農村社会学研究者によるフィールドワークによる現代中国農村についての考察。
中国は非常に古くから封建制、身分制を脱し、中央集権制の下にあったことに一つの特徴があり、自己責任意識と社会的上昇意欲が顕著。血の流れを継ぐとともに栄達を希求する「家族主義者」である。また、都市住民との格差より農村コミュニティ内部の格差に敏感。
政府は、農村の公共サービスを全て面倒をみることはなく、村(基層)レベルの幹部、農民自らが農村ビジネスの形で公共的な問題に対応している。
中央集権制が早くから敷かれた中国では、競争的な選挙と代議制が受け入れられる素地を欠いており、中共の一党独裁が馴染む。そんな中で、90年代以降、村民委員会でのみ、競争選挙が行われているが、これは末端の農民に対する猜疑心から、このレベルでのリーダーの交代を促し、ボス化を防止するためではないかと。
外国の価値観の浸透を恐れる習近平指導部の統治体制は、末端の基層幹部にも影響し、農村調査は事実上不可能になっているという。
習近平の政策は、「大・中都市」対「県域社会」という2元構造による統治を意図しているのではないか。即ち、特権的だが激しい競争の支配する前者の競争社会と、まったりとした人情社会である多くの小都市県城を中心とする県域社会を区別してダブルスタンダードで統治することを構想しているのではないか。農民を都市的公共サービスが享受できる県城に集中させ(大都市への集中を防ぎ)、 14億人のうちの10億人が現状肯定のぬるま湯に浸かり、安定感に身を委ねさせることで、政権の支持基盤を固めることになると。