イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

プレイレポート 24/05/19 TNX『punchline from da ghetto』

 今日はオンラインコンベンション”トーキョー夜会”で遊ぶシナリオの、第一回テストプレイをしてきました。

 

 シナリオタイトル:punchline from da ghetto システム:トーキョーNOVA-X RL:コバヤシ

 シェンツさん:蛇喰原・倫子・イェニ:18才女性:カブキ◎カリスマ●カゲ 殺人発生率世界一の最悪の街に産み捨てられ、ヒップホップエリートとして己を磨いてきた路上のカリスマ。うんざりするほど安易な死を間近に見過ぎた結果、己の怒りをリリックに乗せ、腐った世界に非暴力で戦いを挑む戦士となった。

 ソエジマさん:”シェパード”強極堂狗彦:40才男性:レッガー◎イヌ●カブトワリ 牙を抜かれた元犯罪者共”ロス・カルロネス”を率い、毒をもって毒を制す戦い方で己の正義を貫いている悪徳刑事。信念を貫くためならどんな手段も厭わない、最悪の精神性でタフに地獄を生き延びてきた、法と正義に魂を売った悪魔。そんな無茶苦茶は全て、愛する一人息子の未来のためである。

 

 こんなカルマの濃いメンツで、災厄の街の最悪を駆け抜けました。
 付き合いの長い身内にもたれかかったテストプレイであり、色々ガタついた部分もあったのですが、自分の好きなものを全力でぶん回す手応えをしっかり感じ取れ、自信と楽しさをもらえるセッションとなりました。
 敷居の高い題材ではあったのですが、自分のやりたいことを先回りして感じ取ってくれるありがたいプレイヤーに助けられ、ヒップホップネタの事前予習までしてもらって、前のめりにセッションに挑んでくれてありがたかったです。

 『”やれる”ではなく”やりたい”を核に、凝ったシナリオギミックなしにスタンダードな構造でやる』という、自分的にすごく久々な作り方をしたシナリオだったわけですが、”好き”が迸りすぎて制御が難しくなってる部分もあり、だからこそ面白くなっている部分もあり、今は『テストプレイしておいてよかった~~』という感じです。
 今回は本当にメンバーに恵まれて、セッションしている現場で色々甘えた相談を投げつけながらプレイできる、ネクタイしてないどころかパジャマでセッションしているような状況だったのですが、だからこそ率直な意見ももらえて改善点も見えたので、大変ありがたかった。
 何より結構力みながら込めた俺なりの”好き”が結構響いていた感触があって、そういう反響を感じ取れると自信がもらえるので、大変ありがたかったです。
 こっからよりよいシナリオにして、コンベ当日に挑もうと思います。

 というわけで、同卓してくれた皆さんありがとうございました。
 大変いいセッションでした、楽しかった、ありがとうッ!

うる星やつら:第41話『愛と勇気の花一輪』感想ツイートまとめ

 うる星やつら 第41話を見る。

 終わらない祝祭を彩ってくれた、色んなキャラの決着となりうるエピソードが続いている令和うる星第4クール。
 第31・32話で力を入れて描いた、しのぶと因幡くんの物語を完結させる、SFおとぎ話ラブコメの傑作回である。
 ”SFおとぎ話ラブコメ”とはつまりラムとあたるを主役にした、”うる星”そのものであるし、役者を変えて描かれるこのお話は、彼らの終わらない追いかけっこをどう終わらせるのか、その前駆でもあるのだろう。
 しかしそんなエピソードにおいて、あたるは極めて軽薄で薄情に、今まで通りしのぶに本気にならない。
 なれないし、なることを許されない。

 

 今回しのぶは延々ぶりぶり『選ばれないこと』に怒り続けていて、因幡くんは彼女を世界で唯一の存在として選べない自分に立ち向かえない。
 そんな二人の煮えきらない距離を煮込むべく、突拍子もない事が山盛り起こりつつ、極めてファンタジックでロマンティックでもある夢世界の旅が、真実の愛を試す。
 あたるがしのぶを選ばない、選べない存在として延々、テキトーな愛をささやきつつ場を賑やかす横で、しのぶと因幡くんは溺れかけボコボコに殴られ、苦難に満ちているからこそ嘘がない自分たちの気持ちに、ちょっとずつ気付いていく。
 そこら辺の手つきは、やっぱ終わりを前にしてのある種の詫び状みたいな、切なさと真剣さを感じる。

 僕はどうにでも好き勝手にヒネれるはずの創作物に、真剣に立ち向かってしまった結果否応なく”仕事”を任せてしまった存在に、創作者が作品でもって詫びる瞬間が好きだ。
 例えば”劇場版けいおん!!”はゆい達の青春に振り回され、学校にひとり取り残される中野梓への長い詫び状としてまず読んで、だから凄い好きなんだけども。
 お話がお話として成立するために発生する無茶を、『お前はこれをし続けろ』という押しつけを、開き直れずやりたいことも傷つく心もある”人間”として、最後のチャンスで向き直ろうとする創作者の姿勢が、凄く好きなのだ。
 ここ最近の令和うる星には、そういう匂いがあるかなと勝手に思っている。

 騒々しくも面白い、何でもありの終わらない狂騒。
 傷や痛みはすぐに癒やされ、どんだけ騒いでもシリアスになりきれない繰り返す物語を、その形のまま維持するためにはキャラクターに過度にマジになってもらっては困るわけで、幾重にもエピソードを積み重ねた結果焼き付いたキャラの属性は、重荷めいてその魂を縛る。
 そんなモラトリアムの檻が一つの終わりに辿り着こうとしているこのタイミングは、彼らを繰り返す世界の奉仕者から望みを抱えて前に進む存在へ開放できる好機だ。
 渚の登場を以て竜ちゃんの複雑なアイデンティティが変化する…契機を得たように、今回しのぶは因幡くんを鏡にすることで、『選ばれない女』から抜けていく。

