昨年「撮影罪」というものができたという話で、定義が気になって調べた。
性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律
長い名前の法律だが、この法律で規定されている犯罪の1つで、
性的姿態等撮影罪など言うのがよさそうだが、撮影罪でも通じるのだろう。
刑法とは別の法律で規定されているのだが、条文を見てみると、刑法の不同意わいせつ罪・不同意性交等罪を参照している部分がある。
撮影するという行為だけでは不同意わいせつ罪が成立することは難しい。
この点に着目した法律なんですね。
また、撮影後により得られたデータの提供・保管・送信にも罪が規定されている。
この点は児童ポルノに適用されている規定と似ている。
一方、押収物の消去についての規定は他の法律より強い規定になっているのも特徴だという。
で、ここで禁止しているのは主に下着や通常下着で覆われている性的な部位を撮影することである。
ただ、そのようなものを撮影することを一律に禁止しているわけでもなく、
- ひそかに当該容姿を撮影する行為(自ら露出しているケースを除く)
- 不同意わいせつ罪で列挙されている事項で「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ」当該容姿の撮影すること
- 性的なものではないとか特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信させて当該容姿の撮影すること
- 16歳未満の当該容姿を撮影すること
2~4は不同意わいせつ罪の条件と同じなんですね。
撮影の特徴として盗撮というのも考えられるので、これを規定しているのが1.というわけ。
盗撮の場合、自ら露出している場合を除いては同意していない扱いである。
なお、自ら露出している場合が除外されるのは17歳以上に限られる。
(16歳未満の場合は条件によらず4.の規定が適用されるため)
元々ここに書かれているような行為は都道府県の条例などで規制されていることが多かった。
ただ、全国一律の規制が必要ということで、こうなったようだ。
撮影罪は盗撮以外の撮影方法もカバーでき、撮影場所も問わない点ではカバー範囲が広い。
盗撮に限らない一方、盗撮の中でも通常露出しない下着や性的な部位に限られる。
性的な意図があっても着衣の上から盗撮する行為は対象になり得ないし、
水着であったり、露出の多い衣装の盗撮は対象とはならない。
都道府県レベルの規制ではこのあたりも対象になりうる場合もあるようだが、
厳密な定義が難しいのか現状は積み残しという形になっている。
強姦罪→強制性交等罪→不同意性交等罪と目まぐるしく罪名が変わったのもそうだが、
法規制の穴をふさぐような変更がいろいろなされている状況である。
撮影というところにも着目した規制が設けられたのも、そういうことなんだろう。
もともと都道府県レベルの規制が存在したという背景はあるんだけどね。
従来カバーできなかった部分もカバーできるようになる一方、
性的な意図から行われる行為と通常考えられる行為の差が狭まっていき、
その範囲であれこれやられると手が付けられないということも出ているようだ。
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警察も注意はするが、こういうのを取り締まる根拠を作るのは難しい。
そんな事情を考えれば撮影罪はけっこうよくできてるなと思った。
不同意わいせつ罪の類型をうまく活用していることや、
通常撮影することは考えられない部位をうまく定義できている点である。
3年以下の懲役(拘禁)または300万円以下の罰金というそれなりに重い刑罰、
厳密に定義できなければこういう刑罰は適用できないでしょう。