそうだが哀しみじゃなければまだ、糧にする事ができそうだ、悲哀はダメだ、あれは俺の足に釘を打つ。
有害でなければ喜んで気を狂う、誰の感性も壊さないなら僕は喜んで気を狂わすさ、
自意識過剰、平行世界、聖母マリアの逸話、一般相対性理論と特殊相対性理論、量子力学、精神の中にこそ次の次元があるのか?
破棄したはずの記憶が無情にも胸の奥を穿ち穴を開けていく。だがそれは一定量であり定期的な事から穴の範囲は広がらない、ただ奥底まで時間をかけて貫いていく。
ゆっくりとゆっくりと、穴が塞がらないのは未だその運動が収まらないからだろう誰かを盾にして身を防いでも穴はそいつも貫いていく。
それほどに強固な記憶、自殺は死を選ぶのではなく、自身によって殺されることなのか。

僕は考える。
考えるが結論に到るまで考えようとはしない。
途中で飽きて投げ捨てて、暇になったらまた拾って考える。
時間と共に答え出たり隠れたり、流動的なんだ。

 

愛しているさ。
誰よりも。
 


「戯れ言をば。」

汝の敵はどちら様?
命短し、愛せよ隣人。

いえ、特に意味はなく菊尾のいつものアレです。
言葉遊びです。足したり引いたり、
そこにそんな言葉使いますかねぇ?と思わせましょう。
思わせましょう実行委員会の幹部に天下りしましょう。
「あらあら菊尾さん。あなたそれでは元はどちらにいらっしゃったの?」
えっともっと上流の甘味茶屋でワラビ餅と熱い茶を啜っておりました。
「あらいいわねぇ。是非ご一緒したいわ。」
え、ご一緒なんてしたら後々連れ込み宿まで同行してもらいますよ。
「まっ!ご冗談を。そんな事しませんよ菊尾さんは。」
逆に連れ込まれちゃったりなんかしちゃったりして。
「あはは、かもしれないわねぇ~」

どなたか僕にこんな小粋な会話を施してくれるような淑女を紹介して下さいませんか。天下りの解答は解答になってないなどとそんな事はどうでもいいのです。敢えて言うならば流れは時間、甘味茶屋はモラトリアム、ワラビ餅と熱い茶は夢と現。えぇ、後付けです。先天性の後付けです。何か理由を組むことは最初から分かっていたことですから。
で、こんな淑女はどちらにおわすのでしょうか。銀座でも行けですか?六本木でソファにもたれかかりなさいですか?
どうでもいいね。どうでもいい事が跋扈しているね。←ばっこって読むらしいよ。
意味は、はびこるとかだよ。はびこるって蔓延しているってことだよ。蔓延って跋扈ってことだよ。

人海戦術で押し潰されそうだとマイノリティな我々は日々おしくらまんじゅうですね。
饅頭なら感触がふっくらしていていいのかもしれないがぎゅうぎゅうと押し付けてくる中に鞄やら肘やら硬いものもあるわけで、ああ痛い痛い苦しいギブギブとそこら辺をタップしてみても誰も構ってくれやしないで一人もがいてあがいて、ああここでは私は独りぼっちなんだと、誰も助けてくれやしないんだと、胸に広がる濃霧の中のたうち回っているわけですかそうですか。
だが残念です。皆が皆苦しさを身に纏っているわけです、重たいボロとボロを重ね着しているわけです。
そんなことはあたぼぅだよ菊尾さん!とあなた、そこのあなた仰いますがわたくし達人間はあたぼぅな事もすぐに忘れてしまうのです。
それぐらい毎日毎日何かを記憶することに必死なわけでして、必要だと感じていた事もその内、あら気がついたら向こう岸。驚いちゃいますよ。いつこんなとこに流れが出来ていたんだってね。
どうでもいいけど独りぼっちのぼっちって、なんか可愛いよね。
そんなわけでマイノリティってどこを境にマイノリティ?

可愛いものが好きなんだよ。僕は。
ただ可愛いと感じる愛情と大事だと思える愛情は微妙に違うんだよ。
可愛いから大切だ。なんて結びつかないんだよ。
大切だと思うにはそれ以上に大切な失くしてはならないもの。
そんな好きだからとか可愛いからとか二次元的言語じゃ足らないよ。
抽象的ではなく明確な理由で実感したいんだ僕は。
簡潔に説明できて納得ができる理由がほしいんだ。
奥行きのない感情はいずれ疑問にぶつかり苦悩する。
理屈じゃないと君は言う。
理屈が影のようにつきまとう僕にそれは通じなかったらしい。
心の形を描こうとしている。昔も今も。
だから僕には心理が必要なんだ。これからもきっと。
一寸先は病みだけど、いい感じにスリルを楽しむ、
穴ぐらに足をぶらぶらと浮かせて遊ばせている子供。
それが僕だよ。

僕はナマモノ。
鮮度を保つように心がけていて脳内チルドで思考はいつでも新鮮でそんな僕はミスターチルドレン。
でも言葉にして文章にしたり口から出したりすると
腐敗していくんだ。それも割かし早めにね。
だから矛盾している。明日の僕はもう別の僕。
君がやっと分かったと解が導き出された僕は
もう既に君の前には居ないよ。
あぁそうそう僕には毛が生えている。
だからナマ“ケ”モノでもあるけれど。なんて余談だよ。

 

汝自身を探しなさい。
他者は霞だ。当てにすれば汝を失う。
汝に目を向けなさい。
汝自身を信じなさい。
さすれば浮世も案外、悪くない。

なんて僕は主でも釈迦でもないのだけれど。
かしこ。

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「あれは、黒霧。」

抵抗する。何に?分からない。でも抗っている。どうして?自我を保つため。改めて、何に抗うの?・・・自身に。

上空で強い風が吹いているから僕は見ることができた。季節が流れていく情景を。僕は見ていた。
紫陽花と蜂の巣が似ている。その隙間から艶やかな蜂が威嚇してきたら僕は写真を撮る為に格闘しなければならない。
爪を切る。爪を飛ばす。蟻の視点で考える。空からギロチンが降ってくるわけだ。恐ろしい。それでもやはり爪を切る。
どうやら安定は静寂の中で紡がれていたらしいのだが、これは、よくない兆候だ。ざわめく裏側、奇妙なサーカスが幕を開くよ。
踊れ、踊れ、自由視点で、雨粒を避けるように、裾をはためかせて、踊れ。
あの人の精神、僕の精神、交わらない分解できない。素数のようだ。
時計の針と同様に心音が高鳴り僕の回転は一段と速さを増して外側との摩擦で自然発火が起きそうだ。
精神上空で暗雲が立ち込め始めたんだ。サイレンが響いているから隠れる準備をしなければいけない。


意味が、分からない?
君にも僕にも理解できる意味など何処にも無い。
説明を求められても僕で始まり僕で終わる世界。
下弦の月がそこにある。
傾いて眺めたら、
君が薄く笑う口元のそれにとても良く似ていたよ。


逃げよう。
君を連れて逃げてしまおう。
そして身長ほどある伸びきっと黒い草の中で交わろう。
左目から君はこの世で一番綺麗な一滴を落とし始める。
僕は両手でそれを受け止める。
伏せていよう。
息を殺して気付かれないように。
頭上を真っ黒な霧が流れていく。
僕らは抱き合って
唇を寄せ合ってやり過ごしている。

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「悪性な人達」

後ろめたいさよならに
今こそ別れを切り出そう。
気付いたことはとても単純なこと。
無欲であることは人間として相応しくないのかもしれない。

熱しやすく冷めやすいあなた達。
何を言っても焼け石に水で聞いてもらえない聞こうとしないあなた達。
そうこうする内に遠ざかる。
だって仕方ないでしょう?と身を翻す。
誰も彼もが通り過ぎるのか。
これはただの通過儀礼なのか。
いらない。僕にとってそれは脅威だから、
あなた達は近寄ってこないでほしい。
結果として残る不燃物は処理もできないまま腐敗していく。
あなた達は悪性。僕にとっての癌。
どうせ今だけでしょあなた達。
チヤホヤしたりハマるのは今だけなんでしょ。
気付かずに人を傷つけていくことの重さを実感できずに
今日もまた無邪気な顔で誰かの未来に傷を作っていくのだね。

急速な接近に対し僕は一歩引かなければならない。
これからの人達もよく観察しなくてはならない。
全ては僕にとって有害か無害か。
人間はこれだから怖い。
嫌いな人と興味の無い人が多い。
好きな人なんてほんのわずかだよ。

諦めることにもいい加減飽きたから
これからの僕は、もっと冷たいよ。

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「理由について。」

数奇的な事象なんて、誰しもに当てはまるよ。
捉え方の違いだけでそれを、奇跡とも呼ぶんだろう。

風が吹いた。一陣の風が。そして攫ってしまった。姿は景色の一部となってしまった。
さっきまであんなに愉しそうに、笑っていたのにね。
写真一枚、収めておこう。君の亡き骸、これは生きた証として神様へ届けるよ。


慟哭の夜から招待状が送られてきたが出席はしない。
僕に悲しみなんて必要ない。
「ご冗談でしょう?ではその手にしているものは一体何だと?」
主催者が顔の右半分だけ笑いながら問いかけてくる、卑しい笑い方だ。
僕は答える「これはまだ感情へ育つ前の種子。もしくは感情後の骸。どちらかは判別できない。両方なのかもね。」
左半分も笑い始める。歪む口元「そうですか。知っていらっしゃったのですね。失礼致しました。」
そう残して後ろの闇へ消えた。月光が辺りを照らし始める。

諦念の上塗りを繰り返しているという矛盾行為に勤しむのはここ数年の事。
希望が次から次へと泡を立てて弾けていくその姿に僕の両眼は中てられてしまった。
何がわかった。何に気付いた。何を知った。
「何」が、多過ぎて今まで見聞きした事柄も違う違うと黒く塗り潰して、
ただ狭い柱体の中、上や下のフロアを行ったり来たりしている。
幾つの階層に区切られているのかなんて知らないが上へ辿りつけるとしたら、
それはきっとこの柱体が沈んで階層なんて意味を成さなくなるその時だよ。

同じこと。紐で一くくりにするには紐の長さが足りない。
積み上げられた価値観は言い方が違うだけで本質はきっと、どれも同じことなんだ。
僕は静観している。
誰よりも自身を。


君へ告げる。
雨の中で話をしよう。
傘を差しながら、
理由について。
僕と君の、所在無き理由について。


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「close your door」

寝具を波立たせている僕らの眼に蔓延している天井のプラスとマイナス。
答えはなく走るそれは宛ら僕らのようだが、
同じ天井でも眼にしているものは違うんだね。
子宮から滴るのは毒、致死に至らしめる猛毒、
舌は蛇、ゆっくりと掻き乱して壊死させていく。
最後に泣いたのは、指先に触れたシーツの感触が、
幼い頃抱かれた母親の髪の質感に似ていたから。
僕らは醜く浅ましいから誰かが誰かを補おうとして交わる。
脆いから手間はかからないよ。
だから早く、落として。

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洋楽を聴いている。今までほとんど聴いてこなかった。
嫌いじゃなくてむしろ好きだ。だがそれ以上に邦楽が好きだから。
邦楽のみで手が回らなかったから。理由はただそれだけ。
だけどここ数日、なんだか言葉よりも音を聴きたくて、
だから洋楽を聴いている。言葉が邪魔になるなんて思ってもいなかった。
今はArctic Monkeysを聴いているよ。いいね。マイブラとかも普通に好きだよ。

友人に誕生日プレゼントを手渡した。日本酒と瓶ビールと煙草。
なんとも男臭いプレゼントだが相手は男で酒飲みなんでこんなのが丁度いい。
気取っているがただのオブジェと化すものよりも消費物であっても好きなもののほうがいい。
だが凝り性が顔を出し日本酒は自分の趣味に若干走った。瓶ビールは彼の好きなものをだが。

リュックベッソン監督のANGELAが千円で売っていたので衝動買い。
この映画は大好きなので買って損はないと思ったからだ。
とてもいい映画だよ。自分に優しくしたくなる映画だよ。

髪を切ったよ。パッツンだよ。でもちょっとアシメよりだよ。
斜めに前髪を切られる時に「ちょっとオシャレっぽくしてみました。」って。
そう美容師が言ったんだけどいつもオシャレにしろよって内心つっこんだよ。
じゃあいつもの俺はなんなんだ。ただの調整か。やっつけ仕事か。俺への仕事は休憩扱いか。
でも現実は「そっすねぇ~」って俺。
弱い、弱いよ。慣れてないと人になんてつっこめないもんだね。

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「扉があるね。」
「そうだね。」
「あの扉の先には何があるのだろう?希望的な何かかな?」
「どうだろう。希望を見出せる眼がほしいけど。」
「ああ、扉が開くよ。」
「ほんとうだ。」
「誰だろうあれは。」
「ああ、二人出てきたね。僕らを見ているね。」
「うん、あ、あの二人、知っている。」
「僕も知っているよ。あの二人。」
「あれは、私達だ。」
「そう、あれは僕達だ。扉の先に希望的なものを見出そうとしていた僕達だ。」
「あっちも気付いたみたいね。」
「うん。全てに気付いたんだね。扉の先には自分たちがいた。扉を開く前の自分たちが。それはこの先も同じこと。」
「そうね。どこまでも同じで影のようにまとわりつく私達。」
「一瞬沈んだ彼らだね。でも理解してからは瞳の奥に微かな光が見えるよ。」
「理解とは受容だね。」
「そういった意味では彼らは希望を手に入れた。」
「そうね。・・・あ。それで新たな疑問なんだけど、今の私達は一体何?」
「僕達は彼らの現状。内にある意識。」
「そうだったのか。では知った今となっては私達の役割はもう・・・?」
「うん。無くなった。だから消えようか。」
「もう会えないの?」
「彼らが自分たちの事に迷えば僕らは再会すると思う。」
「なるべくそうならない方がいいわね。」
「そうだね。」
「それじゃあもしその時があったらまた、ね。さようなら。」
「うん。もしかしたらの次回まで、さようなら。」

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「ダウナーサイド」

ストレス過多により苛立ちが募り喫煙のし過ぎで痰に血液が混じる。
一人を阻害されていることによりキリキリし始める。
悪意はなくただ純粋に接したいだけなのだろうが容赦なく与えられる情報、
それは土石流のようだ僕が今まで貯めていた活力を根こそぎ持っていく。
それは弾丸のようだ薄く脆くなっていた精神に一層膜を張っていたのに穴だらけにしてくれる。
一からやり直しか、積み上げるのか再び、河原の小石を僕はまた積み上げなくてはならないのか。
察するという事は出来ないのかその発想自体無いように思える。
一言で言えば、「五月蝿い」
興味の無い情報は、あれはまるでテレビのようだが僕にはチャンネルを変えられない。
だから最近は洋楽に?言葉で頭が一杯だ。行き場を失くした言葉は出口も見つけられないままで。
殺がれる、意識が、僕から。三月へ、押し戻すつもりなのか。
やっと、抜け出せると思ったのに。
夢を見た。
それは皆が幸せで、何気ない日常を綴った夢だった。


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「君患い」

「おい、あんた。あんたが今立っているその場所は淵だ。
己ヶ淵だな。自身の淵に消えてくれるなよ。なぁあんた。」

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以下はシモネタです。
読み飛ばしたい人間は一段飛ばしのあの感じで跨いでしまいなさいよ。

勤務中の話なわけだがその日はトイレに近い場所で作業をしていたのです。
うちは客に対して自由にトイレを貸しているので当然入ってくるわけです。
その時もトイレのドアを開ける音が聞こえたので「ああ、お客かな」と思っていたわけです。
すると声が聞こえてくるではありませんか。
あとで姿を確認したわけですがどうやら小学校3、4年生ぐらいの兄弟。兄と妹いう組み合わせ。
声を出しているのはどうやら妹でした。

「お、お兄ちゃぁ、ん、はやくぅーお兄ちゃんんん」
懇願です。尿意が限界なのでしょう。年端のいかない少女の喘ぎにも近い懇願が聞こえてきたのです。

不覚でした。若干の興奮を覚えてしまったのは、やはり僕がSだからなのでしょうか。
執拗に懇願する少女の叫びが耳にこびり付いて止まないのです。「ほぅ。」と顎を触りながら浸っておりました。
すると少女はこう続けたのです。

「お兄ちゃん、いく時は、一緒だからねえ!先にいっちゃヤダよー!」

いくは行くでしょう。先にトイレを済ませてもドアの前で待っていてくれ。とそういった意味なのでしょう。
しかしそんな真実はその時の僕にとってナンセンスでした。無論僕の頭の中では行くはイクで変換されました。
「ほぅ。共にイキたいのか。お兄ちゃんと。」やはり顎を撫でました。目を細めました。
それでも決して焦らずマイペースに無言でトイレから出てきた兄。僕は彼に敬意を払いたい。彼のそのドSぶりに。
なんてイヤらしい兄妹なんだ。将来が有望だ。変態有望株だと思ったのは言うまでもありません。

その話を友人に話すと「ド変態じゃないですか!」と爆笑されその友人が言うには
普通の人間はそんな場面で思うことは「ああ、微笑ましい兄妹だなぁ。」らしいです。
これは僕の頭がおかしいのでしょうか。
ま、正気なんてクソ喰らえな精神ですけどね。

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気温が下がりました。
手がいつもより冷えて久しぶりの感覚です。
只ならぬ雰囲気が辺りを覆う、それは瘴気のようです。
鬱蒼とした森で目に見えぬ者達と遊んでいるようです。
言葉では語りつくせないものがあるから、感覚で会話をしたい。
そんな会話を楽しめる人は極、限られているようで、
なんともまぁ窮屈な日常です。
浮遊、爪先は触れるか否かぐらいで波間に揺らぐ白木蓮のようだ。
抱かせてほしい。繋ぎとめておきたいのです。この身体を。
かなぐり捨てたくなる衝動を抑え込んでいます。
全て持っていく。
分かっているのです。捨てても戻ってきてしまうことが。
患っているのは病ではなく、君。
恋や愛などでは到底現せないこの感情は、やはり病の類なのでしょう。
至らしめるものは喪失でも虚無でもない、目の端に映り追えば消えるこれは・・・。
察したわけです。僕は君を。

佇むのは僕。
点のような存在が君。
顔は歪まないが、
確かに泣いているそれは
僕なのでしょう。


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「黒猫散歩道」

正面から隣の家の黒猫がトコトコと歩いてきたので「こんにちは。」と声をかけました。
無視をされました。

めげずに再びこんにちはと挨拶をするとチラ見です。構わずに話しかけると
「んだよ人間が猫に話しかけるなよ、ちっ、めんどくせーなぁ」という顔を収めたのが上の一枚です。

黒猫にはね、お世話になったんでね。どうしても声をかけずには居られない。
昔飼っていた猫が黒猫で小学校から高校ぐらいまでは一緒だった気がする。
当時、彼は僕の支えであり癒しであったんです。
それが僕の黒猫好きの所以。それに黒猫にはよく会う。運命的なものを感じるね。
以前よりも犬が好きになってきたけどそれ以上に猫が好きなのは猫は静かだから。
うるさい時もあるけどさ。なんか歩く時とかも音を立てずに一線上を真っ直ぐ歩くし、
しなやかな身体も好きだし。小さな肉球も好きだし。やはり猫派です。にゃー。

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渦中にいるのだ。
取り巻く喧騒が身の回りをグルリグルリと、
蛇が絡むように緩やかに締め上げてくる。
あっちへ行っとくれと追い払うとあっちへ行ってくれる。
良かったこれで助かった。と安堵する。
だが不思議なことに気付けば周りで再びとぐろが巻かれる。
気がつく。思い違いをしていた。
あっちもそっちも渦はそこかしこに存在している。
今か今かと口を開けて待っている。
どこへ行っても逃げることなどはできないのである。
助けてくれ、助けてくれ、
慌てながらレキソタンを噛み砕くが気休めにもなりやしない。
頭がどうにかなったんだ、
思うように思えないんだ、

それも違うしあれも違う。
気付いていない人ばかりだ。だのにどうして平然と暮らせる?
疑問を持たぬ人達。与えられている情報を鵜呑みにする人達。
考えてくれ、想像してくれ、
独りで息をしろ。孤独と対峙しろ。そして繋がりの尊さを学んでくれ。
自分の無い人間が苦手だ。
御前の御前はどこにいる?


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「6.30」

瓦礫を積み上げているようでした。
両手で持って既に崩れ去った後の残骸を虚ろな眼差しで。
泥塗れの手で拭った頬の水滴。
見上げれば降り注ぐ雨粒が肌へと深く深く浸透していくようで、
「このまま気体や液体になれたらいいのに。」と、
形ある自身を疎ましく思ったのは、君です。

何も無くなりたい。
何者かである必要も感じない。

透けても濁っても相変わらず言葉少なげで、
僕と君はまるで、
「一枚の曇り硝子を隔てているようだね。」と、
彼女へ傘を差してうずくまったのは、僕でした。

「この手を離さないでほしい。」
それは僕達二人の願いです。

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「7.05」

「琥珀色の恋なのです。」とあなたは一行、手紙にしたためて、
「僕の群青に溶けてくれるのですかそれは。」と返事をしたのです。

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「悪意が降りしきる中、一体どこへ向かおうか。」

倒壊建築物は二日前の様相を覆していた。
滅びゆくその様がなんとも趣があり見惚れていたのに、
今では新たな鉄筋と骨組みが立てられ再びそこに違う形として鎮座しようとしている。
赤い骨組み、赤い、赤い、装いはきっと内部の方が美しい。
それは何事に対しても。

蟻。小さくて動きが素早くて自重の何倍もある物体を軽々と持ち上げる虫。蟻。
ゾロゾロと列を成して浴室付近に出るから殺虫剤を振り撒いた。
浴室のドアの枠組みが木で出来ている為かそこから這い出てくる。
穴が空いたので四角く切った正方形の木片で詰めて塞いでいたのに、
その木片の中すらも穴を掘って這い出てきてしまった。
まあ尤も、木造部分から出没しているのにそれを再び木片で塞ぐという事自体、無意味だよね。
塞いだのは僕ではないわけだが。
穴の内部には巣が広がっているのだろう。それは相当、広大なものなのかもしれない。
何世帯住宅にするつもりなんだろう。気が狂ったように殺虫剤を振り撒いていると、
子供の頃していた残酷な遊びを思い出す。
爆竹やこの手を使って行っていた残酷なこと。
僕にはあの当時の面影が残っている。外見ではなく、内面的な意味で。
静かな子だった。逆に言えば何を考えているのか分からない子だった。

何を考えている?
A:複雑に捻じ曲げられた論理。
B:変態的なこと。
C:シュールなこと。
D:なんにも考えてないんじゃない?案外。
E:考えていなくて感じている。


答えは、

全て。

思考停止できるのが僕の何よりも素晴らしいところです。


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だから。
どうして。
なぜなら。
つまらない。
おもしろくしないだけ。

誤解しないでほしい。
僕は君には期待していない。
君だけに留まらず誰にも期待などしていない。
僕に対して何かを求めても吸い込まれるだけだ。
君に対して何かを求めても鏡のように反射されるだけだ。
紫陽花が枯れたら、いつもの駅でベンチに座っているから、
出来れば会っても挨拶だけで後は無言で居られるように努めるよ。
そんな日が一日ぐらいあってもいい気がするから。
感覚交流。
気取った言い方だと我ながら、笑えるよ。

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「気概なんて、若気の至りだろう」

懇々と眠り続けていた。
浅い水辺にうつ伏せで倒れていたような。
息苦しさは暑さのせいだからだろうから宛ら七月に溺れたとでも表記。

金色の象が体育館ぐらいの広さがある工場のような場所で飼われていた。
普段ならその工場の門は固く閉ざされていたのにその日は開いていた。
好奇心がくすぐられ僕はその場所へ向かった。
いつも遠めから確認するだけの金色の象。本当に金色で大きい。
なんだかよく分からないが干し草みたいなものを食べていた。
その建物内には他にも象は二頭いてゆったりと動いていたのだ。
4分の3はその象の飼育小屋として使われていたが残りの場所にはテーブルが並べられていた。
そこには黙々と何かの作業に取り込んでいる背中があった。
昔、歴史の授業でビデオで見せられた絹織物の生産に取り組んでいる映像が頭に浮かんだ。
何人かテーブルに座っている。だがよく見ると座っていたのは人ではなかった。
人ぐらいの大きさのゴリラだった。だが顔はゴリラなのだが体毛は茶色く大きな猿の体のようだった。
更によく見るとそれは着ぐるみのようだった。ゴリラが猿の着ぐるみを着て何か作業に没頭しているのである。
直感的にこれはマズいと思った時作業中のゴリラと目があった。すぐさまその場を飛び出した。
道行く人々が僕を見る。
普段この場所は立ち入り禁止になっていることを思い出して後悔したが遅かった。
気付くと知り合いがいたので話しかけて今見たことを話すが友人は半信半疑だ。
その時、町の住民歩いてきて不意に僕に言った言葉は「話してはいけないのに。」
それから辺りにいた住民達が変調を来たし始めた。口から液体をゴボゴボと吐き出して身体がみるみる溶解していった。
「見てはいけない。話してはいけない。なのに、なのに、」と皆が皆、口にしていた。
僕はこれからどうなってしまうのだろう、と思いながら大きな橋を渡って逃げようとしていた。

逃げる夢。そう。これは夢オチ。夢でよかったと心から思った瞬間。
蝉も鳴いている、2週間後には花火大会もある、扇風機が回っている、Tシャツ一枚でも暑い。
なのに未だ夏の実感が湧かない。来月になれば湧くのか。自信はないが。

足りないものを補うには君が必要だと言ったら君はどうする。
困った顔をして僕を抱きしめるだろうか。
そぐわないね。
理由は、不純な動機だから。

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「7.30」

腹這いになって後ろに手を組みなさい。
罪深き羊、懺悔しなさい。
全て終わったら首を切り落としてあげるから。
もう二度と生まれてこないようにしてあげるから。

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君が傷ついていた。
僕も傷ついたんだ。
何もできないから頷くぐらいしかなくて、
触れられないことにもどかしさを覚えたんだ。

 

「思い出す、そうだった」

あれは小学生の頃だ。
図工の課題か何かで箱庭作りをすることになった。
家で要らない紙箱の中に庭を作る。
落ち葉やどんぐりなんかを敷き詰めていた気がする。
思えばあれが一番楽しかったことを思い出した。
今でも箱庭を作り続けていると言えば大袈裟でしょうか。
舞台は変わりこの言葉の世界で箱庭を。
最近では創造性に今イチ欠けているがなんてことはない。
そんな時期なだけだから大丈夫だろう。きっと。
右脳を刺激しなければならない。
左手を動かさなければならない。
それさえ出来なくなったら
僕は僕を許せなくなってしまうから。

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真夜中に自分を照らす太陽はえらく希薄だから信用してはダメ。
室内の四隅に触って触ってグルグル廻る。回転ドアみたい。
震えて待ちなさい。僕が命令するまで震えて待ちなさい。
君に教養を。その口には強要を。体内には栄養と繁華を。
ビスを打ち磔られて標本として永遠に観賞用。
手を後ろに組み顎でも触りながら眺めてあげる。
温存しているその潜在性も白昼の下へ引きずりだしてあげよう。
裸で怯えた目に対し椅子の上から見下ろして撮影。
そんなものを隠し持っていたなんて、なんて、罪深い。
ふしだらでみだらで僕の頭はまだら模様。
蝶々を咥えなさい。
家にあるありったけのアルコールを摂取しなさい。
笑いなさい。意味など考えずに笑いなさい。
美しい君。脆弱で余白だらけの君。
さぁ。
一人で今からしてみなさい。

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「4.06」

もう首だけでは支えきれないね。
柔らかさは心もとなく、沈み、底が無い四月だ。
地面に垂直の姿を見せればそれは立っていると形容。
空間に垂直の姿を見せればそれはどうだ立っているのか浮いているのか。
地面が透けた大地ならば君はそれをどう捉える。
仰向けに寝ていても背景が縦ならば立っているとは言えない。
他者にはそう見えてもそれは錯覚。
生きているとよく錯覚を覚える。虚構を感じる。
中心に立ちネジを巻き視野に広がる光景をスライドさせて
何もかも自室で全て一人で動かしている。
隣人も同様で時折話をしたり共に暮らしたりするが
同じ光景は見ていない。だから確かめ合い、
符合していたりすることに喜び安堵する。

似ていても、違うんだ。
一つになれても一時的。
眠る際に向けた背中は、ほら、もう遠い場所。
誰かが持ち帰ったらいい。
廃棄するから誰かが蘇らせたらいい。
僕の手には負えない。
僕は僕を持て余している。

いっその事、全て嘘でしたと裏切ってくれたら
絶望だけでも抱え込めたのに。
何も無い。
何もかも、虚ろ。

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「春ゆえに。」

頭の中にはいつも景色がある。
様々な風景。光景。情景。
今は伸びた草が揺れている。草同士が擦れる音がする。
誰かが歩いているのかもしれない。草が倒されていくように見えるのは
東風のせいなのか、それとも誰かが倒しながら歩いているからなのか。
頭部さえも見えないからよく分からない。時間帯は夜。朧月夜で雲の動きが速い。

景色が見えない時がある。
そんな時は言葉を失う。
視線も動かさずに無言でいると周りが気を遣う。
分かっている。
何をどうしたらいいのか、
何を考えて行動すべきなのか、
全て把握している理解している。
ちゃんとそうできるように努めるから、
だから何も言わないで。
もう何も、言わないで。
まさか、向けられる全ての感情が敵になるだなんて思いもしなかった。
何を言っても無駄だから気にしないでいい。見なくていい。
考えなくていい。構わないでいい。放置してくれていい。

「あなたのことを考えているからこそ」
優しさも愛情さえも負担。重い。全部重い。
動物はいい。何も考えずに接することができるから。

頭の中が活字まみれでない分、まだ救われている。
それ程考え過ぎていないからまだまとも。
人と一緒にいても沈み込むことが増えてきたが、
まだ、動ける。
そんな考えが一番危険だという事も知っているが、
そうするしかない。今の内に動いておかなければいけない。
きっとこの先も動ける。なんだかんだで動ける。
だいじょうぶ。
無理をしない。心軽やかに。楽観的に。
どうでもいいと結論付けてしまおう。
だいじょうぶ。
そこまで弱くない。
きっと、明日も笑える。
きっと、
僕は

---------

ふくよかな南風。平らな気持ち。逝く手を阻む森。
回り道。玉砂利が敷き詰められた庭園。観音様がお堂の奥に。
みんなが帰った公園。泥がついたジャングルジム。犬の鳴き声。
ピアノ教室から零れてくる拙い調べ。赤信号で止まる原付。
他愛もない話。笑いあって寄り添って陽光のある日常。
コンビニで買ったお茶。忘れた標識の意味。人もまばらなバスの車内。
愚痴の後の共感と理解。葉桜の下。川沿いの道。
繋ぐ手。似た体温。不意に一枚収める。疑問符が浮かんでいるような表情。
「好きだよね。そういうの。」
ありのままの姿。何もかもありのままに。流れていく僕ら。
川にも幾つもの花びら。花筏っていうんだって。
「乗れたらいいのにね。」
タプンと揺れるお茶。いつもより狭い歩幅。包み込む日差し。
遠くまで散歩。蟻の行列。お腹が鳴ったら、帰ろうか。

---------

「雨の中で溺れてしまえ」

雨だよ、素知らぬ顔した雨。
傘を叩くテンポよく傘を。
予期せぬ嘆きも、
衝動的な喪失も、
何もかも包み込む静かな狂気じみた雨だよ。
知らない顔していても寄り添ってくる。

そんな声は録音されたもののようだ。
知らないから浸透しないね。
そこからなら溺死できるかもしれない。
いつだって醜いんだから
最期ぐらい綺麗になんて笑わせるなよ。
どうせだから今まで以上に醜くなれよ。
それならやっと
認めてあげられるから。

あんたは失う。
これからも延々と辟易してもそれは終わらない。
安心していい。絶望はあんたの所有物。
喉が擦り切れても叫べばいい。
それだけは失うことなく、
あんたは泣きながら笑うことになるのだから。

炎上、そして灰塵へ。
切れるものはなんでも切り裂けばいい。
現実を逸らしながらすり抜けようとしたってそうはいかない。
打ちのめされて這いつくばって、
不様な生き物を成し遂げる。
それしかないんだよ。
見せかけの耽美は希薄すぎて拍子抜け。
嫌いだね。盲目脳内。都合のいい妄想。
全て嘘くさいだなんて
その頭の中に比べたらここは真実だらけだろ。

塗り替えるためにあるのが世界。
手は伸ばすためにあるのではない。
掴むために存在している。
欲しいものは引き千切ってでも掴んで
要らないものは燃やせばいい。
どうせその内降る雨が消してくれるから、
後の事は何も考えるな。

それでもくすぶっているなら
あんたは一回死んだらいい。
覆らない精神なら頭腐らせるだけ。
いっそのこと、
雨の中で溺れてしまえ。

何もかも誰かの手垢に塗れた世界。
二番煎じだろうが真似事だろうが、
それさえも出来ていないならそれ以下だ。
息をする。
この場所でしか呼吸はできない。
それを、知れ。
今ここで。

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「雨の日の君へ。」

何度目の雨だろう。
僕が生まれてこの雨は何度目に降る雨だろう。
雨が降る様を眺めるのが好きで
今日もたくさん降り注いでいる。
風も強くて肌寒くて酷い雨だ。髪も服も濡れた。
一日中降り続いている。
車のライトに照らされて見える雨が好きだ。
何よりも夜に降る雨が好き。
何も見えない中で水の音だけが聞こえている。
羊水に浸されていた時のように僕は眼を閉じる。

生まれ行く命。死に逝く命。
今この瞬間にも同時にそれは起きている。
生まれたばかりの命や生まれて間もない命。
それは純粋なもので羨ましく思う。
僕はもう持ち合わせていないからとても欲しくなる。
赤子や子供を羨むのはそんなとこから。
少年や少女には希望があってそこには偽りがない。
嘘がないから何も考えずに見ていられる。
まだこれからの命は眩しいけど綺麗だね。

友人のお父さんが亡くなられた。
彼は結構愚痴っていたが最後の最期は
泣いてしまったと言っていた。
憎まれ口さえも叩けなくなるのはやはり寂しいものなのでしょう。
別の友人のお祖父さんも死期が近いと聞いた。
何を見て何を聞いたのだろう。
どんな人生だったのだろう。
少し前に父の夢を見た。生前と変わりなく布団で寝ていた。
横向きで寝ていた為、表情は確認できなかった。
父が死んで4ヶ月が過ぎた。
毎月10日には線香と煙草を仏壇に。
ゆらゆらと細く上り室内は薄く煙る。
遺影を眺めて瞼を閉じて手を合わせる。
怒鳴り声と笑い声と赤い顔と猫への甘さが蘇る。

僕は27になったよ。
25で止まっているだろうけど大して変わっていないよ。
父さん、地上では雨が降っているよ。
全部塗り潰してくれるような雨だよ。

死は悲しいけど優しい。
あんなに穏やかな顔を僕もできたらいいのに。
人間は最期にそんな表情を残すために生きているのかも。
そんな事を思った。

---

僕はまだ生きている。
君もまだ生きている。
僕は君を許す。
だから君も君を許してやってほしい。
首を絞めて縛り付けているのは誰でもなく君自身。
君は何も悪くない。
雨音が響く中、冷たい室内、
僕は君をまだ見失っていない。

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「白黒思考」

全てを白か黒か
好きか嫌いかで割り切って生きるのは、
とても危険なこと。
人間自体が灰色の生き物なのだから、
この世では曖昧にしておいたほうがいい。
中央に置きなさい。
左か右か悩んだら一旦、中央に置きなさい。

決断には時間をかける。
思考速度を落とす。
ゆっくりと巡らせて、
時には何も考えないで、
身体から力抜いて、
そうやってぼんやりと思考する。

忙しないここの速度に着いていけなくてもいい。
そんな事より自分の速度を保つことの方が大事。
複雑な頭、丁寧に一本ずつ紐解いて、
そうやって確認している。
今の概観を。

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「4.21」

鏡がない世界では
私は私を失くすだろう。
鏡のみの世界でも
私は私を見失う。
素数になりたい。
個に、唯一に。
私は数え切れないほど溢れた。
あなたにどれか一人掬い取ってほしい。
私は誰にでもなれる。
あなたの望む姿を私は映せるがそれではダメだ。
私は不在だ。
では今こうしている私は誰だ。
誰かが作った妄想を私が具現化したのか。
具現化した私も誰かが作った妄想か。
いつから私は不在だ。
血液はまだ通っている。脈が鳴っている。
確かめたいこの眼で。
私は私を自覚するために鋏を用意する。
明け方、鏡の前、白い腕、爪先、秒針と脈拍。

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「僕は」

僕は欲しがりやの君が嫌い。
もてなされたい君は耳を傾けるばかりなので話が尽きれば退屈そうな顔を浮かべて喜ばせて欲しい笑わせて欲しいもっともっとと際限ない欲望の数々。
しらばっくれますそんな君を。厳選された高品質の会話など映像の中だけで酔いしれていればいい。
ここは現実。夢見がちな頭を現実に投影させないでくれないか。
何か言いなよその口で飾りじゃないその口でさぁ早く使い方は知っているだろう。

僕は希薄な言葉を羅列するあなた方を軽蔑する。
真一文字に閉ざされた口をこじあけて這い出てきたのは酷い馴れ合いの数々。
長考の末だと言うのだから致し方ない。高が知れている。もうそこは場末だな。
ありがとうのアクセントを変えるぐらいしかもう術がない。
誰もが口にして見せた言葉をなぞりあげるならそのまま閉口しておけばいいのに。
それでも何か言いたいのなら腫れ物に触るその態度をまずどうにかしたらいい。
あなた方が思っているほど壊れていない。
優しさを傘に下心を感じる下衆な笑いを浮かべているあなた方が僕にはどうにも我慢できない。

