2013年6月15日土曜日

2013年上半期の10枚


くまだよ〜。順不同。




Razika
「P vei hjem」
Gang på Gang

上半期の再生回数ぶっちぎり一位。
Savages
「Silence Yourself」
I Am Here(Live)
Tegan & Sara
「Heartthrob」
Closer

カーリー・レイ・ジェプセンに取材できたのも素敵な思い出
Eleanor Friedberger
「Personal Record」
Stare at the Sun
The Spinto Band
「Cool Cocoon 」
What I Love

なんて牧歌的なビデオだ…
Maylee Todd
「Escapology」
Baby's Got It

Stellar Om Source
「Joy One Mile」
Elite Excel

これぞシンセ女子!
Nicholas Krgovich
「Nicholas Krgovich」
The Backlot

“ここまでロマンチックなアルバム、リアルタイムで出会ったことなくて反応に困る”とツイートしてた
Dumbo Gets Mad
「Quantum Leap」
Bam Bam

ここで全曲聴ける。
Beady Eyeの新作とともに見逃せない上半期の乳首ジャケ
“あの乳首に好きなだけシールを貼りゃいいさ。俺はシールなんて貼らねーよ、舐めてやるぜ、ハーハーハー!”(早く読みたい)






Everything EverythingやDutch Uncles、Deerhunter、Camper Van BeethovenにDJ Koze、
Noah And The Whaleとかも超聴いた。韓国のもたくさん。あとJohn Grantにヴァンダイク。どれもよくって、順番なんてとても…


曲単位なら↓この3つが特に大好き。





Kacey Johansing - Pinecone  







YAST - Strangelife






Veronica Falls - Teenage

このブログのイラストは最高にキュートですな!!!!)




下半期はいよいよ出るPolly Scattergoodの新作にまずは期待です。新曲もなかなか。

2012年8月31日金曜日

Trampaulineがやってくる! 9/6@o-nest



9月も楽しみなライヴがたくさんあるけど、個人的にたくさんの人に観てほしいと強く願っているのが
Trampauline(トランポリン)。チャ・ヒョソン(写真左)を中心に結成された、韓国のインディーシーンでもひと際輝く知的でクールなシンセポップ・ユニットだ。去年の秋に紹介してもらって以来のお気に入りで、今年の6月にリリースされた2ndアルバム『This Is Why We Are Falling For Each Other』の国内盤では解説も書かせてもらうなど、すっかり惚れ込んでしまった。

躍動感のあるイメージを意識して名付けられたというバンド名。ヒョソンは小さい時に祖母の家にあったトランポリンで飛んだり跳ねたりして遊んでいたという。「四角い箱よりも、うねうねしたタコみたいになれたら」というヒョソンの発言どおり、バウンシーだけど押し付けがましくないリズムと、韓国ポップス特有の哀愁ただようウェットなメロディ、そして“Trampoline”でなく“Trampauline”とひねってしまう、現代的なユーモア(彼女いわく「少なくともグーグルで検索しやすくはなったわよね(笑)」)がこのユニットの魅力。最近のお気に入りとして、セイント・ヴィンセントやメトロノミー、ジョニー・ジュエルなど新進気鋭のインディー・アクトを挙げていたけど、彼らと同時代らしいセンスを共有しつつ、オンリーワンな個性も放っている。




日本でもここ最近シティポップが再評価されてきているけど、トランポリンの音楽もきっとソウルの街並みによく映えるんだろうなと、行ったこともないクセに勝手に妄想している。酔った男女が二人の秘密を胸に、白バイに追いかけられながら夜の街を疾走する「Bike」という曲があって、まばゆいネオンの光と少女の淡い恋心が交錯するようで、なんだかドキドキなのだ。男の下心を見透かしながら、ほろ酔いでつかまって「家まで連れてって」と懇願する女の子。するどい観察力と抑えきれない感情とともに、私小説のような筆致でアナログシンセの響きは揺れる。肌の温かみや涙の粒にまで触れてしまえそうな、こんな人間臭いダンス・ミュージックはそうそうない。

恋愛観についてヒョソンに尋ねたら、ジョン・カサヴェテスの映画『ラヴ・ストリームス』を引き合いにだして、「愛とはとめどなく流れるもの。あちこちに揺れて、注がれたり移りまわったりする。一度でもその動きが静まると、まわりの世界も止まってしまう。そして、あなたは死ぬ」と答えがきた。そのあと、ちょうどいいタイミングでシアター・イメージフォーラムにてカサヴェテスの特集が組まれたので、ぼくも『ラヴ・ストリームス』を観てきて、震えて、彼女の言葉と音楽の意味がわかったような気がした。

あなたはずっと前から知っている人
ずっと前に失った人
あなたみたいな人を愛したことがある
それがあなたに恋した理由
あなただってそんな恋をしてきただろう
だから、初めての恋みたいに私を愛してほしい

「Love Me Like Nothing's Happened Before」はこんな感じの曲。「まるで運命の出会い!」みたいな恋はドラマを除けばそうそうなくて、寂しいから寄り添って、こじれて別れて、けっきょく傷ばかり増やしてしまう。だから初めてのような恋をしたい。不器用にこんがらがって、みっともなく泣き暮れて、だけど人生は進むし、愛されたいし愛したい。すぐれたアジア映画にあるのと同種の、無常感と生への渇望。曲調がクールで軽快だからこそ、背景にあるであろう紆余曲折がより浮き彫りになって、想像するとなんだか泣けてしまう。佇まいはキュートでファッショナブルだけど、根っこには複雑に渦巻く何かがある。そんな彼女の曲が、もうすぐ渋谷のラブホテル街の一角で鳴り響くと思うとワクワクしてしまう。

トランポリンの大ファンだという麓健一や、on button downの共演も嬉しい。DJ出演のtwee grrrls clubさんのブログには「同じアジアにこういう感覚の女の子が居る事がなによりも心強いです。」とあるけど、政治情勢がこじれてる今だからこそ、この素敵な音楽のうまれた土壌についてもっともっと知りたいです、個人的に。何はともあれ、今から本当にたのしみ!


