イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ガールズバンドクライ:第6話『はぐれ者讃歌』感想ツイートまとめ

 羅針が未来の方を刺すまでの、宙ぶらりんな時間の中で。
 ガールズバンドクライ 第6話を見る。

 前回魂に水ぶっかけ合う熱いLiveをやり遂げ、自分たちが何者かである手応えを掴んだ”新川崎(仮)”。
 次なる目標を探して戸惑う少女たちと、同じ方角を目指す女二人がクリームソーダとレオパードゲッコーで急接近! …というお話。
 ファイブピースの完全体”トゲアリトゲナシ”結成に向けて大きな一歩を踏み出す回だが、すばるちゃんをコミュニケーション補助装置にすることで、真っ直ぐぶち当たることしか知らなかった仁菜が、回りくどい迂回路を通って相手の心に踏み入る、ちょっと大人なやり口を学び始める回でもあった。

 

 というわけで比較的BPM低めの落ち着いた印象を受ける回だが、なんでかなと考えてみると…仁菜がキレてないッ!
 シーリングライトぶんまわしウーロン茶ぶっかける、熊本が生んだロックンロール爆弾も、完全燃焼のLiveを果たしようやく魂が落ち着いたのか、牙を収めて未来を見据える姿勢を見せてきた。
 いやまぁ、相変わらずの青春狂獣っぷりは確かにあるのだが、がむしゃらに前に押し出してぶつける以外のやり口を、ライブハウスで仲間と自己実現果たしたからこそ学びつつあるというか。
 それは歳が近くて親身に面倒見てくれる、すばるちゃんがいてこその変化だ。
 マージでその”ありがたみ”、骨身に染ませておいたほうが良い。

 

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第6話より引用

 今回もすばるちゃんは二人の間に入って仲を取り持つ動きをしつつ、仁菜と飾りのないコミュニケーションを親しく果たして、色々引き出し教えていく。
 常時人間関係の潤滑油を果たしていたポジションから、後ろに立って様子をうかがい、危なっかしい末っ子に何が出来るか、見届ける立ち位置へとスライドしつつ。
 自分は何がしたいのか、桃香さんに近づくには何が必要なのか。
 世慣れた”嘘つき”の知恵を借り、気持ちが言葉を得ていく助けをして貰うことで、仁菜は今までの正論モンスターからすこしだけ、相手の気持を慮れる存在に己を育てていける。

 サウナで寝ちゃう危険な赤ちゃんが場を離れた後、物の解った大人のなりかけとして桃香さんと難しい話ししたり、真っ直ぐしか進めない熊本の暴れ牛がヤバい衝突しそうになったら、するりと間に入り込んだり。
 そういう過程を経て、ぶつかると痛い豪速球をただ投げつけるだけでなく、ちょっと落ち着いたスローカーブでカウント整えることも出来そうになった仁菜が、桃香さんの痛い所を付くのを、椅子に座って見守ってもいる。
 やっぱすばるちゃんがバランサーをやってくれることで、仁菜が危うくパワフルな子どものまんまもっと自分らしく、音楽に勤しむ物語が駆動している感じ。
 周辺視野広いよなー…祖母の気持ちに寄り添った経験故か。

 

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第6話より引用

 とはいえただただ物わかりの良いお姉ちゃん役をやってるだけでなく、気持ちを前に出しながら仁菜との距離を縮めている描写もあって、それが更に『この嘘つきの言うことなら、ちょっと聞いても良いかもしれない』と、怪物に考えさせる足場になっている。
 問題しかない仁菜の生き方が、その棘を失わないまま摩擦を減らしていく上で、すばるちゃんという親友がいてくれることの意味は、本当に大きい
 こうして考えると、勝負回の間にすばるちゃんのニンを描く第4話を挟み込んだの、つくづく妙手だよなぁ…。
 力強いサビを効かせるためには、落ち着いたサビ前が大事なのだ。

 俺はこのアニメの、物語全体の進行をしっかり俯瞰で見つめつつ、キャラクターが生きてロックをやる意味とか意志とかを蔑ろにしない姿勢が好きだ。
 どんだけ大人びて視界が広くても、すばるちゃんには一人間としての感情と個性があり、それが仁菜と触れ合う中で元気に弾けるからこそ、彼女を好きになれる。
 好きになるからこそ、物語の主エンジンである仁菜が暴れつつ生き方を調整していく契機として、黒髪ロングの嘘つきが大きい仕事をすることにも納得できる。
 キャラへの愛着とドラマの進展が、しっかり噛み合いながらお話が流れていくのは、このアニメのとても良いところだと思う。

 そういう全体の流れからすると、今回は目標を見定めるまでの中二階みたいなエピソードではある。
 ”武道館ライブ”という、ロックンロール成り上がり伝説、定番の金看板。
 同じく自分たちが自分たちでいられる場所を探していた、ベースとキーボードが一歩自分たちに近づき、バンドが分厚くなっていく展開。
 次なる炸裂のための準備ではあるが、しかしそこにもやっぱり楽しく繊細な表現力が生きていて、後に”トゲアリトゲナシ”になっていく少女たちがどんな顔をしているのか、良く教えてくれる回にもなっている。
 こういう休符…に思えるエピソードのキレが大事ってのは、第4話がよく教えている所だわな。

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第6話より引用

 今回のエピソード、仁菜は今までの青春テロリストっぷりを少し抑えて、自分が何をしたいのか、バンドがどこに行くべきかを落ち着いて考える。
 自分を地獄に落とした(井芹容疑者の供述による)ピンク頭が、自分が惚れ込んだ人を押しのけて光の当たる場所に進みだしてる現状に憤りつつ、じゃあどうすればそれを表現できるのか。
 誰かに届く、嘘のない歌として鳴り響かせることが出来るのか。
 先も見えずブン回していた激情が、思う存分ロックすることで少しだけ、方向性を探してきている。
 そしてそれの行き着く先として、明暗綺麗に分かれた女二人の同居部屋がある。

 段ボールの口枷で言いたいことを塞いでいた智は、自分たちと同じ趣味やってる常連が本物の仲間か、気にしないふりでしっかり探っている。
 井芹仁菜に安和すばるが在るように、海老塚智にルパが在り、尖りすぎて人生に引っかかってる可愛い年下を、上手いこと自分のまま歌えるように導いてくれている、鏡合わせの状況。
 夜の動物であるレオパードゲッコーをトーテムとして慈しみ、ルパがニコニコ笑いながら進み出せる眩しさから己を遠ざけて、暗い場所でシコシコ音楽作っている。
 そんな吠え声の行き先を知らない女だからこそ、仁菜がボソリと吉野家のカウンターに吐き出した、飾らぬ本音が胸に突き刺さる。

 楽曲の強さは認めつつ、一人間としての芯がどんな温度と色なのか、確かめなければ運命を共にできない一本気は、やはり仁菜と響き合うべく造形されていると思う。
 逆に言うと仁菜が今回見せた(ある程度の)落ち着きと見識が、ここまでの5話で育ってくれてないと新たなわがまま赤ちゃん with 微笑みの保護者を追加できなかったから、このタイミングでの本格参入になったのかもしれない。
 キャラを曲げて物語の都合を通すより、都合を背負えるようキャラを育てるエピソードを積んだ上で展開していく構築のほうが、やっぱり素直に食えるからな…。
 成長の実感、新しい顔が見れる楽しさも、そこには多く含まれている。