僕は駅の改札手前で階段を上ってきた藍さんと出くわす。
藍さんは出勤途中でして幾つかの言葉を交わそうと試みたのです。
彼女とは久しく会っていなかったものでして懐かしく嬉しい思いがありました。
相変わらず綺麗で思わず存在を感触で確かめたくなり腕に触れてみますとまたこれ相変わらずの細さ。ちゃんと食物は摂取しておられるのでしょうか藍さん。
話を戻しますと会話を試みた結果それは不発に終わってしまったのです。
懐旧の情は彼女にもあったらしく後の会話によりますとそれは泪へと
変化しそうだったと仰っていました。つまり言葉に詰まり会話なんて余裕はなかったと僕はそう解釈したのです。まあ藍さんなんて喜ばしい言葉をくれるのでしょう。
またいずれ話しましょう藍さん。御機嫌よう藍さん。
笑顔が見れて良かったです藍さん。
僕は最後に彼女の携帯へ「行ってらっしゃい」と送ったのでありました。

僕は緑色の庭先で死んでしまいたい。
根が身体を這う姿を想像する。根に首を絞められるのもいい。
身体の上に草木が生えていくのも人間として風情がある。
春は残酷にも人の姿を露見させますがそれは人のみならず全ての事に言えましてただありのままを見せてくれるのは喜ばしい点であります。
それを美しいと思うか嘘くさいと感じるかは人それぞれですが
僕はただこの庭先で死んでしまいたいとその時思ったのです。

僕は静かに目前のカーテンを背にして立っていたい。
クリーム色のカーテンが風になびいていた。あれは教室での午後の風景。
カーテンの中に誰かがいる。スカートと足が見えたり隠れたりしていて
グラウンドの誰かを見つめているのだろうか。
それともただ校舎の外を眺めているのだろうか。
僕はその姿を声も掛けずになんとなしに見ていた。
薄いカーテンの内側ではどんな思いがあるのだろう。
教室には僕と彼女以外には誰もいなかった。
そうして昼休みが終わる五分前
それは彼女の時間で誰かにそれを知られたくないかもしれない。
自分の時間を大事にしている僕はそう考えてその場を後にした。
僕は未だに彼女が誰だったのかを知らない。
今でも頭をよぎるあの光景。不思議で優しい時間だった。

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「5.02」

遠回りのしすぎで身体が軋む。傍を歩き回るのは見知らぬ影。
似たような人間ばかり目につき目に留まる世界の不条理さを嘆くのか。
勘違いだ。錯覚だ。幻想だ。穴を掘っているのだろう。墓穴を。
骨壷を用意してくれ卒塔婆を立ててくれ花を添えてくれそれだけでいいから
誰も来ないでくれ。
静かにしてほしいし静かにしたいだけなんだ。騒ぐなよ、蟲。
あなたの普遍性が低俗すぎて疎ましいから何も話したくないんだ。
なんだかとても眠いからもう二度と起こさないで。
油断するなよいつだって衝動的なんだ狭間で生きているんだ床が滑るんだ反射してぼんやりと自分の姿が映されているんだ傾けば掴まることも出来ず滑り落ちていくんだ靴を脱いでも無駄なんだ。
消えたいなんて耽美な言い方じゃない。
僕ははっきりと、死にたいんだ。殺されたいんだ。首を吊りたいんだ。事故死は理想的なんだ。
誤魔化すなよ綺麗な物言いで誤魔化すな。
生きることにも死ぬことにも同一の力が必要だろう。
軽々しく口走るなよ覚悟して言えよそんな安っぽいものじゃないんだよ。
死にたい人間は想像しろ。自分が居ない世界を想像しろ。
葬儀で泣いている知人や両親を想像しろ。
誰も居ないのにそのままにしてある自室を想像しろ。
悲しむ人間がいることを自覚しろ。
そんなものを全て投げ捨てられるなら今すぐにでも、さぁどうぞ。

では何故か。
死ねない身体になることが怖い。それだけだ。
僕は勿体無い。この感性が失われるのは勿体無い。
僕は愛されている。母にも友人達にも。
ただそんなことは最早どうでもいい。
誰かと一緒になんて嫌だね。最期は一人がいい。
君の涙も知ったこっちゃない。
始まれよ揺るぎ無く途絶えることの無い衝動。
もうすぐ、飛べそうなのに、
まだ、地上。


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「5.03」

予期できていたのに時間に甘んじた。
倒壊していく関係を。
修復は不可能だとどこかで見切りをつけて
積み重ねた二人の日常が破片と化しばら撒きながらも
進める場所まで行くしかないとそれしか能が無いと前向きに否定して。
希薄だ、思考の過程も結論も始まり方さえも。
自身の存在の不明瞭さがやたら目につくなんて、矛盾。
「透明感」
「空気のような感じ」
違う、それでは本当に消えてしまうのだ。
価値が消失してしまうのだ。
聞こえがいいように思えたが危険を孕んでいた事に気付かず
理想的だと浮遊感漂いながら夢の海で溺れていたのだろう。
夢だ。夢が僕と君を孤独にさせた。
人間の質感、肌の感触や眼の動き指や背中や首から鳴る骨の音や仕草と生身の匂いを
いつからか思い出せなくなってしまったことがしくじった証し。
夢想的感覚にかまけて二人は自身の感情に酩酊したまま落ちてしまった。
落ちた先はどうなる?着地などありはしない柔らかい僕らは潰れて飛散した。
過ぎた時間が落ち着きを取り戻させる。
振り返れば悔やんでしまうのだろう。そこに何も意味がないことを知りながら。
再度、時間に甘える。身を預ける。塞ぎこみながらも回復するまで日々を過ごす。
喪失と再生。それの繰り返しでしか生きられない。
それだけが僕に色を与えてくれるのだから。
たとえ歪んだ色だとしても。


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「子供返り。」

なんの煙だろう。
なにを作っているんだろう。
夕焼けの中で見た車窓からの煙突。
眺めていたら思い出したことも幾つかあったけど、
全部、遠い昔のことだったよ。
いつの間にか時間に流されて、今どの辺りで
どこの海へ辿りつくのだろうね。

黒猫が綿毛塗れだったんだ。
ちっちっと舌で呼んでみたけど余所者は怖い怖いと、
呟くような眼差しで僕から離れていったよ。
気持ち良さそうに日向でくつろぐ動物達を見ていると、
思わず撫でたくなる衝動。
そんなに警戒しなくてもいいのにね。

みんな薄着。
日傘もちらほら登場。
伸びきった緑が風に揺れていて、
それと相反して切りすぎた髪について、
早く伸びてほしいと、
切実な僕がいます。

五月はね、一番好きなんだよ。
過ごしやすくてどこか行きたくなるね。
そんな事はしょっちゅう言ってるけどさ。
どこへ行きたいのかもよく分かっていないのにね。


人は怖い生き物。
僕はもう誰も追うことはないよ。
頑なな意志がある。
僕を誰にも邪魔させないよ。
たとえ誰もが遠ざかっても
僕は何かを伝えているよ。
それに苦労は惜しまないよ。
本当だと思えたことだけを正直に。
覚悟は出来ているから、
さようならなんて容易いよ。

君に幸あらんことをここで願う。
それに、嘘は無い。

----------

「ようこそ。」

仄かな眼球の動きは翳りが差し始めた兆しだから気をつけて。と、独特の言い回しです。
荒唐無稽で矛盾だらけで言葉は脳内において箇条書きでしか浮かんでこなくて、まるで
鳴りを潜めてしまった彼女のようだ。出ておいでこっちへおいで撫ぜてあげるから。

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花瓶を覗けば井戸の中のようでした。
夜は冷たく足の裏は他所の人のようでした。
衝動的に人に惹かれれば反動として興味関心が失せるのも早いのでしょう。
ネクラですって?そんなの中央に濁点つけてネグラにして帰って寝てしまいなさい。
市松模様は争いを彷彿とさせませんかチェスとか将棋とか盤上の舞台が連想されます。
鎖骨や肋骨や胸骨や肩甲骨や浮き出て透けている姿は魅惑的なのですが骨と骨が当たり痛い場合が御座います。
大抵外見と内面は比例せずどちらかが優れていると逆側は傾いているものです。
消したばかりの蛍光灯を眺めていたよ。
暗闇の中まだうっすらと白く浮かぶそれは大きな海月のように思えた。
海月は室内で認識できた刹那、消息を絶ったわけだが。

---

言葉が決壊したのかそれとも意図的なのか、僕は分からない。
君にも分からないし、そもそも君は分かろうとしない。
君も僕も胸の内は一杯だ余分なスペースなんてまるで無い。
誰かを置いておける場所なんて無いんだよ。
だから君は誰かに住み着く。そして勝手に出て行く。
君は誰かに上がりこむばかりで誰かを上げることが出来ない。
共に歩んでなどいない。君はどこまでも君自身で完結してしまっている。
君は誰も愛していない。
僕はもう誰も愛することができない。
持てる愛情は全て君へ注いだから、
僕はもう誰も愛そうと思わない。

滑らかな頚椎の隆起を指でなぞりあげる。
連れ込んだ一室では乱れたシーツと枕に広がる髪が。
綺麗にしよう。全て清算する為の行為だ。
だから怯えてなくていいよ。
涙は舌先で拭ってあげるから。

---

ああ、あなた。そこのあなた。
そうですあなたです。
ようこそ。

僕へ
ようこそ。

---------

「単音で構築されている部屋」

名残惜しさに後ろ髪を引かれて、
少し歩いては、振り向いた。
小さく遠くして行く。自らの足で。
いつまでも腫れが引かなくて触ると痛みと微かな熱があって、
こんな気持ちもただの独りよがりだって事、
君は気付きながらも止められないままで。

どこで遊んできたの。
随分と汚れたね。
その面持ち、何に対しての悲痛。
君はその汚れを嫌っているように窺える。
拭えない汚れだと嘆くの?
でも僕には証しに見えるけど。
今まで君が生き抜いてきた証拠に見える。
自責を糧にしているのかい。
悲しい生き様?生きることは感じることだから、
そんな感情も必要なことの一つだよ。


「全てを破棄したい。
置いてきた場所に今はもう何も、誰も。
仇となった事柄は夢で幾度もの再会を果たすから
眠ることが、とても怖い。」
夜に降る霧雨のように君の言葉は肌に滲む。
膝を抱えて空からの灯火を待っている。
強張る肩は小刻みに震えていた。


薄く開いた瞼から外側へ。
できるだけ肺に溜めたらゆっくりと吐き出していく。
呼吸音に耳を傾けながら。
部屋で響いているのは単音で、
静けさに集中して鎮静させればいい。
そんな時の時間はとても優しくしてくれるから。

騒いだり暴れたりもするよ。
生きているのだから。
断言して定義して型にはめていく。
それは硬さのあるものだけ。
心は柔らかいからそのままでいい。
醜さだって悪くない。

僕は許すよ。
形も色も変化して行くものだから、
僕は君を許すよ。

--------

「場所の上には私達。」

いつだったろう華やいだ外に憧れを抱いて髪をかきあげて歩めたのは。
僕も私も湿地帯に浸かったまま老木と寄り添っている。
その場所で培った性質。多湿なんだからあなたそれ以上寄ったら肺に黴が生えるわ。
警告しても笑って誤魔化すあなたに、君に、僕はやはり笑って返す。
似た景色だからどこもかしこも最低に思えて、ねぇ、ここには天狗が住んでいるね。
抜け出すことは叶わず泥濘が僕らを失わせてしまう。
私は自分の姿が思い出せない汚れた水面に私達は映らない。
枯渇していく内情に身を捩じらせ逸る気持ちはどちらもが思っている事。
僕と私。寂しいね。誰もが孤独で暗色に縁取られているから出口が見つからないままだ。
「もうあなたに着いていけない。」
いいや僕らは一歩も動いていない。歩いているのは君らの方なんだ。
錯覚だ妄想だ全てまやかしだったんだって今更ながらに気付いたの。
私達どこへ向かおうとしているの。
僕達は向かえない。動けないのだからね。
いつから立ち止まったの。
僕達は最初からこのままだよ。周りが変化しただけさ。
外側なんて無かったのね。
ここが唯一で全てだった。僕達は、ただの軸だったんだ。

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たら、ねば、るべき。
危険だね語尾にこの三つは危ないよ。
何々だったらとか何々せねばとか何々であるべきとか。
型にはめられないものを無理矢理押し込んだって、はみ出てさ
それに気付かず放置するからやがて落ちない汚れとなっていく。
無責任でいいのに。勝手にさせておけばいい。
どうでもいいと呆けておけばいい。
もっと自分を許しなさい。
完成品には興味なし。

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走馬灯に回転灯が足されたらしくそれはまさに無限に廻り続けるメリーゴーランドでして
イチジクの実を齧り汁を滴らせながら近付くピエロの鼻は赤いのがついていないので
「どうしてですか」と聞いてみると「だから今これ食べているんだよ」と
食べ終えたイチジクを鼻に装着したのです。どうやらその為だったらしく
「さぁ仕事だ仕事。」と空へ手を伸ばすと二日前に飛び去った風船を幾つも引き戻しました。
「エコだよエコ。リサイクル」とニヤリと私に笑いかけるとビヨンビヨンと
ピエロはどこかへ跳ねていきました。靴がバネ式なのかと思ったら脚自体がバネなのでしょう。
となると腕もバネで自由自在。だからあの風船を取り戻せたのですねと一人納得です。
私の今の状況は馬に跨っておりましてピエロはメリーゴーランドの前を横切っただけでした。
よくまぁ会話なんて出来たものだなと仰りましてもこのメリーゴーランド、速度が異様に遅いものでして
幼児が扱ぐ三輪車よりも遅いのではないのでしょうか。故に会話をすることもできたのです。
この場所の回転が止まれば私はここから離れなければいけません。
それまでは存分に今まで私が積み上げてきた過去と対峙するのみです。
ゆっくりと廻りながら懐かしんだ後、恐らくあのイチジクピエロが迎えに来るのでしょう。
ビヨンビヨンと跳ねながらやって来て風船を手渡してくれるのかもしれません。
そうです。ご承知の通り私はもうすぐ現世を離れるわけです。
ここでしばらく遊んで最後は回転木馬で夢を見返す。それがあっちへ行く前の習わしなのです。
さてもう一周と行きましょうか。
百年生きた私にはまだ見る夢が幾重もあるのですから。

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「冷たい四方」

息が狂う、この目に映る四方は互いに絶妙なバランスを保たれていたのに、その均衡が崩れ偏り始めた。
最初に東側が乱れ範囲を狭め、今や端正にされていた四方は歪に押し迫ってくる。
角がない。僕の周りに角が見当たらない。
東側に遅れを取っていた北側であったがそれも徐々にこの足元へ歩を進めている。
まだ南と西は動いていないがそれも時間の問題だろう。
死因は圧死。何らかにより命が潰されてしまうのは特別なことではない。
物質的なものに限ったことではなく精神的圧死。よくある話なのではないかな。
今や東側に手を付けられる僕だがその腕に力を込め東側の進行を食い止めようなどと考えてはいない。
あるがままに潰される、僕の抵抗はこの世において無粋なだけだ。
心拍の上昇と息苦しさはあるものの思考は停滞を望まないらしい。
便宜上だ。東西南北を分けたのは。本当はどの方角も北であり南である。
触ると冷たい四方、抱き心地の悪い僕だが、許してくれよ。


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おい、君、名前はなんと言う。
常用している薬の副作用はどんなものがあるのだね。
自転車は好きか?あれはいい。車輪の回る音がいい。
指は鳴らせるか?コツは手首のスナップを利かせることだ。
人の煩悩の数は百八だと言われているが全て持っていると豪語できる人間は居るのだろうか。
今日が終わったら明日。今日と明日は連続していて一ミクロの隙間も無い。私はその隙間に立ってみたいのだ。
今日でも明日でも無い時間帯。清々しい朝、陰鬱な夜、明け方はそんな時間帯を彷彿とさせてくれる。
カーテンの下から足が覗いていると随分大きなスカートを履いているなと思ったことはないか?
いや、随分小さな両足だな。でも構わないのだが。
爪は透けているように思えて伸びても透けていると思い込んでいたのに案外曇っているものだな。
上履きなのに足元とはどういうことなのか。床に対しての上なのか足に対しての上なのか。
どう答えたらいいのだろうと悩み黙りこむなら、どう答えていいものやらと口に出してしまえばいいのに。
この野球ボールの上に石を置く。ボールが地球、石が人間。
この地球の表面上に立っているのだと思うとなんだか不思議な気持ちにならないか?
そろそろ時間だ。私はお暇させてもらうよ。
ところで君、君は誰かに似ている、この見慣れた顔は、そうか私だ。
私自身に君はよく似ている。いや先ほどから話していた相手は私自身だったのか。
自問自答を繰り返していたわけだ。はっはっは。まったくおかしな話だ。
しかし答えを出すのはいつも自分自身なのだ。決してこれは悪くないことだな。うむ。


「何言ってるんだよ兄さん。一卵性の双子だろう。僕達は。」 
 

「雪日に切実に。」

思い返してみる。
君は知りすぎて墜落してしまった。
誰にも助けを求めないで腕も伸ばさずに倒れこんだんだ。
きっとこの先も一人で行ってしまうんだろう。
置いていかれたのは僕の方。
その話は読みながら書いているから完結しないんだ。
君の書庫にある詰まれた書籍群は東京の景色によく似ている。
モノクロームのに佇むビル群みたいで。
けれど土台が不安定だからいつか崩れてしまいそう。
君は片付けずにそのままにする。
書籍は溶けて沼へと変わり君を飲み込んでしまうのに。

ひとつだけ確かなこと
今でも思っていること
どんな形でも構わない。
僕にとって君が必要であるということ。
返さなくちゃね。
君はあの頃の僕を救ってくれたから。
全て憶えている。
声も指も髪も。何を話していたのかも。
あの日もこんな風に寒い日だった。
僕らがすり抜けた夜のことを
もう忘れてしまっただろうか。

きっと後にも先にも
あなたほどの人はいないよ。

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「08.2.15」

整理をしなくちゃいけないのにね頭破裂したから回らない舌で卑しく踊るさ
暴挙だと思うよあんたが善だと思う行いについては
冒涜だと思うよあんたが唄う讃美歌については
チッて擦って点くあの灯りになりたいと思っているんだよ
大量のカフェインが喉奥に張り付いて汚してくれそう
ついでに綺麗なあなたの顔も汚してしまいたい
みんな生きてんのみんな蝉みたいに鳴いてるの
みんな焦がれてんのみんなみんな見んなこっち見んな
緑のスリッパがすぐに脱げる。だから別の色のものを選んだんだけどやっぱり脱げる。サイズがあってないのかと思ったけど違うみたい
帰ろう?ねぇ帰ろう?怖いから帰ろう?
気丈に振舞ったりふざけたりして誤魔化していたんだよ爪も伸びたよ髪も伸びたよ切らなくちゃ切ったら捨てなくちゃ
ゴミ屑みたいに捨てられた人の気持ちってあなた知ってる?
印象が違うそんな人だとは思わなかったなんか興味なくなったあなたの創った妄想が人を壊してしまうことを憶えておいて
無抵抗な日々
何も信じられないから全てに対し慈しめることができるのです
気絶した虚脱した剥離した魂が精神が見当たらないんだよ、ねえ
可哀想だと口に出す人を優しいと思えない他人を哀れむなら責任持って救ってあげなよ言うだけなんて無責任過ぎるだろう
非情でありたい気が違ってしまいたい呼吸を止めてしまいたい
痛い箇所を探りそれは胸だと思うのにおかしいよさすっても治らないんだ
僕の言葉が空白へとなりあなたの言葉は天井に映し出される
ごめんなさいあなただけの僕になれなくてごめんなさい
どこにも向かえない生きたいのに行きたいのに逝きたいのに
変な顔、死に化粧みたい、変な顔が見える
奇数ばかり浮かぶ、最近、瞼を開けても暗闇だから泣きたくなる
そしてイメージが浮かぶあの人が居なくなってるの帰ると居なくなっていて僕はソレを下ろして頬を叩いて胸に耳をあてて首とか触ってどうしたらいいか混乱していて下唇を触りながら部屋を歩いている119番も分からなくて番号調べるとこの番号も分からなくてもう全部ダメになって部屋を飛び出してその勢いで消えてしまうそんなイメージ、そうならないであってほしいとその逆であってほしいとの葛藤
いつも、帰る時に緊張している音がしない家に緊張している
今日も大丈夫だったと安堵している
そして朝に沈むんだ眠る前に死の妄想に取り憑かれながら
キリキリ、キリキリ、張り詰めたピアノ線がほつれて行く


眩しすぎて見えない未来はもういらない。
今日も希望が僕を打ちのめす。
それでもね、聞いてよ。
愛しているのは、あなただけだよ。

---------

「08.2.18」

うんざりするね。
もう言葉が出てこない。
時々波のようにやってくるけどイメージが疎ましい。
綺麗な文章を書くからと言って人間性が澄んでいるとは限らない。
美化なんて糞くらいだ。仕事ができても性格最悪みたいなのと一緒。
何度も言っている。俺はそんな人間じゃないって何度も言っている。
醜悪で薄情な人間なのに何が優しいんだろう。
だが菊尾に近付いている自分がいるのもまた事実。
自分にとって菊尾という奴は不感症で飄々としている。
小さなことでまた一つ傷つく度に近付く気がする。
低俗な人間なんだから信用しないほうがいいよ。
君が見ているものなんて、全部虚構だよ。

----------

「08.2.24」

どうでもいい事が輪廻的。
興味ないから薄い価値観で語らないで。
排他していけよ君の要らないものならば。
いつだって眠いんだ。
気が触れるぐらいの春に出くわした事がない。
不足していたから今はアレのことばかり考えている。
罵ればいい、見捨てたらいい、
君は僕を嫌えばいい。


-----


あの頃がただの数字になっていく。
二人が握り締めた希望は冬と一緒に埋もれてしまった。
こんなはずじゃなかったって
過去形で呟いてみても今を直視できないまま。
細くて長い指先、
左腕を強く掻いた爪痕が消せないんだ。

耳鳴りと共に記憶が過ぎる。
肉体が忌々しい。
苦しそうに笑う人。
欠落している感情を取り戻そうと試みた実験。
誰のものにもなれないと言いながら爪を噛んで
その小指を同じように噛んだ。君がしているみたいに上と下の前歯で。

破綻したあの関係は尊いものだったと
いつになれば濁すことができるんだ。
美化っていう体で円く収めたいだけ。

邪魔になるだけの心なんて要らなかった。
ただその身体が欲しかったんだ。
たとえ間違っていたとしても
この眼に見えるあなた自信が欲しかったんだ。

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「暴力的に始まるのが恋。」

似ている日常が通り過ぎただけだと言えば
虚しさも感じられなくなる気がしていた。
言葉にしたら何でも片付けられると思っていた。
君は今日明日にでも死ぬと言う。
その時は傍に居てほしいなどと言う。
仕方がない。そうなったら風邪など引かぬよう毛布をかけて
冷えていくその体温を抱いて眠ろう。
既に遅い。僕らの身体は生身ではなく空身だったんだ。
救済などしたくもない。
君が生きることの苦しみをいくら訴えても完全には理解できない。
何ができるだろうと考え悩んでいれば縄に手をかける自分がいる。
少しの間、離れるだけの話だ。
いずれ死ぬ。「さようなら」ではない。
「じゃ、また。」なだけ。

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考えて気付いたことがある。
それはふと魅力について考えていた。
「長い髪が可愛い」と言った。
「長い髪が好きなんでしょ?」と1秒ぐらい後に返された。
そうだこの返しだ。こういった会話のセンスがたまらなく好きだ。
確かに自分は長い髪が好きだが話の核はそこではなくて
褒められれば大抵誰もがありがとうと言ってくる。
だがその前に逆に問われるというこの形。
ああやはり彼女は違う。ワンランク上の人間だ。僕は脱帽する。
こういった返しで会話を嗜める女性に僕はきっと恋をする。
たったこれだけの事なんだがすこぶる感動したので記しておこう。
やはり求めているものはセンスか。

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「低俗」

たくさん人がいる。
知らない人ばかり。
知っていた人も他人へと変わってしまう。
理由なんてなくても途切れてしまう。
顔も名前も忘れて行く。
半径10mぐらいのものしか憶えていない。
思い浮かべたら笑える記憶もいつからか薄れてしまい
断片的にしか思い出すことができない。
見出した答え。
もし間違っていたのだとしたら
要らない。全て。明日さえも。

冬溶け。孵化した春が辺りを浮遊し始めた。
木々や植物達が会話を始めた。
そんな優しさの中、相反する心情は遊離していく。
引き摺るように歩いていると誰かの言葉が脳裏に蘇る。
「あの時は本当だったんだよ」と。
今にしか生きられないのだから嘘だと言うなら過去形にしておいて。
涙が出ないんだ。
悲しいことなのに。
泣きたいことなのに。
どうしたんだろう。起きられない。眠り続けていたい。
明日は頑張って表情を作らないといけないのに。

憎たらしいほどに正常。
自制できるからきっと大丈夫。
食欲も性欲もあるから大丈夫。
ただの波だからうまくやり過ごすから大丈夫。
卑屈でもないし嘘もつかないから大丈夫。
綴れるし誰かの文章も読めるから大丈夫。
割り切れるから素知らぬ振りをできるからきっと大丈夫。
絶対大丈夫だよ、まだあの頃に比べたら塞ぎこんでないから、梅の花が咲いたのかな、甘いものが欲しいな、
逃げてなんていないから、病んでなんていないし、毎日にも楽しみを見出してさ、いけるよ

クラリ、クユリ、ヒラリヒラ。
薄紅色の花びらが舞い落ちる。
ねえ。しばらく会ってないけど、元気?
本当は会いたかったけど、言えなかったよ。
綺麗だったよね。あの花。少し寒かったけど。
余計なことを言った。
君のことをよく考えもしないで。
うつむいて苦笑したその顔が離れないよ。

終わっているのだとしたら一体いつからだったのだろう。
もしかして今はただの長いエンドロールなんじゃないかって。
破滅的な言葉吐いたって渇いていくだけ。
どこかで勝手にこのまま続いて行くような気がしていたんだよ。

どうしたらよかった?
傷つくのも怖いけど虚無感が一番怖いんだ。
薄く瞼を開く。一線としてある世界。静寂が牙をむく。思考の果てにて腐乱。
深く息を吸っても胸が押さえつけられているような錯覚。
ただ、欲しかったのに。
その全てが、欲しかったのに。

 


俺はもう、これ以上は


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「手前にて。」

手の届く範囲内に居たはずなのに。
浅い眠りで埋め尽くされている内は
「いつ眠っているの?」との問いには適当に返すしかない。
消去法で選んでいく毎日。
確実に、失いたくないとの思いが自然とそうさせた。
だがそれでもどこかへ行ってしまった。
思えばいつも、君がいない。
淡い記憶は断片的でしかなく欠け落ちたものは拾えそうにない。
誰かとの記憶と混同したりしていて
曖昧になっていく思い出は畏怖の対象。

笑わすこともできるだろう。
喜びあうこともできるだろう。
けれどなんだか虚しく思えて
さり気ない感じで諦念です。
先の事ばかり考えてると身体固くなるばかり。
それでも考える事を止められない。
止めたら何も無くなってしまうから。
君は何も持っていないと言うが
欲しいものを持っていないだけで
身近にあるものの価値にいまいち鈍感なだけ。
きっとそれは自身にも言えることなんだろう。
欲しがるから手に入らない。
手に入れてもただの石に変わっていく。
色褪せてしまうのと貪欲に求め続ける姿勢、
永遠に終わりがなさそうだ。

知らない道を歩いた。
遠回りした真夜中。
手を繋いで歩いていた。
そうか。
最初から違っていたんだ。
惹かれたのは才能でただそれが欲しくて
だから手を伸ばしてみたら肌がそこにあっただけ。
人格とか言葉とかただの装飾で君には価値がなかったんだ。

誰かと話していても
自身を見られていないように思える。
目を見て話してくれ。
観察して見抜いてくれ。
正直、俺はもう誰が俺だかよく解らない。


南風が吹き始める。
どこかへ連れ去ってしまうような強い風。
桜が咲く手前、
また君を失った。

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「覚めてくれない悪い夢」

自宅近くのトンネルで事故が起きていて帰り際にそれを目撃する。
自分は数人の女友達と一緒にいて女友達は皆苦々しい顔をしている。
トンネルの壁がヘコんでいて相当な衝撃だったんだねと皆が皆、騒いでいて自分もそんな事を思いながら脇を通ってその先の道を行く。
すると民家があってそこにある木々に恐らくその事故で亡くなった方々の遺体がぶら下がっていた。
怖い気持ち悪い!直視は出来なかったが葉が赤黒くなっていたことを憶えている。
避けてその場を後にする、先には女友達数人が手を繋ぎながら駆け足で走っている。中には泣いている子も居る。よっぽど怖かったのだろう。
だがその後ろ姿を観ながら気付いたことがあった。
全員の服が真っ赤だった。皆が皆、真っ赤だった。視界の片隅でぶら下がっていたさっきの遺体が蘇った。
そこで目が覚めた。やたら残る後味の悪い赤が脳裏に焼きついていた。悪い夢を観た。

朝焼けが好きなのはきっと夕方に似ているから。
始まりよりも終わりに惹かれてしまう。
きっとそっちの方が難しいから。
そしてそうしたいと願っていても出来ないことが多いから。

駆け足しか知らない子供達の傍を通り過ぎる。
立体的なマスクを付けた人をよく見かける。
ホストクラブ帰りの女に「この人知ってる!」と指を指される。
蛍光灯の明るさが時々嫌になる。
ホームで並ぶ順番待ちの人らが次から次へと運ばれていく様を見届ける。
心はきっと頭にあるはずなのに痛むのは左胸ばかり。
病院には行かない。それほどじゃないから病院には行かない。
それがもう10年以上続いているけれど。


恐らく、この穴は異性でしか埋まらない。
あの日から徐々に変化が始まって
もうあの頃の少年性は色褪せつつあるよ。
今はただ汚れたいよ。
もっと醜くて汚れた人間になりたいよ。
イノセンスは死んでしまった。
首を絞めたのはこの手だよ。
正しくなんて居られなかった。
どうにかなりたかったんだ。
正気を保つには苦しすぎるから。
楽に生きるにはどうしたらいいかそればかり考えているよ。

心の動きについていけないから
確認できるものだけを信じていくしかないだろう。
皮膚感や体温を求めて、麻痺して朦朧とする頭。
それは違うと綺麗事並べられても軽くならない身体がここにある。
救いようがないなんて聞き飽きた言葉だよ。


君は今どこにいる。
誰の相手をしている。
全部忘れて生きていくの?
全部捨てて笑って過ごすの?

それ以上思い出すのは危険だからと蓋を閉められる感覚。
上手く思い出せないよ。
どんな表情で笑っていたのか、
何を話してくれたのか、
この記憶を美化させられればいいのに。
その方法が一番知りたいのに。


午前中。
今、身体の中にあるものは広くて白い空間。
中央にある椅子に座っているのは僕。
窓も何もない四方を壁に囲まれた空間で
静寂だけが恐ろしいぐらいに響いている。

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「3.08」

金曜日を迎える前に公園へ出かけよう。
平日の最中にベンチで座ってしりとりでも始めよう。
「最近暖かいよね」なんてベタな会話をしてみよう。
飛んでる小鳥を見つけたら全部ウグイスだという事にしてしまおう。
いきなりパントマイムで会話をしてみよう。
コンビニで一缶、お酒を買ってチビチビやろう。
子供が遊ぶ姿をボーっと眺めておこう見守っておこう。
ヘタな口笛で笑いを誘おう。
君のことが好きだと伝えてみよう。
同じく、好きだと言われてみよう。
言ってもらえるような自分で在り続けよう。
嫌いなことも悲しいことも円く収めよう。
手のひらにある温もりだけで明日も笑えるよ。

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「3.12」

どこへ行っても誰と一緒でも孤独を感じるなら
その世界に今、自分しか居ないのだろう。
周りは全て無色透明で気付かずに日夜巡るのみ。
昼は白く夜は黒く、冬が明けないまま途方に暮れてしまう。
そんな状態で「生きなさい」なんて耳抜けていくだけ。
あんまりだね。惨いだろう?って苦笑い。
空元気なのに無駄にハイテンション。
どうしたの?ってそんなの昔からずっと。
週一で優しくなれて後は塞いでる。
気に障るような言い方も心からの気遣いも
全部受け取って大事にしている。それは本当の事。
「無理に話さなくてもいいよ」って
無理できる気力が失くなっているんだから話しにならない。
そんな顔をしないでくれよ。
君がやられてしまうから。

「どうでもいいって思われてそう。」
そう勝手に結論付けていたの?
知らない人間が増えていく事に疲れていたの?
見捨てられたとか忘れられたとか過去にして
あれはいい思い出だったから次へ行こうって
一人で君は夜明けを見出したの?

濃厚な青が辺りを支配していた。
あの朝の青さを忘れていない。
俺は何もかも忘れていない。
また間違ったのか、食い違ったのか、
二人の距離を測り違えたのか。

その人、誰。
全然、知らないよ、そんな人。
そんな話ってないだろう。
なんか、納得も把握さえもできないね。
案外、元気そう。杞憂だったとしたら笑えない程に不様。
やっぱり、こんな結末ね。

もういいよ。
もう飽きたから。
何も思いつかなかった。
どこかで安心していたよ。
誰とでも好きにしたらいい。
君にかける言葉なんて、浮かばないね。何一つ。
沈む感情へ、また、よろしく。

なんであんなに遠いんだ。
助けてほしい。
どうしたら、

君は過ぎてくれる?