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Trampauline
『This Is Why We Are Falling For Each Other』
now on sale













【Trampauline – Live in Tokyo @渋谷O-nest】

■2012.09.06 (木)
[TIME]OPEN: 18:30 / START: 19:00
[ENTRANCE]ADV: 3000 / DOOR: 3500 (ドリンク別)
[PLACE]渋谷O-nest
渋谷区円山町2-3 6F
TEL :             03-3462-4420      
HP:http://shibuya-o.com/nest/2012/09


[LIVE]
Trampauline(from KOREA)
on button down
麓健一

[DJ]
Twee Grrrls Club


▲各プレイガイド(発売中)
チケットぴあ179-537
ローソンチケット79987
イープラス
O-nest             03-3462-4420      

▲ご予約フォーム(受付中)
http://www.artuniongroup.co.jp/newtok/top/trampauline_yoyaku/


主催:NEWTOK:http://www.artuniongroup.co.jp/newtok/
協力: IRMA records

2012年7月4日水曜日

2012年上半期ベストアルバム

今年も半分終わっちゃった~><とりあえず上半期の20枚だよ~.。.:*・゜゚+。:.゚ヽ(*´∀`)ノ゚.:。

解説その他リリースに絡んだものは今回抜いておきました
(いずれも内容は超最高なので、ぜひ手にとって聞いてみてください)。


アルバム名に各作品のリード・トラック or 自分が好きな曲 or bamdcampのリンクを貼ってあります。
本当は一言コメントもあればいいんでしょうが、20枚ぶん一度に書くのは大変なので
気の利いた日本語記事のリンクも添えておきます。ごめんあそばせ。



1.The Chap / We Are Nobody →[記事]
揺れる脂肪で視覚的効果を生みだすこのMVに顕著な、一筋縄でいかない悪意をふりまいてきた彼ら。かたやこの新譜は、これまでの作風からは信じられない失語症的な虚無感に包まれていたのであった。スティーリー・ダン経由の端正なソング・ライティング、淡々と重ねられるグルーヴィーな演奏。目を惹くコンドーム・ジャケは冷ややかで無機質なシンセ音の肌触りと、絶望的に生きづらい現代への去勢不安(言いたいことも言えないこんな世の中じゃ…)の象徴だ。UKメタポップ・シーンにおけるひとつの到達点。2012年のアルミナム・グループ。Gotyeも大のお気に入り。



2.Hoodie Allen / All American

Jhameelと共演&高速ラップ!ミックステープで火がつき、 普段ヒップホップに縁がなさそうなリスナーを中心に支持層を拡大している元Google勤務のインテリ新鋭。本作はiTunesチャートで一時ニッキー・ミナージュをも追い抜き、ビルボードでも初登場10位。過去にはマリーナ・アンド・ザ・ダイアモンズなどをサンプリングしており、トラックはインディ・ロックとの親和性が高い。







3.Maya Vik /Château Faux-Coupe [記事]













4.Kishi Bashi / 151a →[記事]














5.Saint Etienne / Words And Music By Saint Etienne

音楽原体験を描いた歌詞が泣ける一曲目や若手リミキサー陣からのリスペクトっぷりなど、時代の要請もあっての感動的な復活作はベテランから届いたポップ殉死宣言。





6.La Sera / Sees the Light →[記事]

一番素晴らしかったのはディスクユニオンの購入特典だが、ヴィヴィアン・ガールズ本体を含めてもケイティの最高傑作だと個人的には思います。ドラムがまたよいのだよな。









7.Jenny Owen Youngs / An Unwavering Band Of Light

イングリッド・マイケルソン、ベス・ロジャースらとニューヨーク州立大学パーチェス校繋がりで交友も深い(同じく同校出身のレジーナ・スペクターのサポートも務めた)女性SSWの三作目。前作でのパワフルなバンド・サウンドにさらに磨きがかかり、持ち味の泣きメロも一層冴え渡っている。2曲目最高!







8.Regina Spektor / What We Saw From The Cheap Seat [記事]













9.Norah Jones / Little Broken Hearts [記事]













10.First Aid Kit / The Lion's Roar [記事]













11.Chloë Sunshine / Indian Summer

正確には昨年12月15日リリースだが、あまりに出来がよくてキュートなのでランクイン。多幸感あふれて甘酸っぱいカリフォルニア・ポップ。オレはベスト・コーストより断然コッチ派。









12.Hot Chip / In Our Heads

先日のライヴはアゲアゲ♂でちょー最高だったが、このアルバムで素晴らしいのはそこでは披露されなかったメロウでビートリーなナンバー。モロにトッド・ラングレン「友達でいさせて」な「Now There Is Nothing」、ギャング・ギャング・ダンスのリジーとのデュエット「Always Been Your Love」あたりは何度聴いてもウットリ。アレクシスはソロ名義でもアバウト・グループでもいいので、一度カッチリ作り込んだSSW作品をつくってほしい。





13.fun. / Some Night

もはや西城秀樹の顔しか浮かばない伝説の作品。例の名曲はJhameelもカヴァーしている。










14.Hospitality / Hospitality [記事]

旧友を歌った「Betty Wang」の歌詞がウルっとくる。洒脱。











15.Bright Moments / Natives

Beirutのメンバー(ラッパ担当)でもあるKelly Prattのソロ作。これを渋レコメンしてたのはたしかに渋いというか、さすがルアカ・バップというか。









16.Marthas & Arthurs / The Hit World Of... Marthas & Arthurs [記事]

CDを注文したら手書きメッセージも封入されてました。LOVE!