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第6話より引用

 ゴスロリアーマーで武装し影の中に潜み続けている、智ちゃんのクソ面倒くささと、それを微笑みながら慈しみ、より善い場所で開花できるよう明に暗に世話を焼いているルパの”圧”は、なかなか心地よいグルーヴを秘めていた。
 思い出の中に封じた『絶対武道館』の諦めの悪さを、ちゃんと指摘できる距離感を維持しながらも、徹底的に献身を捧げ智ちゃんに親身にしてるルパ、ぜってーヤベェんだよな…微笑みの奥に感情のマグマを隠した、女女休火山帯ッ!
 …シールで隠した”BENISYOUGA"の因縁も、これまたクッソ面倒くさいんだろうなぁ…(高まる期待)

 同じ志を音楽に向けている女たちが、出会い聞き届け近づく足取りは、ルパと智ちゃんの私室に仁菜とすばるが入り込む場面で、繊細さの極みに達する。
 桃香さん相手に距離感わかんないままぶち当たってる仁菜は、初対面の相手にもズカズカ入り込み、触っちゃいけないものに触れ、だからこそ一気に距離を詰めることが出来る。
 物わかりとお行儀の良い…顔もできる器用なすばるちゃんには、どうしても生まれ得ない爆発力が仁菜には確かにあって、それを再確認するご自宅訪問だった。
 智ちゃんの声を封じるチャーミングな枷を、何の気なしに仁菜が戯けてハメて、同じ不自由と熱を自分が持っているのだと示す演出、凄く好きだ。

 すばるちゃんに諭されつつ、仁菜は今回バンドの行く末をずっと考えている。
 憧れの桃香さんが既に負けて降りて諦めてしまっている、全身全霊を音に乗せて”どこか”へたどり着く若人の夢に、仁菜はまだ挑んですらいない。
 どこにたどり着くにしてもそこには、絶対桃香さんが隣りにいてくれなきゃダメで、でもあのヒトは苦笑いの奥に傷を隠して、同じ速度で走ってはくれない。
 迷った先の答えは武道館を照らす、五色の輝きの中にあった。
 智ちゃんが封じられた吠え声を、仁菜に代弁して貰って芽生えたのと同じ光を、仁菜も智ちゃん達と出会って足を運んだ武道館で見つけるのだ。
 このお互い様感、フェアで好きだ。

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第6話より引用

 大人びなければ生きていけなかったすばるちゃんが、正しく推察する、河原木桃香の捻くれた思い。
 正論一辺倒では攻略できない、真っ直ぐだけが正解じゃない難しさに思い悩みながら、仁菜は似合わぬ嘘つきの騙し討ちを敢行し、音でもって閉じた心の扉を叩く。
 結局弾いてしまえば解ってしまう、瑞々しいセンスと感受性…あるいは野心が桃香さんの中にはまだまだ全然生きていて、でもそんな感じやすいものを剥き出しにしたまんまじゃ、諦め負けていくのが当たり前の現実を泳いでいくには、あまりに辛すぎるから背中を向けて封じてきた。

 桃香さんを閉じ込めているものがそういう、個人で完結する痛みの問題だけではないことを、窓枠が生み出す十字の影が静かに語っている。
 自分は逃げてしまった、諦めてしまった。
 その負い目が傷になって、新しい場所で己をそのまま曝け出すのをためらうのは、シールで封じたかつての夢に呪われている、智ちゃんにこそ通じる部分なのかもしれない。
 しかしそれも、虹色の風に溶けていく。
 溶けていってしまう。
 どれだけ物わかりの良いアンニュイで取り繕っても、曲が鳴り出してしまえば止まることは出来ない怪物を、皆が飼っていればこそ五人は出逢った。
  そうしてまた、新しい音楽が始まっていく。

 

 ルパと二人きりの時も、仁菜たちを迎い入れて四人になっても、描かれなかったベランダ…外側に対して拓け、新しい風が入り込む場所が、桃香さんが新しい仲間として入って初めて開放されるのは、とても象徴的だ。
 そういう場所に名前のない新しいバンドが身を置くためには、桃香さんの意固地を音で切り崩してこの部屋に連れてくるしかなかったし、そういう明るく爽やかな場所を開く特権は、河原木桃香にこそあるのだ。
 そういう女を蘇らせて、夢に続く道を共にひた走るためには、暴れているばっかじゃ上手くは行かない。
 新バンド結成を告げる爽やかな結末が、ロックモンスターが学び取った新しい生き方を、豊かに告げていた。

 仁菜が力強く物語を牽引しうる、ロックというテーマに選ばれロックに生きるしか道がないロクデナシだと最初に力強く叩きつけた上で、そんな不器用女がもっと他人に伝わるように、強くて優しい生き方をちょっとずつ学んでいく物語を、丁寧に積み上げていく。
 いじめでぶっ壊された少女の人格と人生を、ロックと出会いと友情でもってもう一度作り直していく、再生と成長の物語としてもこのお話は強いのだと、やや抑えた筆致で丁寧に教えてくれる回でした。
 バブバブ赤ちゃんがちったぁ物の道理を学び、自分と相容れない嘘つきが大好きだから色んなやり方を尊重できるようになっていくの、マジ愛しいので今後もバンバンやって欲しい。

 

 仁菜が少しだけ(本当に少しだけ)大人びた頼りがいを得たことで、クッソ面倒くさい爆発力抱えてそうな新たな赤ちゃんを、微笑む保護者付きで舞台に押し上げれるようにもなった。
 ルパ…その笑みの奥に何を抱え、何を思うか…。
 キーボードとベースを加え、音源的にもより説得力のある表現ができるようになった、五人の新しい…名前のないバンド。

 

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第6話より引用

 はたしてどこに行き着くのか……レオパードゲッコーくんも、円らな瞳で見守ってくれとるッ!
 可愛いねぇ…トーテムに選ぶ動物がちょいヒネてるの、このアニメらしいチャーミングで好きだわ。
 この穏やかな新章開幕が、今後生まれる音楽の中でどういう意味を持つのかも、大変気になります。
 次回も楽しみ!