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「朝に抑鬱」

一体、どこに向かって笑いかけたらいい。
毛嫌いするほど限られ狭められる視野。
あなた、心が緑内障です。

風通しを良くしたほうがいいからと
開け放っておいたらどこかへ行ってしまった。
そんな言葉なんて鵜呑みにするべきじゃなかった。

なんだか患ってしまったような、これは、錯覚なのでしょうか。
季節の変わりめだから春だから。
いいえ治りそうにありません。夏も秋も冬も沈んでいます。

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そう。気付いたこと。
他人へのサービス精神がある為か誰かと一緒の時には
暗い一面など見せない。見せても面白おかしく話してしまう。
どうしてもそうでなければいけない。
心配なんかされたくないのは幼少期過剰に心配されたから。
だから楽しませなくてはならない。変に義務感があり
根底にあるそれは取り除けないしそういう性質だから疲れることもない。
ただ一人になった時にその反動がやってくる場合がある。
その波が最近は高い。日記も酷い言葉が多い。昔は救うだの助けてだの言わなかったのに。
こんな時は誰とも会いたくない。これも最近。去年はそんな事思ったことなかった。
数日後に友人と遠出をする予定があるのだが行きたくない。考えるだけで沈む。
しかし何度も保留させているから申し訳ない。しかしそんな気持ちで行くのも如何なものか。
行けば、会えば案外どうにかなるんだ。プロの歌手は前日まで高熱でうなされていたとしても
当日はそのプロフェッショナルの精神からか何食わぬ顔で歌い上げられると聞いたことがある。
それと同様でその場はいつもと変わらぬ自分で居られるが反動が怖いんだ。
今日も働いている時はニコニコしていられたけど今はこんな有様でどうしようもない。

友人と話したことは「根底にある悩みを話しても理解されない。その孤独感が辛い」という事。
いつもの明るい自分しか知らない人達は「大丈夫だよ」やら「元気出してよ」とか。
誰も悪くないんだ。君らは悪くない。純粋に心配してくれる優しさはありがたいものだが
恐らく僕らが求めているのは理解ある優しさ。君らの優しさは凶器でいつもの自分を引き出す起爆剤であると同時に
孤独感と虚無感も誘発していく。これが多分、寂しさだ。
味わった人にしか解らないこの感覚を埋めるために似た人間を探してしまう。
まだ身体に異常は現れていない。現れたら病院行こうかなって思っているよ。
こうやって書くことで晴らされている面もあるし持ち前の多面性とシロップの音楽とお酒と煙草に救われつつ
今までなんとかやってきたが環境の変化によりバランスが崩れつつあるように思える。
マズいなぁ。危ないなぁ。

必要だと感じたのは菊尾をもっと人前で出さなければいけないという事。
高橋さんをずっと披露していたら疲労した。
菊尾は社交性もなく口数も少ない。影も薄く、そこにいるのにいない人。
許してほしい。そんな本質を。退屈な人間である自分を。
お酒を呑むと本質が出るけど、そうか、口数が少なくなるのはそれだったのかもな。
だから、酒が好きなのか。

頭の中で考えていることが霧散していく。
集中力が欠けていくし気力がいまいち湧かない。
腰をあげることに膨大な力が必要だ。
どれぐらい後、生きなくちゃいけないんだろう。
さようならは安堵と羨望。だから好きなんだ。
迷惑なんて後の話。何者でもなくなった自分にとっては無縁の話。
身勝手だろうが残された人間が苦労をしようがどうでもいい話。
だってもう自分はいないのだから。
そんなことに後悔して涙する自分はもういないのだから。
そんな風な価値観なのにまだ在り続けてるなんて、不思議だね。


その寝息とアクビが僕を崩した。
立て直したいから誰か力貸して。
って、誰にも言えないんだけど。

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「脅威」

定義されている在り溢れた希望に僕は向いてない。
それがどうした。利く耳は十代で落ちてしまった。
おかしいんじゃないの?って
健常だと自負する君は訝しげな顔してさ。
いつからそっちが正しくなった。
境界線の内側にお下がりくださいって
聞こえるけどそれは君の声じゃない。

容易く愛などと口にして意味なんて考えないで。
数時間、泣けない代わりに叫んだ自分。
数日間、思考について当てが無い。
歌詞も思い出せない鼻歌を窓際で口ずさみ
外の陽気に相反する室内灯に疎ましさを覚えた。
連れない態度なのは窓の向こうではなくて
きっと僕なのだろう。

寝ても覚めても夢の中。
誰かとの記憶も曖昧で時間の感覚は手から離れた。
甘いもの食べたいね。
舌も鼻腔も麻痺してしまうぐらい
気だるい甘さが欲しいのさ。

散漫な意識で髪を触る。
くしゃくしゃにした髪の毛。
何の気なしに当てた指に猫のようにすり寄せる頬。
あれはいつの頃だったか。
そんな顔見知りのあなたも今ではまるで他人のようで
実感の伴わない五感が全てを遠ざけてしまうんだ。

笑えるのにね。
喜べるのにね。
無理していないのにどうしてこうなった。
軟弱な精神だと罵る幼稚な頭の人がいっぱい。
浅くて薄い戯れ言はデタラメにしか聞こえないから
搾り出した励ましなんて言わなくていいよ。


同調してしまう君にとって
僕のこれは脅威でしょう。
自己完結してしまう君に掛ける言葉が見当たらない。
もう何も、言うことはない。


ねえ。

ここは怖いね。

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「盛大に弱った!」

こんな感じだったっけ。
力がなんとなく入っているような入らないような。
ちょっと、笑えるんですけど。
読むのもしんどいんだね。
音楽聴くのって力要ることだったっけ?
飽和する。あれ?もしかして限界ですかね?
友人との明日の遠出する計画は断りのメールを入れておいた。
会うことはできそうだと言っておいたがこの状態ではそれも侭ならない。
えー、俺こんな人間だったっけー?
笑える笑える。すごいすごい。
ほんとは書くつもりなかったしね。書く意欲も失せ始めたか。
ええ、ちょっとどうしよう。困るなぁ参ったなぁ。これから働かないといけないのに。
極端な話し指先一本動かすのだって億劫。
とか言って打ててんじゃん、あああ息苦しさがあるね、うん。

ええ?冗談だろう?何コレ。
こりゃあ個人の力ではもうダメかもしれんね。

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「病んでる方が雰囲気出てなんかいい感じ。って思ってるやつらなんか大嫌い。」

朝のホームでついつい飛び込んでしまう人は
誰かに誘われたのかそれとも背中を押されたのか。
浮遊感でうっかりみたいな感じかな。少し足元が揺れた。
朝のホームはとても怖い。
車内で理由もなく唐突に悲しくなった。
泣けるかなと思ったけど涙は出なかった。
深呼吸をしてもなんだか肺が満たされないので
浅い呼吸を繰り返す。吸っても吐いてもなんだか肺に蓋があるような。
一人で帰宅する際そんなことになってしまった。
一人になると襲われるので色々と困る。

カナシミに目を向けるとソワソワとなんだかおぼつかない。
とてもじゃないが歯が立たない。
すると集中力が無くなり始め酷くなると頭が痛む。
大概酷くなる前に意識を逸らすようにしている。
好きなものに目を向ける。たとえばニコ動とか。
まだ逸らせるだけマシ。じゃないと喰われる。
火曜日はDVDを借りに行くことに悩んだ。
同じ悩みを延々と繰り返して気付けば一時間。
天井を眺めながら結局どこにも行けなかった。

誤魔化しが利くうちはまだなんとかやれる。
明日ちょっと病院へ。
病院なんて大嫌いだが仕方ない。
こんな理不尽なことに金を払うのが不服。
調子のいい時はなんとかなるんじゃないの?と思ってしまう。
一度こんな波が以前にもやって来ていてこれは二度目。あれは確か二年前。
その時はなんとか一人でやり過ごしたが年月を経て精神力が磨耗したのか
それとも二年前のよりも高波なのか抵抗できない為、助力を仰ぐしかない。

波。波は本当にそのまま。付け加えると地震が最初にある。
何かショックを受けるとその時はさほどそんなに落ち込まない。
さしずめ、「うわっ今グラッときたな。しかも大きめの縦揺れだったね!」なんて。
だがその後に波がくる。津波がやってくる。それで急下降してしまう。

誰かに薄暗い自分を話すことが申し訳なくてやはり出来ずにいる。
それに関してある人に軽く叱咤のようなものをされたわけだが
非常に嬉しい限りだ。うん、なかなか愛されてるな俺。笑

頑なな心を解いていく作業が必要。
対峙すると喰われそうだが少しずつ向き合わねば。
心配して下さっている皆様には感謝しています。ありがとう。
本当はこんな内容の日記も嫌いなんだけどね。心配になるじゃんね。
ただちょっと、自分の為に書かせて頂きたい。
でも困るのはたとえば次の日に笑える日記を書いても
「あぁなんかちょっと無理してるのかなぁ」とか思われんのもね?笑
面白いと思ったら正直に面白いと感じてください。裏読みしなくていいんで。
それが一番不安かな。笑

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「3.22」

なんだか信じられないね。
実感なんか湧かないね。
初めて聞いた言葉みたいに他所の国の言葉みたいに
どこかうわの空で理解には到底及ばない。
これは所謂、うちの子に限ってっていう親の心理と一緒。
俺に限ってそんなわけないだろうと。
いや、べつにそんな大したことじゃないんだけど、
軽いうつらしいです。これでどうにも動けなくなると中程度のうつ病らしく、
だから一番身体に負担かからない薬を処方するんで
それでちょっと様子見てみましょうってことでした。
食欲もあるし睡眠も取れるんで身体的には健康体なのかな。
薬なんて効くのかな。朝夕飲めって昼夜逆転してんのにいつ服用したらいいんだ。

ただ強く思ったのは久しぶりに暗い自分で人と接することができて
それが凄く楽だったんですよね。ああー表出たかったんだねぇ菊尾さんって思いましたよ。
でもやっぱり友人と接するときは基本的にタカハシなんだろうな。
というか今回はそういう場だからそうしないと意味無かったし。
でも知り合いには見せられないよなぁ。なんというか相手に悪い。申し訳ない。
まあタカハシもね、いつも楽しませて笑いに走るとかでは決してないんだが、相手の悩みとか聞いてるんだよね気付いていると。そういう役割で、聞き役とかで、でも自分の悩みとかはほとんど話さないっていう。それは本当に根深い闇だし、話しても俺は楽になるかもしれないけど相手側には気分のいいものじゃないわけだし。
もうなんかどうしたって気を遣ってしまう。

構わないよ話してくれても。って言われても自分からは無理だな。でも、
相手の悩みが自分と同質のものであれば相手を励ます意味で自分の闇を話せるかも。
「俺なんてさぁ~こんな感じだぜ?しんどいよなぁ」とか自虐的な励ましや、或いは
「俺はまだ○○な状況だけど、そうか、それは辛いね。」など共感するパターンなんかで闇を自白できる。
やはり似た人でなければダメなんだろうなぁ。

恋愛についても考えたがもう無理だろう。
たとえばそんな風に理解してくれる人が現れたとしても、まぁ大概その人も病んでるよね。
となると共倒れするパターンがあって共依存とかも危ぶまれるし。これは返って宜しくない。
では、普通の人はどうだろう。・・・無理。一緒に居ても寂しいだけ。
理解しているがちゃんと躾のできる大人。これが理想かな。周りにはなぁ~なかなかなぁ~。
まぁもう恋愛はいいや。こんな人間と付き合っても相手が可哀想なだけ。
こっち側引きずりこんじゃったりしたら最悪だもんね。

なんか最近腰とかが痒い。乾燥してて痒い。歳だ・・・。
ボディローションとかハンドクリームとか色々買った。肌にうるおいを!
そんな俺の前髪はパッツン気味ですが。

タイトルはSyrup16g「Sonic Disorder」より。
ロキノンに五十嵐のインタビュー載ってたよ。あの日を思い出したよ。
パニック障害がPanic Disorderなんだっけ?いろいろとかかってるのよね。

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「要らない舌」

うずくまって畳み込んだ手足と小刻みな心臓。
高い高いと挙げられたのはよく晴れた日曜日が多かった。
あんな空はもう二度と見れやしないんだね。

まともじゃない世界で正気ぶるのはもうよそう。
君のその特化した哀しみについて様子見をしている。
延々と見守るなんて名目で本当はどうしたらいいか分からない。
都合のいい言い方で保身しているなんて
そんな事、とっくに知っていることだよ。

馴染めずに浮いてしまうね。
ダンスホールの中央で泣きじゃくっているのは君。
溶け込めないし所在が無い。
どこなんだろうねここは。
少なくともその場所は君に似つかわしくない。
だから泣いているんでしょう。


元より打ち解けてないので言わば放心演技です。
脆弱な精神ですが愛情が全てだなんて思っていないので満足しています。
気だるく話す癖はなんだか似合っているので案外好きだったりです。
お気に入りなんで君が誰と寝ようと関係ありません。
人間らしさなどもう僕にはほとんど残っていません。
チョコレートと煙草の味とそのクチビルの感触。
緩やかに疎遠になるのなら、今ここで
首を絞めてくれ。


ひらひら舞い散る無数の花びらが君の姿を隠してしまった。
こんなことになるのならもう少し
その舌を噛んでおけばよかった。
話す度に思い出すぐらい強く痛く。
それはお互いに、
要らない舌だったのだから。

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「いつか消えてしまっても」

削った爪で整えられているあなたを傷つけて
バラバラにこの手で分解してしまいたい。
「誘われる」と呟き二本指で髪を梳かされる。
あたしは押さえつけられてしまう。
剣山で突き刺した皮膚から湧き出た血液みたいに
言いたいことは小さくても無数にあったのに
押さえつけられたあたしはぐぅの音も出やしない。
ズルくて憎たらしくて何よりも愛しいその二本の指。
切りたいのに切れやしない。
髪も、あなたも。


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多分、
自分の中には女が住んでいる。
モノ選びをする際、時々可愛いものを選んでいるし
それについて何よりも抵抗がない。
そんな自分は好きだから別に構いやしないが。

もうすぐ桜が咲く。
桜は揺れて、それはまるでマッチで付けた灯火みたい。
ゆらゆら、ゆらゆら、
いつか消えてしまう不安定な灯り。

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「重力懐疑」

笑っていても憂いている。
叙情的な伝え方でしか塞がらないモノ。
傷跡なんてただの感傷物。
出来事は相変わらず呆気なく素っ気ない。
糸と糸で結ばれている言葉をはためかせる四月前の風。
そろそろ切れてしまいそう。
なんでもそう。
何事においても何かが切れてしまう時って
誰かの所為にするべきではない。
自然と限界が来れば解れてしまうものなんだって
それはもう、仕方のないことなんだよ。

最終的に人がするべきなのは
その事柄を受け入れていくということ。
よく噛んで飲み込んでね。
身体の中で循環させる為によく噛んでおこう。

紙で指を切ったその際に
流れる細い血液なんか見たってね
安心なんかしないんだ。
落ち着いているんじゃない。
落下し続けているんだよ。
どこにも着地できないで暗い穴を一人、昏々と落ちている。
誰かその穴を逆にしてくれたらいいのにね。
出口があるのなら外で飛び出せるはずだから。
無いのなら何も変わらないけどね。

情状酌量で罪を軽くしてほしい。
一体これは、なんの罰なんだ。
あれ?ここさ、
重力増してない?

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「3.30」

この感性が損なわれるのはもったいないから
君が引き継いでくれたらいいのに。
いいとこだけ持っていきなよ。
爛れた部分は削ぎ落としてくれて構わない。
暗がりで幻を見る。
あの影の形は君だった。
ゆっくりとその内へ吸い寄せられた。
それからは、
なんだかとても、気分がいい。

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「見切り時」

出かけようと思ったんだけどやめた。
ライブに行こうと思っていたのだが
雨も降っているし家でジッとしていたくてやめてしまった。

桜が咲くと雨が降る。
毎年誰かが心配しているね。
「せっかく咲いたのに散ってしまわないかねぇ」と。
まだこの辺りは七分咲きぐらいだから大丈夫かな。なんて、
やはり誰かと同じで桜の身を案じている。


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「そんな風になったことはないからなぁ」と
気楽な口調で応える彼。
僕は彼といると保護者でなければならない。
嗜めたり教えなくてはならない。
彼は僕に言う。「大人だから」と。
幾つもの相談に応じてきた。
その都度、結論を出してきた。

少年性は魅力でもあるけど
それだけではダメなんだね。
数人の中の一人としてそういったキャラクターがあるのなら
それは楽しいで済むかもしれないど
一対一でずっとこちらが教えないといけないのはツラい。
「分からない」の一言で片付けるのではなく
理解しようとする姿勢が欲しいのに。

偏見が強い彼に付き合うことに疲れを感じ始めた。
決定的だったのは「でも俺もうつだよ」の一言。
言ってもいいが他所で言ってほしい。
それはただの状態で病とは違うのだろう。
べつに自分の病に酔うわけではないが
病なら「分からない」なんて言葉は絶対に出てこないはず。
「なったことないから」って言ったのに何がうつなんだろう。
似て異なるものだよ、それとは。

頭の固い人間とは距離を置こう。
成長が見られないなら言っても無駄なだけ。
言った事が使い捨てられてしまうのなら
もう何も言う事はないよ。
ただ虚しいだけだから。

大人と接したいと思うのは
僕も彼と一緒で子供だからなのか。
自分と同じ温度の人と会話をしたい。
彼と僕の間にはいつからか
温度差が生じてしまったんだ。

 

「解るまであと何秒」

何をしたかった?
満足はできたの?
だからもういいんだね
需要がなくなって
必要とされなくなって
どこにいるの?
いつもいた場所にはもう居ないじゃない?
散々好きなこと言ってやりたい放題して
あとはもう自由にしなさいって
身勝手な振る舞い
自己完結で人のことは知らんぷり

あなた。
離れるなら「さようなら」を一つ下さいませんか?

何一つ明確にせずにしていくのは大人の悪い癖
親しい人が一番怖い人
わかってる
君にとっての僕の価値がなくなっただけ
頭では理解できている
あとは心が追いついてくれるのを
眠れずに待ち続けるだけ

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「成り立たない嘘をつく」

相変わらず一日は短く瞬きの速度で落ちていくけど
一時間前にカーテンを閉めた瞬間はまだ空に赤みが残っていた。
徐々に日が延びていることに気付かされて
また誰かにそう気付いたことを話すのだろう。
季節が巡るたびに同じ事を言っているけど、そういった変化に対しては敏感でありたいから
きっとまた口にしてしまうと思う。

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崩れてもまだ在り続けるのは
全てが崩れていないからか知らぬ間に再構築されているからか。
実感は湧かないが小さく小さく毎日生まれて死んでいる。

誰も彼も際限なく見知らぬ誰かへ再生されていく。
隣にいるその人もいつかはもう遠き人。
「憶えてる?」
「・・・忘れたよ。」
それは忘れてしまったのではなく憶えなかっただけ。
この先、影になっていくと分かっていたから。
「そう。」
全て理解した上で視線を手元に戻すのは優しさから。
そんな風にしか返せない不器用な嘘をつく僕を
君はその一言で逃がしてくれる。
その優しさに甘えることはもうこれ以上、出来ないのに。
突き放しても距離を図りながら決して離れることをしない。
君の未来に映っていたいと思っていた僕はもう居ないから
今日、これで終わりにしよう。

記憶に嘘をついても眠れば夢で現れる。
何度も繰り返される夢は今もこれからも続いて行く気がする。

「誰か、好きな人はできた?」

「もう会えないの?」

僕は嘘をつく。
そうするしかできないから。

「素直になれなくて、ごめんね。」

肩を震わせて君が言う。
目の前にあるグラスの中で
小さな炎が揺れていた。

-------

「激しい雨に打たれるのが好き。だって誰かに叱られているようだから。」

心が思い通りにならない君がそう言ったのは外が急に騒ぎ出したから。
正しさを誰かに諭されても感情を優先してしまう悪い癖。
「そういう生き物なんだよ。あたしは。」
君はいつも誰かに叱られたい。
誰の言い分もきっと届かないと思いつつ自分を更生させてくれるような言葉を望んでいる。
雨音を聞く後ろ姿に影はない。
光を求めて彷徨い歩く君の空にはいつも雨が降っている。

-------

どんな安いお酒でも酔えればそれでいい。
明日なんかどうだっていいから
今は酔ってただ抱いてほしいだけ。
服は着たままでシャワーも浴びずに
ただ縺れ合っていれば何も考えずに済むから。
その時だけはあたしを必要としてくれるあなたが居るから。
一枚一枚脱がされていく瞬間にどこかで冷めていく自分がいることも知っている。
目の前のあなたが少しでも愛してくれるように
あたしは出来るだけの事をする。
こんな事ばかり上手くなっても仕方ないのに。
酔いが醒めない内にあたしは何度も彼を求める。

-------
「彼が見つめるその人は愛を欲しがって応えない男は別の女を夢想しながら彼女を抱いている。」

いつからだろうこんな関係が続いているのは。
特別な感情なんてないしこの先もきっとないだろう。
抱きながら他の女のことを考えている。
いつだって誰かを抱くときはその女のことばかり考えている。
俺の人格なんてとっくに壊れている。破綻したままどこへ行くんだ。
喘ぎ声が違うから口で蓋をする。そんな声じゃなかったから聞きたくない。
分かってるさ。
こんな体でもなかったこんな髪質でもなかったこんな匂いでもなかった。
飲み干した後に俺を見るその眼、
そんな眼で見ないでくれ。俺にはどうすることもできないから。
終わった後に背中を向けたり眠ったりするのは顔を合わせたくないから。
罪悪感?いや、まともに向き合えば不幸にするだけだから眼をそらす。
それでもその手は求める仕草。
煙草を吸い続ける。手の次は口。
腰掛けている俺に後ろから手を伸ばしていた女は
ベッドから離れて俺の前でひざまづいている。
俺の眼は虚ろにあの女の事を考え始める。

--------

「撫でる手は誘いの手。」

どこへ行こうか。
離れても君が振り返れば見えるぐらいの距離の中にいる。
安心して歩けばいい。
まだ補助輪なしでは自転車に乗れなかった日。
後ろで必死に支えてくれた父のようなそんな感じ。
いつかは手を離してしまうだろう。
けれどその時に君はもう一人でも暮らしていけるはず。
それまでは隣にいるよ。
だから今は不安にならなくていいよ。

------

元旦は久しぶりに携帯カメラをフル活用していた。
この冬一番の寒気が伴っていた朝に凍えながら撮っていた。
雪は全てを白く塗り潰してしまうけど霜は形を残してくれる。
どちらがいいなんて愚問。比べられないぐらいの魅力がある。
霜柱を踏んだ時のあの音と感触は懐かしくて好き。
靴が汚れても気にしないでわざわざ霜柱のある場所を歩いていた。
凍った水たまりも一枚一枚割って学校へ向かっていた。
ランドセルの横にぶら下げた箸箱を鳴らしながら小学生の僕は歩いていた。
そんな事を思い出した。
風景はどこか寂しさがある景色が好き。
新しい年を迎えたのでフォトアルバムも新しく作成してみた。
以前使っていたのは70枚を超えてしまっていたしね。良かったら見てみて。
今年は何を撮れるだろう?今年こそカメラが欲しいなぁ。
午前6時過ぎの電車の窓から見た空は幾つもの色が重なっていた。
そうか。一日の始まりと夜へ沈んでいく手前、空は虹色になるんだ。
冬場は虹を見ることがなかなか難しいけど、なんだか満たされた。
年が明けると春が頭に浮かぶ。
暖かくなったり風の強い夜がやってきたり春は心がザワつく。
それを考えると嬉しくなる。あの奇妙な感じが好き。
春を連想する為、遠くに目をやる。
君の住んでいる街に目を向ける感覚に似ている。

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ちぐはぐで収集がつかないぐらい自由に遊ぶ感情。
どこまでも透明だから汚してはいけないと気を遣う。
何も持ち合わせていない君は自分に対して悲しむが
要らないものばかり持っている僕は君に憧れている。
どっちもどっちで交換してもきっと満たされないのに
それでも欲しがってしまう僕らは欲深いのでしょう。
ドアを開いて早く早くと急かす君の手が宙を撫でる。
テーブルの上に置いてある鍵を手にして
その招待に僕は乗る。

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「脱出しなさい。」

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答えなんか要らないからと仮初めの関係性に甘んじれば
心は疲弊しやがて朽ちていく。
求めたらその分離れていくことが世の常、人の常?。
欲しがるくせに振り向けばうつむき横顔ばかり見せ付ける。
永遠を意識すれば終焉が微笑みかけてくる。
煩わしく問題なのは自身の意識だ。
敗北したとするならばそれは内側の闇に呑まれたからだ。
他人の所為にするなよ。受け入れられない、許容量の問題だ。
人は二本の線で出来ている。それは表と裏。
何を知った?どちらも知れた?全てを知らずに嫌な部分ばかり目がいくね。
見切りはどこで付ける?
正しさなんていつも不透明。
始まりも終わりもいつも自分次第。
どこまで行っても一人ぼっちは変わらない。
個対個。それを自覚できたなら口づけでもすればいい。
繋いだと思えたあの感じもすぐに忘れてその度にまた縋り求めるのだろう。
悪くない。それのどこも悪くない。むしろ人らしいさ。
ただもう疲れただけだ。
背中を見送ることに。
斜陽に付属される思い出に。
似た人を見かける度に繰り返される罪の意識に。

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「翳る植物園では最後のくちづけを。」


押し付けがましく感じてしまうのは
受け止められる器がないから?
いいえ、ただの拒否です。
愛情に首を絞められる。
なんだってそう言えば美しい?
いいえ、ただのエゴです。
こんなにも、こんなにも、と
相手を無視し、自らの感情は一方通行で。
その度に閉塞していきます。
やはりこのままではいけない。
少しずつ毒に侵されていくようです。


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腐乱していく身体は死に化粧。
種を蒔いて水をやって咲き誇ればいいのに。
隣人が一日中付けているテレビの音が耳にべったりと。
回り続ける日常は誰かが回すロクロのよう。
今のところはいい感じ。けれど少し力を込めたらぐにゃりと歪む。
何も言えなくなるのは随分と知りすぎたから。
何を言っても無駄に思える。君は君しか見ていないから。
無情は長らく雨に当てて虚空に返す。これ以上、方法が見当たらない。
8mmフィルムで撮影したような僕らだった。
見返すことはもう出来ないけど。
閉じ方はいつも一緒。竦んでしまった足には血が通っていないみたい。
朧月夜。瞬きする月。翳る植物園では最後のくちづけを。

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「08.1.12」

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すぐに自分のモノだって勘違い
預けてないから帰ってきなよ
夢見がち過ぎて心臓に悪いな

マンホールが外れてる路地裏で
野良犬が僕を見て鼻で笑ったよ
しんどいなんて冗談だろう?

転んだだけだから泣きそうになりながら立つのさ
そればかりで飽きない?って
風邪気味の君は気だるい顔して
熱下がれと願いながら問いかけてくる
飽きたら遊ばないが常套句
君はもうここで遊ばないのかい?

照明グラグラ、いつもライトが当たるわけない
奥歯だけで味わうことはもう辞めたんだ
宝石商の旦那さん紙芝居屋のおじいさん
夢見て醒めて、その恨み節は誰を救える?
ここしかないね息吸えるのは
忘れてしまうのはナイフとフォークの使い方
ディナーなんて誰にでも平らげること出来るらしい
無自覚の悪意も不安ゆえの思惑も全部平らげるのさ
ただし俺は箸でつつくけど

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「08.1.14」

変色した石鹸は誰も使っていなかった。
誰にもかまってもらえないとストレスが溜まる人がいて
それとなんだか似ているような気がする。
過干渉なんか死ぬほど嫌いだが無視もダメなわけで
椅取りゲームの毎日は椅子に座っても安心できない。
すぐに次の曲が始まって立たなければいけないから。
安住できる場所なんてどこにも無い。
次の鬼はお前だと前の鬼から肩を叩かれる。
子供の頃から無意識に遊びという形でルールを覚えさせられているようだ。
寒空が油断していた僕らのコートをその強い東風で翻していく。
縮こまりながら変わりかけの信号の下を走り渡る。

渡る・・・
渡る、渡る、
渡る曲がる走り続けながら加速しながら息切らしながら誰かに追われるように逃げられないと肩を掴んでくる人、気付けば周りを見渡せば見知らぬ大人ばかりだ!
僕もそんな大人の一部だ。大人になりたくないなんて言っているのはどこのどいつだ?
愉快だね全く大人ってやつは。モラトリアムなんて後生大事に抱えているから生きる事に疑問を感じるのさ、棄てちまったらそんなもん後は野となれ山となれ。ハハハハハ笑えるねカラカラのしなびた果実のようだって?
「昔のあんたはそんなんじゃなかった・・・」って、まあなんて可愛そうな顔して言うんだろうねこの子は!そんな面してたら老人にだって捨てられるぜ。びっくりしたら負け。引いたらもっと負け。
なんなんだそのTシャツは。?I ハート NY?あいらぶにゅーよーく?愛だね愛。出て行けよこの国から。
路駐した車内での男と女の接吻は路駐の路チューになるのかそれとも車チューなのか?ならば社長からのキスは社チューか?
わかんねーことだらけで胸は満たされるね!これから知っていく楽しみがあるじゃないか。
おいおい一つ言っておくよそこのお前さん。愛情と憎しみは紙一重だって自己弁護は恥ずかしい話だねぇ~。満足しない結果に敵意なんて腹あ抱え込んじまうよおかしくて。てめえの見る眼をどこぞに自分は高みに上って嘆くのかい?うっとうしい野郎なこった。お天道さんもそっぽ向いちまうだろうよ。相手を知りもせずにただ押し付けたお前さんの感情なんて報われてたまるかって話だ。甘えのよ!人間と付き合っていくんだ。こんな小難しい生き物、知らずに飛び込んで怪我してもそりゃ自己責任ってやつさあね。恨み節なんて歌だけにしておきな。相手はどんな気持ちだったか想像してみなよ。聞けよ人の話を。まずは聞けよ。会話してるのは自分だけだった・・・なんて。そりゃ会話って言わねんだよ。
以前はよ、昔に戻りてえななんて思っていたけど最近ではそんなことは思わねえ。思わないね。
若さは無知だ。無知は恐怖だ。周りの未熟さに付き合うのもきっと一苦労だろう。
もういいのさ。僕は失敗は繰り返さないよ。絶対に。
どうやら渡りきってしまったようだよ交差点。僕の人格も戻ったようだ。
さて、今は信号待ちだ。次は君が話しをしておくれ。


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「右脳と左脳が仲たがいをして左脳が出ていくことになりました。あなたどちらに着いて行く?」


無重力空間に投げ出され戸惑った感じで鳴いているような犬の声。
シャキンシャキンと銀色が眩しかった鋏は赤錆が浮いて切れやしない。自身の錆びは落とせないようだ。
考えれば考えるほどに孤独の穴に落ちていく幅広いその穴の中心に落ちていくものだから爪もたてられやしない。
車と人で埋められた街並み。ユレる電車内。開かない窓。無機質なアナウンス。
黒いロングコートのサラリーマンが言っていた、「これはゲームだよ」と携帯越しの誰かに言っていた。
ボクはそれを聞いていた。吊り革に手首を絞める人がいる。ゲームは一日時間までとママは根拠なく言っていた。
ママはそう言う生き物なんだと友達のサトルくんが言っていたことを思い出した。
ああ、あとどれぐらいでママは怒ってコンセントを引き抜くのだろう?あともう少しだけと子供は言って聞かない。
ママお願いだから早く切ってくれママ保存しているデータも消してくれ何もかも無かったことにしてくれよ。
ママ、ママ、優しい声で「もう眠る時間よ。おやすみなさい。」と言ってくれ。
言ってくれ、言ってくれ、言ってほしいんだ、ママ、ママ
ボクはもう誰に対してもごめんなさいと謝ることしかできません。
笑いかけてほしい穏やかにボクを悟らせてほしい固まった価値観を覆してほしい。
ボクがあげたかったもの。それはまだ見ぬボクなりの愛情の示し方。望んでいた理想の愛情を誰かに与えたかった。
穴に吸い込まれるように走り続ける電車は一体どこへ着くのだろう?
最低なボクは誰かに何かすることができた?
長く振り返る。今までの全部を極力掘り返そうとしている。
次なんて要らない。ボクの幸せは全て終わった時に完成されます。

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「さようなら?それともこんにちは?」

一月の喪失に対しどう向き合えばいいのだろう。
遅く起きる。いつもよりも。義務感で毎日身体を起こしている。
明日嫌いの君は最後に、
明日目が覚めなければいいと大嫌いな明日に願いを込めていた。
嫌なものは嫌だと認識し記憶していかなければいけない。
この頭のどこかにそんなものだけ集められ保管されている記憶倉庫があり
美意識を構築するにあたり比較対象として使われたに違いない。
何かと比べなければ自身を見出せない生き物。
あの頃の僕が今に教えてくれたんだ。
独善的な行いが全部壊して行く事を。
そしてどこか壊したがる自分がいることを。
軽薄な僕は捨てられて当然だ。

 

-------

一線上の上にいる。
一定の距離を置き問いかけ続けているのはいつも同じこと。
「愛している?」「愛しているよ。」
応えられ肯き笑顔を取り戻しても再びその時が訪れ
また同じ質問を繰り返している。延々と延々と。
終わりは相手がその問いに応えられなくなった時ではなく
質問することさえやめた時に始まる。
相手の負担になりたくないと気遣う優しさが
ジワりジワりと自分の首を絞めていく。
このままではダメになると予感しながらも逆らえない流れがあり
どうすることも出来ないのだと諦められれば楽なのに。

いつも問いかけ続けている。
「愛している?」「愛しているよ。」
「もう愛なんてどこにもないのに?」
「僕らが持っていた分は使ってしまったからね。」
「じゃあどうしてそんな嘘をついたの?」
「つかなければいけない嘘もあるのだろう。」
「言い訳にもならないわ。」
「離れたくないからっていう理由は君と一緒だ。」
「・・・態度も言葉も欲しがる欲張りな私を分かっているのね。」
「科白になるのは愛という言葉だけ。寄り添っていたい気持ちは言葉で表現できない。」
「それを愛とは呼ばないの?」
「愛なんて抽象的過ぎて実感がわかないから嘘みたい。」
「万能だものね。」
「安心した?」
「安心した。」
「でわ、さようなら?それともこんにちは?」
「勿論こんにちは。・・・あなたはそうやっていつも意地が悪い。」

---------

「今年初めての雪が降ったんだ。」

当てにならない気持ちは胸を圧迫して息苦しくて
時折それは夢の中で映像として浮かび、見せ付けてくる。
そんな時に再認識させられるのだけどそんな事はないだろうと
なんだかちょっと冷めた感じを装っている。
はっきりと断言できないのは自信が無いからで
確信すると外れることが多いから猜疑心が渦を巻く。
言葉だけでは足りないと感じるのは嘘を多く聞いてきたから。
聴覚のみでなく視覚を通して見せてほしい。
そうしてたどり着くのは嗅覚味覚触覚。
五感全て使って接していきたいんだ。
備わっている機能全てを活かすのは君にだけでありたいと。
いずれ雑踏の中に紛れてしまう僕らだから
まだまだ楽しもう。この未成熟な精神で。

袖を不意に引くのは君。
肩を後ろから叩くのは僕。
人気の少ない通り道。
この匂いはどこかで何か燃やしている?
咽る、裏返る声、笑う、笑う、笑う。

「今日はどこへ行く?」
「・・・よし。世界の果て。」
「勝手に行けよ。」

「(声裏返らせながら)勝手に行けよ。」
「似てないよ。ナノレベルで似てないよ。」
言われながら、小突かれる、小突かれる。

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「季節の再生」

12月と1月と2月
3ヶ月の間に身体は透明度を増していく。
今は中間でこの先に待っている誕生日までに
僕の1年間が清算され白紙へと戻される。
新たな記帳は誕生日を迎えてから始まる。
冬と春の間に芽吹いた。やっぱり中間。
片足でも保ち続けていられるように感覚を養い続ける。
0はそこから0までもうすぐ。
あなたが僕を見るその目。
あなたが僕に語りかけるその口。
あなたが僕の言葉へ傾けるその耳。
開かれるその瞬間が0に似ている。黒い空洞へ吸い込まれる。
おかしいのは君だと言って
おかしくさせたのはあなただと言う。
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過ちはもう逃がしてあげたら?
捨てられないのではなくて掴んで離さないのは君。
強ばった指が解けないと嘆くから
一本一本、ゆっくりと開かせる。
最初はきっと小さかった黒い塊が手から落ちた。
それをコップに入れ浄水に浸しその状態でニ、三日。
その間、それを観察する。散々思い返しながら観察する。
辛いと言い目を背けようとするが時間が過ぎれば観察を再び始める。
結局彼女も終わりにしたいのだろう。そんな彼女同様に僕も静かに眺めている。
それから乾燥させて屋上へもって行く。どこでもいい。風が強い場所ならどこでもいい。
僕は持たずに君が持っている。君が弔うんだと言い聞かせた。
手の平の上で風に揺られコロコロとしていた塊に変化が生じた。
塊はサラサラと砂のように流れ始めた。風化が始まった。
「昔、海に撒いた骨のようだ」彼女は舞い散る黒い礫を見上げながら言っていた。
僕はオイルライターに点火してそれを空へ投げた。
舞い散るそれの中にライターが入った瞬間、周りに引火し小さな爆発を起こした。
連鎖し次々へ爆発は繋がるが長くは続かない。散り散りになっていく速度の方が速いのか。
「花火・・・にしては鮮やかではないね。」
「それでも、形になれば残るから。記憶に。」
今日この日のことを忘れないと言っていた。
観察した数日間のことも憶えておくと。
記憶に蓄積された塊。それとの派手な別れ方だったが
沈黙を守った結果淀んだ彼女にはそんな方法も必要なのではないかと推測からの荒療治。
気付けば歌を口ずさんでいる。それは確か彼女が大嫌いな歌だったはず。
思い出すから聞けない歌えないと拒んでいたあの歌だった。
そんな姿を録画しようと僕は携帯を取るためにコートを探る。

--------


新しい過去だ。
今新しい過去が生まれたよ。
ほら、今この瞬間にもだ。
食い止めることなんて出来やしない。
僕らに未来は無い。先にあるには過去から今への蓄積。
道は背後に出来ている。
幸せじゃないなんて、嘘だろう?
心なんて不自由なもんだよ。


-------

「タルラ」

風が渦を巻いた。
震えて歯が鳴った。
ライターの火が付かなかった。
空には何も無かった。
電車がホームの人を連れ去った。
喫煙スペースから消し忘れの煙が千切れながらも上っていた。
小学生が待ち合わせをして登校していた。
歌を歌いながら帰った。
肺が凍った。
見慣れた病院を見ると現実が遠く感じた。
吸っていた煙草を吹かして仏壇に手を合わせた。
湯たんぽに入れる熱湯は最大級の温度にした。
人肌ではこの時季ぬるいから熱いぐらいにしてみた。
かなり熱かった。
熱すぎてなんだか歯も痛くなって眠れなかった。
夢も見かけても更に瞼を閉じた。
眠れるだけ眠った。
目が覚めて電気は付けずに外からの光だけで過ごした。
すぐに暗くなって自分の気分と似ているようだった。
そして夜が大きな体でゆっくりと飛行してきた。
この国はもう全て覆われてしまった。

思い出しながら打ち込んでいる。
思い出せないことがないぐらい思い出している。
サカナクションとフジファブリックとapogeeの新譜を買わなくちゃと思っている。
歯医者にも行かなくちゃと思っている。
悲しい文章を書こうと思ったが重すぎたから止めて今日はこんなのを書いている。
なんてことのない制約を設けて書いている。
意外と難しいからこの変で止める。

もう時間だから、
いつも後がないから、
遅刻してしまうから。

---

「理由がなんでも欲しかったから」
後付の理由でも二人は綺麗だったから
いつまでも消えないままで
言い切ることすら出来ない関係が
罪深いだなんて今でも思っていないよ。

--------

「08.1.28」
 

悲しいぐらいが丁度いいんだ
別れ際はそんなので。
また会いたくなるから
名残惜しさが必要で。

かさぶたみたいに剥がされる。
それは残り続けている過去。
きっと君と一緒にいても同じような過去が増えるだけ。
壊す人と与えてくれる人はいつも同じ人。

雪が降ったら迎えに行くよ。
「次は、私が見せるから」
普段、連絡のつきにくい君は
雪が近付くと携帯を触り出す。

------

「08.1.30」

自分がないから誰かへ依存するっていう話を聞いた。
誰かへと縋り認めてもらうことで自分を成立させているのか?
分からなくもないけどね。他者は自分を映す鏡だし。
ただ何にしたって依存なんてものは結局その対象をダメにするけど。
人だろうとモノだろうと。そして気付けば自分の身体も心もボロボロってね。
多分、君が君である限り救われないよ。

--------

「08.1.31」

あなたが笑う。
その理由としてあたしは存在している。
撫でられて喜ぶ。
あなたの前では猫のように身体はしなやかになる。
願い事はその声が聞こえる範囲の中にいたい事。
雨が降ったら寄り添っていたい。
いい天気の日には連れ出してほしい。
あなたの左手の指輪なんて
砕けてしまえばいいのにと
時々本気で思うこと。
口に出すつもりはないけれど。