17.Here We Go Magic / A Different Ship [記事]

世の中には近年のレディオヘッドがまるで響かなくても、ペイヴメントの最高傑作は『Terror Twilight』で、ベックの『Sea Change』やエールの『Walkie Talkie』に今でも夢中な人間が相当数いるはず。このアルバムも神ナイジェル炸裂。








18.Hunx / Hairdresser Blues [記事]

「Do You Remember Being a Roller?」は曲名どおりベイシティローラーズ賛歌であり、ニック・ロウのいたタータン・ホード「憧れのベイ・シティ・ローラーズ」の伝統も踏襲しているとのこと。すばらしい!








19.Alex Tedesco / Pretty Lies

基本は太く重い声を軸にしたサイケ・フォークだが、随所に挿入されるノイズやエフェクトがいちいち過剰。たぶんThis Heatとかも好きなんだろう。Xiu Xiuやダープロが大人になっていく姿に一抹の寂しさを覚えた人向け。ちなみにフリーDL作品








20.Sophia Knapp / Into the Waves [記事]

これもフリートウッド・マック臭全開な作品。アルバム通しての平板さが逆にクセになる。



※おまけ

★邦楽で5選















・タニザワトモフミ / 何重人格
・ventla / anti-vivant
・転校生 / 転校生
・Doit Science / Information
・みみみ / もしもニアンファミリーズが一人なら



★アルバム全体はちょっと…だけど曲単位で好きだったの3つ







2012年1月10日火曜日

物忘れ&後だし~Andreas Dorau『Todesmelodien』(2011)

すっかり年間ベストに入れ忘れていたが、アンドレアス・ドラウの去年の作品もポップ・フリークにはたまらない内容だった。パレ・シャンブルグ再結成(乞・来日!)、ピロレーターの超久々の新作とノイエ・ドイチェ・ヴェレ(=New German Wave、ドイツの80'sニューウェーヴ/パンク)のオリジネイターたちがここにきて元気にがんばっているが、そのなかでも更年期障害的な狂気を感じさせるドラウ先生のアルバムは異彩を放っていた。

そういえば、NDWを代表する名レーベルATA TAKからかつて発表されたDIE DORAUS & DIE MARINAS名義の1st『Blumen Und Narzissen』(写真左)と2nd『Geben Offenherzige』が今年の2月にBureau B(先述のピロレーターの復活作やファウスト、クラスターのローデリウスの作品なんかも出してる)から再発されるようだ。どちらもすばらしい作品なので素直に嬉しい。アマゾンでもめっちゃ安いし
ドラウといえば、何はともあれ1stにも収録の「Fred Von Jupiter」だろう。ヨレヨレのヴォーカル、へなちょこ電子音、へったくそなコーラス。緩いダンスも宇宙船の安っぽい描写も完璧な、80年代を代表するエレポップ。16歳のとき夏休みの課題でいやいや作った…というエピソードも有名だが、実際に大ヒットしてドイツの子どもはみんな口ずさんでいたそうだから驚きだ。詳しくはこのレコ評を読んでもらえれば、上記の再発2枚も絶対買いたくなること請け合い。
覚えたて30分のズサンなシンセ演奏をバックにヘボ甘ボイスで愛を囁き、まわりに侍らせたアーリーティーンの女の子たちに「アタシもうあなたにメロメロ」とコーラスさせる。ロリ趣味全開の変態キュートなテクノポップは、どこまでものんきで、人を食っていて、ちょっと情けなくて。




そんなドラウも去年で47歳。すっかりオジサンの仲間入りしたわけだが(といってもデビューが早いだけあって、80年代組としては若いね)00年代に入ってからも老いてますます狂ってる。これらの作品が言及されているのをあまり見かけないのは残念だが、いかんせんショップでも置いてるのをそんなに見かけないし、当時大ファンだった人もリリースされていることすら知らなかったりするのかもしれない。いや、本当にいいんだって! その健在ぶりは去年のアルバムからのシングル「Größenwahn」のアートワークを見てもらえば一目瞭然だ。


みよ、このセルフカヴァーっぷり! 少年の心をもったまま中年になってしまったかのようなピュアな眼差し。(頭のなかだけ)永遠の16歳! 田舎の通学路で子どもにお菓子でも配ってそうだ。「Fred Von Jupiter」以降も「Junger Mann」「Girls In Love」「Das Telefon sagt Du」などキャッチーな楽曲を連発してきた彼だが、この曲もそれらに負けず劣らずポジティブなヴァイヴに満ち満ちている。同曲のsoundcloudのページについているコメントで「beach boys 2.0」と評している人もいるが、ドラウ流のスペクター・サウンド解釈といった趣もある。ちなみに"Größenwahn"とは誇大妄想のことを意味する。




