羅針が未来の方を刺すまでの、宙ぶらりんな時間の中で。
ガールズバンドクライ 第6話を見る。
前回魂に水ぶっかけ合う熱いLiveをやり遂げ、自分たちが何者かである手応えを掴んだ”新川崎(仮)”。
次なる目標を探して戸惑う少女たちと、同じ方角を目指す女二人がクリームソーダとレオパードゲッコーで急接近! …というお話。
ファイブピースの完全体”トゲアリトゲナシ”結成に向けて大きな一歩を踏み出す回だが、すばるちゃんをコミュニケーション補助装置にすることで、真っ直ぐぶち当たることしか知らなかった仁菜が、回りくどい迂回路を通って相手の心に踏み入る、ちょっと大人なやり口を学び始める回でもあった。
というわけで比較的BPM低めの落ち着いた印象を受ける回だが、なんでかなと考えてみると…仁菜がキレてないッ!
シーリングライトぶんまわしウーロン茶ぶっかける、熊本が生んだロックンロール爆弾も、完全燃焼のLiveを果たしようやく魂が落ち着いたのか、牙を収めて未来を見据える姿勢を見せてきた。
いやまぁ、相変わらずの青春狂獣っぷりは確かにあるのだが、がむしゃらに前に押し出してぶつける以外のやり口を、ライブハウスで仲間と自己実現果たしたからこそ学びつつあるというか。
それは歳が近くて親身に面倒見てくれる、すばるちゃんがいてこその変化だ。
マージでその”ありがたみ”、骨身に染ませておいたほうが良い。
今回もすばるちゃんは二人の間に入って仲を取り持つ動きをしつつ、仁菜と飾りのないコミュニケーションを親しく果たして、色々引き出し教えていく。
常時人間関係の潤滑油を果たしていたポジションから、後ろに立って様子をうかがい、危なっかしい末っ子に何が出来るか、見届ける立ち位置へとスライドしつつ。
自分は何がしたいのか、桃香さんに近づくには何が必要なのか。
世慣れた”嘘つき”の知恵を借り、気持ちが言葉を得ていく助けをして貰うことで、仁菜は今までの正論モンスターからすこしだけ、相手の気持を慮れる存在に己を育てていける。
サウナで寝ちゃう危険な赤ちゃんが場を離れた後、物の解った大人のなりかけとして桃香さんと難しい話ししたり、真っ直ぐしか進めない熊本の暴れ牛がヤバい衝突しそうになったら、するりと間に入り込んだり。
そういう過程を経て、ぶつかると痛い豪速球をただ投げつけるだけでなく、ちょっと落ち着いたスローカーブでカウント整えることも出来そうになった仁菜が、桃香さんの痛い所を付くのを、椅子に座って見守ってもいる。
やっぱすばるちゃんがバランサーをやってくれることで、仁菜が危うくパワフルな子どものまんまもっと自分らしく、音楽に勤しむ物語が駆動している感じ。
周辺視野広いよなー…祖母の気持ちに寄り添った経験故か。
とはいえただただ物わかりの良いお姉ちゃん役をやってるだけでなく、気持ちを前に出しながら仁菜との距離を縮めている描写もあって、それが更に『この嘘つきの言うことなら、ちょっと聞いても良いかもしれない』と、怪物に考えさせる足場になっている。
問題しかない仁菜の生き方が、その棘を失わないまま摩擦を減らしていく上で、すばるちゃんという親友がいてくれることの意味は、本当に大きい
こうして考えると、勝負回の間にすばるちゃんのニンを描く第4話を挟み込んだの、つくづく妙手だよなぁ…。
力強いサビを効かせるためには、落ち着いたサビ前が大事なのだ。
俺はこのアニメの、物語全体の進行をしっかり俯瞰で見つめつつ、キャラクターが生きてロックをやる意味とか意志とかを蔑ろにしない姿勢が好きだ。