---------
 

「3.27」
興味がもてない人間との会話
君からの言葉は咀嚼できるが
僕からの言葉は果たして。
脳内で留めておけないから
それは君にとって毒になるから
言い訳だらけで君は吐き出す
僕からの言葉を道の端っこに。
僕の言葉な泣きながらうずくまる。
僕はそれを拾ってまた口の中に戻す。
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「3.30」
なんだろうこの人間に似た生き物は。
いや人間か。あざとい人間そのものだ。
幸福も薄汚れていった。
利用されて傷つけられて汚されて
それを誰か認めてくれよ。
笑うのは空気を重くさせない為に。
「誰も愛せなくて愛されないなら
 無理して生きてることもない」
ってシロップが唄ってる。
見えてないし聞こえてないし。
ここはいい加減寒すぎる。
「仕方が無い」にもそろそろ飽きた。
左胸がどうにも痛む。内部から響く痛み。
まだ、平気。寝れば多分どっか行ってくれるはず。
書くことに依存している。
「また違った。」と受け入れる。それも疲れた。
笑えないことは自分の中での内緒事。
どうにもできない。どうかなってもきっとダメ。
「それとこれは違うよ一緒にしないでよ」と言われている気分。

望まれない。
誰か泣いてくれる?
息が洩れていく。
冷たく吐いても
熱く中指へ届いて行く。


結局、
なるようにしか、ならないのだから、
それを初めからやりもしないで決め付けてくれるなよ。
終わりを前提にではなく
どうしたら続けられるかを。
理屈は邪魔なだけ。
好きなものは好き。
嫌いなものは嫌い。
誰の感情も知らん。
押し付けない。
認めれるものや受け入れられるものを
選別していく。
たとえ望まれていないとしても。

その絶望もいつか死ぬ。
それを
傍で弔いたいだけだよ。
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「4.28」

「それは辛いこと。」
「そう。」
「でも、だから・・・」
「何?って話だよね。」
「そう。だから何なの?」
「何って言われても、でも辛いとか」
「そんなん続けたとしても、で?っていう」
「そうそう。大したことない。全ては大したことない事。」
「そう。それなら無意味だけど楽しい事のほうがいい。」
「だって笑えるもの。」
「そう。だって楽しいんだから。」
「無意味なカナシミは不要?」
「そこから何も生まれないのなら。」

-----------------

「5.3」
綺麗な日常を汚してしまった時に
誰の手も傍にないのは寂しいこと。
聞いてくれるだけでいいって
それ以外は何も要らないって
それは嘘だろう。
そんなに出来てないくせに
強がりばかり上手くなっていくね。
難しいことじゃないのに
小声でいいから
好きにしてくれよ。
-----------------

「立腹故、発声」

残念な事に
君もまた同じ顔に成り下がってしまった。
いや、そもそも見る目が無かっただけの事。
いくら艶やかに話したって抜け殻の中身が丸見えだ。
ただ一つ可愛いのは小鳥が君の中をねぐらにしている事だ。
くるっくるっと狂人のように首を動かしている小鳥が見えるよ。
だがそれにさえ気付かないのか。その眼は。


君は教室から飛ばす紙飛行機のように
あっけなく執着もせずにバラ撒いて散らせていくんだね。
僕らには時間がない事を君は気付いていない。
気付きたくないだけなのかもしれないが、
ケーキに立てるロウソクも吹き消すのに面倒な年頃だよ。
そんな使い方なら娼婦の方がまだ希望がありそうだ。
賢くないから?違うよ。
ただ負けているだけだろ。


幾つになっても変わらぬもの。
変わらない事がいいわけじゃない。
立ち止まれば濁るだけ。
気付かないだけで変化は毎日起きている。
あの頃の僕らはもう居ないよ。って
本当は何回会っても初対面。
そのお気に入りの自分を幾つも増やして
石階段でジャンケンでもして遊べばいい。
羽化の仕方は慎重に。
綺麗な薄い羽は最後まで仕舞っておくといい。
とっておきを見せるのは一人だけで十分なはずだから。
-----------------

「6.3」
様々な話を聞いて
沢山の感情が湧き上がって
濁流に飲み込まれそうになる。
それは突然訪れて
内側のカーテンを閉めてしまう。

遮断されて細い通路で一人になって
あそこはとても寒い場所だから
積み上げられた壁を崩して
体温は奪われて
どうにも動けなくなる。
塞ぎがちな体が何よりも冷たい。
あまり上手く話せない。

少し、眠る。
どうせ起きてしまう事を知っている。
ならば瞼が開いた時に希望があればいいと願う。
だってそれは不意に訪れるのだから。
-----------------

「6.8」
ある日僕のなんたるかを空へ逃がしたよ。
要らなかったと思っていたそれを
なんとか取り除いてみたものの
今では探しさ迷う日々なんだ。
要らないって思いたかったのは嫌いだったから。
痛みや弱さは自分を汚く映すと思っていたから。
ちっぽけな存在。一段飛ばしで進めるほど足長くないだろう。
悲しんだ涙で地面がぬかるんで
僕は抵抗することもなく沈んでいこうとした時あいつは戻ってきた。
袖を引っ張って連れ戻したあいつが言うには
居なくなったあの日から近くの電線に止まって眺めていたらしい。
「お前はそんな奴だったよ昔っから」と言うとヒヒヒと意地悪く笑った。
おかえりなさい。僕の裏。
さようなら。焦燥感。
これからはなんだって飲み込むよ。
-----------------

「7.8」
知りすぎれば破綻していくね
安定感だけじゃ淀んでいくね
みんな乗り越えられずに落ちていく
求め方が相手に合わなくても失敗だ
いちいち相手に付き合ってたら自分は無くなるね
大事にしあいたいだけなのに傷ばかり増えていく
教訓を得ても相手が追いついていなければそれも無駄
理解はどの位置で得られるの?
着地点が見えていれば楽なのにね
不安感で幾つダメにした?
落ち着けばいいのに
僕らの話は僕らでしか話せない

あの頃のあなたが好きでした?
むしろ変わったのは現実に冷めた君の方
-----------------

「7.10」
「ギザギザの十円玉の転がり方みたい。
真っ直ぐ歩いてるようでふらふらしてる。
違うよ。足取りがじゃない。
地面が波打つからバランスが取れないだけだよ。
相容れないから弾き出すんだね。
ここは居場所じゃないんだね。
いつだって一人だとね
寂しさに慣れてしまって
どんな気持ちだったか分からなくなるんだよ。
あまり哀しく思わなくていいよ。
辛いことではないから。
向き合うことから逃げてもいないよ。
逃げているのはむしろ君の方だから。」


青白い廊下と鏡に映る影だけの姿
ひらひらと蛍光灯に縋りつく小さな蛾
煙草の匂いしかしない部屋
夜の短さと蝉の声
千色世界で何色になってみる?

-----------------

「現実の中でしか見れない空想」

「ここが最果て」だと言う
「証明してあげる」と続けて
次の瞬間には消えていた
それは小指が一瞬だけ震えるぐらいの
ごく小さな動作
「どこへ行っても果てが続いている」

数日前の雨の日に
傘を高く持ち上げて通行人を避けながら
「雨が降ると渇いてしまう」と喉を掻いていた
淘汰なんて思い込みは必要ないことを
証明できたらよかったのに
また、雨
-----------------
 
「7.22」
掻き乱すのは自らの手なわけで
慣れて確信すると不安定になる
むしろそう思うまでが安定している
複雑から始まった
終わりは解けたら

ゆびきりの後
本当も嘘もどうでもよかった
夏が鳴き始める
幸福の価値が揺らぐ
誤魔化し方が得意なだけ
簡単に無かったことにできるんだね
握った手首の細さ
見たくない夢
救って巣食ったその人
名前など知らなければよかった

蝉のぬけがら
暑い河原の午後

離れたら
二度目は無いよ
-----------------

「7.25」

「いつまでそこにいるの?」
「いつまでもそこにいて。」

そんなの受け入れられない。
ここは好きじゃないから。
そんなの約束できない。

一つに絞られてしまうのは
答えが一つだけだと思っているから。
そんな事はないのに。
けれどそうでもしないと迷い子になるから
とりあえずの結論を出す。
読みかけの今に栞を挟むために。

悲しいのは読みかけで終わってしまうこと。
他の記憶に埋もれて思い出すきっかけさえ失くしてしまう。
その瞬間、君の中で僕の成長は止まってしまう。
それが何よりも悲しいよ。

綺麗な日。
何も無い空。
鳥が青へ落ちていった。
今日の具合はどうだろう。
僕は何を思い何を考えるだろう。
君の中で僕は息をしている?
ヒグラシの鳴き声と
距離感も分からなくなるくらいの空を見て
思い返してしまうことを許してね。
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「7.28」
錯覚
飛来
虚構
温もりを認めないのなら
この手の熱は何と呼べばいい
燃えてゆく空が綺麗だねって
内在する罪意識も一緒に投げ入れてしまえばいい
くだらない、くだらない、
幾らでも希望を掴んでいるのに
僕は君を羨ましいと感じているのに

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「7.30」

「たまゆらの狂騒」
それが夏と呼ばれているものの正体で御座います。
熱にうなされるアスファルトへの一滴の落下
蒸発する御身体をどうお思いなのでしょうか。
やはり動植物も人間様も皆が皆狂い咲き、
乱痴気騒ぎの祭囃子がこの季節に見合う気がするのですが。
停滞気味の梅雨前線同様、抜け切れない湿気が蔓延る脳内と肢体。
あああぁぁぁあああぁぁあああぁああああ
時に私は脱皮を試みたい。
荒唐無稽の想像が足りないのです。
生きたいのです。願望の肩を落とさぬよう鷲掴みの毎日です。
引き上げ支える両腕が痛んでも
今の私にはそれしか能が無いのですから。

-----------------

「8.2」

涙する。
さようならの後を追っていた。
庭に咲いていた椿と同じ君の髪留めの色。
逢って繋いで離れて想って
君は私を
私は君の名前を呼んでいた。
咳をする。
冬が長く滞在している。
咳をする。
窓の外にはボタン雪が落ちてくる。
ここ最近は体がやたら重い。
動けるうちに君へ電話をしなければならない。
ああ、痺れは病からかそれとも冷えからなのか。
家の者の目を盗んで黒い受話器を上げた。
長い板張りの廊下で足元が凍えて仕方ない。
電話番号は頭に入っていた。
何度もかけた電話番号は忘れもしない。
しばし、呼び出し音。もどかしく焦る気持ちがある。
考えていた。話したいことがあったのを思い出そうとしていた。
こんなにも胸が鳴るのはいつが最後だっただろう。
「もしもし、」と聞き覚えのある懐かしい声が耳へ飛び込んだ。
しかし久しぶりに聞いた為か戸惑い言葉が出てこない。
相手が私の名を呼ぶ。
「・・・さん?
 ・・・ご無沙汰しております。お元気ですか?その後お変わりないですか?」
言いかけた時に家内の足音を聞く。
私は慌てて受話器を置いて逃げるように布団へ潜り込む。
襖を開いて私の様子を窺う気配がする。
なんだか疲れて寝たフリが本当に寝てしまいそうだ。
夢に入るまでの間、君の声を思い出す。
再会はこの後眠った後に?
そう願って私は夢へ落ちていった。

-----------------

「8.3」
「思ったんだ。
 僕らはただの仮だったんだって。
 仮定として続けていただけの話だったんだって。
 そんな事を言ったら君は否定する?
 ・・・冗談だよ。
 言いたくなっただけ。」

変わらない後味の悪さをもみ消すように煙草を一つ、潰した。
変わらなくちゃいけなかった部分
それを、思い出した。
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「8.6」
このままがいいとあたしは言う。
するとあなたは
このままを続ける為に
その次へ向かうと言った。
人はその場に留まれない生き物で
その場なんて刹那的なもので
そんな曖昧なものを信じれるほどあたしは確かじゃなくて。
分かっているけど立ち止まる足を
あなたは振り解いてくれる。
先が見えないのは今始まったことではない。
ここがどこなのかも分からないけど
あたしはあなたの隣で歩いている。

「脳内からも消えてしまいそうな君を埋葬しようと決意した今日は僕の命日になりました。」

後戻りなんて出来ない
頭上は掻いても剥がれることのない青
影絵の中へ
夕暮れの奥へ
虚無と仲良くしたがる君は
もうこの世の住人ではないのかもしれないね
外側へ向かおうよ
その手を連れて名前も変えてしまって
今までの何もかも
失ってしまおうか

低体温症の僕は上っ面の輪に入れずに
今日も七番街の誘蛾灯へ向かう途中
笑うように浮かぶ細い月
今夜もやはり、君を求める
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「8.14」
不恰好に生きて不器用に足掻いて
そんな分かりやすい虚勢だけど
あの娘の前では強がりたいから仕方ないよ。
そんな事を言っていた。
僕らはただ純粋とか不純とか
後から乗っかってくる色々を完全に無視して
今のこの感情のまま素直に生きたいだけです。
君のことが好きでそれを伝えるのが難しくて
悩んで不眠になって体重減ったりしてて
そんな僕らは何よりも誰よりも愛されたい。
誰のこともよく分からないから。
理由を抱えてひたすら暗がりを歩く
そんなただの人間です。
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「8.18」
君がくれた言葉は忘れても忘れても
ふとして思い出す
思い出せば
部屋がため息で埋まってしまう

臆病に遮られている夜が明けるまで
あとどれくらいだろう
こんな気持ちだったことをいつか伝えるから
まだ君はそこにいてよ

哀しみにばかり目を向けるのは
それが繊細で綺麗に思えるから
君は一つの哀しみ
胸に残るのはきっとその為
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「8.22」
君が分かり合おうとするならば
何度でも何度でも
舌が乾ききっても
伝えることを止めないよ

曖昧にしたいならそれでもいい
都合よく扱えばいい
聞きたいのはどうしたいのか
なんだっていいから
それだけを教えてよ
-----------------

「8.25」
いつかキミが
あたしに向けた感情を
あの頃のアタシには理解できなくて
あたしは怒ってそれがきっかけで
キミと別れたよね。

今あたしはあの時のキミみたいな気持ちで
好きな人を困らせているよ。
今更気付いて胸が痛むのは
あの頃の罰なのかもしれないね。

幼かったあたしを
キミは卵を暖める親鳥みたいに包んでくれた。
今度はあたしがそれをしてみるよ。
キミが教えてくれたこと
出来るかわからないけどやってみるよ。
あの頃のあたし達がムダにならないように。
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「8.30」

「今日、少し雨が降っていたらよかったのに」

「そうしたら、泣いていても誰にもバレないじゃない」

「今日、雨だったらよかったのに」
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「9.1」
何も見ようとしていない
本質なんかどうでもよくて
思い通りの幻想を相手に上塗りで
無自覚に汚しているよ

一度開いた心を
再び閉じるのは凄く痛いこと
ねぇ、知ってるの?
そうなったら次なんか無いよ
二度目なんて無いんだよ

要らないんでしょ
どうでもいいんでしょ
ただの暇つぶし
これ以上傷つく余裕なんて持ち合わせてない
簡単に
愛なんて口にするもんじゃない

いつも嘘は夜に生まれる
差し当たり無い言葉で現実を誤魔化して
目を向ければ顔を背けるばかり
波間に佇むような関係に興味がない
切り替えればいくらでも冷たくなれるよ
そういう人間だよ

対応は適当にするから
こんな感情なら捨てられるから
求めることを演じているなら
今までの全て燃やしてみせるよ

もういい
上辺だけなら他をあたればいい
下らない
また一つ欠けていく
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「9.3」

「私は思っているほど綺麗じゃない」
「美化だなんてしていない」
「だからあなたには似あわないよ」
「君はそうやっていつも自分から遠ざかる」
「・・・」
「核心に触れようとすると逃げるね」
「関係が壊れるのが怖いから」
「だから避けるんだね」
「そう。壊れるぐらいなら」
「壊してしまえばいいのに」
「イヤ」
「今の僕らに先は無いんだよ」
「この状態でさえ維持し続けることは難しいの?」
「難しいね」
「どうして」
「ただ自分に嘘をつくのに疲れたんだ」
「・・・だから壊すの?」
「壊すことは終わりではないんだよ」
「どうせ終わることになるわ」
「君は信じればいい」
「何を?」
「ここからを」
「そんなのは幻想」
「今までが幻想でこれからが現実だよ」
「幻想でも誤魔化し続けていたい。壊れたら私は立ち直れない」
「大丈夫。連れて行くけるから」
「どこへ?」
「二人で目にする何気ない日常へ」
「見れるかしら」
「約束する」
「理由を教えて」

「僕らはとっくに破綻していた。失う事はいつでも出来たんだよ。互いにそれに気付きながらそれでも在り続けた日々があるから」
「・・・そうね。認めなかっただけで私たちにここ以下は無いものね」
「そう。ここが最下層だよ」
「階段を上ろうかな」
「ゆっくりとね」
「そうね。ゆっくりと。」
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「9.6」
生きるのが面倒だから死ぬと言うあなた。
その方が今よりもマシだと死後に希望を見出すあなた。
見たことのないものに縋りつく心境は一種の宗教に似ている。
確信もないのに信じれるなんて強さがあるなら
今だって信じられるはずなのにね。
環境が変わってもあなたを救うのは結局あなただけ。
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「9.7」
浮き沈みの激しい僕のことなんか忘れて
その痩せた腕が外界に触れていたらいいと思うんだ。
君のことを口頭で誰かに話すつもりはない。
稚拙な演技で互いを傷つけるしかなかった。
感傷に浸る資格もないのに夜と薬を言い訳にしている。
知れば知るほど距離があることが解った。
君が言った「救われた」って言葉を
僕はどこへも消化できずにいる。
思い出すあれは秋口の事だったんだ。
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「カイコ」

「久しぶりにすると感覚が鈍ってうまくできないよ」
彼女がゆっくりと寂しそうに言った。
一度離れたら次はいつ会えるのだろう。
今日で終わりな気がして帰り道は胸が痛む。
誤魔化すようにヘッドフォンのボリュームを上げて
目の前の暗がりを突き進んだ。
繋ぎとめる事の難しさをどこかで解っていながら
それでも君を見ることを止めはしなかった。
何も無かった二人の記憶はモノクロームの静止画で
川に流れて行く桜の花弁にだけ色がついていて
ずっと目で追っていたことを思い出した。
--------
いつまでも続く関係を築くために
人は人を好きになるんだよ。
壊れてしまっても立て直せばいいよ。
復興できないような間柄なら
それまでの事だよ。

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「9.18」
大切だから告げるだけ
それを塞ぐ理由なんてどこにも無い
この先の事なんて
告げても告げなくても多分一緒だよ
続くものはどうなったって続くから
二人が失いたくないと思うならまた繋がるよ
それよりも告げないほうが悔やむだろう
深い関係には乗り越えなくてはならない壁が必ず現れる
今がきっとその時だよ
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「浮き島」
チグハグで辻褄も合わせられないよ。言いたいことが云えないのではなくて上手くまとまらずに口にできないだけなんだ。
分裂していく幾つもの夜の中に一人佇んでいるようだよ。人は皆それぞれの一日を持っていてそれは小さな浮き島に居るようで
たまに島同士がくっついたりして僕らは接触を試みるんだけど、水の流れには逆らえなくて島は離れようとしてしまうんだ。
ちょっと話してみて、あぁこの人いいなぁって思って、興味や好奇心や性欲なんかが刺激されればどちらかの島に移住したりして。
その小さな島で死んでいく人も居れば離れる人も居て離れる時なんかは水の中に飛び込むんだよ。
僕らは元々水の生物だから呼吸の心配はないけど問題は次の空いてる浮き島が見つからなかったり、
飛び込んだのはいいけど泳ぐ意思がなかったりした場合でそんな時はどんどん沈んでいくよ。沈んでいくんだ。
水は大きな誰かの意思。神様とか宿命とかそんな類のもの。浮き島は自分の居場所。大きさは人それぞれ。
見つけ方が分からない。無責任で生きられるほど甘い場所で生きていないし時間は無限ではないんだ。
何をさせようとしているんだろう。
時間が無いと感じてしまうのは焦っている証拠だね。

僕が今までしてきた事は
人の空白で自分の空白を埋めようとしていただけ。
それを空白と捉えずに似ているだろうからカチッとハマるかもしれない。ただそう思っていただけ。
理性からの警告音が鳴り響いても
耳はアルコールや感情で塞がれてしまうね。
不安だから目に見えるものしか信用できない君。
何にでも理由が必要な君。
僕を上手に欺く君。
何も返すことができない。

もうすぐ彼岸花が咲く。
赤い花。
赤い君の爪はとても綺麗です。
-----------------

「9.23」
この電車が止まる駅の中に君が暮らしている街の駅はなくて
僕は窓から見える低い月をなんとなく眺めていた。
回想の中の君はよく笑っていて
だけど思い出せるのは唇と口角と白い歯で
それ以外はもう上手く思い出せない。
悲しみは日々が忘れさせてくれるけど、それと同時に愛しかったあの頃も連れ去ってしまうんだね。
「人は忘れていく生き物だよ。」って
顔は薄れていくのに言葉は胸の奥に沈んでいくよ。
人と出逢っても結局残るのは喪失感。それがもう幾つも幾つも。
愛しさも掻き消されてしまうぐらいに溢れかえっていて失うことだけ壊れてしまうことだけ頭にあるよ。
忘れられるのはその人の中で存在が消えたっていう事。
それはとても悲しい事だね。
だからきっと悲しみを作ってるのは僕で
君はきっとそんな事も知らずにまた笑っているのだろう。

一体、誰の隣で落ち着けるんだ。
でももう孤独を安易に埋めるために誰かを好きになんてならないよ。
そんなことしても穴が広がるだけだし誰かを傷つけるから、もういいよ。

僕らが繋いだ温もりは冬の中でも生きていたはず。
浮かれた想いの裏側に安定なんか無かったことに気付きもしないで傷つけるだけ君を傷つけて、
求めたって誰の手にも触れないね。

誰かを誘って出かけたい。
けれどもう誰も誘えないよ。
次の駅名を告げるアナウンスの声。僕が暮らす街。
見上げればほら、もう月も無い。

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「雲の隙間から空へ沈んだ君に対して。」

たとえばの話。
君には僕がいなくても大丈夫。
役割は終えたから僕はもう行くよ。
過ぎてしまえばいつかきっと笑えたり懐かしんだりできるよ。
過去も未来もどちらも遠いけどいつでも君の人生は君が選んできたんだ。
それを誰にも責める権利なんてほんとは無いんだよ。
だからもう少し楽に居てもいいよ。
たくさん苦しんだんだ。おかしくなるほどに。
何処へ行っても僕はそれを覚えているから。だからもういいよ。
それ以上は自分が剥がれていくだけだから。

あの人は僕に救われたと言い残していった。
何ができたのか実感は湧かないけどその言葉で僕も救われた気がしたよ。
またいつか、会えるよ。
君が必要とするなら僕は素知らぬ振りでさり気なく隣に入り込むよ。
でも出来る事は全部したから今は遠く離れるよ。

こんな話はたとえばの話。
そんな話をいつ君にしようか考えている。

-----------------

「名前の無い文」

「振り切れずに夜の中をずっと彷徨っているみたい。
自分を欺くことが一番の苦痛で内側が見えていたらきっと酷い。
耳の奥まで突き抜けるような朝の凍てつきがやってきて
この指先はいつかの君以上に体温を失っていく。
温もりよりも冷たさを憶えている。今でもしっかりと。」


雨宿りしているみたいだ。いつも次の誰かへ期待している。
けれど本当はどこにも無いんだって
長く居ることなんて出来ないのを分かっているのかもしれない。

虚ろな視線で甘えたくてもそんな風に出来ない君の姿が見えるよ。
夕方がずっと続いているみたいだって
考えなくても涙が出ていて、
いつからか記憶は後からやってくるようになってしまったって
別人みたいな声で呟いてベッドの上から鳥の影を追っていた。
あの鳥から僕らはどんな風に見えていたんだろうね。

繰り返す夕暮れの中で孤独だけを実感できたんだろう。
体温を忘れてしまうのが怖いから求め合ったんだろう。
もうこのまま生きる事なんて適わないのかも知れない。
繋いだ手に強く力を込められたのが分かった。
手の甲に爪が食い込んだ。
知っているよ。
痛みの中でしか生きられない事を。
だから同じぐらいの力を彼女に向けた。
繋ぐ手と手に痛みを込めて。
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「秋雨に囲まれながら。」

頭痛がするのは雨が降ったから?
そんな体質ではなかったはずなのに。
微細な変化が積もり積もって僕は僕を壊していく。
それは生きながらにして生まれ変わっていくようです。
原形であった自分なんかはとっくに隠居生活で
深層マンションは日々増築工事に追われているようで
そんな中隠居生活を営んでいる過去の僕らは
幾億の星達のように過去から現在へ光を照らし続けています。
それを面影と呼んでいます。
これからも代わっていく主人格は一国の首相さながらの話。
今日の僕は君が知った昨日の僕とは違う人です。


葉に付いた雨露が靴先を濡らした。
空に吐いた息は白く色付いていた。
秋雨は夏に浮かれた熱を冷ますように降る。
強く打ち鳴らすように降るのではなく静かにゆっくりと冷ましていく。
そうやって秋の訪れとその先にある冬を連想させる。
僕は外で煙草の煙を吐いて今までよりも良く見える白い煙が散っていく様を眺める。
二桁の月の入り口はとても情緒的。
赤く染まって行く山々やアキアカネが空を飛び交い
銀杏は黄色く足元を染めて橙の金木犀の傍では甘い香りで僕は思わず立ち止まる。
秋の暖色に包まれて公園でする会話がとても好きだ。

---

声と
髪と
指と
仕草
そして思想

どこへ行こうか。
帰ることをためらってしまうような場所へ行こうよ。
でも結局僕らは帰ることを選ぶ。
「もうちょっと居たかったよね。」なんて言いながら
「また一緒に来ようよ。」なんて言いながら
僕らはあの部屋へ帰るんだ。

疲れたらこっちへおいで。
笑わせてあげるから。
涙も好きなだけ流したらいいよ。
僕は最後までここに居て見届けるから
だから話を聞かせてよ。

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「時計台の重い針が動いたのは」

時計台の重い針が動いたのは僕らが目を離した隙の事。
降るには早過ぎる粉雪が綿帽子のように宙で舞っていた。
君が背負った影は深すぎて僕の視力を奪ってしまう。
飲み込まれないように目を背けても誘惑に負けてしまう。
その爪が背中へ食い込むのを感じていた。
凍えがちな僕らはお互いの体温でそれを凌いできた。
すぐに冷やされてしまう吐息は僕らそのものだった気がする。
背中に回した指に触れた雪の感触で目が醒めて僕らは離れた。
「バイバイ」
時計台の重い針が動いたのは僕らの唇が近付いた瞬間の事。
何時だったかなんて知るわけもなく。

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「10.17」
仕舞えない仕舞えない
次から次へ溢れて零れる
吸い取るのは君の唇
つまらない顔をしているのは僕
やっぱりそうなった
やっぱりこうなった
彼方をご覧
数多の動乱
みんな息苦しさの中で愛でる何かを探している
終えない終えない
君が僕に口移しした感情は
粘土で出来た月のように崩れながら落ちていく

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「理由」
繰り返し同じ夢を毎晩見ると云う。
それは夢をくぐった先に待ち構えているものが怖いから
ずっと同じ場所に居続けて同じ想いのままの夢から抜け出せないのだと
煙草の煙と溜め息を同時に吐き出しながら君は言っていた。
夜になると街は憂いを誤魔化すように自らを輝かせる。
曇り硝子から届く品の無いネオンの明りで君の顔色が分からない。
シーツの皺が砂丘のようで二人を飲み込んでいく気がした。
僕は君と話している時ふと現実感を失うことがある。
それこそ夢のようでそんな時は確かめるように君に触れてみる。
「また?」と言って君は笑う。
「確かに実在しているから大丈夫よ」と言って君は僕を抱きしめる。
天井にもチラつく幾つもの原色と肌の触感が現実を存在させている。
品がないこのネオンの明りだからこそいいのかもしれない。
淡い曖昧な光だったらきっと僕は寂しくなっていただろうから。

駅前にある大きなスクリーンに映るニュースの中で
知らない誰かが死んだと伝えていた。
外の国だけでなく自分が住んでいるこの国でさえ
毎秒誰かの命が消えていく。
別れる前に一瞬、手を強く握った。
何も言わずに握り返してくる。
いつもしているかのように自然なことのように。
人波に埋もれながら彼女は手を振って消えていった。
僕もまた新宿へと戻った。
-----------------

「パラレ×パラソル」

骨折した傘から雨粒が目薬のように降ってきた。
僕はまぶたを閉じるだけが精一杯の動作で
雨粒ふたつ。
ひとつは側頭部へと沁みこんで
もうひとつは額に落ち頬を伝って地面へと向かって行った。
泣き顔を誤魔化せるのは雨の日に限るが泣いているわけではない。
何よりもその時は涙が流れたようだなんて思わずに
冷え性の指先が頬をなぞっていく様に思えたのだから。
----
羅列するのは価値の無い幻想群。
ガキガキのひび割れた思考は君を食い散らかしていく。
君はバラバラにされても再び一つに統合されるわけだが
それは何度目の縫合ですか。
腕も脚もプランプラン。
「いっそ誰かが操ってくれれば楽なんですけど。」
それには同意せざるを得ない。悲しいことだけど。
----
囁きはいつも甘い。
運命論者が騒いでるけどそんな事はどうでもいい。
「君が欲しい」と耳元から注がれる。
代償として何かが無くなると聞いた。
きっと受け入れればキミを愛せなくなるだろう。
囁くものはいつも残酷。
招かれたその先には“今”が無くて
“その後”へと直結するのでしょう。
アソビならもう飽きてしまったのにね。
----
あしたは晴れるってよ?
だから高みへ上ろうよ。
そして
全部ちっぽけな事にして
許してしまおうよ。
もういいから。
泣かなくていいように
悲しみは空へばら撒いて
散っていくそれを眺めよう。
チョコレートでも食べながら。
-----------------

「10.31」
後書きもしないことが
言い訳をしないことが
君なりの誠意の見せ方だとして
それは相手より自分に対しての配慮。
「伝えられないから察してください」
僕の見解からは答えが出ないまま。
解ってくれると思った?
万能なんかではなくて
ただ君の言葉をなぞって繰り返していただけだよ。
-----------------

「11.9」
一体何の話をしていたんだろう。
今まで何を見ていたんだろう。

集まって飛ぶ鳥たちがグルグルと輪を描いているがいつもより数が少ない。
あの周辺の大気には小さな渦ができているのかもしれない。
違う景色はいつも新鮮でなんだって出来そうな気分。
慣れてしまえば忘れてしまう。そんな気持ちだって忘れてしまう。
だから残しておく為に撮ったり書いたりしている。

分かろうとした。
誰かへの理解など本当の意味では無いと知りながら
それでもその言葉に耳を傾けていた。
君はなんとなく話をして
僕はそれに対して思っていることを口にして
そんなやり取りが幾つあったのだろう。
だけど月日が経つにつれ分かったことがあった。

それはただ聞いてほしかっただけの君にとって
僕の意見なんかどうでもよかったってこと。
都合よく甘えられる相手を探した時に
たまたま見つけたのが僕だっただけ。
君の中で僕には名前が無かった。
必要がなかったんだ。
都合のいい関係は長く続かないことを
自分好みの繊細そうで優しそうな人は
そんなに長く保持していられない。
自分が口にする会話は相手を侵していく。
それぐらい自分の言葉に毒素があることを知っていたから。
すぐに忘れる名前なら憶える必要がない。
君はそう考えていたんだ。

僕はあまり人を信じていない。
誰かはそれを悲しいことだと言う。
何か不思議なもの未確認飛行物体とか超能力とか
そういったものに対し半信半疑なのだが
それはきっと人に対してもそう。
こんな考えが続くならこの先誰かを愛することなんて出来ないだろう。
ただ愛そうとした結果が今へと繋がってしまったのは皮肉なこと。

それでも聞くのは好き。
その人を知る喜びがそこにはあるから。
でも会話にならない一方的なものは嫌い。
僕にも話させてくれよ。
でなければ、聞き役が僕である必要なんてないじゃないか。
ねえ。ちゃんとここに居るのに
それを無視しないでくれよ。
人形じゃなく人間なんだ。
ちゃんと感情があるんだよ。
僕が言ったことを君はどれだけ憶えている?