Andreas Dorau - Größenwahn by staatsakt


その"誇大妄想"で幕を開けるアルバム『Todesmelodien』は、"死のメロディ"を意味するタイトルどおり、ドラウ史上もっともシリアスなレコードとなっているそうだ。脇に挟まれているのが青春期の象徴といえる『キャッチャー・イン・ザ・ライ』のハードカバーとジョンとヨーコの『Double Fantasy』のレコードというのも意味深である。しかし、歌詞を踏まえずに聴けば内容のほうはその重いテーマを微塵も感じさせないポップで屈折した楽曲がずらりと並んだメルヘンチックな中年ドラウワールド全開である。
05年の前作『Ich Bin Der Eine Von Uns Beiden』がキラキラしながらも腰の据わった年齢相応の美しいアダルティ・ディスコ
作(イアン・マシューズAOR時代の名曲「Man In The Station」をサンプリングした「40 Frauen」や、カーリングの映像も美しい「Kein Liebeslied」を聴いてもらえれば)だったとすれば、『Todesmelodien』は2011年に隆盛を誇ったエレポップのどの曲にも負けないナウでヤングな瑞々しさがある。




先述の「Größenwahn」や、冬の枯れ木のなかをひとり彷徨い歩き転がり回る、惨めで滑稽きわまりないビデオも泣けてくる(2分半あたりで出てくるキノコが不気味…)「Stimmen in der Nacht」を聴けばそのハイクオリティっぷりに唸らされるだろう。スネオみたいな歌声も相変わらず魅力的だし、バックトラックの表現の豊かさに唸らされる。アルバム後半に収録された、DJ諸氏が喜びそうな四つ打ち「Inkonsequent」「Und Dann」は、脂の乗ってきた若手…たとえばLo-Fi-Fnkあたりと繋いでも違和感がなさそう。

このフレッシュさは参加している面々の影響も大きそうだ。本作の独特の浮遊感はマウス・オン・マーズのAndi Thoma、DJ KozeやCosmic DJとのユニットであるInternational Ponyの活動で知られるCarsten"Erobique" Meyerの貢献が大だろう。ほかにも、日独合作ピンク映画『おんなの河童』(最高だから観たほうがいいよ~)にデタラメ日本語テクノ・ポップを提供したことで話題になったステレオ・トータルのFrancoise Cactus女史や、80年代から現代までエレポップ・アイコンでありつづけるインガ・フンペなども参加している。すばらしきかなドイツ人脈!
ってことで、最後にこれらゲストの名曲を下に貼りつけて自己満足的にこの項おしまい。個人的にも大好きな人たちばかりで、『Todesmelodien』が傑作となったのも必然といえば必然。







2011年12月31日土曜日

きちくまの2011年ベスト・アルバム30選 その4 #3-1



3.White Shoes & The Couples Company / Album Vakansi

一応先に註釈しておくと、本国インドネシアでは昨年発表されていた作品だが、日本とアメリカでは今年リリースされたので、遠慮なく今回の30選にも加えさせていただく。
本作の解説の依頼をいただいてからというもの、今日まで思い出しては取り出して聴き入ってしまう愛聴盤になってしまった。英米のロックにはない、エキゾチックで素朴な陽気さと渋谷系も真っ青の都会的洗練が絶妙なバランスで融合しているのがすばらしい。本人たちの佇まいにも惚れ込んでしまったし、曲のクオリティーも高く、夏に聴きたいパワフルなソフトロック。これは5年ぶりとなる2作目のアルバムでいい意味での脱インディー色を果たし、楽曲のアレンジも華やかに。こういう爽やかな音楽こそラジオで流れてほしい!




ローリング・ストーンズ紙(米のほう)が選んだインドネシア・ソングのオールタイム・ベストにも前作(こちらもぜひ聴いてね)収録の名曲「Senandung Maaf」が129位にランクインしているところからも国民的なインディー・バンドであることがうかがえるが、同じく121位にランクインしている伝説的歌手Fariz RMの「Selangkah Keseberang」を本作中で本人を招いてカヴァーしていたり、150位のMocca(こちらもかの地で名を馳せる素敵なギターポップ・バンド)の2011年7月のラスト・ショウで共演を果たしていたりと、調べれば調べるほど現地シーンの相関関係が見えてくるのも新鮮でおもしろかった。
このアルバムは文句なしの傑作だし詳しい話はぜひ日本盤を手にとって解説を読んでもらえると幸いなんですが(宣伝)、とにかくこの超かっこいいバンドを日本でも観たいです。生で拝みたくなること請け合いのライブ動画その① その②。あと、ヴォーカルのAprilla Apsari嬢はバイク好きであると同時にイラストのセンスがとんでもなく抜群というのも萌え情報として付け加えておこう。