 

 好色な主人公が鬼っ子エイリアンにビリビリされながら、ドタバタラブコメを繰り広げる座組を成り立たせる関係上、しのぶはあたるがモーションをかけ、ラムに嫉妬される壁役を担ってきた。
 軽薄なあたるの運命がラムにしかない以上、しのぶへのモーションは常にポーズでしかなく、三角関係未満のねじれは延々繰り返す日常に飲み込まれ、その繋がり方は大変にまったりした。
 ラムとあたるを取り合うでも、あたるの本気に向き合うでもなく、むしろ気のおけない女友達として、ぶっ飛ばしもギャグの一貫にしかならないコンフォート・ゾーン。
 そこが、三宅しのぶが”うる星”に存在する/”うる星”を存在させるための居場所だった。

 誰でもいいあたるは当然モテず、誰でも良くないシリアスさな地金を時折のぞかせつつも、騒がしい物語の中で生真面目な顔をあまり作らぬまま、今回極めて典型的にそう振る舞ったように、軽薄で移り気な、マジにならない/なれない若者としてしのぶに向き合う。
 それが”向き合う”というほど腰の入ったものではないことを、しのぶの怒りや悲しさを全然見ないで、最終的にノンキにお茶しばいている立ち位置が良く語っているけども、今回のエピソードは『しのぶが因幡くんに選ばれる』話であると同じくらい、『あたるがしのぶを選べない』話でもあろう。
 『じゃあ、誰なら選ぶの?』という問いが、気楽すぎる主人公の振る舞いからは起こる。

 この問いかけに答える時は、つまりあたるが何かを選ぶときであり、何も選ばなくてよかったモラトリアムが終わる時であり、”うる星”が描き続けてきた終わりのない狂騒が終わってしまう、そういう決定的なエピソードになる。
 なのでそれは最後の最後の後回し、今回はあたるの運命ではないしのぶが、どんだけ選ばれない存在であることに苛立ち、怒り、選んで欲しかったかを強く刻みながら、彼女のための王子様が本気になるまでを描く。
 『しのぶは選ばれませんでした』で終わって良いところを、不思議な魅力をたっぷりの命管理局という劇的空間、その住人である因幡くんをわざわざ造って『因幡くんはしのぶを選びました』にするのが、なかなかに素敵な贈り物だと、思ったりもする。

 

 

 

 

 

画像は”うる星やつら”第41話より引用

 しのぶはあたるの誰でもいい軽薄も、因幡くんの誰でも大事な公平さも望んではいな い。
 お話が続く限りそこに閉じ込められる、誰も自分を選んでくれない便利なポジションから、自分を引きずりあげて特別にしてくれる狭い愛を、強く強く求めている。
 しのぶがそういう気持ちを抱えたまま、ワイワイ騒がしいまったり距離感に甘んじていたかと思うと、ここまでの物語もまた味わいが変わってくるが、とにかく彼女は怒っている。
 怒っているのだと、改めて僕らに教えてくれるステージを用意して、煮えきらない因幡くんをズルズル引きずり回しながら、泣いたり笑ったり忙しい。

 しのぶの涙も笑顔も、因幡くんの決意がこもった微笑み、美しい花畑も。
 楽しくも騒がしい”いつものうる星”では描けない熱があって、しかしそういう嘘のない気持ちを持ってるキャラだからこそ、ここまでの大騒動は元気で楽しかった。
 三宅しのぶはこういう表情をする子だったと、繰り返しの中でいつの間にか忘れていた僕らに、そんな事実を思い出させて、すまなかったと思わせる回でもある。
 いやホント、今回のしのぶは『可愛いしのぶを、世界一可愛く描くぞッ!』という気合に満ちていて、大変良かった。
 この可愛さが、因幡くんの本気に説得力を与えもする。
 こんだけ可愛い子に涙ながら本気の気持ちぶつけられたら、そらー本気にもなるだろ……。

 本当はしのぶともう一度会いたかっただけなのに、『誰でもいい』なんて照れ隠しで本心を覆い隠して、そこが地雷なしのぶをぶりぶり怒らせて。
 今回の不思議な旅はしのぶが特別な誰かに見つけてもらうお話であり、因幡くんがしのぶを特別に思う自分を、ボッコボコに殴られながら見つけるお話でもある。
 どんなに回り道でも厄介でも、この人と一緒なら進んでいけると思えるような、特別な誰かが自分の中にいる。
 そんな因幡くんの発見は、心の中を飛び出してしのぶに届き、特別なたった一人にずっとなりたくて、そうはなれない定めに縛られてきた女の子に、欲しかった花束を手渡す。
 それが、終わりを前にした”うる星”からの餞だ。

 

 顔面ボッコボコにされる戦いとか、危険がいっぱいの冒険とか、厄介なものと戦えばこそ真実が見えてくる今回のお話。
 この構図を、ぶっ飛ばされたからこそ”弱点”が見える笑いで照らす所に、この作品のコメディとしての非凡さも見えるわけだが、しのぶと因幡くんが辿った困難で実りの多い旅路を、あたるとラムが走ることは(まだ)許されない。
 元来そうであるように、だからこそこの長い物語を楽しく彩り得た、人間としての譲れぬシリアスさ、傷つく身体。
 そういうモノがあたる達に開放されるのは、もうちょっとだけ先の話だ。

