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系統樹ハンターの狩猟記録

卓球の “かけ声” の系統樹

Yahoo! Japan ニュース

張本智和チョレイ!」の真実 卓球選手の掛け声の歴史とその意味」(2021年2月10日)

news.yahoo.co.jp

<p>共通祖先は “よし” とのこと.「「チョレイ」とは、日本語の「ヨシ」が長い長い旅の末に変化した姿のひとつなのであり、かつて世界を制覇した卓球ニッポンのかすかな名残りなのだ」.</p>

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パン袋クリップの最新系統樹

パン袋クリップ(正式名称は「バッグ・クロージャー」)の日本製造元は埼玉県川口市にあるクイック・ロック・ジャパン株式会社のただ一社だ.

パン袋クリップの世界的な文化多様性を探究している「国際パン袋クリップ研究会(HORG: Holotypic Occlupanid Research Group)」の記載と同定によれば,クイック・ロック・ジャパン株式会社製のパン袋クリップは “日本固有種” であって,その “学名” は「Diplacofelis wangi」とのこと.製造元がただひとつというのは “有効集団サイズ” が小さすぎて絶滅リスクが高いなあ.

近刊予定の講演録『高校生と考える 21世紀の論点:桐光学園大学訪問授業』(2019年3月刊行予定,左右社,東京)に所収されるワタクシの章では,HORGの許可を得て,下記の最新のパン袋クリップ( “Occlupanid” )系統樹が掲載できることになった.パン袋クリップの世界的な形態多様性はまことにおそるべし.

 

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神話の系統樹

本日発売の日経サイエンス最新号(2017年4月号)に,神話の系統学に関する記事が載っている:

J. デュイ 2017. 神話の進化日経サイエンス2017年4月号, pp. 46-55.

神話の物語単位(mytheme)の “系統発生” を距離法など統計学的系統推定法を用いて復元するという文化系統学の研究の紹介記事だ.引用文献をたどると,著者によるこんな論文がオープンアクセスで読める:

Julien d'Huy 2016. Première reconstruction statistique d'un rituel paléolithique: autour du motif du dragon. Nouvelle Mythologie Comparée / New Comparative Mythology, (3) abstract | pdf [open access]

民話と同じく神話にも系譜がある.文化系統学の裾野がどんどん広がっている感じがする.

Cf: この記事が有料ダウンロードできるようになった:

https://www.nikkei-science.net/modules/flash/index.php?id=201704_047

 

星の系統樹

イギリスの王立天文学会の月報記事関連——

University of Cambridge | Mapping the family tree of stars | 20 February 2017

元論文はこれ:Paula Jofré et al. 2017. Cosmic phylogeny: reconstructing the chemical history of the solar neighbourhood with an evolutionary tree. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 467 (1): 1140-1153. DOI:10.1093/mnras/stx075. htmlarXiv:1611.02575

この論文の Figure 1 は星間距離に基づいて MEGA による近隣結合法で系統樹をつくっている.Circle tree 表示は “紙面” を有効利用できるダイアグラム様式.

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元論文著者らは次のように結語する:

These rich data sets are on the verge of putting us closer to finding the one tree that connects all stars in the Milky Way.

夢があるなあ.

 

「種問題」ははてしなく続く

毎日新聞キリン実は4種でした 独研究者ら発表」(2016年9月9日)※元論文: Julian Fennessy et al. Multi-locus Analyses Reveal Four Giraffe Species Instead of One. Current Biology, DOI: 10.1016/j.cub.2016.07.036.

高精度の分子系統を調べて,単系統群を保全の対象としようというメッセージはぜんぜんOKだが,このタイプの研究が「種問題」の解決につながるという気はまったくしない.これはまちがいなく “地雷原” で,ゲノムを調べれば「種問題」がきれいに解決できるなんて,そんなお花畑な考えは通用しない.生物学の哲学を知らない素人さんの浅はかさでしかない.