2.Ventla

かつてプラモミリオンセラーズ名義で2枚のアルバムを残している鈴木周二氏によるブログ「買ったCD」(まんまですな)を一時期愛読していて、ここからメンヘラ歌手Polly Scattergoodやウルグアイの天才SSWのMartín Buscagliaだったりを知ることができて大変ありがたがったのだが、今年に入ってパタっと更新が止まってしまった。あららと心配していたら、更新に飽きたので変わりに音楽を作ると表明。そうして突如始まったプロジェクトが"宇宙船"を意味するというVentlaである。
tumblrにあるように100枚のフリー・ダウンロードできるアルバムを作ることを宣言し、実際に7月に最初の3枚が発表されてから大みそかまでに10枚のアルバムが発表、掲載されている。とんでもない制作スピードだ。
キャッチーながら毒とひねりをもつメロディーとヘタウマな歌い回し、一曲の短さと情報量の密度の濃さ…などの特徴的な作風はそのままに、エコーの効きまくったメランコリックなシンセ・ポップへと接近。露骨にチルウェイヴを意識した音世界を展開している。90年代アイドルポップやハロプロの熱心なファンでもある(こんなブログもされているし、プラモ~時代にはMy Little Lover「Hello Again」の秀逸すぎるカヴァーを残している)氏の手による哀愁メロディと多種多様の機材(右下に記載)を駆使したドリーミーな音響(かつてのトイポップ的な妙味も随所で顔を出す)のコンビネーションが心地よすぎて、どこか昔のSFにも通じる懐かしさを訴えかけてくるよう。
今年はネットレーベルやらbandcampやらの盛り上がりが見逃そうにも見逃せず、海外ブログも巡回しつつフリー・ダウンロードできるアルバムやミックステープを漁りまくってみたが、Ventlaはアートワークもハイセンスだし(※追記→メロディや歌詞より先にアートワークありきとインタヴューで答えてる!!)、企画も内容も世界中のどれよりも正直一番おもしろかったし感情移入できた。90年代渋谷系の時代にデビューし、最新の音楽も聴きまくり流行を押さえている方だからこその懐の深さ。実際、ネット上でも当然のように話題になり、第三者によるVentla音源オンリーのmixもつくられている。
とりあえず現時点で4時間近い音源が発表されているわけだが、楽曲でいえば「匍匐前進」(『paralyzed』)「twilight boombox」(『paracusia』)「trig」(『ten』)あたりが特によい…っていうか個人的に好き。氏のlast.fmによるとBuono!をめちゃくちゃ聴いているみたいだし、マックス・ツンドラともこんなやりとりをしているし、好きになる要素しかないです。






1.Architecture In Helsinki / Moment Bends

長々とここまで書き連ねてきたが、今年一番嬉しかったのは昔から大好きだったこのバンドが復活して文句なしの最高傑作を届けてくれたことだ。先行発表されたシングル「Contact High」はそれから一週間で50回くらいリピートしたし、アルバムもお腹いっぱいになるまで聴いてるつもりで未だにぜんぜん飽きない。これが万人にとって今年を象徴するアルバムになりっこないのは俺だってわかってるが、一番楽しくてポップなアルバムということならこれを推すしかない。マジでカムバックしてくれてありがとう。

03年に最初のアルバム『Fingers Crossed』をリリースしたとき、オーストラリア・メルボルン出身のこのバンドには8人もメンバーがいた。リコーダーや木琴にフルートなどを持ち替えながら、和気あいあいとアンサンブルを奏でる典型的なトゥイーポップ・バンドだった。次の『In Case We Die』は賑やかさを維持しつつもダンサブルな色合いも強くなったコンセプト作で、対となるリミックス・アルバム(ホット・チップやDAT Politicsも参加)も充実した内容となり、kitsuneのコンピに曲が収録されたりもした。三作目となる『Places Like This』はPolyvinylから。野性味あふれるエレクトロ・ファンク路線へと変貌し、トロピカル風味は2011年の空気を先どっていたと言えなくもないが、実際このころには初期の可愛らしさが抜けて別のバンドみたいになってしまい、作品のクオリティーは依然として高いもののメンバーも2人減ってしまう。
来たるべき4作目は『Vision Revision』になるというアナウンスが流れてからしばらくして、公式ページの更新のほとんどが止まってしまう。煮詰まった予兆は三作目からのEP『Like It Or Not』に収録された「Beef In A Box」あたりで当時から感じられたが(プログレばりに凝っているファンク・ナンバー。俺は好きだけど…)そこからなんとか持ち直し、2年の年月と辛苦をかけて本作はつくられた。気がつけばバンドは地元の優良レーベルModularに移籍をはたし、メンバーはさらにもう一人減っていた。




↓↓↓




写真で見比べても結構な変化だ。老けたなって正直最初は思った。ピッチフォークは本作『Moment Bends』のレヴュー冒頭で読者にこんな疑問を投げかけている。
早熟でおませなトゥイー・バンドがいつか直面する問題がある。"どのように成長して、おなじみの鉄琴とお別れするか?"
たしかにこれまでAIHの売りといえばチルディッシュな無邪気さだ。過去のPVを観ればそれがよくわかる。メンバーたちがカメラの周りを笑顔でぐるぐる回る「It' 5」。トランポリンで跳ねまわる「Hold Music」。これらに比べれば、本作からの「Contact High」で観られる80年代チックなファッションの紳士による寸劇は若干元気がないかもしれない(楽曲は最高だけどな!)。ジャケットのデザインもこれまでのカラフルなものに比べるとやや精彩を欠いていると思う。
だが、紆余曲折を経ての精力を注いだリリースだけあってとにかく曲の粒が揃っている。80年代風シンセのきらめく虹のようなサウンドも気持ちいいが、本作の(そしてこのバンドの)キモは息の合ったコーラスワーク。男女混声でシンセのフレーズとうまく重なりあい、極上の快楽性を生みだしている(「YR Go To」「Sleep Talkin'」あたりの楽曲に顕著)。本作からは唯一、08年時点で発表されていたシングル曲「That Beep」は当時ピンとこなかったが現在のシンセ・ポップ再興を予期していたかのような節もあるナンバーで、気がつけば紅一点になってしまったKellie Sutherlandの歌声はほぼ全編で大活躍だ。
結果的に隅々まで手が込んで均整のとれたちょっぴり作品となっていて、無邪気だったころが恋しくなくもない。でも、いい歳を迎えてしまった大のオトナが「僕は脱獄者/君も脱獄者」と歌う、とびきりハッピーでバウンシーな「Escapee」を聴いているとそれだけで幸せな気持ちになれる。ちなみにその曲のビデオは親と子の葛藤や巣立ちを題材に扱っている。新進気鋭のニコラス・ジャーやサリー・セルトマンによるリミックスも話題になった「W.O.W.」歌詞もステキだ(たぶん妊娠というか、子を設けることの感動についての曲だよね)。立派に老けて大人になったけど、相変わらず夢見がちで、ロマンチックでヘンテコなことも考えてる。たまに真剣なこともマジメに考える。そういうのに弱いもんで。