時光代理人-LINK CLICK- II:第5話『最後の晩餐』感想ツイートまとめ

 時光代理人-LINK CLICK- Ⅱ 第5話見る。

 優しいママとお兄ちゃんに守られ、久々ほんわかタイムだッ! と思ってたのも一瞬、スーパー差別主義のDVモンスターが最悪の大暴れをぶちかまし、子ども達の運命や如何にッ!
 …てサスペンスのが、現実で警察署を訪れた謎の密告者のミステリと重なり合う、色んな意味で”時光”っぽいエピソード。
 小さな幸せがネイルハンマーでぶっ壊される瞬間の破壊力が本当に凄くて、それなりサイズのぬいぐるみを素手で引き裂く親父の膂力に驚いてる暇もなかった。
 マージで心に辛い描写を、ノーブレーキで踏み込むからこそ生まれる”時光”の破壊力、久々に味わったぜ…時光辛い。

 

 今回はほぼ写真の中の過去をなぞる回で、ピンク髪が特徴的な兄妹が現在の密告者とどう繋がるのか、事件の裏側を暴く前段階…といった塩梅。
 人格交換殺人鬼の引き起こした悲劇を思うと、簡単に謎の密告者には心を許しちゃいけないとは思うのだが、惨劇の当事者に心を重ねて過去を追体験できるトキの異能が、いい具合に心を被害者(であり、おそらく後に加害者になるモノ)に寄せさせる。
 心を預けたら辛いと解っているのに、人間として相手を見てしまう足場がガンガン固まっていく話運びは、トキが写真の中で感じている辛さと見てる視聴者がシンクロしていく強さもあって、大変パワフルな引力を持っていた。

 ママとの帰り道、お兄ちゃんとの手話レッスン、楽しい晩餐。
 街の片隅に確かにある小さな幸せをしっかり描けているからこそ、BGMが止まって急に親父がバチギレし、手前勝手な暴論とネイルハンマーぶん回しながらママの顔面腫れ上がらせる展開が、あってはいけないけど確かに起きてしまった事実の世知辛さを、より際立たせていく。
 トキが潜る過去のリアリティを、細やかな描写の積み重ねでしっかり生み出して、惨劇への没入感、見ているだけで何も出来ない異能者の無念と噛み合わせていくのは、『そういや”時光”のやり口こうだったな…』と思わされて、他では味わえないビリビリ感だ。
 正直勘弁してほしいが、止められない。

 

 お兄ちゃんがティエンシーちゃんに親身に色々教える様子が、トキに色々指図するヒカルと覆い焼きになっていて、もしかしたら不倶戴天の敵かもしれないピンク髪が、主人公と同じ絆で誰かと繋がった”人間”かもしれないと、ズクズク心を疼かせてきた。
 それが解ったところで過去の惨劇も、現在の悲劇もどうにもなりはしないのだけども、だからといって確かにそこにあった愛とか無惨とか…明暗同居する人間の存在証明を忘れてしまうのは、”時光”ではないだろう。
 どれだけ時が過ぎても写真に刻まれた、思いを頼りに過去に潜り、未来を変えぬまま届かなかった言葉を代弁する。
 そういう異能の使い方を、主役に課しているアニメだ。

 だから事実がどうであろうと、あの幸せな午後と最悪な晩餐を通じてトキと僕らが感じたものには真実なはずで、でもそんな人間的感情をどれだけ抱いた所で、死人は生き返らないし過去は変わらない。
 積み重ねた罪も消えないし、出口のない歪みも解消はされない。
 そういうアンビバレントの中に、異能で現実を書き換えられそうなチート野郎は既に囚われていて、色んな人がバンバン死ぬこの現状でも、彼らを縛る情と理の鎖は重たいままだ。
 そういう事を、過去と現在が呼応しながら不確かな未来を照らす今回のエピソードは、思い出させてくれた。
 写真の中の惨劇の結果がどうなるか、既に解っているのがなおさらキツいな…。

 自らをティエンシーと名乗る密告者が、己の過去を語る写真をヒカルに手渡した真意は何か。
 不透明な現実に自ら顔を出したということは、写真の中の過去を見届けただろうトキはそんな彼に、何を問い何を聞くのか。
 あんだけ最悪な状況、とっとと全部終わらせてくれ! と思う気持ちを見事に宙ぶらりんにして、ヒキの強いラストシーンで次回に引っ張るとこ含めて、マジで”時光”を堪能できる展開に、スタイリッシュサスペンスの腕力をつくづく感じさせられる。

 

 色々繋がりそうな要素を的確な距離を開けてバラまいて、非常に不穏な状態で間を空けることで、視聴者自身が点と点を結んで線にせざるを得ない構造を作る。
 解っていても乗っかっかるしかねぇ、釈迦の掌上のオタクって感じではあるが、こうして作品に振り回されている気持ちよさは、やっぱこのアニメの強さだ。
 共感できねぇ、好きにもなれねぇ奴が主役の話ならこんなにぶん回されないんだが、白黒コンビの人情と倫理はどうやっても好きになっちまうし、彼らが潜る過去に刻まれる人情味も否応なく、こっちの心を掻き乱し釘付けにしてくるからなぁ…。

 そうして感情を煽られて、俯瞰で作品全体を見る視点を揺すぶられ、冷静に作中のヒントを繋いで先を読ませるようになってるの、振り幅が極めて的確に大きいね…。
 過去と現在が重なり合う酩酊感と戦いつつ、次回も楽しく”時光”やってくぞ!

 

 

 

・追記 見てる側の揺さぶられる感情と、作中に描かれている客観的な情報を、難しかろうが切り分けて整理した上で挑まないと、全体的な構造がつかみにくい作品ではある。
 お兄ちゃんが出逢った新しい友達が、現在においてどういう意味あいを持ってくるのか。(人格交換殺人鬼を、便利に使っている黒幕との接点? それが銭弁護士?)
 お兄ちゃんとティエンシーちゃんが触れ合った時、ヒカルの声が聞こえなくなったのはどういう現象なのか。(異能者どうしの干渉が起こり得る?)
 ここら辺、絶対後々効いてくる要素なのでメモっておく。
 極めてしんどい物語のインパクトで判断力を奪いつつ、要所要所に誠実にヒント置いておくの、ホント頭良くて性格悪い(褒め言葉)作劇だよなー…大好き。

ダンジョン飯:第19話『山姥/夢魔』感想

 育ちの悪いネコチャンを加えて、夢の向こうまでレッツゴー!
 まーたひと悶着ありそうな新キャラが仲間に加わりつつ、夢魔を媒介にしたマインドダイブが敢行される、ダンジョン飯アニメ第19話である。

 尻尾や耳がピコピコ動いて、イヅツミの猫力と可愛さが一段と加速されており、マルシルの心という迷宮に潜る旅もモノクロームの演出力が映えて、アニメになった強みが良く暴れた回だったかなと思う。
 山姥とのバトルも迫力があったし、食材無駄にされてバチ切れな自分を必死に抑えているセンシの意外な顔も、しっかり重たく描かれていた。
 内心印象最悪なんだけども、腹減ってる若い衆には極力ジェントルに接しようと頑張ってくれているセンシ、大人であろうとしている大人過ぎてLOVE……。(いつだってセンシが大好き人間)
 イヅツミとセンシの出会いと触れ合い、完全に最悪家庭環境の結果やさぐれた不良少女と、優しいこども食堂のおじさん過ぎて、心の柔らけぇ部分に染みていくんだよなぁ……。

 