僕はただ、
君と話がしたかった。
“ただ”がこんなにも難しいことだったなんて
あの頃の僕には知る由もなかったんだ。
どこにも居ない。
あれから僕はどこにも居ない。
-----------------

「11.10」
なんでもありってどーゆーこと?不思議そうにキミが首をかしげてそういった。太陽がもぐらの穴から顔を出すとかそーゆー感じさ。と言うとキミは聞いたこともないような低い声で早口気味に「チョコレエトみたいに溶けた土は甘そうね」って想像膨らまして美味しそうな夢へダイブした。
仕様がないねぇと円楽師匠を真似てみればアゴを突き出しながら「仕様がないねぇ」と猪木も円楽もねるねるねるねにしてみるそれってまあ新鮮。
夜がお早う御座いますと眠そうな顔してやって来たからボクは夜へ挨拶を済ませてズブズブとその体内へ入り込んでいく。
鳥目だから暗闇でもモノが見えるの!とはしゃぎながら同じように夜へ侵入して宝物でも探すみたいに爪を輝かせながら暗闇を引っ掻く仕草。
なんでもありってキミそのものだと後ろから叫んでみれば「誇れる一つがあるのが望ましい」と言ったキミの口調は滑らかな日本語は冷凍保存されたバターみたいだった。
要らん要らん要らん要らん要らん余分なものはもう要らんキミもボクも本来よりも太ってる余分なもので太ってる。
-----------------

「蛍の樹」

たとえば足りない部分を指摘されたとして
それに気付かされた事はいいとしても
その後どうしたらいいのか分からなければまた悩むだろう。
それの補い方はその手で探していくものだ。

正論を盾にコートを翻すのかい。
考える時間は使い果たしてしまったよ。
無闇に動いた足は行き場を失くして立ち止まってしまった。
その正論は誰かの使い古しで聞き飽きた。
理解できない者に対しての畏怖
その口で自分の言葉を話すのがそんなに怖いのか。
誰かの受け売りでしか語れない浅はかさ。
公式はもう通用しないよ。
---------
近所の病院で一本の木が青く光っていた。
クリスマスが近いからなのか
それとも当日は更にもっと派手な形に飾られるのか
白い息を弾ませながら傍によって眺めてみると
プラネタリウムで星を見ているような懐かしさが溢れた。
くるりを聴きながら帰る。
瞼を閉じるたび青い光が残像として揺れていた。
開けば消えて閉じれば光る。
点滅するその青い光は蛍のように思えた。
---------

「一人で大丈夫だから」
それが強がりだという事を知りながら手を差し伸べられずにいる。
手を貸せば意地になり、尚更独りになろうとする幼さがある事を知っているから。
「つらい時は言ってね」
無力感に打ちのめされながらやっと言えるのはそんな事。
立ち止まると凍えてしまうような空気が足元からこみ上げて全身を覆っていく。
帰ってきたばかりのこの部屋をストーブの熱が包むにはまだ時間がかかる。それまではまだ服を脱がずにソファに腰掛ける。
彼女の「ありがとう」
それは僕への気遣いで社交事例に近いもの。
何も出来ないことを正当化したくない。
「冬は息がしづらくて肺が眠ってしまいそう」
いっその事、君が抱いている虚無感が眠ってくれたらいいのに。
そう思うけど口にはできない。
それが今の彼女の生きる支えになっているから。
ヒドい話だ。皮肉なことだよ。理由探しが生きる希望なんてね。

「レモネードでも作って待っているよ。」
携帯電話を片手に僕はガラス棚からコップを取り出す。
「・・・少し甘めにしておいて。」
僅かに間を置いて彼女はそう言った。

-----------------

「11.23」

樹木の陰に隠れていた太陽からの光が僕の目に刺さって
何も見えないまま下り坂を加速した。
駅のホームではいつもよりまばらな人影。
長いマフラーに煙草が触れないように気を配る。
眉をしかめながら君は僕に「おかしい人」だと笑いかけた。
「おかしいのは今始まったことじゃないよ。」
「そうだね」とまた笑う。
僕は何もかもをきっと君に披露する。
君は客席からそれをどう観る?
途中で席を立つのか
それとも拍手でフィナーレか
色々なことが僕を通り過ぎていった結果、
どんな事でもそんなに大したことじゃなく思えるようになった。
君が背中を見せても僕は見届けるよ。
この季節の空は鮮度が保たれていて台風が過ぎた日みたい。
いつでも手を振ってくれ。
それはバイバイでもハローでも
僕はもう自分を許せるから
だから好きにしてくれていいよ。
何も無い空の下では僕はただ気分がいい。
携帯が震える。
件名は「ハローハロー」
-----------------

「11.28」
君が怯えていたものは視覚的なもの。
焼け跡のように残ってしまう傷が怖くて前を見れずにいた。
誰も彼も目に見える様々なものに固執しすぎて見落としていくものがある。
目にするものは悪く言えば全てがその場しのぎ。刹那的なもの。
慣れれば何も怖くない。
それをちゃんと見ることさえできれば取るに足らないものなんだ。
君の心はとても綺麗。それだけに世界の垢に息が詰まる。
また怖く感じたら言っておいで。
僕が観ている世界をあげるから。
-----------------

「傘は差さないまま 白い吐息 雨の中にて」

濡れたアスファルト。
足音が響かずに地下へ沈み込んでいく。
すぐに耳を地面につければまだ辿れるような気がした。
タン、タン、と地中に響く足音はたくさんあってそれはそれだけ歩いている人がいるからで自分の足音を探してみるけど確信がつかないまま音はやがて消えていく。
またその場で足を踏み鳴らして即座に聞いてみて、これかなと思ってもそれは他者の足音と良く似ている。
区別がつかないまま途切れていく音の残響を呆けた顔で聴いている。

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湿原が広がる桟橋の上。
雨が髪も袖も濡らして、
目の前にある大きな沼に無数の水滴が飛び込んでいく。
左手に持っている傘は差さないまま。
風邪でもひけば生きたいと思えるかもしれないから。
雨の中で手がかりを探している。
生きるために必要なことを。

「彼が見つめるその人は愛を欲しがって応えない男は別の女を夢想しながら彼女を抱いている。」

「激しい雨に打たれるのが好き。だって誰かに叱られているようだから。」

心が思い通りにならない君がそう言ったのは外が急に騒ぎ出したから。
正しさを誰かに諭されても感情を優先してしまう悪い癖。
「そういう生き物なんだよ。あたしは。」
君はいつも誰かに叱られたい。
誰の言い分もきっと届かないと思いつつ自分を更生させてくれるような言葉を望んでいる。
雨音を聞く後ろ姿に影はない。
光を求めて彷徨い歩く君の空にはいつも雨が降っている。

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どんな安いお酒でも酔えればそれでいい。
明日なんかどうだっていいから
今は酔ってただ抱いてほしいだけ。
服は着たままでシャワーも浴びずに
ただ縺れ合っていれば何も考えずに済むから。
その時だけはあたしを必要としてくれるあなたが居るから。
一枚一枚脱がされていく瞬間にどこかで冷めていく自分がいることも知っている。
目の前のあなたが少しでも愛してくれるように
あたしは出来るだけの事をする。
こんな事ばかり上手くなっても仕方ないのに。
酔いが醒めない内にあたしは何度も彼を求める。

-------

いつからだろうこんな関係が続いているのは。
特別な感情なんてないしこの先もきっとないだろう。
抱きながら他の女のことを考えている。
いつだって誰かを抱くときはその女のことばかり考えている。
俺の人格なんてとっくに壊れている。破綻したままどこへ行くんだ。
喘ぎ声が違うから口で蓋をする。そんな声じゃなかったから聞きたくない。
分かってるさ。
こんな体でもなかったこんな髪質でもなかったこんな匂いでもなかった。
飲み干した後に俺を見るその眼、
そんな眼で見ないでくれ。俺にはどうすることもできないから。
終わった後に背中を向けたり眠ったりするのは顔を合わせたくないから。
罪悪感?いや、まともに向き合えば不幸にするだけだから眼をそらす。
それでもその手は求める仕草。
煙草を吸い続ける。手の次は口。
腰掛けている俺に後ろから手を伸ばしていた女は
ベッドから離れて俺の前でひざまづいている。
俺の眼は虚ろにあの女の事を考え始める。

「僕らの街に冬が降る。」

ストーブで暖めた僕の手を
冷え性の君の手が熱を奪っていく。
真面目に手の冷たさを伝えようとしているのか
ただのイタズラ心からなのか
どちらにしたってどうせ僕は笑うんだけどね。

繋いでいられる時間が限りあるものだとしても
どうだっていい。
あした目が覚めたら水の中で
日本が沈んでしまっていたとしても
水中で生きられるように進化してみせるよ。
そして泳いで君を探しに出かけるよ。
くゆりくゆりと体をうねらせて
水中都市をくぐって行くよ。


僕らの街に冬が降り積もって
足元にシンっ。と寒さが敷かれていく夜。
透明度は上昇して
何者でもない
ただの僕らになれるから
今すぐに、深呼吸をしてみてよ。

その日の一番最後に
笑い合えればそれでいい。


僕は今でも
そうやって生きているよ。

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「1.4」
知りたいから臨むんだね。
真正面から真っ直ぐに。
桜が散ったことはそのままを現していた。
綺麗な終わらせ方ばかり模索していた僕達は
互いの顔なんて
きっとまともに見れていなかったでしょう。
飽きてしまったのは君で
ズレた価値観を見せ付けたのは僕の方。
幻想で成り立っていた僕達は
最初から間違っていたんだよ。
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「1.9」
要らない人
二度と会う事がないと
そんな決意の上でのさようならは
遺言として受け止めておくよ


いくら飲んでも酔わなかったのは
きっと雰囲気に呑まれなかったからでしょう
それを僕は嬉しかったんだよ

一緒に居る時は別の場所を眺めたい
無表情で遠くを見ていたい
つまらなそうな顔をしている僕を見ても
悲しむ必要なんてないんだよ
ただ楽に居たいだけだから
本質はひどく穏やかさ

追いやられて溜まっていくのは不燃物
再生する事も分解する事もできない感情は
誰かの手に委ねられるべきなんだ
そんな小さい手で抱え込んでも
行き場所の無い足はその場を周るだけ


自分が嫌いだと君は言う
これからの自分を好きになればいいと僕は言う


可能性は無限大
君の脳が枯れるまで
君の心が朽ちるまで

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「1.11」
咳をした。
それは吐き出したかったから。
要らない全部を
外へ捨ててしまいたかったから。

目に見える幸せは壊れやすい。
大事にし過ぎて壊してしまうのかもしれないし
誰かがある日突然壊してしまうのかもしれない。
安心したいから。確認したいから。
だけどそれは入り口だ。
本質はそこには無いんだよ。
浅瀬に居ないで潜りなよ。
そんな事どうでもいいと言うのなら
なんでそんなに渇いているんだ。
欲に飼われる人。
欲しいなら与えなよ。
ただし押し付けるんじゃなくて。
この世界はあんただけのもんじゃないし
また誰か一人だけの為に存在しているのでもない。
あんただけの世界に誰かを勝手に住まわせないでくれ。


人にも言えないような事で
自分も誰かも誤魔化した。
それで、君はいいの?
間違ってもいいけど
それを自慢げに語るなよ。


咳をする。
閉鎖的になるぐらいなら
そんな心は要らないよ。

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「モノクローム」
冬の晴れた日は
足りていない事を教えてくれる。
失った事ばかり憶えているのは
きっと繰り返さない為なのに
いつからか隙間に
よく知りもしない誰かが忍び込んじゃって
正体不明の誰かに原因不明のまま僕は
試行錯誤を繰り返して頭が縺れる。
それはきっと僕ではない。
僕も正体不明になっている。
そんな気がしてならないんだ。

奇妙な感覚は壊れたあの日から継続されている。
あの頃の僕はとっくに成仏していて
日々少なからず生まれては死んでいるわけだが
上手い事引き継がれている。隔世的ならまだいいのに。
禅問答のように答えはもっとシンプルなもの。
けれど確信がない。確かめる手段は絶たれてしまったのだから
答えは保留のまま自分の内に鍵かけて閉まっておかないといけない。
だから今後似たような事があった時に
僕はまた繰り返してしまうのかもしれない。それが恐い。
回避しても必ず訪れる。逃げたって絶対追いつかれる。
対峙した時に逃げ場が無かった時に
どう足掻けるのか。想像すらできないが
なんとか切り抜けるよ。
こんな寒い日だった。
君を失ったのは。

-----------------

 

まだ遠いままの春景色
パラソルが作る小さな影
街では幸福論者がクダを巻く
鍵がかかったままの
出せない手紙が郵便ポストを通過した


明日の中身はどんな匂い?
詰め込まれている現実は
きっと途方にくれる永遠色
忘れてしまうことは
この先も生きていくから

何よりの証拠だよ


チリンリチリンと
自転車が通り過ぎて
冷たい風が後を追いかけていた
情景描写はまだモノクロのままで
彩が添えられることを今日も夢見ている

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「細い線」

不甲斐ないのは振り子みたいな揺さぶりで
それは世間的に微弱な揺れでも
誰かを催眠にかけることだって出来るぐらい
それぐらいに揺らめいている
陽炎のように綺麗だったらいいのになぁ
蜉蝣のように懸命だったらいいのになぁ

裏切られたとか言っちゃって
勝手に夢見た自分に裏切られただけ
誰も見てないよ
最初っから一人で遊んでいただけ
気にしてないふりして
君はどっかで泣いている

あなたの事は慣れた存在です
暖房いらずの心の在処はあなたが作ってくれたもの
ありがとうの回数だけ
私たちは優しくなれるんです


傷つくのが上手い人間です
信じるも信じないも何も無くなりたい
空っぽになるんじゃなくて
甘やかすことなく受け入れたいわけです

ハロー
ハロー
無機質に退化していく言いたいだけの消えたがり
ごめんなさい

さようなら
つまらない言葉で自分を害した後は陶酔かい


マイナスはただの線
どこまでも伸びていけるただの線
だからネガティブ気質な僕達は
どこまでだって行くだけです
ただただ、それだけです
 
-----------------

「群青」

なんだかもう全部違う気がした。


その日にあった出来事も
今見た事だって
何か一歩離れてて
遠い感覚がどこかにあって。

それは自ら距離を置いてるのか
それとも地震とかで足元の地面に亀裂が入っちゃって
そんな深い程のものではなくて
自然とまたくっ付いていく類の亀裂なんだろうけど。
でも、もしかしたら、
どっちもなのかもね。


ゆるやかに落ちていく。

漂っていたら他の場所へ入ってしまって
二度と戻ってこれなくなりそう。

思慮の森での行方不明者。

カナ染ミが隅々にまで浸透していく。

無力だ。と、抵抗すらしない君が呟く。

幸福剤は禁じられています。
結果、あなたは幸福罪に問われます。

深海や密林では人間はただの動物です。

 

嘘はもういい。
把握なんてしたくない。
結局、心理こそ真理だ。
触れる。神経が。望まれる。欲望を。
満たされているのは
いつだって自分だけ。

 

月灯りでのラストシーン。
下唇が震えている。
動けなくなった心。
聞こえないぐらい小さな声で
そっと挨拶を交わした。
君が初めて笑った日。

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「1.18」
似あわない笑顔ばかり張り付けて
道草の仕方も忘れてしまったんだろ

灰色の空で鳥だけが飛んでいた
点滅している信号が
まばたきみたいに規則的に繰り返していた

いつもみたいに笑う
仕草だけは変わらずにいた
持ち合わせなんて無くたって
深呼吸で繋がれる
狭い庭の中で明け方に遊ぼうよ
たとえ眠れなくなっても

鼓動は高鳴る
聞こえるのはその声だけ

-----------------

「掴もうとする」

銀色に埋もれる靴は冷たさを防げない
シラカバが数本、空へ突き刺さる
伸びていく昼間の影が体を透かしていく


一体幾つ絶望の形を見てきたんだろう
どれもこれも似て異なっていた
だけど、希望によく似ていた
暗がりの中の本質を
掴み取れない人間はただ溺れていくばかり
真っ暗な肺になって息も沈むだけ
飲み込まれ始める気持ちの原因はきっとどっかの誰か
救いは結果
最初からそんな気持ちじゃ空回りして離れるだけだよ

 

「言葉だけでは頼りない
 体だけでは寂しすぎる
 けれどふたつは
 中々、同時に手に入らない。
 要領悪いのよ、私。」


彼女はそう言って薄く笑った

-----------------

「見えるもの」

人と見比べて
喜んだり悲しんだり
忙しくって
ブランコに揺られてるみたい
誰かに引っぱられてるように
急ぎ足で白い雲が流れて行った
幾つも形を変えて北へ向かった
僕らも形は変わっていく
ありのままに足されたり減らされたり

嘘をつくようになったよ
笑いたくもないのに笑ってるよ
余分なものに惑わされて体が重たいよ
傷つくことが増えたよ
そんな中でも聞きたい声は響いてるよ


色褪せていく想い出がある
離れたんじゃなくて放したんだ
誰かの声は邪魔をする
内側から響いてくる声にフタをする
よく考えてみる
まずは疑うよ
刷り込まれる日々はもうお終い
自分との意思の疎通を図る
その時に見えたものが残酷でも
愛せるよ
そんな気がする

 

仕方がないと諦めて
疲れないように切り捨てた
誰かを守れば誰かは敵になる
時間が過ぎたら
悲しみは優しさに変わっていった
映画の始まる前の暗くなる瞬間が好き
単純に君の理想と僕の理想
二人が描いた理想の相性が悪かっただけ
似あわないね
そんな服

-----------------

「1.25」
ひとりでに動くものが増えた。
簡単に運んでくれたり与えてくれたり。
もし気持ちがひとりでに動いてしまっていて
ふと気付けば見知らぬ場所まで進んでしまっていたら
戻ることはできるだろうか。
慌てた駆け足は怪我をする。
必要かい?
僕は、
必要かい?

-----------------

「そうやって」

比例していたのは
いつの日の事
飲み込んだ
吐き出せなかったから
気持ちを飲み込んだ


西の空に想いを乗せていた
浮かんでいる雲に願いを込めていた
月が沈む頃に
あなたの存在に感謝した


儚くても
繰り返す
それは今でも言い切れる
私の意志は
揺らがない

-----------------

「2.1」
煩わしい
大人だからとか
子供だからとか
決め事が煩わしい
何者にもなりたくない
結論は永久に出ない
その時の結果だけが
その場に残っていく
途中のことも
終わってしまった話も
比例するように
吸収を

-----------------


「ユクエ」

君の何もかもから
僕は行方不明になる

ひっそりと蝕まれて
大多数の中に埋もれてしまう
僕は迷子のままだけど
そもそもこの世界が
いつも居た世界だなんて
それこそが
おとぎ話のようだよ

失ったから拾いに出かけるのではなく
真新しい何かで埋めていく
失くしたものは一度離れれば
それはもう別のもの
持っていたなんて過去
証明することもできないのにね

立ち入り禁止の看板を乗り越えて
君の知らない場所で
僕は誰かに変わっていくよ
今もこれからもあの夜だって
君の記憶の中の住人
それが僕の名前
-----------------

「How are you?」
何を言ったって
聞き分けの無い胸の奥が無視をする
冷静に平等になんて
出来るわけ無いんだよ

あの娘はいきなりドアを蹴り破る
寸前まで見守って
その日が来たから蹴り破る
僕はパンをかじって
飲み込めないままテレビを消すよ
遮断された向こうとこっち
目に映っていても気付かないんだ

真っ赤な朝は夕方か?
似ているだけって違いは何だい?
そもそもおたくどちら様?
統一されない僕の中身は
勝手にふらふら遊歩道
あー、一人落っこちた


うずくまれば不思議の国に迷い込む
ラララって歌ってさ苺色の丘でピクニック
君の妄想が世界を塗り替える
美しい病に侵されて幸せそうに笑ってよ


成立するならなんだってくれてやる
いっつもあなたが中心とか面白くないよその話
言葉なんか要らないなんて詭弁だろ
幻想はただの嘘
身も蓋もない言い方からの逃避行
噛めば噛むほどの現実です
退屈にしてるのはあんただよ

-----------------
「2.6」

永遠に瞼の裏側に潜んでしまおうよ。

例えば
前向きに世界を閉じたとして
それがただ唯一の救いだったとしても
君は止めるのかい?

望んだ幸福は無の中にあって
人間を辞めてしまいたいのに
それでも生きろだと?

エゴを着せるなよ。
自分の感情だけでも重ね着しすぎで苦しいんだ。
残される側の事を考えて考えて考えて考えて
ボロボロになりながらでも歩いていけと
それが人間なんだと
君はそれが在るべき姿だと諭すのか。

楽になりたくて
その手段が少しおかしいと言われてるだけ。

生きる事が絶対的に正しいとか
無条件に死が好くないとか
決め付けるなよ。

肯定も否定もしないから
好きなようにするだけさ。
-----------------

「雷鳴」

空から声が聞こえた。
瞬きの後に訪れた叫び声。
雨に溺れた。
咽るほどの湿度の中で
呼吸が溶けていった。


二月の下り坂。
淀んだ感情を引き剥がす。
ビニールの傘越しに見える夜景は
ボヤけていてなんだか酔ってしまう。

足が濡れる。
そこから熱が逃げていく。
逃した体温に色を付けるから
誰か、跡を辿ってきてくれるかい。


冷たさに包ませて
僕は眠らせる。
きっと起こすことはないと思う。
穢れなき純粋な感情。
いつだって僕は
間違っている。

-------------------

「2.12」

バランスを無くしたのは
片側が傾いたから。
飛行船は空の果てを航空中。
上手に舵をとって
進んでいきます。

見下ろした景色が綺麗だと彼女が言う。
見上げた景色は遠すぎて実感が湧かないんだと彼が言う。
気付かないまま
見えないまま
空の青さだけが二人に見える全てです。

鍵はポストに入れておきます。
知っているのはあなただけ。
いつか誰かが手にしても
使い道を知らないのなら意味もなく。
鍵だけでもドアだけでも
意味はないのです。


晴れが降る。
僕は撃たれて
真正面には君の顔。
今が葬られて
鉄壁な悲しさにも穴が開く。
いつも何かが降っている。
穴を通して僕を抜けていく。


芽吹いたら咲かすだけ。
咲かしたら散っていくだけ。
もう終わりだと君が言った。
僕はそれを信じない。


循環していくのは
君も僕も一緒だよ。
-----------------

「ミファソ」

ギシギシと軋み始めた世界は今から間もなくして崩れていくよ
逃げる人しゃがんでしまう人泣き崩れる人叫ぶ人暴れ出す人
狂ったように笑う人もいるね
そして微笑む人もいる
なんだっけ
君の名前が思い出せないよ
なんだっけ
今は散らばっていく残骸が
音階みたいだよ

---------------

「2.26」


欲張って、願い続けた
奇跡は一度だけだと知っていたのに
それでももう一度だけと
あたしは知っていたはずなのに

氷の輪郭みたいに憶えてる
記憶にしがみついている
誰にも当て嵌まらないその声を
探し果てて
あたしはずっと
膝を崩したままでいる


涙が流れて
一つの場所に落ちていった
立ち尽くせた場所にすら帰れない
何も無いことを知った
何も生まれてこないことを知った


間を開けて
ゆっくり話してよ
あたしには聞き取れないから
囁くように
耳に近付いて
-----------------

「春先」

込められている狂気のニュアンス
遠くで笑っているように
酔っている時に端へ吸い寄せられる感じ
春先はそんな風に僕の居心地を悪くする

なびいているベランダに結ばれたビニール紐
坂の上には誰かの残像
逆光で見えない影だけの存在
透ける光がぼんやりさせる
上りきれば、誰も居ないのに

曲がり角に置かれているミラーにて
球体に閉じ込められたのです
これで、しなやかになれる?
染まればあの紐みたいに?

いいえ
割れてしまえばおしまいさ
バラバラにされておしまいさ

いいえ
真逆の世界、
僕は生まれ変われます

誰もいないその世界で何として?
君は君を失って
途方に暮れてさようなら

 

気が付けば家路の途中
見上げれば誰かが飛ばした紙飛行機が
着陸場所も分からずに飛んでいる
声はもう、しなくなっていた

 

すっかり、忘れてみた
感情を逃がす
二度と戻ってこないように首輪を外した
意味を欲しがった寂しがりやの人も
愛情を信じていた人も
みんな、みんな、手離します


騙されるよ
それが嘘だと解っているから

 

ほら、また
春が笑う
孵ったばかりの春が笑う

-----------------

「水辺」

数えられないぐらいに
回路は幾つも繋がれて切り離されて
出来たと思えば次は壊すだけ
変わらないことはなく、それは永遠に続くらしい。
花が咲いて散ってまた咲いていく。
気が付いた。
透き通るには余りにも汚れているという事。
貫けるほど頑なになれないという事。
呼吸から
仕方が解らない。
ここは
違う。
こっちでは
なかったんだ。


-----------------

 

優しい手は囲ってくれる。
僕達は幼く未熟で
訳なんて考えずに
季節を散歩する。

渡る橋の上。
君が笑うのはいつかの事。
癖のある髪の毛を梳かす仕草。
僕は左側に居る。

いつだって愛情は不確かだから
言葉と動作で釘を打つ。
互いの重さとぬくもりで
僕らは僕らを信じれる。

小石が幾つか波紋を広げた。
対岸の森が風に躍る。
跳ねた魚の音。
揺れるスカート。
遠くまで来たことを知る。

-----------------

「重なる」

ぎこちない回転軸の鳴らす音が
僕の心音といい感じで重なった
肥大していく君の不安定さも
君にうまく重なればいいのに

落ちていく
雨粒みたいに落ちていく
弾けて、別れた
横に倒れて動かなくなった
側に居た人達はみんな倒れて動かなくなった
僕は倒れられずに歩道を歩く

暗がりの住人が耳元で囁くから
僕はイメージを膨らませて聞こえないふりをする
暗い囁きと非現実の希望が重なる不思議の国
僕は無視できずに森の向こう側へ走り出す

何をくれる
何をかえす
要らないんだよ
僕はもう要らない
君はその国に住めばいい
君は透明過ぎて窒息した
僕は帰り方を忘れただけ

-----------------

「そのままを」

計算外のことならば
何回だってこれからも出会うだろう
笑えないねって思う時は
どっか他所を見てるから
そんなにあんまり欲しがるな

外に出たって外じゃない
家入ったってただの建物
どこに行っても所在不明
ここから見る外は知り終えた場所
求めてる外は絶望が潰える場所


「思っただけだから」と
柔らかく君は言う
細い指から巻きついた糸が離れるみたいに
煙草の煙は天井へ消えていく
「知らない顔して」と
あまり願う事のない君が言う


決して誤らない空の下で
見たり聞いたりした幾つかのそのままを
ただ受け入れられるように
僕は準備を始めてる
-----------------

「3.9」
そんなに簡単には行かないんだ
前がどっちなのかが分からない
指し示したって動けない
朝だって夜だって
状態を保つことができずに変化する
在り続けることの難しさも知らないで
安い希望を見せつけないでくれ
どうにもならずに僕達は消えていった
どうにもならずに見た方向に
君が望んでいたものは見えたのか?
僕は知る術もなく夜が来るのを待っている
隠してくれる夜を君が嫌うなら
僕達はこれからも優しくなんてなれないよ

そんなに簡単に絶望しないでくれ
中心に立ち続ける僕には居場所が無い
棘の壁
寄りかかることすら許されない
とっとと潰してくれたらいいのに
イタズラに優しくされれば今以上に沈むだけ
誰も信じられないまま
何処へ向かえと言うんだろう
裏切られるのにはうんざりだ
何も生み出せない
何も掴めない
何も感じれない
何も無い
何もかも破綻していく
壊れる
信じているものが壊れていく

-----------------

「無題」


僕がもうあんな場所に立っていないように
君ももうそこには居ない
今は針程にしか見えない僕達が選んだ答えが
正しかったとして
それを僕と君が証明していくしかないのなら
その正しさの意味を失くしてしまいそう
結果じゃなくて
結論を見たいだけ
僕達は
始まってはいけなかったんだ
-----------------

「場所」

新宿で捨てた切り貼りだらけの胸の内
比べて軽傷で済んだのが奇跡的
言葉の渦に飲み込まれたのに
裂かれることもなく揚げられたんだから

その口から聞こえるのはカタカナの礫
ここ最近流行っているのは目隠し鬼で
皆が皆笑いながら手の鳴る方へ
土足ならお断り
素足なら許される
その足は戸惑いながら何処へ行く

名前を付けてほしい
呼ばれることなく消えていくなら
せめて好きな名前で呼んでほしい
ここは真空
接触なんか絵空事
あれは虚栄
顔を無くした人の街


天井に映し出されたいつかのフィルム
透けた血管の細い腕
縦に揺れていた
「明日が見たい」って
その後に「嘘だよ」と付け加えて
海月みたいに下から上へ泳いでいたんだ

満ちたのだから
退くだけさ
足元は貝殻が敷き詰められているみたい
裸足で歩くのは
ここでは無い

------------

「手首から」


気兼ねしないから
ビクつかなくてもいいよ
人は怖いけど知っているし見えるから
大丈夫って言えるはず

「勿体無い」って手の平広げて
雨水を溜めていた
小さな湖
彼女の岸辺

晴れ時々、花びら
相談相手も恋人も
重いからって逃げられて
そしたら軽い頭になればいい?
それでも嫌われるのを知っている
ひらひらって
印象残して落ちていくのは
誰かさんみたいだね

先生
先生の言う病が本当だったとしても
自分には信じられません
そんな漢字だらけの病名なんて
聞いてるだけで憂鬱です
先生なんでもいいから
明日に響かないのを処方して

どこにだって行けるんだ
記憶無くても笑えるぜ
満ち足りてるけど干ばつしてるよ
やるせなくって
似合わないよって
ちっぽけな君を
どうでもいい俺が
拾い上げたかったそれだけの話です

閉じられた手の平から
手首を伝って肘から地面へ
足元の花びらに
彼女からの雨が降る
-----------------

僕らはどこまでいっても平行線上に居るんだろ。
いつだって近付けば消える陽炎みたいで
そんなもの無いんだよって言われてる気分だよ。
微妙なバランスで成り立つ関係なんて崩れてしまえよ。
僕はもう壊すことしか考えていないよ。

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十字路が並んでいる静かな夜明け前の住宅街は
出口のない迷路みたいな構造で真っ直ぐに入り組んでいる。
過ぎても過ぎても行き場の無い僕は同じ場所をぐるぐる回っているみたい。
こんな手では届かない。
嬉しいならもっと言葉をくれないか。
僕の鼓膜は塞ぎがちで蜘蛛の巣だらけだから
その声で突き破ってほしいんだ。
合わせるよ。離れてしまう気がするから。
こんな僕にも君は笑いかけてくれるのに
その優しさが怖いんだよ。
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あなたを見捨てたのは
あなたが見捨てようとしているのが分かってしまったから。
自分から切り離さなければこの先もきっと捉われてしまうから。
それでも一人前に痛む左側。
どちらにしたって涙が出る。
悲しみじゃない虚しさが頬を伝っていく。
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あなたと上手に喋れるように深呼吸をしています。
あなたに綺麗な声で話せるように喉の調子を整えます。
緊張した震える声を隠し切れたら
あなたの眼を真っ直ぐ見てみようと思います。
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カーテンの裏側で膨らみながら移動する僕の夜はもう終わりを告げようとしている。すぐに次の夜が用意されているから安心して眠りなさいと君は笑いかける。
僕はカーテンから抜け出して君が待つベッドへ移動する。
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朝がやってくることを実感できない。
今でもずっと夜が延長していて自分の姿も影も見失った。
心は時に邪魔。
こんな気持ちは要らないのに。
泣けたら楽なのかも。
そんなことも今ではもう出来ない。
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一人、瞼から雨を降らせる君に対して
せいぜい受け皿を作ってみせることぐらいしかできません。
何をそんなに悲しむの。
傘も差せずに僕の両手から溢れたそれが零れていきます。
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その匂いがいつまでも残っていることを眠る前に知った。
思わせぶりな台詞は誰に対してもなの?
近づいたかと思えば君は違う場所を見ていて、ほらこんなに遠い。
こんな気持ちなんて要らないのに、気付けば傍にいる。
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踏み台にして行くつもりなら
そのまま埋めてくれ。
不様な姿を白日に晒したくないのさ。
君の言葉は凶器。
勘違いに長けているこの頭は
いつでも狂喜。
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あれもこれも台無しにしてしまうその感性に毒されたなんて被害者意識で浪々と街を彷徨い歩く姿はさぞ滑稽だろう?つまみ上げて廃棄物にポイ捨てしても戻ってくる感情は昔聞いた日本人形にまつわる怪談話のようだ。捨てる手と拾う心。捨てるのは僕自身の心か。愛することは憎むことだとうわ言のように繰り返すが本当は引っくり返されたい覆されたい。論破なんて容易くされるだろう。ただ読破するには時間が足りないだろう。魂が分裂し増殖していき自我が幾つも幾つも目を覚ます。今ではきっと僕が君を侵して行くだろう。二杯だけコーヒーを口にした。朝も夜も等価値だ。
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頭一つ分抜け出たキミの異常性は狂気過ぎていてむしろ平穏です。逆転したいボクはいつまで平穏無事でいられればいいのでしょう。ここは寒いね。もうやめよう。たとえ偉人が言った言葉でも気に入らなければ戯言だ。
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壊れるときは派手にね。
静かに溶けていくなんて
現実では余韻が残って
痛みに変わるだけ。
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だらしない姿でも惹きつけて止まない。
上になるのが好きだと言って身体を揺らす。
背中に浮く骨。
こんな形でしか愛せないと、
逃げ続けながら二人は汚れる。
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あなたが首すじを越えてきて息が弾んで身体は意思と反して自由に空間を泳ぎ回る。今この心臓はその手の内に。
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何も持たない君がすがりつくのは断片的な愛情。永遠は信じてないからその場だけの愛でやり過ごす。僕は分かった顔して君に合わせて、それでも左胸が痛んで、落ちることしか能がないと下らなく自分を否定する。
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漂いながら生きている。分からずやの頭を嘆いてばかり。雨が降ればいい。着替えも持たずに立ち尽くしたいから。痛みが鼓動を強く感じさせることを真正面から受け止めることができなければ朽ちるだけ。あと僅か、それだけでいいから時間を下さい。生きた証しを残したい。
某所で吐き出したことの転載です。

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なんとなく君が来ないことは分かっているんだけど
それでももしかしたら
なんて。
それが今も僕がここに居る理由。
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今日、私が死んでしまっても
あなたは動じることなく生きていくのでしょう。
今日、あなたが死んでしまっても
私は気づくことなく生きていくのでしょう。
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君が僕を消していく。
それは嬉しいようで哀しくもあり
苦悩し葛藤する僕を見て
君もやはり同じく悩むのだろうか。
だとしたら
僕は笑っていなければいけないと思ったんだ。
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型なんてどうだってよかった。
人に何を言われても、自分だけが真実だった。
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悟ったような面して生きているけど、
寂しい気持ちを見て見ぬふりしてるだけだろ。
たかが知れてるよ。
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「何が怖いの?」と君が言った。
その時は何も怖くないなんて強がったけれど

僕は僕が怖い。
君への気持ちも見失いそうになる僕が怖いんだ。
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君にとって僕はただの暇つぶし。
その場を凌げればそれでいい。
前向きに考えれば考えるだけ虚しさが募る。
こんな存在でしか居られないのなら
君の前から消えたくなるよ。
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何もかも波が連れ去ってしまう。
残り香も
はしゃいだ声も
滲み込んだ体温も。
----
あざとい僕達はただ笑う。
他に手段がないから
空っぽになるまで笑うしかないんだ。
ほら君も笑えよ。
見上げる景色はいつも綺麗すぎるんだ。
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秋雨のように静かにあなたが呟く言葉
私は一つ一つ胸に仕舞い続けている。
----

過去を終わらせてくれたのはあなたでした。

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君が望む人間になれたとして
ただ君が喜ぶだけ。
それでは満足できない。
僕は君に向いてない。
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何も失くさないように必死で取り繕う自分の滑稽な様。
君が陰で笑おうと僕はそうするしか術を知らないのだから仕方がないのだろう。
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呼吸するだけの生き物なら自分でいる必要はない。
この世で少なくとも一度は生まれ変わりたい。
でなければ僕には意味が無い。
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誤魔化しながら暮らしているが引き際だと感じている。
なんの生産性もないのだからもう意味が無い。
後のことなどどうでもいい。
結局最後は誰かの世話になるのだから。
返せるものもないのにそれでも何故ここにいるのか理由として思ったことは、するなら自分でしろと。そう言われているように思える。
分かったよ。確実な方法を今探しているから待ちなよ。
その為に生きているという矛盾。
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時間はとっくに朝を迎えてもいいはずなのに
外は確かに明るく花も空も確認できるのに
夜が背後にぴったりと寄り添ってくる影響で視界はまだ暗い。
誰か、声を聞かせてくれよ。
ここがどこなのか、もう分からないんだ。
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そっと緩やかに沈み込んでいく。
きっと底なんてないのだろう。
このまま落ちていくだけ。ただそれだけ。
結果だけを求めるより過程を楽しみたい。
あんまり期待なんてしないでよ。
そんな人間じゃないよ。
「10.16」
意味を無くした。
意味なんか要らないんだよ。と君は言う。
最初からそんな感じだった。
何を信じていたんだろう。
勝手に考えてしまう悪い癖。
錯覚だ。

錯覚から始まる事を知っているのに
錯覚だと気づいた時にどうしようもなくなるんだ。


今でも知らないままだったら
幸せだったのに。

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「君が笑ったこと」

離れない空の色。

足の裏に感じる砂利の硬さと冷たさ。

電線の上の鳴かないカラス。

マイナスとマイナスだった僕ら。

返せなかった物、返したかった事。

教会を通り過ぎた時の靴の音。

手すりを指でなぞる癖。

肩に蝶が止まった事。

「いつか花だって枯れてしまう」と隣で君が言っていた。

失くした物は取り戻せない。

全部分かっていたけれど
それでも諦めることが出来なかった。

変えられる気がしていた。
夕暮れの帰り道
二人の影みたいに
静かに寄り添っていたかったんだよ。



10月。

昼と夜の温度差。


短い間の中で
僕らは落としたものにも気づかずに
ただ笑顔で話せることを
幸せだと思っていた。

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「高い空の下」


大きくため息をつくのが癖な彼女は
「冬がずっと続いている」と口にする。
「見えるもの全部に味がしない」と
そう言って空を見上げている。

かける言葉も見つからずに
僕も黙って空を見る。
立ち尽くす僕らは
時間の意味を忘れていく。



「・・・帰ろうか。」



「・・・そうだね。帰ろう。」



居場所も見つからないまま
僕らはその場を後にした。

澄んだ空気は時折痛みを伴って
胸に記憶を残していく。


歩くと時間のかかる道を
できるだけゆっくり歩いた。
何も話さないまま
ゆっくりと歩いた。

高い空が見下ろしていた。

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「ふたり言」

蝙蝠の飛んでいる姿は
枯れ葉が舞っているみたい。


浄水路に立ち止まった君の背中
片方の手でワンピースの裾を膝上まで捲し上げて
凛とした空へ透かした白い手に
太陽を掴み取ろうとする動作
すぐに離した。
熱かったのか
それとも上空の誰かに麻酔を打たれたのか
腕は落ちてそれでも君は
しばらく、それを眺めていたけれど。

裾は静かに波紋を拡げていた。


ユビキリをした
正確には、
指離し。
ユビキリの最後が冷たすぎるから
僕はそっと指を離す。
それぞれの指先は名残惜しいように
互いの方を向いていた。


変化しようとするくぐもった季節の音がやたら入ってくる。
様子を窺いながら耳の中に入り込んでくるんだ。
僕はそれを払いのけようとしない
そんな時に僕は君の声を聞きたくなるから。
季節を感じた時に僕の耳は君の声を求めるんだ。


時計台で二人が見下ろした風景
果ての果ての続きを二人は見ようとしていた。
どこかで聞いたそこにあるように感じる何かを
何もない日常から見出そうとしていた。
結局は無いことが
必要なことなんだと分かったのだけど。

ずいぶんと遠回りをした
朽ちたモノクロームの印象ばかりが肌に残っている
波が今まで見たものを洗い流してくれるみたい。


あした
声がしない公園で
君が見た夢の
その後の話を二人で話そう。
ひとり言がこだまする長い夜を
ふたり言で埋め尽くしてしまおうよ。


反射する瞳を持つ。
僅かな、わずらい。
つたない人。

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「無題の夜」

信じている。

事実、裏切られていても
信じている。

信じることは楽だから。
傷つかないで済むから。
弱いから信じているんだよ。

ちっぽけな自分を守るために。


周りの何もかもを遮断して君は言う。


「これ以上はもう要らないの。
 どうしたらいいか分からないの。
 楽になんてなれない。
 それぐらいは許してよ。
 本当は、分かっている私を
 どうか見逃して。」


そのまま夜が通過していく。
口からは乾いた息が洩れていくだけ。
次の言葉は見つからないまま
奥深い夜が廻っていく。

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「10.29」
不器用に折り畳んだ今日を彼女は苦しみながら飲み込む。
彼は彼女の背中に手を伸ばそうとするが躊躇う。
彼女は背を向けたまま一度も振り返らずに部屋を出る。
彼は疑うこともなくそのまま部屋に残る。

日々は突然止まってしまう事を忘れて
彼は眠りに入ろうとする。

彼女はもう居ない。
気づいた彼は自分を見失う。
そうやって皆、行方不明になる。

知っている。
雨も夜もただ自分の頭上に無いだけなのを。
いずれまた、訪れる。
潰えて欲しい。今すぐに。



彼女にただ、
会いたかったんだ。

------------------

「伝える」

「何も持っていない」と言うけれど
それは気づいていないだけで
僕にははっきりと見えている。
だけど君は認めない。
誰かが口にする君自身の良さを
心のどこかで「そんな事はない」「お世辞ばかり」って。
人が本音で喋っていても見分けられる自信がない為に
適当に愛想を浮かべてそのままやり過ごす。

臆病に君は君の良さを認めようとしない。
悪い部分にばかり自信がある。

自分を知る事は必要な事。
マイナスを知るのはむしろいい事です。
だけどそれなら同じように良さも受け入れてやってよ。
仲間外れは寂しいよ。

僕は眺めている。
何も口には出さない。
でも聞かれれば答えるよ。

まだ動かせずに沈黙したままのその足が
いつか呼吸をしてくれることを望んでいる。
君が歩くんだ。
綿毛みたいな体重でもしっかりと地面に足跡を残せるはずだよ。
でもゆっくりでいい。
きっと君は、ゆっくりがいい。

楽しみにしている。
そんな君を見れることを。


------------------

「柔らかい姿勢」

霞んじまったのだから
つまんない言い訳作って怯えなくてもいいよ
なんてことのないよくある日常
その中で選別に掛ける時間が増えてっても
辺りを見回す必要はなくて
焦らずに
自分時間で
丁寧に確かめてあげてほしい