きちくまの2011年ベスト・アルバム30選 その3 #10-4

俺だけが感動の年間ベストもそろそろ大詰め。めんどくさくなってきて11位の作品を1位にして残りもぜんぶ繰り上げようか一瞬悩んだが、そんなことしてもしなくてもいつか人は死ぬし、大晦日の夜はぼっちで指咥えて紅白でも観てるんだろうな。あゆ頑張れー。

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10.TV-Resistori / TV-Resistori

IslajaやLau Nauなど日本でも人気のミュージシャンを擁し、ポスト・ロック/アヴァンギャルド寄りなレーベル・カラーで知られるフィンランドのFonal Recordsにおいて特異な地位を築いているバンドの三作目。"テレビの抵抗器"というバンド名のとおり、元々はキーボード主体の緩いローファイ・モンド・ポップを奏でていた彼らだが、機材類のトラブルやメンバーの変遷、そして前作から本作までの5年に及ぶインターバルなどの事情からスタイルを変化。アメリカン・ルーツ音楽や、ベルセバなどのインディー・ギターポップからの影響を反映させたという本作では生楽器主体の素朴なアンサンブルを展開。
まあ、どこをどう聴いてもベルセバよりはThai Pop Spectacular(古いタイ・ポップのコンピ盤)の世界観のほうがまだ近いというか、スタックリッジが田舎のビートルズならこちらは辺境のトゥイー・ポップ奇形児。フィンランド語の響きと屈折した曲調、ミドルテンポ主体の絶妙に微妙な構成、どこか牧歌的な男女混声コーラス…などがビザールな化学反応を起こし、特筆すべき曲もないのにリピートせずにはいられない中毒性を秘めている。誠実な作品だと思うが珍味として味わうのが吉。流行りの青春ギタポに食傷ぎみな人へ強くおすすめ。
◆Tv-resistori: Funtsi
◆Tv-resistori: Voi ei, ei voi olla totta


9.Summer Twins / Summer Twins

仕事もロクにせずに遊んでばかりいた猛省すべき一年だけど、今年に関してはマックス・ツンドラ関連の諸々とこのバンドのリリースに携われただけでも光栄だし誇りに思っている。一年ちょっと前に彼女たちの存在を知り、フリー・ダウンロードできるEP(本作の日本盤ボーナストラックにも一部収録)を耳にして、これが日本に紹介されなきゃウソだとレーベルに進言。本当に店頭に並んでしまい、おかげさまで好評です。ありがたや。
愛くるしいルックスと世界観、女子力抜群のファッションセンスにノスタルジックで甘酸っぱい音楽性の豊かさ…などブラウン姉妹のスター性は群を抜いているだけに、最初に本作のサンプル音源を聴いて全曲モノラル録音だと知ったときはブったまげたものですが、かわいい顔して甘ったるさ一辺倒に媚びず、ハードコアな一面をときおり覗かせるのも惚れどころ。本国アメリカでの所属先であるBurger Recordsはマイナーながら良質なバンドの宝庫で、カセットでのリリースにも熱を入れ、しかもパワーポップを中心に眠れる名盤の再発も活発(モンチコンのこの記事に詳しい。Milk 'N' Cookies最高!)。その流れか、本作のプロデューサーは誰もが知る伝説のハードコア・パンク・オリジネイターである、あのジャームスのドラマーDon Bolles! リリースが遅れるほどの難産レコーディングだったそうで、その甲斐あって出だし好調の一作。もう一皮むけてほしいけど、今だってもっと話題になっていいと思う。ビデオもとーっても秀逸。
◆I Don't Care(FREE DL)
◆Summer Twins - Crying in My Sleep
◆The Good Things
◆一部試聴(レーベルのページ)
◆日本語インタヴュー THE RAY Vol.013 014~015P(from here