 というわけで、イヅツミ加入までの一悶着と、夢魔が引き起こした夢騒動を手際よく料理していく今回。
 イヅツミを被差別種族の奴隷に縛っていた鎖を解き、まだまだ距離はあるけども利害一致の奇妙な道行きとして仲間に加える今回のタイトルが、『キノコのリゾット』ではなく『山姥』なのは結構好きだ。
 シュロー相手にはあんなに暖かく差し出されていたマイヅルの料理と愛情が、イヅツミ相手だとどうにも冷たい隔意になってしまって、誰も頼らず親しまず、食事のマナーも最悪な荒くれネコチャンになってしまっているのは、愛も料理も無条件で人間を救える、万能の処方箋ではないと教えてくれる。

 そんなイヅツミを縛る2つの呪いの内、山姥(≒恐ろしい存在となってしまい、料理の道具を殺しに使う”母”。シュローにはダダ甘なマイヅルの陰画)は燃やして料理できたが、混ざりあった魂は不可逆の難問だ。
 人質取ったりメシ投げ捨てたり、荒っぽい態度が目立つけれども、イヅツミなりの必死さで藁にも縋るように変人パーティー接触して、解決の糸口が結局見えないのはショックだったと思う。
 猫と人が混ざった身体は現状差別と不幸を連れてくるだけの呪いであり、イヅツミは『自分が自分であること』を否定したくてしょうがないわけだが、それは簡単には書き換わってはくれない複雑な呪いだ。
 そんな在り方を複雑怪奇な運命の流れの果て、龍と混ぜられ心を染められ、『ファリンがファリンであること』から一番遠い場所に流されてしまったキメラを、救うべく迷宮の最奥を目指すライオス一行。
 結果として解呪の半分は叶い、半分は不可能っぽい判断保留のまんまトンチキパーティーに同行することになったネコチャンのあり方が、どう変わっていくのか。
 その物語もセンシ手ずからのリゾットを”食べきる”ことから始まっていくのは、正に”ダンジョン飯”といったところか。

 

 俺はライオスがイズツミの存在を、魔物オタク特有の早口交えつつも凄くポジティブに、自分が望む未来への道標として歓迎してる姿勢を見せたの、凄く好きだ。
 彼の好意と喜びの表現はなかなか伝わらず、それで軋轢も生んだりするが、絶望的な状況でなお妹を救う道を諦めず、でも挫けそうな気持ちは確かにあって、だから”キメラ”と何とかやっていける可能性を見せてくれたイヅツミの存在を、希望として受け入れる。
 爪を押し付けワーワー騒ぎ、食事の流儀も生き方も噛み合わない猫耳の異物を、それでも新しい仲間だと認められること……その気持ちを自分の外に出して、イヅツミの手をしっかり握ったのは、リーダーとして人間としてとても偉いな、と思う。
 センシの親身な食育は、トゲトゲすることでしか厳しい運命を生き残れなかった猫少女に染みるには時間がかかるものなので、こっちの関係構築はどっしりやってく感じだ。
 まー教え導く立場のセンシが、めっちゃ気長かつ紳士的にイヅツミを受け入れる姿勢既に見せてくれているので、大いに安心なのだが。
 ここら辺、彼が作り振る舞ってきた”ダンジョン飯”が冒険に挑む者たちの滋養となり、絆を育む足場になってくれた実績を見ているからこそ、感じる頼もしさかもしれない。

 ライオス達のヘンテコな歓待があったればこそ、『もしかしたら……』という望みを抱えつつお互いの利害を一致させて、イヅツミは奇妙な呉越同舟へと進み出すことになる。
 魔物食という共通の関心も、パーティーとして死地をくぐった絆も、仕事にまつわる矜持もない、育ちの悪い野良猫。
 イヅツミはライオス一行に色んなトラブルを持ち込むだろうが、ソリの合う仲間だけではなく反発し合う相手がいてくれてこそ、色んなモノが見えてくるというのは、カブルーやシュローとの接触で既に描かれたところだ。
 前回ライオスが幻術を見抜く中で示した、外見にこだわらずフラットな対応が出来る強みが、差別と無理解に苦しんできたイヅツミがこの旅で、何かを得ていく足場になりそうな予感もある。
 トゲトゲ警戒心が強く、自由気ままに生きていたいイヅツミが彼女なり、このヘンテコな”パーティー”になって行く様子と、そこで”飯”がどういう仕事をするかが、作品の新たな面白さを描いてくれるのは間違いないだろう。
 なによりイヅツミたん、最高に可愛いネコ忍者ちゃんだからな……ほんっと耳と尻尾の表情が豊かで、TRIGGERマジでありがとうって感じだ。

 

 そんな感じで新メンバーを加えた一行を、新たな精神攻撃が襲うッ!
 一行がお互いをどう見ているか/見られているかを幻術で可視化したライカンスロープもそうだが、夢魔もマルシルがなかなか見せない深層心理と過去を暴き、ライオスが彼女の恐怖にどう手を貸せるのか、普通に冒険していてはなかなか結晶化しない部分をいい感じにエグるエピソードと言える。
 生老病死の定めが愛する人を置き去りに、マルシルだけを現世に取り残す恐怖は彼女の根本であり、また真実が暴かれる夢の中での彼女が極めて幼い少女であった事実は、凄くクリティカルにマルシルという人間の在り方を示す。
 これを覚えすぎていては、後々現実で色んな厄介事を乗り越え、一緒に飯を食って分かり合っていくドラマを先回りしすぎてしまうわけで、”夢”という形にすることでおぼろげな記憶に落とし込んだのは、巧い物語制御だと思う。

 思い出と心の深いところまで踏み込む特権を、ライオスは持ち前の魔物知識(あと優れた癒し手だった妹との記憶)を活かして得ていく。
 これは夢魔が心を削る厄介な”敵”であると同時に、現実世界ではなかなか暴かれない心の深い迷宮へと、物理的に踏み込み冒険するための補助装置として、機能するが故だ。
 これは”ダンジョン飯”においてモンスターが障害であると同時に食材であり、倒すべき相手であると同時に命の糧をくれる隣人でもあるという、複層的な視点の新たな変奏だろう。
 奇妙で危険なモンスターの能力を良く知り、その危うさに飛び込むことで、普通に生きていては掴めない”宝”を手に入れて戻って来る今回、夢魔は美味しそうな酒蒸しとなる以上の糧を、ライオス一行と僕らに与えてくれている感じがある。

 

 ポンコツな言動に似合わぬ魔術の冴えと、日頃のしっかりした態度から見落としてしまいがちなマルシルの内側へ、ライオスと一緒に踏み込む今回。
 冒頭、夢魔の精神攻撃でライオスの過去も示されていたりするのだが、彼は奇妙にドライに夢を夢として認識し、トーテムたる白犬に変じて自分の傷を噛み砕き、長命種の心という迷宮に踏み込んでいく。
 このちょっと乾いた客観的な態度は、人間関係において彼が浮き上がる原因にもなっているけど、今回は悪夢にうなされるマルシルの旅を助け、モノクロの世界をカラフルに戻す大きな武器になっていく。
 異常な状況に巻き込まれても客観性を失わず、どっか遠くから状況を観察しているような態度は、例えばカブルーが人間の修羅場を睨みつけている姿勢と似通ったものがあり、主体性を持って生きるか死ぬかの現場に身を投げている存在から、隔意と同時に解決の糸口を掴み取る特権を青年たちに与える。