掃いて他所へ追いやってくれる誰かの手を嫌わないでくれ
特別な存在とか必要な人で在りたいとか
とても刹那的なものへの憧れで毎日を泳いでくのも悪くないよね
優しくありたいと願う
それは優しさから生まれた願い
そういうのちゃんと見てるし知ってるよ


遠い
遠い人
冷たさのある夜はその手で撫でられているみたい
理性も時には捨てちゃって
明け方付近のベッドの中で丸くなって静かに話そうか
遠い人
擦れた声でひっそりと笑う人

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「11.05」
コトン。と触れる音。
カタッ。と離れる音。
どちらも小さく
適度な硬さで
ひとり言のように鳴っていた。

コップからゆらゆらと
白く揺れる水蒸気だけを吸い込んだ。
味も匂いもないけど
肺や気持ちがなんとなく満たされる。


誰かが捨てた壊れた黒いバケツ。
行き交う車のライトが作る陰影が右から左へ滑っていって
何かの生き物のように見えた。一瞬のこと。

白い地上。
今夜は月が綺麗で見惚れた。


「雪が降った夜みたいね」と言った。

「明るい夜だね」と答えた。

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「タイトルは無い」

平らな形で床に寝転んだのは
高い目線が嫌だったから。
大人になるに連れて
空へ近付くことも出来るようになった。
伸ばした手は急速に跳ね上がった速度に乗れなくて
欲しかったものを掴み損ねてしまった。
知らない場所へ運ばれていく。
遠ざかる事を目で実感していく。
ずっと見ていた。小さくなり周りに景色が増えても
それだけを見続けていたんだ。


皮膚が粒子状になっていきそうな夜。
巻かれていた赤い糸は解けて消えていた。
指に冷たさが伝わって
それから今日の事をはじめから思い浮かべて
きっと、すこし泣いた。
憶える余裕なんてなかったんだ。


眠る前に映る古い、
目の奥のフィルムが流れ続けて
それは日に日に色を失っていく。
思い出せない。
睡眠が増える。
首から上が沈殿していく。
いつも流れている同じ音楽。
「ごめんね」と小さく唇が動いて
目覚めた後に同じように呟いて
それから
それから

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「11.10」

「地に足が着かないの。」
彼女が言った。

いつもどこか遠くを見ていて
彼女に会える日は必ず雲が無かった。

「私にとってここは水中なのよ。
 だから呼吸もできない。
 肺に蓄えてある酸素は確実に減っていってるわ。
 空気中に泡になって上がっていくのが私には見えるのよ。」

「それなら、その度に体は沈むからその内足も着くよ。」

「・・・そうね。でもきっと足が着くときは
 他の部分、肘も背中も頭だって地に着いてると思う。
 着いた時、埃が舞い上がるのは避けたいけどね。」

そして彼女はカップを置いて外を眺めた。
どこでもない場所を見つめていた。
何度も目にした横顔だった。



雨が降らなければいいと思う。
晴れていればまた会える気がするから。
僕も雲の流れを窓から眺めた。
よく晴れた日のこと。


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「フユカゼ」

違いを見出して満足できたのはいつの日のこと?
与えてくれるものだけを望んで君は何を与えたの?
頑丈な保護膜で自分を守りながらも手は伸ばす。
欲しいなら何かを犠牲にしなくてはならないんだ。
甘さは舌でしか感じることはできないよ。

嫌だ
嫌だと
咽び泣くその姿を
どっかにたくさん残すから
思い残すことなく好きにしてくれよ。
腫れた瞼を笑い飛ばしてあげるから。


憶えている笑顔を呼び起こす僕の日常。
浅い眠りの中で幸せな幻想を追いかける君の日常。
魔法が使えたらなぁと呟く二人の日常。

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「夜は冷えるね」

東の空に浮かぶ月は
丸まって眠る君の寝姿に似ていたから
すこし電話をかけてみれば
「月?・・・ポテチに見える。お腹空いてきた。」等と返すのだよ君は。


けれど
夢に沈みかける僕を掬うのはいつだって君の手だ。
君の手の冷たさは僕を戻してくれる。
背中に理不尽に潜り込んでくるイタズラ好きな手。
夢見がちな僕はそんな事でなんとか起きる事を忘れないでいられるよ。


予定を立てよう。
彼女の空いたお腹を
僕の幸せを
膨らますための予定を
今からすぐに。

------------------

「引き摺る鎖」

あれからの事を考えて
彼は自分の想いの深さを反芻する。
何が楽しいわけでもなく
飲み込んではまた戻して
そしてまた飲み込んで。

「彼女に憑かれているんだよ」と彼は言う。
「彼女にお前が憑いてるんだよ」と僕は言う。

薄い紙の鎖を嬉しそうに引き摺る。
かさぶたになれば、すぐに引き剥がす。
僕は鋏を用意する。
紙の鎖を断ち切る鋏を
彼の手に持たせるために。


彼女が口にする。
「あなたも憑いてるわ。彼に。」


彼女の手元には鋏が握られていて
僕の足元には紙の鎖が続いてる。

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「11.19」

わからない事だらけ
わかりたくない事はそれ以上で
曖昧にしてなんとか生き延びてるみたい

求めないよ
与えられないから

いくら傷ついたって慣れやしない
諦めるのは簡単だ
諦めが肝心だ
いつだって
戦地メンタルで
爆撃の雨の中で立ち尽くしているんだよ

願った
届いた
持続できるスタミナ残ってる?
叶えることに全力でそれから先は堕落するばかり

漂いながらやってくる青白い気配は
胸を空にする
希望は好きだ
理由は
儚いから

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「東の方角へ」


落ち葉を足で集めて
両手で抱えて空に放った。
パラパラって音がして
枯葉の絨毯はずっと敷かれていて
僕らは笑いながら
わざと音を立ててその上を歩いた。

太陽はまだ沈む気配なんて見せてないのに
冬に染まっていくに連れて
景色の色は薄くなっていくように思える。
空の色は水色。
吐く息は白くって
くるぶしまでの靴下じゃ寒くって
手袋も用意しなくっちゃとか考えた。

遠くで叫び声が聞こえた。
高くって子供が叫んでるみたいで
「迷宮入り殺人事件の始まりですよ」なんて言って。
きっと何かの動物の鳴き声なんだろうけど
姿が見えないぐらい遠い場所からなのに
周りの山々がそれを反響して届けてくれる。
大きな、大きな、
自分でも聞いた事ないぐらいの大きな声で叫べば
届くかもしれないね。
ちょっと思ったよ。そんな事。


彼女が止めたかったのは
誰からの声でもなく内側から聞こえる自らの声。
その為になら
僕はなんだってするよ。
傷つくのも恐くなかった。
本気でそんな風に思っていたし
信じていたんだよ。


今は雨。
模様変えの為の長い雨。
僕は背中越しに
雨の音を聞いている。

------------------

「視点」

抜け殻の言葉ばかり並べて
全部カタカナに見えたから
彼女はそれが気持ち悪くって
口も指先も動かしたくなかったんだろう

なんとなく
そうなんじゃないかな って
嬉しくない予感を当てる事が得意
その日も彼は寝転んで天井の先を眺めていた
出なかったのはそんな予感がして
ザワザワって胸の森が動くから
響いている携帯の音を無視して
止めた視線の続きから、また先を眺め始めて
この先の事もちょっと視野に入れ始めたんだ

ただ、すこし、
ズレてしまった
それだけの事なんだけど
それはいつでも致命的で

理解は要らないから
許容してください って
下手に甘えてみても
幼い二人にはシコリになるだけで


傷跡は見る度に深く傷を残していくから
絆創膏で隠さないとね
包帯は大袈裟すぎて
可愛くないから嫌いだよ


彼も
彼女も
不器用だから補う事に失敗しただけ
成す術がなかったのだから
あれはあれで間違ってはいなかったんだ



また冬が来るよ
今年は暖冬とか
けれど彼女の指はきっと冷たいままで
彼はその赤くなった細い指先を
瞼の裏に霞ませて

------------------

「11.29」

考えられるだけ考えて
考えられなくなっても考えて
悩み癖は
治りそうにない。

君は汚い自分自身を誤魔化すために
綺麗で繊細なものばかり欲しいと言う。
君はすぐに手を振り解く。
老いた手の皺じゃないと私は隠れられないから。と
君は少し笑った。
視線はすぐに
僕から眩しいネオンへ向けられてしまったけど。


夜の改札の音
タイルとタイルの間の細い十字路
隣で「綺麗にね。」と声が聞こえる。
どこでも誰にでも患ってみせる。
細い声、千切れる声、一度浄化された声



「どんなに好きな事だって
 ある日なんの前触れもなく反転してしまうみたい。
 私は私の五感を信用していないのよ。
 だから誰かの身体を通じて世界を見ているの。
 そうでしか、もう見えないし聞こえないのよ。」


君が不器用に笑うから
僕はお手本になるように上手な笑顔を。

・・・お互いに「気持ち悪いな」と言い合って別れた。


特技は
どこに居ても一目で分かる事。
人間ばかりの雑踏の中でだって
君の周りは
何かが欠落しているから。

------------------


「もうすぐ月が剥がれるよ」



「こんな夜だから。」


いつかの理由。


綺麗なモノには悲しみが息を潜めている。
在り続けることは
なんだって難しいことさ。


胸に隠そうとした想いは
あの夜に見たバクに食べられてしまったんだよ。
仕舞う瞬間にね。
その涙も
舌で掬ってくれてたんだよ。

モヤが覆う世界。
それはね
誰かが冬を知らせに来たんだよ。
この世界に「ハァ~」って
吐息をかけたんだ。

すぐに見渡せるようになる。
どこまでも続く景色を
君は嬉しく思えるようになる。
見えるんだ。
そんな君の姿を。
描けるぐらいだよ。

ねぇ
縮こまって
すごくコンパクトになっちゃおうか。
そんなに長くは続かないかもね。
耐えられずに笑ってしまうだろうから。
そんな風にしてあったかくなろうよ。

月が線を引いてくれている。
僕らは導かれるようにその線の上を歩いている。
行けるとこまで
行けるとこまで
お腹が空いたらパンを食べよう。
ミルクティーも忘れずに。
いつもより存在感のある空気が
残り僅かな部分を満たしてくれる。


芯が洗練されいくこの感覚。


月が剥がされるその前に
僕らは額を合わせて
眠りにつく準備をしている。

------------------


「暮れる朝」


今晩は
悲しく笑う生き物達
遮られた事実に途方に暮れて
夜の沼に沈んで沈んで

甘ったるい紫煙が好きだと言って
そのままそれを最後に姿を消してった
背中が揺れていた
細い足首に新しい傷跡を見た

水曜日に捨てた燃やせるゴミは
雨に打たれて錆が浮かんで
電柱の下の水たまり
覗き込んだ顔は誰のものだか分からない


知っていく事が幸せだと言っていた君は
今ではもう知らない方が幸せだからと行方を見失う


今晩は
いつからか夜に馴染んでしまった生き物達
暗がりに慣れてしまったのが過ちの始まり
もう寝る時間だよ


くだらない事だけで息をしていたい
疑問だけが増えていく
四月を浮かべる
電車の明りが過ぎていく
手に傘を持った人が立ち尽くしている
空が割れ始める
今日も生きている

------------------

「12.17」

人間だなんて、そんな実感なくってね
ただ純粋に
考えないように
何も考えないで済むように
ひたすらその場で駆け足してるみたいだ
泥の撥ね具合を楽しんでいる子供のようだ
幸福なんて存在しない
絶望なんて目眩ましだ
もう地上に人間は2割ぐらい
後はただのコピー
コピーを元にコピーされているから気味が悪い
存在しうる何もかもは誰かの作品だから
ただそれと如何に調和できるか、ただそれだけさ

気づいていた
何をしたって誰かになってしまう事
その手に持ってる定規は自分用
誰かを測るには尺が足りないよ

そうだよ

君だって
僕だって
ただの誰かで
どこまで行っても弱っちい生き物
驕るなよ認めろよ
勝ちは要らないから価値を見てみたい

------------------

「底の方」

醜いことが真実だとか
居場所が何処にもないと嘆いてる
俯いて泣いているけど
そんな姿でも世界に手を振って
バイバイしてるのはどうしてなんだろう

望むなら責任を
なんでもいいとか
どうでもいいとか
適当で気だるい感じへの憧れは表面上だけで留まって

あの子は病んでいるからと笑う
思考の末に止まったあの子を何も考えずに笑える彼女
そんな風に笑う彼女も誰かに見られてる
矢印に元は無く
誰もが皆、観察されている
眼球が、行き来する

sister
教えてよ
昨日に消えた彼のその理由を
いつからだったか
現実でもフィクションでも
人が死にすぎる
sister
目と耳を片側だけ残したのは
忘れない為にだろ

本質は奥の方
底には見たことないようなものも潜んでる
深海と一緒だよ
だって君も僕も
海から上がってきたんだから
潜ろうよ
ずっと下の暗いところまで
全部潰れたって知らん顔して
潜ろうよ

“知りたくもない”

錯覚に躍らされて夜景に沈み込んだ
整理は困難だ
柔軟な発想は多彩な角度から
克服が目標だ
君の言葉はいちいち胸に突き刺さる

過去の中の鳥
飼い慣らす事も手離す事もできないままで
君はそのままを残そうとしている
もう鳴く事だって出来やしないのに

意味が分からないのが望ましい
完成されてしまったら、後は悲しみが続くのみ
知っていけば理想なんかは崩れていくよ
未完成で発展途上で
好奇心だけが繋ぎとめられる唯一の手段



「こんな気持ちなんだ」とある時見せた。
「違うけどあたしと似てる」と彼女は言って。

------------------

「あの森へ」


頭上で引っ切り無しに思える願望達が飛んでいく
次から次へと群れを成して。

トンネルの中で反響している高い声は
よく聞き覚えるのある声だった。
懐かしい声。
教会に灯りがともったらそれは合図で
僕達は石畳の下り坂を慎重に駆けていった。
夕暮れ時はいつだって柔らかい食卓の匂いに包まれていて
僕達は「また明日ね」と言って別れていた。

水面に反射する月みたいに満ちていて
震えない冷たさがあって
何かを隠しながら僕達は大人へ変化した。
裏道を探すのが得意だったことも
身振り手振りで表現できたおとぎの国のお話だって
醜悪なものに汚されてしまったよね。
泣くことも、今ではもう少ないよ。


もう一度
草木に囲まれて夕暮れまでの間
ただ、動いてみたい。息をしたい。
細い棒切れだけ持ってね。
動物の声も枯れ葉を踏む音も
遠い過去にするべきではないんだ。


まだ
そんな事を言っているのとあざ嗤う
手足を使って世界を視る事だって忘れてしまう
首から上だけで呼吸するなよ、人間。
「いつか、誰かが、その声で」


「欲しかったの?手に入れられないと分かっていたから」

「あなたの為って口にはしなくても聞こえてたよ
 それが五月蝿かったんだ」

「世の中は世の中はって言うけれど、君、世の外に居る人じゃない?」

「ただ優しくされたかっただけなの」

「お前が死んだら遺骨をお守りにするよ」

「ヘッドフォンで聴く理由はその聴いている姿が可愛いと思うから」

「虹が見えたら電話するよ」

「私の鼓動を止めるのも速めるのも全てあなた次第です」

「あの娘が俺にそう言ってたから、あぁでこうで、、
 んー誰か!電卓取って!!!」

「重い煙草を吸うのは吐いた煙で君の顔が一瞬でも隠れるから
 だって、直視できねぇんだもん」

「ねぇ嫌いになったとか言うんなら好きになんてならないでよ」

「砂の上を裸足で歩くのが好きなの。感触と跡を見るのが好きなのよ。」

「明日とか明後日とか知らないよ今この瞬間だけで生きていけるよ」

「世界は
 いつも突然
 壊れていくのよ。
 あっけなく積み木が崩れるようにね。」

「ちっ。うろこ雲だよ。明日は雨か。
 じゃあ今から君に会いに行こう。それがいい。」

------------------

「夜雨」

雨が弾丸のように身体を撃って
嫌でもうな垂れて耳鳴りで満ちていくみたい。

天気雨の中で見た母と子の姿はなんて綺麗だったんだろう。
曇り空の最中降る雨が一番厄介。
灰色の中途半端さ加減と言ったらまるで自分みたいで。

夜の雨は好き。
自動車も走っていない時間
雨の音だけが響くのが好き。
静かな時間。
地上に居る事を忘れさせてくれるみたいで。

長靴でも履いて誰かと散歩したくなる。

誰かが動き出すその前までの僅かな時間
その時間だけは僕らだけのもの。

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「六月が止むのを待っている。」

容易く踏みにじられていくように
皆ただ通り過ぎていく人々。
僕は一歩引いてどこからか眺めている。
ある時はすぐ傍で
またある時は屋上の時間制限のある双眼鏡を使って。
長い雨の中で酸素の取り込み方を探す。
当然のことを意識しなくては出来なくなる。
時折、僕は僕を見失う。

無意識に思い出すのは
きっと思い出したいから。
忘れてしまいたい過去なんて何もない。
今までの事で積まれて出来ている僕は
崩れるときは恐らく、小指を折り曲げるまでには。

誰かが誰かを愛すること。
シンプルな事でとても難しいこと。
誰かを強く想いたいと思うけどなかなか難しい。
そもそも人を好きになることが難しくなってきている。
それはどこかで
何も信じれなくなってきているからかもしれない。

対等でいたい。
上とか下とか
人と人との繋がりにおいてそんなもの無いだろ。



嘘つきだと君は思うかもしれないけれど
そんな風に思っている僕もいるんだよ。
君の知っている僕は誰だろう。
僕は今、以前の自分かそれとも次の自分なのか
もうよく分からないよ。

誰だ俺は。

------------------

「きみの喋り方」


「これは我侭?」
正直、自分でもよく分からなくて
咄嗟に「我侭だよ、それは」と言っただけだった。
だから聞き返されたら当然、言葉に詰まった。
君がそう思わないんなら
それは我侭の内には入らないんだろう。


「一日の中で何回お互いの顔が浮かぶ?」
「・・・その日によるよ。」
「そんなんじゃなくて。」
「ん、、3回。」
「少ない。」
「じゃあ8回。」
「末広がりだ?いい感じだけどそれはウソだから嫌。」
「正直、浮かんで1回。」
「・・・」
「・・・(やばいのか?やばいんじゃないのか?)」
「・・・ ・・・ 残念。わたしあまり思い出さない。」
「・・・」
「あなたは私を思いだした時に何かしら必ず連絡くれるでしょ?
 その時にあなたの事を思い出すのよ。そんな感じ。」
「今言った最後の、”そんな感じ”が ”そんな程度”じゃなくて救われた。」
「ネガティブで世界を救いなよ。」
「ポジティブなんて、ファッキンだぜっ!」
「だぜっ。」



どこが好きだろうと考えたら
彼女の喋り方が一番好きだ。
喋りすぎずに一言一言、淡々としているけれど
テンポが良くて、何よりも心地よく感じれるから。
彼女は今までで唯一、呼び捨てで呼んでくれた人。

僕は未だに、あの喋り方を思い出す。

------------------

「思い出すのさ」

昼間の雨はどれも斜めに飛び込むように降っていた。
それでも空は明るかったから
遠回りして雨の中を楽しんでみた。
髪の毛と裾が濡れてしまったけど
銀色の線が何本も目の前を落ちていって
古い映画の中みたいだった。
なんとなくそんな事を思った。

優しいから傷がつく。
愛情の命は短いのかもね。
新鮮で居たいなら君も僕も生まれ変わりを繰り返さなくちゃ。

そんな風にして僕らは色々をくぐり抜けて一つに結ばれていく。
一本の髪の毛も通らないほどに隙間を埋めてしまおう。

そうして僕らは
最初からふたりだった事を思い出す。

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「メルト」

コォコォと北へ流れて行く雲の先に月を見た。
満月。
時々、揺れて見えるのは
きっと左の眼が乱視だから。

気持ちの色や誰かの姿形を
正確に捉えられないのは
どこかが最初から揺らいでいるからなのかもしれない。
軸がズレているとか。
あらゆる可能性を探してみるけれど
それは帰路の間だけ。
それもほんの僅かな間。
信号が青に変わったり
次は何を聴こうかと選曲していたりすると
すぐにどこかへ吹き飛んでしまう。
そしてまた月を見上げて
兎以外の形で見ようとする。乱視を利用して。

透けて見える血管は青く見えるのに
実際、開いてみればそれは赤くって
その実際のとこまで中々、辿り着けないのがほとんど。
常人が造りあげる常人という囲い。
正しさは脆い。

白も黒も無い。
誰も彼も居ない。
無いだけ。
そこも、ここも、ただ無いだけ。

口数が減ったとしても
僕も君も、
ただの僕と君だよ。
何も哀しむことは無い。
当然に月が沈み込むみたいに。


笹舟を
海に浸された満月に向かって送り出そう。
ふたりの口笛に乗せて送り出そう。

夜が朝に溶かされてしまうその前に。

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「裏日和」

雨だからと言って
憂い患う仕草を見せる。
つまらない人間だとのたまう。
そんな君を僕は黙って放っておく。
視界のどこかに置いておきながら放っておく。

室内に蔓延っているのは君の口から出た薄暗い吐息か。
君の肺は、今黒い。それは喫煙者の僕よりもずっと。
また錆びれた言葉を吐き出した。硬い音が下で鳴る。
座りながらでも動きながらでも無機質に吐いている。
僕は君の関節がギィギィと音を起て始めたら
すぐにでも油を差しに行くつもりだ。

室内にも外の世界にも一粒も
雨など降っていない。
降りしきりたち込めているのは
君のその内側全部。
僕は君が錆びれ始めた原因はその内側の湿気だと思っている。

今日も僕は
君の頭上に傘を差す。
解っているから傘を差す。
君は、また、
曇り空を吐き出した。
僕は、また、
カレンダーを一つめくった。


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「7.29」

世界が秋の呼吸法に変わる前に
叫びたいことを今一度確認しよう。
夏は願いを叶えてくれる季節。
僕はいつの間にか出来た壁をどう取り払おうか考え中。

君にもう少し近付いてみます。
君との距離が測れる道具があればいいのにね。

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「空酔い」


風が強かった日。
梅雨も終わり。
爪を切りたかった。
外だと夏場は蚊が飛ぶから
お風呂場とかで切ったりするんだけど
今日は風があるからって事で大丈夫だろうと外へ出た。

出てみて思ったのは風の冷たさ。
やたら涼しい。むしろ寒いぐらい。
この時期にこんなに冷たい風が吹くのは珍しい。
なんとなく空を見上げて何も無い空に
夏がもう終わってしまったような気分になった。
爪を切り終えて、久しぶりに家の周りを歩いてみる事にした。

家の裏側は子供の頃よく遊んでいた場所。
相変わらずの細い道
相変わらずのビニールハウス
相変わらずの田んぼの緑
変わったことと言えば電柱が一本と
新しい家が建ったことぐらい。
それと、昔竹やぶがあったのだけど
なんかちょっと整理されていた。あの場所は好きだったんだけどな。

電柱に小学生の頃登りたかった。昔から高いとこが好きだった。
蟻の行列を見た。少し立ち止まって眺めた。
強い風が吹いた。とても強く吹きぬけた。
少し、よろけた。
よろけなきゃいけない風だった。
写真が撮りたくなったから一旦家に帰って、ついでに着替えて
やっぱり家の周りや土手へ写真を撮りに行った。

土手ではちらほらと散歩する人が居た。
駆り立ての原っぱに寝転んでみた。

一面。ただの水色。

雲も何もないから距離感がつかめなくて
浮かんでいるのか落ちているのか
気分も良いのか悪いのか
ただ周りに風の音やら車の走る音があった。
もし音がなかったら、少しおかしくなっていたかもしれない。

歌詞で”危険な青い空”ってあるけど、まさにこれだと思った。
何枚か撮って家に帰った。

綺麗な一日。
綺麗すぎて、哀しかった一日。

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「心は下の階にはありませんでした。」

さようならとは暫くさようならしている。
何かに対して別れを告げなくていいのは
幸せなことなのかな。


僕は奥底にハシゴを降ろして下ろうと思っていたんだけど
君はそれが気に入らないもんだから
一つ一つハシゴの足置き場を解体していった。
普段おっとりしている君なのに
自身への安全対策には抜かりないみたい。
僕は君に危害など加えるつもりなかったのだけど
それ自体、害以外の何者でもなかったのだね。
途中からその様を見下ろす事しかできなかったよ。

下に心があるのが恋?
真ん中に心があるのが愛?

いつだって正直に中心に在ったよ。僕の恋は。

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「日常と空想の間にて」

デタラメな暑さの中では
時間が通り過ぎるのも一段遅く感じる。
空色の棒付きアイス
落とさないように上手に平らげよう。
手をかざして目を細めて
影の形も君らしくって。

はじめた気持ちがその内チクチク刺してきたから
いつかの答案用紙と一緒に机の中へ仕舞ったよ。
机の中は冷たくて保存が利くから
きっと後々またチクリとするだろうけど
開くことができるその日まで今は閉じ込めるよ。

玄関で靴を履いて戸を開けて
鍵を閉めたら歩き出す。
少し歩くと水を撒いていたり
いつもウルサく喚き散らす
頭のどっかがぶっ壊れてる犬が
コンクリの地面で伸びてたりする。
空砲が鳴った。
どこかで花火大会があるらしい。
携帯の電池は残り一つ。
それでも構わないと思って僕は歩いている。

憧れるよ。
羨ましいと思うよ。
僕らは近付かない。
時々視界は暗幕で覆われてしまうんだ。
柔らかくて重い平衡の為の幕。
それでもいいと
そう言ってくれることを
願っていたんだよ。

今、ひとつになれるよ。
もう何も感じなくていいように。
君の弱さは僕が吸い込んで
空へ逃がすよ。

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「8.11」
水色の絵空事。
ちょっと描いたら
君を迎えに行くよ。

この時期は暑いから
繋ぐのは
小指と小指だけ。

ぺったんぺったんって
サンダルでさ、
適当にふらふら夕暮れの道を歩くのも悪くないよね。

さて。
意味もなく遠回りでもして
笑いながら帰りますか。

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「外れ」

終わってしまえばいいと
笑顔の裏側で唱えていたんでしょ。
磨り減らしても磨り減らしても残ってしまう
そんな事をわざとすればする程硬く残ってしまって
少しずつ自分の行き場を失くして行ったんだね。


拙い繋がり方で確信を得ようとした君
俗的な僕は神経質に何度か小石を空へ投げる
創造力が想像力に足らないと嘆く彼女
全部は深い円なんだと断片的に夢をなぞるように話す彼
皆が皆
大事なものを一つずつ燃やしていった


ほんとうは
今すぐにでも
手離したかったんだ。

途中から気づいていたよ
君が僕に自分自身を重ねていた事を。


君はある日を境に行方を眩ました。
僕はそうなる事が分かっていた
そしてもうすぐ僕も居なくなる。
誰かも
そうなる事を分かっていてくれるだろうか。


逃がした鳥は振り返りもせず飛んでいった。
青い空
目印も無いのに
ただ遠くへ遠くへ。


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「降る。どこまでも。」


手と手が重なり合う瞬間の写真
手大きいね!とか
おわっ小さっ!とか
そんな声が聞こえてきそう

体が揺れるぐらい
響く鼓動
狂わない波
坂の上からは
何個かのスーパーボール
跳ねながら僕を通り抜けていった

きこえるだろう
夏の鳴き声が
どこに居てもその耳に
届けられているはずだよ


消えたいんだったら
一息で吹き消してあげるから
肌の温度も
髪の匂いも
舌の感触も
すぐに何も分からなくなるよ
見たくないものも
もう、見れなくなるんだよ


残留思念をもし汲み取れたら
何か小さい箱にでも入れておいて
君がもういいと思ったときに
箱は燃やして灰にしてください
心が一生眠らないように
そうしてください


夢は見なくなった
鮮やかなモノクロームの中で
あの夕暮れの日から
左側にばかり気を取られる
いつだって
笑えるよ


けれど


笑えるから
哀しいんだ

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「めくるように」

記憶の中ではいつだって繊細な世界で
夜寝る時が何よりも恐い君
夢ではエンドロールが流れないの。って
君そりゃあ
見せられてんだよ。夢に。
黴臭い館内での心象風景
雨の冷たさも優しさも分からないままだろ。
ひしゃげたように笑う誰かを
いつまでも追わないで
こっちちょっとは見てくれよ。
照準は君だけど未だ当たらない。
弾に魂込めとくよ。
ぶち抜くよ実在するのか分からないその膜を。
言いたいことはこれだけだ。
伝えるのはここからさ。


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「何事もないように」

君が口にするその優しさ
何処からやってくるものなんだろ
次に僕が生まれるなら
その場所がいい
そこでその声を聞かせてよ

朝には息を吸い
夜には瞼を閉じる
「構わないよ」と言って振り解いた腕
今でも痛みを伴うよ
それが足枷になっている
だけど切れないよ
嫌だけど切れないよ
足首も
痛みも
断ち切れないよ
それだけでしか繋ぎとめられないんだ

青い中から生まれた僕らに流れるのは
痛烈な赤い色
始めよう
神隠しごっこ
日常をそのままの状態にして
ある朝に行方不明になってしまおうよ
僕らの色
きっとその方が、残るから

眼も見える
耳も聴こえる
指先だって体温を失わないままで自由に動かせる
だけどいつもみたいに
笑えるの?


------------------

「8.25」
途方に暮れるような気持ちばかり
すこし、疲れた?
誰かの胸の音を聞きたいだけです
青天の海
昇りすぎても沈みすぎても
呼吸は難しくなるばかり
未だ受け入れ態勢は整っていないみたい
一色にはまだ遠いんだ

中間の世界は一色ではない世界
数多の色彩で僕と君は何色にでもなれるよ
今日は何色で外を歩こうか

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「飼いならされている」

笑う意味もなくなる
半額の半額の半額にされても売れ残る
この散らかった部屋に足場がないみたいに
この寝室には寝床などない
徹底してくれ
隙間など生まれないぐらい
君の言葉で何もかも埋め尽くしてくれ
断言
君は決して満たされない
それは君が満たされることを望んでいないから
心のどこかで自分の限界を知っているから

気になるかい?羊飼い
どれだけ今まで飼いならしてきたんだい?
あなたはただ背伸びをしているだけで
数センチ高くなったその景色に満足しているだけです
くだらない
足の指折り曲げてあげるから
こちらへ差し出しなさい
羊はあなたなど見ていない
羊は見ることさえ飽きているんだよ

愛情で人は救える?
愛情で人は人を守れる?
愛情で人は気が触れる?
愛情だけで人は生きられる?


何度も何度も壊された君、君、君
いい加減気づきなさい
君は君にしか救われない
他人に救いを求めるが愚かだという事を


神様は
あの頃に卒業したんだろ?

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「僕らの声」

「世の中は世の中はと言うけれど
 お前ら一体どれほど中に入りこんでいるつもりだ?!
 これっぽっちもだ
俺から言わせりゃこれっっっぽっっちも入れてない
 一握りしか入れないぐらい狭い場所なのに
 何言ってるんだお前ら
 世の外にいるんだよお前らは。残念だったな。

 俺は中に一度入って出てきたんだ。
 すべてが醜かったけど
 間違いなく、動かしていたのは人間だったよ。」


「ねぇ、すこし寄り道していこう
 思い出した?
 寄り道しない事なんて無かった日々のこと
 疲れたなんて言葉
 知らなかったあたし達の事。」



「春の日は舞い込んできたように
 自然と僕らをほぐしてくれるけど
 秋は静かに留まって
 去り際にさようならを残していくね
 浮ついた気持ちも
 見事にバラしてくれるんだ」


「私はあなたの事を好きだったんだと思う。
 でもそれは始まりの頃だけで
 後は見ないふりして誤魔化してきただけ。
 情だけで付き合うなんて、もう嫌なの。」


「もしもし?
 あれ。
 もしもし?
 あ、繋がった。
 え、何?聞こえてたの?
 なんで何も言わないんだよ。もしもしって言ってるのに
 え、もしもしの意味を考えてたの?もしもしって何?って?
 思ったことは口にしてよ。電話で無言は泣きそうになるよ。」


「四季盲の人間ばかりで煩わしい限りだよな
 こんなに流れ続けているっていうのに
 どいつもこいつも欲に駆られて
 何も見えていやしない
 古い人や建築物の紙切れなんて燃やしちまえよ」


「汗ばんだ体にまとわりつく長い髪
 君から僕へ注がれるみたい
 それが好きなんだ
 僕に突き刺してくれ
 君の象徴を僕に刻んでくれよ」


「そうするしか術を知らない
 繋がることだけが唯一愛情を確かめられる手段
 そんな風にしか今のあたしには考えられない
 間違ってるのは分かっているよ
 でも、どうすることもできないの
 あたしには、もうこれしか残っていないの」



「ススキが揺れるみたい
 月が綺麗な夜
 草が擦れる音を聞いて
 誰も居ない夜の真ん中で
 僕は僕をやめたいと思ったんだ
 暗がりの中ではよく見えないから
 僕の体も夜の一部になれるんだ
 見えすぎるよ。
 朝も昼も夕方も。」



「息をしている
 俺も、そう、君だって
 同じ人間だよ」

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「鋏を用意します。」

・縦に並べられる花の葬列
・小指の爪ほどの小さな小さな石ころ
・下唇を噛む癖
・足音の響き方


悲しかったでしょ
胸は痛みすぎて破れそうだったよね
宙に浮かぶ甘くささやかな夢は
鉛のように重くなって鈍い音を立てて足元に。
ごめんね
でも言っただろ
一切を失くしてから両眼でちゃんと見てくれって。
要らないものに囲まれすぎたんだよ。

ちゃんと整理しないから
僕ら、こんな風になっちゃった。



・点滅する星
・波のような彼女の声
・閉じることが出来ないままの傘
・天井裏から流れる音楽


「あれでよかったんだ」

そんな風に納得させられるのは
乾いた大人のすることだよ。


・立ち込める瘴気のような雲
・フクロウの鳴き声と立ち去る音
・発声の仕方
・垂直に落ちる雨と叩きつけられたまま動けない僕



君が愛しいと感じる全てを大事に。


それだけを頼りにどうか
繰り師から逃げのびて下さい。


僕は鋏を用意しておきます。
使い方は
あなた次第です。

------------------

「9.10」
ピチャン。ピチャン。

水の音が聞こえる。

スーハースーハーって

まるで呼吸みたいに一定のリズムで。



昼間は木々が見下ろす森の中で過ごした。
迷ってしまわないように
散策路の近くで樹に寄り添って本を読んでいた。
時々、無邪気に駆け抜けていく風が心地よかった。
いくつになってもこんな時間を持ちたいと思った。

ヒマワリが太陽を見上げることを止めて
紫や黄色い空も見ることが少なくなってきた。
雲の流れも穏やかになって
この先は赤く染まることが似合う季節へと。


あの時僕は
間違いなく夏の真ん中に立っていた。

陽炎の先に揺れていた影を
ただ追っていたんだよ。


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「あーあ」

ただ眠るだけ
何も見なくて済むからただ眠るだけ
現実も夢も
全部見えなくなる日まで眠るだけ

生まれた場所から
今まで歩いて来た場所まで定規で測れる
神さまのモノサシではごく僅かな距離
あと、どのくらい?
端っこまでどれくらい?