8.Starfucker / Reptilians

元々はポートランド出身Josh Hodgesのソロ・プロジェクトとしてスタートしたこのバンドは、00年代の前半に腐るほどあった"良心的な(≒退屈な)"インディー・ソフト・ロック作、そこから一転エレクトロ・サウンドを導入した野心的なEP『Jupiter』を経て名門Polyvynalに移籍。ワイバーン飛び交うファミコンRPG調なジャケットも狙いまくりな自身2作目となるフルアルバムでは、ダンス・ポップからエレクトロ・シューゲイザー~チルウェイヴっぽい音楽性にまで発展していく…って、節操なさすぎる! 中学生レベルのバンド名(ストーンズのボツになった楽曲名が由来。自分の世代的には、先にNINの大名曲を思い出してしまう)と同様に、拘りより先に流行と評価に飛びつく(言いすぎ?)軽くてスノッビーな執念は見事だが、それ以上に見事なのは曲作りの才能で、最初にアルバム序盤の「Julius」「Bury Us Alive」におけるきらめく電子音の渦を浴びたとき気持ちよすぎてどうにかなってしまうと思った。MGMTあたりにも通じるヒッピーライクなファッション、作中に思想家/研究家のアラン・ワッツのダイアローグを挿入するセンスなど鼻につくところ盛りだくさんで、どうしてこんなに好きになったのか自分でも謎だが、どこか安くて俗っぽいセンチメンタリズムに涙してしまう。この写真とかもチャラくて泣けるもの。にしても、今年のPolyvinylはディアフーフ、カシオキッズ、Loney Dearと良作ぞろいだった。
あと今さらの話をすれば、先述したEP(09年作)に収録のシンディ・ローパーのカヴァーは今もいろんなところで耳にする定番で、あらゆる女子がキャッキャと跳ねる鉄板トラック。スピンすればモテること請け合い。俺にもファックさせてよ。



7.Sondre Lerche / Sondre Lerche

10代でデビューを果たしたこのノルウェー・ベルゲン出身のSSWは早熟なだけでなく移り気なアーティストで、00年代を通して流麗なポップスからチェット・ベイカー風の歌ものジャズにダンサブルなギター・ロックまで、本人のルーツやそのときの気分をダイレクトに作品に反映させつづけてきた。
原点に立ち返って華々しいオーケストラル・ポップを魅せた09年の大傑作『Heartbeat Radio』につづく本作は、彼が近年活動の中心地としているブルックリンで隆盛を誇るインディー・ロックからの影響がモロに露見される野心作となっている。アニマル・コレクティヴオーウェン・パレットの楽曲のカヴァーを発表し、本人も羨望交じりにその魅力を公言してきたが、本作ではプロデュースに盟友Kato Ådland(ベルゲン・シーンを支える才人で、Major Seven & The Minorsとしての活動も)のほかにアニマル・コレクティヴやディアハンターetc...との仕事で知られる売れっ子Nicolas Vernhesを起用。洒脱なコード進行や達者なメロディ・メイクといった持ち味が生々しくてときに暴力的なアレンジによって強化されており、バカラック調の冒頭「Ricochet」で鳴るドラムの響きや、「Go Right Ahead」での耳つんざくようなギターなど、驚異的に鳴りのよい録音にも唸らされる。従来よりもハードボイルドでヒリヒリした仕上がりとなって、みずからの名をアルバム・タイトルに冠したのも必然といえる(本作が嫁さんの名前に由来する自身のレーベルMona Recordsからの初リリース作というのも関係あるだろう。ちなみに嫁さんは女優で、ソンドレ作品のPV監督も務めている)。
弾き語りメインの「Domino」を聴いてもわかるように、技巧派SSWとしては特筆すべきグルーヴィーなセンスもこの人の長所で、そのあたりはライブでもスクリッティ・ポリッティをカヴァーしていたりするし本人も自覚的なのだろう。ピッチフォークの「The Worst Album Covers of 2011」にも見事選ばれてしまったが、個人的には色合いよりも生え際が気になってならない。


6.Thomas Dolby / A Map of the Floating City

先行リリースされたEPを聴いたときはここまでの内容になるとは予想だにしなかったが、80年代を代表するテクノ・ポップ「彼女はサイエンス」から29年、フルアルバムとしては92年の『Astronauts & Heretics』以来となるカムバック作は楽曲の充実ぶり以外にも画期的なトピックが多く、最高傑作と呼んで差し支えなさそうなほどの充実ぶりを誇っている。
かつてマッド・サイエンティストと呼ばれた鬼才は、ここではアダルト・オリエンテッド・シンセ・ポップとでも称したい、年齢を重ねたからこその落ち着いて味のある楽曲を披露。ビートルズ好きの男とティアーズ・フォー・フィアーズのファンである女のふたりが恋に落ち、だだっ広い地平を旅していく…ブルーグラス・ナンバー「Road To Reno」の曲調や歌詞に顕著なとおり、かつてのファンキーさも維持しつつどこか懐古的なフィーリングが心地よい。“Urbanoia”“Amerikana”“Oceanea”の三章仕立てとなっている本作はアレンジも実に巧妙で、レジーナ・スペクターをフィーチャーした攻撃的な「Evil Twin Brother」、蛙の鳴き声を口琴で表現した(演奏しているのはイモージェン・ヒープ)「The Toad Lickers」、オートチューンを用いた穏やかな「Oceanea」(元フェアグランド・アトラクションのエディ・リーダーとのデュエット)と、曲ごとに豊かな表情を見せる。
また、ファンタジーとしてのアメリカーナ追求という“Amerikana”のテーマやアルバム全体のムードや節回しが、かつて彼がプロデュースを務めたプリファブ・スプラウトの作品を少なからず想起させるところもあって涙せずにいられない(不器用なデモ音源がそのまま発表されてしまったような09年の『Let's Change The World With Music』も、今のトーマスが携わっていればまったく違う作品になったんだろうな…)。一時期は音楽活動を引退し、IT会社を立ち上げ音声ファイルや携帯電話の着信音などを手掛けていた彼だが、そんなキャリアを活かして本作をサントラとしたゲーム・サイトiPhoneアプリをプロモーションに活用したり、ファン・フォーラムで音源を先行リリースしたりと音楽業界のあり方に一石を投じている。ってことでアプリは俺も前にやってみたけど、蛙がどうも気持ち悪くてなぁ…。洋ゲーってむずかしいよね。