 壊されたものが治り、傷はすぐさま癒え、見つけた宝物は見失われ、延々繰り返すモラトリアム。
 そんな”うる星”が今回のお話、三宅しのぶの最終回では、大きく崩れている。
 ベコベコにされた因幡くんの顔が、友引町の世界法則に反して傷ついたままなのは、”いつものうる星”が終わりつつあるからこそ描ける、不可逆の決意と覚悟の現れだ。

 痛いからこそ意味があり、意義ある変化を刻めるシリアスさを、遠ざけていたからこそ成立していたスラップスティックの内側に、子どもたちを閉じ込めていては拓けていけない、彼らの未来。
 何かが決定的に変わってしまいそうで、でもそれを描いても相変わらず”うる星”なエピソード達は、友引町からの卒業証書、物語の共犯者からの感謝状のように、数多連なっていく。
 負け知らずだった竜ちゃんが”男”に負けて泣いたのも、その一幕かなと今回見て、あらためて思った。

 

 

 軽薄で相手の顔を見ない、誰かを特別に選ばない諸星あたるでは、望む特別を手渡してゴールに一緒に進み出れなかった三宅しのぶが、彼女のために傷だらけになってくれる素敵な男の子から、花束を手渡されるまでのお話でした。
 とても良かったです。
 おめでとう、ありがとう、三宅しのぶ。
 キミがワーワー騒いで怪力で暴れまくったこのお話は、とても楽しかった。

 さぁて、今回賑やかしの脇役に、きわめて”うる星”的に徹していた主役たちは、どんな花束を集めて駆け抜けていくのか。
 このアニメが、それをどう描ききるのか。
 4クールに渡った長い物語、傑作への愛情に満ちた新たなるアンソロジーが、そろそろ終わる。
 とても楽しみです。

となりの妖怪さん:第7話感想ツイートまとめ

 となりの妖怪さん 第7話を見る。

 外見も生き方も違う異物と、否応なく付き合うカミ在る世界の悩み事…妖怪と人間の寿命差に切り込むエピソードである。
 ぶちおくんとワーゲンさんのほっこり二人旅を可愛い可愛いと喜んでいたら、スーパーヘヴィな人生の話が山盛り襲ってきて、実はそこまで”癒し系”ではないこのアニメの好きな部分に、また襲われてしまった。
 新生以来、色んな”初めて”に出逢ってきたぶちおくんは、ワーゲンさんの話を通じてこれから先確実に待ち受ける”初めての別れ”に思いを馳せる。
 この苦みも生きるってことなので、つまりは”生きる”を描くこのアニメの大事なポイントなのだ。

 

 永訣に至ったとして、積み上げた何もかもが消えてなくなるわけではなく、それでも淋しく悲しい気持ちは消えない。
 じゃあどう向き合っていくのかという問いかけは、絶対の答えがあるわけではなく人それぞれ、妖怪それぞれなのだろう。
 これに向き合うことでぶちおくんはまた、今まで知らなかった難しさや感情を知っていくわけで、やっぱ妖怪一年生のぶちおくん視線を借りることで、妖怪ひっくるめて”人”が生きるってどういう事なのか、改めて問いただし答えていくお話の良さと強さを、感じることが出来た。
 じんわり渋い味わいながら、こういう所に腰入れて踏み込んでいけるの、やっぱ凄いなぁと思う。

 和彦さんと奥さんの物語は、遺伝性の死病として妖怪混じりの思わぬ不幸を描いており、それを恨むことなく生ききった奥さんの誇りが、なかなか眩しい話でもあった。
 色んな死や別れを描くことで、楽しく前向きなことばっかじゃない妖怪のリアリティがグンと高まり、その理不尽を定命なりに飲み干していく逞しさも、より手応えを増していく。
 置いていかれる者には置いていかれる者の、先立つ者には先立つ者の、それぞれの辛さと切なさがあり、しかしそれでも繋がるもの、手渡せるものはある。
 人型ワーゲンの歩いた後には、そういう轍がしっかり残ってて、それが彼が前に進んでいくための導きにもなってくれるのだろう。

 ここら辺の難しく渋い味わいを、まだ新生したてのぶちおくんはなかなか解っていないわけだが、極めて率直かつ力強く人生の話をしてくれる友達のおかげで、自分に引き寄せて考えることも出来る。
 年も外見も種族も関係なく、色んな人と触れ合い繋がることの意味もこのお話は大事にしている感じで、メチャクチャ理想主義的なネタを、大上段に振りかぶることなく楽しく手渡せている感じが、やはり良い。

 

 同時に時の刻みが全ての”人間”に平等ではなく、どれだけ愛していても残酷に絆を引き裂いていくシビアな現実も、妖怪をメインに据える以上取っ組み合うべきネタで。
 飄々としているジローの胸の奥…溜まっているよ深い闇ッ!

 ジローと曾祖母ちゃんの因縁をほどいていく物語が、早く大人になってジローを守れるようになりたいむーちゃんの背伸びと並走しているのが、僕は凄く良いなと思う。
 むーちゃんの苛立ちと焦りはあらゆる子どもに普遍的な炎で、これに焙られることで心と身の丈も伸びていくモンだと思うが、微笑ましく健気なその現象と、ジローを生者の岸に置き去りにした宿命は、同じ時の河に住む魚だ。
 子どもにとっては幸せな未来へ連れて行ってくれる波であるものが、老人には永遠の別れへ、そこから置いてけぼりにされた長命種には寂しさと孤独へ、それぞれつながっている。
 このズレは生きることの必然であり、どうしても変えられない。