ワタクシがこの “地雷原” を歩いたり見渡してきたかぎりでいえば,1940年代に Ernst Mayr が生物学的種概念をぶちあげて「進化的総合」の旗を振った時代からゲノム情報が手に入る現代にいたるまで,「種問題」が解決できたという楽観論は繰り返し否定されてきた.今回の Current Biology のキリン論文も,ゲノム情報を見るかぎり,キリンは分子系統樹の上で4つの「単系統群」に分かれるのだから,それぞれの単系統群を独立した「種」とみなして保全につなげるべきだという保全生物学上の “政治的種概念” を主張しただけだろう.そういう主張は,1990年に Robert M. May が Nature 誌に「Taxonomy as destiny」という有名な論文:Nature, 347: 129-130 (13 September 1990); doi:10.1038/347129a0 pdf を出して以来,保全生物学の世界では静かに広まっているはずとワタクシは理解している.

要するに,「種問題」は解決されたわけではなく,世紀をまたいでなお未解決のままの問題であるということ.Michael T. Ghiselin が1974年に構想した種問題の「根本的解決」:Michael T. Ghiselin 1974. A Radical Solution to the Species Problem. Systematic Zoology, 23 (4): 536-544. doi: 10.1093/sysbio/23.4.536 abstract はけっして解決にはならなかった.

種問題は「生物学の哲学」の重要なテーマのひとつなので,そういうことに関心をもつ人はぜひ自分で調べてみると得るものが少なくないとワタクシは考える.いくらデータが増えたとしても解決できない概念的問題は残る — この意味で種問題の経緯は浅薄な楽観論を戒める教訓ともなっているわけだ.

こんなふうに筋金入りの「種問題」を電柱の影からのぞいてみたいみなさんには,最新刊の森元良太・田中泉吏『生物学の哲学入門』(2016年8月30日刊行,勁草書房,東京, iv+222 pp., 本体価格2,400円, ISBN:9784326102549目次版元ページ)の第6章「種」をどーぞ.この本が出たおかげで “地雷原” の爆風から逃れられる! 「このゲノムの時代に種問題なんて」などとうっかり口走ってしまったアナタも本書を読めば軽やかに “転向” できるにちがいない(太鼓判).

そういえば,だいぶ前に翻訳した:カール・ジンマー[三中信宏訳]「種とは何か」日経サイエンス,2008年9月号,pp.60-69 は,種問題をいろいろな具体例を挙げながら幅広い視点から論じていて良記事(→ 抜粋).

—— かつて,ある分類学者は「種のハナシをすると酒がまずくなる」と言い捨てたことがあると仄聞した.種問題のやっかいな話題は多くの関係者にとっては “またいで通り過ぎたい” 話題なのかもしれない.

けっきょく,「種問題」は,最終的に解決することに意義があるのではなく,それと共存して生きていく道を模索することに意義があるのだとワタクシは考える.

 



ついでに宣伝をひとつ: 関西哲学会大会ワークショップ〈「種」とは何か:生物学の哲学の現場から論じる〉,15:20〜17:20@大阪大学大学院人間科学研究科(吹田キャンパス)→ プログラム [pdf]|講演要旨 [pdf]| 地図大塚淳(神戸大)さんとワタクシが登壇する.

別軸としての科学哲学(a.k.a. #ParsimonyGate)

いまハッシュタグ#ParsimonyGate」が炎上している.そもそもの導火線は Cladistics 誌最新号の巻頭記事: Editorial. Cladistics, 32(1): 1. DOI: 10.1111/cla.12148, 12 January 2016 だった.この記事がある方面でトンデモなく叩かれているようだ.Altmetric とか The Tree of Life | Cladistics Journal Drops Science for Dogma, 16 January 2016 では,「Possibly the worst editorial at a science journal ever」だの「Back to the Cold War of systematists」だの「Cladistics or Creationists?」だの,さんざんな貶されようだ.