5.The Elected / Bury Me In My Rings

2011年に入ってライロ・カイリーが事実上の解散状態にあることがアナウンスされたが、彼氏とよろしくやってるジェニー・ルイスに隠れて、バンドのもう一方の頭脳だったブレイク・セネットは(少なくともネット上では)ここ数年は消息不明状態だった。本来は彼のサイド・プロジェクト的な位置付けだったThe Electedとして三作目となるこのアルバムのテーマは"死"。アルバム・タイトルも"輪のなかに僕を葬り去って"とでも訳せばいいだろうか。06年の前作が西海岸の陽気が全開な『Sun, Sun, Sun』だっただけにそのギャップにも面喰ってしまうが、アルバムを再生してのっけから聴こえてくるのが"君を愛するために生まれてきたんだ/これからもそうするつもりだよ/たとえ別のいい人が君にいるんだとしても"(「Born To Love You」)というほろ苦いフレーズなのだからたまらない。
多くエリオット・スミスに喩えられ続けてきた儚い歌声と遁世的な浮遊感はライロ・カイリー作品においてもささやかに輝いていたが、ここでは一層の諦観に満ちている。かといって息苦しい作品かといえばそうでもなく、彼一流のソングライティングの才が冴えわたって暗いムードも重くならず、気楽に聴きたくなる軽やかな旨みに溢れている。今回とりあげる30枚のなかでも本作はぶっちぎりで地味だが、ほとんどの曲でサビ後に粋な転調が用意されているのが嬉しいし(「Look At Me Now」がわかりやすい例)、繰り返し聴くことでじんわり沁みてくる。少なくともレコーディング作に限っていえば、ラフな路線に一辺倒なジェニーに比べて、彼の丁寧で実直なスタンスはあまりに過小評価されすぎだろう。


4.ツチヤニボンド / 2

自身のブラジル音楽趣味を追求することで日本のシティ・ポップスにも通じる洗練ぐあいと妙な違和感を醸し出していた前作に比べ、て、4年ぶりとなる本作のもつ疾走感は一見わかりやすくカッコいいがやはりどこかおかしい。テレヴィジョンやラモーンズあたりのパンクに割と最近になって感化されることで生まれたサウンドとのことだが、中心人物である土屋貴雅氏はパンクのどこをどう聴いてこんな音を作り上げたのだろう。そもそも本気でCDを売るとするなら畦地梅太郎の版画をジャケに用いるセンスは渋すぎるし、AIR JAM帰りの客にこれを聴かせてもパンクだとあんまり認めてもらえないだろう。
12月に催されたディスクユニオン吉祥寺店でのインストア・ライブでレコード店に通いつめてきた思い出を土屋氏は語っていたが、たとえばロッキング・オンやガイド本みたいな教科書よりも自分の嗅覚を頼りに、限られた手持ちで少しでもいい音源を入手することの執念、試聴機への愛情がそこからは感じられた。
昨今の若いミュージシャンがインターネット・ネイティヴならではの感性や手法で情報や教養の取捨選択をスマートに行っているとすれば、土屋氏や他のメンバーたちのアナログで前時代的な音楽への執念と膨大でリスニング量(あるいはイレギュラーなリスニング遍歴)を血肉化して基礎体力とし、常人の発想では本来繋がらないものを強引にくっつけて噛み砕く腕力と咀嚼力でもって、猛烈なテンションや跳躍力に繊細なリリシズムまでを生みだす気ままな武骨さがこのアルバムにはある。「○○系」と手ごろなジャンルに安易に収まらず、オンリーワンな「ぼくのかんがえたパンク」を徹頭徹尾に貫いているのが本作の魅力。単なるトレースや二次創作とは異なる、流行に乗れない不器用な自分史でありながら勘違いを恐れぬダイナミックなセンスが頼もしく、聴いたことのない音楽を鳴らそうとする姿勢はいまどき(アティチュードとしての)結構なポストパンクっぷりでもある。
柔軟で緩急自在の演奏も聴きどころで、クラウトロック的なリズムと南米音楽の享楽感がブレンドされたインストの「クロフネ」にはじまり、乾いたスネアの音を軸にミニマルな演奏と一転しての急転調が刺激的な「花子はパンク」、間奏のつんざくギターソロも強烈な"まともな"パンク・ナンバー「ふわふわ」、トライバルなリズムが妖しくファンキーな密室R&B「メタルポジション」と、前半だけでも印象的なナンバーが揃っている。パンクパンクと書いてきたがアルバム後半には前作譲りの静謐でメロディアスな曲も収録されており、そのなかでも珠玉のハイライトはやはり、アーサー・ラッセルとミルトン・ナシメントが舵をとる幽霊船でひとりギター片手にくだを巻いているような「夜になるまで待って」の零れ落ちんばかりにおセンチな響きだろう。一度食事の席をともにしたとき土屋氏は(意外ながら)ブルーノ・マーズの歌唱力を賞賛していたが、いやいや氏のファルセットもしんみりくるのだ。あとはもう少しライブをやってくれれば…。