 変えられないなら、乗り越えられないのものか…ってのは、こういう角度から『妖怪と人間』を描いた以上答えなきゃいけない問いかけになるだろう。
 それがなかなか煮えきらないジローの苦笑いを、本気の笑顔にしたり痛ましい真顔にしたり…どう転がるにしろ、何かを変えていくって予感は、既にある。
 定めの荒波がどれだけ厳しいものを叩きつけてきても、”人間”が負けないための命綱が何に繋がっているかも、むーちゃんと千代ちゃんの尊い触れ合いの中に、しっかり感じられた。
 千代ちゃんはどっしり腰を下ろして少女の迷いを抱きしめてくれる本物の”人間”すぎて、見ててめっちゃ安心するから大好き。
 ジローの脆くて弱い部分が表に出てくることは、守られてばかりいたむーちゃんが守る側になる成長を描き、時の流れが悲しみばかり連れてくるわけじゃない事実を、作品に強く刻むと思う。

 

 妖怪という存在が当たり前にいる世界を、ちゃんと作り上げてきたからこそ描けるお話がこの後見れそうで、幾度目かとてもワクワクしています。
 やっぱこの独特の味わい、”となりの妖怪さん”でしか堪能できなくてイイんだよなぁ…ジジババがたくさん出てくる意味が、山盛りあるアニメ。
 次回も楽しみです!

烏は主を選ばない:第7話『転落』感想ツイートまとめ

 烏は主を選ばない 第7話を見る。

 蛇のハラワタに潜り込んだ若宮は思いの外平穏に窮地を乗り越え、その危惧通り桜花宮には危うい影が伸び始める。
 遂に分かりやすい犠牲者が姫サイドにも出て、こっからどんな地獄絵図が暴かれるのか、正直大変ワクワクしている。
 こういうどす黒い内幕を隠蔽して、事実が暴露されていくショックを高めるためにも、ぷわぷわしてるあせびを姫サイドの主人公(つうか視点担当人物)にしてたわけだなぁ…。
 まーあせびも見た目通りのゆるふわちゃんじゃない可能性が結構あり、そうすると白珠の嫌悪感も言いがかりではなくなってくるわけで、虚実がクルクル入れ替わる酩酊感が今後楽しみ。

 

 もっと場が荒れるかと思いきや、御簾を降ろした密室でも礼節は保たれ、若宮の南家乱入は大した波乱なく終わった。
 政治的情勢が動いたわけではないけど、長束が弟にしっかり意見できる、現実と理想をしっかり見据えれる人だってのと、浜木綿が助っ人外国人みたいな立場で桜花宮に送り込まえていて、こんぐらいのチートは日常茶飯事だということが良く解った。
 金烏の妻に選ばれたものの家には栄達が約束され、選ばれぬ家は冷や飯を食う。
 自由意志の結果結ばれた個人的な恋が、イエの趨勢に致命的に関わるのであれば、そこはもはや人間らしい感情を大事に出来る愛の揺りかごではなく、冷たい政治のチェスボードだ。

 勝たなきゃいけない勝負のために、勝てる手を全部ねじ込むのは指し手として当然なわけで、早桃の死もそういう死物狂いの延長線上にあるのだろう。
 華やかな婚姻儀礼すら血生臭く汚す、四家相克の欲望と権勢を見るに、その生臭い力みを軽視して何事かなそうとしている若宮は、確かに危なっぽい。
 長束は非常に怪しく、本音を語っていないように演出され、そう受け取れるように状況も組み立てられているけど、弟であり主上でもある存在への期待と信頼、それ故の危惧はあんま嘘がないんじゃないかな、と思う。
 欲望と見栄が複雑に絡み合う、鴉共の政治情勢への分析も含めて。
 …ホント、この人が金烏になったほうが争いは少なかったな。

 

 長束が重視している”山内の安寧”は、つまり四家の勢力均衡と実利分配を前提とした、それ以外の全てを蔑ろにして成立する搾取だ。
 おそらく意識して貴族以外の生活を描いてないこのお話、イエの外側から山内の将来を左右しうるポジションへ上がるのがどんだけ大変かもまた見えないが、こんだけガッチリ四家で政治ゲームを回していると、乱入者は殺して追い出されているんだろうなぁ…という推測は立つ。
 4つの家で勝ったの負けたの、ワーワー騒げるのはそれ以外のプレイヤーを場に入れないからこそ成り立つゲームで、閉じた遊技場で”山内”を弄び続けていれば、そらー怨念も腐敗も山ほど貯まるわなぁ…って感じ。

 イエと己の延長線上に、それ以外の人たちが多数暮らす山内を封鎖しているのなら、大義として語られる”山内の安寧”もまた四家による政治ゲーム構造の維持、己が所属するイエの繁栄(≒他家の没落)とイコールになっていく。
 この狭苦しい帰属意識は、どっか垂氷と家族以外に興味がないとうそぶく雪哉にも重なって、青雲の志のただ中にいるように思える青年を、ちょっと危うい存在にしている。
 極論、四家の連中は”山内”が滅ぼうが自分の家…そこに所属する己が地位と繁栄を維持できるなら、なんもかんもどうでもいいエゴイストの集団だと思う。
 そして若宮は、そんな閉じた腐臭が大嫌いな潔癖性…なんじゃなかろうか。

 

 腐って閉じた世間だろうが、致命的な何かが起きない限りは維持されてしまうのもまた世の常であり、そういうラッキーが今後若宮と山内に待っているのか、はたまた”真の金烏”を求める時代が試練を叩きつけてくるのかは、この段階だと全然解んない(というか、アニメの範囲だと多分そこまでデカいの触んない)
 しかし若宮の不安定な権力基盤と、嫁取り儀礼のどす黒い危うさにクローズアップした話運びの奥から、狭苦しいイエの粒試合がそのまま”山内”の命運を決めてしまう怖さは、じっとり匂っているように思う。
 現代人目線だとマジロクでもねぇが、まー洋の東西問わずこんな感じだよなー中世…。