どんだけ大人びて視界が広くても、すばるちゃんには一人間としての感情と個性があり、それが仁菜と触れ合う中で元気に弾けるからこそ、彼女を好きになれる。
好きになるからこそ、物語の主エンジンである仁菜が暴れつつ生き方を調整していく契機として、黒髪ロングの嘘つきが大きい仕事をすることにも納得できる。
キャラへの愛着とドラマの進展が、しっかり噛み合いながらお話が流れていくのは、このアニメのとても良いところだと思う。
そういう全体の流れからすると、今回は目標を見定めるまでの中二階みたいなエピソードではある。
”武道館ライブ”という、ロックンロール成り上がり伝説、定番の金看板。
同じく自分たちが自分たちでいられる場所を探していた、ベースとキーボードが一歩自分たちに近づき、バンドが分厚くなっていく展開。
次なる炸裂のための準備ではあるが、しかしそこにもやっぱり楽しく繊細な表現力が生きていて、後に”トゲアリトゲナシ”になっていく少女たちがどんな顔をしているのか、良く教えてくれる回にもなっている。
こういう休符…に思えるエピソードのキレが大事ってのは、第4話がよく教えている所だわな。
今回のエピソード、仁菜は今までの青春テロリストっぷりを少し抑えて、自分が何をしたいのか、バンドがどこに行くべきかを落ち着いて考える。
自分を地獄に落とした(井芹容疑者の供述による)ピンク頭が、自分が惚れ込んだ人を押しのけて光の当たる場所に進みだしてる現状に憤りつつ、じゃあどうすればそれを表現できるのか。
誰かに届く、嘘のない歌として鳴り響かせることが出来るのか。
先も見えずブン回していた激情が、思う存分ロックすることで少しだけ、方向性を探してきている。
そしてそれの行き着く先として、明暗綺麗に分かれた女二人の同居部屋がある。
段ボールの口枷で言いたいことを塞いでいた智は、自分たちと同じ趣味やってる常連が本物の仲間か、気にしないふりでしっかり探っている。
井芹仁菜に安和すばるが在るように、海老塚智にルパが在り、尖りすぎて人生に引っかかってる可愛い年下を、上手いこと自分のまま歌えるように導いてくれている、鏡合わせの状況。
夜の動物であるレオパードゲッコーをトーテムとして慈しみ、ルパがニコニコ笑いながら進み出せる眩しさから己を遠ざけて、暗い場所でシコシコ音楽作っている。
そんな吠え声の行き先を知らない女だからこそ、仁菜がボソリと吉野家のカウンターに吐き出した、飾らぬ本音が胸に突き刺さる。
楽曲の強さは認めつつ、一人間としての芯がどんな温度と色なのか、確かめなければ運命を共にできない一本気は、やはり仁菜と響き合うべく造形されていると思う。
逆に言うと仁菜が今回見せた(ある程度の)落ち着きと見識が、ここまでの5話で育ってくれてないと新たなわがまま赤ちゃん with 微笑みの保護者を追加できなかったから、このタイミングでの本格参入になったのかもしれない。
キャラを曲げて物語の都合を通すより、都合を背負えるようキャラを育てるエピソードを積んだ上で展開していく構築のほうが、やっぱり素直に食えるからな…。
成長の実感、新しい顔が見れる楽しさも、そこには多く含まれている。
ゴスロリアーマーで武装し影の中に潜み続けている、智ちゃんのクソ面倒くささと、それを微笑みながら慈しみ、より善い場所で開花できるよう明に暗に世話を焼いているルパの”圧”は、なかなか心地よいグルーヴを秘めていた。
思い出の中に封じた『絶対武道館』の諦めの悪さを、ちゃんと指摘できる距離感を維持しながらも、徹底的に献身を捧げ智ちゃんに親身にしてるルパ、ぜってーヤベェんだよな…微笑みの奥に感情のマグマを隠した、女女休火山帯ッ!