 Editorial 冒頭の「The epistemological paradigm of this journal is parsimony」などという一文は The Wiili Hennig Society ではごく当たり前の認識なので「時代錯誤」だの「冷戦復帰」と叩かれるいわれはないだろう.あれくらいで炎上しているようじゃ,Cladistics 誌の Forum や Letters 欄で戦わされている記事群の “口汚さ” はガマンできないんじゃないか.第一,いまのCladistics 誌は最節約法だけではなく最尤法やベイズ法を用いた論文だってちゃんと掲載されている.ただし,この Editorial 記事の最後にある「Cladistics will publish research based on methods that are repeatable, clearly articulated and philosophically sound」という主張から透けて見える WHS 主流派の考えは,系統推定のさまざまな方法論がそもそも科学哲学的に妥当(「philosophically sound」)なのかという点に読者の注意を向けさせる.

 生物体系学論争が燃え上がった1970〜80年代に比べれば,21世紀の現在は系統推定論をめぐる “哲学論議” が戦わされることは少なくなってきた.しかし,たとえば,Systematic Biology 誌, volume 50, issue 3, 2001 の特集に端を発する「最尤法-最節約法 Popper 論争」を見れば,系統推定法としての technical soundness と philosophical soundness とは別軸で論議されるべきものであり,一方が他方を保証しているわけではないことがよくわかるはず:

  1. Richard Olmstead 2001. Phylogenetic Inference and the Writings of Karl Popper. Systematic Biology, 50(3): 304 doi:10.1080/10635150120308 pdf
  2. Kevin de Queiroz and Steven Poe 2001. Philosophy and Phylogenetic Inference: A Comparison of Likelihood and Parsimony Methods in the Context of Karl Popper's Writings on Corroboration. Systematic Biology, 50(3): 305-321 doi:10.1080/10635150118268 pdf
  3. Arnold G. Kluge 2001. Philosophical Conjectures and Their Refutation. Systematic Biology, 50(3): 322-330 doi:10.1080/10635150119615 pdf
  4. Daniel P. Faith and John W. H. Trueman 2001. Towards an Inclusive Philosophy for Phylogenetic Inference. Systematic Biology, 50(3): 331-350 doi:10.1080/10635150118627 pdf
  5. James S. Farris, Arnold G. Kluge, and James M. Carpenter 2001. Popper and Likelihood Versus “Popper*”. Systematic Biology, 50(3): 438-444 doi:10.1080/10635150119150 pdf
  6. Kevin de Queiroz and Steven Poe 2003. Failed Refutations: Further Comments on Parsimony and Likelihood Methods and Their Relationship to Popper's Degree of Corroboration. Systematic Biology, 52(3): 352-367 doi:10.1080/10635150390196984 pdf

 日本の生物体系学コミュニティーは,ごく一部の “outlier” たちを除いては,もともと哲学論争がまったく好きではなかった.その点は今世紀はじめにワタクシたちがまとめて発表したとおりである(三中信宏・鈴木邦雄 2002. 生物体系学におけるポパー哲学の比較受容. 所収:日本ポパー哲学研究会(編)『批判的合理主義・第2巻:応用的諸問題』, pp.71-124. 未來社,東京 → 目次).「philosophical soundness」を差し置いて,「technical soundness」のみに集中できる学問的雰囲気はあるタイプの研究(者)にとっては居心地がいいかもしれない.

 現状を見ると,最尤法とかベイズ法の論客たちには「科学哲学的」に論じようという内的動機がほとんど見えないのがむしろ大きな問題かもしれない.科学哲学的・認識論的問題なんかはデータと統計ツールがあればスルーしておっけーと考えているのか.そして,そういう「technically sound」な手法群しか知らない(もっと若い)世代はどうやら「philosophically sound」かどうかという論点があることすら認識していないようだ.あまつさえ,科学史まで自分たちにとってつごうのいいように適当にでっち上げているみたいだし.

 しかし,系統推定は,配列データがたくさんありさえすれば決着が付いたり,ソフトウェアを何万世代か走らせればケリがつくわけでは必ずしもない.そのことを知っておかないと,科学哲学的(場合によっては科学社会学的)な “戦争” がときおり勃発したときに丸腰のまま “戦場” に放り出されて無慈悲になぎ倒されかねない.そうならないためにも,生き延びるすべとして自分の “哲学的武装” を錆びつかせないように怠りなく手入れしておきたい.科学という軸は誰の目にもよく見えるが,科学哲学というもうひとつの軸はいつもそれほど明確に見えるものではない.しかし,「見えない」は「存在しない」と同義ではない.それは埋み火のごとく隠れているだけである.

