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読書備忘録です。

商店街の復権/広井良典

レーガン政権登場後、新自由主義的経済政策がグローバリズムとして世界を席巻する中で、日米構造協議などにより日本は大店法改正や農業の自由化などを推し進め、結果として、シャッター商店街耕作放棄地を生むことになった。 日本の地方都市の現状は政策の失敗の帰結なのではなく、むしろ成功の帰結である(まち、ムラを捨てる政策だった)。

一方この間、日本とは逆に欧州(独)は、規制強化と直接支払いの方向に向かった。

シャッター商店街耕作放棄地の問題は、家族主義や土地所有権の絶対性など根深いところに原因があり、解決は簡単ではない。

資本主義が必要とする外部が消失していく中で、ローカルな地域(商店街など)内部での循環というビジネスモデルへの転換が必要になっており(グローバル市場依存型からローカリゼーションへ)、商店街は新たな消費の場として再浮上する。また、商店街は、コミュニケーションの場としての役割に対する期待が強くなっており、「コモンズとしての商店街」としての再生 (中心市街地の活性化)が期待される。

そのための提案として、歩いて楽しめるまちの実現、エリアリノベーション、ワーカーズコープ、若者支援政策とのリンク、空き家税など空き店舗への公的関与の強化、コミュニティ商店街の展開、農業・農村とのリンクなどが掲げられる。

本書は、著者の以上のような基調となる文章の後に各論が続くが、この問題の解決となる具体的な取り組みとして何より重要なのは「人」であること、そして所有権の絶対性の中で、利用権の活用など公的関与を強化すること、コミュニケーションの重要性、若者への期待などが指摘される。

 

 

 

漱石文明論集/三好行雄編

日本は維新後、文明開化として西欧近代文明を受容していくが、漱石は、日本の開化(近代化)の進展は内発的でなく、外発的で皮相的(取ってつけたように西洋のものまねをしようとしているだけ)だと批判する。

また、漱石は、英国留学中、英文学研究の意義を突き詰める中で、西洋の威を借りる他人本位ではなく、自己本位を確立することが重要との考えに至る。さらにこの考え方をより広く個人の倫理として展開し、自己本位と自由(他人の尊重、義務を伴う自由)についても説く。

西欧の自然主義、浪漫主義ともに批判、独自の文学路線(余裕派などとも言われるようだが、主義(イズム)自体を批判している)を歩んだ漱石の思想は一貫している。

権威を遠ざけ(天皇だけは別のようだが)、在野を貫いた漱石の思想も爽やか。

則天去私って、本書に収録されているかと思ったのに、漱石は言ってなかったのか。

 



若者のためのまちづくり/服部圭郎

高校生をターゲットとして、まちづくり、まちの楽しみ方や改善の視点などを説く。10年以上前のものだが、今も古びず、おじさんも楽しく読める。歩いて楽しめる、自転車で自由自在に移動できる、ライトレールなど公共交通の復権、空地などのレジャー空間、サードプレイス、暗渠を川に戻す、妖怪との共生、予見困難な事象についての自由度をもった都市計画、商店街・市場の魅力、ストリートパフォーマンスやフリーマーケットなど、楽しいまちの要素がてんこ盛り。

まちづくりは、利害調整が大変だけれど、若い人(だけではないが)が自分たちのために積極的に声を上げるのが大事だろう。 日本の都市計画の元になる思想はコンクリ、ハコモノ、車偏重みたいなところから脱却できないので、身近なところから一つ一つかもしれない。

カバーは何でこんな3歳児向けみたいな幼稚なマンガなの?

 

 



犬と鬼/アレックス・カー

「美しき日本の残像」「ニッポン景観論」「観光亡国論」は、主として日本の国土や文化の美が失われてきたことについて述べるが、本書はより広く、金融や教育なども含め、その要因についても詳しく指摘している(先の3冊はもう詳しくは覚えていないが)。初出は2002年で英語で外国人をターゲットとして書かれたという。

過剰な公共事業(いい加減な都市計画、ハコモノ、コンクリートだらけ)、醜い電線や看板などの景観の破壊、環境に対する鈍感さ、土建・製造業偏重で観光や情報化への対応の遅れ、硬直的で腐敗する官僚制、金融政策の国際化の遅れ、画一的な教育、閉鎖的で外国人活用の遅れなどなど、いずれの指摘も極めて辛辣だが、概ね正鵠を射ている。

著者はこうすべきという主張は慎重に避けているが、第17章は、「革命は可能かーゆでガエル」と、諦めの境地である。

結論で著者はいう。日本がなぜこうなったのかを考える時、現代日本の全てに「実」がなくなっていると。やや分かりにくいのだが、「実」とは日本独自の精神、素朴で繊細な美意識といったもので、産業化、近代化、国力拡大のために、その代償としてこれらを失った。今その(醜い)現実を直視する必要があると。 20年前の提言である。その後修正されてきた部分もあるが、事態は大きくは変わっていない。

戦後の産業化、国際化の過程で、農林水産業という生業を維持できず、過疎化する地方の産業としては建設業しかない、あるいは災害が多発する中で治山治水は(官僚が過剰に進めた面はあれども)地元の強い要望(建設業者だけではない)があり、人命というコスト評価を持ち込むことすら躊躇われるような事業であったろうとして、行き過ぎを認め、引き返し、修正するというパラレルワールドへの道はどこかにあったのか(民主党政権、脱ダム宣言?)。修正すべきとの声は大きくなっているが、今でも基本的なモメンタムは変わっておらず、ゆでガエルへの道を進んでいるようだ。

 

 

 

近代日本の「知」を考える。/宇野重規

名前を知らないという人はいない、広い意味で関西に関係のあった近代の著名な知識人ら全29人、それぞれ一書一文を象徴的なものとして取り上げつつ、その歴史上の位置付けや現代における意義などについて、ごく短い文章で紹介するエッセイ的な肩の凝らない読み物。

本書を読むと少なくとも近代においては「東京中心のモノトーンな思想史叙述を打ち破り、近代日本の知の豊かさを改めて享受したい」というほど、東京中心でもないと思うようになるので、著者の意図は達成されているといえるのだろう。

本の作りがなかなかいい。

 



国を作るという仕事/西水美恵子

20年余りにわたり南アジアを中心として世銀の開発プロジェクトに携わり、副総裁まで務めた著者による各国リーダー評を中心とするエッセイ、リーダーシップ論。

開発途上国の貧困の原因の多くは、腐敗構造などを含めた「悪統治」であり、最終的にはリーダーシップの問題に帰する。優れたリーダーは、草の根をよく理解し、「頭とハートがしっかりつながり、言葉と行動に矛盾がない」という。現場をよく知り貧困問題の解決に強い情熱を持って当たった著者のリーダー批判は激烈であり、また優れたリーダーに対する賞賛はこの上ない程だ。

多くのリーダーの素顔、現地事情をヴィヴィッドに描いて興味深いが、あふれる情熱をもとにした強い言葉による人物評にちょっとひく。

 

 

 

幕末維新の漢詩/林田愼之助

江戸時代、漢詩は武士の一般教養だった。維新の志士らの漢詩はあまり知られていないが、この漢詩を通じてその考え方の真実や内面を深く知ることができると。読み下し文、現代語訳もついていて理解するのには十分すぎるほど丁寧なのだが、原文を見て読み下せるほど繰り返し読まないと漢文の良さは分からないような気がする。