 今回のマインドダイブはマルシルを怯えさせる怪物の正体を探る、知恵が問われる謎解きという側面もあり、また少女一人では戦いきれない死闘に心からの賛辞で勇気を与えるという、イカレ人間なりの真心を感じる旅でもあった。
 イヅツミの手を握ったときもそうだけど、ライオスが何かを褒める時は一切の二心なく心から感じ入っていて、しかしその感動がなかなか他者に伝わりにくい現れ方をして、良い結果が出ない……こともある。
 しかし今回は二つの冒険、二人の少女を善い結末へと導く大きな仕事をしていて、ヤバい部分も頼れる部分も両方もっている、凸凹込みでライオス・トーデンという人間を理解する上で、結構大事な回かもしれない。

 

 夢魔という厄介な障害を便利に使うことで、50歳という年齢、危険な冒険を乗り越える才媛というマルシルの外側から見えにくい、生身の彼女も良く見えた。
 つーかなまじっか才能に溢れエリート校とか卒業しちゃってる分分かんねぇけども、精神年齢はガチの子どもであり全然分かんねぇこと、受け入れられねぇこと山ほどある中で、愛別離苦の定めをどうにか乗り越えるべく沢山勉強して、親友を取り戻すべく学んだことを実地で使ったら怪物になっちゃって、そらー悪夢も見るわ……って感じ。
 『外見は頼りにならない』というのは、異種族間のコミュニケーションを扱うこの物語において幾度も顔を出すテーゼであるが、マルシルの成熟した(ように思える)外見に惑わされて、全く不安定で幼いその心根を見落としていた僕らに、白狼のサイコダイバーが真実を見せてくれる回である。
 ライオスは夢景色に見た仲間の真実をおぼろげに忘れていってしまうが、迷宮の外側から彼らを応援している僕らは忘れるわけにはいかない訳で、どんくさエルフが見た目ほど大人ではなく、日々泣きじゃくる子どもを胸の中隠していることは、大事に覚えておきたいところだ。

 外見年齢で人物を判断し、大事な所を取りこぼすってのは、ドライアド性教育で一笑いもってったセンシとチルチャックの関係で、コミカルに描かれた部分でもある。
 持ち前の才能に助けられる形で、魔法学園という社会に漕ぎ出し、そこに適応して大人びた社会的な振る舞いも(一応)学んでいるマルシルが、どんだけ子どもでどんだけ重たい宿命を背負っているのかは、なかなかに見えにくい。
 そういうものを可視化する装置として、ファンタジックな怪物の異能を活用しているのは、先週楽しく描かれたシェイプシフター劇場にも通じるものがあって、なかなかに面白い。

 こういうダンジョン特産のチートツールを使わずに、腹割って膝つき合わせて……それこそ同じ釜の飯を食ってお互いを分かり合っていく、地道で生々しい現実的な人間関係の変化も、もちろんこの作品は描く。
 その時何が大事になるのか、愉快な冒険の中に暗示する前駆としても、今回のエピソードはとても興味深かった。
 あんなに怯えていた灰色の悪夢が、フワフワ楽しいバカ犬に助けられ勇気づけられることで、カラフルで楽しい冒険にマルシルの中で変じているところに、我らが愛すべき魔物マニアに何が出来るのか、それが待ち構える困難をどんな結末に導くのか、陽気に教えてくれている感覚は、とても好ましい。
 キメラ・ファリンが引き起こした虐殺の血みどろとか、カブルーの洒落になんない過去とか、人生の苦い部分にもしっかり視線を向けつつ、それでも食って闘って続いていく人間の生は笑えるものなのだと、前を向いてくれるお話なのは、力強いし嬉しいものだ。
 今回おぼろげに踏み込んだ天才少女の心迷宮から、新たな怪物が飛び出す時も必ずあるわけだが、そこでの艱難辛苦をどうにか乗り越えて、皆で笑って夢を食べれる時がまた来るのだと、今回の蜃気楼ディナーは良く教えてくれる。

 

 というわけで、とても良いエピソード二篇でした。
 ドタバタ大騒ぎで加入したイヅツミは今後も、好き勝手に色々騒動を巻き起こすわけだが、その身勝手に”パーティー”としてどっしり付き合う仲間たちの姿勢をアニメで楽しめると思うと、大変ワクワクします。
 マージでアニメのイヅツミ可愛いからなぁ……(漫画のイヅツミも、どんなイヅツミも可愛い。イヅツミだから)

 夢魔の見せた不思議な夢歩きも、恐怖あり幻想ありのなかなか不思議な味わいで描かれ、大変面白かった。
 色んな要素が一つの皿に盛り込まれているからこそ面白い原作の魅力を、TRIGGERの多彩な表現力が最大限Animateさせてくれているのは、つくづく良いアニメ化だなと思わされます。
 新たな仲間、新たな旅、新たな危険と新たな絆。
 次回ライオス一行をどんな冒険が待ち構えているのか、とても楽しみです。

花野井くんと恋の病:第6話『初めてのバレンタイン』感想ツイートまとめ

 St,V Dayにて恋愛お試し期間正式終了ッ!
 恋を自覚して上がる体温を乗りこなし、ついにヒロイン愛の告白ッ!!
 な、花野井くんと恋の病 第6話を見る。

 まずはおめでとう…本当に良かった。
 視聴者には”真実”バレバレな感情と関係が、収まるべきところに収まっていく気持ちの良さもありつつ、二人共とてもいい子達なので、もっと幸せになれそうな間柄へと力強く踏み込んでくれて、見ているこっちも幸せな気持ちになれた。
 恋心を自覚した絶妙なタイミングで、花野井くんの闇を引っ張り出すサバサバ男子を過去からサルベージして投入し、ほたるちゃんがトラウマと正面向き合って突破という、話の流れが良かったね。

 

 ここまでは顔の見えない影としてしか描かれなかった思い出に、今回過去を共有する青年が舞台に上がったことで具体的な目鼻がつき、花野井くんに自分の傷を打ち明けられるところまで対峙していたのは、ほたるちゃんがどういう心の旅路をたどり、そこに花野井くんへの恋がどう作用しているか、分かりやすい表現だったと思う。
 人を天使にも鬼にも変えてしまう恋の魔力に、怯えてばかりいたほたるちゃんだけども、自身その当事者になって向き合う中で、過去の事件を相対化し、客観視することで克服…の、少なくとも一歩目は踏めた。
 花野井くんの言う通り、恋が生み出す変化には善いことが沢山あるわけだ。