 カビと血しぶきと我欲の入り混じった、ドブの臭いを嫌う立場としては、狭い現状に視界を縛られてなさそうな連中に好感を抱くので、武辺者に見えてクレバーな路近は好きだ。
 ”敵”の間者である雪哉を高く勝ってスカウトし、人間をコマと見てしまう(と、周囲に思わせてしまう)若宮の危うさも親切に指摘している。
 現状長束派は主役サイドの仇と思わせる描き方なんだけど、立場の違いが隔てているだけで、見えているものが同じ連中は結構いるんじゃないかな…と思わされる描写だ。
 冷たい印象を与え確かにそう振る舞う若宮が、派閥の壁を超えて同志を見つけれる器かどうかは、また別の話になるけども。

 

 さて、お姫様サイド。
 2つの柱を並立させるアニメの語り口は、だんだん鞍部を表に出してきた桜花宮の本性が、若宮が危惧している通りの修羅場だという『答え合わせ』を、先んじて済ませている。
 今までの華やぎが嘘で、こっから表に立ってくる地獄が本当。
 虚実の分水嶺はかなり分かりやすい形で示され、視聴者が答えに迷わないって意味では親切で、何が本当だったのかフラフラ悩む一人称の贅沢は、この形式だと薄くなる。
 サスペンス/ミステリとしてのインパクトを弱めることで、より咀嚼しやすい物語形態にアニメとして編纂した…ってところか。
 これはこれで独自の味が出てて、アニメにわかな立場としては、かなり好きだよ

 容色に優れた子女を養子にして勝ちに行くのも当たり前な、なりふり構わぬ嫁取りバトルに補助線引かれたことで、白珠の策士っぷりにも、追い込まれた哀れみが感じられた。
 真緒の薄が対立構造を越えて、そこに目を向けている様子、柔らかな真心の持ち主という描写もそこにはあって、だからこそこの人非人共の箱庭では生きにくかろう…という感想も湧く。
 見た目と中身が全然違うことで、ミステリとサスペンスを駆動させているお話だと思うので、作られた第一印象を横に置いて引いた視線から全体を見て、今後の展開を読みながら眼の前の事象を受け取る姿勢が、知らぬ内に染み付いてきてるな…物語受容としては、あんま良くない。

 意地悪で狂ったお姫様たちに、さんざんひどい目に合わされてる悲劇のヒロイン…てのが、今のあせびの描かれ方なわけだが、そういう建付けを暴力的に蹴り破り、衝撃の真実を叩きつけてきそうな作風だけに、そこに体重預けるのもなぁ…って気持ちではある。
 いやこれで蓋を開けたら、マジでピュアピュアな天使だったら土下座して謝るわけだが、この頭良くて性格悪い話が甘くてふわふわしてるだけの綿菓子娘を、お話の真ん中に据え付けるかねぇ…。
 早桃の死が起爆剤となり、ここら辺の構造も内幕が見えてくると、メタ視点でお話読んでるある種の後ろめたさから開放されて、俺が楽になるので早く話進め! って感じではある。

 

 お姫様サイドだけで話が進行してたら、早桃の死って今まで支配的だった夢色トーンをずたずたにひっちゃぶく、効果的な”裏切り”だったんだと思う。
 でも男衆サイドが並走するアニメだと、『あー…来るべきものが当然来たね…』って感じではあり、ここら辺の機能はと味わいは相当、原作から変わってんだろうなぁと、未読の立場から勝手に推察したりもした。
 俺は匂わされていたヤバさが遂に死体に結実して、ある種のスカッと感と納得が大変気持ちいい。
 もともと最悪にロクでもない世界なんだから、変な手加減なしに行くところまで行って欲しいという、暗い願いは話数ごと、どんどん加速している。

 同時にそういうドブの中でも、かすかな人間の真心が燃えていると切なくていい感じなわけだが、雪哉-若宮ラインにはそういう手応えを、静かに感じている。
 イエを背負った権勢合戦という舞台建てが、お姫様たちの心の交流を阻んでもいるわけだが、真緒の薄は相当”人間”なんじゃねーかなという、期待込みの現状観測である。
 これはあせびに体重預けすぎない、メタな読み方の裏返しだけども。

 

 薄桃色の恋が犠牲の血に汚れ、蛇の巣はその本性を顕にしていく。
 桜色の牢獄に見え隠れする、山内の歪みと人の業…そして微かな温もり。
 さてはて一体どうなるか、次回も楽しみです。
 よーっし! ドンドンろくでもなくなるぞー!

ガールズバンドクライ:第7話『名前をつけてやる』感想ツイートまとめ

 上諏訪イイトコ一度はおいで、名産品は蕎麦とロックと巨大感情!
 ガールズバンドクライ 第7話である。

 智ちゃんとルパを加え、五人になった名前のないバンド。
 諏訪への遠征を通じてお互いの暗い過去を暴いたり、桃香さんが抱え込んでた爆弾が破裂したり、昔の女に怯えてみたり、それに背中を押されて全力で飛び出してみたり。
 『まー、お前は”そう”だよな井芹仁菜…』と、すばるちゃんとシンクロして『あちゃー』言いつつも納得の爆弾発言を最後に投げ込みつつ、色々あった長野回だった。
 最年長の強キャラ・ルパがニコニコ不動の安定感を示してくれるので、桃香さんが大人の椅子から織りれるようになったなぁ…。