…シールで隠した”BENISYOUGA"の因縁も、これまたクッソ面倒くさいんだろうなぁ…(高まる期待)
同じ志を音楽に向けている女たちが、出会い聞き届け近づく足取りは、ルパと智ちゃんの私室に仁菜とすばるが入り込む場面で、繊細さの極みに達する。
桃香さん相手に距離感わかんないままぶち当たってる仁菜は、初対面の相手にもズカズカ入り込み、触っちゃいけないものに触れ、だからこそ一気に距離を詰めることが出来る。
物わかりとお行儀の良い…顔もできる器用なすばるちゃんには、どうしても生まれ得ない爆発力が仁菜には確かにあって、それを再確認するご自宅訪問だった。
智ちゃんの声を封じるチャーミングな枷を、何の気なしに仁菜が戯けてハメて、同じ不自由と熱を自分が持っているのだと示す演出、凄く好きだ。
すばるちゃんに諭されつつ、仁菜は今回バンドの行く末をずっと考えている。
憧れの桃香さんが既に負けて降りて諦めてしまっている、全身全霊を音に乗せて”どこか”へたどり着く若人の夢に、仁菜はまだ挑んですらいない。
どこにたどり着くにしてもそこには、絶対桃香さんが隣りにいてくれなきゃダメで、でもあのヒトは苦笑いの奥に傷を隠して、同じ速度で走ってはくれない。
迷った先の答えは武道館を照らす、五色の輝きの中にあった。
智ちゃんが封じられた吠え声を、仁菜に代弁して貰って芽生えたのと同じ光を、仁菜も智ちゃん達と出会って足を運んだ武道館で見つけるのだ。
このお互い様感、フェアで好きだ。
大人びなければ生きていけなかったすばるちゃんが、正しく推察する、河原木桃香の捻くれた思い。
正論一辺倒では攻略できない、真っ直ぐだけが正解じゃない難しさに思い悩みながら、仁菜は似合わぬ嘘つきの騙し討ちを敢行し、音でもって閉じた心の扉を叩く。
結局弾いてしまえば解ってしまう、瑞々しいセンスと感受性…あるいは野心が桃香さんの中にはまだまだ全然生きていて、でもそんな感じやすいものを剥き出しにしたまんまじゃ、諦め負けていくのが当たり前の現実を泳いでいくには、あまりに辛すぎるから背中を向けて封じてきた。
桃香さんを閉じ込めているものがそういう、個人で完結する痛みの問題だけではないことを、窓枠が生み出す十字の影が静かに語っている。
自分は逃げてしまった、諦めてしまった。
その負い目が傷になって、新しい場所で己をそのまま曝け出すのをためらうのは、シールで封じたかつての夢に呪われている、智ちゃんにこそ通じる部分なのかもしれない。
しかしそれも、虹色の風に溶けていく。
溶けていってしまう。
どれだけ物わかりの良いアンニュイで取り繕っても、曲が鳴り出してしまえば止まることは出来ない怪物を、皆が飼っていればこそ五人は出逢った。
そうしてまた、新しい音楽が始まっていく。
ルパと二人きりの時も、仁菜たちを迎い入れて四人になっても、描かれなかったベランダ…外側に対して拓け、新しい風が入り込む場所が、桃香さんが新しい仲間として入って初めて開放されるのは、とても象徴的だ。
そういう場所に名前のない新しいバンドが身を置くためには、桃香さんの意固地を音で切り崩してこの部屋に連れてくるしかなかったし、そういう明るく爽やかな場所を開く特権は、河原木桃香にこそあるのだ。
そういう女を蘇らせて、夢に続く道を共にひた走るためには、暴れているばっかじゃ上手くは行かない。
新バンド結成を告げる爽やかな結末が、ロックモンスターが学び取った新しい生き方を、豊かに告げていた。
仁菜が力強く物語を牽引しうる、ロックというテーマに選ばれロックに生きるしか道がないロクデナシだと最初に力強く叩きつけた上で、そんな不器用女がもっと他人に伝わるように、強くて優しい生き方をちょっとずつ学んでいく物語を、丁寧に積み上げていく。
いじめでぶっ壊された少女の人格と人生を、ロックと出会いと友情でもってもう一度作り直していく、再生と成長の物語としてもこのお話は強いのだと、やや抑えた筆致で丁寧に教えてくれる回でした。
バブバブ赤ちゃんがちったぁ物の道理を学び、自分と相容れない嘘つきが大好きだから色んなやり方を尊重できるようになっていくの、マジ愛しいので今後もバンバンやって欲しい。
仁菜が少しだけ(本当に少しだけ)大人びた頼りがいを得たことで、クッソ面倒くさい爆発力抱えてそうな新たな赤ちゃんを、微笑む保護者付きで舞台に押し上げれるようにもなった。
ルパ…その笑みの奥に何を抱え、何を思うか…。
キーボードとベースを加え、音源的にもより説得力のある表現ができるようになった、五人の新しい…名前のないバンド。
はたしてどこに行き着くのか……レオパードゲッコーくんも、円らな瞳で見守ってくれとるッ!
可愛いねぇ…トーテムに選ぶ動物がちょいヒネてるの、このアニメらしいチャーミングで好きだわ。
この穏やかな新章開幕が、今後生まれる音楽の中でどういう意味を持つのかも、大変気になります。
次回も楽しみ!