 恋心初心者として、他の誰もが茹で上がっていた気恥ずかしさを今更受け止め、もじもじ足踏みしていたほたるちゃんだが、八尾くんが過去から蘇ってきたことで花野井くんのヤバい部分が刺激され、好きピの持つ狭くて危うい加害性をどうにかせなあかんと、グイッと前へ踏み出す。
 八尾くんは恋のお邪魔虫というよりは、周辺視野が広いサバサバ系男子で、花野井くんのヤバさを認識しつつ上手く付き合おうと、頑張ってくれる人で良かった。
 花野井くん、自分の身内以外を棍棒で殴ることで愛を証明する、石器時代の勇者みてーな心根持っちゃってるので、他人に危機感抱かせがちなんだよな…過剰警戒が過剰警戒を呼ぶ、地獄絵図生産装置…。

 

 

 

 

画像は”花野井くんと恋の病”第5話より引用

 『今までの恋愛も、この調子でぶっ壊してきたんだろうなぁ…』とため息一つであるが、八尾くんの度量とほたるちゃんの純情のあわせ技、グイと踏み込み良い距離感を確保できていた。
 つまりは恋に嘘をつかず、背伸びしてでも追いすがる愛のゼロ距離戦闘ということだが…。

 クリスマスデートにおいては、釣り合わない靴でなんとか並び立っていた、ほたるちゃんと花野井くんの現状スケッチ。
 チャーミングな身長差はそのまま、人に恋をし、独占欲を燃やしたり愛されるからこその寂しさに悶えたり、人を狂わせかねない危うさとの距離でもある。
 花野井くんは近く、ほたるちゃんは遠い。

 今までずっと花野井くんが上から恋を降らせてきたわけだが、恋心を自覚したことでほたるちゃんは花野井くんがいる暗くて危ない場所(そこはかつて恋の狂気に無理解なまま、傷つけ傷つけられて以来立ち入らないようにしていた過去でもある)へと背伸びをする。
 フェアであること、対等になろうとする努力はこの作品においてとても大事なものとして扱われているが、花野井くんを危うくしている欠乏を満たすように、自分の中の恋心とトラウマにしっかり向き合い、追いすがって抱きしめ温もりを与えようとするほたるちゃんは、大変健気で偉い。
 恋した人相手だからできる必死の跳躍が、自分自身の傷を乗り越える助けになってるのも良い。

 愛した人だけに過剰に与え、世界を狭く危ういものにしてしまう花野井くんの奥に、欠けてる部分を満たして欲しい願望が強くあることを、ほたるちゃんは知ってしまう。
 そういう魂の飢餓は嘘偽りのない本当を、間近に手渡すことでしか満たされないわけで、気恥ずかしさをぶっ飛ばし自分が何を感じているのか、花野井くんとどうなりたいのか、ド真ん中真っ直ぐ伝えたの、大変良かった。
 トキメキテイストで隠されているが、食事を気にかけないセルフ・ネグレクト気質も含めて花野井くん、そうとうヤバい感じであり、こうして親身にケアしてくれる人がこのタイミングで現れたの、『間に合ってくれた…』って感じがかなりある。

 

 花野井くんの満たされない遠さと冷たさは、完璧さの鎧で他人を遠ざけてしまう部分にも原因があって。
 完璧じゃなきゃ愛されないと、メガネかけた自分を誰にも見せずに人知れず努力していた、花野井くんの柔らかな場所。
 そこへもほたるちゃんは踏み込む特権を手に入れ、下から手を伸ばして繋ぎ、椅子を使って対等な距離でプレゼントを手渡す。
 失われた愛を得るために、花野井くんが必死に隠そうとしている足りてない部分、完璧じゃない部分をこそ、ほたるちゃんは愛しく思って抱きしめてくれる。
 花野井くんが失敗も間違いもする当たり前の人間であることを肯定し、完璧さより不完全をこそ”好き”だと告げるのだ。

 こらー幼年期の愛情形成に見事に失敗した(勝手な推測)青年には超絶クリティカル、もう耐えらんねぇだろ…って感じだが、告白への反応は次回に続くッ! となった。
 ずーっと満たされなかった人生だからこそ、本当に欲しかったものが自分を抱きしめてくれるとどうしていいのか分かんなくなっちゃう…てのは想像がつくが、こうしてオメーの長いタッパに背伸びして追いつき、肩を並べて向き合ってくれる人はまー滅多にいないわけ。
 花野井くんが傷ついた己をケアする意味でも、ほたるちゃんがついに自覚した恋心を叶える意味でも、この告白…絶対上手く行って欲しい。
 でも一旦弾きそうなんだよなぁ花野井くん…心が赤ちゃんだから…。

 頑張って維持しなきゃいけない完璧の鎧、外せたほうが花野井くんに善いとは思うのだが、それをまとわなきゃ立っていられない弱さを、花野井くん自身が認められるかどうかは別問題で。
 今回花野井くんへの恋心と八尾くんの再登場で、ほたるちゃんは自分を揺るがしている危うい過去としっかり向き合い、自分の心の外側に出して大事な人と共有できた。
 この成長に導かれる形で、花野井くんももうちょいバランスの良い自分へと踏み出せると、ハラハラしながらツラと身長だけ育った傷だらけ赤ちゃんを見ているオッサンとしては、大変ありがたいです。
 ご飯を美味しく食べれるようなった自分を、肯定的に捉えているのは良かったね…。

 

 つーか花野井くんのヤバさは高校生がケアする重さではなく、『保護者は何やってんだ保護者は!』という気持ちがまた強くなった。
 手作りケーキ作ってる時も、一人でガチャガチャやってたしよーマジよーッ!!(仮想の被虐待(疑惑)児童の境遇に、画面越しマジギレするアニオタ)
 ここら辺は今回投下された告白爆弾が、幼く健気な二人の関係を新たに作り直した後、彫り込まれる要素かなぁ…って感じですが、さてはてどうなるか。
 次週も大変楽しみです。

 光人間が生来理解できない闇を、解るところまで引っ張っていく補助具として”恋”を使ってくるの、あんま見たことなくて面白い筆先だな…相互理解とメンタルケアのラブコメ

響け! ユーフォニアム3:第5話『ふたりでトワイライト』感想

 黄金の光と消えない影を共に宿して、ふたり黄昏を行く。
 毎度おなじみあがた祭り回……というには、湿った薄暗さが静かにこちら側に迫ってくる、奇妙な緊張感のあるユーフォ三期第5話である。

 前回求くんの抱えた課題を乗り越え、いよいよコンクールに向けて本格始動! ……と、勢いだけで突っ走るには、三年生になってしまった久美子周辺の空気は重たくて。
 部長として頼もしく吹奏部内の問題を乗り越えていても、簡単には決めれず進めない”進路”の重さを画面に乗っけて、ジリジリ重たいエピソードとなった。

 もう一方の端に、久美子(≒滝昇によって全国レベルまで引き上げられた北宇治吹奏楽部≒この物語それ自体)が信じる『一丸となって本気で挑む全国』に、馴染まぬ制服のまま異を唱える真由もいて、『実力があるエンジョイ勢』という極めて厄介な存在の引力が、何かを歪めている手応えも感じられた。
 ”歪めている”というのも久美子に寄り過ぎた視線で、楽しさを最優先にする真由の在り方も否定されるべき間違いなどではなく、しかし久美子にとっては消し去りたい過去の自分を突きつけられているような苦さもあり、正面衝突できるような激しさもなく、ブスブスと火種だけが静かにくすぶりながら、高校最後の夏が始まっていく。
 素敵な思い出をフィルムカメラに切り取る特権は、すなわち真由自身は思い出にならないという離人感を生み出し、北宇治イズムに馴染まぬ異物が今後何かを引き起こす予感を、美しい情景の中に濃く宿していた。