 

 というわけで、ファイブピースバンド”トゲアリトゲナシ”初披露の上諏訪ライブであり、ここまでロック赤ちゃんの面倒をよく見てくれた桃香さん脱退の大ピンチである。
 仁菜の受験生ドロップアウトは…まぁレールの上に乗っかった生き方が出来ない生物であることは既に知っているので、来るべき時瞬間が当然来た(わりとタイミング的には最悪)という感じではある。
 何かが壊れて何かが生まれ、何かが終わって何かが始まる、ゴールとスタートが背中合わさせ張り付いたような矛盾超越の瞬間にこそ、ロックンロールは鳴り響く。
 常時転がり続ける未来がどっちに行くか、さっぱり見えない気持ちよさは、オリジナルアニメの醍醐味だ。

 

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第7話より引用

 かくして冒頭から、仁菜と桃香の冷戦状態が切り取られていく。
 一人だけ色合いの違う場所に佇み、何かを抱え込んだ風情の桃香に、仁菜は遠くから見つめつつ踏み込めない。
 相変わらず物理的に真ん中に立ち続けるすばるちゃん(とヘビくん)を潤滑油にしつつ、新入り達とかなりいい感じの空気を作れているのとは、好対照な構図だと言える。

 親が投げ捨てた熊本の情動爆弾を、桃香さんが受け入れ肯定しロックを教えてくれたからこそ、この物語は始まり駆動してきた。
 しかし桃香さん自身も、挫折と屈折を抱え込んだ青春の主役であり、そんな自分と向き合う頃合いが来たのだ。

 かつて治安最悪の川崎水と一緒に、ぶっかけられた真っ直ぐな情熱。
 『私はお前の歌に救われてしまったのだから、永遠に輝く神様で居続けろ』という仁菜の願いは、傷つき間違える生身の人間にとっては純粋さの凶器であり、そんな青春ナイフを見失ってしまったから、桃香さんは一度バンドを辞めた。
 それでも燃え盛る何かを井芹仁菜に見出したから、故郷へ向かう足を止めて川崎にしがみついて、仲間が増えた今またグダグダと、自分の歌を信じきれず足を止めようとしている。
 今回はその逡巡を遠目に睨みつつ、進み出せなかった仁菜が諏訪湖の花火に祝福されて、黒い棘全開で思いっきり飛び出すまでのエピソードである。

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第7話より引用

 飛びたいと願うのは縛られているからこそで、バンドに集った皆が過去を抱えつつ、どこかを目指して走っている。
 ドーナツの甘い壁で姉と距離を取ると思いきや、まさかの膝枕ポジションまで一気に詰めてきた”妹”井芹仁菜の立ち回り…やはり全く油断できない。
 甘やかしつつも言うべきことは言う、井芹姉の距離感は大変いい感じで、メンバーの柔らかい場所を掘り下げるための絵筆として、しっかり機能している。
 加入まで一話で一気に駆け抜けつつ、それぞれの原点と傷をドタバタ諏訪旅行で距離縮めて開示していく手際と合わせて、知りたかったモノが見えてくる回だ。

 本来なら抱きしめてもらえるはずの相手に、体面重視で投げ捨てられた。
 いじめと不登校を巡る仁菜の傷には、カリスマ教師である父への反発と不満が膿んでいて、そんな父権への反逆が彼女をロックをやる理由の一つとして、自分の中にスポッとハマった。
 自分を大事にしてくれない保護者から切り離されたいのに、結局紐付きの立場に自分を置くしかなくて、黒い棘ばかりが体内に貯まる日々を、ロックンロールはぶっ壊してくれた。
 だから、今度は自分がロックに成る。

 至極当然の思考回路であり、これはそれぞれ個別の鬱屈を抱えてバンドになった、他のメンバーにも共通する。
 ルパは両親の死、智ちゃんは最悪な不倫目撃。
 ”親”なる存在に置き去りにされたり傷つけられたりしながら、家から遠い場所に流れ着いた少女たちは、それぞれ別々の痛みを抱えたまま運命に惹かれ合い、バンドになっていく。
 すばるちゃんを間に挟まない車内で、姉の温もりと冷たさで刺激されたナイーブな感情を真っ直ぐ突きつけ、智ちゃんにシリアスな解答を貰えた場面は、仁菜なりに相手の顔を見る眼、見えている断絶を飛び越えようとする勇気を、ロックやりながら育てているのだと理解って良かった。
 最初の暴れっぷりがあんまりに凄かったので、フツー以下のコミュニケーションで感激してしまうわけだが、ロック保護者の助けなしで向き合おうとしてるのは、マジ偉い。

 自分の足で立って、自分の意志で踏み込んで、自分の言葉で伝えて、自分の耳で聞く。
 そういう、本当のロックンロールが生まれてくる場所に仁菜が近づいているのは、メチャクチャ傷ついて川崎に流れ着き、メチャクチャになってる心を殴りつけ受け止めてもらえた時間が、確かにあったからだ。
 それを生み出してくれた恩人は、なにか重たい隔意を抱えて距離を取り、重く思い悩んで打ち明けてくれない。
 無敵のカミサマなんかじゃなくて、胸に鳴り響く音楽に出会って夢を見て、現実に傷つけられて地に落ちて、空を見上げるクソガキなんだと、預けられる距離感まではまだ遠い。
 遠いが、確かに近づいてきている。