「詳細は最後の最後まで伝えられずに
 皆、目指す場所は遠方の広大な果樹園
 自らが育てた実を最後に
 善人も罪人も皆が平等に
 ほお張るわけです
 その実が美味しいか
 美味しくないかは今までの行い次第ですが
 罪人が育てた実が全て不味いという訳ではないのです
 罪を犯した理由も考慮されますし
 善い行いをしていれば当然、加算されるわけです
 不味い実を生らすのは
 醜い心の持ち主
 私欲に走るだけ走った人の実は恐ろしく不味いのです
 それでも全て、平らげないといけないのが辛いとこです」



先生

先生

知らない人には付いて行きません
けれど見覚えのある人も油断はできません
先生
味方は今でも少ないです
敵ばかりのように思えます
先生
あなたも信じられません


知ったことは
希望が最大の絶望だったという事です

夢としては
剥製になる事です


望んだことは
持ち上げるだけ持ち上げておいて
全て綺麗に撃ち落とされてしまいました
嘲笑う声
よく響いていました


「あーあ 
 落っこちちゃった。」


心の空模様は分かりません。
ここは地下なので。

今日も相変わらず減気です。

どうせ矢のように細かい雨が降っているのだから
こんな傘なんて意味がない。
そんな範囲を守っても仕方がない。


「理屈ばかりで一人を好んで腐っていくんなら
 二人で僅かな間でも夢を見たほうがいい」


「あなたが答えを見つけられたら
 似ている私にも見つけられるかも」

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「手を振った」

何を話せばいい
何も言わなければ君は哀しんでいくばかり
何が正しいことだと思っているの
自己弁護だけはとても上手だね


だから言ったのに
答えなんて分かりきっていたから
だから言ったのに
何を見た?
その眼に何が映った?
喜びよりも
楽しさよりも
一番先に感じるのは
痛みや哀しさばかりだよ

後にも先にもない
廃墟から風が吹いている
錠剤はこぼれるばかり
お世辞にはうんざりするんだ
ノイズの揺らぎ

これからだと思った明け方
むしろ嘘だと信じたかった

バイバイと誰かに手を振った
光で空が満たされる瞬間




9階の窓から


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「秋晴れ」
晴れた日だった。
雲がたくさん浮いていた。
眺めた先にあった、あれは、
何かの建物から空へ突き出た細長い棒みたいな
煙突みたいなもの
その先に白い雲が浮かんでいたから
雲が煙みたいに思えた。

とてもよく晴れた日だった。
空を見ていると退屈しない。
飛行機が何故か何回も旋回していた。
近くにいる人も遠くに感じる。
全部、離れてしまいそうだ。

悲しいくらいに晴れた日。
僕は君の声の中を泳いでいる。

------------------

「明日依存」


例えば何かを話したとして
それはただの空白を残すだけだから
何も言えなくなる

昼に漂っていた金木犀の香りは
夜にはどこかへ流れて行ってしまったみたい
甘さは滞在すればする程、濃く変貌していく
だから嫌になる
けだるくさせて、全て奪ってしまうから

溺れていたい?
呼吸ができないぐらいに?
苦しみが伴う幸せは長くは続かない

目が動かない
言葉を口にする時に力が要る
暗がりで音楽を聴き続けていたい


今日
優しさが嬉しかった
ありがとう

ずっと空しさが続いていて
それは無くなったのか
それとも自ら空にしたのか
どちらも当て嵌まる気がするんだ


「独り言みたいに呟いて
 秋の夜を丁寧に編みこんでいく君 
 僕は
 外を眺めている
 時折、あいづちを打ちながら」


あしたは、きっといい日
今日よりは楽に過ごせる日
明日依存
それでも生きれるなら

------------------

「無題」


可能だと思う限り増え続ける
無限さが煩わしい


髪や爪が伸びる
伸びなくてもいいのに

髭だって生えてくる
外側じゃなくて内側の
源になる部分で何か芽生えてくれ


感性の違いで片付けられるなら
誰も彼もが眼帯生活

全て違くても
落ち着くから
傍にいるんだよ


夜の淵で君に零す


最も輝いた
時間の後に

誰も知らない場所に

埋めてください

そっと

記憶と一緒に

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「死界」

ボンヤリと雨の中で光は滲んだ。
視界は揺れる。
濡れている路面を走る車輪の音。
睫毛に触れた霧の雨。
死者が生まれ変わる為に
地中から空へ向けて滴になって放たれる。
戻される夜。

窓が開けられない。
密閉された空間での煙は行き場を失って
吐き出したのに再度取り込んで
結局手離すことのできない思い出みたいに。
窓が開けられないのは
時折、叩きつけるように降り出す雨のせいで。
空の行方ばかり気になっていた。
椅子を傾けた。
柔らかそうな天井と角度の違う顔。
車内は少し、曇り始めていた。

気持ちは放物線を描いて落下していくばかりでも
それがやがて一つの円になるのであれば
どこまでもカーブを描くよ。

結局
君と僕はどこまで行っても
ただの他人
理解とかはどうだっていい
希望的な何かは虚しさを生むばかりだから
ただ楽に過ごしたいだけ
形にするにはまだ、
未熟すぎるんだ。


話したいから電話をかけるよ。
出なくてもいい
話したいっていうこの感じが
必要なだけだから。


暮れているのは
君ばかりではないんだよ。

------------------

「片側から」

君はいつだってそうやって一人で抱え込むから
僕は何を話したらいいか分からなくなる
「迷惑になるから」とか
「嫌な気持ちにさせるから」とか
「モヤモヤさせたくないから」とかさ言うんだろうけどさ
言いたいのに言い出せない君を知っているから
逆に僕はモヤモヤしてしまうよ


口を開いてもいいんだよ
なんだって聞くからさ
残さず全部平らげるから
構わずに話してほしいんだ

僕も話すよ
今日のこと
ちっぽけな話だってなんだって
それで最後はまた明日って言えれば
それでいい気がするんだ
それだけで今日も幸せだったって思えるよ

君が好きです。

理由はそれだけじゃ
足りない?

寝る前に
手紙を書くよ
月に一度だけ
いつもとは違う僕らの触れ合い方
書き慣れ始めた君の住所と名前

僕はこれからも
手紙を書くよ
それは君だけに


------------------

「灰人」


「見なければよかった」


知りたいとか
触れたいとか
当然に思って
当然にある日
動きを止めてしまう
汚れた結果のみが残るだけ

知人が希望的な言葉を口にする
優しさは凶器
胸に鈍痛
頭に残響
無責任すぎる投げっぱなしの言葉が
僕に傷をつけていく

暗がりでしか孤独が癒えない僕を
陽だまりに誘い出した君
それで満足した君は
別の誰かを救う為どこかへ行ってしまった
この場所で照らされたまま何をしたらいい
ゆっくりと身体を溶かし始めるこの光の庭で
何を見て笑えばいいのだろう

痛みにのみ引き寄せられた
手繰った細い糸の行き先は何もないただの空間
栞を挟んだまま二度と読まれることのない本みたいに
僕は君の中で埃をかぶっていく

希望に憑かれた君
絶望にしか同調できない僕
コンパスは回転を止めないままだから
僕は方向を見失って足は踵から沈んでいくばかりだよ


何も感じたくない
ぬくもりが突き刺さる
騙すなら最後まで上手く騙して
最後まで綺麗に君の目的を遂げてくれ


あの毎日が
僕を奪っていく


------------------

「誰かの靴音がして」

身勝手に振り回してみただけ
最低の自分を見せ付けてみただけ
試してみたかっただけ
それが本物なのか
見せてほしかっただけ
証明してほしかっただけ
君が口にする愛情ってものが
どれほどの強度と純度を誇っているのかを。

あの時君は
「信じて」と言ったけど
「信じなくていいよ」と言ってほしかった。

そっと瞼に手を置いてほしかった。


今まで何回もすれ違って
お互いの言葉の足らなさに傷ついて
ビー玉が転がっていくような雨の夜に
君は、僕の前で
無機質に呼吸のみを繰り返す人形になっていた。
以前のような血色のいい肌は
外灯の所為か、冷たい光を反射する鏡みたいで
僕はそれをもう君の身体には思えなくなっていた。


知っている。
愛情は死んでしまう事を。
息の根を止めたのは僕。
延命措置を取らなかったのは君。

認められないのは
きっと
実感が持てないから。
言葉や態度で示されても
それは僕を通り抜けてしまうから。
返せない。
返したくても、
返すことができないんだよ。
うつむいて顔を隠した。
君はそんな時
どんな表情で居たんだろう。


見知らぬ場所。
誰かが階段を音を立てながら上っている。

「静かにしているから」

彼女は隣でそう言った。

------------------

「10.13」
形が虚ろになっていく
原形も思い出せないくらいに
もう僕の記憶はボロボロにされてしまった。

何を、思っている?
ノートの端での僕らの会話は
ただの感情のない線と線の交わりになってしまった
もう言葉なんて呼べるものじゃないよね。

仕方がなかった。
口癖になっている。
追えば誰も皆、遠ざかってしまうじゃないか。


一人が好きなら最初から近寄らないでくれよ。


傷が塞がらないから
他の誰かを傷つけて巻き込みたかっただけ。
そうやって増やしていくんだろ。

君は
傷で傷を塞いでいくみたい。
無数の傷をつけて
何処で何で傷ついたのかを隠すために。


こんな夜は、要らないよ。
残酷な夜。 
「宵闇」

定期的に訪れるあの一定のリズムは
起きることを忘れてしまった人のよう
こんな時は多分、土へ潜っても
トンネルの中に居るように思えてしまうんだ

夢を見て夢を見て夢を見て
いくつもの赤い鳥居をくぐっていくように
下が上にお箸とご飯も逆になって
自分を中心に周りが高速回転していくみたいに
輪の中で呼吸する事も難しくなっていくよ

君には止められない

はやく明日の今に結ばれればいいのに
おそく夜が解けていけばいいのに

蚊帳の外では
わずかに漂う匂いのみで
探り当てられるというのに
こちらは端から何も見えやしない
少し遠ざかれば
羽音も聞こえない
それと多分、一緒のことだろうよ


さようならを
あと何度繰り返せば
さようならと
言わなくて済むようになるんだろう


駅はまだ遠い

------------------

「おやすみなさい」

灰は火の粉よりも高く舞い上がって
けれど最後は積もっていって
そんなのを見ながら
顔が熱いねとか言ってる
君の大きな黒目の中の炎に見惚れるんだ

君が口にする言葉は
とても胸に残るものばかりだから
僕はそれを忘れないように
映像を浮かべて音読してみる
いつかおじぃさんになっても
忘れない自信があるよ

夜が長く続くこの季節
白い息が感傷的にさせてしまう夜
温かい毛布で
おやすみなさい

------------------

「しゃぼん玉みたいに」

バラバラと乾いた音があちらこちらで聞こえる
かるくてカタイものが崩れていく音

夢の見過ぎでこの眼はすっかり悪くなってしまった
だけど
夢さえ見れなくなってしまうほうが不幸なことなんだろう


あの時言われた言葉が信じられなくて
望みがあることだけを信じていて
ぜんぶ受けれいれるつもりで
けれど全部ダメになってしまって
どうしようもない事にいつまでも付きまとわれてて
自分自身にストーキングされてる状態
気味が悪い


13月へと繋がる道
朝焼けの終わり夕焼けの始まり
改行すら忘れてしまうほどの感情の塊
世の中は数字で解決できると言ったあの人の言葉
ライターよりもマッチで炎を
その小さな灯りだけで過ごす一夜
爛れた心を優しく愛でて下さい
明日の朝声を失くしても
それでも君への愛情を叫びに変えます

君がフワっと吹いて空に消えた
「さようなら」
その行方をただただ
眼で追うばかりです。

------------------

「頭ハイジャック」

頭ハイジャック

わけわかんねぇ正体不明のもんに乗っ取られた

頬の肉引きつるほど6号線を突き抜けてくれ

幼児性を可愛く思えた時期なんて端から持ってなかったよ

カラムーチョで汗かいた

風が治まったのは太陽が背を向け始めた時間

ガタガタと震える戸ガタガタと怯える人

浴槽で底から沸きあがった言葉が湯気になって満ち足りた

冷たい廊下 香りも忘れた部屋

二月へのリハーサル 忘れてた寒さを思い出す

カチっカチッと、ライターの火も、残り僅か


何も知らない僕は、背後に忍び寄られても気づきもしない
正面に立たれても、きっと、見ることができないんだ
銀色の箱の中にたくさんの毒が入っています
胸いっぱいに吸い込んで僕は更に劣えて
不安定にふわりふわりと誰も乗らないシーソーみたいに

素直になれば醜さが露呈する
自分が嫌いで自信がないとか言っちゃって
誰よりも自分が嫌いな自信はあるくせにね

------------------

「青から赤へ」


いつの間にか眠ってしまっていた
振動が気持ちよくて

閉じていた、まぶたを開いたら
走る電線と綺麗な空
それが次の瞬間だった

永遠に無くならない音楽
時間が止まってしまったような錯覚
歩幅の速度と矛盾してしまう気持ち
笑いあう 手を繋ぐ また笑う
涙で溝ができるほど、人は弱くない

人間
なんて残酷で美しい生き物なんだろう

クリープみたいに溶け合える
一時的にバニラで汚された舌みたいに
望むだけ
溺れていこう

虹色の空
すこし眺めて、また僕は目を閉じた。

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「酔い病み」


ふわふわと浮かんで沈んでいくのが分かる
けれど重くなってきているせいか
確実に沈む比率の方が大きくなってきているみたい
ゆっくりと、もう爪先が着きそう

記憶にあるのは
まだ近い日の寒い時期のこと
信じることができた日の思い出
綺麗に砕けってしまった
触れば、指を切るよ

夜露が忘れられない冷たさで浸食して
例えれば、牢獄のようで足に痛さが残っていく


衝動で壊されそうだ
朝も夜も

もう遠ざかってほしいのに

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「胸が地面に擦れそうだ」


身体から熱が抜けていかないのは
この季節特有の事
恋とは違う熱だから少し鬱陶しい
いくら風を受けても背中には滴

誰かが戸を叩いている
優しく戸を叩いている何度も何度も
出て行けないのは
君を怖がらせたくないからかもしれない
異なる影が背中から包み込んでくるんだ
喰われる、半身はもう喰われている

真夏はいつでも一人だよ
公園では静かにブランコが揺れている

対象があるならいい
感情を表せるのだから。
投げたボールは返ってこない。
誰も存在なんてしていないんだ
この広くて狭い世界では。


君の笑顔さえも信じれなくなるのかもしれない
信じたいのに、侵蝕され腐食していくよ
その透明な言葉は胸に刺さる
鳴く事さえできやしない
今夜も粘着質の夜だ


ただ、触れたかったんだ
確かなものへとする為に

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「灰のように」
僕の腕はもう傷だらけで
どれもこれも浅くて小さな傷だけど
でも傷口は確かに赤い色をしているんだ。
いつかは塞がるのかな。

今日、家を出かけた時に
黒揚羽がひらりひらりって。とてもスローに。
それはまるで
燃やした後の灰のようだったよ。
目で追って後ろを振り返った時には
もうどこにも居なくって
あれはもしかしたら幻だったのかもね。

ひらりひらりと跡形もなく消えていっても
記憶は消えないんだ。消せないんだ。
ねぇ
あの日見た風景は
今でもまだ憶えているかい。
美しさと醜さが同時にあったあの場所は
僕らの未来そのものだったんだ。

さようならの裏側に置いてきたのは
隠し切れない感情の礫です。

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「天国行きの乗車券」

いつか
いつか
あのバスに乗りたい
迷いも憂いもなくて
満たされた気持ちはずっと続いて
ゆっくりと昇っていく車内の窓から
僕は嘆く人たちを眺めては
静かに穏やかに笑顔を送りたい

お別れの時には
ありがとう。と伝えたい
できれば関わってくれた全ての人達に
最後の時間
それくらいの余裕は
お与えください

すきな人
柔らかい翳のある素適な人
次に逢う時は
昼下がりに
芝生の斜面で
逢いましょう


今日も、どこかで
バスが昇りだす

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「飛行機雲を見た日々」

よく
ほぼ毎日と言ってもいいくらい
飛行機雲を見る。

落ちていくのもあれば
昇っているのもあって
それは短い時間の中でしか見れなくて
そんなのをほぼ毎日見れているのは
とても貴重で幸せなことなんじゃないかと思う。

朝でも
昼でも
夜でもない
あの時間帯に
瞼を閉じて
耳を澄まして
意識は外へ外へと向かって
時間の揺らぎも
感じれそう

丘に上がれば
圧倒的な空を目の当たりにする
何も無いあの場所では
ほんとうにほんとうに
中心に立っているような気さえするんだ。

チョコレートも
まだまだ溶けない季節だから
ひときれ、誰かに渡したい。

イヤホンから
囁く声と
バイオリンが響いてる。

手の中の灰皿。
短くなった煙草。
指先に漂う匂い。
散っていく白い息と煙。

1月の情景です。


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「あげるよ。」

いくらか弾けた
あれは何かの実
ポップコーンみたいに
弾けたよ。

啄ばむ、烏
すぐに飛んでいった。
白い雲を背景にして
黒い点になっていくのを見たんだ。
見上げていた僕も
あちら側からは同じように、一つの点。

何を
君に訴えても
意味の無い時間が過ぎてくだけ。
無意味と結論づけるのに時間がかかった。
そんな風に考えるのが
寂しいと思っていたから
ちょっと、甘えていたんだ。

純粋な気持ちは淀んでしまっていた。
流れはいつからか、止まってしまっていたんだ。
塞き止めていたものは、もう何もないよ。
また、とくとくと、注がれて、
ありのままに溶けていきたいなぁ。


疲れたでしょう。
湯船に浸かって深呼吸してきなよ。
肺も喉も、水分で満たされて
ほら、すこし、楽になるからさ。

優しさを、君にあげるよ。

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「 、、、、、、、、、、、、、」



足跡もつかない氷の上で
精一杯バランスの取り方を体で学んでいる
そんな生き方で
今までにどれくらい満足できてきたんだろう

嘘になっただけ
そんなつもりなかったは、ただの言い訳
責めたてて
そうした方がお互い楽だって分かってたから
そうしなかったんだろう

相変わらず
誰にも届きやしないよ
それでいいけど
どこに辿り着くんだろう
辿り着ける場所なんて見えてもこないよ

この世界は
速すぎる

夢みたいに
いつか
君からも
目は
覚めてしまうよ


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「題名の無い夜」

ニ、三回、
パパッと手を振るった
手首を利かせて
マッチの火は消えたらおしまい
二度と点きはしない
右手に煙の匂いが沁み込みそう


あれもこれも
最早、全部どうでもいいんです
喉のつっかえも
胸の痛みも
息をすることだけで精一杯です
注ぎすぎれば溢れてしまうから
気が狂いそうになる前に
黒目が端へ溜まらないように

僕は僕を忘れます


君は慣れた足取りで
足首を浮かせて離れていくのを知っています
僕の左には鉄橋
電車が音と一緒に走っていきます
見届けなければいけない僕は
きっともっと高い場所へ上るべきなのでしょう

さて
どこへ上ろうか

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「もや」

行きは
ド、レ、ミ、

テンポで、階段をのぼって

家へ帰る前には
銀の手すりに体を預けて、
滑りながら
階段を下りていた

長い道を
時には笑って
時には黙って
早足や
駆け足や
石けりとか、影踏みで
飛び越えてきたんだ

白い息が目立つほど寒い日だったから
わざと
何回も、息を吐いた
息の中に
あの頃を見た気がした

夜。
もや、が被さっていた。
温度差のため発生したものと思われ。

でも本当は
そんなんじゃなくって
きっとあの、もやは
誰かと誰かのため息
たくさんのため息が、運ばれてきたんだよ

見上げて吐いた白いため息は
すこし、その、もやを
濃くさせた
どこへ流れていくんだろう
誰かと僕のため息は


ねえ、
見えた?

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「もう、飛べるよね」

君が君であり続けること
俺が俺であり続けること
あなたがあなたであり続けること
私が私であり続けること

笹の小舟は海へと辿り着ける?
煙草のフィルターまで、あとわずか数ミリの距離
この電池あとどれくらい持つんだろ
何時間でも起きていたいと思ったこと
寝転んで見た灰色の隙間の水色
低く飛んでる飛行機はプラモデルの飛行機みたい
残り、あと一錠
泣いたのは誰のためでもなく、自分のため
始めは小さな声だったのに、いつしか叫んでいたよ
10円硬貨を回してぶつけて遊んだ机の上
サボテンも枯らしてしまった君
笑いすぎて、むせて、腹痛くなって呼吸困難で汗大量。どうしたの?
バームクーヘン最後に食べたのいつだっけ?
夕暮れを電車の窓から見れるのは幸せなこと
もうすぐ、僕らの白い息も見えなくなってしまう
会話する為に見てないテレビ番組見始めた
明日もきっと晴れだろう
明日も君はきっと生きている

自分らしさの証明なんて自分でさえよく分かんないよ
お前らしくないだなんて
多角的に捉えてよ
僕は君の眼から見た一人だけの人間じゃないんだ

人の数だけ
僕も君も居る


誰かの呼ぶ声が、聞こえた気がした

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「なんだかんだ言ってもね」

雨雲がすこしの間
長い旅の途中で
ここらに滞在するみたい。
降ってくる彼ら彼女らと
どうにか仲良くやっていきたいものですね。

あれが正しくて
これが間違っていて
それなら、こっちとこっちを結んで
って
そんな風にパズル感覚で
目に見えない隙間を埋めていくんです。
埋まらないのは
きっと
見つかっていないから。


真正面を向けないのは
ただ、人が怖いから。
あなたもそんな怖い人の一人。
知りたいのなら、優しさを。
知りたくないのなら、
もう何も、ねだらないでよ。
痛みを伴わずに無難に生きるのなんて
すぐに飽きてしまうよ。
だって、あなた、人間だもの。


長い長い夢の終わりは
もう、間もなく。

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「雨は上がってない」

あれもそれもこれも
何処も彼処も
一人ぼっちと一人ぼっちの集合体
意味なんて無いでしょう
理由なんて要らないでしょう
だけど
時々、欲しくなるんでしょう?
そういうの、ナイモノネダリって言うんだよ

その場で待つことが昔から、苦手だった
人のことも、ついつい待たせてしまう
なんて身勝手な話なんだろう
でも、どこかで誰かをずっと待っている気がする
待ち人未だ来ず
バス停で待っている人みたいに
どっかに座って、待ち続けてんだろ

真正面に立とうが
どんなとこに立っていようが
目の中に入ることなんてなくて
居ても居なくても、
その日は何事もなく過ぎていくんでしょう

笑顔にさえ傷つくんだったら
もう、おしまい
安定とか
体験したことないよ

落ち着いた声で
朝を迎えたい

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「フリダシ」

フリダシ
空で始まって
地上で戻る
なぞなぞに、できそう。

沈んでしまうのは悪いことじゃない。
皮膚が崩れても
それが澱みの渦だとしても
穏やかで落ち着けるなら
僕は沈みこんでしまいたい。
その中で透明に発色していけばいいのだから。

携帯が踊ると胸がざわつく
メルヘンチックでロマンチックに
センチメンタルを泳いでいきたい。

飽和する夜
月明かりのない道
迷子になりそうだから
名前を呼ぶよ
そこには誰もいないけど
その名前は忘れない
紙の階段みたいなものだから
上がるには羽根つきの靴を用意しなくっちゃ
それは君が持っているものだから
僕はプレゼントされるのを待っている
話しをしながら、待っている

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「心室面積」

シーソーの上を歩いているようなものだから
ある時、まるで大きな地震の時みたいに
身長が縮むような
崩れ落ちる感覚に襲われるんだと思う。

温室から脱出した気分は如何だろうか?
後先考えずにいつでも何処へでも行きたいよ。
夜の長さを知っているから思う存分楽しめる。
当たり前のことだって出来なくなっている自分がいる。
前髪目に入る。切ろうかな?やっぱやめた。
だって目に入る時期なんて、ちょっとの期間だもの。
やりたいようにやってよ。したいようにすればいい。
どう転んだって、そんな運命だよ。
受け入れて、次の展望に目を凝らしてよ。
もう、君がつく嘘だって、痛くないんだよ。

哀しみも感じない世の中に希望なんてない。
吸って吐くの繰り返しを強弱つけて
目に見える全部を受け入れて生きる為に
拡げていくよ
心室面積。

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「一歩進む」

この下り坂では
もう戻る道がないことを知っています。

憶えている?
初めて乗り越えたフェンスのこと。
飛び降りた地面の固さとか。
手に付いた、錆の汚れとか。
靴紐ほどけて片結びで縛りなおしたこと。
今の何十倍も、走っていたこと。


見てみたかったんです。
この胸にあるものを。
再確認のため、今一度、深層に潜って
覗いてきたものは
昔と変わっていない、唯一のものでした。


わずらいは、退いて
舞台は次のステージへ。

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「慣れたら怖いだけ」

ぬくもりに慣れてしまった体は、
突然の寒さにすっかり怯えてしまって
けれどそんなに長く続かないことも分かっている。
先が見えていれば気楽なものです。

冬色はただ今春色に上塗りされている模様。
電車の窓から外を眺めていたら
ちら、ほら、と花が咲き始めている。
芽吹き咲き乱れる季節には、
なんとなく歩きたくなる。
ほんとうに、上野~日暮里間を歩きたいなぁ。
景色が、日本らしくて、綺麗なんだってさ。


そんなに大した存在ではないけど
ちょっとでも
憶えておいてほしいと
そんな風に思ってしまうのは
欲深いことですか?
神様。

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「先へ」


先の先のそのまた先の
どこまでも、どこまでも、
靴を飛ばそう。
取りにいくの大変とか考えないで
飛んでいくその先を眺めていよう。

空からサクっと刺さったような
そんなアヒルの嘴に似た花が咲く木がある。
今年もまた、この花が見れた。
その花が咲いている少し先にはコインランドリーがあって
そこを横切る度に、洗剤のいい香りがする。
きっとこの香りが冬を柔らかくして春にするんだろう。

駅を降りた先にある空が青ければ青いほど見惚れてしまう。
あんなに広くて大きいんだから
城が浮かんでたって、おかしくないよね。


すこし
この気持ちを
分けてあげたい。
そうしたら、今よりはきっと、
つまづく事も、少なかったのにね。

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「4.13」
「ねぇ、知ってる?
 霧の濃い夜にね、もしも魂が抜け出ちゃうと
 霧のせいで魂が迷子になっちゃうんだって。
 自分が居た場所を見失っちゃうみたい。
 普通なら、すぐ帰ってこれるみたいだけどね。
 あっ、人によるのかな。とにかく、
 今夜とか気をつけたほうがいいかもね。
 まぁ幽体離脱なんて、したくてもできないけどさ。」


------------------

「思い出す」

ほどけた靴紐はそのままに
転びそうになりながら走っていた

ほんの数分間だけ
空が赤紫に変色していた
奇妙だけど綺麗な色

一口サイズのチョコレートは
すぐに溶けてしまった
残ったアーモンドを噛んだ
夜も深まって
今日は、なんの夢を見る?


誰かに唇を噛まれる夢を見た
黒くて長い前髪で顔は隠れてしまっていて
あれは一体誰だったんだろう
きっと
誰でもないんだろうけど



ドアが

開いている

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「オーケストラ・グリーン」


草原の真ん中にいつかの日の君を見た
遠目からだったけど
見えたのはやっぱり横顔だった
そんな姿もすぐに
風と一緒に掻き消されてしまったけれど
まだ、月が発光する前の時間のこと
幻想の草原
深い緑色の中で何を見ていたんだろう


すぐに夏草が騒ぎ出す
熱が距離を狭め始める
浴室の冷たさが足を伝う
長くて短い一日の儚さを知る

------------------

「あの切れ間が境界線だったんだ。」


ちょっとだけその先に触れたかっただけ
許しあえたの?

掬えるものはいつか零れていくんだよ。

すこし、離れて彼女は僕を見ていた。
微笑みながら、僕を見ていたっけ。

吸っている煙草の箱
銀色の箱
太陽の光が反射して
片方の目だけ瞑った一瞬のこと。

優しく包み込まれて
すべてがただの空白に戻った日。

黒い髪が揺れていた。

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「、、、 雨 、、、」

そうか。こんな感じだった気がする。
生まれた泡が弾ける瞬間。
その後、少し水面に余韻を残すけど
はじめから何事もなかったみたいに。

誰の言葉よりも響くのは
目の当たりにする事実。

ちょっとずつ擦り減っていった。
まだ残っているかどうかも確認はできないけどね。
あと何本残っているんだろ。マッチ。
灯したその炎に見惚れていたのは
何よりも自分自身だった。

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「午前4時」
明け方が好きなのは
生まれ変わっていくような気持ちになれるから。
車が走っていない時間に
ぽつりぽつりと、誰かと話をするのが好き。
適度な、ひんやりとした冷たさが無ければ
きっと僕は僕で居られなくなる。

ちょっと目をつむってみてよ。
何の音が聴こえる?

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「見上げてた」


何も分からずに
知ることもなく生きているのは
どれだけ無害なことなんだろう。
自分の存在の小ささに気づいた。
どうでもいい人です。
居ても居なくても変わらない人です。
足跡だって記憶の波に攫われてしまうんだよ。

完全に消滅してしまった。
消したくなかったけれど仕方ないね。
感情はもう棘になるばかりで
棘は抜かなくちゃいけなくて
抜きたくなかったんだ。抜いたら空っぽになるから。
穴を埋めるのにまた時間がかかるから。
でも、抜けてしまったよ。
触ったときに感じた痛みすら、もう感じれないんだ。

帰りに雨が降っていて
でも雲は架かっていなくて
夜の天気雨
ビニール傘越しに見上げてた
無意識に雨が降っていた
自分の冷たさも知らない雨が降っていた


もう、ただ滲みこんでいきたいだけなのに

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「雨粒を通して見える景色」

振り子時計みたいに揺れている
理由は風が吹いているから?
長さが程度を越えたから?
反動で外側に飛び出したいから?
それともただ、円に憧れているだけ?

一人で思ったことは忘れやすいんだ。
誰かに届ける気持ちがないから?
いえ、届ける相手が居ないから
無意味に思えて、きっと忘れてしまうんだ。

例えば、憧れている理想の自分なんてものがあるけど
もしそれに、なってしまったら
次へ次へと進んでいくしかないのだろうか。
階段を上り続けても永遠に階段が続いてるだけで
どこかで疲れてここまで上ったからいいやって満足?諦め?を
覚えたらその瞬間、階段は滑り台に変わってしまいそう。
堕落していきそうだねどこまでも。
落ちれば上がるしかないのだろうけどね。
結局のところ、上と下。明日も明後日も上か下。
でもその上がるやら下がる過程の中で面白いものがあるんでしょう。

分かっているのだろうけど
僕らの眼はすぐにそれを見失う。
雨の上にも世界はあるのにね。


葉から一滴、雨粒がこぼれた。
ガラス玉みたいに落ちていった。
割れた瞬間、音が聴こえたような気がした。

------------------

「塞ぐのさ。自分を守るために。」

膨らんだのは確かな幻想でした
両手では収まりきれない程の気持ち
溢れて零れて足元を沈めて
僕は溺れていったんだ

終わらせるために自ら折って
そんな姿を見てあの時君は何を思ったんだろう

一方的だった言葉は受け入れらずに

理解したいだけと
それが最も無理なことは分かっていたはずなのに

あの日の僕と君は
あの日を境に
何もかもを
塞いだんだ
「冬の日」
部屋の電気はつけない冬の昼
空も地表もため息さえも白く降り積もるこの部屋で
僕は体温を探す為に宙に指を泳がせる

血色の悪い僕たち二人は
慰めるように体をすり寄せる

口唇の色が少し冬を遠ざけて
僕たちは毛布に包まれて窓の外を見上げていた

君の冷たい体が嬉しく思えた
ぬくもりを分け合える、そんな冬の日。

------------------

「夜の雲」
夜、浮かんでいる雲を眺めた。
月の近くに浮かんでいる雲は
月の明るさをもらって昼よりも白く浮かんでいた。

二つの車輪は廻りながら僕を運んでくれる。
僕は二つの車輪を廻しながら家路を急ぐ。

爪先はどんどん熱を失っていって
先のほうからどんどんバラバラになっていくんじゃないかって
そんな感覚。
いっその事砕けてしまえばいいのにね。

夜が長ければ長いほど僕は底へと沈んでいくよ。
あれほど騒がしかった街並みが
何事もなかったかのように。
あの日達が別の世界だったんだね。

夜の雲は千切れていった
思い出もまるで絵空事のように
描かれてはバラバラに。

------------------

「望めない」
望めばそこに確かに存在するんなら
僕は惜しむことなく思いっきり手を伸ばすのに

柔らかい明るさは僕の眼にはまだ届かなくて
闇雲に手を伸ばすだけが精一杯だよ

君は何も望んでなんかいないように思えて
そこには温度差だけが確かにあるようで

安定なんて未だ得ることのできないまま今日を過ごしているよ
刹那的なぬくもりなんて冷えるのもまた早くて

君への衝動は日々確信へと繋がっていく

------------------

「11月28日」
僕は君に近づけないのだろう。
君も僕に近づこうとはしないだろう。
一定の距離感の中で
僕らは何を掴むことができるのだろう。

------------------

「1.9」
どうでもいいなら初めから君を好きになっていない。
誰かが平行線のようだと言うのなら
僕らはその線の上、歩いていこうよ

------------------

「何も悪くない」
すきまからの風で冷たさを知って
どこか行こうって思っても
足場のないこの部屋じゃ隅にだって行けやしない
誰かが入ってきても
何か話しかけていても
まったく声として聞き取れない
ノイズが心地いいんだから仕方ない

もう、見つけたのかい
前に言ってた、例のあれ。
存外にあしらって
誰かの唄に重ねて
見つけだせたなら、それでいいよ

全てが優しく死んでいったって
夜の中に白が交じったって
今も悪くない。何も悪くない。

------------------

「布の温もりは知っているけども。」

色々と考える。
考えなくてはいけないから考える。
すると面倒なことに何処からかやってくる布状のモノが
僕を動けなくてしてしまうんだ
舌さえも雁字搦めだ
このままでは窒息してしまう
今のこの文自体も、いつかは書けなくなるのだろうか

そろそろ地下室への鍵を取りに行こうか
あの地下室までには見えない布もやってはこないから。

------------------

「伝言」
あの日々の僕達はどんどん空になってしまった
部屋に残されているのは無数の脱け殻
毎日生まれるから掃いてもキリがないんだ

ある昼に爪を切ったよ
長く、伸びきった爪だった、人差し指と中指の。
爪は変えに飛ばされることなく
地面に落ちた。それが深く残った

今日はどうしている?
明日はどうしている?
明後日はどうしている?
昨日はどこで生きていたの?
そもそも下らない妄想の中での現実なのかもね

銀色のスプーンは三日前から錆びだした
もうスプーンに月が映ることは無いのだろう

たったわずかな肉眼で確認できない程の穴でも
きっかけ次第で肥大して僕は食べられていくよ
もうあと残っている僕の身体は右手と脳みそぐらいさ
もう君に語りかけることも
もう君の細い囁きも
もう柔らかな後ろ姿も留める事ができないみたいだ
この間も僕はどんどん食べられていっているんだ

次があったらその時はまた僕の呼吸を奪ってよ

そして、あとは焦げる匂いと甘い記憶と
君の瞳の黒さと。

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「右と左と」
私が望んだのは彼を気流に乗せること
どこまでも浮かび上がって私の元まで着てくれたら
私はどこまででもついて行けるような気がしたのに
臆病な私はそんな事言えずじまいで
後々になって手紙でしか伝えることはできなかった
指先じゃなくて口で伝えられればよかったのにね


僕が望んだのはただ流れるままに流れていきたかった
ただ少し向かう先が見えている先が違かったのかもしれない
君からの最後の言葉はきっと残っていくと思う
「案外、私は元気です」って言った君を
好きになったことに僕は今でも後悔なんてしないよ
ただもう少し、優しくできたのかもしれないなんて
今更だよね、本当に。


さようならとまたいつかを重ねて。

------------------

「話されて」
狭い廊下の上で寝転んで
床の冷たさと暗い天井
見慣れない場所で置き去りにされてる感じがした

いつからかぎこちなく笑うようになって
そんなの見てたら
こっちも笑い方を忘れてきてしまった

粉状なんかじゃなくて錠剤がよくて
だってあの舌の上と喉の感覚は
あの人との日々に
あまりにも似ているから

離されて 放されて 話されて
その後は また一人で映画鑑賞
電気もつけずになんて
なんの真似だ誰の真似なんだ
ただ浸って流れて行きたいだけ

下らない妄想で傷つくぐらいなら
明日の昼ごろにでも
外科医に頼んでみようか

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「ね。」
まだ相手の気持ちが分からなくて
なんとなく踏み込めなくて
けどそれでも願いが叶えばなんて思ったりして
そんな頃が一番楽しいのは分かってるはずなのに
どうしてそれ以上に求めてしまうんだろう

欲なんてこれ以上は要らないのにね。
今があればそれだけで良かったのにね。

------------------

「そうやって」
自由に生きれたらとか
何かしら言い訳じみた理由つけたりとか
結局予想通りで冷めた表情とか
その日声が出なくなるぐらい叫んでも
翌日にはもうすっかり良くなっちゃってるのとか
人間臭さに思わず笑ったりとか
匂いとか場所とかを直視出来てない自分とか
勝手に変換する頭だとか
逆らえないフリをしてやり過ごしてる事とか

そんな自分に振り回されるのはもう飽きて
あとはただ、ただ、スローを望む

二回繰り返した僕の言葉を君はまだ憶えているだろうか
あれが全てだったんだ

------------------

「今日」
車内で遠くの人がこちらを見ていた。
何度も扉は開いては閉めてを繰り返した。
薄い空が陽を更に傾かせた。
走行線はまるでロープのよう。
左手に匂いがこびりついた。
むせかえる甘い匂いで彼は思い出したようだった。
濡れた髪が踊っていた。
「またね」と言って別れた。
彼女は今日も笑っていた。

------------------

「まるで凍傷のように」
一日に何度でも
ふと目にしたものから呼び起こされる記憶たち。
疑問符は消えつつある
想いは口には出していない。
口にしたら立ち止まってしまいそうだから。

まるで凍傷のように

何かを望むこと
わずかでも欲を出すと
どうやら僕は滅んでいくらしい

守りたいものは何?
どうやら僕は、靴を脱ぐのを忘れたみたい
扉はもう開くことはない

------------------

「そんなもん」
やっぱりみんな傷つくのは怖いから
一歩を踏み出せないでいるみたい。

愛情を知ると臆病になる

身動き一つできなくなるなら
甘い声で囁きかけてこないでよ

雨があんなに優しかったなんて知らなかった

------------------

「あんた」
破滅願望でもあるのか
退廃したものが好き?
人間には被害を及ぼさないでくれ
迷惑なのはお互い様
一度見てしまったのなら目をそらすなよ
騙すのならば最後まで演じきってくれないか
中途半端にした結果
誰も彼もが傷ついた
誰も信じられないならさ、もう笑わなくていいよ
無理するなよ
箱庭を脅かされたくないなら大人しくしてればよかったのに
応えたあんたは逃げていった
逃げるっていう行動はできるのにね。

------------------

「つぶやき」
低空飛行で飛び続けてるようなそんな毎日
いやスピードはもっと緩いけど
命の息吹を感じられるからこの季節は好き
誤魔化して生きられるならそれほど楽なものは無いんだろう
繊細な赤色で僕は揺らめきたい
とあるデパートの屋上での寂しい風景を
君はまだ覚えているだろうか
あの雨の日の屋上を君はまだ覚えているだろうか

そう、言いたいのは
疲れることなんて何もなかったよって事。

------------------

「必要不可欠」
要らない感情なんてどっかに置いてこれればいいのにと
そんな風に誰かは言うのだろうけれど
要らない感情なんて無いのかもしれない
無駄な想いなんて無いのかもしれない
何かしら意味があると考えて生きていきたい