 しかし重たいだけではなく、どこか歯車が噛み合わない居心地の悪さと同居する、弾むような眩しさと落ち着いた美しさもしっかりと描かれていて、今久美子と麗奈がいる季節の空気が、しっとり豊かに伝わってきた。
 やはり音楽と少女が混ざり合いながら繋がり、繋がりきれない違和感すらも愛しく抱きしめられるような、透明で眩しい時代を満たしている空気の描き方こそがこのアニメの真骨頂であり、いつものパターンを少しズラした逍遥の果てに、いつも通りの明るさに戻っていく二人の夜景は、大変に美しかった。
 数多の特別が積み重なりつつ、しかしそれだけでは最高のフィナーレにはたどり着けない、不思議な旅路。
 その中間点がどんな色合いなのかを、丁寧に教えてくれる回だったと思う。

 

 

 

 

画像は”響け! ユーフォニアム3”第5話より引用

 物語の始まりと終わりが繋がった構造は、その中間に挟み込まれた挿話が生み出した変化を可視化し、お話の輪郭を鮮明に浮かび上がらせてくれる。
 今回で言うなら金魚の水槽は最初、石も水草もない殺風景として黄前家に乱入し、進路やら友達関係やらに難しい顔で思い悩んだ日々を経て、彩りと新しい仲間を加えて物語の末尾を飾る。
 ここに何を見出すかはなかなか複雑な暗号であるが、明確な進路を決められていないのに、久美子が三度目のあがた祭りで何かを手に入れられた証として、水草や三匹目の金魚といった生命がそこにあるのは、とてもポジティブな象徴に僕には思えた。

 ”三”もなかなかに難しい暗号で、第2話サブタイトル『さんかくシンコペーション』を……あそこで描かれた複数の三角形を思い出せば、いろいろな意味をそこに付与することも出来るだろう。
 誰が選ばれるのかわからない、三人のユーフォ奏者……あるいは今回繋がりを再確認した久美子-麗奈ラインに対置される、滝イズムに染まらない浮遊点としての真由。
 そこら辺を投げかけて水槽を見ることは出来るが、そこに真実何があったかはこの後の物語……アニメがどんな映像で何を描くか次第であろうなとも思う。
 未来も結末も、何もかもが不確かで不鮮明である久美子の現在地を描くにあたって、読みきれない不思議さを水槽の暗号に込めて終わったこのエピソードは、自分としてはなんだかすごく”丁度いい”不穏さと透明度だと感じられた。

 

 

画像は”響け! ユーフォニアム3”第5話より引用

 今回は黄前部長がその頼もしさで解決するべき青春事件が起こるわけでもなく、オーディションやコンクールに結果を問うわけでもなく、全体的に宙ぶらりんな雰囲気が漂うエピソードだ。
 そこには何かがハマりきらない不安定さが満ちていて、同じ場所に立っているのに同じ方向を見ない人たちの、視線が感じられない後頭部がやや引いたアングルから切り取られる。
 心を一つに、迷いなく同じ夢を追いかける。
 そんなキラキラな夢を追いかけつつ、ネトネトした感情の回り道を多数描き、その面倒くささとややこしさこそが人間には大事なのだと、描き語ってきた作品の最終作は、今まで以上に重たくややこしく絡んだものを、解きほぐしたり断ち切ったり繋ぎ直したりするのだと、ビシッと決まった絵それ自体が語っているようである。

 去年以上の結果を出すべく、入れ替え制オーディションを提案した幹部会も、部員の自主性を尊重してそれを受け入れた滝先生も、”部長”の声を作って100人の仲間にそれを告げる久美子も、眩しい青春をカメラ越しに切り取る真由も、約束されないソリの重なり合いを隣り合って奏じる二人も。
 その在り方を接しする僕らと、視線を交わして『ここで描かれているものは間違いじゃないです!』と言ってはくれない。
 見えないからこそ読み切れず、読みきれないからこそ面白い複雑な暗号が今の北宇治には満ちていて、完全実力制の複数オーディションも、それが生む不和を疎む真由の存在も、どんな炸裂を生み出すのかはあくまで予感でしかない。
 しかし譜面に刻まれた未解決和音が必ずいつか鳴り響くように、このアニメに埋め込まれた不穏さも必ず結実し炸裂はするはずで、それがいつ、どのような形になるのかは、こちらを向かない視線の向こう側に隠されて不穏だ。
 この見えなさが、作中黄前部長たちが『頼れる先輩』の外面を作りながら思い悩む煩悶と重なり、彼女たちが吸い込んでいる空気の苦さと甘さを、僕らに教えてくれる。
 意思ある演出を徹底することで、作中のリアリティをきめ細かく編み上げ、説明するのではなく体験させる手法は、三度目のTVシリーズにして更に冴えているように思う。

 

 

 

 

画像は”響け! ユーフォニアム3”第5話より引用

 進路と部活動、久美子を悩ませる現在と未来の課題は、未だ進路調査票やホワイトボードの中の不確かな文字に過ぎず、実感や確信……それに伴う痛みや苦しみはまだ、訪れてはくれない。
 不確かだから悩ましいのか、迷っているから見えきらないのか。
 そんな因果関係すら不鮮明なジレンマの中で、しかし部長という立場、全国金という目標は久美子に立ち止まる時間をあまり与えてはくれず、彼女は自分の立場を危うくするかもしれない複数オーディション制を、声と顔を作って部員たちに伝える。
 この強がりを奏が健気に読み取って、今欲しい質問をいいタイミングで投げかけることで部員の動揺を減らそうと頑張ってくれているの、”誓いのフィナーレ”を通じてどんだけ奏が北宇治と久美子好きになったのか、その愛着をテコに自分の置き場所を変えたのか、感じられて良かった。
 敏い彼女は久美子の置かれている難しさをしっかり解っていて、戯けるような態度の中にどうにか、黄前先輩を助けられないか色々考え、巧いこと部活が回るよう考えて、言葉を投げている。
 それは彼女も、部の空気を読んで己を曲げる生き方より、本気でぶつかって本気で苦しんで本気で高みを目指す、北宇治イズムこそが己の在り方だと、一年間の物語を通じて受け入れたからこそだ。

 しかし黒い制服に身を包んだ転入生は、必ず傷つくものが出てくる実力主義のガチンコにおずおず手を上げて、小さく意義を申し立てる。
 たかだか部活、他人を押しのけてやるもんじゃない。
 三年前、ガチ勢追い出して部を崩壊に導いた安楽な姿勢がもう一度顔を見せたようでいて、言ってる本人は全国目指す部内でも有数の実力者だ。
 真由は黒い服を来た異物でしかない自分、鳶茶の群れに混じれない己を敏感に察知して、北宇治の歴史を尊重した上で身を引こうとしているわけだが、その決断は今の久美子には馴染めない。
 受け入れられないし、認められない。
 だけども感情むき出しのクソガキでは務まらない、部長という立場を背負ってしまっている以上……あるいは数多の触れ合いの中で、穏やかな外側を維持する努力が生み出せるものの意味を学び取った以上、バチバチぶつかるわけにもいかない。