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第7話より引用

 桃香さんをロック赤ちゃんの世話役から下ろす今回、彼女がかつての仁菜と同じく特別な音楽と出会い、それで人生歪んじゃった現役のロックガールであると、示す鏡が必要になる。
 自分の知らない過去を共有する、沢城みゆき声の大人の女にビビってる仁菜を、斜めに走る二つの境界線がきっちりスケッチするなか、ミネさんが奏でる音楽がその壁を壊していく。
 『ロックンロールのアニメなんだから、弾いて聞いちまえば全部わかる』は最高に良い。

 人見知りで強がりで根暗で最悪な青春に、唯一光を灯すもの。
 時間も屈折も飛び越えて、世界の答えをくれるもの。
 仁菜が”空の箱”に出逢ってしまって、真っ暗な放送室に光を灯して笑ったように、桃香さんもミネさんの音楽に出逢ってしまって、ロックンローラーを志した。
 そんな音楽が持ってる力は色褪せず現役で、弱っちい癖に攻撃的な川崎チワワは、曲一つでそこにある輝きを聞き届けて、過去の桃香と同じ顔をする。
 言葉では伝わらないもの、日常生活やってても爆破できない壁を、一瞬で超越するパワーが音楽にはあり、それを繊細に聞き取る感受性は、一話からずっと井芹仁菜の武器だ。

 瑞々しい耳の良さは、挫折にコスれた桃香さんにも全然残っているはずで、でも飛び込む声を聞かなかったふりをして、これ以上痛くないよう諦めようとしてる。
 仁菜が自分のロックを見つけて暴れまくるのと反比例して、彼女をそこに導いた桃香さんの煮えきらない逡巡は、より鮮明に描かれるようになってきた。
 クセの強い主人公を愛されるべき怪物として僕らに差し出してくれた、桃香さんの頼りがいに憧れを置く視聴者としては、極めてダサくて許しがたい。
 しかしその煮えきらなさは、敗北を知った20歳の飾らない生身であり、それが音楽と出逢ってしまった時の眩しさと地続きであること…仁菜がミネさんの音を聞いた”今”の輝きと、それが繋がっていることを、このファーストコンタクトは良く語っている。
 バラバラなのにどこかが似た者同士だから、強く響き合うのだ。

 

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第7話より引用

 まぁそういう共鳴を遠くに置き去りに、桃香さんは仁菜の世界をぶっ壊す衝撃の脱退宣言をぶっカマスわけだが。
 世界が灰色に染まり、壊れて罅が入る演出は、仁菜の受けた衝撃を見事に描いていて素晴らしかった。
 それでも音楽は続き、バンドは曲を弾かなきゃいけない。
 抱えるには重たすぎる荷物に、大先輩がするりと距離を縮めてくる。
 仁菜の保護者として一面的だった桃香さんのキャラ造形に、奥行きを出す今回、ミネさんの余裕と存在感が大変いい仕事をしている。
 人見知りな仁菜が、身内以外との距離を縮める力をつけてきていると示すうえでも、大変いい感じだ。

 河原木桃香極限強火ファンである仁菜にとって、ミネさんは警戒するべき過去の女であり、いい音楽で心を殴ってくる本物の音楽家であり、ずーっと自分の面倒見てくれた先輩よりもっと大人な、失われた母だ。
 親父の最悪ムーヴを止めてくれなかった母をも怨みつつ、どっかで甘えられる場所を探している感じを姉の膝枕に匂わせていた仁菜が、親身にされてチョロっと行っちゃうのも、まー納得ではある。
 というかミネさんの飾らない人間性、歳関係なく真っ直ぐ向き合う爽やかさが力強くて、桃香と仁菜の間に立って、拗れた思いをつなぐ仕事をするのにベストな造形をしてくれている印象。
 こういうキャラがいてくれると、奥行き出るね。

 仁菜は熊本でメチャクチャにされた経験から学んで、自分を守るべく大変警戒心が強い。
 しかしバンドメンバーに優しくしてもらったり本音でぶつかったり、思いを叩きつけたボーカルに最高の演奏でレスポンスを貰ったり、ロックを通じて対人関係をリハビリしている感じがある。
 音楽以外で他人と繋がれない、川崎の大暴れ天童は裏を返せば、音楽を介すれば見知らぬ誰かの隣りに座って、自分には見通せないから不安な思いを手渡し、二カッと笑顔にヒントを貰える存在でもある。
 隔意と警戒から始まったミネさんとのコミュニケーションは、そういう仁菜なりの社会的エコーロケーションを上手く削り出してくれる。
 そらー、予備校行ってらんないわ。

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第7話より引用

 ルパとミネさん、二人の大人にグデングデンに酔い潰されロック赤ん坊の本性を晒した桃香さんを置き去りに、ミネさんはクールに去る。
 そんな風に、大人になってもロックに生きている諏訪の女(ひと)に答えを貰って、仁菜は弾む自分を抑えきれずに駆け出す。
 その決断が間違っていないと、祝福するような…あるいは人生ネジ曲がる呪いを更にブーストするような、美しい花火が大変印象的だ。
 いやまぁ傍から見てりゃ大間違いなんだが、井芹仁菜が”そう”としか生きられないことはここまで、山盛り描いてきたわけでね。
 思い立ったが天中殺、駆け出す心は止められない!