 #ParsimonyGate の延焼はその後も続いている:Judge Starling[Dan Grauer] | Once Upon a Time at a Willi Hennig Society Meeting #ParsimonyGate | 16 January 2016.WHS の雰囲気は今も変わりがない.Dan Grauer が “タコ殴り” された翌年には,Keith A. Crandall が犠牲者になったことは,その場にいたワタクシがよく知っている:「In the next WHS meeting (São Paulo 1998) Keith A. Crandall was the "Punch-Bag" for Steve Farris and other hard-core cladists!」.あれはきっとWHS特有の “黒ミサ” みたいなもんなんだろう.

 この機会に,ワタクシがこれまで参加してきたウィリ・ヘニック・ソサエティ年会の記録(1998-2013+)をすべて公開した:ポータルサイト →〈The Willi Hennig Society Meeting Reports〉.意義があるから記録するのではなく,記録するから意義が生まれる.飽くことなくひたすら記録し続けることを旨とせよ.

 

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文献引用をめぐる “棒の手紙” 的系譜

Roderic D. M. Page 2016. Surfacing the deep data of taxonomy. ZooKeys 550: 247-260 (07 Jan 2016), doi: 10.3897/zookeys.550.9293./この論文に引用されていた興味深い記事:The Scientist Magazine® Christian G. Specht. Mutations of citations. 16 September 2010 ※文献引用の “突然変異” とその伝承過程.「Just like genetic information, citations can accumulate heritable mutations」— 論文引用の過程で生じた「誤引用(WC: wrong citation)」は系統樹をつくる.これらの文献の誤引用(WC)は同一研究機関あるいは同一研究グループ内で生じやすい.そういえば,William D. Hamilton の利他行動と包括適応度に関する論文 The genetical evolution of social behaviour (1964) がさんざん孫引きされて「WC」が蓄積したと聞いたことがあった.頻繁に引用される「神棚論文」は意外にちゃんと読まれなかったり孫引きですまされたりするケースは少なくない.引用はされてもちゃんと確認していない(= 読んでいない)ことが丸見えなこともある.とくに古い論文や本は現物にあたってチェックしないと足をすくわれる./もう一つ関連文献:M. V. Simkin and V. P. Roychowdhury 2011. Theory of Citing. Handbook of Optimization in Complex Networks, Volume 57, pp 463-505 [arXiv]「about 70-90% of scientific citations are copied from the lists of references used in other papers」— コピペにより WC は伝承される.その確率過程を調べた研究成果.

 

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Source: http://images.the-scientist.com/content/images/general/figure1c-1.jpg

ビートルズの系統樹

ひさしぶりに系統樹ハンターが獲物をゲットした:Pete Frame『The Beatles and Some Other Guys: Rock Family Trees of the Early Sixties』(1997年刊行,Omnibus Press, London, iv + 31 plates + 4 pp., ISBN:071193665X [pbk])

1960年代前にルーツをもつビートルズに関わる “家系図” 集.大判の家系図が31枚も折り込まれている.どれを広げてもオモテ側の家系図はテキスト分量が半端ではない.ウラ側には写真集.この著者は長年かけて「Rock Family Trees」を描いてきたとのこと → Pete Frame 〈Family of Rock〉.彼の「ロックの系統樹」本は3冊まとめてすでに発注済み.

ロックの系統樹については,以前 Edward R. Tufte のインフォグラフィクス本『Visual Explanations: Images and Quantities, Evidence and Narrative』(1997年刊行,Graphics Press, Cheshire, 157 pp., ISBN:0961392126 [hbk] → 版元ページ)で見たことがある(pp. 90-91 のモノクロ図版).エルヴィス・プレスリーに始まるこのロックンロール系統樹の元カラー図版は,Fake Plastic Rock「The Genealogy of Rock」(2008年7月9日)に掲載されている.さらに,ロックからヘヴィ・メタルにいたる巨大な系図については〈Map of Metal〉をじっくり鑑賞すべし.

 

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