 遠慮とも配慮とも違う、穏やかな微笑みの奥で黒い蛇が渦を巻いているような、煮えきらない距離感。
 ソリストの椅子を奪い合う、曖昧な表情で向き合ってはいられない厳しさから外れたところで向き合おうと、譜面台から外れた光の中に身をおいてなお、久美子は真由とあがた祭りに行く未来を拒んで、隣には並び立てない。
 二人のこんがらがった距離感が、本当の所ガチでぶつかってどうにかしなきゃいけない作品の主題……”演奏”の話をする時、まばゆい光ではなく薄暗い影が舞台になるのと、そこから逃げるように可愛らしく、転校生が地元の話を切り出し久美子が光の側に逃げるのが、このアニメらしい意地悪な表現だと思った。
 その薄暗さの中にしかどうせ答えはないのだが、しかし直面するには影の中に潜んでいる怪物はあまりに恐ろしく、進路にも部の方針にも悩んでいる今の久美子には、これと直面する態勢ができていない。
 この曖昧さを反射するように、空は複雑な美しさを宿した曇りの色合いだ。
 良い空だなぁ……。

 

 

 

 

 

画像は”響け! ユーフォニアム3”第5話より引用

 

 このあやふやな曇り空は、浮気なソリ合わせを咎めるように麗奈が近寄ってきて、二人きりの特別を切り出した時に眩しく輝き出す。
 仲間たちが皆向かう、かつて自分たちもそこに身を置いたあがた祭りの喧騒に背を向けて、二人は麗奈の家へと向かう。
 それはより親密に距離を近づけたい麗奈なりの、不器用でセクシーな三年目の誘惑であり、音で繋がった特別な二人は不確かな未来を約束するように、美しい音楽を重ねていく。
 この”2”に混じりきれない寂しさを抱えて、真由はファインダー越しの客体に燃え上がる火の粉を追いかけているのかなと、また暗号を読みたくもなるが……ここら辺は魅力的な不鮮明のまま、暴かれるときを待ったほうが良い気もする。

 部長とドラムメジャー、部を牽引する二大巨頭がその看板を外して、三年間あまりにも密接で湿度の強い友情を育んできた親友として、二人きり向き合える特別な場所。
 そこから流れ出す音楽が、様々な人が青春のまばゆさを輝かせる祭りのBGMになるのが、僕は優しくて好きだ。
 このお話はこの二人を中心に回転する吹奏楽の銀河だが、他の綺羅星がなければブラスバンドの音楽は生まれないし、祭りの日々に浮かれる少年少女たち全てに、久美子たちに並び立つ想いと物語がある。

 その一つとして前回、月永求の物語に深く深く、美しく切り込んだ結果、彼がどう変わったのか、その視線の先に何を見ているかをしっかり追いかけてくれているのも、凄く嬉しくありがたかった。
 緑輝と久美子が求くんの喪失と祈りに、先輩として人間として真摯に向き合ったからこそ、友達とお祭りに行く月永求が形になって、物言わぬ視線の先でそうさせてくれた誰かを、求くんは追いかけている。
 それはこれから先、北宇治吹奏楽部がガタガタ軋みながらも激しく熱く、一つの音になるまで必死に吹く未来へと、続いている描写だ。
 こうして心を開いたことで変わっていくだろう求のコントラバスが、大きな力となって切り開く場所は、部全員の力がなければたどり着けない夢であり、そこには一つの願い、一つの祈りがある……はずだ。
 だがどうしようもなくバラバラな人間でしかない久美子たちは、無条件にそのまとまりを得れるわけではなく、進んでは戻り繋いでは離れて、心を確かめ合いながらの長い旅路を、まだまだ進んでいくことになる。

 

 

 

画像は”響け! ユーフォニアム3”第5話より引用

 ”京アニ”を原液で吸っているような、美しい紫のグラデーションと光の表現を堪能しつつ、どこか噛み合わなかった久美子と麗奈の旅路は、美しい落着へと至る。
 しつこく『音大いかないの!?』と圧かけてきたのは、離れていってしまう怖さと寂しさに突き動かされていたから。
 鬼のドラムメジャー、無敵のクール美少女みたいな顔になれたかと思いきや、プルプル繊細な心は相変わらずな高坂麗奈があまりにチャーミングであり、久美子と一緒に笑ってしまった。
 最初横並びに歩いている時、顔が見えない時には瞬いていなかった星が、二人の未来を約束する時には夜空に鮮明なのが、めっちゃ京アニ詩学で良い。
 みどりなす黒髪に反射する夜天光の美しさ、なかなか見せなかった本音を曝け出す時の麗しい仕草。
 どこをとっても最高だぁ……う、美しすぎる……。

 色々迷っていた久美子は、麗奈の気持ちを受け取り共に同じ星を見上げることで、微かな安定を得る。
 真由と心から分かり会えたわけでもないし、進路調査票に未来を刻めたわけでもないし、実効性のある決断は何も果たせていない。
 しかしそれを自分に引き寄せるために、一番大事なもの二つ……高坂麗奈との特別な友情と、彼女と奏で広がっていく音楽を確かめたことで、命の薄かった水槽に自分なりの手を加えて、”2”を”3”にすることで物語は終わっていく。

 現実のあがた祭りにおいて、久美子は麗奈との特別に二人閉じこもることを選び、そこに真由をいれる隙間は(まだ)ない。
 そんな現状を真由がしっかり認識していて、彼女なり麗奈と久美子が形作ってきた”北宇治”に歩み寄ろうと、当惑しつつ奮戦している様子も、しっかり描かれた。
 相いれぬ信条を抱え、己の三年間を脅かしかねない確かな実力を持ちつつ、黒江真由は久美子の”敵”ではない。
 だからこそややこしい、あやふやで不確かなモノを未だ抱えつつ、彩り豊かになった金魚の水槽は、噛み合わない音が一つの歌へと変わっていく未来を、静かに約束してくれているように感じた。
 そこに行くためにはあのあまりにも美しい歌と夜が、黄前久美子高坂麗奈に今、必要なのだと告げてくれる事含めて。

 

 というわけで、地獄本格化の前の四分休符、不穏と美麗がダンスするあがた祭りでした。
 いやー……やっぱ凄いなユーフォと京アニ
 高坂麗奈がとびきりの美少女であることが、作品の大きな推進力にもなってきたアニメなわけで、ここでぐうの音も出ないほどその”事実”を描き出してきたの、大変良かったです。
 麗奈が久美子のソリを『巧い』ではなく『好き』で表現するの、芯の強い彼女なりの変化、それを生み出した久美子の特別が感じられて、とても良かったです。
 次回も楽しみ。