 俺は情緒赤ちゃんな仁菜が、キツい家庭と地元から逃げ延びた川崎で桃香さんに甘やかされ、ワーワー喚きつつ無条件の信頼を預けていく様子が好きだったので、桃香さんにとってそういう存在だったろうミネさんと、小指の暗号で微笑める距離感を一話で作ったのは、大変良かった。
 いわばロック・グランマである彼女を通じて、桃香さんも自分と同じく特別な光に出会い、ロックに突き進み…自分が知らない失敗と挫折を叩きつけられて、自分には理解できない迷いと痛みにうずくまっている現状を、仁菜は自分の中に引き入れていく。
 そうやって他人のことを分かろうとするのは、自分のことも解ってない仁菜に、凄く大事なことだと思う。

画像は”ガールズバンドクライ”第7話より引用

 かくして運命は色々なものを抱え込んだバンドをステージに引っ張り上げ、あんだけ悩んだ名前はその場のノリで一気に決まっていってしまう。
 そのテキトーな勢い任せは、桃香さんが抱え込んだ荷物もそうやって爆破されそうな期待感を、ちょっと抱かせる。
 川崎では『このダセー名前だったら辞めるからな!』だった智ちゃんが、諏訪への旅を経て『ダセー名前でも、まぁ良いか…』になってるのは、あまりにも可愛い。
 少なくとも効果的な手数で、新メンバーがバンドに帰属意識を持ってる様子、関係が深まってる様子をしっかり刻んできてるのは、このアニメの優れた描画力だろう。

 毎回毎回角度を変えて、ステージに上る前、曲が始まる前含めて鮮烈で的確な楽曲表現を叩きつけているこのアニメだが、今回もそこら辺の切れ味は鋭い。
 仁菜が勝手に走り出してバンドに名前をつけた時、パッとライトが灯って暗闇が切り裂かれるのが、僕は凄く好きだ。
 自分たちがどんな存在なのか、見えなくなるような体験に投げ出されてなお、運命の引力に結び合わされ集ったバンド。
 そんな連中が”名前”を得る行為には、自分の在り方を確認する内向きの視点と、外側に向かって己を吠える視点が両立している。
 トゲがあんだかないんだか、良く解んないまんまにトゲトゲである不思議な虫が、自分たちの形なんだ。

 ノリで駆け出した結果、そういう事になってしまうベストチョイスが、少女たちをどう結びつけていくのか。
 極めて内向的に、客の顔を見ずに河原木桃香一人に対して紡がれる”自分語り”が、ステージを内破させる寸前でルパのデカいケツがぶっ飛ばすありがたさに、仁菜は微笑む。
 自分の内側にこもった熱に中毒してしまう、狭くて若い仁菜の気質を理解したうえで、笑えるパフォーマンスとしてチャーミングに正気に戻す逞しさ…やはり、ルパは強キャラ。
 今までこのポジションにいた桃香さんが、今回”鎧”外して生身見せてきたので、放送終わるまでにルパにもそういう話が欲しい。
 でも今は、この揺らがなさと微笑みがありがたい。
 こっから大波乱必至だしなッ!!

 

 

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第7話より引用

 青く炸裂する音楽は客席を飲み込み、仁菜はどす黒いトゲを嵐のように沸き立たせていく。
 出会い、導かれ、ムカつき、叫ぶ。
 河原木桃香にロックンロールで殴られたから始まってしまった自分の物語は、フラストレーションと矛盾まみれでフラフラしてて、だからこそ今ここで歌っている。
 今までの全部を思い出しながら、これからの全部に繋がるように、キーボードとベースが加わった新しいバンドの音に、自分の叫びを乗せている。
 仁菜があまり客席を見ず、内向的なスタンスで歌声を絞り出している描写が、この話数らしくて凄く良い。

 仁菜は学校で傷つけられ家庭で放り投げられ、自分の形がグチャグチャに見定められないまま、川崎に逃げ出してきた。
 話も折り返しを過ぎた今、桃香への憧れと彼女が教えてくれたロックの戦闘法でもって、仁菜は不定形な自分をトゲだらけのまま誰かに届ける道を、自分の生き方として選びつつある。
 そういうロックの学校で学び取ったものがあるから、ちょっとずつでも仁菜の社会は広がって、知らない女と仲良くなって、音楽で自分を世界に解らせて、一曲終えたら観客が自分の名前を呼ぶところまで、否応なく認めさせることが出来る。
 そういうパワーと賢さが、井芹仁菜には確かにあるのだ。

 でもだからこそ、学歴なんぞ見えやしね~~~~~!
 激烈予備校脱退宣言を叩きつけ、現実見えてる…強制的に見せられている桃香さんの、ロック赤ちゃんへの苛立ちは最高潮だッ!
 誰にも打ち明けぬまま諏訪湖ダッシュで心に決めて、相談もなしにライブでぶっ放すあたり、ロックンロール・モンスターの破壊力は全然衰えていないが、まー仁菜なりに傷も考えも欲望もあったうえで、今吠えなきゃ嘘になる決断だったことは良く分かる。
 分かるが…いかさま無茶苦茶が過ぎるだろ!
 だからこそ面白いってアニメであることは、ここまで見てきた僕らには良く解っている。
 さーどうなるかなぁ…獣に手綱は付けれないねぇ、つくづく。

 

 5人勢揃いまですげースピードで駆け抜けたお話が、一応の形を整えたタイミングでメンバーの過去も照らされ、それぞれの荷物が見えたのは良かった。
 仁菜が背負っているものも想定より重たかったが、お姉ちゃんが甘やかしつつ甘やかさすぎず、程よい間合いで膝枕してくれる人だったのは、なんか安心した。
 …この”姉力”を桃香さんとの関係構築前に出すと、関係性がブレるからこのタイミングまでタメてたな、おそらく。

 出逢っちまった魂の姉貴が、ダセえ撤退戦捨てねぇなら、アタシが土壇場に身を投げる。
 川崎のロック爆弾・妹が投げつけた覚悟に、河原木桃香はどう答えるか。
 さらなる過去が共鳴する次回、マジ楽しみッ!

 

 

・追記 representaionはヒップホップだけの専売特許ではない、という話でもある。