誤解とかって解くには努力と時間が必要なんだろうけれど
その手段さえもう無いのなら
一生解けないような気がするよ
だって手を離したのは僕じゃないんだからさ

------------------

「週末の朝」

洗濯機の音と明け方の空を見て
今日は晴れるのだと思って
一年前に見た朝焼けを思い出して
一年前の自分も思い出して

憧れは上昇気流に乗って
ラピュタの雲までも追い越していって
その頃には別の何かに変わっていたのかもしれません。

素直になりすぎて
君を傷つけた事

僕の中で変わったことがあるとするならば
それは以前よりもしゃがんで世界を見ることになった事かも。

悪いことなのか良いことなのか
答えはいずれ見つかるのだと
今はそんな風に考えているのです。

------------------

「あーあ」
爪先から沈みたくなるような一日
虫が騒ぎ出した頃に
月と外灯の区別もつかなくなっていた僕は
君を手放したんだ
あの蒸発できそうな夜に

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「6.30」
あぁもうしちめんどくせぇ
口の端がその落下速度に耐えられずに歪んでしまえばいい
綺麗な言葉は第三者的に聞いていたい
もう解った既に知っていたそして何度も忘れただけ
感傷は美しいかい?
あなたにはわたしなどみえていない
水たまりを踏んだ瞬間に必ず足には飛沫がつくのですよ
泥水ならわかりやすいだろう
しかし濁り無い水は見えるだろうかその眼で
必ずだ。必ず付着しているさ。
時間と距離がボクラをダメにした
ポロリってスネオみたい
ボロボロのランドセルをファッショアイテムにしたい
ピンの使い方の上手い女の子は好きだ
巧みに忍び寄ってくるこの時期の雨は
まるで喧嘩した後のあなたみたい
相手も乗り気じゃないとすぐに冷める
幸せな夢を見て起きたら泣いていた
喜びも悲しみもいつかは等しくなるんだよ
君の笑顔だけで三日は生きていける気がしていた。

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「7.08」
叶わなかった願いはどこへ行くのだろう。
きっと多分それは
別の思いになって自分の元へと戻ってくるのだろう。
そして底のほうで静かに根を張るのだろう。


帰り道で見た名も知らない花は
何か追い求めている無数の手に見えたんだ。

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「7.16」
格子状の窓からを青い網戸を通して
外の世界を覗いていた
いつもいつも外は輝いていた
畳の上を歩くとミシミシと少し軋んだ
剥製がこちらを向いている気がした
あともう僅かな時間しか残されていない事を知りながら
西の方角をずっと見ていた
僕にできる事はただ話しかける事だけだった
そうして短い夏が過ぎていった

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「逃れられぬ」
確かにそこにあったはずなのに
僕は何一つ役には立てなかった
夜が透けていく頃にやっと僕らも素直になれたのに
朝の光が眩しすぎるから
僕らはまたお互いの顔も見れなくなってしまったんだ

忘れ物はもうずっと、机の中。
遠すぎてもう取りにさえ行けないよ

望みたいものは望めなくて
望んでいないことが現実になっていく
壊したのは僕で
あの日から希望は
燃えてしまうように

僕の正しさで狂わせてしまった

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「君の世界は今、正常か」


何種類もの煙草の箱を床へとぶちまけた
色とりどりに白い床に撒かれたそれは
何か、立体的な柄模様にさえ思えた。
数秒見惚れた後、
また数秒で元に戻した
煙草は何事もなかったように並んだ。


これを妄想だと思う根拠を教えてください
妄想はあなたの世界だ
だけど同時に私にも根拠がないのです


会いたいだけではなく合いたいのです


マーブル模様の空から
あまいあまいシロップが数時間ごとに流れ出てくる
そんな夢を昼下がりに見た。夢の中で。

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「日掻き」

僕はもう疲れてしまったよ
と、ただ言ってみた

人の声は産毛のように柔らかく届いてくるけど
如何せん僕にそんな余裕がないせいか
哀しく脳までは達さない。
どんどん失速していくその姿に気づいているけど

ごめんなさい。

朝。空には膜がかかっているようでした。
僕は膜を破ろうと必死に空へ石を投げたのですが
はじき返されるように石は落下してくるのみで
僕はその石を避けるタメに後半必死になっていました。
テルテル坊主はただの絞殺死体でした。
そうか、だから顔が白いのか。

午後二時三十分
僕は持て余す時間をどうにかして過ごさなければいけなくて
けれど街並みと群集を避ける様に片隅の喫煙所へ逃げ込みました。
そこでは僕は生きていないような感覚へと。
街と人を眺めていたらそんな気になったのです。
すこしだけ早いペースで終えるとその場を後にしました。
そして徘徊するように歩いたら少し遅れました。

一日一日は確実に積もってきていますが
時にすこし整理をしないといけないのです。
日掻きを。道具に頼らず自分の手で。
そうしなければ僕は埋まってしまうのです。
自分の一日は自分にしか積もらないのですから。
すでに窒息しそうなのでそろそろ準備を。

またあの日が今年もやってくるのですね遠い人。
今年も祝福は欠かさないつもりです。


そろそろ十三階からの景色を見たくなってきたから
蝉がのた打ち回る頃にでも見にいこうかと思っています。

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「学生」


綺麗ではなく美しい人間になりたい
高く高く望んで
きっと死ぬまで見上げていくのだと思う
見下ろす事はないだろう
もし見下ろしたらその瞬間僕は上昇をやめて
ふわっと飛び降りてしまうような気がするから
だから首が痛くなっても上を見続けていきたいんだ

食い違っていた気がする
誤解だと訴えたところで無力だったからと
きみもぼくも明日を止めたんだ
憎しみや怒りなんて
残すのは醜いもんばかりだったよ
翌朝はどんな顔だった?
見極めること
見誤らないこと
今でもこれからもずっと学生だよ

そうだ、あした髪を切ろう
この季節に飲み込まれてしまわないように
髪を切ろう

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「今の声」
ほら、何かを忘れようとすればする程
みるみる高揚していくよ
そんな事では、あの顔は消えない

口の中はとっくにもう干乾びている
水など飲んでも無駄な足掻きで
根本的に足りないものがあって
でも手に入らないし望まない
わかっているからもう十分に。
どうして空に手を伸ばす
青空だけでなく曇り空にまで伸ばし始めた手
指と指の間の隙間は思った以上に大きいみたい

ねぇ
要らないものは僕にしまってよ
捨てられないんなら預けてよ
ねぇ
聞こえてるよ
今の声

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「雨の日の情景」

雨の帰り道
鬱病の向日葵を何本か見た
彼らはこれから朽ちていく
鳴き始めた蝉もそろそろ散らばりだす頃合い
終わりへ終わりへ
短い一日が終わる
どこかで見た早送りの映像が流れ始める
止められない速度で僕は到底着いていけそうにない

雲が形を変えながら流れていった
人の気持ちのように変化していく過程を見た、見続けた
湿度は腐らせる一方で新たな誕生の背中を押す
今傷をつけて血液は流れるか。自信がない。
湿度が熱を促しているようだ

傘を畳んだ
雨は止んだかのように思えたからだ
けれど二呼吸したぐらいで
殺人的な勢いで降り散らしてきた
傘は差さなかった
今日は、最初から傘など要らなかった事に
その時ようやく気づいた
撃ち込まれるだけ撃ち込まれた
トンネルの中では音がいつまでも続いていた

土手の上に君が居た気がした
雨が視界を濁していたけれど
あれは、あれは、

月曜の夜が終わる
嵐がやってくる
僕が滲んでいく

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「過多」

台風は大したことはなく
「台風は必要な時にいっつも傍に居ないよね」と言うと
あの子は
「台風はいつもそう」と少しがっかりした様子でしたっけ。

赤いボブで濃ゆめのチークの子
目を細めて笑う姿がとても可愛く思えたのです

烏がピョンピョンと飛び跳ねていました。
もし地面に白い輪っかを縦に何個か書いたらば
輪から輪へと遊んでくれたでしょうか。

呟く言葉が寂しいのは
何かを知ってしまったからなのでしょう
お互いに知りすぎた
だから今のこの距離なのです

わかっていた事は、ただの幻でした
現実も夢も紙一重な境界線

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「夜の空」

雲とその僅かな隙間を眺めていたら
溺れそうになって
その後大量に吸った酸素は
とても胸に痛くって
目をつぶって眉間に皺をよせた

声が
こだましていた


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「よくねぇよ」
美しいこの世界
夢を見て何が悪い 当たり前の事さ
だけど
どうしようもできない俺のこの感情
誰か貰ってやってくれ

悪性の俺
何も生み出すこともできやしない
ただいつかの存在に
頭が乗っ取られて
もう、今日明日には
自転車さえ扱げなくなりそう

余分なもん
車道に寝かせるから誰か轢いてくれ

今日の天気なんて
聞かなくても分かっているから
折り畳み傘
どっかに忍ばせておこうと思う
汚れの目立たない黒い傘
忍ばせておこうと思う

環境は悪くない
冷めてるのはただの見せかけ
憂鬱ぶって弱く見せて
誰かに少し寄りかかりたいだけ

そんな事、思いたくもないのに


君が居ない君は居ない
今日もまた朝は来ない
想像に潰される
回転する頭上の豆電球

よくねぇよ
よくねぇさ
そんな事、わかってるよ
誰か教えてよ

------------------

「腕」

見つけられなかった心拍音
俺のももう、止まりそう

軋んでズタズタだ
見なよ。この姿。
挙句に信じる事を難しく思えてきている。
過剰に防衛しようとするのは本能からの信号か
どちらにしても傷は増えていく
どうしようもないどうにもならない
世の中が並列化していく
貼り付けられた笑顔で何を話そうか
点滅は絶望と希望
僕はその点滅すら望めない模様
何か
見せてくれるなら
失明するほどの輝きを下さい
でなければ
暗がりが純粋に僕を包み込むから
だから徹底的に。
安易には、満たされないんだ。



機械音
ココロ乱れる
下から見た巨大なその腕
何か掴んでは別の場所へと運んでいた
この要らないものも
一緒に運んでくれたらいいのにって
そんな事を思っていた


君を求める

------------------

「ズルズルと」
動かなくなってしまった君を
どうにかしようと
脇の下を掴んでは引き摺ってみたんだ
ズルズルと腕が痺れるのも構わずに

返事がないことは仕方が無いんだ
一部始終を知っている僕には
とても責めることなんて出来ないんだ
爪が剥がれていく
痛みで360℃真っ白だ
それでもあの宿り木の下ぐらいまでは引き摺ろう
まだまだ遠くて時間がかかるけど
あの辺りまでは引き摺らなくちゃ

僕の名前は忘れたかい?
きっと水性だったんだろうね
でも選んだのは君だから
最初からそのつもりだったのかしらね

さぁ夜が来る前に運ばなくっちゃ
夜が来たらきっと僕は
引き摺り方を変えてしまうから
だから急がないとね


バラバラになっても運ぶから
だからそれまではこの躰を保っていてよ
ねぇ。動かなくなってしまった君。

------------------

「それでも、と願っていた」
どこへでも好きに行けばいい
絡まっていた蔦はもう解けたのだろうから
行く先に棘が無数にあったとしても
あなたは振り向かず
その腕にその脚に傷を残してでも
きっと歩いていくのだろうと
そう思う

感情はマイナスのものばかりだとしても
それを元に
記憶が消されなければいい
確かに存在していたのだと
君が認めてくれるならそれでいい

頑なな気持ちは
いずれ必ず解されていく

それでもいいと願った事
少しは届いたのだろうか
不器用なりに振舞って
結果、全部が嘘としか思えなくなってしまっても
やわらかい部分は必ず残るから
それだけは守りきるよ
夜がやって来ようとも


冷たい手

熱に浸かっていればいいと思う


失くしたもの

拾いに行かなくちゃ

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「そういうこと」
空は青いこと
まだ蝉が鳴いていること
季節は巡るということ
炎が風も無く揺らめいていたこと
消えそうな思いが消えたこと
煙草の煙と一緒に飛ばされていったこと
もうどこにでも行けるということ
泣きたくても泣けなかったこと
少しずつ砂利道を歩いていくこと


君はもういないということ


すべて空白に塗り替えられる
それでもういい

口笛を吹く
どこかへ届くだろうか

------------------

「煙草の灰だけが」

この世はこの夜は
なんとも悲哀に満ちているのだろうか
厭だと云って裏返しにした事柄も
結局時間が経てば元に戻る
皆それを知っていながらどうして

どくどくと
弾力性のある液体が耳から垂れ始める夜
あぁ嫌いだこんな夜は嫌いだと
君は何度
決して外には届かない部屋の中で
叫びもがき苦しんだのだろうか
僕は決して届かない外で
君の泣き顔を思い浮かべては眠る夜


煙草の灰だけが記憶に残る


------------------

「九月の境い目」
去来したのはいつの頃の記憶ですか?
その香り
そのブランド
そして季節は安らぎを与えたり奪ったりの繰り返しで。

カエルは呆れた顔で気だるそうに言います
「見たいものは何度も見てきたくせに」と。
月の無い夜に、語尾にケロとも付けずに。

夢を見ました。
家の前を
見たことあるようでない生き物が列を成して歩いていくのです
二足歩行でスーツにステッキを持った顔だけインコの人
肩から縦に伸びるススキのようなもので顔が見えない猫みたいな生き物
原色のマーブル模様の服を着た二つ頭の人
サーカスの集団のような人や獣達。
どこへ向かって歩いていくのか
その道の先は確か行き止まりのはずなのに。
みんな楽しそうに歩いて行きました。
列に加わりたいのに夢は覚めてしまって
あの後彼らはどこへ向かったのでしょう。


ススキで覆われていた空き地はもう無くなってしまいました。
今年の秋はどこにススキを探しに行きましょう。
さめざめとしてきました。

隠れんぼはもうお終いにしませんか?


あの駅の三番線ホームで、また空を見上げて。


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「何色の人」
何色も持っていて何色でもないような
しかしどの色にも透明感はある
視点の違い
角度の違い
鳥肌が覆う。尊敬と恐怖を覚える。

人は言う、認めろと
けれど認めない。認めるには早すぎるから

何も知らない
たくさんの事を知っていく
たくさんの事を見ていく
円は一回り厚みを増していく

触れたいと思う人に出逢いました

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「フィルター」
喉の途中
半分よりも少し上で何かが落ちていかない
溶けることもしない
ずっと残り続けるそれは
いつになれば消えてくれるのだろう

74回目の朝に優しい顔は見えるだろうか

薄い布越しに感触がある
風が吹けば、捲れるだろう
その時そこにまだ残っているんだろうか
分からない
逆光で君の顔も、もう見えない

青空の透明度を半分へ。

------------------

「そうだった」
あの子は瓶に三錠ほど残して
僕の知らない場所へと出かけていった
恐らくもう帰ってこない
そんな事は分かっていた、の、だと思う
感情的な声に耳を傾けた。それだけだった。
反射して返ってきたものは酷く醜く自分に似ていた
だから、君の姿を追っていたのかもしれない。

抵抗しても抗えない事がある
傘をさしていても、濡れていくように
君にも僕にもそれは平等にやってきた
速度は違えど、確実に肌は冷たくなっていた
硝子に蜘蛛が住み着くように
それは一瞬の出来事だったのだろう


地下室の扉を閉めたのはあの死体ではなく、僕だったんだ

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「日々」

カビ臭いこの部屋が唯一の居場所だね
壁の無数の穴と落書きでここは遠い現実
喰らった大好物なものは自分の奇形
一日目の朝に君は喜んだから与えていたんだ
二日目の朝に君は苦い表情だから押し付けていただけだった
ほら何も分からない見えるものなんて五つも在りやしない
瞼を閉じていけばいくほど君の顔も思い出せなくなる
声。声。声。

あんな声はもう聞けない
蝉はもう、死んでしまった
石段の冷たさが心地よくて
緑の狭間から見た太陽が葉の影を揺らしていた事
思い出せなくなるのだろうか

春に産まれて
夏に満ち足りて
秋に奪われて
冬に囚われる

季節は決して巡らない
廻る世界は似ているだけ
君も僕も今日も明日も明後日も
すべて変わっていく


どこにいる?
君はこの先、どこにいる?
こんな忘れられない皹の中で


------------------

「耳鳴りの夜」


これ以上何を望むのですか
一体どれほど
この体から剥ぎ取っていけば気が済むのですか
もう残されていませんよ
だってあなたは根元から持っていってしまうから
種も、昔に比べて埋められなくなってしまいました
大事に大事に育てていたのに

袖から、こぼれていった
足音が耳から離れていった
空しさという言葉
どこまでも抜け落ちていく
明から暗へのグラデーション
色が落ちていく色が剥げていく
緑色のランプが分裂していくのを見た
回転速度、酔う、わらう
増えすぎた暗闇の住人のせいで一階に空きが無い
僕の別名は「君隠し」
あの日のフラッシュバック
寒さが全部台無しにした


言ったはず。
次は無いと。言ったはず。
だから、もう無いよ。
あんな事はもういいよ。
それでもまた繰り返すなら
もうカーテンは閉じなくちゃ。


耳鳴りの夜

------------------

「ソウテイハンイナイ」

ボクラが見落としたのは
いくつかの現実
抵抗むなしく
豪腕に捕まえられたのです

空気の狂気
気に入らない前髪
下り坂での出来事
救急車の群れ

乗せて乗せられて
走っていけるどこまでも走っていける

あいうえお。
の、順番なんかどうだっていいよ。

止んでる君
またすぐにみんなの前に
喜びの雨を降らせるよ


触れてもいいよ


かき混ぜて一つに重ねっても
責めたりはしないよ


君の好きにしたらいい

------------------

「リズムが流れるなら」


心臓のリズムだけで踊れる

どこかで何かが燃やされた白い煙
そして、むせる匂い
いつもたくさんの鳥達が停まっている電線には
数えるほどしか居なかった

追いかけた
何重もの過去を置いていくために
息が切れ切れになっても
追いかけたんだ

背中は甘い香りを残して
どこか見知らぬ所へ消えてしまったけれど


決して

楽にはなれないのだと

その顔を見るまでは決して


溢れさせるものか

更に大きな花瓶で

君を活けるよ


心臓のリズムだけで
「2.06」
きみはどうにもできないよ
ぼくにもどうにもできないから。


「ただそれだけです。」

そうやって
違っていく事を
もう、
何年も前から沁み込まされてきた
掛け違いの笑顔も
やがて失われていくよ

だから
何も苦しむことなんてない
望みは灰塵に
欲するのなら
直ちに、鏡の前に立ちなさい
今自分の居る場所
判っているかい?
方向も合っている?

きちんと整えなさい
凛として、冷たさを忍ばせなさい
原点に返りなさい
正しさはすぐに狂うから
僕には過去が必要なんです

記憶喪失になってしまったのは
あんな風に笑ったから
例え、明日、君が僕を嫌っても
もう仕方ないことなんだと思う

着地点など、何処にもなくて
自分も見えない暗闇だとか
君のひとつひとつに振り回されてるのとか
もうそういうのどうでもいいよ

僕らは楽に
ただ楽になりたいよ


「三本レイン」

雨の日は
何も考えずに
息も殺して
雨の音に耳を澄まします
その音だけに集中するのです
疎ましくなる沈黙より
何倍も正気で居られる気がするからです

罪だと認定したならば
どうか、葬ってください
教室から窓の外へ飛ばした紙飛行機のように
ぼんやりとした空想の中で
背中を、押してください

発作的に面白可笑しくなるのは
自由なことなんですから
一歩退いて眺めていてほしいのです
ツギハギだらけなのに
何もかもが愛しいだけなのです


「桜依存」
視界の左上から
右下へ桜の花びらが降っていく

子供達が笑っている

染み一つ無い水色の空

君が立っている
遠くで微笑んでいる

風が吹いて
散った花びらで君が隠されて
次の瞬間にもう君は居なかった

桜が連れ去ってしまった

それ以来、桜が咲くと
僕は
君を探しにやってくる

桜に攫われた君を探しに


何処にも居ないと分かっている君を探しに
僕は今年もまたあの場所へ
逃げ方しか分からない僕には
もう、君しかいないのに


「しりとり」

静かな海

みんなで缶蹴り

理科の実験でしたイタズラ

ランドセルの中身が年々軽くなって

低空飛行で頭上を横切った機体の大きさ

逆上がりに使った練習台の名前、あれ何?

人間失格と認められた

退廃そのものが僕

クオリティの高さなど所詮は自己満足だ

堕落していく中で見ることのできる真実

積み木遊びを覚えたのは崩す楽しさを知りたかったから

ラッパ吹きは今日もヘタクソさ

サンドイッチ食べる?次のピクニックは何処へ行く?

九龍で立てた計画はただの空論になってしまったね

ねぇって言われたい

いい人だとかよりも必要としてほしい

生きようと彼女が思ったなら僕もきっとそう同じように思えるよ

欲を殺したい、もう、産まれてくるな

泣きたいときに傍に居られる人になりたいんだ

断絶するよこの気持ちにも

もう一度、静かな海で、会いましょう

「5.23」
溶けていきたい
溶かしてほしい
夜の底で静かに
ドアノブが回っても目は閉じたままで


「無題」


別れを口にしたのは
どちらからでもなく
それはただの瞬間に成り果てたのです。

「元気でね。」
彼女はそう言って
東横線に消えていった。

燃える夕暮れが焼きついて離れなかったある日の事。

あんなに綺麗な声も
もう、
忘れたよ。


「6.14」

例えば

とか

もしかしたら

とか

曖昧な言葉は精神を削るだけだから

明確に伝えるさ

君が傷ついたとしても。


「ベルベット・パルス」

この僕の軽薄な両手から
余韻を君の耳に置いておくよ
忘れゆく日の残像を互いになぞる
指先で優しく、だけど痕が残るように
殻に包まっている君が見上げた先に
僕はいつでも手を差し出せるように準備をしておくよ
白く晴れた日にピクニックを
湖の見える丘で僕らは許しあおう


「7.09」

想像の果てでのレインコール
呼び鳴らせ知らしめろ
喝采の中に地獄を見せられた君
どうしようもねぇのがあんたの取り柄だろ
煩わしい汚らわしいその長い髪
縋って踏み躙られて
今に見ていろ
今に連れていく
極彩色の空と蓮の庭園に

「くだらない」
慣れてしまった時にはもう、だいぶ底の方
生きてる内に消化して循環して
何の何に戻る?
この先もただの見えない形の塊に
複雑なもの乗っけて歩かせられるのさ
吹き込んでる姿が笑えるよ
何処の馬の骨だかもよく分からない神様
十人十色、無限のイメージで造られている神様
あなた、隣の家の佐々木君とよく似ているよ


「時間が苦しい」

君はそう言って
いつの間にか消えていた


「9.01」
けしかけられて
慌てた僕はペダルを扱ぐみたいに
脚だけで地面すれすれを泳ぎ出す
背泳ぎは楽しいね
空を追い越していけるから楽しいよ
こんな気持ちの日には
手紙を出そう二枚ぐらいの便箋で
落書きもして賑やかな二枚にしよう


澄んだ場所でしか生きられない君は
さながら蛍みたい
呼びかけるからこちらへおいで
こっちの水は甘いから
もう苦みは要らないのだろうから
手を差し出せば

いつでも連れていくよ


「9.02」
正常だと言うけど
君が正常だと誰が判断するんだ
仮に誰かが判断したとして
その誰かの正常も誰が証明する?
どこまでいっても端が見えずに
きっとまた僕のもとへ戻ってくる
生きている限り
ぐるぐる廻る
いや居なくなった後も
ぐるぐる廻る
天狗の住む山の中みたいに
同じ場所を何回も何回も

「夜の次は昼ね。冷えていく順番。」

そう言って
彼女は温かい紅茶を飲んでいた。


「9.04」

雲はまだ散らない
子供達は汗をかいている
向日葵はまだ夏を差している
今夏を構成していた要素達は
まだ意気込んでいる

とてもとても
僕は単純だから
声のトーンとか
いつもより笑っているとか
そんなのでいいんだよ

足が重いと君が言う
その靴の紐を
雲を分解して作りあげてみよう
すこしは軽くなるかな

君は疲れたと言う
僕は黙り込む
君は何か話してと言う
僕は君と出会った日の事を話し出す
君は懐かしむ
僕も懐かしむ
ふたりとも
照れくさくなって、うつむいて、
ちょっと笑って


視線の先には
形を変え始めようとしている空
見上げれば打ち抜かれる青い空


「9.07」
やわらかく滲み込んだ雨が
体の中に溜まっていく気がした。

細かすぎて宙を漂う雨が、一瞬、雪に見えて
すぐに寒くなって
長く続くことを思い出した。

夢から覚めるみたいに
季節は世界を冷ましていく。

思い出したんだ。
この空気の感じ。

「愛していた」

それだけで
いつまでも溺れていられたのに。


「9.09」
いつからか
自分だけが満足するために

寂しく笑うその横顔だって
見落とすようになっていた

こぼれた
掌に収められていたはずなのに
溢れ始めたんだ

大袈裟に降る雨みたいに
僕を何度でも打ち続けてよ

穴が開いても
触れたいよ

遅れたけど
取り戻してみせるよ


「9.11」
僕が
最後に見たのは
壁の質感

浮かんだのは
あの時の君が言った事

幸せなら
あげられるから
その時は
名前を呼んでくれよ


「9.18」
雨の日は
記憶が映し出される。
雨雲はスクリーンに変わる。

誰かの言葉を思い出した夜。

君は似てなど居なかった。決して。
ただ自分自身を僕に映して見ていただけだったんだよ。


「9.22」
何も残さなくていいように
君が君を大事に出来るように
僕は眠る前に祈るから

透明に暮れていく日々の中で
はじめもおわりも無かったかのように
静かに静かに、忘れてください

綺麗な人
綺麗な人

君の眼に映る資格は
僕には無かったんだよ


「9月の花火から」
薄い膜が濃くなった
僕の背中には無表情にも壁
圧迫してくれる
やっぱり君は背中で潰してくれるみたい
後ろ髪で
どうぞ
窒息させてくれ
もう、いい
ここでの僕らはもう
意味がないんだよ


「10.04」
膨れた気持ちはいつか破裂してしまうよ
それはきっと膨れすぎてじゃないんだ
途中で苦しすぎて自ら針を刺すんだよ

やぁやぁ
針は要らんかね

割れた衝撃
その後に訪れる耳鳴りと沈黙の中で
君はきっと見つけるよ

やぁやぁ
針は要らんかね


気づいたら
気持ちを縫い直そう
針の穴には赤い糸
チクチクさせて肩凝って
ふたりで笑いながら
縫っていこう


「10.07」
積みあがったら
また壊す
何度でも壊すよ
僕の多様は
自分でも手に負えないぐらいだから
君が掴まえようとしたって
到底、無理な話だよ

置いていかれたいみたいに
君は突き放すような態度を取る
僕は姿を消すけど
君が触れられる場所には必ず居る

いつかお互いが
気負うことなく前を見れれば
僕らはもっと素直になれるはず
空を見た
月が床に差している
風が西から吹いて
雲を攫っていく

あんな風に攫いたい
君を取り巻いてる全てを
僕は攫いたい
「僕から君へと」

流れから流れへと器用に移っていく
あの魚達のように
冷たい空気の中もまるで意に介さない
あの小鳥のように

懸命に注ぎ込もう

僕にできるのはきっとそれだけ
応じなくったっていい
君は自由に生きればいい


「眼」

どんなに近づいても遠くに感じてしまう。
磁石みたいに見えない力が作用してるみたいで。

ほんのわずかでも
君が僕のほうに向いてくれれば
それだけで僕は安心できるのに。

それとも見えないのではなく
見えていないだけなんだろうか。

僕の眼はすぐに濁るから。


「結局そんな事」

カマキリのように狡猾に残忍に
鋭く尖って君に突き刺さりたい

世界征服を企むあの人は本物
ステッキに軽く身を預けては
シルクハットから烏を出すのさ

全世界の住人達は今日も坂道を歩いているのか
つまりは坂道云々じゃなくて天気の話なんだろ?

向かいの席の彼女は物憂げに考え事をしているようだった。
窓の向こうには夜が続いていた。


「下へ」
やわらかい声で私を包み込んで
時間という概念を消し飛ばして
時に軽薄に時に濃厚に
傷口を舐めて吸い出して

私に日々あなたが刻み込まれていって
心はただ溺れていくばかり

背後から私の眼に黒い布を
夜が明けるくらいに忘れることのないお遊びを

撫でながら壊すように愛でて下さい

あなたの爪先に口づけを


「前髪」
鋏を立てに入れて前髪を切る。
ザクザクと不器用に無心に前髪を切る。
私が今こうしている理由は
前髪が切りたいからじゃなくて
鋏の音と落ちていく前髪に
沈み込んでしまいたいからだけなんだ。
五分後に水道の蛇口をひねって、電気を消した。


「可愛いあの子」
可愛いあの子に何ができるの?可愛いあの子に

可愛いあの子の読む本は詩集が多くて
公園のベンチでよく読んでるよ

可愛いあの子が歩く速度はとてもゆっくりだけど
見ていると逆に周りが忙しなく感じる程さ

可愛いあの子も見ているよ
可愛いあの子は笑ってる
可愛いあの子にキスをしよう

六月十日の昼下がりにね
可愛いあの子を見かけたよ
信号待ちのあの子は遠くを見ていて
視線の先を探してみたけど
結局何もなかったよ
視線を戻すと知らない間に壊れていたよ
音は後からやってきて
気づくと全部は終わっていたよ

可愛いあの子に会いに行こう
可愛いあの子と話をしよう
可愛いあの子が笑ってる
可愛いあの子はもう居ない


「日常を思い描いて」
鋏を手にして何を切るというのだろう
午前三時過ぎに食べたものの後味の悪さ
最悪で儚かった記憶
手の中の五百円玉で行きたい場所まで行ったあの朝
列に並ぶ事に疑問なんて感じてなかった
遠くでも近くでも犬は鳴いていた
知らない言葉を使って酔いしれたら楽だね
会員証もう更新だって
こんな事で泣くのは絶対嫌だ
時間がないなんてただの言い訳だって事ぐらい知っている
左目と右目の景色の違い、わかる?
赤い首飾りをしたあの人が好き
空から降ってきたペンギンの恋人を見つけに行こう
アスファルトの写真ばかり撮っていたら肩が石みたい
ザクザクってとても爽快な音
ほぐしてあげられない僕の下手な整体

「セロハンテープ」
セロハンテープの裏側に立たされていた僕は
いつしか接着力が無くなって落ちていった
表側に立っていた君はすらすらと何事も無く歩いていく
透明のその道をバランスも取らずに歩いていく
その先に銀の茨がある事も知らないで


「放ち」
遠ざかれば愛しいか?
失くしたら満足か?
驕りはもうたくさんだ
君の言葉は聞き飽きた
もうロボトミーでいい
ダストシュートを取り付けてくれ
換気扇に吸い込まれていく煙を眺め続けた、眺め続けた、
遠くで落雷の音が聞こえて雨の匂いが立ちこめた
さようなら、と、泣きながら笑っていた
トローチの穴から覗いた五月の世界
コウモリは弧を描く
無造作に置かれているようで繋がっていると思っているかい?
笑う、笑う、笑う、咳。
マジョリカマジョルカを1秒で言う。
甘えられて甘え返す
既に半壊はしている精神状態には白い柔肌を
紙の束が宙に舞った
僕は少しだけ前髪を触る
彼女は音を響かせて歩く
そんな声だから少し気持ちが揺らいだ瞬間
処理しきれない面影
長く伸びた二つの影。

「浴室」
明け方の浴室で
僕は
ただの憂鬱な一滴になったんだ。
青さにまだ見慣れない内に
僕は
排水溝へと流れて行った。

蒸発が待っている。


「七月十三日の消失事件」

君の輪郭すら僕はもうおぼろげで
夢で久しぶりに会った君はもうただ水中花みたいで

黄緑色の鳥が三羽訪れる庭先で
赤いボトルのお酒を椅子に座ってゆっくり飲む。
小鳥は時折こちらを窺いながら
少しずつだけど確実に実を食べていく
食べられていく実は少量の液を垂らす
それは涙のようにも思え
悦びの唾液にも思える

二人の間に言葉が要らないなら
その上唇と下唇は縫われてしまえばいい

二人失くした。同一人物。福沢という人間。
彼らはどこかへと紙切れに乗って消えてしまった。
七月十三日の消失事件。
それは午後二時過ぎの出来事だった。


「深淵」

もういい
3gの言葉
積み木のような優しさ
そして明日も俺は三文芝居
面を付けては誰と話すか

腐乱していく心臓よりも上の方

水滴は鉛に変化し
湖面の水は淀み濁った

どこまでも落ちていく鉛

掬ってくれようとしている手も
肘を掴んで引き込もうとしているのか

ここは、深淵
一閃さえ許されない場所

「体内」
瞬く間に煌きなんてものは萎んで
なんの痕跡も一切残さず消えるのです
瞬間を楽しめる余裕はもうありません
思い出の重量で押し潰されそう
やがて汚染されて朽ちていきそうです

起き上がれば広がる黒い穴のような影
眠れば蝕まれるが拒めない

髪の毛をまた切りに出かけました
ジョキンジョキンジョキンジョキン
もうバラバラだ
あれもこれもだれもかれも

ザンザン
ノイズが縦に横に走り出す
ザンザンザンザン
神経もベクトルを見失う


寄生されている
誰か
取り除いて


「その先」
口火はいつも笑えるぐらいの事
先へ先へとまた赴かれたようです
そちら側へ連れて行ってよ
邪魔はしないから

ひび割れた地面なら雨を待とうよ
二人なら待つ時間も苦しくないはずだから

あなたはどこを見ている?
視界をわたしの手で遮った
わたしで埋めてしまいたかったから
あなたは笑っていた
わたしを見透かしたように笑っていた


「隙間無く」
人が人をやめた時
何が見えるというのだろうか

決壊したのは外側からの圧力か
それとも内側からのものなのか

何かに縋りたいのなら
この手を掴めばいい
指間の隙間が無くなるほどに
握り締めるから

密閉して
僕らは
濃く染まって


「15日、雨 」

晴れた日にしか幸せは落ちていないと思っていた

君が口から溢す赤いジャムを仰向けになって受け取る
黒い粒は蟻のよう

乗客が自分だけのバスはきっと目的地には辿り着かない

ライターのガスの音だけを何度も聞いた何度も何度も

濡れた足首で胸の中央を踏み躙られる

髪の毛を口に含んだ
細い、髪の毛だった


「眠る前」

たとえ西と東の端っこに僕らが居たとしても
繋がっていることを
実感できるんだ

この、空が、
姿は違えど
どこまでも広がっているように

花が
毎日、わずかに開いていく様を
そして静かに老いていく姿を
目に、留めておきたい

触れていくすべてに
惜しみない優しさを。


「銀」

切り取り線の上を、鋏でじょうずに切って下さい
カッターではダメです
あれは切るよりも裂く感じの方が強い
切る感覚を楽しんでください
ゆっくりゆっくり力を込めて
最後は
イイ音を鳴らして落として下さい

切り離されたなら
転がって落ちて
形ないものへと混ざっていくだけ

冷たくて大きな鋏
錆びてしまわないように手入れは怠らないで
冷たくて大きな鋏
この手には持て余した


仰向けに落ちた

冷たい感触は残って

目を開いたら、銀の粉が降っていた


「戯れ」

夜の暗さが怖いなら
太陽の代わりを務めるさ

静寂で自分の声も失ったなら 
笑わせて思い出させてあげるよ


どうなったって

君だけは守るよ


「いまごろ」

何をしたくて
ぼくときみは付き合ったんだろう

たぶん
付き合うっていうのは流れでなっただけで
ただ
きみに好きだって言いたかったんだ

ありがとう。
それだけで終われれば幸せだったのにね。



「12.09」

家を出た瞬間の
空の高さ
染まっていく時間の尊さ
かけがえの無いこと
きみの癖

ほしいものは
ガラスケースの向こう側
厚くて冷たいこの壁を
飛び越えられる
わずかな気持ちを
ください
神様。


「12.11」
いつも見ている並木道
冬が枝を揺らして葉を落として
すべて落とし終えた木々たちは
これから少し目を瞑る
息を吹き返すのはまだ先の事
僕はそれまで何を見よう

白色の世界で
僕は誰と遊ぼうか

影が消えてしまう前に
息を切らさなきゃ


「12.20」
きっと
このまま
最初から何もなかったみたいに
消えていってしまうんだと思う
あれはなんだったんだろう。なんて
たまに
思い返したりして
天気雨みたいなあの人は
またいつか
気まぐれに
顔を見せるんだろうか

悲しみ
受け入れることの難しさ
そう易々と
好きなように自由にできるなら
こんなに腫れたりしないよ

壊したなら
元には戻らなくても
そのままで置いておかないで
上手に誤魔化してください


「1.06」
夜、丘からの景色
ひとつ、ひとつ、確かなもの
あの時、遠く感じたのは
あまりにも、肌が冷たかったから
声が掠れて
時々、車の音が、後方で。
きっと僕らもこのままだから
要らないモノは
この夜の内に
くべてしまおうよ


「1.29」
電灯が切れる瞬間の
チカチカ
鼓動のような明暗
チカチカチカ
元の色を忘れる
チカチカチカチカ
掻き乱されて昨日が明日になる感じ

プツン
落ちた
輪っかの中で暮らしていた
光るネズミは落っこちた
落ちたら空気中に溶けてしまったよ
走り続けてないとダメみたい
また探してこないとね

休日の曇り窓に
誰の事を、描いてる?
確かなのは
指先の冷たさだけだよ
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